コメディ・ライト小説(新)
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- I R O I R I
- 日時: 2018/07/14 21:43
- 名前: 蕪木 華音 ◆Y8AV9JBKn. (ID: jBbC/kU.)
I R O I R O
タイトル通り『色々』です。
『何が』色々なのか、ご想像にお任せします。
ショートストーリーを主にした、お話を書きます。
ストーリーにもなっていますので、そこでも楽しんで貰えたら光栄です。
GLやいじめ小説も書きます。
ストーリーの一つとして、こちらに投稿します。
そんなに刺激的では無いので、見て貰えたら幸いです。
リクエストなどは受け付けておりませんが、コメントやアドバイスなどを待っています。
もし良ければよろしくお願いいたします。
他のスレッドで私が書いていた小説も、載せているのでご注意ください。
ストーリーやキャラ設定を少し変えてあります。
誤字脱字があった場合は教えて貰えると、嬉しいです。
また、文が見にくくなることは承知ですが、あまり改行をしていません。
申し訳ありませんが『そう言う小説』と、思って頂きたいです。
恋愛小説が多いです。
よろしくお願いします。
_____________________________
<エピローグ>
私はお母さんからお下がりした、パソコンのメモアプリを使って文字を打つ。
『 □□□□□□□□□□□□』
これからどんな小説になるだろうか。
胸の中から湧く高揚感を抑えながら、私はそう思った。
______________________________
1.>>1『私は青春してるんですか?』
原作:森山 雪様より
キャラクターデザイン:>>2
2.>>3『桜散る前の恋模様』
お題:彩都様
キャラクターデザイン:>>4
______________________________
これから書く予定の小説
3.『嘘の裏』
※GL
4.『小説少女〜自己流 小説の書き方〜』
※いじめ
5.『珈琲は苦かった』
6.『公園のすみっこ』
7.『部屋の外』
8.『教師として_____』
※いじめ
9.『これってアオハルでいいんですか?』
10.『これを青春と呼んでいいの……?』
プロローグ『小説が書き終われば』
- Re: I R O I R I ( No.1 )
- 日時: 2018/06/14 23:24
- 名前: 蕪木 華音 ◆Y8AV9JBKn. (ID: jBbC/kU.)
<私は青春してるんですか?>
新しい制服。
新しい革靴。
新しい進学路。
今日から私は、高校生になります!
「制服良し!」
「髪型良し!」
「じゃあ、行ってきます!」
そうお母さんに言ってから玄関を飛び出す。
外は良い天気。桜も咲いてるし、何より暖かくて気持ち良い!
私__仁藤 美羽は高校の最寄り駅まで歩きながらそんな事を考えていた。
友達出来るかなぁ…。
…そもそも、自己紹介で噛まない自信があるのか?!
私、絶対噛む!
と言うより、自己紹介では何を喋れば良いのか…。
「ムムムム…」
私は手をあごに当てて「なんかちょっとかっこ良く見える、考える人のポーズ」をしながら悩んでいた。
その時背中を押されて、
「おっはよ!美羽〜!」
「ぅわああああ!」
私の友達、__長谷川 舞季が顔を覗かせた。
びびったー!
今びびらせてきた舞季は私の小学生からの友達。
私より背が高くて、明るい髪をポニーテールにしてる。
運動が得意だけど、勉強が苦手な舞季と運動出来ないけど、勉強が得意な私。対称的な私達だけどすっごく仲良いんだ!
舞季と私は同じ高校に入れて、同んなじクラスになれたらなぁ、なんて思ったり。
「高校生だねぇ」
あまりにもおばあさんみたいに舞季が言うから思わず吹き出してしまった。
「笑うなよ!本当に高校生になったんだなぁって思っただけなんだから!」
恥ずかしそうに言い返す舞季。
「はいはい」
私がそう言うと「『はい』は一回まで!」と舞季が言う。
「でもさ、高校生って青春してそうだよな」
「そうだね」
「青春したいー」
「たしかにー!」
そう言うと、舞季がニヤニヤしながら私を見てきた。
「なに?」
私が聞くと、舞季はさらにニヤニヤしながら、
「いや…彼氏持ちのリア充が青春したいなんて言うのか〜って」
と言った。
それを聞いて私の顔が赤くなっていくのがわかった。
そう、私には彼氏がいます!
サッカー部に入っている、私の彼氏__佐田 智君は、私と同じ高校で同い年。
中学2生の時に私から告白して現在、智君と付き合ってます!
「彼氏がいるとかウラヤマシー」
「棒読みになってるぞよ、舞季さん」
舞季は彼氏がいない…舞季は背が高いし、口調もこんなんだから彼氏が出来ない…。
本人的には、彼氏はそこまで欲しい訳じゃあ無いらしいけど。
「まぁ彼氏は青春の一環として欲しいだけだから」
これが舞季の言い分。
凄く、舞季らしい言い分。
「高校着きましたー!」
「テンション高い、美羽」
舞季にそんな事言われたって気にしない。
だって憧れの高校生になれるんだもん!
校門をくぐると先輩達がクラス分け表を配っていた。
沢山の人がいたから取りに行きにくかったけど、なんとか頑張って1枚貰った。
「さあ!同じクラスになれるのでしょうか?!」
テンションが私以上に上がってる舞季がそう言う。
そのクラス分け表を舞季と私で覗きこみ、自分の名前を探す。
舞季と同じクラスになれますように!
智君と同じクラスになれますように!
私のクラスは…、
「「B組だ!」」
舞季と声が重なった。
二人ともB組つまり、
「同じクラスだ!」
私がそう言うと舞季は「よろしくお願いいたします」と丁寧な口調で返した。
その改まった言い方が可笑しくて、二人で笑いあう。
こういう時間が一番楽しい。
二人で笑いあって、二人で泣きあって…。
舞季といると自然と楽しくなる。
こういうのも青春なのかなぁ。
「あっ、美羽!彼氏君とも同じクラスじゃん!」
「え?!」
もう一度、クラス分け表を見てみる。
たしかに…智君も同じ…B組だっ!
「おおおおお!良かったね!美羽!」
「っ…嬉しい!」
私がそう言うと舞季は「良かったな〜!」と言ってくれた。
「うん!あ…」
元気に言った舞季に返事をした私は偶然、友達と楽しそうに会話してる智君が目に入った。
…こっちに気づかないかな…
そんな私の視線を感じてなのか、智君がこっちを見つけた。
「…/////」
視線が合って少し…恥ずかしい…。
恥ずかしがっている私に比べて、智君は私と視線が合っても…何て言うか…無理やり口角を上げた様な不自然な笑顔を見た。
…何かあったのかな…?
「美羽〜、彼氏君と仲良くするのはいいけど、そろそろクラスに行きますよ〜」
舞季に言われちゃった。
「あっ、はーい」
校舎の中に入る前に智君に手を振ったけど、智君は友達と楽しそうに会話していてこちらに気づかなかった。
教室に入ると沢山の人がいた。
皆、新しい友達を作る為に色んな会話をしている。
私、友達作れるのかなぁ…
不安になった私だったが、
「ちょっと良い?」
前から二人の女子が話し掛けてくれた。
「うん、大丈夫だよ」
私が言うと、二人の女子は笑顔で自己紹介をしてくれる。
「私の名前は、立川 萌だよ!よろしくね!」
「私は鈴木 未波。よろしく」
萌ちゃんは髪をボブにしている子で、すっごく明るい!
未波ちゃんは背が高くて、髪は舞季と同じポニーテール。かっこいい系の女子。
「あたしは、長谷川 舞季。よろしくね」
「私の名前は仁藤 美羽。よろしく」
よし!この文だけでも、噛まずに言えた!
私の自己紹介が終わり、適当に色んな事を話してた。
どこ中〜?とか得意科目は〜?とか。
最後に出た話題。
萌ちゃんがこう言った。
「彼氏いる〜?」
私はいる。けど言っても大丈夫かな…?
「あっ、ちなみに私はいるよ〜」
萌ちゃん、可愛いから彼氏はいるだろうな〜とは思ってたけど、ここまではっきり言うか…。
「私もいない。と言うより、彼氏は特にいらない」
「分かるわー。本当それな」
未波ちゃんと舞季はあっさりと彼氏いない宣言をした。
三人が言い終わった、つまり私の番か…。
「私は彼氏…いるよ」
私が言った時の反応。
舞季はさっきと同じ様にニヤニヤしてる。
未波ちゃんは「そうなんだ」と結構あっさりしていた。
萌ちゃんは…一瞬だけ笑った気がした。笑ったと言っても良い笑い方じゃなくて、凄く嫌な笑い方。
なんだろう…?
「ねぇ、美羽ちゃんの彼氏ってさ__(キーンコーンカーンコーン)」
萌ちゃんが何かを言ったけど、途中でチャイムが鳴った。
「なに?」そう聞こうと思ったけど、萌ちゃんも未波ちゃんも自分の席に行って着席してしまった。
「あたし達も席に座りますか」
舞季に言われて私は自分の席に座る。
…さっき萌ちゃんは何を言いかけたんだろう…。
そこが謎。
クラスの中を見渡す。
面白そうな人。暗そうな人。一人でいる人。そして私の彼氏の智君…。
智君と目が合う。
心臓が高鳴って、恥ずかしいなぁ…。
「えーと、今週から部活体験が始まります。体験したい部活をこのプリントに書いて、顧問の先生に渡して下さい」
始めましての担任の先生がそう言う。
部活体験か…。やっぱり私は美術部かな。運動苦手だし。
舞季はバスケ部って言ってたし、智君はサッカー部かな。
萌ちゃんと未波ちゃんはどうするんだろう。
休憩時間、未波ちゃんと萌ちゃんに何部に入りたいか聞いてみた。
「私はバスケ部」
未波ちゃんは舞季と同じ。
未波ちゃんも舞季も背高いからなぁ…。
「私はサッカー部のマネージャーやりたいんだ!」
萌ちゃんはサッカー部。しかもマネージャー。
「萌ちゃん運動出来そうなのにマネージャーでいいの?」
私が萌ちゃんにこう聞いたら、
「彼氏にサッカー部のマネージャーやってくれ、って言われちゃったから」
照れくさそうにそう言う。
いいなぁ…。
智君は私に「マネージャーやってくれ」、って言ってくれなかったし…。
羨ましい。
この高校は文化部が少なくて美術部か吹奏楽部しかない。
吹奏楽部も大変そうだし、一番いいのは美術部かなって思う。
だから私は早速、美術部に本入部しました!
美術部の先輩は三年生が3人と二年生が2人。
さすがにもう本入部している一年生はいないと思ってたけど、一人いた。
村田 修一君。私と同んなじクラスで、クラスの中でも一人でいる事が多い人。
顔はかなりかっこいい方だけど、性格が好まれないらしい。
「えっと、始めまして…」
「………始めまして」
私から話かけないと多分何も喋らないんじゃ無かったのかな。
それ位、喋る気がなさそうな返事だった。
梅雨、雨が降ってる日。
私は美術部で絵を書いていた。
美術部は結局、私と修一君以外の一年生は入って来なかった。
それで現在、活動中なんだけど…、雨だと気分が落ち込むし、逆に暑くなるし…。
おまけに隣で絵を書いている修一君は何にも話さないし…。
つまらないなぁ…。
私は何気無く、サッカー部が体育館で練習している所を眺めた。
智君…頑張ってるかなぁ。
萌ちゃんはいいなぁ。
智君の近くにいれて。
サッカー部の人が体育館で水を飲んで休憩している時、体育館に繋がっている渡り廊下では、萌ちゃんがサッカーボールを運んでた。
大丈夫かな…。
そこに智君が来て萌ちゃんが持ってたサッカーボールを一緒に運ぼうと声をかけた。
智君は優しいなぁ。
智君が萌ちゃんの所に着くと、智君は萌ちゃんに何か言い、萌ちゃんは恥ずかしそうに笑った。
そのあと萌ちゃんは智君の頬に…キスを…した。
…………え?
なんで?
なんで萌ちゃんが智君にキスしてるの?
だって萌ちゃんには彼氏がいる筈でしよ?
それに智君は私の彼氏だよ?!
なんで?!
「………なんで?」
そう私は呟いた。
胸が締め付けられる様な感覚。
この感覚は何?
分からない…でも真実を確かめないと…萌ちゃんと智君はなんの関係なの?
そう思うより速く私は美術部を飛び出し、萌ちゃんと智君がいた渡り廊下へ走ってた。
なんで…なんで…。
「どうして…?」
そんな思いを抱えて走ってたら渡り廊下に来た。
そこにいるのは智君と…萌ちゃん。
「…なんで?なんで智君と萌ちゃんが一緒にいるの…?」
萌ちゃんがこちらに気付き、智君も私を見た。
「なんでって、私達付き合ってるもん」
「は?」
思わず、そうな声が出た。
いやいや、おかしいでしょ。
「萌ちゃんには彼氏がいるんじゃ無かったの?」
私がそう言うと萌ちゃんはため息をつき、
「気づかないの?智が私の彼氏だよ」
意味が分からない。
「智君は私の彼氏じゃないの?」
これは智君へ聞いた。
そうだ、って言って欲しかった。
けど、智君は
「俺は萌の彼氏だ」
そう言って首を横に振った。
なんで?
なんでなんだよ!
萌ちゃんと智君がいる所から私は走った。
ただ嘘だって、夢だって思いたかった。
湿気ってる廊下を走って、走って、転んで…これが夢じゃないって痣を作った身体が教えてくれた。
一心不乱に走って、辿り着いたのは美術部室。
部室では、修一君が先輩に話していた。かなり緊迫した感じで話している。
でも、この時の私には何にも見れなくて、ただ心の中で何かが消えてしまった、と言う虚無感があった。
ガラリと扉を開けて部室に入ると、先輩達は話すのをやめて私の方を見た。
「………何があったんだ………?」
珍しく修一君から話掛けてくれて、修一君の声を聞いたその時………、
その声が合図だったかの様に、私の目から涙が溢れた。
「………っ!………ヒックっ………」
本当に智君が好きだったんだ。
中学生二年生の時にサッカー部で活躍する智君に恋をした。
一方的な感情だったけど私から告白して、智君が「いいよ」って言ってくれて、嬉しかった。
それから、一緒に映画を見に行ったり遊園地に行ったり…沢山、デートをした。
三年生になってからは、受験勉強で忙しくてなかなか話せなくて寂しかった。
けど、智君が好きだったんだ。
悲しい。
智君が他の人に取られちゃうとこんなに苦しいの?
私はどうしたらいいの?
「大丈夫か………?」
こんな私にも修一君は声を掛けてくれる。
でも、私はただ泣くことしか出来なくて…。
キーンコーンカーンコーン
部活終了のチャイムが鳴り、私達帰らなければいけない。
その時に部活の男子の先輩が修一君に何かを言って、私のリュックを取ってくれた。
帰りな、みたいな事に伝えたかったらしい。
涙でグシャグシャになった顔を制服の袖で拭いながら私は美術部室を後にした。
帰り道。
この前までは舞季と一緒に帰っていたけど、舞季も部活があって一緒には帰れない。
独りぼっちか…なんて思って横を見ると…修一君がいた。
「なんで…?」
さっきまで泣いていたから、声がかすれていたが、しっかり聞こえていたのだろう。修一君は、
「先輩に言われたから」
と言った。
さっき男子の先輩が修一君に話したのはこの事だったんだ。
「それと、仁藤が心配だったから」
なんで私はこんなにも人に心配を掛けてしまうのだろう。
舞季や修一君にもいらない不安を掛けてしまって。
本当に申し訳ない。
修一君の方を見ると、頬を赤く染めていた。
「…どうしたの?」
すると修一君は恥ずかしそうにして、
「いや…、先輩に言われただったら仁藤の後を追いかけないのに…。俺は仁藤の事が大切なのかな…って思ったから」
今度は、私の頬が熱くなった。
なんでそんな事…言えるの…?
恥ずかしいじゃん……。
「とっ、とにかく、さっきは何があったんだ?」
修一君が聞く。
泣いた理由か…話したくないけど…修一君なら。
「さっき、何気無く渡り廊下を見ていたら私の彼氏が、私の友達と…キスをしていたから…。彼氏の所に走って行ったら、まぁ、要するにフラれちゃって…」
話したら修一君はそうなんだ、と頷いて、
「……ドンマイ」
と言ってくれた。
普段なら、「もっといい台詞言えよ!」みたいに思うかもしれないけど、誰かにそう言って貰えるとやっぱり心の支えになる。
「じゃあ、今日はこの辺で」
この道を歩いている時も、修一君とあまり話さなかった。
けど、少しの会話だけでも修一君は凄く優しくて……格好良い人なんだ。
「うん、じゃあね」
そう私がそう言って笑うと、修一君も笑う。
今まで見たことの無い笑顔にちょっとドキっと来た。
………ずるいよ…/////。
7月になった。
梅雨が終わり、気温が高くて汗が邪魔になる。
修一君とは同じクラスだったけど、教室で話す事は無く、いつも部室で話していた。
梅雨の事はもう思い出したくない。
あの日から萌ちゃんとは話して無いし、智君とは目も合わせてない。
舞季と未波ちゃんには何があったのかを話した。
舞季は「そっか…」と言っていたが、未波ちゃんは特に何にも言わなかった。
未波ちゃんと萌ちゃんは同んなじ中学校だからかな。
でも、未波ちゃんは萌ちゃんの話題を振って来る事は無いから助かる。
他愛の無い言葉。
これだけでも楽しい。
普段と変わらない一週間。
でも今日は違った。
「なぁ、美羽」
智君が話しかけてきたんだ。
「なに?佐田 智君?」
舞季が、私より速く聞いた。
智君はなんでフルネームなんだよ、と呟いてから、
「なんだよ。俺は美羽に話してんだ。邪魔すんな」
と言って私の方に近づく。
「………なに?」
私は智君に聞いた。
梅雨にあった事を思い出すと、智君とは目も合わせたく無かった。
萌ちゃんと仲良くしてなよ。
キスする位好きなんでしょ?
私に近寄らないでよ!
「美羽。俺さ、美羽をフったこと後悔してるんだ」
嫌だ。聞きたく無い。
「だから、美羽に謝りたくて」
謝ん無くていいから!
もう、ここにいないで!
私は耳を塞いだ。
何も聞きたく無い。
その時……本を読んでいた修一君が立ち上がって智君の前に立った。
「俺になんの様だよ」
智君は修一君にそう言い、睨みつけた。
修一君は臆する事なく智君に一言、
「お前、最低だな」
と言い私の腕を取った。
修一君に腕を引っ張られて、私は立ち上がる。
智君は一瞬、何を言われているのか分からないといった感じだったが、意味が分かるとかぁっ、っと顔が赤くなり修一君の襟元をガッと掴んだ。
「どういう事だよ。お前はなんで知ってんだよ!」
修一君は唖然と、
「全部、仁藤から聞いた。お前が何をやったのかも。仁藤がどれだけ悲しんだかも知らずに、お前は新しい彼女と仲良くしてたんだろ」
と言い、智君の腕を振り払い、私の腕を引っ張った。
……修一君?
修一君に腕を引かれて私達は教室を出た。
廊下。
「どうしてそんなに怒ってるの?」
私はそう聞いた。
すると修一君は
「仁藤はさ、あんな事言われていいの?フラった奴が付き合おう、って言ってたんだよ。もっと怒りを出してよ」
と、言った。
もうとっくに智君に怒りを覚えている。
でも、それを伝えられる様な勇気を私は持っていない。
「ごめん……」
私がそう言うと、修一君は、
「仁藤が悪いわけじゃ無いから。謝んないで。こっちも悪かった」
そう言い、謝った。
教室では舞季が智君に何か言っていた。
その教室を呆然と見ていたら気づいた。
………萌ちゃんがいない?
なんでだろう。
萌ちゃんはいっつも智君にくっついていたのに。
萌ちゃんがどこに行ったのか。それは、廊下の隅を見た時に分かった。
「……っ!……ヒック……!」
赤い目を擦りながら、しゃくりを上げている萌ちゃん。
「……どうしたの」
私がそう聞くと萌ちゃんは顔を上げて、こう言った。
「ごめんなさい……美羽ちゃん……智君を取ったりして……。
私、智君にフラれたの……やっぱり美羽の方が良いって……。
ごめんなさい………」
萌ちゃんが何を言ったのかは伝わった。
萌ちゃんも智君にフラれたんだ。
だからこそ智君が苛つく。
「萌ちゃん。私、誰が一番悪かったのか分かったよ」
そう私が言うと、萌ちゃんは顔を下げた。
萌ちゃんが一番悪かった、と言うと思ったのだろう。
けど、違う。
「一番悪かったのは__私だよ。
だって、智君と一方的な感情で付き合って、フラれて泣いてさ。
萌ちゃんもそれで悲しんだし、修一君にも__迷惑かけちゃった。
ごめんね、萌ちゃん、修一君」
私はそう言い、萌ちゃんと修一君に頭を下げた。
萌ちゃんは申し訳なさそうな顔をしていた。修一君は前髪が顔にかかってるせいで表情が分からなかった。
その時___舞季と言いあっていた智君が廊下に来て、私に
「美羽〜!」
と言い、抱きつこうとする。
……嫌だ!
私は目を固く瞑り、智君のホールドを拒んだ。
でもこれだけじゃ、智君は抱きつこうとする。
どうしよう……。
…………あれ?
数秒経っても抱きつかれた感覚は無い。
そっと目を開けてみると修一君が智君の腕を掴み、捻っている。
智君は痛みで顔が歪んでいた。
修一君はかなり怖い顔をしている。
「仁藤が一番、悪いわけないだろ!
一番悪いのは智と____俺だよ!」
修一君がそう言い切った。
……なんで?なんで修一君が悪いの?
「俺は仁藤を助けれなかった!先輩達がいなきゃ、仁藤の事はどうすればいいか分からなかった!だから俺も一番悪い奴だ!」
でも…でも!
「修一君は私の事、支えてくれたよ!」
精一杯、声を出した。
それほど修一君には感謝を伝えたかった。
修一君は、ビックリしたみたいで智君の腕を離してしまった。
けど智君は私に何もしなかった。
修一君を睨みつけてから、教室に戻る智君。
そんな智君に目もくれず修一君は目を見開いたまま私に、
「……さっきの……本当か…?」
と言った。
さっきの、とは修一君が私の事を支えてくれた、と言った事。
「……本当だよ」
そう私が言うと修一君は顔を下にして、小さい声で、
「……ありがとう」
と言った。
「……こちらこそ、今日だけじゃなくて毎日沢山、助けてくれてありがとう」
恥ずかしかったけど、それほど修一君には感謝の気持ちがあった。
次の日。
朝練があった舞季に置いていかれた私は、一人教室に入った。
教室の中の私の机の前には、萌ちゃんがいて、
「どうしたの?」
萌ちゃんに声を掛けると、萌ちゃんは振り向き、私に、
「これ。昨日はありがとう」
と言った。
渡されたのはぺアルックのキーホルダー。
「修一君とお幸せにぃ〜!」
え?え?!
「どゆこと?!」
私は萌ちゃんに、聞いた。
「ふふふふ。修一君に聞いてみなよ!そのぺアルックをあげてね!じゃ!」
え?!
萌ちゃんはそう言うとトイレに行っちゃったし…。
丁度良い時に修一君が来た。
私は修一君にあいさつをした後、
「えっと……これ、あげる」
萌ちゃんからもらったペアルックの一つを渡す。
「萌ちゃんから。お幸せに、だって」
修一君は私のその言葉を聞いたら、耳まで顔を真っ赤にして、自分のカバンにペアルックを付けた。
「仁藤」
私も修一君と同じ様にカバンにペアルックを付けてる時に修一君が私に聞く。
「なに?」
同んなじキーホルダーを付けるとカップルみたいだなぁ、と思いながら私は聞いた。
「俺、仁藤……じゃ無くて、美羽の事が_________好きになってしまいました!」
そうなんだ____って……え?!
告白ですか?!
「なっ、何、急に!」
「あの梅雨の日から美羽の事を見るとドキドキして……。でも、昨日やっと分かったんだ。俺は美羽の事が好きなんだな……って」
私の顔は真っ赤。
それ以上に修一君も真っ赤だった。
「おはよー、ってあれ?美羽と修一君?どうしたの?」
部活の朝練が終わり、教室に入ってきた舞季が聞いてきた。
それどころじゃなくて!
その日から私達は付き合い始めた。
秋になった。
舞季と未波ちゃんはバスケ部の県代表になったけど、強豪校と戦って負けて、全国大会初戦敗退。
萌ちゃんはサッカー部のマネージャーを辞めて、チア部に入った。
野球部に格好良い先輩がいるから、甲子園まで応援するんだって。萌ちゃんらしいや。
智君は…サッカー部もサボる様になって……。今、彼女募集中らしいけど、いい進展はなさそう……。
皆、青春してんなぁ。
私達?
そりゃ、変わった事は……あるけど。
まず、修一君が私のことを『美羽』って呼ぶ様になった。
次に、修一君の書いた絵が県の展覧会に選ばれた。
………それ位かな。
まだデートも勉強が難しくて、出来ていない。
寂しいなぁ。
でも、今日修一君にあったら言うんだ。
「今からでも青春して良いですか?」
って。
デートして、笑いあって、支えあって。
お互いの事を大切にしていくんだ!
END
- Re: I R O I R I ( No.2 )
- 日時: 2018/07/01 15:29
- 名前: 蕪木 華音 ◆Y8AV9JBKn. (ID: NLcS5gZX)
<私は青春してるんですか?>
キャラクターデザイン
仁藤 美羽
明るい 勉強は得意 運動が出来ない 不器用
美術部
普通に生きてきた少女。
舞季の様になりたいと思った事もあるが、色々違いすぎて断念。
一人っ子。
身長 体重:全て平均
セミロング
長谷川 舞季
快活 勉強出来ない 運動出来る 美羽の友達 リーダーシップある
バスケ部
2人の弟がいる。
バスケを好きになったきっかけは、黒◯のバスケ。
身長:美羽より背が高い 体重:平均
ポニテ
佐田 智
面白い 運動得意 チャラい
サッカー部
父親はどっかの会社の社長。
破天荒な姉が1人。
背が高い
村田 修一
格好良い ボッチ(本人は気にしてない)めったに笑わない
美術部
父親が亡くなり、今は母親と2人暮らし。
絵が上手いのは父親の血筋。
背が高い 格好良い!
立川 萌
勉強嫌い 運動好き 憎めない
サッカー部 マネージャー→チア部
初恋は小学生の同級生。
多分、モテ期が6回くらいある。
足長い 身長.体重:平均
ボブ
鈴木 未波
かっこいい系 足速い 勉強出来る
バスケ部
小学生の時にいじめられていたが、萌に助けられた。
背が高い
ポニテ
- Re: I R O I R I ( No.3 )
- 日時: 2018/07/01 15:31
- 名前: 蕪木 華音 (ID: NLcS5gZX)
<桜散る前の恋模様>
To:「桜田 遥さん」
Sub:「おはようございます」
『おはようございます 今日は学校終わっても、生徒会がないのでそちらに行けそうです』
To:「永咲 濫ちゃん」
Sub:「おはようございます」
『おはよう 今日も元気だね。僕の家はいつでも来て大丈夫だよ。絵描いて待ってるね。』
季節は秋。
私はこの人にメールを送って、返信が来たことを確かめてから学校に行く。
毎日送っているから面倒と感じた事も無い。
逆に、このメールの返信がくると一日が始まる様な気がする。
私の名前は永咲 濫。
17歳の高校生で髪をセミロングにしている。
あっさりした性格らしい。
自分からだと、自分の性格って分かんないから友達に聞いたやつだけど。
学校に着いた。
けど、特に楽しい事なんて特に無い。
友達と会話するだけだったらメールでいい。
でも顔と顔を合わせて会話が出来る様な友達も欲しいと、身勝手な私は思ってしまう。
どうしようも無い位。
私は部活に入ってない。
運動も苦手だし、絵も下手。楽器なんて吹けやしない。
でも放課後、何もないって言うのもなんだから、生徒会に入って放課後の時間を潰している。
結構、真面目にやってるほうだし、部活にも入ってないからほとんどの集会に参加出来た。
今、出来ていることに十分満足している。
嬉しい事だってあるし。
「ふぅ……」
ここまで来るのに時間がかかる。
電車を乗り継いで1時間。
遠すぎだ……。
ここは、遥さんの家。
遥さんについてはもう少したってから。
「お邪魔します」
そう言って私は玄関の扉を開けた。
鍵がかかっていない。
………相変わらず、無用心だな。
「おかえり〜。お疲れ様、濫ちゃん」
玄関を開けた音で気付いて走ってきた遥さんは若干、息が上がっていた。
「走って来なくても大丈夫ですから、遥さん」
私がそう言うと、遥さんは「………そうだったね。ごめん」と言った。
「気を付けて下さい」
私がそう言えば、遥さんは「……ごめん」と言う。
私は遥さんを責めたいわけではないのだけど………。
こんな態度、治したい。
遥さん_____桜田 遥さん。
遥さんは私が毎朝メールを送っている人。
現在、21歳の男性。
去年まで大学の美術科にいたけど、中退。
遥さんは私にとって大切な人だった。
「あと、玄関開いてましたよ」
「え?!嘘?!」
どれだけ無用心なんですか。
「気を付けてくださいね」
私がそう言うと、遥さんは「……ごめんね」と、また困った様な笑顔を向けてくる。
その度、私は申し訳なく感じる。
遥さんが悪いわけではない。私の態度が悪い。
どうしたらいい?
「あ、あのね!絵、描けたよ!ほら!」
遥さんが見せてくれたのは、遥さんの家、全体を描いた絵。
_____上手ぁ。
色使いも良くて、元々の線画だけでも十分綺麗だ。
私と違って、遥さんは絵が上手い。
「相変わらず、上手ですね」
私がそう言うと、遥さんは照れくさそうに「…ありがとう…!」と言った。
「あと、これ!押入れを掃除してたら出てきたんだ!」
遥さんが持ってきたのは、1枚の写真。
覗きこんでみると……懐かしい。
私達が小さかった頃の写真。
中学生の私と高校生の遥さんと2人で、ある建物の前で撮った写真。
ーーーーーーーーーーーーーーー
私_____永咲 濫が6歳の頃。
兄弟がいなくても、友達と楽しく過ごしていたある日。
私が通っていた幼稚園に電話が届いた。
お母さんとお父さんが出勤している時、自転車と車がぶつかる、交通事故があったのだ。
幼稚園の先生に私は連れられて、行った先は病院。
病院に着いた時にはもう、お母さんとお父さんは息をしていなかった。
親戚がいなくて、こんな私を引き取ってくれる優しい人もいないまま、私は孤児院に行くことになった。
孤児院は沢山の人がいて、人混み酔ってしまった私は保健室に行った。
そこで出会ったのは色白さが目立つ、10歳の遥さんだった。
遥さんは保健室の先生に薬を貰って飲んでいて、その薬が飲み終わったら保健室の先生に何かを話していた。
ボソリと話す遥さんの言葉。
「先生。僕ってあと、何年で死んでしまうのでしょうか」
その時は意味が分からなかったが、遥さんが喋っていた内容は今でも鮮明に覚えいる。
それが、遥さんの声を初めて聞いた時だった。
園内でたまに会った時には、遥さんは絵を描いていた。
「何を描いているんですか」
私が話しかけるとにっこり笑って、描いていた絵を見せてくれる。
この時よく描いていたのは花。
色使いが綺麗だったし、羨ましい位、描くスピードが早かった。
「描くの、上手いですね」
私がそう言うと、遥さんは悲しそうに笑いながら、
「僕にはこれ位しか、取り柄がないから」
と言う。
その頃は「なんでそんな自信が無いんだろう」と思ってばかりいた。
私が12歳、つまり遥さんが16歳の時に気付いた。
遥さんは『滅多に』と言うより、全く孤児院の校庭、つまり外に出てこないと言う事。
どうしても気になってしまった私は遥さんに、その疑問をぶつけた。すると遥さんは顔を俯かせて、
「……僕、元々身体が弱くて。激しく動いたりすると倒れちゃうかもしれないんだ。病気も持ってるし。だから、外には行けない」
と言った。
「…び、病気……?」
まだ頭の整理がつかない私の口からはそんな言葉が出る。
「そう、病気。心臓の病気で、僕の身体に何かあったら病気のせいで、僕は死んじゃうんだ」
と遥さんは言い、私に笑顔を向けて、
「だからごめんね。濫ちゃん。僕は室内で絵を描く事しか出来ないんだ」
と、言うと遥さんはまた絵を描き始めた。
今回描いていたのは桜。
でも、私の視界は段々とぼやけていき、遥さんの描いていた桜の絵も見えなくなっていった。
頬に暖かいものがつたう。
「……濫ちゃん?!ど、どうしたの?!何かあった?!」
遥さんが私を見てからそんな事を言う。
その言葉で私は、私が泣いている事に気付いた。
こんな事、聞かなきゃ良かった。
知らない方が良かった。
「……ごめんなさ、い……。こんな事聞いて…」
私は少し鼻を啜りながら、言う。
申し訳ない気持ちでいっぱいで、『ごめんなさい』じゃ足りない位。
でも、遥さんは少し戸惑って、
「だ、大丈夫だよ、濫ちゃん。そんな、泣かないで。僕は大丈夫だからさ。泣かないで」
と言い、私を抱きしめた。
触れた遥さんの温もり。
暖かくて、優しい。
「……ごめんなさい、遥さん……」
最後に私はそう言って、遥さんに笑顔を向けた。
泣いて、ぐしゃぐしゃになった笑い方。
それでも遥さんに……。
「遥さん、ありがとうございます。そして_____これから、もっと、二人の思い出を作りましょう!だから、だ、から……ヒック……っ」
駄目だ。どうしても悲しいと言う感情が走ってしまう。
悲しみが、涙が、言葉より先に出てくる。
笑顔も泣き顔に変わってしまう。
どうしようもないほどの感情が心を突き抜ける。
それが涙になって、私の目から零れ落ちる。
「っ!………ヒック……っ……」
その日は時間が許すまで遥さんの腕の中で泣いてた。
私が13歳になった時、ついに私の貰い手が出来た。
貰い手は普通の男の人と女の人の夫婦。
45歳位の年齢の人で、お母さん達が生きていればこれ位かな、なんて考えちゃった。
やっぱり、貰い手が出来た事は嬉しかったけど、遥さんと別れてしまうのは辛い。
それほど、遥さんと一緒にいたかった。
その事で悩んでいた時も遥さんは、
「僕は大丈夫だから。濫ちゃん。折角、家族が出来るんだから。断っちゃダメだよ」
と、優しく声をかけてくれた。
遥さんのお陰で私は決心ができ、その貰い手の人と私は家族になった。
孤児院を出る前に撮った写真。
咲き始めた桜をバックに私と遥さんがピースして撮った。
その写真を焼き増しして貰った。
1枚は私。もう1枚は遥さんに。
その写真は私の宝物になった。
私が16歳になった時。
段々と、引っ越してきた場所にも慣れてきて、学校の友達も出来た。
美術で使う画材を買いに、専門のお店に行ったら、偶然会った。
「………お久しぶりですね。______遥さん」
私の鼓動はバクバクしていた。
ずっと会いたかった、遥さんに会えた。
遥さんは私を見つけると、ものすごく驚いた顔をして……笑ってくれた。
「…久しぶり!背も伸びたね!学校はどう?元気にやってる?」
遥さんは早口でそう言った。
「え?!背、伸びましたか?学校は楽しいです、色んな人がいて。今、すっごく元気ですよ。遥さんに会えて良かったです」
私が一つ一つ答えていく。
久しぶりに会えた感動と遥さんの変わらない優しさに心が暖かくなる。
「遥さん……、お身体は大丈夫ですか?!」
その事が一番大事。私はそう思い遥さんに聞いた。
遥さんは明るく笑って、
「ここ最近、気分が良いんだ!ここで濫ちゃんと会えて良かったよ」
と言った。
そう言えば、遥さんは何を買いに来たんだろう。
「あ、僕は絵を描く時に使う、色鉛筆を買いにきたんだ」
私の心を読んだかの様に遥さんは言う。
遥さんいつも、色鉛筆で絵を描いてるから、やっぱり切れちゃうんだろうな。
「濫ちゃんは何を買いにきたの?」
遥さんが聞く。
「私は学校で使う画材を買いにきました。_____今気付いたんですけど、遥さんって絵の具で絵を描きますか?」
なんとなく、気になった事だ。
遥さんは色鉛筆以外で描いた絵を見たこと無かったから。
「……う〜ん。僕は基本的に絵の具では描かないかな。絵の具の匂いが嫌いで」
と言って遥さんは小さく笑った。
以外だな。
遥さん、絵の具の匂いが嫌いなんだ。
この前まで全く知らなかった事だった。
「濫ちゃんは何を買いにきたの?」
と、遥さんが聞く。
「私は学校で使う画材を買いに」
と言い、買うものを入れたカゴを見せた。
「そっか……もう、共有じゃないんだもんね」
共有とは、孤児院のお金で買った物をみんなで渡しあってして使う物。
私は孤児院を出たから、新しく買わなきゃいけなかった。
「……はい。今となっては共有していたのも懐かしいんです」
私が少し笑いながら言うと、遥さんは「そうだね、懐かしいね」と返してくれた。
「そういえば、遥さんは孤児院を卒業して、どこにお住まいなんですか?」
この時の遥さんの年が20歳。
19歳までは孤児院にいれるけど、19歳以上は自分一人で暮らすしかない。
遥さんの家はどこなのか。
ずっと気になっていた。
「僕は○○駅付近に住んでるよ。ここからだと結構遠いなぁ。けど遠出しても、このお店がいいんだよ」
○○駅か……。
ここからだと1時間位かかるな。
「今度、遊びにおいでよ。いっぱい、話したい事があるんだ。濫ちゃん、携帯持ってる?」
遥さんが言ったその言葉に私は頷いて、白色の携帯を出した。
私を貰ってくれた人_____お母さんとお父さんが買ってくれた携帯。
「じゃあ今、電話番号交換しちゃおうよ」
「_____はい!」
自分の携帯に遥さんの電話番号を打ち込む。
遥さんも自分の携帯に私の電話番号を打ち込んでいた。
「オッケーです。ありがとうございます」
私がそう言うと、遥さんは、
「じゃ、また今度会おうね」
と、言い、遥さんは買う予定の色鉛筆をカゴに入れていく。
「私、今日習い事があるので、ここで失礼します」
私は自分のカゴに入っている物を会計してもらい、遥さんにそう言った。
「うん、じゃあね」
遥さんがそう言う。
今日、遥さんに会えて良かったな。
お店を出てからも私は思い出し笑いでニヤニヤしていた。
「学校で生徒会の立候補をしようとおもうんですけど」
「うんうん」
ここは遥さんの家。
初めて、遥さんの家にお邪魔した。
この時は高校2年生になる1週間だった。
私は遥さんに生徒会に入った方が良いのか、相談していた。
クラスの中で生徒会の立候補する人がいなかったから、私は先生に頼まれて…。
「良いんじゃない。生徒会に入るのも勉強になると思うしね。頑張って!」
と、言ってくれる遥さん。
優しいなぁ。
「遥さんがそう言ってくれるなら、私生徒会に立候補します」
そう、遥さんに私が言うと遥さんは手を叩いて「パチパチパチパチ!」と言った。
そんな遥さんの姿が面白くて2人で笑いあった。
こういう時間がもっと増えるといいな。
確かに私はそう思った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「懐かしいですね。この写真、見て思い出が蘇ってきましたよ」
「だよね。僕もこの写真見て、懐かしいなぁ、って思ったよ」
ここは遥さんの家。
17歳、生徒会にも入れた私と、絵の上手い遥さん。
「私はこの写真、引き出しの奥に置いてあるんですけど……、やっぱりいつ見ても懐かしい気持ちになります」
私が言うと遥さんはうんうん、と頷く。
「あ、遥さん。今日の体調は?」
いつもの日課。
それが私が遥さんに体調を聞くことだった。
「今日は随分、気分が良いんだ」
と遥さんは言い、のびをした。
「良かったです」
私もそんな遥さんを見て、微笑む。
こんな遥さんだけど、遥さんの病気は段々と遥さんの命を削っていっている。
激しい運動に関する行動は厳しく取り締まわれ、今じゃ遥さんはほとんど遠出をしない。
もちろん、私がまた出会えたお店にも遥さんは行かなくなった。
食事制限もされる様になり、好きな物も食べなくなった。
毎日のメールもそうだ。
病気のせいでで遥さんに何かあったら不安だから朝、メールを打っている。
「いつも、ごめんね」
遥さんが申し訳なさそうに言う。
「大丈夫ですよ。ここに来れば、遥さんと話せますから」
暗い顔をしていた遥さんだが、私がそう言うと、笑って、
「僕も濫ちゃんと話せて嬉しいよ」
と言った。
遥さんが『嬉しい』と言ってくれるなら、私は幸せだ。
「お邪魔しました。明日は生徒会があるので、来週辺りに行けると思います」
帰り際、私がそう言うと、遥さんは毎回、
「じゃあ、また今度。来週も絵を描いて待ってるね」
と言い、笑う。
そんな遥さんの笑い方が好きだ。
次の週。
私はいつも道理遥さんにメールを送った。
To:桜田 遥さん
Sub:「おはようございます」
『今日、生徒会の用事がすぐに終わりそうなので早めに行けそうです』
To:永咲 濫ちゃん
Sub:「おはようございます」
『おはよう〜。僕の家は大丈夫だよ。今日、良い絵が出来ると思うから』
本人が言うんだから、よっぽど良い絵に仕上がるんだろうな。
遥さんの家に行くのが楽しみ。
遥さんを思い出すと、なぜか笑顔になる気がする。
それが遥さんの人柄なのかもしれない。
「普通に遅くなったじゃん」
私は呟く。
なんだよ、あの先生。
ちんたらと作業させて。
あーーー!もう!
「お邪魔します。すみません、遅れて」
遥さんの家についた。
鍵がかかってない……。
「ごめん、ごめん。鍵掛けるの忘れてた」
家の中から遥さんがそう言い、顔を出した。
「上がって、上がって」
遥さんは私の手を引き、遥さんの部屋まで来た。
遥さんと手が触れた時。
私の手は熱くなった。
けと、遥さんの手は元からかなり熱かった。
…….大丈夫ですか?
「これ。メールで言ったやつなんだけど……。やっと出来たんだ!」
そう遥さんが言い、見せてくれたのは桜の木を描いたもの。
上手すぎでしょ……。
なんて表現したらいいんだら良いんだろう。
とにかく綺麗な絵。
細かく見ていくと、まず線画から上手い。色も色鉛筆だけを使っているはずなのに、きちんとしグラデーションになっていて……凄い。
「凄いですね……」
思わず声がもれる。
私はこういう絵が好きだ。
デジタルしゃなくてアナログ。
絵の具で描くより色鉛筆で描いた方が素敵に感じる。
「ふふふ……。ありがとう、濫ちゃん。これ濫ちゃんの名前から思いついて、桜にしたんだ」
遥さんが笑いながらそう言う。
私の名前=桜?
私の誕生日は5/7だ。
どういうこと……?
「じきに分かるよ」
遥さんがにやけながら言う。
……え……分かんない……。
私はもう一度、桜の絵を見ようとした。
なんとなくもう一度見たくなったんだ。
その紙を持ち上げたら……机の上にある色鉛筆と紙がぶつかって、色鉛筆が転がった。
「あっ」
色鉛筆は床に落ちてしまい、私は拾おうとする。
遥さんも屈んだ。
色鉛筆を掴もうとしたら、遥さんの手と重なる。
「あっ……落としちゃってすみません…」
遥さんと手を重ねたまま私は言った。
………遥さんの手……熱い……。
遥さんの手は私より_____かなり熱かった。
「大丈夫だよ、濫ちゃん」
遥さんは色鉛筆を持って、スッと立った。
私もつられて立つ。
自然と遥さんと向き合う形になった。
今、気付く。
「遥さん_____息荒くないですか?」
その言葉が合図だったかの様に遥さんは私に、もたれかかった。
「え?!大丈夫ですか?!」
遥さんは背が高いけど……凄く軽い。
私にもたれかかっていても全くと言っていいほど、重たく感じなかった。
「は、遥さん!」
遥さんの身体は熱い。
「……はぁ、はぁ……」
ますます、荒くなる遥さんの息遣い。
「……ごほっ……ごめん……ね」
咳をしながら遥さんは私に謝った。
謝らないで下さいよ!
「と、とりあえず、横になった方が良いのかな……」
今は遥さんの事が大切だ。
部屋にあるベッドに、遥さんを連れて行き、そこに横になってもらった。
「……くっ、ごほっ、ごほっ…」
遥さんは苦しそうに咳をする。
咳をする度、遥さんの肩が上下に揺れる。
私は何をしたら良いのか分からなかった。
_____ただの風邪?
_____どうしたらいい?
_____吐いちゃうかもしれない?
………まずは、どうしたらいい?
「……とにかく、救急車!」
遥さんは病気持ちなんだ。
何かあったら、死んでしまうかもしれないんだを
……私が遥さんを!
私は急いで119を押し、電話を掛け、遥さんの状態と病気について伝え、救急車を待った。
救急車が来て、遥さんを運んでいった。
私も同伴する事になり着いたのは病院。
病院という、慣れない匂いが立ち込める中、私は遥さんの事だけが心配だった。
「診察が終わりましたよ」
看護師さんに呼ばれて、私は遥さんのいる場所について行った。
心臓がばくばく鳴っている。
もし、遥さんに何かあったら……。
そう考えると、居ても立っても居られなくなる。
コンコン、とノックしてから入ったのは簡易ベッドがある診察室。
簡易ベッドには遥さんが寝ており、たまに咳をしていた。
気になるのは遥さんの状態。
私はお医者の前に行くとまず、遥さんの状態を聞いた。
「先生、遥さんは_____」
「大丈夫ですよ。風邪です。ただ、桜田さんは、病気の影響で強めの症状が出ただけです」
お医者さんは私の声を断ち切って言った。
……ただの風邪だったのか……。
「………よかった……」
思わず声が出た。
けど、か細い声だったからかお医者さん達には聞こえなかったみたいだ。
「じゃあ、今日遥さんは帰れるんですか?」
遥さんは結構前に病院が苦手だ、と言っていた。
だから、なるべく早く遥さんの家に帰りたいのけど………。
「その事なんですが……」
と、お医者さんは言いずらそうにこう言った。
「_____桜田 遥さんの寿命はかなり、短いかもしれないです」
…………は?
唐突に言われた言葉は耳に入って行った。
けれど、意味が分からない。
「今日、一応検診をしたんですが……桜田さんの病原体は現在活発に動いています。前までは平気でしたが、その病原体は多くの細胞を傷つけており、どんどん桜田さんの命を削り取っています。だから………」
_______________!
「……遥さんは近頃に亡くなってしまう、と言う事ですか……?」
私がそう言うとお医者さんは何も言わずただ頷いた。
…………え?!
なんで?!
遥さんは_____遥さんは私の、大切な人なのに?!
私はいつも、現実から目を逸らしていた。
遥さんがいつか亡くなってしまう事なんて分かっていたはずなのに。
なんで……。
私の頬に暖かいものがつたう。
それが涙とは分からなかった。
ただ、視界が霞んでいくのが分かった。
遥さんの病室。
今日、風邪を引いた遥さんにとって、この病室が家の様なものになった。
遥さんは今起きている。
少し寝て、熱が下がったらしい。
「……ごほっ、がっごほっ…」
まだ咳は続くけど。
けど遥さんはただ呆然と窓の外を見ていた。
遥さんが呆然としているのには訳がある。
遥さんだって自分の寿命が短い事、お医者さんに言われたんだ。
「……ごめんね、濫ちゃん」
遥さんがぼそりと呟く。
私は首を横に振りながら、小さな声で「……大丈夫です」と言う。
それが遥さんに聞こえたか分からなかった。
ただ、遥さんの事を私は、見ていられなかった。
「僕だって自分の事には分かっているはずだったのにね。まだ、自分は死なないと心の底では思っていたんだね」
遥さんは私に向かって笑いながら言った。
そんな遥さんの目元は赤くなっていて、その笑顔でさえ、ぎこちなかった。
11月になり始め。
遥さんが入院してから3日目。
この日も、私は遥さんのいる病室に向かっていた。
遥さんの様子は比較的安定している。
まだ、どうなるか分からないけど。
遥さんの病室につくとコンコンとノックしてから入る。
「お邪魔します、遥さん_____え?!」
私が見たのは病室のベッドに乗ったまま、ベッドに取り付けられた小さい机に……倒れたかの様にぐったりとうつ伏せている_____遥さんの姿。
「は、遥さん!」
私は持っていた鞄も放り投げて遥さんの近くに駆け寄った。
「大丈夫ですか?!しっかりして下さい!」
遥さんは揺すっても起きない。
ま、まさかずっと恐れてた事が_____?
そ、そんな_____!
私じゃ、分からない!
ど、どうすれば?!
とりあえず!
看護師さん達が言っていた事。
私はベッドの近くについているボタンを押し、ナースコールをする。
どうか……遥さんが助かりますように!!
_____遥さん!
「ただの寝不足だよ……」
お医者さんに見てもらってた遥さんは私にそう言った。
「嘘、ですよね」
寝不足な訳ない。
寝不足だったら、揺すれば起きるはずだ。
なのに、私が揺すっても遥さんは起きなかった。
「は、はははは」
遥さんがとぼける。
この態度。
絶対、寝不足で倒れたんじゃない。
「そ、それより見てよ!これ!」
話題を変える様に遥さんは言う。
そんな遥さんが見せてくれたのは__________私の顔の絵。
やっぱり、上手い絵。
「これね、濫ちゃんを描いてみたんだ!結構、上手く描けたよ。やっぱりモデルがいいんだろうね」
私の事を描いてくれたのは……嬉しい。
けど……、
「………遥さん、聞いてもいいですか。その絵を描いている時、気持ち悪くなったりしなかったんですか?正直に言ってください」
これは正直に言ってほしい。
だから、かなり強めの口調で言った。
遥さんは諦めた様にに俯き、
「………描いている途中で目眩がしてきて……吐き気もしたかな……」
と、言った。
そして遥さんは、私にぎこちない笑みを向ける。
そんな遥さんに私はお構いなしだった。
やっぱりただの寝不足じゃなかった。
「じゃあ!なんで早く看護師さん呼ばなかったんですか?!気分が悪くなったらすぐに看護師さん呼んで下さい、って言ったじゃないですか!もっと早く伝えて下さいよ!」
予想以上の大声が私の口から出る。
それほど、私は怒っていた。
視界も涙で霞んでしまう。
でも……、
「………ごめん、ね。僕だって『やばいな』とは思ってたけど…、最後までこれを描きたかったんだ。もう、描けなくなっちゃうかもしれないから」
そう言った遥さんの姿は表情こそ、笑っていたけど絶望の中にいるようだった。
そんな遥さんを見たら私の怒りなんて、酷くちっぽけに見えた。
「ちょっといいかね?」
遥さんの病室のドアから、お医者さんに声をかけられた。
お医者さんが呼んでるのは………私?
「昨日、桜田 遥さんに言ったんだけどね」
白い、質素な部屋に私はお医者さんと話している。
話すのはもちろん、遥さんの病気の事。
「一昨日の検査で分かった事が1つ_____」
私は、身を乗り出す。
それほど大事な事だと分かっていた。
お医者さんが口を開く。
「__________」
「………………え」
え?
「ほ、本当ですか?」
お医者さんは無言で頷く。
え、え?!
「は、遥さん!」
お医者さんを置いて、急いで走って、着いたのは遥さんの病室。
遥さんは、窓から外を見ていた。
「どうしたの?濫ちゃん」
振り返った遥さんの目元には赤い、涙の跡がついている。
それでも遥さんは私を見たら、笑ってくれる。
それより_____!
「あ、あの!遥さんの余命が__________あと2日って本当ですか?!」
さっき、お医者さんが言った。
遥さんの余命はあと2日だと…………。
嘘だよ、って言ってほしかった。
そんな事ないよ、って言ってほしかった。
けど、現実は違った。
「本当だよ。僕はあと2日で死んじゃうんだ」
私の頬に暖かいものが伝う。
「ごめんね。濫ちゃん」
その言葉が合図だったかの様に、私の目から大粒の涙が溢れた。
「…………ひっく…っ……ひっく…!」
私は遥さんに抱きついた。
だだ、遥さんに触れたかった。
遥さんの温もりを知りたかった。
こんなの、私のエゴでしかない。
遥さんの方が苦しいはずだ。
遥さんの方が悲しいはずだ。
そんな遥さんより、私の方が泣いている。
「…………ごめん、なさい……はる、かさん……」
遥さんは一瞬、驚いた顔をしたけれども優しく私を撫でてくれる。
「大丈夫だよ、濫ちゃん」
遥さんの声は掠れていたけど、それでも遥さんの優しい温もりが私を包んでくれた。
「遥さん……明日って空いてますか……?」
私は帰る間際に聞いた。
「…………どうして?」
少し掠れていたけど、微笑んだ遥さんがそう言う。
「……明日、学校無いんですよ。振り替え休日とかなんちゃらで。だから、どこか行きましょうよ」
嘘。
明日は学校は普通にあるし、生徒会だってある。
ただ明日、何も無いまま終わってしまうなんて__________。
「遥さんが良ければですが」
私がそう言うと、遥さんは微笑んで、
「今日、お医者さんから『どこか行ってきていいですよ』って言われたんだ!僕も濫ちゃんと、どこか行きたいなと思ってたから」
よかった……!
ずっと前から、遥さんとどこかに行きたいと思ってた。
けど遥さんが病気持ちな為、外に行くという事がなかった。
でも今は_____
「もう後先の事、考えなくていいんだから」
遥さんにはこれからの先が失くなったんだ。
「これで、後悔がなくなるよ。ありがとう。濫ちゃん」
遥さんの後悔。
やっぱり、外で遊べなかった事だろうか。
私にとって外と言うのは自由な場所だけど、遥さんにとって外は不自由の場所なんだろうな。
そんな事を考えた。
「私は遥さんが行きたい場所なら、どこでもいいですよ」
私がそう言うと、遥さんは微笑んでこう言った。
「…………僕が行きたい所はね、_____あの懐かしい孤児院だよ」
遥さんは「ちょっと遠いけど……」と付け加える。
孤児院かぁ……遥さんが言ったけど、本当に懐かしい。
「いいですね。じゃあ明日、朝の9時辺りに私がここに来ますね」
私がそう言えば、遥さんは頷いてくれた。
「ありがとう。じゃあ、また明日」
少し話していただけでこんな時間になってしまった。
私より先に時間に気付いた遥さんがそう言った。
「お邪魔しました」
次の日。
To:「桜田 遥さん」
Sub:「おはようございます」
『おはようございます 今日、予定通りの9時にそちらに行きます 服を昨日おいて行ったので、それを着てください』
To:「永咲 濫ちゃん」
Sub:「おはようございます」
『おはよう 服、昨日置いてたんだね!気づかなかったよ!ありがとう!濫ちゃんを待ってます』
いつものメール。
他愛のない内容でも、これが明後日から無くなるんだ、と思うと胸が裂けそうになる。
今日、本当は学校のはずだ。
けど私はそれを親にも、遥さんにも騙して、今いる。
私の為とかは、どうでもいい。
ただ、遥さんに『申し訳ない』と思わせたくない。
ごめんなさい。
「お邪魔しま_____キャ!」
らしくない服を着て、遥さんの病室の扉を開けたら、これまたらしくない声が出た。
だって、扉を開けたら遥さんが上半身裸でいたんだ。
「あ!おはよう〜、濫ちゃん。今、着替え中なんだ〜」
そんな遥さんののんびりとした声が聞こえてくる。
「い、いいから、早く服を着て下さい!」
そう言い、私は病室の扉を勢い良く閉めた。
今、9時をちょっと遅れた位だよね……。
なんで、まだ着てなかったのぉぉぉ!
私、一応女子高校生なのにぃぃぃ!
遥さんの姿が目に残っちゃったじゃん!
けど……遥さん、かなり痩せてたな……。
若干、悶えつつもそんな事を考えていた。
「ごめんね〜、濫ちゃん。入っていいよ」
遥さんの声が病室の中から聞こえて来て私は病室の中に入った。
部屋の中には、きちんと私が持ってきた服を着て、ニコニコ笑っている遥さんがいる。
「さっきはごめんね〜。こんなに早く9時が来るとは思わなかったよ〜」
相変わらず、天然な遥さんだ。
「…………じゃあ、行きますか」
「うん!」
さっきの事で十分、疲れた私と反対に遥さんは明るく答えた。
「本当に、今日は大丈夫なんですか?」
行きの電車で私が聞いた。
遥さんには病気があるのだ。
明日、全て失くなると言っても、今日の事も重要だ。
本当に遥さんを苦しませたくないから。
「うん。大丈夫だよ。とりあえず、薬もあるし走ったりしなければ……多分、大丈夫」
多分の所が気になるが、遥さんが大丈夫と言っているんだ。
「じゃあ、今日は楽しみましょうね」
私がそう言うと、遥さんは、
「うん!」
と、明るく返してくれた。
「ふぅー、付いた!」
満員電車を乗りづぎ、辿り着いたのはあの孤児院。
ここまで、2時間くらい。
かなり、遠かったな……。
孤児院では、10人位の子供達が校庭で遊んでいた。
「子供って、元気ですね」
私は、そう呟く。
遥さんは笑いながら「そうだね」と言った。
やっぱり、懐かしい。
昔より古くなった園内だけど、あの頃の面影が残っている。
「あらあら、どうしたの?そこの2人」
子供と遊んでいた孤児院の先生が声をかけてくれた。
「僕ら、ここの卒業生なんです」
遥さんが、明るく言う。
大人と話すのに慣れてない私は遥さんが言ってくれた言葉に頷くだけだった。
「あら!そうなの?!じゃあ、中を見ていったら?」
孤児院の先生はそう言うと、園長に「話してくるわ」と言い、孤児院の中に入っていった。
「あ、えっと………って行っちゃった」
私はこの孤児院について聞ければ良かったんだけど、中まで見せてくれるなんて……。
「まぁ、あちらが良いって言ってくれたから、断るわけにはいかないよ」
遥さんが少し苦笑しながらそう言う。
「けど、孤児院の中をまた、見てみたかったんだよね」
私も遥さんと同じ気持ちになっていた。
この孤児院に来て、やっぱり中を見てみたいと思ったから。
「ごめんねぇ〜、時間かかっちゃって」
孤児院の先生が戻ってきた。
「あ、いえいえ、大丈夫ですよ!」
私は若干つっかえながら、そう言った。
孤児院の先生が来るまでそんなに時間はかからなかった。
むしろ、早い位だ。
「園長から許可を貰えたので、どうぞ自由に見て行ってね」
そう言われて、私と遥さんは孤児院の中に入らせて貰った。
孤児院の中は私の時から変わっていた所もあれば、同じ所もあった。
一つ一つ部屋を覗いて行きながら、遥さんと話していた。
「やっぱり、懐かしいですね」
そんな他愛の無い会話をしながら。
部屋を見て回っている時に、見つけた部屋。
「あ!この部屋、遥さんがずっと絵を描いていた場所ですよね!」
この部屋は、外の風景が見やすくて、絵を描くには絶好な場所。
だから遥さんはここで絵を描いていたんだ。
「本当だ!懐かしいなぁ〜」
遥さんが部屋の中に入りながらそう言った。
私も遥さんの様に部屋の中に入って、部屋を眺めてみる。
「あ!見て見て濫ちゃん!この絵、僕が描いた絵だ!」
遥さんが指を指していたのは、色鉛筆で描いた桜の絵。
この絵を描いていた時に、私が遥さんの病気について知ったんだっけ。
「……あの時は、すみませんでした」
私がそう言えば、遥さんは首を横に振って、
「大丈夫だよ」
と、言ってくれた。
その事をまだ遥さんは覚えていて、『申し訳なかったな……』と言う思いと『遥さん、覚えてくれたんだ……!』と言う思いがごちゃ混ぜになった。
「あの時遥さんが描いた『桜』ってなんで私のイメージなんですか?」
遥さんが描いてくれた桜の絵。
孤児院の時と、ついこの間描いてくれた。
あの時は詳しく聞けなかったから今、聞きたい。
遥さんは一瞬、ぽかんとして「…………ああ!」と言った。
「えっとね……濫ちゃんの名前って『永咲 濫』でしょ?」
私は『はい』と頷く。
よく『読めない』と言われる名前だった。
けど遥さんは、ちゃんと読めたんだ。
それが嬉しかった。
そんな私に気付かないまま、遥さんは続ける。
「って事は『ながさくらん』って事で……だから……」
えっと………ながさくらん、ながさくらん……
「あ!確かに桜になりますね!」
ながさくらんを言い続けたら分かった。
なが[さくら]んになるんだ。
「そう!だから濫ちゃんは桜だな〜って思ったんだ」
遥さんは細かい事に気付くなぁ。
絵を描く人は皆、そんな感じなんだろうか……。
凄い……。
「そしたら、遥さんも桜ですね」
遥さんの苗字、『桜田』だから。
「あ!本当だ!今気付いたかも……」
遥さんがそう言う。
って、え?!
今気付いたんだ……。
私の名前より分かりやすいのに……。
「じゃあ、同んなじだね」
遥さんがそう言った。
私は遥さんと同じ物を持っているかの様に嬉しかった。
孤児院の中を見た後は、孤児院の子供と「一緒に遊んでほしい」と、孤児院の先生が言ってくれて、私と遥さんは校庭に向かう。
「遥さん、走らない様にしてくださいね」
私はそう言う。
走ると危険な気がするから。
「うん、大丈夫。気を付けるよ」
遥さんがそう言って笑った。
「やっぱり、外は気持ちいいな〜」
遥さんが伸びをしながら言う。
校庭に出た私たちは、たくさんの子供達に囲まれる。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん達!遊ぼうよ!」
声をかけてくれる子もいて、私は嬉しかった。
「いいよ。何して遊ぶ?」
私がそう言えば、子供たちは「鬼ごっこしよ!」とか「おままごとしよう!」などの声が上がる。
しかし、鬼ごっこか………遥さんどうするんだろう………。
遥さんは走っちゃいけないから………。
あれ?!遥さんどこだ?
そう気付き私は辺りを見渡す。
あ……!
やっと見つけた。
遥さんは1人の男の子と一緒に絵を描いていた。
時々、遥さんはその男の子に話しかけたりしており、仲が良さそうな感じ。
遥さんが絵を描いてるなら、私は子供達と遊んだ方がいいかな。
私はそう思い、近くにいる子供達に声をかける。
「じゃあ、最初は鬼ごっこしよう!終わったら、別の遊びをやろう!」
はきはきと元気よく。
「疲れた〜……」
「お疲れ様、濫ちゃん」
5時になり、私は孤児院を出た。
それまで子供達と遊び過ぎて………。
私も久しぶりに走ったから、身体中が痛い……。
「でも、楽しかったね」
遥さんがそう言ったのに私はこくりと頷いた。
疲れたけど、楽しかった。
でも子供達での喧嘩とかがあって、私も困っていた事もあるけど、遥さんや孤児院の先生達がなんとかしてくれた。
「ありがとうございました」
と私が言えばは、遥さんは「いえいえ」と返す。
「あ!そろそろ日が沈みそう!坂の上まで行こうよ!」
今の季節は秋。
それも段々と冬になりかけている頃だったから、日が沈むのが早かった。
夕日を見に行こう、と言う遥さんに手を引かれて、私は走った。
__________ん?
私の手を引いているのは遥さん。
つまり、私が走っているのだから………。
_____________遥さんも走ってる?
え?!
「ついた!うわぁぁ!綺麗な夕日!」
走っていた、遥さんを止められずにそのまま、坂の上まで来てしまった。
その事を遥さんに言おうとして、私が顔を上げると、そこには綺麗な夕日。
青、水色、黄色、オレンジ、桃色。
言葉には出来ない様な様々な色彩がグラデーションを作っていた。
思わず、息を飲む。
「僕と一緒に絵を描いていた男の子、ね」
遥さんがポツリと呟いた。
「あの子、両親に虐待を受けてて、見かねた孤児院の人が、あの孤児院に入れさせたんだって」
遥さんの言い方は自分に、言い聞かせている様な言い方だった。
「でも、慣れない環境に1人でいて、辛くて。その時はずっと絵を描いていたんだ」
「で、今日僕達が来て、その子に会った。その子は絵を描いていたけど、書き方も分からないままでいて。それで僕が教えた」
「僕も子供は苦手だったけど、その子には話せたんだ。なぜだと思う?」
遥さんが聞いた。
分からない私は首を横に振る。
私の行動は夕日を見ている遥さんには分からないはずだけど、遥さんはこう続けた。
「幼い頃の僕に似てたんだ」
と。
遥さんの過去_____それはかなり、壮絶なものだった。
親から虐待を受け、ずっと孤独で……。
それに病気も持っていたんだ。
私だったら、誰かに頼ってしまう。縋ってしまう。
それを遥さん1人で……。
「あの男の子は僕みたいな病気を持って無いから良かった。持ってたら……苦しむだけだから………」
そう言った遥さんは、悲しみと嬉しさが混じった様な表情で、私は思わず目を逸らしてしまった。
「ごめんね、今日は走らない様にする予定だったのに……」
そうだ、遥さんはさっき走ってしまったんだ。
「だ、大丈夫なんですか?薬とか飲んでおいた方が、良いんじゃないですか………?」
私は遥さんに言う。
遥さんは腕を曲げたり、足を曲げたりして自分の身体の調子を確かめている。
「………うん、大丈夫。平気そうだよ。驚いたよね、急に走って」
私は頷いた。
本当にびっくりしたんだ。
「なんかね……この夕日を見れなかったら、凄く後悔すると思ったんだ……。死んだ後もずっと後悔したまんまだと、思うと………」
遥さんは、「……苦しくて」と付け足した。
「明日、消える命なのにね。こんなわがままばっかり、濫ちゃんを巻き込んで……ごめんね……」
『明日、消える命』
その言葉が私の心に絡まって、やっぱり明日、遥さんは死んでしまうと言う現実がだけが残る。
帰り。
電車の中では、私達は全く話さなかった。
私は遥さんと目を合わせられなかった。
病院についた。
遥さんを病院の病室まで連れて行く。
私はその病室に遥さんとずっといたかったけど、遥さんに、
「今日はありがとう、濫ちゃん。迷惑かけちゃってごめんね。またね」
と言われ、私はここから出ないといけないような気がした。
私が病室を出ようとする時、遥さんは言う。
「あ、今日、学校あったのに付き合わせちゃってごめんね。生徒会もあったでしょ?」
と。
……遥さん……気付いていたんだ……。
今日、私には学校があったこと。
今日、生徒会があったこと。
そんな私を連れてまで遥さんは、行きたかった所なんだ。
「私の事なら、大丈夫ですよ。遥さん。遥さんの行きたい場所ならどこでも構わないですから。明日も来ます」
そう私は遥さんに言い、病室を後にした。
次の日の朝。
私は5時に起きてしまい、何も出来ないまま時間が過ぎるのを待った。
やっと7時になり、遥さんにメールを送った。
To:「桜田 遥さん」
Sub:「おはようございます」
『おはようございます 今日、遥さんが良ければ早めの時間からそちらに行きます』
と。
私は遥さんからの返信を待った。
5分経った。
10分経った。
30分経った。
…………返信が来ない?
私は急いで遥さんのいる病院まで、自転車をこいだ。
トラックに引かれそうになっても、歩道者を引きそうになっても、私は自転車をこぎ続けた。
息が切れる。
こんな季節なのに汗が伝う。
それでも、急いで_____。
「遥さん!」
やっとついた、遥さんの病室。
バァッン!と音を立て、ドアがあいた。
「ど、どうしたの?!濫ちゃん!」
病室の中にいたのは_____着替え途中で、上半身裸の遥さん。
バァッン!
私は急いで扉を閉めた。
2日連続だよ………。
「ごめん、ごめん。さっきまで検診があったから……」
病室のベットに座っている遥さんが、私に申し訳なさそうに言う。
あの後、遥さんから「着替え終わったよ〜」と言われて、私は病室の中に入れた。
さっきまで検診。
だから、今さっきに着替えていたんだ……。
「だから、メールに気付かなくて……」
遥さんは自分の携帯を見て、メールを打つ。
遥さんがメールを書き終わり、携帯を置いた時、私の携帯の着信音が鳴った。
私は自分の携帯を見た。
送り主は、遥さん。
To:「永咲 濫ちゃん」
Sub:「おはようございます」
『おはよう 今日はいつでも来て大丈夫だよ。でも早めに来ると僕、着替え中だから、注意してね』
私は思わず「クスッ」と笑う。
今送るメールじゃない事が可笑しくて、頬が緩む。
「あ、今日は濫ちゃん、学校無いの?」
遥さんが、笑っている私に言う。
優しい、遥さんなら聞くだろうなと思っていた事だ。
「今日も学校、無いんですよ」
私はへへへと笑いながら、そう言った。
一瞬、驚いた表情をした遥さんだがすぐに私と同じ様笑う。
遥さんも私の言った意味に、気付いているはず。
「あ、さっきの検診の結果は…….?」
私がそう言うと、遥さんはある紙を見せて、
「この前と変わらないよ」
と、言った。
紙には細かい文字が書いてある。
一際目を引いたのは、赤い文字で書いてある言葉。
『明日の生存率 0%』
と書いてあった。
明日_____つまり今日、遥さんは亡くなってしまうと言う事。
結局、変わらないのか。
「……なんの為の病院だよ……」
私の口から出たのは、私らしく無い、低い声。
遥さんに聞こえない様に呟いたはずだったが、遥さんにはちゃんと聞こえていた。
「………そんな事、言わないで。濫ちゃん」
苛立ちがある私を抑え込む様に、遥さんが言う。
「僕だって、いつか死ぬ事は分かっていたんだ。ただ、それが今日だっただけだよ」
遥さんの声は優しく、私は途端に申し訳なくなった。
「………ごめんなさい」
「大丈夫だよ。濫ちゃん」
そう言った遥さんの表情は優しく、朗らかな表情だった。
それから遥さんとたくさん話した。
絵の事や生徒会の事。
孤児院の事や家の事。
たくさん笑った。
たくさん話した。
私は心の中で泣いた。
「もうそろそろだ」
そう言う遥さんは、うっすらと微笑んでいた。
そろそろ_____遥さんだけが分かる、自分の死期。
ただ、私は涙を堪える事しか出来ないまま。
けど、遥さんの頬に伝うものがはっきりと見えた。
「__________っ!」
私から見る遥さんの姿は段々と霞んできて、手で拭わないと見えない位になってくる。
遥さんは私と目を合わせて、一言。
「最後まで濫ちゃんといれて良かった」
と。
そして、遥さんは大きく息を吸い_____言った。
「好きだよ。濫ちゃん」
__________単純に嬉しかった。
心臓がはやって、うるさい位だ。
私にも、言いたかった事があるんだ。
_____私も言いたい事、言え!
伝えたかった事、言え!
やっと発せられた一言_____。
「っ!……ありがとう……ございます」
掠れた私の声。
だけど、遥さんに届けば_____。
「私も遥さんが好きです……!
自分では味わったことの無いほど顔が熱くなり、心臓が高鳴った。
ドクッ、ドクッと心臓が血液を送っているのが分かる。
遥さんから見た最後の私は泣いていた。
けど笑顔を見せて、笑った。
「今まで、ありがとう」
そんな遥さんの声が聞こえた気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
もう、動かなくなった遥さんの手をとって私はただただ泣いた。
苦しくって、胸が裂けそうだった。
遥さんの手は冷たくて、嫌でも現実を教えてくれた。
_____私はこれからどうすれば良いの?
遥さんがいなくなった_____私の半分が無くなった様に感じていた。
今さら過ぎる。
「今さら、遥さんが好きになったていた事に気付いたんです……」
私ってこんなに自分の気持ちに気づかなかったけ。
こんな大事な事なのに。
こんな大切な事なのに。
「……ごめん、なさい……っ!……はる、かさん……」
涙が溢れる。
言葉にならないほどの感情が流れ出す。
そして、不意に思ってしまった。
_____こんな私ならいなきゃ良かったのに。
と。
大事な事も伝えられない私なんて。
あっちに行ったら遥さんに会えるのかな。
私は鞄の中から筆箱を取り、最近美術で使い始めた×××を手に取って、首もとに近づけた。
_____遥さん。
「あっちに行ったら、会えますよね」
冬になりかけのある日。
2つの桜が散った__________。
END
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