コメディ・ライト小説(新)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

AIも異世界もないこの世界で、彼女のために、闘う。
日時: 2020/06/10 01:20
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi

何気ない昼下がりのことだった。

「ポップメニューに、メッセージが送信されました。」
≪to:ユウキ  よー、へたっぴ。お前、てっとりばやくポーション買ってきてぇー、にんずうぶんねぇー。制限時間は5分。遅刻したら置いてきぼりの刑だから≫

スライム狩りをして、レベル上げをしようと思っていたが、あまりにスライムが怖すぎて、退散し、トボトボ帰っていた。
そんな時、自分の視界のポップアップに、クランメンバーからの伝言がピコンっ!という音を立てながら、アナウンスのボイスが聞こえた。これが出てきたらパシリの合図だ。

「≪to:タクム  わかった。≫タッタッッ(空中のキーボードを打つ音)」

たまたま町中にいたから、ポーションは早く買えそうだ。早く買ってみんなのところにもっていかなくちゃ。また仲間外れにされちゃう。

町と言っても、ごく簡単な“まち”。村に近い。昔ながらのかやぶきの建物が乱立し、二階建ての建物なんてものは、この村にはない。だから、ぼくみたいな弱い人間には居心地がいいのかもしれない。ほかのクランメンバーはもう少し立地が良くて、レンガだったり、石でできた西洋風の建物に住んでいるクラメンもいる。

僕はポップアップに返信をすると、急いで薬品ショップに向かった。

「ごめんくださーい、あの、ポーションをまた、20本くらいほしいんですけど」

「あら、ゆうきくん。また来たのね。またエネミー狩りにでかけるの?」

「あ、そうなんです。クラメンと。えへへへ」

「気をつけなさいよ。あなたのクラメンの子たち、そんなに強くないから、そんなにポーション買うんでしょ?」

「へ?あ、ああ。いえ、みんなは強いんですけど。主にこれは僕のためですよ、えへへへ」

「あら、そうなの?それならいいんだけど」

この薬局ショップのおばさんは、昔からの知り合いだ。僕がパシリにされているのはもちろん知らない。おばさんは、僕以外のクランメンバーが弱いから、僕が代わりにポーションをみんな分買ってあげているって思っている。でも、実際には逆で、僕が弱いから、ポーションを貢いでいるだけってのは、口が裂けても言えないんだ。なにせ。

この薬局ショップの隣が、僕の家だから。
もしこのおばさんに、僕がクランでのけ者にされているって知ったら、おばさんがお母さんにチクるかもしれない。そしたら、ぼくはあのクランにいられなくなるかもしれない。唯一の居場所だったあのクランに。そうなることだけは、いやだった。
すると、薬局のおばさんから血の気が引く発言が飛び込んできた。

「あらやだ。今ポーション10本しかないわ。この前入荷したはずなんだけど、おかしいわねえ」

「え、10本しかないんですか?」

「そうみたい。10本しか売れないけど、みんな大丈夫かしら?」

「へ?あ、み、みんなは、ぼ、ぼくが守るので大丈夫ですよ!あははは」

「あらそう?ならごめんなさいね。10本ってことで、じゃあ1000円ね。まいどあり」

「じゃあ僕、急がないと。時間もないし」

「そうなの?もう少しゆっくりしていけばいいのに」

「そういうわけにもいかなくて、それじゃあおばさん、またきます」

「そう。気を付けてね」

薬局のおばさんに、ありがとうございました。と言って、となりの建物へ足早に向かった。

「お母さんに、みんなと狩りに行くって言わないと」

すると、家の玄関近くで、これから買い出しに行こうとサンダルを結ぶお母さんの姿があった。

「お母さん。今日、みんなと狩りに行くから、遅くなる。」

「あらそうなの。いってらっしゃい。気を付けてね。夜までには帰ってきなさい」

「わかった。父さんは?」

「父さんなら、今クエストに出ているみたいよ。なんでも、超高額なクエストらしいから、今日は何かごちそうにしようかしら。だから、ユウキ。今日は友達と遊んでいないで早く帰ってくるのよ」

「わかった。別に遊んではいないけど」

「遊んでいるでしょう。そんな友達とクエストに行ったって、ろくなお金にならないんだから。そろそろユウキも、お手伝いクエストでもやってほしいわ」

「・・・・いってきます」

「あっ!タクムくんにいつも誘ってくれてありがとうって伝えるのよ!」

「・・・・」

僕はその場にいるのが、いやになって、玄関を飛び出した。

・・そう。この世界では、クエストで得れるお金がすべてだ。僕の父さんも、お母さんも、他のこの世界に住んでいる人は全員が、クエストでお金を得ている。エネミーを倒したり、貴重なエネミーを捕まえたり、採集やお手伝いなんてものもある。すべてがクエストだ。
そのお金で僕らは飲んで食べて衣食住を満たす。それがこの世界だ。僕が物心ついた時から、ぼくの世界は、この世界だった。意識が芽生えた時から、といった方が正しいかも。

そんな中で、お母さんが僕に勧めるのが、お手伝いクエスト。おばあちゃんのマッサージや、農家に行って野菜を収穫したり、田植えをするクエストが主になっている。この世界で人口の大半を占める高齢者へのサポートが、お手伝いクエストの大半だ。給料は良い。毎日なにかしらのお手伝いクエストをやれば、家計を支えられる。

でも、ぼくはお父さんみたいなクエストがやりたい。

僕のお父さんは、地下にある99層迷宮での、エネミー討伐クエストによく行く。危険と隣り合わせのこのクエストは、給料もめちゃくちゃいい。敵が強ければ強いほど、給料は跳ね上がる。僕のお父さんはだいたい、99層の中での2層のボスを倒すクエストを毎週2回ほどやっている。週2回で2層のボスを倒すと、ぼくら3人家族の食費と水道代と居住費を賄うことができるらしい。詳しいことは知らないけど。

でも、危険と隣り合わせのクエストでもある。99層迷宮は、死人が良く出る。僕のクランのメンバーの中にも、お父さんを99層迷宮のクエストで失った子がいる。噂によるとだけど、自分の右上に出てくるHPがゼロになると、この世界から消えちゃうとかなんとか聞いたことがある。噂の域を出ないけど。

だから、お手伝いクエストは危険がない分、収入はそんなに良くない。
一方で、エネミー討伐クエストは危険と隣り合わせになるぶん、収入もいいんだ。
だから僕はお父さんみたいな一家の大黒柱になりたい。いつか、お父さんや、ぼくのクランメンバーをあって驚かせるような大偉業を打ち立てるんだ。

「いつになることやら、だけどさ」

僕の職業は、【戦士】。基本ステータスが平均以下で、何のとりえもないジョブ。
ここから進化すれば、かっこいいジョブになるんだけど、敵を倒しに行くのも怖すぎて、レベル上げもできずにいた。

「もっと僕が強かったら、みんなを驚かせることができるんだけどなあ」

現時点で僕のレベルは、まだ7。クランの他のメンバーは、30以上がゴロゴロいる。リーダーのタクムに至っては、もう40に到達するくらい強プレイヤーだ。この世界では、強いものがレベルを上げ、弱いものは取り残されていく。いや、勇気あるものはエネミーに立ち向かい、レベルを上げて経験値を蓄えていき、臆病者はいつまでたっても経験値が上がらいままだ。
僕はまだスライムすらろくに倒せない。レベル2のスライムですら、剣で切れないのだ。おびえてしまう。極度のビビりな僕にとっては、スライムでさえ、名前を言ってはいけないあの人なみの強さがあるのだ。

「はやく、強くなりたい」

ここ最近の、僕の些細な願いで、しかし叶わない願いだ。
そんな愚痴をたれながら、ぼくは村の中心にある転移ポートに向かった。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「おせぇよ。お前。ふざけてんの?ポーション10個しかねーじゃねぇか」

転移ポートから転移して、タクムの住む石畳の町の広場に僕とクランメンバーはいた。

薬局のおばさんとお母さんと話をしてたら、2分だけ遅刻した。でも、この怒りようだ。理不尽。このクランのリーダーであるタクムは、僕以外のメンツが遅れても何とも言わない。でも、ぼくだけにはめっぽう厳しい。タクムのクランメンバーは、リーダーであるイケメンだけど性悪なタクム。副リーダーであるアモンとコウタ、そして僕の4人チームだ。なぜ僕がここにいるのかは、想像してほしい。

僕はお父さんみたいに家族を支えられるくらいに強くなりたくて、クエストをやっている同年代のクランに片っ端から応募した。結果的には弱すぎてどこからも、いい返事がもらえず、結果的にこのクランで貢ぐ係をやりながら、経験値のおこぼれをもらっている。


「売り切れで・・」

そんななか僕をいじるメンツのもう一人、アモンが口を開く。彼は、タラコ唇。

「おいおい。お前おつかいすら、できないの?」

毎回心の中で、このタラコ唇が、って心で幾千回も唱えている。
続いて、コウタ。特徴のない顔。だけど、どこかむかつく。

「いいかい、へたっぴ。明日も狩りに行くから、明日はポーション30個。忘れたらマジでモンスターの中に置いてきぼりの刑だからな」

「気を付ける・・」

「んな、びくびくすんなよ。俺ら“トモダチ”だろ?」

「・・・・・」


実際かれらには逆らえない。
僕はまだ一次職の戦士職。
一方で、タクムとアモンとコウタは、戦士職の1個上の二次職である、盾戦士だ。
実力差は歴然。逆らえるなんて思っていない。

そして、お母さんやお父さん、そしてこのクランメンバーしか居場所がない僕にとっては、このクランも居場所のひとつなんだ。

このクランを出ても、他のクランで僕を欲しがってくれる人がいるとは限らない。多少このクランがブラックでもやっていくしかない。経験値のおこぼれをもらいながら、いつかお父さんみたいに、99層迷宮にチャレンジして金持ちになって、お父さんとお母さんを楽させたり、可愛い女の子と一緒にいたり、そんな生活をいつかしたい。というかそれ以外に、生きる意味がないんだ。

なんてったってこの世界の“成功”は、自分自らの強さをどれだけ高められるかだから。

だから、このクランで泥水すすって、生きていくしかない。我慢して雀の涙の経験値を吸い取って、いつか大きくなってやる。そして、タクムやアモンや、コウタを見返してやる。

叱られ終わって、ようやく森に向かおうと転移ポートに入るさなか。

「・・・なにが、置いてきぼりの刑だ、バーカ。いつかお前らを置いてきぼりにしてやる・・・」

自分にだけ聞こえる声で、そうつぶやいた。
そんなこといつか言えたらなあって、思いながら。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Re: 異世界移住計画は完了形ですが、世界救済は進行形です ( No.5 )
日時: 2020/06/08 18:56
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

レジスタンスの本拠地が帝都にあるということで、僕とアイさんは帝都に来ていた。

移動の中、アイさんに今までのクランでの実情や身の上を話していた。今まで散々、ポーションを配ったり、お金を貢いだりしてきたこと。僕が貧しい村の出身であること。お金を稼ぐために、強くなりたいこと。直近の話題だと、ケルベロスを前にして3人とも逃げてしまったこと。


「そうか、そんなことが」


レジスタンスに参画した時点で、タクムのクランからは自動的に退会することとなった。だから、タクムたちの愚痴を言っても、もう大丈夫になったわけだ。


「ユウキくん。今ならまだ戻れる。君を搾取する人間はもういない。君のご両親と穏やかに暮らすことだってできるんだ。」

「そう・・ですね」


僕の身の上話を聞いて、アイさん的に心配してくれているんだろう。僕の親の話とか、いじめられていた話。それら全部を含めて、僕を心配してくれているのがわかる。

「さて、どうする?レジスタンスは危険な任務が多い。君はそれでも私とともに戦ってくれるのか」



それでも、僕はこの人のために戦いたい。親のために強くなりたいとか、収入を沢山稼いで大黒柱になりたいとか、そういう気持ちも確かにある。でも根幹には、僕はこの人のために強くなって、この人を守りたい。そのためなら、この人の下でクランメンバーの一員として働いて、強くなりたい。


「僕を地獄から救ってくれたのは、あなたなんです。だから、今度はあなたを守れるくらい、強くなりたいんです。地獄から助けてくれたあなたを守れるくらい、強く。」

もし、あなたが地獄に行ったら、僕が助けてあげられるくらい、強く。強くありたいんです。

「そうか。なら、改めて歓迎しよう。頼りにしているぞ、ユウキ君」

彼女から信頼されている。それだけで僕がここにいる意味になる。

「はいっ!」



力強く返事をすると、アイさんが僕を見てニコリと笑った。
(どくん、どくん)
彼女のそんな表情を見て、少しにやけてしまう僕がいた。血管の中の血液が全身に駆け巡り、心なしか悪寒さえ感じる。心の中からマグマのような熱が沸き上がり、胸だけが熱くなっていくのが肌感覚で分かる。

なんだろう。この感覚。

僕はこの時はまだ、この感覚に答えを出せずにいた。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

「うちのクランリーダーは口下手なんだ!どわははははは!気にするなよ、少年!」

帝都にあるレジスタンスの本拠地に行くと、早速めちゃくちゃチャラいお兄ちゃんに絡まれた。アイさんと帝都にあるレジスタンスに到着すると、総勢100人はいるであろうメンツが僕らを迎えてくれた。
レジスタンスの本拠地は、酒場のような雰囲気で、丸机が20個ほどはある少し大きな場所だった。その丸机に人々が座っている。みんなレジスタンスの隊員なのだろうか、面構えが違う。強者という感じがぷんぷんしてくる。

そして、その後、全体に自己紹介を兼ねて、僕がアイさんにレジスタンスに招待された経緯を説明したら、突然このちゃらいお兄さんが絡んできたわけだ。



「アイは、別にお前に入ってほしくないわけじゃねーよー。お前のことを心配しているんだぞ、少ォ―年!」

「こら、リュウ!うるさい!お前は静かにしとくことができんのか!」

「おーおーおー。怖いねぇ、今日もリーダーは!」



アイさんに怒られたチャラいお兄さん、改めリュウ。彼はチャラさ通りの短い茶色の髪で、身長も僕よりずっと高い。
役職は飛び道具を専門に扱う、ローグ。身に纏う防具も、軽さを意識した茶色の皮装備が主の様子だ。主な武器は後ろにある、どでかい・・手裏剣?
これがリュウの武器なのだろうか。まあステータスも確認した所、全く僕の及ぶ所ではない。さっきアイさんのステータスもチラ見させて頂いたが、リュウのステータスは、アイさんに負けず劣らずのステータスだった。会心率に特化したステータスぶりがなされていて、火力職担当ということなんだろう。

(僕が足手まといになるのは、確定っぽいな・・)

そんなこんなで話をしていると、奥から人をかき分け、なにやら2mはありそうな巨漢の男性がのっしのっしとやってきた。僕が見上げるサイズ感のその人は、荘厳な白銀の鎧に身を包み、右手には白銀の大楯を持っていた。
僕がその迫力にあぜんとしている中、リュウの近くに着くと、おもむろに口を開く。


「リュウ、アイを茶化すな。お前の悪い癖だ。新入りが来た時にはしゃぐのは」

彼の声はもろ、彼の特徴を反映した低い声の持ち主だった。

「ん?ああ、わかってるよ、んなの。お前はお前で堅いなぁ、もっと場を盛り上げるとかできねーのか?ゴウ」

「それは私の守備範囲ではない」

「はいはいはい、さいですか。わかりましたーよ、私が悪ぅーござんした!」


むっとした顔を見せてゴウと呼ばれた男がリュウをにらむ。しかし、そんなことをリュウは警戒も何もせず、お構いもなしに見てみぬふりをして、またべらべらと僕に「どこからきたのとか」「週末何しているか」とかそんなくだらない話を始めた。

ゴウと呼ばれる彼のステータスを見ると、騎士職。彼のステータスもアイさんに負けず劣らずのようだ。ただ守備力に関しては、アイさんよりも一つ頭を抜けている。タンクで、チームを守る立ち位置ということだろう。

そんなことで僕が関心をしていると、また奥から「あーーーーらーーーーーー!!!」というオバ様チックな声を出して、人をかき分けてくる人影がもう一つあった。

背丈はリュウと同じくらい、さっきのオバサマチックという言葉を反省するくらい端正な顔立ちとスタイリッシュな紫色の装備を身に纏う少女?女性が近づいてきた。



「新入りちゃん?めずらしいわねー、何この子!かわいいぃぃ!!!私の婿にもらっていいかしらぁ!!」


そういいながら、意外と巨乳だったその人は僕に思いっきり抱きついてきた。そのたわわな胸に窒息死しそうになりながら、頭の中で幸せを感じていると、今度はアイさんがその女性にツッコミを入れる。


「こら!サユリ!ユウキ君は私が連れてきた子だ!イチャイチャするな!」

そういわれると、「ちぇっ」という言葉を渋々その抱擁を解く。

「アイちゃんも、そんなことでメンヘラになってると、お嫁にいけないわよぉ」

「ばっ!よ、余計なお世話だ!」


アイさんを茶化すと何故かサユリと呼ばれたその女性は上機嫌になったのか、もう一度僕を強く抱擁した。

(この人、絶対Sだ・・。)

僕の中のセンサーが感じている、いじめて高揚感を得るタイプの人だ。サユリさんって人は。
この人のステータスもチラ見すると、やはりアイさんに負けず劣らずのステータス。ジョブは、魔術師らしい。その証拠に特殊攻撃力は、リュウやゴウ、そしてアイさんまでを抜いて一番高いステータスだ。
(強者ぞろいというか、強い人限定なのかな)
再びここでやっていけるのか不安になっていると、アイさんが「よし全員そろったな」と言って、おもむろに説明をしだす。


「コホン、ユウキ君。紹介が遅れたな。この3人、ここにいる毎度のことうるさいリュウ、そこにいる真面目なゴウ、で、君の今目の前にいるサユリ。この3人が私たちレジスタンスの副リーダーだ」

「よろしくなっ、少年!」

「よろしく頼む、ユウキ君?だったか」

「お願いねぇ、ユウキ君」



三人からの暖かい迎え入れのメッセージを頂いたあと、アイさんがレジスタンスの構成について、説明をしてくれた。


「彼ら3人は、私たちレジスタンスの副リーダー、つまり各隊の隊長として活躍してくれている。全員非常に優秀な仲間たちだ。彼らが30名ほどの隊員をそれぞれまとめあげている。ローグ隊、騎士隊、魔術師隊。この3隊が、それぞれお互いに相乗効果を出し合い、レジスタンスは高め合っているというわけだ」

「すごい・・・」


正直すごいとしか言いようがない。僕がいたクランは立った4人のクランだった。クランとは名ばかりの少年グループのようなものかもしれないが。それがレジスタンスでは100名ほどの隊員がいて、それぞれに隊長がいる。30名ほどの隊が3隊あって、それを全体で統括しているのがアイさんってことか。

どんだけすごい所に来てしまったんだ僕は・・。やっていけるのかと不安な気持ちになっていると、サユリさんが僕に向かって口を開いた。


「さあて、ユウキ君。私たちレジスタンスの、役割・・・。じゃなかった、目標が何かは知っている?」

「?お、お互いを高め合う事、じゃないんですか?」


僕がそう答えると、サユリさんは僕の方から、アイさんの方に向き直りながら答えた。


「うーん、それも合っているけど。・・もしかして、まだアイちゃん、伝えていないの?」

「ん?あ、ああ。まだ伝えていないな。すまない、急だったものでな」

「目標?」



目標ってなんだろう?クラン全体でお金を10億くらい稼ぐとか、この国を統治できるクランになるとか、そういったどでかい目標でもあるんだろうか。

そんなことをどでかいと思っていた僕にとっては、そこからサユリさんとアイさんが言う言葉のスケールがいまいちピンとこなかった。



「私たちはね、この世界に反旗を翻しているの」

「??????????・・・・・アイさん、それって、どういう?」

「説明をしておらず、すまなかったな、ユウキ君」



アイさんが一拍深く深呼吸をして、僕のことをじっと見つめてくる。その様子は今思えば、僕にとっては大きな人生のターニングポイントだったのかもしれない。



「私たち、レジスタンス(反旗を翻す者たち)は、この世界から脱出することを目標にしている」

「????」


「つまり、ユウキ君。この世界、今君が息をして、何かを食べ、誰かに裏切られ、誰かを愛するこの世界は、偽物の世界ということだ」



僕を見るアイさんの目は真剣そのものだった。そのまっすぐな瞳はうそをついている様子は、一ミクロンたりともない。それがまぎれもない真実ということを物語るごとく、彼女はレジスタンスの最終目標を僕に告げる。



「私たちの本当の世界は、“別”にある。その、私たちの本当の世界に到達する。それが、レジスタンスの最終目標だ」

Re: AIも異世界もないこの世界で、僕は闘い続ける ( No.6 )
日時: 2020/06/09 22:58
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi

「????」


「つまり、ユウキ君。この世界、今君が息をして、何かを食べ、誰かに裏切られ、誰かを愛するこの世界は、偽物の世界ということだ」

僕を見るアイさんの目は真剣そのものだった。そのまっすぐな瞳はうそをついている様子は、一ミクロンたりともない。それがまぎれもない真実ということを物語るごとく、彼女はレジスタンスの最終目標を僕に告げる。

「私たちの本当の世界は、“別”にある。その、私たちの本来の世界に到達する。それが、レジスタンスの最終目標だ」

「本当の世界は、別って・・。なにを言ってるか、さっぱり」

「そのままの意味だよ。ユウキ君。この世界は、君の元いた本当の世界ではない。この世界は、私たちのために新しく創られたゲームの世界なのだ」

「な、なんでそんなことがわかるんですか」

僕の父や母も、実際にこの世界で生活を営んでいる。生きている。まさしくあの古びた村は僕の出身地だし、父と母も明らかに僕の親だ。隣に住んでいる薬局ショップのおばさんだって、いじめられていたけどタクムだって、コータだって、アモンだって。みんな確実にこの世にいたはずだ。

「本当のことだ。これを見てほしい」

ヴォンッ!という音を立てて、アイさんの手から3D映像が僕の目の前に投影される。
どうやらアイさんが僕に見せてきたのは、99層迷宮の全体マップだった。

よくお父さんが二層のモンスターの狩場に出かけて、お金を稼いでいるダンジョン。危険なエネミーが多く住むとされていて、父にはあまり近づくなと警告を受けていたダンジョンだった。

「99層迷宮は、全部で99層のダンジョンで構成されている。この世界の地下に張り巡らされたこの地下迷宮世界は、森・雪原・噴火口・神殿などの、様々なステージがある」

知らなかった。99層迷宮はてっきり、なんか薄気味悪い感じの迷宮なのかと思っていたけど。まるで、

「この下にもう一つの世界が広がっているみたいですね」

「ああ、いい線を言っているよ、ユウキ君」

そういうと、アイさんは99層迷宮の全体マップをスライドしていき、一番最深部の99層迷宮を指さす。

「ユウキ君。ここに何があるか分かるか」

「・・・?なにって、お宝でしょうか」

「ウン。それもいい線を言っているな」

そういうと、アイさんはおもむろに地面に手を付け、呪文を唱える。

「透明化」

アイさんが地面に向かって呪文を唱えると、地面がどんどん透けて見えるようになっていく。たとえて言うならば、ソナーの魚群探知機のように色合いはわからないが、どこにどういったものがあるかを判別することはできる感じだ。

(こんなスキルがあるのか、きいたことない・・)

しかし、僕を含めて、多分アイさん以外には3層よりも下は、なにがどうなっているかは判別できない。下に空間があることはなんとなくわかるが、複雑に青い線が絡み合い、ごちゃごちゃしていてよく分からない。

そのソナーは果てしなく底の層まで届くようで、アイさんはじっと地面に手を添えて、その透明化のスキルを使用し続ける。どうやらアイさんは、全体像を俯瞰して透明化で見えるようだ。

すると、

「見えた」

何かを見たアイさんは突然そう言うと、手を地面から離した。

「今私のゲーム画面で、私の視界をスクリーンショットした。ユウキ君には、私の透明化で観た映像を見てほしい」

「は、はい・・・」

僕がそういうと、アイさんはにっこり笑って、自分の視界のスクリーンショットをこれまたヴォンッ!と僕の目の前に投影させた。
そこには、狭くて暗い洞窟の道の先に、何やら扉があるのが見えた。そしてその扉
の上の立て札には、次のように書かれていた。

「CONGRATURATIONS! WELCOME BACK TO YOUR REAL WORLD」

Re: AIも異世界もないこの世界で、僕は闘い続ける ( No.7 )
日時: 2020/06/10 01:19
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi



「こ、これは?」

「これは私が透明化のスキルを使用して視た、99層迷宮の最終ゴール地点の扉だ。ユウキ君、扉の上の文字は読めるかい?」

「はい、少しなら。・・・ええと、おめでとう、ようこそあなたの本当の世界へ・・ですか」

「そうだ。 良く読めたな、ユウキ君。その英語、どこで学んだ?」

「え、そんなのきまっているじゃないですか・・。えっと・・・、あれ、どこだっけ?」

あれ、この言葉は知っているはずなのに。なぜか思い出せない。そして、英語?ってなんだっけ。どうしてこんな文字が読めるんだろう。

「なんででしょう。どこかで学んだ気がするんですけど」

「正しい反応だよ。ユウキ君。君の感じている違和感は、もちろんここにいるレジスタンスのみんなも感じている」

「えっ」

「読めるはずのない言葉が何故か読める。それは、私たちがどこかでこの文字を勉強していた、ないしこの言語で話をしていたという意味になる。ところで、ユウキ君。君は幼い頃のお母さんやお父さんとの記憶は思い出せるかい?」

「え・・・、はい!もちろんです。父は優しくて、家にはいなかったような・・・」

あれ。なぜかぼんやりとしか思い出せない。

優しかったとか、厳しかったとか、そういった感情はなんとなく思い出せる。しかし、どこに住んでいたとか、どんなことをしていたかとか、そういった実際に目にしているものは思い出せず、ぼんやりとしている。まるで、景色とかそういった情報が、すべて上書きされて削除されてしまったみたいに。
父と母と一緒に過ごした感情しか思い出せずに僕はいた。

「なぜかあまり鮮明には思い出せません。でもそれがどうしたっていうんですか。思い出せないのと、本当の世界があるというのに何の関係が?」

「つまりだ。私たちは、本来いた世界の記憶を、何者かに書き換えられて、このゲームの世界に幽閉されているのではないだろうかと推測している」

「!」

本来いた世界の記憶を何者かに書き換えられて、このゲームの世界に幽閉されているだって?
そんなことあるわけ・・、とあぜんとした僕の心を見透かすように、隣にいたサユリさんが口を開く。

「ユウキ君。あなたの思っていることは正しいわ。そんなことあるわけないって、思っているんでしょう。でも、99層迷宮最深部にあるゴール地点のあの言葉と、私たちの記憶の曖昧さや齟齬を鑑みるとね。あり得ない話じゃないと思うの」


「そうだぜ、少年。俺もさぁ、たまに自分の親父とお袋の実家に帰ると、何かが違うだよなぁって思うわけよ。少年もそんなことない?もしあったら、俺らと一緒に、この99層迷宮最深部まで行ってよ、ちょっぴり確認してみねーか!」

リュウがサユリの後に続けて陽気な顔で言う。本当にもう一つの世界があって、その世界が僕たちの世界なのか?にわかには信じれない。そんな疑心暗鬼の様子の僕を、慮ってかゴウが口を開く。

「ユウキ君。君がアイの言っている推論を信じることができないのもよくわかる。私もレジスタンス入団当時、信じることはできなかった。この世界でクエストを受注し、お金を稼ぎ、当たり前に生きていることに、なにも違和感を私は感じなかったからだ」

だったら、なんで、こんな推論を信じるんですか。
あまりにも証拠がなさ過ぎる。この99層迷宮最深部の下に続く世界が、もしかしたら振出しに戻る形式で、僕らがいる今の世界に戻るかもしれないのに。

そういいたくなる気持ちもあった。しかし、その後、ゴウの言葉を聞いて僕も考えが変わったんだろうなと、今になれば思う。

「しかしだ。私は、アイを信じる。私のことを窮地から助けてくれたのは、アイだ。それはサユリも、リュウも。そしてほかのみんなも同じだ。このレジスタンスにいるメンバーは、全員アイに命を助けられている」

ゴウが全体を見渡すと、みんなが一斉にうなずきだす。
今はこんなに強いゴウさんも、サユリさんも、リュウさんも、僕とおなじようにアイさんに助けられたってことか。

「だから、私は命の恩人であるアイを信じている。もちろん元の世界の存在を信じていないメンバーもいるかもしれん。しかし、アイの掲げる旗のもとに、皆この身を賭して我らがクランリーダーのために戦うつもりだ」

・・・ここにいるみんなが、アイさんを命の恩人だと思っている。だから、そのアイさんの言っていることがハチャメチャであっても信じぬく。そうゴウは言っているのだ。

ハチャメチャだ。理論も全くない。証拠も不十分だし、なにより、元の世界に戻れる保証もない。それなのに、レジスタンスのメンバーはアイさんの旗の下に集まっている。
どうかしている。

そんな渦中のアイさんが続いて発言した。

「現状、99層迷宮の最深部までは程遠い。私たちレジスタンスが、攻略を完了しているのは12層まで。13層は先日チャレンジしたが、強いエネミーを前に私たちは撤退せざるを得なかった。」

アイさんは僕ではなく100人近くいるレジスタンスのメンバーを見ながら、唇を前歯で噛み仕切りながら言う。

「13層攻略では、100人という、多くの犠牲者を出した」

大きな責任感や、謝罪の気持ちの入り混じった、アイさんの悲痛な顔を今でも忘れられない。

「私たちは必ず、消えてしまったあの子たちのためにも、この世界の根源たる99層迷宮最深部、つまり99層に到達する。それが、あの子たちのために、私ができる唯一のことだ。私を信じてくれたレジスタンスの仲間のために、戦う」

そうして、最後にアイさんが僕の右肩に手をのせ、話しかけてくる。

「ユウキ君。君を無理に連れて行こうとは思わない。私たちが行うのは、危険なダンジョン攻略だ。実際に、100人の隊員がHPをゼロにし、この世から消えてしまった。君だって消えてしまう危険がある。だから、無理強いはしない。君は、どうしたい?」

・・・・・・。

10秒程度、考えた後に僕は僕の意見を述べた。


「僕は、あなたのために戦います。アイさん。あの時決めたんです。あなたが僕を地獄から救い出してくれた時、あなたに尽くそうと決めたんです。だから、アイさんの掲げる旗が不安定なものであったとしても、その旗を掲げるあなたを守るために僕は闘います」


それが僕の率直な意見だった。
みんながアイさんに尽くすことは、みんなの過去を知らないから僕には理解できない。
確かに同化していると本気で思う。
でも、僕個人のことを考えたら、アイさんが無茶苦茶なことを言っていたとしても、僕はこの人を守るために、戦いたい。
そのために、ここにきた。そこには何も変わりはないんだ。あの時にした決意に、嘘はない。

「行ってやります。99層迷宮の最深部まで」

そう宣言すると、アイさんの表情が笑みと申し訳なさの入り混じった表情になり、その綺麗なオレンジ色の瞳にうっすら涙さえ浮かべながら、この世界で一番さみしい言葉を聞いた。

「ありがとう。ユウキ君」

その表情は、悲しみと喜びが混在する、何ともさみしい表情だった。
そんな悲しい顔をしないでほしい。
そうアイさんに思う人間が集まったのが、このレジスタンスという組織なのかもしれない。
リュウも、
ゴウも、
サユリさんも、
他の隊員の皆さんだって、
アイさんにこんな悲しい表情をさせたくなくて、彼女の隣にいて彼女を励まし続け、戦い続けるのだろう。

彼らの各々の気持ちを量り知ることはできないが、
その部分では、僕も同じ気持ちなのだろう。

かくして、僕は正式にレジスタンスのクランメンバーになった。
アイさんの隣で、アイさんを守るための戦士になるために。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

Re: AIも異世界もないこの世界で、彼女のために、闘う。 ( No.8 )
日時: 2020/06/13 04:47
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

時は過ぎ、1か月後。

あれから僕は各隊長とアイさんから、超絶スパルタ修行をつけてもらい、レベル上げを行った。かつてレベル7だった僕のレベルは、今では50になった。各隊長のレベルが90台で、アイさんに至っては99レベルだから、まだまだではあるが、一端の隊員として活躍できるレベルになった。かつてのタクムよりもレベルが高くなった瞬間は感慨深いものがあった。

各隊長のことも深く知ることができ、一緒に同じ飯を食べ、一緒の布団で寝た。

このギルドが、アイさんが一人一人に声をかけ、大きくなっていったこと。リュウや、ゴウ、サユリさんとの出会いもたくさん教えてもらった。

各隊長やアイさんと99層迷宮の二層や三層に行くこともあった。徐々に、みんながアイさんのためにレジスタンスで働く意味が分かってきたような気がしてきた。

全員が、アイさんのような人間になりたいのだ。
ピンチの人を守り、
自らが率先して危険に立ち向かい、
誰にも優しく接し、
人の話を深く聞いてくれる。

そんなアイさんという人間に、皆ある種惚れているのかもしれない。
あんな人間になってみたいというオーラが、アイさんにはあった。


そんなこんなで、レジスタンスにようやく僕が馴染んできた一か月後というこのタイミング。
ついにアイさんが、99層迷宮の13層の攻略会議を行うというアナウンスを告げた。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


攻略会議は、いつものレジスタンスの本拠地で行われた。
アイさんからの作戦説明も終わり、会議自体も終わりに差し掛かろうとしていた。



「きたる、明日。我らレジスタンスは、99層迷宮13層攻略作戦を実行する。13層のボスモンスターは既知の通り、ジェイソン・ボーヒーズ、大鉈とチェーンソーを武器とする大男だ」


99層のボスモンスターは、ジェイソン。どこかで聞いたことがある名前である気もするが、どこで見たのかは鮮明には覚えていない。だが、レジスタンスのメンバーが何人も犠牲になり撤退したという、まさしく宿敵ということになるだろう。今の僕ならば、アイさんの役に少しでも立つことができるかもしれない。

僕の今の職業は、盾戦士。

かつてのタクムや、アモン、コータと同じ二次職を選んだ。大きく分けて理由は二つだ。

一つ目は、今の僕にできることは何だろうと考えた結果、この二次職に決めた。なんやかんやで、動き方を予め知っていたのは、大きな要因だろう。タクムやアモン、コータの盾の扱いを近くで見ていたから、盾の扱いは少々心得があったんだと思う。

そして二つ目は、彼らを超えたい、という気持ちだ。彼らとの記憶を乗り越えたいという想いも、内心では二次職に盾戦士を決めた理由にもなっているだろう。

今度は僕がアイさんを守れるように、この盾でアイさんを守りたい。


「苦しい戦いになることが予想される。だが、断じて我らは諦めない。99層に到達し、本来の世界に戻るその時まで。戦おう、みんな」

「オオオオオオオーっ!!!!!」

レジスタンスの隊員全員のすさまじい雄たけびが、本拠地の中に響き渡った。
来たる13層攻略は、明日の朝に迫っていた。

「・・・・」

とうの僕は、いまだ不安をぬぐい切れていないまま。

☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾★★★★★★

13層攻略の前夜、僕は本拠地近くのレストランで、四人掛けの机で一人食事をしていた。次の日に迫る決戦を前にして、どうにも気持ちが落ち着かなかった。これまでの特訓の成果は十分だったろうか、ちゃんと明日の攻略ではアイさんの役に立つことができるのかとナイーブになっていたからだ。

「不安だな」

ここ最近で、自分のナイーブな側面は解消したはずだったのに、いかんせん解消できていなかったらしい。アイさんを自分が守れるのかとか、いらないことまで考えてしまっていた。


「僕・・・、明日の攻略にいるのかな」


そんなフルオブナイーブな状況な中、鎧をカチャカチャと鳴らして、なにやら2mはありそうな巨漢の男性がのっしのっしと、僕の前方からやってきた。僕が見上げるサイズ感のその見知った人は、荘厳な白銀の鎧に身を包み、右手には白銀の大楯を持っていた。

ゴウだ。


「どうした。今はみんな本拠地で、明日のための武器の整備や防具の手入れをしているぞ」


ゴウは僕が座っている四人掛けのテーブルの目の前の席に座ると、店員を呼び、僕と同じくサンドウィッチを頼む。
戦闘前日や前夜はあまり酒は飲まず、こうしてサンドウィッチなどの軽食で済ませて、おなかの調子を良くしておくことが望ましいと、そういえばゴウさんの特訓で教わった。


「そうですよね・・・スミマセン。なんか。一人になりたくて」

「・・・不安、なのか?」

「えっ」

「いや、今のユウキ君と同じような顔を、良く戦闘前にしていた人間が、昔にいたもんでな。ソイツも内心の不安が、顔に出やすいタイプの人間だった」

「そんな人・・、ゴウさんの知り合いでもいたんですね」

「ははは。そうだな。そいつは今レジスタンスで、隊をまとめる隊長をやっているよ」

「え・・・、それって誰なんですか?」

「それを聞くか。君は」

「あ、スミマセン。失礼でしたよね」

「ふふ。まあいい。その臆病者はな、私だよ」

(えっ・・・)

一瞬ゴウさんの話が信じれなかったが、ゴウさんの瞳を見ると、その瞳には一点の曇りもなく、それが本当のことだということを物語っていた。

「私は、このレジスタンスには2年前にきた。当時の私は君と似ていたよ。下手すれば君よりも臆病で、怖がりだった。前線にでてエネミーに対して剣をふるう度胸もなかった」

今の全線で勇猛果敢にタンクを務めて、レジスタンスの前衛のリーダーでもあり、騎士隊の隊長でもあるゴウさん。そんな人が、僕と同じだった?にわかには信じがたかった。

「私が剣も振るえずにいたあるとき、私は私の家族と99層迷宮の2層に狩りに行った。よく家族で、2層に狩りに行く習慣があったのだ。討伐クエストでの金稼ぎと、私の特訓も兼ねてな。私の父と母は剣使いの中でも指折りの猛者だった分、今思えば、私の両親は慢心していたのかもしれんな」

そういいながら険しい顔をゴウさんはした。今までそんなゴウさんの顔をみたことは一度たりともなかった。


「2層のボスエネミーに、両親は殺されてしまった」


「!」

ゴウさんの両親が、殺された?
僕の父もよく99層迷宮の2層ボスを狩って、お金の足しにしてくれている。2層のボスがそんなにも強いとは聞いたことがない。なんで、手練れであるゴウさんの両親が死ぬんだ。


「99層迷宮では、ごくまれにボスエネミーが変わることがある。乱数の問題で、レアモンスターが通常時にポップするボスエネミーの代わりに出現するのだ。私の両親は、それに出くわした、外れくじを引いてしまったわけだ」


外れくじ・・。確かに、99層迷宮区では、ボスエネミーが4000分の一とかの確立ではあるが、超絶強いレアエネミーに変わることはある。しかし99層迷宮区の最初の層付近のエネミー戦では、逃げることもできたはずだ。なぜ・・

「両親は慢心をしていた。私を守りながらでも、絶対に勝てるはずだと。まだ剣もまともに触れなかった私を背後に抱えても、勝てると舐めてかかっていた。しかし、私を守りながら、レアエネミーに勝つことはできなかった。レアエネミーの強さが想像以上だったのだ。結果、私を置いて、二人は死んでしまった」

「・・・・・・そのあと、ゴウさんはどうなったんですか」

「はは、おびえてしまって、その場で硬直してしまったよ。私を守る両親は二人ともレアエネミーにやられてしまって、残された獲物は私一人だった。もうダメだ。両親と死ぬしかない。本気でそう思った。その時だ、私がアイと出会ったのは」

アイさんとゴウさんとの、経緯か。なんだか、僕と似た境遇だ。

「アイは漆黒の閃光のように、レアエネミーに突進していった。アイは私を守りながら、レアエネミーをたった一人で倒した。その時にはもう、彼女についていくことを心に決めていたのかもしれんな」

ゴウさんは、あの時のことを思い出しながら、くすっと笑った。


「その日中には、レジスタンスに入団を決めた。両親のために強くなることはもう叶わないが、私を助けてくれた命の恩人のために、働こうと決めたのだ。そして、私は騎士職になった。人を守りながら、エネミーに勝つことは至難の業。そのことを誰よりも知っている私なら、騎士職ができるのでは、と」

僕の盾戦士は、3次職である騎士職が絶対に通る道だ。僕もアイさんのナイトになりたいと思って、この職を選んだ。でも、今のゴウさんと比べて、僕の実力差は歴然。火を見るよりも明らかだった。
 
「明日、足手まといになるかもしれないんですよ」

「足手まといか」

「はい。僕のこの盾じゃ、誰も守れないかもしれない。守りながら戦う事の難しさを、この特訓の1か月でゴウさんに教わりました。けど、僕にできるでしょうか。アイさんを守りながら、闘うことが」

「はは。できるさ、君なら。アイに救われ、アイのために盾を持つ戦士になったものは、皆いい騎士に成長していく。気持ちが乗っているからだ、盾に。誰かを守りたいという気持ちで、君はこの1か月間の特訓に耐えて、1か月で40レベル近くも成長した。1か月頑張った自分を信じるんだ。ユウキ君」

・・そういわれると、なぜか少し力が湧いてくる。

僕はこの1か月、ゴウさんメインでみっちり指導をしてもらい、今のこのレベルに達することができた。アイさんが作戦立案などの他の仕事で忙しい中、僕にほとんど付きっ切りで教えてくれた。

ゴウさんのためにも、明日、頑張らなきゃ。

絶対に13層を攻略しよう。そう心に誓ったのだった。

そして、夜は更け、日はのぼり、13層の攻略の日がやってきた。

Re: AIも異世界もないこの世界で、彼女のために、闘う。 ( No.9 )
日時: 2020/06/14 16:05
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi

☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀

13層攻略の朝は、肌寒い朝だった。総勢100名のレジスタンスメンバーは、帝都近くにある転移ゲートにいた。
99層迷宮は99層という地下に長い迷宮であるため、もし1層から13層に歩いて向かおうとすると、途方もない時間がかかってしまい、途中でボスを再度倒す必要もある。だから、もうすでにボス部屋までのルートをマッピングしてある13層まではこの転移ゲートで、移動するというわけだ。転移ゲートを使うことで、13層のスタート地点に瞬間移動することができる。というわけで、99層迷宮の入り口ではなく、ここ帝都の転移ゲートに朝一できているというわけだ。

昨日ゴウさんと話をしたおかげで、心なしか緊張も解けた。強敵を前にする不安という魔物が正直、心の中にまだ居住を構えているものの、大丈夫だ。大丈夫。と僕は自分に言い聞かせていた。

そうして、手に人の文字を3回書き、口で勢いよく吸うという、お決まりの動作を僕がやっていると、アイさんが声をかけに来てくれた。

「ユウキ君。どうだ、調子は」

「あ、アイさん。万全です。頑張ります僕」

「ハハ、そうか。あんまり気張るなよ」


そういって、アイさんは僕の背中をバンバンと叩く。これもアイさんなりの励まし方なんだろう。ただ、力が強い、強い。戦闘前にダメージを受けそうなくらいには強い。


「ぐはっ、頑張ります」


アイさんは僕の返事に、「よしっ」というと、リーダーらしく付け加えた。


「もし君にもしものことがあったら、その時は私が君を助ける。絶対に死なせない。だから、安心してくれ」

「ぼ、僕もアイさんを守ります!いつまでも守られっぱなしじゃ、いやです!」

「!」

アイさんが僕の発言に驚いた様子を見せた。無理もない、僕のレベルは50に対して、アイさんは実質この世界では一番強いレベル99なんだから。
でもアイさんから言われたのは、あきれた一言でも、心のこもっていないありがとうでも、どうせ私が助けるといった諦めでもなかった。


「そうか。ありがとう、ユウキ君。信じているよ、君がいつか私を救い出してくれると」


アイさんが普段見せない、悲しげで悔しげな顔から出たのは、アイさん自身の悲痛な叫びに、僕には聞こえた。


「はい、必ず。なにがあっても」


僕の返事は、もちろん決まっていた。今思えば、ずっと僕は自分に正しい道に進んでいた。ただ、救い出すという言葉の意味を、この時はわからないまま。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

アイさんの事前説明では、13層:ジェイソンがボスエネミーであるこの層は、死海と呼ばれ、生い茂った大樹が生える森の迷宮らしい。薄気味の悪い濃霧と、膨大な数の大樹が、人の方向感覚を失わせる。そして、厄介なのはこの大樹、ひとを喰らう大樹らしい。大樹に寄りかかって休憩している人、足が遅い人を、ご自慢の太い根っこで次々と地中へと引きずり込み、喰らっていく。集団行動はマストになって来るダンジョンだ。

レジスタンスがマッピングできてるのは、ごくわずかな範囲だけ。ボスのいる空間と、13層の入り口を結んだルートだけらしい。アイさんの透明化のスキルによって、全体を見た感じでは、1万キロはあろうかという広さらしく、今までの1層から12層の中では比べ物にならない広さらしい。前回ジェイソンに負け、多くのレジスタンスの仲間が、森中に離散。そのまま100人の隊員が行方知れずになってしまった。

アイさんが残った隊員100人を13層の入り口まで非難させてから、残りの行方不明になった100人の無事を確かめるために透明化のスキルで森全体を視認すると、すでに行方不明者は大樹に飲み込まれた後だったという。

けがを負った身で樹海をさまよった挙句、足が遅い隊員は大樹に飲み込まれ、残りの足が速い隊員も休憩がてら木に寄りかかるなどして、木に食われてしまったのだという。


Page:1 2 3



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。