コメディ・ライト小説(新)
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- AIも異世界もないこの世界で、彼女のために、闘う。
- 日時: 2020/06/10 01:20
- 名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi
何気ない昼下がりのことだった。
「ポップメニューに、メッセージが送信されました。」
≪to:ユウキ よー、へたっぴ。お前、てっとりばやくポーション買ってきてぇー、にんずうぶんねぇー。制限時間は5分。遅刻したら置いてきぼりの刑だから≫
スライム狩りをして、レベル上げをしようと思っていたが、あまりにスライムが怖すぎて、退散し、トボトボ帰っていた。
そんな時、自分の視界のポップアップに、クランメンバーからの伝言がピコンっ!という音を立てながら、アナウンスのボイスが聞こえた。これが出てきたらパシリの合図だ。
「≪to:タクム わかった。≫タッタッッ(空中のキーボードを打つ音)」
たまたま町中にいたから、ポーションは早く買えそうだ。早く買ってみんなのところにもっていかなくちゃ。また仲間外れにされちゃう。
町と言っても、ごく簡単な“まち”。村に近い。昔ながらのかやぶきの建物が乱立し、二階建ての建物なんてものは、この村にはない。だから、ぼくみたいな弱い人間には居心地がいいのかもしれない。ほかのクランメンバーはもう少し立地が良くて、レンガだったり、石でできた西洋風の建物に住んでいるクラメンもいる。
僕はポップアップに返信をすると、急いで薬品ショップに向かった。
「ごめんくださーい、あの、ポーションをまた、20本くらいほしいんですけど」
「あら、ゆうきくん。また来たのね。またエネミー狩りにでかけるの?」
「あ、そうなんです。クラメンと。えへへへ」
「気をつけなさいよ。あなたのクラメンの子たち、そんなに強くないから、そんなにポーション買うんでしょ?」
「へ?あ、ああ。いえ、みんなは強いんですけど。主にこれは僕のためですよ、えへへへ」
「あら、そうなの?それならいいんだけど」
この薬局ショップのおばさんは、昔からの知り合いだ。僕がパシリにされているのはもちろん知らない。おばさんは、僕以外のクランメンバーが弱いから、僕が代わりにポーションをみんな分買ってあげているって思っている。でも、実際には逆で、僕が弱いから、ポーションを貢いでいるだけってのは、口が裂けても言えないんだ。なにせ。
この薬局ショップの隣が、僕の家だから。
もしこのおばさんに、僕がクランでのけ者にされているって知ったら、おばさんがお母さんにチクるかもしれない。そしたら、ぼくはあのクランにいられなくなるかもしれない。唯一の居場所だったあのクランに。そうなることだけは、いやだった。
すると、薬局のおばさんから血の気が引く発言が飛び込んできた。
「あらやだ。今ポーション10本しかないわ。この前入荷したはずなんだけど、おかしいわねえ」
「え、10本しかないんですか?」
「そうみたい。10本しか売れないけど、みんな大丈夫かしら?」
「へ?あ、み、みんなは、ぼ、ぼくが守るので大丈夫ですよ!あははは」
「あらそう?ならごめんなさいね。10本ってことで、じゃあ1000円ね。まいどあり」
「じゃあ僕、急がないと。時間もないし」
「そうなの?もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「そういうわけにもいかなくて、それじゃあおばさん、またきます」
「そう。気を付けてね」
薬局のおばさんに、ありがとうございました。と言って、となりの建物へ足早に向かった。
「お母さんに、みんなと狩りに行くって言わないと」
すると、家の玄関近くで、これから買い出しに行こうとサンダルを結ぶお母さんの姿があった。
「お母さん。今日、みんなと狩りに行くから、遅くなる。」
「あらそうなの。いってらっしゃい。気を付けてね。夜までには帰ってきなさい」
「わかった。父さんは?」
「父さんなら、今クエストに出ているみたいよ。なんでも、超高額なクエストらしいから、今日は何かごちそうにしようかしら。だから、ユウキ。今日は友達と遊んでいないで早く帰ってくるのよ」
「わかった。別に遊んではいないけど」
「遊んでいるでしょう。そんな友達とクエストに行ったって、ろくなお金にならないんだから。そろそろユウキも、お手伝いクエストでもやってほしいわ」
「・・・・いってきます」
「あっ!タクムくんにいつも誘ってくれてありがとうって伝えるのよ!」
「・・・・」
僕はその場にいるのが、いやになって、玄関を飛び出した。
・・そう。この世界では、クエストで得れるお金がすべてだ。僕の父さんも、お母さんも、他のこの世界に住んでいる人は全員が、クエストでお金を得ている。エネミーを倒したり、貴重なエネミーを捕まえたり、採集やお手伝いなんてものもある。すべてがクエストだ。
そのお金で僕らは飲んで食べて衣食住を満たす。それがこの世界だ。僕が物心ついた時から、ぼくの世界は、この世界だった。意識が芽生えた時から、といった方が正しいかも。
そんな中で、お母さんが僕に勧めるのが、お手伝いクエスト。おばあちゃんのマッサージや、農家に行って野菜を収穫したり、田植えをするクエストが主になっている。この世界で人口の大半を占める高齢者へのサポートが、お手伝いクエストの大半だ。給料は良い。毎日なにかしらのお手伝いクエストをやれば、家計を支えられる。
でも、ぼくはお父さんみたいなクエストがやりたい。
僕のお父さんは、地下にある99層迷宮での、エネミー討伐クエストによく行く。危険と隣り合わせのこのクエストは、給料もめちゃくちゃいい。敵が強ければ強いほど、給料は跳ね上がる。僕のお父さんはだいたい、99層の中での2層のボスを倒すクエストを毎週2回ほどやっている。週2回で2層のボスを倒すと、ぼくら3人家族の食費と水道代と居住費を賄うことができるらしい。詳しいことは知らないけど。
でも、危険と隣り合わせのクエストでもある。99層迷宮は、死人が良く出る。僕のクランのメンバーの中にも、お父さんを99層迷宮のクエストで失った子がいる。噂によるとだけど、自分の右上に出てくるHPがゼロになると、この世界から消えちゃうとかなんとか聞いたことがある。噂の域を出ないけど。
だから、お手伝いクエストは危険がない分、収入はそんなに良くない。
一方で、エネミー討伐クエストは危険と隣り合わせになるぶん、収入もいいんだ。
だから僕はお父さんみたいな一家の大黒柱になりたい。いつか、お父さんや、ぼくのクランメンバーをあって驚かせるような大偉業を打ち立てるんだ。
「いつになることやら、だけどさ」
僕の職業は、【戦士】。基本ステータスが平均以下で、何のとりえもないジョブ。
ここから進化すれば、かっこいいジョブになるんだけど、敵を倒しに行くのも怖すぎて、レベル上げもできずにいた。
「もっと僕が強かったら、みんなを驚かせることができるんだけどなあ」
現時点で僕のレベルは、まだ7。クランの他のメンバーは、30以上がゴロゴロいる。リーダーのタクムに至っては、もう40に到達するくらい強プレイヤーだ。この世界では、強いものがレベルを上げ、弱いものは取り残されていく。いや、勇気あるものはエネミーに立ち向かい、レベルを上げて経験値を蓄えていき、臆病者はいつまでたっても経験値が上がらいままだ。
僕はまだスライムすらろくに倒せない。レベル2のスライムですら、剣で切れないのだ。おびえてしまう。極度のビビりな僕にとっては、スライムでさえ、名前を言ってはいけないあの人なみの強さがあるのだ。
「はやく、強くなりたい」
ここ最近の、僕の些細な願いで、しかし叶わない願いだ。
そんな愚痴をたれながら、ぼくは村の中心にある転移ポートに向かった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「おせぇよ。お前。ふざけてんの?ポーション10個しかねーじゃねぇか」
転移ポートから転移して、タクムの住む石畳の町の広場に僕とクランメンバーはいた。
薬局のおばさんとお母さんと話をしてたら、2分だけ遅刻した。でも、この怒りようだ。理不尽。このクランのリーダーであるタクムは、僕以外のメンツが遅れても何とも言わない。でも、ぼくだけにはめっぽう厳しい。タクムのクランメンバーは、リーダーであるイケメンだけど性悪なタクム。副リーダーであるアモンとコウタ、そして僕の4人チームだ。なぜ僕がここにいるのかは、想像してほしい。
僕はお父さんみたいに家族を支えられるくらいに強くなりたくて、クエストをやっている同年代のクランに片っ端から応募した。結果的には弱すぎてどこからも、いい返事がもらえず、結果的にこのクランで貢ぐ係をやりながら、経験値のおこぼれをもらっている。
「売り切れで・・」
そんななか僕をいじるメンツのもう一人、アモンが口を開く。彼は、タラコ唇。
「おいおい。お前おつかいすら、できないの?」
毎回心の中で、このタラコ唇が、って心で幾千回も唱えている。
続いて、コウタ。特徴のない顔。だけど、どこかむかつく。
「いいかい、へたっぴ。明日も狩りに行くから、明日はポーション30個。忘れたらマジでモンスターの中に置いてきぼりの刑だからな」
「気を付ける・・」
「んな、びくびくすんなよ。俺ら“トモダチ”だろ?」
「・・・・・」
実際かれらには逆らえない。
僕はまだ一次職の戦士職。
一方で、タクムとアモンとコウタは、戦士職の1個上の二次職である、盾戦士だ。
実力差は歴然。逆らえるなんて思っていない。
そして、お母さんやお父さん、そしてこのクランメンバーしか居場所がない僕にとっては、このクランも居場所のひとつなんだ。
このクランを出ても、他のクランで僕を欲しがってくれる人がいるとは限らない。多少このクランがブラックでもやっていくしかない。経験値のおこぼれをもらいながら、いつかお父さんみたいに、99層迷宮にチャレンジして金持ちになって、お父さんとお母さんを楽させたり、可愛い女の子と一緒にいたり、そんな生活をいつかしたい。というかそれ以外に、生きる意味がないんだ。
なんてったってこの世界の“成功”は、自分自らの強さをどれだけ高められるかだから。
だから、このクランで泥水すすって、生きていくしかない。我慢して雀の涙の経験値を吸い取って、いつか大きくなってやる。そして、タクムやアモンや、コウタを見返してやる。
叱られ終わって、ようやく森に向かおうと転移ポートに入るさなか。
「・・・なにが、置いてきぼりの刑だ、バーカ。いつかお前らを置いてきぼりにしてやる・・・」
自分にだけ聞こえる声で、そうつぶやいた。
そんなこといつか言えたらなあって、思いながら。
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- Re: 異世界移住計画は完了形ですが、世界救済は進行形です ( No.1 )
- 日時: 2020/06/06 17:49
- 名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi
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「おい、タクム。なんかこの森のモンスター、少し強くないか?」
「そうか?そうはおもわないけど」
「って言ってもさあ、俺もまだレベル30になったばっかで、アモンも31だし。タクムだけだぜ40にレベルいってるの」
「そうだよ。この森の推奨レベル35だし、俺らにはまだ荷が重いって」
僕はまだレベル7なんですけどね。
「大丈夫だって、いざとなったら・・、お前らこっちこい」
「なになに?ふんふんふん、ふんふんふん。ああなるほどね。その手があったか」
「タクムやるぅ。すごいね」
「だろっ。ヒヒ」
どうせ僕をおとりに置いていくとか、よからぬことを企んでいるんだろう。見え透いているんだよ、バーカ。もう少しましなひそひそ話をしろ。バーカ。バーカ。
そんなこんなで、森に入ってから、エネミーを前衛の3人がばったばったと倒していく。
エネミーは、ぼくでは絶対に倒せない、虫だとかイノシシだとか鹿のエネミーばかり。スライムでさえ手を焼く僕には、到底太刀打ちできない。
一方僕は、HPが少なくなったクランメンバーの3人を僕がポーションで回復していく。
そこで得た経験値を微量ながらもらい受けつつ、旅を進めていた。
残りのポーションは全部で5つ。そろそろ旅も終盤で、小ボスが出てくるころ合いだろう。
タクムもHPがゼロになりたくないからか、推奨レベル40スタートの99層迷宮には行きたがらない。あそこのボスは、中ボス、大ボスばかり。一方で、森にでてくるのは小ボスばかりで比較的倒しやすいのが特徴だ。
そうこう話していると、アモンが口を開く。
「あ、あれ、小ボスじゃないかな?」
確かに森の奥の開けた場所になにやら、大きめな影が見える。
タクムが大きな声で剣を上にかざしながら、声高らかに向かっていく。
「よしいくぞ二人とも!」
僕もいるけどね。
ようやく森が開けた。そこにいたのは、あきらかに小ボス。
ではなく。
「gururururururururuhaahahhaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaァぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁあああああああ!!!!!!!!!!」
明らかに中ボスサイズの敵だった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「なんでこんな森にケルベロスが・・。99層迷宮に住むエネミーのはずじゃ・・」
「gururururururururuaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」
「ヒィィ!な、なんかの間違いだよな。な。俺らここで死なないよな?な?」
コウタとアモンが口々にうろたえる。
ケルベロスはアモンが言った通り、99層迷宮の5層ボスに位置するエネミーだ。なんでそんな化け物がこんな森にいるんだよ!
僕のステータスは、まだレベル7。先の戦闘でポーションはすでに5個しか残っていない。
仲間の戦力も、アモンとコウタはレベル30。タクムはレベル40だけど。
ケルベロスの推奨レベルは、40と出ている。
前衛3人のレベルの平均をとっても、たった33レベル。推奨レベルには到底及ばない。
「怯むな!推奨レベルが40だからって、別に40レベルないとだめってわけじゃねーだろ!」
タクムが全員を奮起させるために声を上げる。一方、アモンとコウタは足がすくんで動けないらしい。ところで、ぼくの方は言うと。
(死ぬのかな。僕)
死期を感じていた。
さっき3人がしていたひそひそ話。もし、3人がピンチになったら僕がおとりになるとか、そんな話をしていたんだと予想する。ということは、
ぼくを置いて、逃げるつもりなんだろうか。
ぼくより素早さのステータスが3倍も4倍も高い彼らには、絶対足の速さでは追いつかない。もし置いてきぼりにされたら、確実に僕だけ逃げられない。
いやだ死にたくない。
「gるるるahahhhhhuruuruuuuuuuuuuuuuuu!!!!!!!!!!!!!!」
っ!
ケルベロスの咆哮が森中に響いたと同時に、森中の小型の鳥エネミーが飛散する。と同時に、ケルベロス特有の3つの口から、それぞれどす黒い色の魔炎弾を吐いてきた。
「🔥🔥🔥」
3つの口からそれぞれ、タクム、アモン、コウタに向けられる。全員が戦士職の二次職である盾戦士である彼らは、各々の盾でその魔炎弾を防ぐために、盾を構える。
「来るぞ!」
というタクムの号令と同時に、魔炎弾が3人の盾に爆音をあげながらぶつかる。
3人の盾さえ砕けなかったが、タクムを含めて3人のHPがごそっと、半分近く減っていった。この時3人は同時に気が付いた。強敵の攻撃を一度食らっただけで分かる、あの現象。
絶対にコイツには勝てない、とわかったのだ。
全員がおびえながらケルベロスをみるなか、アモンが震えたタラコ唇を開く。
「たた、タクム。や、ややばい。っつつ、強すぎる、おおおおぉ俺ら負けちゃう。に、逃げよう。さっき言ったみたいに、おおおおお置いてこう、ぁぁああいつ」
次に、足をがくがくに震わせたコウタが口を開く。
「そ、そ、そうだよ、アモンの言うとおりだ。むムムム、無理だって、今の俺らじゃ、っぁかか、勝ててない・・」
二人から逃げる指示をするように仰がれたタクムは、二人よりも切羽詰まっていた。
タクムが切羽詰まっている中でも、ケルベロスはグルルルルという声を立てながら、次の魔弾を吐き出すMPをためているのが、ケルベロスのHP・MPゲージを確認して分かる。
このままじゃ、さっき陰で話してたみたいに、僕は置いてかれるのか。でも、タクムは意外と強いし、頼りがいも少しはあるし、戦力的にも互角なんじゃ・・。
「ぃひぃひいいいいいいいい、にに、逃げろ!!!!!!!へたっぴ置いて、逃げろォォぉぉおおおおお!」
そんな悲痛な声が、森中に響き渡った。
こんなタクム、僕がこのクランに入ってから初めて見た。
いやでも、そんなこと言っている場合ではない。僕を置いて逃げる?あんまりだ。
いくらなんでもそれはない。この状況なら、盾で防ぎながら4人で逃げかえることだってできるのに。なんで。
「そ、そんな!僕、ポーションでみんなを回復して戦うのに!!」
ぼくからの悲痛な叫びをするも、それは残念ながら他の3人には届かない。
「おまえ!!ポーションあるんだから、逃げながら回復できるだろ!!俺らが逃げる方角に連れてくるなよ!絶対だぞ、絶対だからな!!!」
そういってタクムたち3人は、僕の3倍以上はある足の速さで森の奥に消えていこうとする。
「そんな、待って!ぼくたち、クランの仲間じゃ!」
「お前みたいなへたっぴ、仲間にした覚えねぇよ!はなっから、ポーション役だお前は!」
「そ、そんな・・。ま、待って!僕も、連れて行って・・・!」
僕がクランメンバーをめがけて走りだそうとした次の瞬間、非情にもケルベロスは逃げ遅れた僕を待ってはくれなかった。
「GURURURUURaduqadaedadqfaefsrmkvkewr-svfw-e-raaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
ものすごい轟音を挙げて、今まさに、3つの口から魔炎弾が放たれようとしていた。
まずい。逃げなきゃ。
とっさにそう判断して、開けた場所から森の奥に逃げようとする。もちろんタクムたちと同じ方角に。タクムたちと逃げれれば、生き残るチャンスはある。
しかし、そんな甘い考えをかき消すかごとく、
「GYAAAAAAAAayayyaaaaaaaaaaaamaennnnnnnnnnnnnnnnnnnnneaaaaaaaaaaaaaaaam」
魔炎弾が僕とケルベロスの周囲を取り囲むようにして放たれた。
「っ!」
魔炎弾の残り火が、僕を逃げられないよう包囲している。
そんな四面楚歌状態の僕を、魔炎弾の残り火から見つめる3人の姿があった。
3人はおびえた顔でこちらを見ている。しかし、そのおびえた顔には少なからず安堵感がにじみ出ているようにすら感じられた。
「い、今のうちだ。にげるぞ!」
そういって、ついにタクムたちは森の奥に消えていった。
しかし、今の僕にはこの魔炎弾の残り火を乗り超えて、3人を追いかける手段はない。
魔炎弾の残り火に近づけば近づくほど、僕のHPは削られていく。
万が一、炎を超えられたとしても、やけど状態になるのは必至だ。
その状態で僕一人で森の中の敵を倒しながら、村に帰るのは不可能に近い。
やけど薬も持っていない。ポーションもあと5つしかない。そんな中、レベル7の僕がこの森を一人で抜けることは、不可能なことだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
僕は今の状況を分析して、途方に暮れてた。もう打つ手はない。
この炎を渡って森に行っても生き残る手段はない。
推奨レベル40のケルベロスに、レベル7の僕が勝てる手段もない。
ましてや、この残り火をかき消す水系の呪文も使えない。
もう、何も打つ手がなかった。
「・・・・っくそ」
分かっていたことだった。タクムたちに仲間だと思われていないことは。
でも、タクムなら、と心のどこかで思っていた。
クランリーダーなら、もっとなにか手を尽くしてくれるかと思っていた。
でも、僕が馬鹿だった。
クソ。クソ、クソ。僕が馬鹿だった。
クソ。クソ。クソ、クソ、クソ!僕が甘かった。
クランだからって安心してた自分が馬鹿だった!
クランなら万が一の時があっても守ってくれるって
どこかで甘いこと考えてた。
クソ!なんだ、全然僕らは仲間同士じゃないっ。
始めっから、ポーション要因として利用されていただけだった。
これじゃあ、希望を持っていた自分が馬鹿みたいだ。
これなら、誰も信じない方がましだったのに。
「クソ!クソ!クソ!ぅうううううううううう、う、うう」
いたたまれない声が森中に響き渡る。
しかし、そんな僕の泣き声を、ケルベロスの咆哮がかき消した。
「GYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」
待ちくたびれたぞ、と言わんばかりに僕のことを見つめる、ケルベロス。
僕の周りを取り囲んだ、魔炎弾の残り火によって、僕の体力はじりじり減っていく。
対してケルベロスの体力は、魔弾の残り火によっては減る様子もなく、依然としてHPゲージは満タン。
5個のポーションと自分の力でコイツを倒す、それができれば帰れるかもしれない。
しかし、勝てるわけがない。レベル差は歴然。魔炎弾の威力は、レベル30以上のタクムたちをHPゲージを半分まで削るほどの威力。
どうみたって勝ち目はなかった。
だから、僕に唯一残されている選択肢は、
たった5個のポーションで、可能な限り長く延命することだけだった。
「ふふふふふっ、ハハハハハははははは」
笑えてきた。一周回って。
家の出も貧しく、あんなにへたっぴと蔑まれて、金を貢がせられ、ポーションを買わされ、終いにはこれだ。笑うしかない。
僕が信じていた友情とかは全くなかった。
あったのはいじめられていた事実と、パシリにされていたことだけだった。
全く散々だ。散々な人生だ。
散々な人生だから、
あいつらに復讐してやる。
あいつらに、一生の罪を抱えさせてやる。
「こいっ!!!ケルベロス、俺を殺せ!!」
僕があげた怒鳴り声とともに、ケルベロスの3つの首が同時に雄たけびをあげた。
ハハ・・。
お前らが散々蔑んだ僕が、ここで死んでやる。
しかもありったけの時間をかけて。
僕がお前らを助けてやる。
ポーション5個使って、ケルベロスの攻撃を避けて避けて避けまくって。
お前らが村に戻れるくらいの時間を稼いでやる。
そうして、伝えろ、僕の存在を。僕がいた過去を。僕がいた証明をしろ。
そうして、そうして、お前らは・・。
「見捨てた人間に、生かされた記憶を抱えて、この先未来永劫生き続けろォ!」
僕の独白と同時に、ケルベロスが僕に向かって3つの魔炎弾を放つ。
「ッ!」
間一髪で3つとも避けるが、熱すぎる魔炎弾の残り火が、自分の元居た場所に広がる。その熱気でHPを削られ、もうHPは半分になってしまった。
「くそ、一本目のポーション」
一本目のポーションを飲み干すと、次の魔炎弾の攻撃に備えて、身構える。どうやらこのケルベロスは魔炎弾しか放ってこないらしく、攻撃パターンは予測しやすい。ダメージも避けられるかは、別の話だが。このままだと、魔炎弾の熱気のダメージも換算すると、避けても僕のHPはそこを突くことは間違いなかった。
「へへへへ。望むところだ。」
いいさ死んでやる。このまま死んであの世にでもなんでも行ってやる。
そしてあの世から、生き残ったあいつらを笑ってやる。
見捨てた人間に助けられた記憶を抱えて、未来永劫無様に生きろ。
そして、その姿を見て、あの世から言うんだ。
「ざまあみろ!!!」
僕はケルベロスの方を向きながら、そう叫んだ。
もうそれを伝えるべき人間はもうここにはいない。
対するケルベロスの方も、3つの首をそろえて、魔炎弾を僕に向かって撃ち込もうとしてくる。
ここから、多分もって2・3分だろう。それくらいあればあいつらは逃げて帰れる。
そうして、あいつらは俺の残像を感じながら、この先一生生き続けるんだ。
ははは、ざまあみろ。
ケルベロスの魔炎弾が僕に向かって放たれる。
もう、今死んでしまってもいいか。
多少の誤差は、大丈夫だろう。あいつらも村に逃げれる分の時間稼ぎはできたはずだ。
もう疲れた。
魔炎弾を受け入れ、焼け焦げて死のう。
そう思って、両膝を地につけた。
そうして魔炎弾が、僕に向かって降り注ぎ、僕の体を焼失させ・・・・・・、れなかった。
「よく耐えたな。少年」
見知らぬ声が、僕の耳に届く。同時に、バゴーーーン!!という衝撃音が僕の前方で鳴り響く。3つの魔炎弾をかき消された音だとわかるまで、コンマ1秒程度かかった。
何事かと思い前を向く。
その先には、
2本の黒い長刀を手に持った、一人の少女がいた。
- Re: 異世界移住計画は完了形ですが、世界救済は進行形です ( No.2 )
- 日時: 2020/06/06 14:47
- 名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
彼女は黒髪をたなびかせ、黒色の鎧を身にまとった少女だった。
刀の色も、黒色。どんな黒よりも黒い、漆黒の二輪刀だ。
そのいかにも熱を通しやすそうな2つの刀がいとも簡単に、ケルベロスの魔炎弾をかき消したのだ。
「・・・・きれいだ・・」
僕は言葉が出なかった。綺麗と言うしかない。彼女の立ち姿は、細いその身に似合わず、勇ましかった。僕よりも少し身長の高い彼女は、僕の目の前で盾としてケルベロスに立ち向かっていた。“綺麗”という言葉が最も似合う、そんな立ち姿だった。
「さて、私はコイツを倒してくるから、君は少し後ろに下がっていろ。魔炎弾の残り火には近づかないようにな」
そういわれて、僕は「ハイ」と言う以外なく、おとなしく後方に下がった。
僕が後ろに下がったのを、横目で確認した後彼女は、
ものすごいスピードでケルベロスに切りかかっていった。
「・・・ッ」
今まで見た誰よりも速いスピードで、彼女はケルベロスに切りかかっていく。彼女は高くジャンプし、ケルベロスの首をかっきるために、黒色の二輪刀を構える。ジャンプの高度は優にケルベロスの首の高さを越し、ケルベロスが見上げる形になった。
「GYASaw3&%$E%#%%#&$&$&$%$#%$#%’&~aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
ケルベロスは今までで一番不気味な声をあげて、6つの目が彼女をにらむ。まるで“やっと骨のある敵が来た”と言わんばかりに、どう猛な唸り声をあげて、彼女を焼き尽すために、その三つ首から魔炎弾を放とうとしていた。しかし、それは叶わず。
「睡蓮華」
ケルベロスがどす黒い魔炎弾を放つ前に、綺麗な漆黒の斬撃がケルベロスの3つの首を同時に掻き切った。
「gayae・・・・・・・ぁ」
三つ首を切られたケルベロスは、声にならない声を最後に出して、青色のポリゴンになって虚空に消えていった。
「す、すごい・・」
シュタッっと地上に降り立った少女は、まるで黒ずくめの天使だった。強くて、可憐で、そして何よりも綺麗だった。
少女は地上に降り立つと、あぜんとしている僕の方に向き返り、こう言った。
「君、名前は?」
「え・・・?あ・・・、ゆ、ユウキ、です」
「そうか、ユウキ君。君の勇気を買おう。私とともに来てくれないか」
そう言うと少女は僕に近づいてきた。近づかれるとわかる、少女は僕よりも全然背が高い、少女というには似つかない背丈だった。ちょうど僕よりも5~7センチ高いその姿は、やはり勇ましくて、可憐で、綺麗だった。
「私のクラン、レジスタンスへ」
- Re: 異世界移住計画は完了形ですが、世界救済は進行形です ( No.3 )
- 日時: 2020/06/06 15:08
- 名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi
ついに第一章が終わりました。
一章の構成は、①いじめの過去と、②少女との初対面
という二本立てでした。
一章:いじめと初対面🔥
二章:レジスタンスと99層迷宮
三章:二つ前のセーブ画面へ
四章:99層
五章:荒野より君に問う―好きだった世界を取り戻せ―
この五章構成で進んでいきます。
一章が大体一万字だったので、
全体では、およそ五万字ですね。
ラノベで言うと、100ページくらいで終わる短編になってます。
短い間ではございますが、これからなにとぞよろしくお願い致します!
- Re: 異世界移住計画は完了形ですが、世界救済は進行形です ( No.4 )
- 日時: 2020/06/06 17:48
- 名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi
突然のクランへの誘いに戸惑いを隠せない。
「って、あなた誰ですか」
「ン?ああ、スマン、申し遅れたな。私はレジスタンスというクランで、リーダーをしているアイだ。宜しく頼む」
アイさんと名乗る少女は、僕に向かって手を差し出し、握手を求める。その手は先ほどの攻撃とは打って変わって、繊細で真っ白な手だった。剣を握っていたとは思えないその華奢な体は、オーラを身にまとい、人を惹きつける魅力があった。
ただ、そんな彼女に「はいそうですか。宜しくお願いします」と言えるほど、僕の危険度センサーはぶっ壊れてはいない。なにやら怪しい匂いはぷんぷんするのだ。タクムのパーティーにいた時だって騙されてきたんだ。そう簡単に騙されてなるものか。
「で、そんなアイさんがなんで僕を助けてくれたんですか」
「たまたま森に用があったんだ。そうしたら、逃げ帰って来る連中がいたもんだから、どんな敵がいるのかと見に行ってみたら、君がいたんだ」
タクムたちのことだろう。逃げ帰った連中というのは。そんなところに居合わせるなんて、幸運だな僕も。ただ、今の答えは僕を助けた理由にはなっていない。僕を見殺しにもできたはずなのに。
「でも、なんで助けてくれたんですか、見殺しにもできたでしょう」
「ンー。そうだな。自分より強い敵に対して、一歩もひるむことなく、立ち向かった。その姿勢を買った。というのではダメだろうか?」
なんだそれ。どっかの熱血教師かなんかか。美化しすぎだ。ただ僕はあいつらに思い知らせてやりたかっただけなのに。そんな大それたことじゃなかったんだ。ただ、生き残ったやつらに、見捨てた人間の記憶を抱えて、生きてほしかっただけだった。
それなのに。
「美化しすぎです。僕はそんな人間じゃない。のろまで、クズで、最低な人間です」
「君がいくらそう感じようとも、君の闘う姿勢は素晴らしかった。勇気に満ち溢れていたよ」
あれは別に勇気なんかじゃない。ただの復讐心なんだ、わかっていない。僕はそんな高尚な人間なんかじゃないんだ。僕はあなたと喋れるような人間じゃない。あなたのように強さもない。可憐さもない。綺麗でもない。弱くて、どす黒くて、汚い。そんな人間なんだ。
「だから、そんな君をだな、ぜひ私たちのクランに招待したい。つまり勧誘だな」
そんな高尚な人間じゃない。
じゃないけど。
このクランに入っても、また裏切られるかもしれないけど。
それでも。
僕はこの人の慈悲に報いたい。
弱い僕を、惨めな僕を助けてくれたこの人のために働きたい。だって、今までの人生で、僕のことを助けてくれた唯一の人だったから。
だからこの人のために、できることならやりたい。と、この時の僕はそう思っていた。
「僕はあの時、あなたが助けてくれなかったら、ケルベロスに焼き殺されて死んでいました。だから、助けられた分、あなたに報いたい!だから僕、なんでもします!」
それは僕の本心だった。助けてくれた恩義を返す。それが僕にできる唯一のことだった。
しかし、僕の独白の一方で、彼女の反応は芳しいものではなかった。
「報いる、か。それは違うよ、ユウキ君。君のように絶体絶命の場面で自分の心を奮い立たすことができる人間は少ない。その力は何にも代えがたい力だ。そんな君の力を、私に課してほしい。私にないその力を持つ君なら、ついにやってくれるかもしれないから。だから君の力を、私に預けてほしい」
「・・・・?それって、どういう?」
「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ。それよりも、なんでもするということは、レジスタンスに入ってくれるという認識で構わないか?」
「・・ハイ。できることなら、なんでもします!」
ポーション運びだってかまわない。剣を研ぐことだってかまわない。タンクになって盾になってもいい。なにかこの人に、唯一僕を助けてくれたこの人のためになることがしたい。
「そうか。断られるのを覚悟だったが、訊いてみるもんだな」
コホンと咳払いすると、アイさんは続けてクランへの招待メッセージを僕に送信した。
続いて、≪to:ユウキさん 見知らぬプレイヤーからのメッセージです。 クランへの招待のご連絡です≫のメールが、ポップアップに表示される。
ここにサインすれば、僕はアイさんのクラン、レジスタンスに参画することになる。聞いたこともないクランだが、アイさんがクランリーダーをしているということは恐ろしく強いクランなのだろう。
一抹の不安を抱えながら、僕は送られてきたメッセージに≪ユウキ≫とサインをする。
いいんだ。僕の役目は、別に仲間を作ることじゃない。この人のために、動くことだから。
サインして、アイさんに返信をすると、アイさんは満面の笑みで僕の方を見つめた。
「これで登録完了だ。ようこそ、私たちのクラン、レジスタンスへ。これからよろしく頼む、ユウキ君」
その言葉に赤面しそうになりながら、小声で照れ臭そうに「はい・・」という僕がいた。