コメディ・ライト小説(新)
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- バタフライ・エフェクト【第一章二話 国立魔法学校】
- 日時: 2020/07/13 16:52
- 名前: 心 ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
────これはとある暗殺者達の人生を大きく変化させた、けれどたった数年間分の物語で。ほんの少しの事が、大きく変わる要因となり得ることの証明である。
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こんにちは、心です。またお前かと思う方も居るでしょう。
初めましての方は初めまして。
いいかげんどれかは完結させろよ、と言う言葉は……まあ、書きたいのを書きたい時に書く主義なので、と言い訳をします。息抜き程度に書いていくつもりです。(宵はく完結後、メインに昇格の予定)
よろしくお願い申し上げます。コメントなども気軽にどうぞ。
私の執筆中作品など
・宵と白黒 (ダーファ)
・宵と白黒 外伝 (複ファ)
執筆開始 2020.5.16
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世界観をちょろっと説明
・魔法があります。
・魔法使いがいて、「普通の人」はいません。
(皆魔法を使えます。でも、その使える強さには違いがあります。)
・魔法学校があります。
・詳しくは作中で。
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目次 まとめ読み >>1-6
最新話 >>6
第一部 統一戦と編入生
第一章 春学期 >>1-6
一話 少年と少女
>>1
>>2
二話 国立魔法学校
>>3
>>4
>>5
>>6
- Re: バタフライ・エフェクト【改題しました】 ( No.2 )
- 日時: 2020/07/09 17:43
- 名前: 心 ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
エルとルークがへとへとになって帰ってきたのは、北方連合国の西側、西州の片田舎。
広大な野原を抜けた先の青い外壁の家の中で、二人が危惧した通り師匠に叱られていた。
「……で? お前たちは魔力感知に引っかかって暗殺も成功せず、ここにすごすご帰ってきた、と。……どっちだ、そんなことやらかしたのは?」
暖炉の前のソファでヒリヒリするような冷たい空気を纏いながらそう尋ねた金髪の女性。彼女こそが二人が恐れてやまない〝師匠〟なのだろう。
当のルークとエルはその前の椅子に容疑者の如く座らされ、先程から尋問されていた。
かすかに息を呑みながらエルが口を開いたところに、ルークが言葉を被せた。
「俺です、師匠。……すいません。」
「ほう。エルではなくルーク、お前だったか。それにしても珍しいミスだが?」
女性が氷のような青い目を細めてそう言うと、ルークは肩をびくりと震わせてから答えた。
「はい。……訓練が、足りてなかったと思います。」
「ルイーズ師匠! 私です、私なんです! 必ずリベンジするので……もっと、鍛えてくれませんか?」
自身をかばって俯いたルークを見てられなくなったのだろう、エルが横から口を挟んだ。
ルイーズと言うらしい師匠は目を細めたまま、ポツリと呟く。
「……エレン、ルーク。お前たちはどうやら暗殺者に向いていないようだ。」
放たれたその一言に、ルークの目が見開かれる。ずっと彼女の元で鍛えられ、幾人も殺して、何度も仕事を達成して。そんな中で、初めて言われたことだった。
エルもまた動揺していた。エレン、と己のことを師匠が本名で呼ぶのは本当に大切な時だから。心をぐらぐらと揺らしながら、エルは師匠に尋ねた。
「向いていない、って……どういう、意味ですか?」
「そのままの意味だ。ルークはエルを庇った。無用なことだ、仲間はいつでも切り捨てられるようにしろ。……エル、お前は二度目があるとでも? 一度死んだらそれきりだ、巫山戯たことを抜かすな。」
フッと冷たく笑ってそう言ったルイーズは、暖炉の上に置かれていた書類を手に取った。
ぱらりと音を立てて折りたたまれた紙を開き、二人に差し出す。
「国立魔法学校の編入申請書だ。ここに三年通ってそれでもまだ殺しがやりたかったら戻ってくるんだな。」
ルイーズのその言葉に呆然としていたルークが、ハッとして呟いた。
「つまりそれって、俺たちは暗殺者をやめろって事ですか……?」
「そんな……私はもっと強くならなくちゃならないんですよ、そんな学校行ってる暇なんてない!」
「聞いてなかったのか、エル。二度目は無い。お前がしたことのせいでルークが死んでいても良かったのか? ルーク、お前は察しが良いな。そうだ、こんな仕事辞めてしまえ。学校行って平和に暮らすが良い。」
シニカルに笑ったルイーズは、立ち上がって二枚分の編入申請書を唖然として固まっている二人に投げると言い放った。
「明日、それにサインして置いておけ。書いてなかったら……放り出すぞ、此処から。使えないヤツはいらないからな。」
「そん、な……」
「師匠……」
バタン、とリビングの扉が閉まりルイーズは廊下に消える。
辛辣なことを言った、と言う自覚はあった。特にエルは存在理由のほとんどが暗殺者としての矜恃なのだ。それが否定されたのはきっと彼女にとって人格を否定されたに等しかっただろう。
向いていないのは本当だ、と言い訳のように思う。
まっとうに生きるのが、あいつらにはきっと向いてる。そんなことを思いながら廊下を抜けたルイーズは滑り込んだ自室のドアをパタリと閉めた。
- Re: バタフライ・エフェクト【改題しました】 ( No.3 )
- 日時: 2020/07/09 17:44
- 名前: 心 ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
二話 国立魔法学校
ルイーズが立ち去り、二人きりになったリビングでエルとルークは俯いていた。
ぼんやりと辺りを暖炉の火が照らしている。
先程から、エルは膝の上に置いた二本の短剣を見つめたまま動かない。耳に掛かっていた琥珀色の髪が、スルリと外れ落ちる。
ぱさりと音を立てて申請書とやらを捲ったルークは、ぼんやり裏面の校則を読んでいた。
「その一………生徒同士の私闘は禁じないが、無関係の生徒を巻き込んだ者は問答無用で懲罰とする………その五……一組、二組、三組の中で最も学期間成績の良かった組には……」
ルークの声に顔を上げたエルが、不明瞭な声で呟いた。
「うるさいです、ルーク。貴方、それを承諾する気なのですか……?」
「別に。オレはエルとは違うのだから、オレが何を選ぼうと良いでしょ? 家族でもなんでも無いんだから、干渉しないで。」
ルークは優しく微笑みながら、けれど確実にエルを突き放す。
家族、ましてや仲間なんて、とルークは思う。血の繋がりを持つ者ですら、人は非情だ。今までの愛情が演技だったかのように裏切って。
結局、オレもそうだ。血は争えないな、とルークは思う。生きる為に、居場所を失わない為に、捨てて殺して演じる。
エルが相方になる前に、本業の殺し屋が相方だったこともある。
そいつらも、足手まといになった時は切り捨てて来た。自分が生きる為だけに。
家族と同じだ、オレも。
そう独りごちたルークは、ふっと息を吐いて立ち上がる。
ルークを見たエルは、スッと目を伏せて手を伸ばした。
「私の分、取って頂けますか?」
「あ……ほら、これ。」
紙をエルへ手渡してから、ルークはテーブルの方へ移動した。
転がっていたペンを手に取り、そっと紙を押さえる。
ふと気になったように顔を上げたルークは、ちらりとエルへ目を転じた。
- Re: バタフライ・エフェクト【改題しました】 ( No.4 )
- 日時: 2020/07/09 16:17
- 名前: 心 ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
ルークが向けてくる視線に気付いたエルが、紙から目を離して口を開く。
「何ですか、ルーク。私の顔に何かついてますか?」
それにかすかな笑みを零したルークが、静かに言葉を吐く。
「エルはさ、何でこんな仕事やってんの?」
落ちた言葉に、しばしリビングが静まり返った。パチリと暖炉の薪が爆ぜ、かたりと音を鳴らして崩れてゆく。
その問いに、エルは笑って答えた。
「私は、師匠に拾って貰った恩があるのです。……あのままだったら、私はきっと兵器、でしたから。」
兵器だった。その言葉の意味をルークが考える間もなく、エルは明るい声で口を開いた。
「ルーク、私も行くことにします。ペン、次貸して下さいね!」
唐突に明るくなったエルに、ルークが驚きを含んだ視線を向ける。
けれど、エルの顔を見たルークはふっと息をついた。
エルは自分と同じ顔をしていた。
けれど、エルの方が遥かに下手だった。何かの面を被ることに、慣れていない者のそれ。
ルークはそれを問いはしなかった。目を一瞬つぶり、仮面を切り替えるイメージで。目を開けたそこにいるのは、いつもの気弱な少年。
彼はテーブルの上を指差して言った。
「ほら、そこにもう一本あるよ……それ使いなよ。」
「あっ……本当だ、ありがとうございます、ルーク。」
ルークに指を差された場所にあったペンを取りつつ、エルは思う。
私はいつもこうだ。居場所が消えるのが怖い。それを隠して押し固めて、砕こうとするけど出来なくて。 結局固まったままのそれを、上から笑顔だか怒りだかを貼り付けて隠す。
だけど、と書かなくてはならない欄に目を通しながら心の中でエルは逆接する。
ルークはそれを見抜いてくる。なぜだかは分からないけれど、それに気づいているのだ。
もしかしたら。彼も、私と同じ、なのかも知れない。──そんな考えが、不意に浮かぶ。
ちらりと顔を上げたエルは、ルークに目をやった。
かりかりと紙の上をペンが滑る。『保護者氏名』の欄にルイーズの名前があったから、微妙に笑ってしまいそうになったことは秘密にしておこう、とルークは思った。
* * *
窓から差し込む強烈な日差しは、もう既に昼頃であることを告げている。
ルークとエルはかなり遅めの朝食───もう昼食と呼べるが───を食べていた。火が消された暖炉の前でルイーズはが昨日と同じように座っている。
昨夜のようなヒリヒリとした空気ではなく普通の女性の雰囲気を纏った彼女は、ルークとエルが書き上げた申請書を眺めていた。
「ああ、お前たち。後で制服を買いに行かなくてはな。」
静寂の中で唐突に、ルイーズが発した言葉に、ルークとエルは肩を跳ね上げた。
制服を買いに行かなくては、と言うルイーズの言葉に、ルークは疑問を持つ。
「……師匠、そう言う学校って普通は試験がありませんか? いきなり制服買って大丈夫なんですか?」
その問いにルイーズは少し意表を突かれたような顔をした。
「規定、よく読まなかったか? 教師の推薦状があれば、試験なしで入れるんだ。……ああ、試験が無いだけ、学期末の成績が良くないと退学らしいから気をつけろ。」
ルイーズの言葉に、今度はエルが首を傾げた。
「あの……教師の推薦、って?」
「行けば分かるさ。」
こくん、と頷いたエルは、立ち上がって食器を片付けると自室へ消えていった。
- Re: バタフライ・エフェクト ( No.5 )
- 日時: 2020/07/09 21:12
- 名前: 心 ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
────そして、二人が学校へ転入する日がやってきた。制服に着替え、赤い列車に乗って西州の中央にある国立魔法学校へ。ちなみに正式名称は「国立西州魔法高等学校」と言い、愛称として「国立魔法学校」と呼ばれている。
三学年制で留年する者もおり、中にはそのまま教師になってしまう者もいると言う。基本的に入るのは簡単だが、出るのは一つづつある他の州の───北州、南州、東州───魔法学校のどこよりも難しいとされていることで有名である。
古き良き白亜の校舎の中心に高く聳え立つ管理棟、生徒たちの実地訓練の場となる暗い深淵森。長き歴史を経て来たであろうそれらを前にして、正門前に立ったルークとエルは息を呑んだ。
「すごいですね……こんなに圧倒的とは思いませんでした。」
「そうだね。やっぱり、積み重ねてきた歴史の重さが違う。」
そう呟いて、ルークは一歩踏み出した。あわててエルはその後を追いかける。ルークとエルがある地面の一点に立ったとき、門の前に向かい合って立つ白亜の石像に黒い魔法陣が浮かび上がった。おそらくワルキューレであろう、乙女の形を取った石像はそれを合図としたかのように、ゆっくりと身体を軋ませ白の粉を散らしながら口を動かす。
『入門の───許可を──求めますか──?』
高く澄んだ石像とは思えぬ声。その言葉に、エルは首を傾げた。
「師匠もいませんし、許可って……?」
その時、門に魔法陣が走った。無数の鎖を縦横に張り巡らせたかのような黒の魔法陣。その鎖が、音を立てて砕け散る。
そして、地面と擦れ合いながら門が内側から開いた。教師が内側から解錠したのだ。それを受けて、左側の石像は、ゆっくりと歓迎するように剣を引き抜き掲げた。その動きに、石像が削れて白い破片や粉が舞い、ルークとエルの黒の制服の上に降り積もっていく。けほ、と僅かに咳き込んで、ルークは粉の奥を透かし見る。
「ワルキューレ、ありがとう。この子たちはわたしの……いいえ、ここの生徒よ。」
『了解───』
再び高く澄み切った声音でそう言ったワルキューレたちは、元の石像へ戻ってそのまま動かなくなる。未だ粉が舞い続けており、鬱陶しげに手をパタパタしていた教師は唐突に魔法陣を展開した。その気配に、ルークが反応して腰のレイピアへ手を伸ばす。そのとき、魔法陣を維持したまま教師は二人に告げた。
「ごめんね、これしばらく動いてなくって。粉酷いから、吹き飛ばすよ? ほら、こっち!」
手招きされ、エルはちらりとルークを伺った。わずかに張り詰めた気配を漂わせていた彼は、フッと視線をエルへ絡ませる。微笑んで、ルークは一歩踏み出した。それの後について、エルも走り出す。
「ぴったりくっついとかないと、吹っ飛ぶよ?」
そう言って、女教師は魔法陣へ最後の一押しを加えた。その場に厳密に領域指定され放たれた風の魔法は、一気に漂う粉を吹き飛ばす。同じ属性であれど威力が段違いなその魔法に、ルークはかすかに息を呑む。
ようやく晴れた視界の中で、女は微笑んで名乗った。
「こんにちは、編入生くんたち。わたしはシャルロット・イーストン。ここで魔法論理学をやらせて貰ってる、教師ってやつ。担任は一年の一組寮。きみたちも多分ここだから、よろしくね?」
- Re: バタフライ・エフェクト【第一章二話 国立魔法学校】 ( No.6 )
- 日時: 2020/07/13 16:12
- 名前: 心 ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
シャルロットと名乗った女教師は、ふわりと笑って体の向きを後ろへと変えた。それを、もう固まって動く気配も見せぬ二体のワルキューレが見下ろしている。すでに解錠され全開になっているその門の内側に踏み込んで、彼女は手を伸ばした。
「ほら、きみたちも早く!」
「あ、はいっ!」
「はい。」
ルークとエルが慌てて中へ入ると同時に、門がゆっくりと締まり始める。あわい魔法の光を煌めかせ、シャルロットは黒い魔法陣を展開した。その胸元には大きな鍵が下げられていて、そこから立ち上った靄が門に取りつく。それは、無数の鎖の影を成した。最後の一押しとばかりに彼女はその鍵を取ると、門の中心に浮かび上がった大きな南京錠の影へ差し込み、回す。びき、ぴき、と音を立ててその鎖が明確な光を纏うのを呆然と眺めながら、エルは呟く。
「すごい……黒魔法…?」
エルのそのつぶやきに、シャルロットは微笑んだ。黒の魔法陣を収めて鍵を胸元へ提げ直しながら、ふっと息を吐く。
「そうだよ。詳しくはわたしの授業でやってあげるから、楽しみにしててね!」
そう言って、シャルロットはルークとエルの方へ振り向いた。ロングの金髪が揺れる。おそらく前庭なのだろう、あちこちに花が咲いている。石畳の敷かれた地面を踏んで、白亜の校舎を背にして手を広げた。
「じゃあ、改めて……ようこそ、国立魔法学校へ! 」
と、その時だった、ルークとエルの項の毛が逆立ったのは。ぞわぞわと誰かに見据えられているかのような悪寒が走る。それに気付いたのか、シャルロットも目を細めた。
ばんっ、と大きな音が響く。ハッとして三人がそちらを向くと、そこには───鳥が、いた。
「ッツ、魔鳥……! 悪いね、編入生くんたち! 少し下がっていて!」
シャルロットが警告を発した。その鳥はあまりにも大きいのだ。優に男の大人三人分程もあるだろうか、とてつもなく高いその体高を生かすかのように、その鳥は勢いよく羽ばたいた。舞い起こった風は、吹き飛ばされてしまいそうな程の勢いを伴っている。
線対称に校舎が広がる国立魔法学校の敷地には、門から右手側に森、左手側にも森が広がっている。そして、被害を受けている地面から考えて出てきたのは右側。
このままではまず間違いなく校舎に突っ込まれる。無論防衛機構はあるが、この生徒が居ない時期は弱めている。不味い、とシャルロットは思う。人的被害は余りでないだろうが、校舎への損害が酷いことになりそうだ。
「倒すしかないね、この感じだと……!」
もう幾度も戦っている相手だからわかる。相性があまり良くない。どちらも面攻撃を得意とするからだ。だが、それは力技で押し切るしかない───そう決めて、彼女はベルトに差し込んでいた指揮棒を引き抜いて魔法陣を展開した。緑の光をきらめかせ、膨大な大きさの魔法陣が広がる。魔力の残滓が呼び起こす風が、白と青を基調としたローブをバサバサと揺らがせていく。
その光に反応して、魔鳥は甲高い叫び声を上げた。
「行け。」
鋭く短く、シャルロットは言った。人を切れそうな程の速さで指揮棒を真横へ振り抜く。びばっ、と空間を裂いて無数の風の刃が撃ち出され、空を舞った。圧倒的な、面制圧の攻撃。高く鳴いた魔鳥は、身を守ろうとするかのように羽を目の前で交差させる。翼に激突した風刃は、しかし羽毛を散らすだけに留まっていた。面に対して面では効果が薄い。歯噛みしながらシャルロットが第二撃を放とうとした時、魔鳥は翼を引き絞った。
照準する先は、まず間違いなく編入生───どうする、と刹那の中で彼女は自問自答する。
その間に翼が凄まじい速度で突き出されて、エルは目を見開いた。カチリと意識が切り替わる音がした気がした。赤い雫は誰のものも飛び散らない。シャルロットが動く間もなく、エルが動いていたからだ。魔鳥の翼が空振り、僅かに重心が崩れる。
「シッ……!」
その隙を、暗殺者である彼女が逃すはずがなかった。短剣を二本、凄まじい速度で引き抜いて魔法陣を展開する。使い慣れた、土茨の魔法を呼ぶ魔法陣。元々、戦闘には慣れている。魔鳥の足元に広がったソレは、瞬く間に土の茨を生み出した。締めあげられ、ほんの一瞬動きが止まったその隙をそばで見ていたルークは逃さなかった。はっ、と呟くように息を吐いて、意識を一瞬で戦闘へ切り替える。気弱な面ではなく、暗殺者の面を被って。引き抜かれ、陽光を反射し煌めいた彼のレイピアが、風の光を瞬間で纏う。
「はアッ!」
翼を突き破らん、大地を踏み割らんとする勢いで踏み込んで、ルークは細剣を突き出した。ぶつかり合った、翼と風の槍を纏った彼の剣────確かに風の槍が翼を貫いて、羽毛を舞い散らせる。面に突。魔鳥が明確に動きの精彩を欠いた。仰け反って、胴体ががら空きになる。
それを見て、ハッとしたシャルロットは魔法陣を組み直す。生徒に助けられるなんて教師失格、と思ってしまうが今はそれどころではない。ルークは大技を使った反動だろう、よろめきながら相手を見上げている。エルの土の茨が、音を立てて砕け散った。
「ここで、決めるから!」
息を吐いて、彼女は明らかに弱い《核》を狙う。翼に守られなくなって狙いやすくなったそれに、魔法の照準が向けられた────
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