コメディ・ライト小説(新)

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君を想い出すその時には君の事を――。
日時: 2020/09/24 17:41
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

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Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.3 )
日時: 2019/12/15 12:14
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)

第1章第2話;「メゾン・ド・セグレート」 【昔から歩き出した今日。】


 アハハ、キャハハ。
『—ありがとうございます!』
 はっ!
夢…?
時計を見ると朝の9時を過ぎていた—。
春休みだから油断した…。食材の買い出しもしていないしスーパーの場所も調べなきゃ…。
食事はラウンジでとりあえず摂ろうかな。
昨日は本当にいろんなことがあったな…。変人に絡まれ、隣の人とは気まずい感じだし—。
 はぁ…。

 ラウンジ――。
私は、じぃ……とメニュー表を見つめる。
 「フルーツサンド、サラダ、ヨーグルト。飲み物はコーヒーにしようか、スムージーにしようか。」 
うーん…。決まらない。
  パタン…。
ラウンジのドアが開き、閉まる音が響く。
『フルーツサンドは甘いからコーヒーにしたら?』

 フルーツサンド、サラダ、ヨーグルトとコーヒー…。お膳に載せられた朝食を順に見てから
隣に立ってむしゃむしゃとスナック菓子を食べている女の子に目を向けると
ボーっとこちらを見ていたが気が付いたようで閉じていた口を開く。
「…おはようございます。誰?」
「?おはようございます、そしてさっきはありがとうございます…。君が誰だ。」
ふわふわした金髪の髪を緩く三つ編みにした女の子は困ったように首を傾げこちらを見て言う。
「私…小倉 瑠璃。2号室に住んでいます。」
「先日、7号室に入居した日高 藤花です。」
小倉さんは上を見上げ、少し考えてから言う。
「…よろしく?うかちゃん。」
う、うかちゃんっ!!?なん、何その呼び名!?
「よ、よろしくとでも言っておこう、長い付き合いにもなりそうだし…。よろしくお願いします。」
私は、平常心を装い彼女に言う。
平常心を装っている私が挨拶をし終えると、彼女はニコッと笑い同じテーブルに座る。
 なんかくすぐたったい…。うかちゃんか――。
「おー、藤花。ここにいたか、ラウンジの場所分からないかと思ってお前の部屋に行ったんだぞ。」
こいつと一緒に。と言い後ろを指さす。
 ゲッ!
「あー、男たちがジャガイモに見える…気持ちわる。あ!!藤花ちゃ~ん。」
北小路さんはそして、瑠璃ちゃんもいるの?!運がいいわぁ~と叫ぶ。
「おっ小倉じゃん。何?友達第二号?やだぁ~お兄ちゃん嬉し~。」
 あぁ、最悪だ…。
藤谷に誰が、お兄ちゃんだ。そう言ってやりたい。
そう思って唇を噛み締める。
  パタン。
「……フルーツサンド、サラダ、ヨーグルトとコーヒー。砂糖多めで。」
 あ、隣の…。
相手も気づいたようで会釈する。
「あ、おはよ~。総司。」
「いたのね、チビじゃが。」
“チビじゃが”?
「何回も言っているが、ぼ、僕をチビと呼ぶな!!大体、僕は毎日牛乳を飲んでいるし、せ、先月なんか1.5センチも伸びんだっ!!」
そうなんだ…。意外と身長の事気にしているんだ――。
「ぷっ」
「ぎゃあはは!!ひぃひぃひぃ!!はははははっ!!!」
 笑?
北小路さんと藤谷に笑われている本人は、真っ赤になって膨れている。
「すんごい、総司って素直だよね~クククっ。」
「ちょっと、藤谷あんたまだ笑ってんの?失礼よ~フフフっ。」
 素直か――。
私には、無縁の言葉だなぁ…。

 アハハ、キャハハ。
『—ありがとうございます!』
 っ…ううん。苦しい、痛い。
  パチっ!
はぁ――。今、何時だろう?
時計を見るとまだ、夜の3時だった。

 不安定な時、決まって同じ夢を見る。
いつまでも昔の事を……。
いや、これほど私自身に根を張っているという事になる。
これは、根本から解決していかなきゃ…。
 パタン。
思わずラウンジに来てしまったけども、まぁ誰もいないよね。
飲み物でも飲もう――。
 パタン。
誰かラウンジに来た?
―!隣の人。
「君も寝付けなかったのか?僕もだ。」
「ハーブティーでもいい?」
用意してくれるの?

「ありがとうございます。いただきます。」
美味しい……。
「落ち着いたか?ハーブティーの一種・ラベンダーは鎮静効果がある。」
確かに落ち着いた……。
この人は、自分が寝付けなかったのに人の事を気にする素直で優しい人なんだな……。

「……君は私を知っていると言っていたけど嫌にならないの?」
きょとんとした顔でこちらを見る。
勿論、最初はこんな喋り方もしていないし性格だったわけでもない。
 でも。
「私自身は何でもない、私についている家柄の方が価値があって本体のようなものだから。」
 日高家――。古くから栄え続けている名家。お手伝いさんがいっぱいいて、世話係もいる。
それが私の家で、学校では家柄などのせいで散々いじめられた。
『金持ちだけじゃんっ!!』
『調子乗んなよっ!!』
そんな私の事を大人たちは必ず熱心に護ってくれた。
『大丈夫か、かわいそうに。』
「大丈夫です…。」
『心配するな、先生がついているよ。』

『すみません、わざわざ…。』
『いえいえ、いいんです。それが担任の務めですから…。』
『藤花ちゃんにこんな熱心な先生がいるなんて…!先生のお名前、覚えておきますね。』
『ありがとうございますっ!』
私は、ただ寂しかった。
日高という名前だけでいじめられることも、大人に守られることも。
その大人さえ私を見ているんじゃなくて、家柄を見ていることも。
私自身は、誰の中でも家柄だけだった。
「僕は、」
ハッ!私は何を…!
「僕は、日高さんの家柄ではなく君自身を昔から見ている。」 
昔から――?会ったことあるっけ?
「あ、ちがっ!君の事は母親から聞いていたんだ。」
—そう狭くもないだろう、僕たちのコミュニティーはと言い残しラウンジを出ていく。

 彼は良い人なんだろう。
ありがたかった、こんな温かい気持ちにしてくれた。
でも、浮かれすぎては駄目だから。
何のためにここに来たのかを忘れちゃ駄目だから。
彼にとっては隣の入居人が寂しそうにしていたから慰めただけであって、
その相手が偶然に私で。
そしてそれは私がこういう家柄でなければ成り得なかったこと。
勝手に浮かれて、勝手に傷ついて、同じことの繰り返しだから――。
  パッ。
暗い――。停電?
 ザァーッゴロゴロッ!
窓を見ると激しく雨が降っていた。
雷雨か、急だな――。
さてと、いつまでもここに居るわけでもないし部屋に戻ってまた寝よう。
 ガチャ、ガチャ。
?鍵なんてないのに開かない…。
ん?待って、私の中で状況が把握が出来ていない……。
 ……まず、整理しよう。
●雷雨。
●自動ドア。
――まさか、閉じ込められた……!!?
そんな、ど、どうしよう――。
夜中=誰も起きていないしかも誰の部屋もない1階奥のラウンジ。
終わった—。
助けなんて来ない、雷雨が止んで停電が直って灯りがつくか、
朝まで待ってみんなが気付いて助けてくれるかのどっちかだな……。
……でもこの雨と雷だ、止む可能性は低い――。

……何時間ここに居るんだろう。
4月上旬だというのに寒い……。
雷雨は止まないし太陽ものぼってない。
「……。」
誰か来てくれないかな?
 
――コホ、コホッ。
寒い、暗い。冷たい。
「だ、誰か、お母さ、ま。」
手を伸ばすと誰かが握ってくれる。
 温かい……。誰だろう?
「藤花様、大丈夫ですか?」
――違う、貴方じゃない。
「――お母さんは?」
そう、聞くと困ったように眉を曲げて言う。
「そ、組織の方に――。」
…寂しい。どうして?

――どうして?涙が溢れてくるんだろう。
「……っ!!」
 ガチャ、ガタン!!バンッ!!!
誰かがこっちに来る。誰――?
「――日高、さん。無事で良かった。いくら呼んでも部屋から声が聞こえなかったから。……って!?」
息を切らして助けに来てくれた九条君は泣いている私が視界に入ってびっくりする。
「本当に日高さん、ごめん。もっと早くにここにいるって気づけば、あの時一人で帰らなければっ!ごめん、ごめん」
九条君は申し訳なさそうに何回もごめんと繰り返す。
「もう、こんなことにならないようにする。日高さんの事護るから。」
――護る?
「……そんなのいらない。」
ここには、一人でいるために来た。
なのに、そんなの受け入れたら駄目になる。
「僕が何の為に今の言葉を言ったと思う?」
 何の為?
「ただ日高さんを護りたいと思ったからだ。そしてそれは――。」
九条君は、続けて言う。
「日高さんが名家の令嬢であろうとなかろうと、どこの誰であろうと関係ないという事だ。」
――ずっと聞きたかった言葉を言ってくれる人がこんなにも近くにいる。
「僕に君を守らせてくれないか?」
 こんな、こんな事を言われたら――。
「……知らない。好きにして、どうせいくら言ったって君は聞いてくれないだから。」
「こんな僕でも、本当に傍で日高さんの事守ってもいいのか?」
信じられないように目を見開いて言う。
「私が決めることじゃないでしょ。」
彼は微かに涙を流してじっとこちらを見る。
「どんな君でも好きなところで好きなように自由に生きればいいでしょ。」
そう言うと彼は嬉しそうに微笑む。
「ありがとう、日高さん。不束者だがよろしくお願いする。」

朝――。
朝起きると、九条君がいた。
「おは、おはようございます……。」
私は緊張のあまり、噛んでしまうとそれを見て、聞いた九条君はクスッと微笑み言う。
「今日は野菜ときのこのコンソメのリゾット。」
……リゾット。
「良かったな、リゾット好きなんだろう?」
恥ずかしくなり、下を向く。そして、私は横目で九条君を見ながら思う。
九条君と出会って1週間しか経っていないのによく人の事を見ている……。
   パタン。
ラウンジに入ると藤谷たちが朝ごはんを食べていた。
ここで昨日……。
「おっ、藤花おはよう。って総司も?」
意外な組み合わせと呟いた。すると隣に居た小倉さんも頷く。
「しっかしー昨日はビビったなー。」
「……雷雨。」
小倉さんと藤谷はブルっと思い出すかのように震える。
「僕にとっては認められて記念の日になったが。」
「――意外と君は仰々しいな。」
「?簡単に前言撤回なんてしないはずだ。だって日高さんは律儀で正義感が強いから。」
と満面の笑顔で私を見る。……まさか。
「九条君、君……。言質をとった……!?」
「何の事?」
彼はとぼけて、朝食を取りに行く。

 この先、何度も思い出すことになる今日は、
長い長い時間の始まりの時でした―。

Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.4 )
日時: 2019/12/15 12:15
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)

第1章第3話;「メゾン・ド・セグレート」 【携帯。】


「「「……。」」」
どうしてこうなった?

およそ2時間前――。
 今日は、携帯を買いに行って、食器と家具を選びに行こう。
「よぉ~藤花。どこ行くの?」
「……買い物だけど。」
「俺たちもついてっていい?」
こいつもと後ろにいる九条君を指す。九条君は気まずそうに頭を下げる。
なんで僕もついていっていいのか?とブツブツ言っているが藤谷に頭を撫でられ真っ赤になって子供扱いしたな!!と言っている。
九条君って意外とあざとい部分の方が多いと思ってたけど、身長が絡むと単純になるよね。
なんかおかしいなぁ、これが世にも言うギャップ萌え……?

 携帯、種類多い……。
「機種はこの機種がおすすめだ。」
と九条君が持ってきた機種は使いやすそうだった。
「……選んでくれてありがとう。」
「あぁ。」

 家具も食器も買えたし帰ろうかな。
「あ~藤花もう帰るの?ちょっと待って、聞くから。」
 何を?誰に?
「――うーん、うい。もういいって帰ろう。」
「だな。」

 帰るのに何があるのかな、なんてずっと考えてた。
そうしてたら、あっという間に秘密館に着いていた。中に入ろうとしたら…。
「あー、待って。総司、藤花。ケータイ買ったんだろ?交換しようぜ。」
 交換?みんなと?えっと、どうやってやるんだっけ。
「こうするとできるんだ。」
素早い手つきで私の携帯を操作する。え?教えてくれた…?
「僕と同じ。」
そう言って、自分の携帯を見せてくる。
 ピロンっ!!
「これで、完了だ。」
▶登録された人のお名前を教えて下さい。
「総司。俺の事、お兄ちゃんって登録して?」
「え、嫌だ。」

→九条君。
→藤谷。
▶これでいいですか。

「なんて登録した?お兄ちゃん、妹って登録したけど?」
だから誰がお兄ちゃんだって?
と思いイラっときたから教えてやらなかった。
 パタン。
「藤花ちゃん!」
 パン!!
何かが弾ける音がした。頭に…。
触ってみたらビニールを細く切った色のついたものが頭に乗っかっていた。
 クラッカー?
周りを見渡してみると――。
『藤花ちゃん、総司。歓迎会!!』
と書いてあった。
 歓迎会――。
「ありがとう。」
その言葉を言った瞬間、ジーンと目頭が熱くなって思わず顔を手で隠してしまう。
藤谷がポカ—ンしていたが嬉しそうに赤くなって喋り始めた。
「…っ。藤花が素直になった!!」
藤谷がきゃー!と叫ぶと北小路さんがうるさい!と叱る。
しかも、うるさいと叱っている北小路さんも赤くなって私に微笑みかける。
なんか、恥ずかしい……。
そう思って後ろを向いてもう一回みんなを見ると、心が温かくなった。
暖かいな――ここは。

Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.5 )
日時: 2019/12/15 12:15
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)

第1章第4話;「メゾン・ド・セグレート」 【初めて。】


 このマンションに入居してから約2週間がたった、今――。
「学校に行くのか?」
「……あぁ、うん。」
クラスの前で私たちは話している。
通りかかった人たちは迷惑そうに何をしているのだろうと見てくる。
 あぁ、視線がイタイ。
「あの、袖を掴んでいるその手を離してくれないかな……!?」
私がそういうと九条君ははっとした顔になって――。
「!―ごめん。離す、じゃあ自己紹介頑張って。」
 なんかものすごく罪悪感がある。
後ろを見ると寂しそうに、自分のクラスに行く九条君が見える。
 そんなこと気にしてやれない、今日のためにたくさん練習をしたんだ。
「日高さん、入って――。」
クラスのみんなが私が入るのと同時にみんな見てくる――。
緊張する、手汗が……!
「苗字は日に高いと書いて日高。名前は藤に花と書いて藤花。よろしくお願いします。」
……初めて練習通りに言えたっ!どうかな、みんなは……!?
  シーン。
えっ!……もしかして失敗した?
「み、みんな、緊張しているのよ。さっ小倉さんの席の隣に座って?」
先生は焦ったように私に呼び掛ける。
 はぁ…。また、失敗かどうしてなんだろう?
「小倉さん、日高さんの事よろしくね。」
“小倉さん”。
知っている人が隣だと、なんか安心する……。
「よろしく。」
私がそういうと先生の話を聞いていなかったらしく、
驚いた顔をしてから、状況を理解したようでにこっと私に笑いかけて言う。
「……うかちゃん、よろしくね。」
小倉さん、また食べ物を食べてる……。いいのか?
先生に目で訴えかけても気づかない。
注意だって、できるのにしていないんだからまぁいいか。
 ――下校。
慣れない空間の中に居るとやっぱり疲れるな。
 早く帰ろう……。 
ふと気が付くと人だかりが見えた。何に集まっているんだろう?
「!」
そこにいたのは、校門によりかかっている誰かを待っている風に見える九条君だった。
自分の周りに人が集まっているのに気にしておらず、読書をしていた。
九条君は私に気づいたようでこっちに来る。
――まさか待っていたのは私……!?
九条君ちょっと待って、ここで私に近づくのは目立つから。
と目で訴えかけているのにこちらに来る。
 あーあ……。
「日高さん、一緒に帰ろう?」
「う、うん。」
すごく、気まずい……。というか視線がイタイ。
周りの人たちの話し声が聞こえる。
「日高ってもしかしてあの大財閥の一人娘?」
「ってか特待生と学年首席が一緒に下校ってどういう関係?」
「あの子って今日、転校してきたんでしょ?怪しくない?」
とヒソヒソと話しているのが聞こえてくる。
 あぁ、初日から失敗した――。
「どうしたんだ?浮かない顔して、悩み事か?」
九条君が一つは失敗した理由なんだけど、と睨み付けても気づかないんだからなこの人は。
そのことは抜かして他の事を九条君に話したら――。
「そんな反応されたのか…。でも大丈夫だよ、僕とか小倉さん、色んな人がちゃんと日高さんのことを分かってるから。」
焦らなくてもちゃんと分かる人はいるよと優しく微笑んでくれる。
九条君はなぜこんなに優しいんだろう?その発する言葉が不安を打ち消してくれる。
 また君に救われた。
――ありがとう。
そういうのはなんか照れくさいから心の中で九条君を見ていった。

Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.6 )
日時: 2020/01/20 16:01
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)

第1章第5話;「メゾン・ド・セグレート」 【初恋と猫耳。】


  ちゃぷん……。
とお風呂場に響く。
辺りは湯気が立っていて暖かい、後ろを向けば夜空が鏡越しから見える。
 温かいな――。
私は、湯の中で背筋を伸ばす。
今日は、慣れないクラスメイト達に九条君と帰ったことで、不信にらしく突き刺さるような視線が痛くて気まずかったのに……。
そのことも知らないで今日も帰ろうと言ってくるし、小倉さんはお菓子を食べる方に集中していたし……。
  なんか、疲れたな……。はぁ…。
約2週間前では全然、違う日常で憂鬱だった、今は――。
それとは違う日常で明日に対する気持ちも違う。
憂鬱なんて思ったこともないむしろこの大変さが心地よくなっている気がする。
変わったな――私。
 ガラっ!!
…ちょっとまってもしかして大変さが心地良いとか私、かなりやばいんじゃないか!?
なんか心配になってきた、心地よいとか思っていい事なのかな!?
服を着終わり、私はしゃがみ込む。
「……い、おいっ!?」
?誰かに呼ばれている気がする……というか、後ろに気配が―――。
「お前、誰だっ!!俺は水無瀬 盛!!このマンションの号室の入居人!そして……ヒーローだっ!!」
 ヒーロー?はぁ?何この人……というか中学生?
より深みを持った茶色の髪色で瞳は抹茶色の子供っぽい男の子は怒ったようにプルプル震えて言う。
「……そうか、俺が弱いと思っているのか?見ててみろよ!!」
 そう言いかけた瞬間、誰かが口を塞ぐ。
「八ッロ~~☆僕はキューティクルキャット!猫月君だよ~☆」
赤茶色の髪で瞳の色は銀色のいつも猫耳付きのパーカーを着ている人がニコッと笑いかけてくる。
そして、よろしく~と私の手を掴んでブンブン振り回す。
 何なんだ、この人たち――……というか手、腕イタイ。

「こっちは、ペットのジョー。じゃね~日高 藤花ちゃん☆」
 なんで、名乗ってもないのに私の名前を……。
「ジョーは中学生じゃないよ、君と同い年さ。そして、君はもっと他人と関わった方がいいよ☆」
彼はそっと私に近づき、小さな声で言ってくる。
 私が思ったことを――。どうして?
「そんな深く考えないで☆猫さんは何でもお見通しなのさ!」
と言い残し、出で行ってしまう。
「………?」
本当に何なんだ……!!

 次の日――。
「今日はレーズンブレッドとコーンポタージュだ。」
九条君が笑顔で話す。
 パタン。
中に居たのは、昨日の人たち、藤谷と北小路さんだった。
「藤花ちゃん、おはよ~」
「お、藤花。はよー。」
「昨日の奴じゃねえか!昨日よくも……!!」
「グッモーニング☆うかたんとそーたん!」
 うかたん!?どうしてその呼び名を……!?
お、おいっ聞けー!!と抗議しているが猫月さんは聞かない。
というか、わざとさえぎってる……?
「そーたんだなんて呼ぶな……!――というか知り合いだったんだ、猫月さんと。」
九条君は、知らなかったという目で見てくる。
……私と猫月さんが知り合っていて何がいけないんだろう?
私はじっと九条君のことを見る。

その時――。
 バンっ!!
とラウンジのドアの方から大きくドアの開く音が聞こえる。
 な、なんだ!?
「久しぶり!!みんなっ。」
スラリと高い身長。艶やかな黒髪、瞳は綺麗な金色。まさか……!!
「る、瑠璃ー!!」
「ちょっと!あんた何よ!?瑠璃ちゃんを離しなさいよ!?」
水無瀬君が突然現れた、男の隣に居る小倉さんの名前を呼ぶと、同時に北小路さんも離すように抗議する。
「……チーズタッカルビ!!」
チーズタッカルビ!?謎の韓国感……!!
 なぜ、今それを!!
「俺は3号室の入居人で日野西 穂高!」
そして、と言い私の手を掴み上げる。
「日高 藤花の婚約者だ!!」
みんなが動揺の顔を見せる。
「そういえば、そういうの居たな藤花。」
と藤谷が呟く。
九条君と目が合うと目線を逸らして何かを私に呟く。
 何を言ったんだろう……?
九条君の事を気にしていると穂高は私の手を取り元気に笑いかけて言う。
「早速、行くか!藤花!!」
 えっ?ど、どこにっ!!
凛とした低い声が響いた。
「……待て、日高さんは朝食を食べていない。」
九条君は私たちを呼び止めると穂高をまっすぐに見つめて睨み付ける。
「誰だ、お前?」
穂高は九条君を下から頭の上まで見てってかと言い鼻で笑う。
ん?待ってなんか嫌な予感がするのは私だけかな?
「サイズ、おかしくね?」
 サイズ=身長……。
あ……!!不味い、九条君がっ……!
当の本人は、前のように怒りを露にしていなく、プルプル震えキレたように穂高を睨み付けて言う。
 あーあ……、やっちゃった――。
「おい、この脳無しバカ野郎。」
穂高は何?と目を光らせて九条君を睨み付ける。
「単刀直入に言うが突然現れといて婚約者だとか言い、どこに行くという事も言わないで旧家の嫁入り前の令嬢を連れて行くのは不謹慎だと思うが。」
私にだけ見えるのかな、二人の間に火花が散っている気がするのは……。
「やだ~、藤花ちゃんの事を奪い合ってるの?」
「なんかすごいことになってきたな。ハハハ。」
「…お腹すいた。お菓子、なくなちゃった。」
小倉さんは、スカスカとお菓子の袋を振る。
「る、瑠璃。こ、これ、お前の為に買ってきたんだ。ん、お土産。」
「!……ありがとう、水無瀬。」
「お、おう。」
小倉さんたちは知らん顔で話し始める。
 なんでこんな状況なのにみんな、助けないんだ……!!
二人が争っているところに猫月さんが割って入る。
「おひさ~☆ほっちゃん!」
「「!」」
一番止めてくれなそうな猫月さんが止めてくれた!!←(失礼)
「おっ、成清!!久しぶりだな~。」
 よ、よかったぁ。
そう、ほっとしていると九条君が近くに来る。
「僕達が争って嫌だったか?」
 ……?どうしたんだろう。
九条君は、背を向けて続ける。
「ただの独り言に過ぎない。返事はなくていい、聞き流してくれ。」
私は頷いて聞く。
「僕は、君が嫌だったと思う。大事な婚約者が守ると約束した奴と争っているから。」
 そんなこと――。
「僕が嫌だったら、もしも君の事を不愉快にさせてしまったら君に言われれば、僕は身を引く。」
と言い残し、ラウンジを静かに出ていく。
私の心はポッカリ穴が開いたように寂しく冷たかった――。

Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.7 )
日時: 2019/12/15 12:17
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)

第一章第6話;「メゾン・ド・セグレート」【考えるよりも。】
 

 心配していた学校生活も約3週間が経とうとしていた。
「先生!小倉さんがいません!!」
「先生っ!!小倉さんが教室に犬をつれてきています!!」
『ワンっ!』
「先生ー!小倉さんがアルコールランプでのりをあぶっています!」
私の事よりも彼女の事の方が心配です……。

「おい今度は早弁だよ。」
「すげえ。」
周りの人が小倉さんがの事をヒソヒソと話している。
「……。」
大丈夫なのか?早弁なんかして――。

キーンコーンカーコン……。
「お昼……。」
 きゅるるるる……。
小倉さんがお腹を鳴らしながらお財布を振る。
「お金がないのか?早弁なんかして後の事を考えていないからだよ。」
小倉さんは、絶望した顔をして私を見る。
「これでも食べるか?私は少し胃の調子が悪いから。」
「くれるの…?」
「なんなら、豆乳もつけるけど。」
ぱぁあぁぁぁあっと一気に小倉さんの表情は輝いて私に近づいて抱きしめる。
「好き…!!」
「えっ」
す、好き?!!好きって言われた…!!
「うかちゃん、初めて会った時から優しい子だと思ってた…。」
「う、うそつけ!!大好きな食べ物をもらったからだろう…!」
そういうと小倉さんは、少し悩んでから言う。
「ううん、第六感で判るよ?」
「判るか!?」
「じゃあ…。」
「思いついた事言ってるな?」
そういうと小倉さんは、ぎゅ――っと抱きしめてくる。
 温かい…。
『君はもっと他人とかかわった方がいいよ☆』
でも、私はどうやって関わったらいいか解らない……。

 アハハ!
女の子が笑う声が聞こえる。
 何だろう?
「ねぇ、なんで猫耳なの~?」
「人生の遊び人だからさ~☆」
この声――まさか…!!
「意味わかんない~。」
「ミステリアスな猫さんだからね~♪」

「あっ!!うかたんっ。朝ぶり~!!」
 やっぱり、猫月さんか……。
「え~どういう関係?」
「秘・密な関係❤」
恥ずかしそうに体をクネクネさせて言う。
 まったく、この人はいつもふざけている。
「誤解を呼ぶようなことを言うな。」
「も~誤解じゃなくない?」
本当にこの人と付き合っていても時間の無駄だな。
 もう無視しよう…。
「待ってよ!いつもそーたんにメールを送っていいかクッションを抱きながら迷っているシャイなうかたーん。」
 なんでそれをっ!!
「視たなっ…!?」
「ツンデレ?というか乙女っていいよね~。」
私はデリカシーのない猫月さんにイライラしながら言う。
「そ、それで、何の用かな?なければ警察に通報するが??」
「ジョーが喧嘩して保健室に居るんだけどさー案内してくれない?」
 は、早く言え!!!
本当にまったく、この人はいつもふざけている。(大事なことだから2回言った。)

 保健室――。
水無瀬君はボロボロになって座っている。
「あらら、ボロボロじゃないの。」
そういうと水無瀬君はスイッチが入ったようで目をキラキラさせて言う。
「この傷もヒーローの証だっ!!」
……全く、何が原因でこんな傷になるまで喧嘩してたんだ。呆れる。
「先生が聞いても言わないらしいよ。」
 ふーん。
水無瀬君を見たら背を向けて何も言わない素振りを見せる。
それを見た猫月さんはニヤニヤして私に囁く。(本人は囁いているつもりのようだがとても声が大きい。)
「あのね、ジョーがいくつまでおむつを着けていたかというと~~~。」
 おむつ……?何を言っているんだ、この人は――。
それを聞いた水無瀬君は真っ赤になって叫ぶ。
そういうことか、なるほど――。
「わ――っ!!言う言う言う!!」
 この人は………本当にずる賢いな。
と私は、猫月さんに気づかれないように横目で見て思う。

「瑠璃の事、頭おかしいって言ったんだ。」
 確かに小倉さんは、いつもボーっとしていて危なっかしい。
「でもいいんだ。あいつは何にも考えてなくても解ってるんだ。」
 へー、そうなんだ。
「考えることよりも深いトコ…。きっと本能とかで理解してんだ。」
 本能――?
「だから…。あいつの事を何にも知らないで言う奴を俺が倒すんだ。」
 小倉さんの事をそんなに…。
「俺はあいつのヒーローであいつは俺のお姫様だから。」
 お姫様…?ヒーロー?
その時――。大きな笑い声が隣から聞こえた。
気になって、隣を見ると猫月さんを見ると赤くなって大笑いしていた。
「ぎゃはははひひひひははははは!!」
ひぃひぃひぃと足をジタバタさせて震えている。
 あーあ。本人が居るのに……。
猫月さんが大笑いするのを目の前で見た水無瀬君は、私の思った通りに赤くなって叫ぶ。
 ……ガララ。
「水無瀬……。」
おっとりとした小さな声は保健室の中を響いた。
 この声――。小倉さん――?
「あ、ジョーのお姫様。」
「る、瑠璃…。」
すると、ニヤニヤしながら言う。
「それじゃあ、ボク達はお暇しよーかね~。」
  パタン。
ドアを締める直前――。
見えた小倉さんが、水無瀬君を心配するように背中をさすって何かを喋っていた。
「……仲がいいんだな。」
私が猫月さんに問いかけるように言うと楽しそうに笑って言う。
「二人は幼馴染さ~。友達以上恋人未満の二人の世にも美しい恋物語~♪」
 他人のプライデートを……と思い無視する。
「あるところに能力の化身達の封印を解いた一人の男がおりました。化身達は自分にふさわしい人間を選び契約したその人間の家系は不思議と繁栄していきました。」
私は猫月さんの事を見つめる。
「その家でも化身達と契約し特別な能力を持った――。それがボク達です。」
猫月さんの事を私が睨み付けていることも気にもせず話を続ける。
「ボク達は契約を受け継ぐだけでなく同じ日、時間。同じ容姿性質を持って生まれ化身達のおかげで稀に記憶まで受け継いで不思議と同じような運命を歩むのです。」
 契約を受け継ぐ……。
「家々はそんな貴重な存在を一族全体で大切に育てることにしました。」
つまり……と言う。
「家族という存在はボク達にとっては希薄な存在です。いつもボク達は孤独、えーん寂しいよぅ。」
猫月さんが楽しそうにケラケラ笑いながら嘘泣きをしているのを横目に私は一人で呟く。
 今更だ……。家でも、学校でもいつも私は一人だった、孤独、絶望。
「だからこそ~求め合い身を寄せ合う二人のお話~❤人は良くも悪くも他人と関わらずに生きるのは難しいよ?」
でも、私は一人になる為に――。
「さぁ、うかたんもレッツコミュニケーション♪ジョーも瑠璃りんも面白い子だよ~☆お友達になってみたら?」
 ……やけにおせっかいだな、猫月さんは。
「『おせっかいだ、どうやって関わればいいか解らない?』なんて難しく考えちゃ駄目だよ。そんなのいつの間にかだよ~☆」
 こいつ……。
「また視たな!?」
私は、猫月さんに震えながら怒鳴った。

「お昼食べよー。」
「あー、腹減った。」
騒々しくなり始めたお昼。
 今日もお昼は一人か……。
そう思い食べようとした時――。

ぎゅう~~。

「!!」

誰かに抱きしめられた――。
私を抱きしめていたのは小倉さんだった。
「なっ……。なんだ、君か。」
私は平然を装う。
 すごい、まだドキドキしてる。顔、焦りで赤くなってないかな?
そんなことを考えていると小倉さんは私に問いかける。
「うかちゃん、お昼。私と水無瀬と食べよう?」
 一緒に…?
「……ど、どうしても一緒に食べたいというのだったら仕方がない、食べよう。」
そういうと小倉さんは、嬉しそうに笑って購買の方に走っていくときに思い出したかのように言う。
「じゃあ、お昼買ってくるから屋上で待っててくれる?水無瀬は居るから。」
 屋上……。みんな一緒、ご飯――。
初めてかもしれない、クラスメイトと食べるのは――。
屋上に向かって私は喜びを隠せずに廊下をスキップで行っていると声が聞こえた。
 ……誰か居るのかな?
私は声が聞こえる方に向かってそっと忍び足で歩く。
「……きです。九条君が他の女の子を好きなのは分かっています。」
 この声――。聞き覚えがある、聞いていると鼓動が速くなる。
「すまない、僕には――。」
九条君の声、名前……?ここに居るのかな、じゃあお昼誘ってもいいよね……。

そっと近寄って苗字を呼ぶ。
「九条君――。」
そこにいたのは、一人の女子生徒と九条君。
姿をみた瞬間、目を見開いた。
――二人はキスをしていた。
 ズキン、ズキン。
あぁ、胸が痛い。苦しい、痛みから逃げたい――。
「あ――。」
驚いて声を漏らしてしまい、九条君は私に気が付いて女子生徒と払い抜ける。
私が立ち去ろうとすると、腕を掴まれる。
「待って、日高さ……ん。!!」
私の瞳に涙が溢れ出してきているのに気づき、焦る彼が視界の端に見えた。
「……してよ。離してよっ!!触らないで、汚い。」
今後私に近づかないで!!と私は言い残し立ち去る。
その後は無我夢中で走り続けた。
なぜか今まで溢れなかった涙が急に流れ出して涙を止めるのに大変だった。
 どんなに酷いことをされても、裏切られても動じず涙なんて慣れてしまい流すことなんてなかったのに――。
どれだけの時間がたっても彼の事でいっぱいだった。
思い出すたびに胸が締め付けられて涙が溢れてきて部屋に帰っても自然と彼のいる隣の部屋ばかり気になってしまって。
自分から言ったのにそんな彼を気にする自分が嫌になった。
後の事は覚えていない。ただ、眠りについてしまい記憶がない。


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