コメディ・ライト小説(新)
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- 夏の終わりに、それを知った。
- 日時: 2019/07/09 16:16
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
どれが間違いで、何が正しいのか。
そんなこと、考える余裕なんてなかった。
いや、わかるわけなかった。
失いたくない。離れたくない。
そんな思いだけが、頭の中を占めていく。
他の人の気持ちなんて考えてもなかった。
ただ、私は。
『なーみちゃん。ずっといっしょだよ?』
永遠を信じて疑わなかったあの頃に、戻りたかった。
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.4 )
- 日時: 2019/07/18 18:25
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
会いたい、たったそれだけで
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.5 )
- 日時: 2019/07/18 18:43
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
はあ、戻ってきたなあ。
キャリーバッグとお土産を持ち、空港から出て来た俺は、日本の空を見上げ大きく息をする。
イギリスとは違って何だか新鮮な感じがして、この空気を吸うのは二回目だな、と心のなかで笑う。
一回目は、日本に初めて来た時だった。
と言っても俺は、正真正銘日本人。
なんでも、俺を日本で生んだ後、親父の転勤で直ぐにイギリスに引っ越したらしい。
それでまた俺が保育園の時に日本に転勤になって引っ越した。
そこで出会ったのがあの二人。
『はじめまして。えのもとなみです』
『ももせはるか。よろしく』
無愛想でちょっと我が儘な遥と、大人しそうでちょっとドジな七海。
にこりと笑う七海が可愛くて、居心地のいい遥の隣が好きで。
初めて、もう転勤なんかしないでほしいと願った。
だけど、そんな願いは叶わず、親同士の離婚で俺はイギリスへと戻ることになった。
そして、高校生になった今。
あの二人に会いたいという理由で母親の反対を押し切り、また日本に戻ってきた。
どうしても、会いたかったから。
遥に、七海に。
「あの二人、元気にしてるかなー」
二人が通っている高校は、ごく普通公立高校らしい。
それは、お母さんと仲の良かった七海のお母さんに教えてもらった。
ちら、とその高校までの道のりが書かれている地図を見る。
これは七海のお母さん、茉夏の話を頼りにお母さんが書いてくれたものだ。
あんなに反対してきたくせに、最後には“こう”だもんなー。
まあ、感謝するけれども。
そっと地図を撫でて、宝物を仕舞うようにポケットの中に入れた。
そして、気持ちを入れ換えようと真っ直ぐ前を向き、そのまま早歩きで自分の家となるマンションへと向かった。
*
もう桜は散ってしまって、枝には青々とした葉が茂っている。
じめじめとした熱気が体に絡み付き、肌にじっとりと汗が浮かぶ。
今は7月の始め。
昨日マンションのめんどくさいことを済ましてきた俺は、今日から七海達が通うここ、夏風高校に転校することになった。
にしても、日本は学校始まるの早いなー。
イギリスだったらまだ新年度にもなってないのに。
そんなことを考えながら、前を歩く俺の担任の後を付いていく。
「っあ、出席簿忘れた...。すいません、ちょっと忘れ物があるので取りに行ってきます。直ぐに帰ってくるのでここで待っていてください」
しかし、“2ーB”という教室の前で急に立ち止まったかと思うと、俺の方を振り返りそう言ってから、小走りでどこかに行ってしまった。
「待ってて、って言われてもなあ」
暇なんだけど。
壁に寄りかかり、ふと目線を横にずらす。
すると、そこには。
「待ってよー、モモー!私倒れるー」
「走るのが嫌なら早く起きればいいでしょ。寝坊常習犯」
「うっ、ひどいー!!」
走ってこの教室の中に入っていく最も会いたかった人の姿があった。
さら、と風に靡く黒髪につられ、『待て』と言われたにも関わらず教室に入る。
「ねえ。ここにさ、エノモトナミっている?」
そしてそう言って微笑んで教室を見渡せば。
何故か床に寝っ転がっている七海がいた。
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.6 )
- 日時: 2019/07/18 20:26
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
衝撃が、走る
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.7 )
- 日時: 2019/07/23 20:42
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
首を傾げてにこりと笑う綾。
その瞬間、
「一条君!僕は待っていてと言ったはずですが!」
開けっ放しにしてあるドアから、うちの担任である楠木先生が口をへのじに曲げて入ってきた。その顔はトマトみたいに赤くて、怒ってるんだなあと、冷静に考える。
「あー、ごめん。先生。会いたかった人が目の前に現れたからさ、勢いで教室に入っちゃった」
てへ、と笑って見せる一条君。そんな一条君を見て怒りより呆れの方が勝ったのか、先生は小さく溜め息をつくと私たちの方に向き直った。
「えー、ホームルームを始めます。皆さん席に座ってください。一条君は此方に立って、自己紹介お願いします」
その一言で席に座り出す私達生徒。私も自分の席に座ろうと、立ち上がって一条君の方を見やれば、口を必死に動かして、私に何かを伝えようとしていた。パクパクと動く口の形を観察して、一条君が何を言っているのか考える。
えっと、ま、た、あ、と、て、ね、な、み。
またあとてねなみ?
いや、違う。
またあとでねなみ。
『また後でね七海』だ!
答えが分かり、ちら、と一条君を見ると何がツボったのか知らないけどお腹を抱えて笑っている。
...何か分からないけど腹立つ。
じ、と一条君を睨む。
「あんた、何百面相してんのよ。早く席に着きなさいよ。見苦しいから」
「なっ、見苦しい!?」
ここにも腹立つこと言ってくる人いた!いやモモの方が腹立つ!
見苦しいは酷い。仮にも思春期の女の子に、見苦しいは酷いでしょーー!
「モモ、あんたねえ言っていいことと悪いことって言うもんが...、」
そこまで言ったとき。
「はい、そこまで。榎本さんと桃瀬さんの喧嘩は凄まじいですから後にしてください」
と、先生からのストップがかかった。
その言葉に眉を顰めるも、これまでのモモとの喧嘩を思い出し、何も言えない。
時には殴り合い。時には物の投げ合い。
その他にも色々してきた。
...確かに凄まじいな。
先生の言葉に納得してしまった私は、モモを一睨みした後席に座る。
それに続いてモモを席に座った。
顔は言わずもがな不機嫌そうだけれど。
大人しく座ったとはいえ、さっきまで言い合いをしていた私達。勿論、イラついていない訳がなく...。
お互いから滲み出る殺気。
お陰で教室内は、ピリピリとした空気に包まれる。
「じ、じゃあ一条君、自己紹介お願い、します」
戸惑いながらそう言った先生の声は、震えていていつも以上に小さかった。
そんな先生に笑いかける一条君。
「えっと、俺は一条綾。イギリス育ちです。生まれはこの地域だから、日本人だけど。で、ここには幼馴染みである七海に会いたくて来ました。 皆、俺と七海の恋の応援よろしくなー」
「ええええええええええ!!!?」
...。
......。
はあああああああああっ!!!?
「あんたと恋!?」
有り得ない!
百パーセント!例え天と地がひっくり返ってもゼーッ対に有り得ない!!
ガタッと椅子を倒す勢いで立ち上がれば、奴は
「うん。俺と恋して?七海」
にっこりと天使のような微笑みを浮かべながら、爆弾を投下した。
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.8 )
- 日時: 2019/07/24 10:08
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
*
イケメンだよ。イケメンだよ。確かに顔は格好いいし、私もこんな知り合いいたら良かったのになーとか思ったよ。
けど!だけど!
「俺はぁ~、七海のこと好きらの。七海はあ~?俺のこと、好きぃ~?」
この貞操の危機を感じる状況は何!?
ー数時間前ー
あの爆弾発言後、一条綾は、まるで忠犬のように私の元へと寄ってきた。
『この言葉って、どーゆー意味?』
『七海!音楽室の場所分かんないから一緒に行こ?』
『ねえねえ!一緒にお昼食べよ~!』
それを回避することも出来ず、渋々付き合ってあげていて、放課後。
私は自分の机の上に突っ伏して放心状態である。
な、何かいつも以上に疲れたんですけど...。
もうアイツの顔も見たくないし声も聞きたくないわ...。
『七海』
未だに脳内に鳴り響く一条綾の声。
嫌だ。嫌だ。
もう、アイツとは
「関わりたくないのにーーーっ!!」
「それって誰と?」
丁度私が叫んだときに開いた教室のドア。
それと同時に聞こえた、今日嫌というほど沢山聞いたアイツの声。
ギギギ、とロボットのように首を動かしてそっちを見れば、
「一条綾...」
私を悩ませる原因が、立っていた。
「やっほ、七海。てか名前、綾って呼んでって言ったじゃん。フルネームで呼ばれるの好きじゃないんだよ、俺」
いや、あんたの意見なんか聞いてないし。そもそも関わりたくないのに何で馴れ馴れしく名前で呼ばないといけないの?
「ことわ」
「『断る』とか、言わないよね?」
「っ!!!」
にっこり、といつものように笑っているはずなのにどことなく感じる圧力。
ね?と試すような目に、ぐっ、と一瞬押し黙る。
「え、あの、だって」
「綾」
「は?」
「って、後3秒で言わないと今日は俺と付き合ってもらうから」
何だと!?
「さん」
そんなこと、させて堪るか!
私は今、とっても疲れてるのに!一条アレルギーが出来そうなのに!
「にー」
「りょっ、」
「いち」
「り、りょ!」
「はい、時間切れー。七海は俺とデートだね?」
「え?でも、名前言った!」
「言ってないよー。俺は『綾』って名前なの。『りょ』じゃないから」
「な...!」
何て理不尽!!!
え、なにこれ。新手のいじめなの?いじめだよね!
決定だよね!?
「でも言った!百パーセント言ったから!!」
絶対にコイツともう関わりたくない。
一生関わらないようにすることが出来ないならせめて今日だけでもいいから。
今日だけは...!一条地獄から解放してくれ!
「何してんの?」
胸の前で両手を左右に振り、必死に抵抗していると聞こえたモモの声。
「モモ!!!!!!!」
「遥...。相変わらず俺に敵意剥き出しだねー。怖いよ、顔」
「うっせーよ。アタシはあんたが大っ嫌いなんだよ、バァーカ」
何だろう。
男の子同士の喧嘩に聞こえるのは私だけ...?
「えー、それ本人の前で言う?」
「言わねえと一生気付かなさそーだもんなあ?お前」
あー、ヤバい。モモがキレてる。
最初からだったけど男になってる。
あんだけ可愛い顔して男言葉だったら地獄絵図だよ!
「なに?本気で喧嘩売ってるんだ?俺がいねえ間に随分短気になったな」
「ハッ、だから、言ったろ?オレはお前が嫌いなんだよ。昔っからな」
...。
え?
オレ?
“俺”ってあれだよね?主に男の子が使う一人称。
何でそれを、モモが使うの?
「モモ...?」
「あ、やべっ!」
私が不思議そうにモモをじっ、と見ていれば視線に気付いた途端気まずそうに顔をずらすモモ。
あー、やっぱり。やっぱりモモは...。
「モモって、もしかして...」
「あ、いやあの、違うから。七海!えーっと、これは...!」
慌てふためくモモを見てクスッと笑う。
大丈夫だよ。そんな隠さなくてもいいのに。
でも、そっか。ずっと一緒にいたのに気付かなかったなー。
恥ずかしかったのかな?だけど言ってくれれば良かったのに。
そしたらちゃんと応援したよ?私。
「男になりたかったんだよね?モモ」
「は?」
「え?」
固まる二人。
え?何?私、変なこと言った?
こてん、と首を傾げてもう一度私が言った言葉を振り返える。
わなわなと怒りに震えているモモ。
あれー?やっぱ問題発言しちゃったのかな?
「モモあの、」
「ちっげーよ!俺は元から男だっつの!!!馬鹿!」
「は?」
OTOKO?
オトコ?
おとこ?
男!?
誰が?モモが?
あの黙っていれば天使なモモが?
「おとこおおおおおおおおおおおお!!?」
「あ、しまった」
「自分で墓穴掘っちゃったね、はーるか?」
「お前マジうぜえ。つーか綾がいなかったら隠し通せたんだよ!アホ!」
「何、え、嘘?嘘だよね?モモ!」
何この笑えない冗談。
あんなに可愛いモモが男?
だって、声変わりしてないじゃん。低いけど。
背だって私より高いけど、足スラッとしてて綺麗じゃん。
顔だけは可愛くて、いっつも町を歩けばスカウトされてたじゃん。
どう考えても女の子じゃん。
「えーと、その。あのな、七海。実はさ」
「うん。そーだよ?桃瀬遥は男です!」
「てっめ!」
...。
本当、何だ。てか十年以上一緒にいたのに気付かなかった私って、何?
てゆーかそもそも何で。
「......なんで」
「え...?」
「何で、女の子になってたの?」
そう問えばモモは力なく笑う。
「...いいよ、話してやる。だけどさ、先に家に帰るよ。七海」
その微笑む姿は久しぶりに見たももの笑顔で。
やっぱりさっきのは冗談なんじゃないかと思ってしまう。
「...うん」
そう返事すると、机の横にかけてある鞄をとって、モモの後に続いて教室を出た。