コメディ・ライト小説(新)
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- 夏の終わりに、それを知った。
- 日時: 2019/07/09 16:16
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
どれが間違いで、何が正しいのか。
そんなこと、考える余裕なんてなかった。
いや、わかるわけなかった。
失いたくない。離れたくない。
そんな思いだけが、頭の中を占めていく。
他の人の気持ちなんて考えてもなかった。
ただ、私は。
『なーみちゃん。ずっといっしょだよ?』
永遠を信じて疑わなかったあの頃に、戻りたかった。
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.1 )
- 日時: 2019/07/15 12:42
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
微かな記憶は、
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.2 )
- 日時: 2019/08/21 15:47
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
「ん...」
鳥のさえずりに誘われるようにして、重い瞼をゆっくりと持ち上げる。
のろのろと朧気な意識のままに手を伸ばす。指先に当たったスマートフォンを取り、霞む目を擦りながら時間を確認。
すると。
「わっ、やっば」
とっくに目覚ましをセットした時間は過ぎていた。どうやら無意識にスマートフォンの目覚ましを止めてしまっていたらしい。
「あー、今日も朝から小言を言われるはめになるのか...」
項垂れながらもベッドから起き上がり、バタバタと洗面台へ。
身支度を整えたのは家を出る予定の時刻まで後五分といったところ。
皆みたいに、髪やら化粧やらしなくていいから何だかんだ間に合っちゃうんだよね。だから寝坊癖直んないのかなー?
そんなことを思いながらダイニングテーブルの上に用意されていたイチゴジャムののったトーストを立ったまま口に運ぶ。
皿の横に添えられていた不動産会社のチラシを手に取り、モグモグと口を動かしながらその裏に書いてあるメモを読む。
【おはよう、戸締まりしっかりね。】
「...はぁい。分かってるよ、お母さん」
お母さんは俗に言うシングルマザーというやつだ。
私、榎本七海の親は、私が二歳の時に離婚した。お父さんの顔はよく覚えていない。というかいたということさえ曖昧だ。
まあ、別に。物心ついたときには『お父さん』という存在が居なかったから寂しくなんてないけれど。
それよりも寂しいのは、最近追われるように仕事をしているお母さんだ。
朝早くから家を出て、夜遅くに帰ってくる。高校生になってからというもの、私はお母さんの顔を見ていない。もう、どんな顔だったのか、分からなくなるほどだ。
「会いたいのになぁ...」
ポツリと呟いたその声は、
「七海!おっそい!いつまで寝てんのよ!」
玄関の扉を乱暴に開け入ってきた可愛らしい女の子の声によって消えた。
「むっ! ゴホッ、ゴホッ、ケホッ... も、モモ。もうちょっと優しく入ってきてよ。喉に詰まっちゃったじゃん」
緩く巻いてある色素が薄い髪の毛は左右に結び、フランス人形のように整った顔をしているこの女の子は、桃瀬遥。私の幼馴染みだ。
「嫌だ。だって七海、全然出てこないんだもん。遅刻しちゃうじゃない。ま、朝御飯食べてるだけならいいわ。学校行くわよ」
私の真ん前で仁王立ちしているモモは、後一枚残っていたパンをパクリと食べて、私を見た。
「え、まだ歯磨きしてないんだけど?」
「その他の準備は出来てるでしょう?ほら、行くわよ」
リビングに投げてあった鞄を持ち、くるりと振り返る。しかし、私が追い掛けようとする前に、すたすたと歩いていってしまった。
「...ちょっ、待ってよ。モモ!」
「アタシが待つわけないでしょ?ほら、時間ないんだから。さっさと歩く!」
え。ちょっ、ホントに私を置いていっちゃたんだけど!あの人!
でも、これが日常だからなのか、モモの横暴ぶりにも慣れてしまった。
といっても、私が寝坊するのが悪いんだけど。
溜め息をつき慌てて戸締まりをしてから、せっせと私の自転車を出すモモの元へと急ぐ。モモに御礼を言い、自転車に乗ると私とモモは勢いよく自転車を漕ぎだした。
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.3 )
- 日時: 2019/07/28 16:14
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
*
「あっついー」
もう涼しいエアコンの効いた室内なのに、体からは滝のように汗が流れ、じとっとシャツが肌にくっつく。
ああ、だから。
夏は嫌いなんだ。
そんなことを思いながら、ごろんと床に大の字になって寝そべり目を瞑る。そんな私をじろじろと、まるで奇妙なモノでも見るかのような視線を投げ掛けてくるのは、勿論モモだ。
「...何」
流石に気になって、モモの方を見てそう問えば、
「いや、よくそんな汚い所で寝そべっていられるなぁって感心してたのよ」
皮肉が込められた言葉を返されてしまった。
し、失礼なっ...!
私を汚いものを見るような目で見てくるモモに、だんだんと腹が立ってくる。
知ってるよ。モモが綺麗好きって事くらい。埃が少しあっただけで直ぐに掃除機で掃除するもんね。だから、色んな汚れがついているこの床になんの戸惑いもなく寝そべった私が不思議でしょうがないんでしょうけど。
でも。でもねぇ!
その目は人に向けちゃいけないと思うの!
人を見下してる目はダメ!見られてる側が傷付くから!
...まぁ、こんなことモモに訴えたって、そんなこと微塵も気にしないんでしょうけど。
「はあ...」
『他の人が傷付こうがそうでなかろうが、アタシには関係無いわ』
きっぱりと、そう口にするモモが浮かび、目の前にいるモモに気付かれないように短く溜め息をつく。でも、そんな溜め息でさえ気付いてしまうのが『地獄耳モモ』で。
案の定ピクリと耳を動かし、私を睨み付けている。
そんなモモの視線に居たたまれなくなった私は身をちぢこませてモモを視界の中に入れないように反対を向いた。
その瞬間。
「ねえ。ここにさ、エノモトナミっている?」
ガラ、とドアが開く音が聞こえると共に、私の名前を呼ぶ男の子の声が聞こえた。
え、何。誰。私に男の知り合いなんて居たっけ?
むく、と起き上がり、視線を教室の前の方に向ければ。
にっ、と口角を上げて楽しそうに微笑む見知らぬイケメンがいた。
いや、待て。
待て。待て待て待って!
誰!?
え、もしかして私が覚えてないだけで知り合いとか?いや、でも私にイケメンの知り合いなんていない。とゆうか欲しいくらいだ。
教室の全員が、此方を向くけど、何と無くあのイケメンに自分が榎本七海だということを知られてはいけない気がして。さっき起き上がったばかりの上半身をバレないようにゆっくりと床につける。
よし。イケメンには悪いけど、私はこのまま隠れていよう。
そう固く決意して、再び目を瞑る。
「ねえ、あんた誰?」
しかし、私の隣から男の子のような声が聞こえ、ぱち、と目を開ける。
視線を隣に向けるも男の子なんておらず、イケメンを睨み付けているモモだった。
驚いた。モモって、普段から他の女の子よりは声は低いけど、今の男の子のような声は、十数年一緒にいる私でも聞いたことがない。それどころか、まず声が低いことを気にしていたのに。
あんな声を出すなんて...。
私が唖然としてモモの顔を見るけど、本人はこっちを一瞥もせずに、ずっとイケメンを睨み付けている。
「答えて。あんた、誰。何で七海の名前を知ってる」
「あー、えと。一条綾っつたら分かる?」
イチジョウリョウ?
そんな名前聞いたことない。
やっぱり人違いだったのかと、ガックリと肩を落とす。
「綾、ってお前!」
しかし、モモは知っているようで焦ったように声を荒げた。
「はは、そうだよー。一応遥と七海の幼馴染みだよー」
...。
......は?
オサナナジミ?
幼馴染み、って...。
「はあ!?幼馴染み!?」
ガバッと勢いよく起き上がり、モモを見る。
本当なのか、と聞けば、
「七海は覚えてないだろうけどマジだよ」
と答えた。凄い不機嫌そうな顔にはなってるけど。
「ん?何で私は覚えてないの?」
「だって七海、一回しか会ってないじゃん。親同士の挨拶に付いていって一回きり。何だったっけ?綾が、挨拶の代わりに七海の頬にキスしたんだっけ?それで七海が警戒しちゃってさー、『アイツとはもう二度と会わない!』って言ってたよ」
...は?
あー懐かしいねぇー、とかなんとか言いながらニヤニヤとこっちを見る綾という人。
茶色の瞳と目が合った瞬間、微かに蘇った記憶。
ああ、思い出した。
キスなんて知らない純粋な保育園児の時。
いきなりほっぺにキスしてきた男の子に驚き、その子を突き飛ばしたんだ。こいつには近付くな、と頭の中のサイレンが鳴っていた気がして。
そうだ。それで、その男の子の名前は、
『ハジメマシテ!イギリスから来ました。いちじょうりょうです』
「いちじょう、りょう」
目の前にいる、この男が。
私の、もう一人の幼馴染み。
「そうそう、思い出してくれた?七海」
首を傾げてにこりと笑う綾。
なんだか、嫌な予感がした。