コメディ・ライト小説(新)

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元勇者、居候になる
日時: 2020/08/24 19:34
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: 4mrTcNGz)

>>16(途中報告)


「転生……?つまり……?」

元勇者は、現代に転生していた。
それは、元魔王も同じで。

「そう!勇者も私も転生したの!この平和な世界に……!
って訳でもう勇者の家は無いから、私の家に住んじゃえ!」

元勇者は倒れてた所を元勇者より数年先に転生した元魔王に拾われて。

「すまない、何言ってるか解らない」

現代に馴染んた元魔王の家に、転生したての元勇者は居候する事になり______




このお話は、慣れない世界で試行錯誤してく元勇者と、そんな彼と楽しく過ごすのは、現代慣れした元魔王。平和な日常、偶にトラブル有りな、二人の少年少女によるラブコメディ


________________________
_________________

嘘です。構想段階でシリアスどんどん出てきました。そもそも過去設定が重いです。ラブコメディもするけどシリアス多めです。特にあるキャラのシリアス度合いがヤバくなりそうです。なので地雷な方は回れ右を。




お久しぶりです。覚えてる方はいないかと思いますが、蒼星という者です。
長らく(数ヶ月)失踪しておりました。申しわけありません。

コメライ板『不良部長と私の空想科学部』、二次総合板『クロスな日常物語』を執筆していた者です。
小説に対する熱意が半端なモノだったので(なりきりと平行……というよりなりきり優先だった)ネタが思い浮かばず失踪に至りました。今度は真面目にやります。が、執筆速度は自分のペースでいきます。日常物語みたいにかなりの速度で書いてて失踪になりたくないのでね。それとなりきりは止めときます。失踪したくないので。高校始まって忙しいのでね。
そんなこんなですが、それでも良いという方は宜しくお願いします!









#目次(ちょくちょく配置変わってすいません)

>>0- (一気に見る人用)

>>1 プロローグ
>>2 キャラ説明No1(仙李&雪永)
>>15 キャラ説明No2(勇里、春香、菖蒲、仁愛、優糸)

Episode1
>>3-4 大切な思い出
>>5 幕間 夜の魔王様

Episode2
>>6-13 注目を浴びる
>>14 幕間

Episode3
>>17- 予期せぬ出会い

Re: 元勇者、居候になる ( No.10 )
日時: 2020/08/15 11:09
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: A3jnu3NM)

#注目を浴びる-5

「ユーリさん……いや、栖川先生。まさか貴方もこの世界に来てるとは……」
「あはは。驚いたでしょ。まあ自分も君がここに来てると聞いて驚かされたんだけど。
まぁ取り敢えず座って」

仙李の言葉に、勇里は手で頭を掻きながら呟いては、部屋の奥から2つの椅子を引っ張りだしては座るように催促するので、仙李は素直に座る。その後勇里ももう1つの椅子に深く腰掛けた。

「驚きましたよ。
ついこないだ雪永に勇里さんが私と出会ったときには既に転生していたって聞いたばかりで……という事は、2度目の転生なんですか?」

途中まで喋るも、仙李は自身が話した言葉でふとある疑問が浮かび、その事について勇里に尋ねる。

「そう言うとことになるね。
自分でも驚いてる。2回記憶を保持して転生したこともあるけど、なにより……この世界さ、あっちの世界に転生する前の世界と同じ世界なんだよ。探したら過去の自分の家もあったし。ただ当然死んだ事になってる……それに、あっちの世界に居た時も時間は進んじゃってたから戻れないけどね」

勇里は頷くと、小さく笑みを浮かべた。けれど、傍から見ればどう見えも無理に笑っているようにしか見えなくて。
______家族に会いたくても会えない、あったとしても信じようもないし、今更戻ったとて迷惑だから。彼が遠回しでそう言ってるような、そんな気もした仙李だが、久しぶりにあった人が軽い気持ちで踏み入っていけない領域なのも同時に理解し、彼の事も考えて話題を逸らすことにした。

「そういえば勇里さん、私に合う前から転入生が私だって解ってったような口ぶりですが、そのところどうなんですか?」
「なんでって言われると……そりゃ保護者が親戚扱いの魔王様……雪永だから察せるよ。それに今さっき雪永と通話してたし」
「なる程。雪永とはここでも知り合ってたんですね」
「うん。結構前に偶然会ってね」

仙李が尋ねれば勇里はいつも通りの声調に戻って軽口を叩く。その様子を見て内心安堵した。

「あ……
それとね。この学校にもう1人、転生した人がいるよ」

勇里は何かを思い出したように呟くと、そんな大事な事を軽いノリで伝えてきた。

「なんと……誰ですか?」
「それは秘密って事で。近いうちに会う事になるだろうから。まぁそれは置いといて、そろそろ本題進もっか。時間も限られてるからざっくり説明するよ」

仙李が尋ねても勇里は意地悪っぽく笑うと、彼の鞄から書類を取り出す。
近いうちに、という事は同じ学級か担任か教科担任の教師だろうかと考察する。

「この学校の事は事前にある程度雪永に教えてもらったと思いたいから置いといて。
これ、1日のスケジュール」

勇里から差し出された紙を受け取ると、時間割の話……50分授業が1日6時間形式の事や、転入する教室は3年B組であること、この学校の校則、部活動やバイトの申請とバイト可能な職種についてなど必要な話を簡潔にしてもらった。彼の説明は、仙李がイキシアだった頃に世界情勢を教えてもらった時のように解りやすくて、すぐ憶える事ができた。

「これでおしまい。えっと、今の時間は……始業式中かぁ。
……教室入るのは次の学級活動からでいいからちょっとお話してかない?」
「え……?大丈夫なんですか?」

話が終わると、勇里は彼の腕時計を確認しては、ニコニコしながらそんな提案をする。授業中なのだからいけないのでは?と思い尋ねるも……

「ヘーキヘーキ。本来説明にこの時間丸々使う予定だったし。仙李の物覚えがいいから早く終わっただけ。最悪何か言われても権力で誤魔化すよ。校長先生は会議かなんかで居ないし」

そんな返答がきた。現在の勇里の地位である教頭は学校のトップの校長の次に偉いので、悪い方向に事が進んだら職権乱用するつもりらしい。それこそ駄目だろう、そう思う仙李だったが、そもそもこの時間は丸々説明に割く予定だったのなら大丈夫かと思い直す。

「でも話って言っても、何するんですか?」

説明が終わったのだから、もう話すこともないだろう。そう予測し尋ねれば、案の定勇里は「あ」と呟き、そういえば……と言わんばかりに視線を逸らす。
そのまま暫く沈黙が訪れてしまい、彼は痺れを切らしたようで溜息を吐いては頬杖の体制をとり……

「清水君、話題はないかな?」
「私に振らないでください」

開き直って仙李に話題提供を求めてきた。
それに対し仙李は即拒否する。

「あーもー、仙李はノリ悪いなぁ」
「そう言われても……」

子供のように頬を膨らませる勇里に苦笑いを浮かべる仙李。仙李のその言葉を聞いた勇里は「だよねー……仙李はこの世界来たばかりだもんね」と右手で頭を掻く。

「あー、なら……この世界に来たばかりの仙李に色々教えるよ。雪永は成人済とはいえ学生の立ち場だから、自分より持ってる情報少ないだろうし。それでいい?」
「はい。それでお願いします」

その後、勇里が妥協案を出してきたので、その案を飲んだ。

勇里の話は、大方雪永から聞いた話と似たような事だが、彼が言った通り知らないこともそれなりにあって、仙李にとっていい収穫だった。



「そういやさ、ふと思ったんだけど……
職員室の場所よく解ったね?事前に雪永に伝え忘れたから知らなかったと思ったんだけど……」

話初めてから暫くして。勇里がこちらに人差し指を向けながら首を傾げる。

「ああ、その事ですか。それなら、親切な方に案内して貰ったんです。確か……黒須春香さんという生徒会長に」
「……!」

仙李が親切な女性の名前を思い出しながら話せば、勇里は突然目を見開いては固まったように動かなくなり。心配して彼の名前を呼べば、彼は「大丈夫」と返す。が、とてもそんなようには見えなかった。

「……大丈夫じゃないですよね。どうしたんですか?もしかして、春香さんと……」

少し前の無理につくった笑顔といい今の事といい、流石に仙李は彼を放っておけなくて問いただそうとする。
しかし、次の言葉を言いかけた途中で、授業の終了を知らせるチャイムが校舎中に鳴り響いた。

「ほ、ほら始業式終わったし、教室に行く準備しなきゃ!遅れちゃうよ」

そのチャイムをいい事に、勇里は話をはぐらかした。とはいえ彼の言う事は正しいので、仙李は問いただすのを止めて、生徒証などを仕舞い準備をする。

______もう時間は無いが、やはり今の勇里さんは心配だ……春香さんと関係がありそうだから、彼女に会えたら心当たりがないか聞いてみるか。

そんな事を考えながら部屋を出ると、勇里が「待った!」と引き止めてきて。

「どうしたんですか?」
「こういう2人きりの時は今の呼び方でいいけど、自分達の前世の事知らない人の前では『清水君』って呼ばせてもらうから」
「はい、解りました。ならば私も『栖川先生』と呼んだほうが……?」

勇里からのお願いに2つ返事で了承する。確かに生徒と教師が下の名前で呼び合ってたら……他の生徒でも平等に名前で呼ぶなら別だが、そうでない場合何か関係があるのではと疑われる可能性がある。

「うん、そっちのほうが助かるよ。これだけの為に引き止めてごめんね」
「いえ、お気になさらず。では、いってきます」
「うん!初学校頑張ってね!」

部屋の出口で勇里に向かってそう挨拶をすれば、彼は手を振り応援をしてくれた。彼に見送られながら、仙李は廊下に出て、その足で教室に向かった。

Re: 元勇者、居候になる ( No.11 )
日時: 2020/08/16 13:00
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: YjkuwNYn)

#注目を浴びる-6

勇里に書類諸々渡された時に一緒に貰った校内地図を右手に、仙李は3年B組に向かって歩いていく。
仙李が教室に着いた頃には既に学級活動が始まってたようで、教室から教師らしき人物の声がした。

教室のドアを軽くノックすると、担任の先生であろう人物はこちらに気づき教室から出てくる。

「あ、貴方が転入生の清水さん?」
「はい」
「来て貰った早々で悪いけど、今は学級で話ししてるので少しだけ待っててくれる?その間自己紹介とか考えてね」
「解りました」

先生は言うだけ言うと、教室に戻っていく。廊下に残された仙李は1人悩んでいた。

______自己紹介ってどうすればいいんだ……!?

前世の事も入れるのなら山程話す事があるが、今の仙李はこの世界に来たばかり。話す事が無さ過ぎるのだ。そもそも仙李が元の世界での自己紹介といえば、名前と地位……自身でいう勇者の肩書のみ。この世界での……否、学校での自己紹介については雪永からなんとなく聞いたものの話す事が無いのでどうしようもない。
そんなこんなで悩んでいると、もう時間切れなようで、先程の先生から「入ってきて良いよ」と言われた。
時間切れなのならば仕方ない、と観念して教室に足を踏み入れる。
教室に入ったとたん、何やら教室が騒がしくなる。

「こら、静かに!
……清水さん、黒板に名前書いて自己紹介して」

けれど、先生の一喝で教室は静かになり、先生から白く太くて短い棒状のものを渡される。
______確か……これはチョークだな。で、黒板が後ろの黒い板か?先程勇里さんに聞いた知識がもう役に立つとは。
心の中で勇里に感謝しつつ、黒板にチョークを使って大きく自身の名前を書く。そしてチョークを先生に渡した。

「はじめまして、今日からこのクラスで勉強することになりました、清水仙李です」

取り敢えず挨拶をして名乗った。
しかし、この後どうすれば……そう悩んでた仙李に助けて舟が来る。

「緊張しなくても大丈夫。
適当に得意教科とか趣味とか頑張りたいこととか言ってくれればいいから」

緊張は殆どしてないのだが、困惑で引きっつた笑顔になってた今の仙李を、先生は緊張してると勘違いしたのだろう。だが、勘違いだろうと助かったのには変わりない。

「は、はい。
えっと……得意教科は特に無いですが運動については自信があります。趣味……趣味とは少し違うかもしれませんが食べる事が好きです。まだまだ知らない事が多いので、ここで沢山の事を学んでいきたいです。宜しくお願いします」

そう言い切っては軽くお辞儀をする。運動については自信はある。これでも元勇者なのだから、走る事は勿論、泳ぐ事や幅跳びその他、身体を動かす事全般を仙李は得意とする。実際、仙李の身体能力は勇者時代の全盛期よりは衰えているが一般人の高校生より圧倒的に上である。
お辞儀をすると、生徒達が一斉に拍手をした。反応を見るにこれで正解のようだ。

「はい、ありがとう!
清水さんの席はあららぎさんの隣ね。あ、蘭さんは……」
「ここです」

先生に座席について言われ、位置について言うとしたら、窓際の後ろの席に座ってる1人の女子生徒が挙手をする。恐らく彼女が蘭という名の生徒だろう。

「ありがと、蘭さん。
清水さん、あそこね」
「解りました」

仙李は頷くと、蘭という女子生徒の隣の席に座る。

「はじめまして、清水さん。あららぎ菖蒲あやめです。宜しくお願いします」
「こちらこそ。宜しくお願いします、菖蒲さん」
「はい」

座ってすぐ、蘭こと菖蒲が名乗りあげてきたので、こちらも名乗り手を差し出すと、菖蒲はその手を握り微笑んだ。
その後、先生が話し始め、これからの事等の話しを終えこの時間の授業は終わった。


そして、休み時間。暇なので適当に本でも読んでようとしたら、いつの間にか仙李の周りには沢山の生徒が集まっていた。

「ねぇ清水さん、前の高校はどこ?」
「ああ、それは……」
「清水君、運動得意なら陸上部こない?」
「すまない、部活に入るつもりは……」
「それより、食べるの好きなら料理研究部に来なよ!」
「ちょ……」
「仙李君はどっから通ってるの?電車、バス?」
「まっ……」
「清水さん______」
「仙李______」

「すとぉぉぉぷ!」
「「「「「「!?」」」」」」

360°から質問攻めに会い、回答が追いつかず慌ててたところに、菖蒲の静止の声がかかる。

「清水さんが困ってるでしょ」
「「「「「すいません……」」」」」

菖蒲に注意された人達が罰の悪そうにしながら散っていった。

「清水さん大丈夫でしたか?」
「はい、お陰様で。ありがとうございます」
「どういたしまして」

心配そうに菖蒲が問いかけてくるので、大丈夫だと頷く。
その人達には少し申し訳無いが、このまま質問攻めされたら仙李の処理能力が持たないので今は菖蒲に感謝する。何かお礼をしなくては、そう考えた時には次の授業の開始を告げるチャイムが鳴ってしまった。先日の女性といい朝の春香さんといい時間のせいでお礼が出来なかったし、最近は何かと時間に邪魔されてばかりだな、と思う仙李であった。

「次は……確か数学でしたね。清水さんが前に居た学校はどうだったか知りませんが……この学校は始業式の日でも通常授業もあって、いつも通り6時間授業があるんですよ」
「そうなんですね」

菖蒲は数学の教科書を出しながら説明してくれた。仙李にはこれが普通なのか解らないので取り敢えず相槌を打つ。
そんなタイミングで、教室の扉は開かれ、数学の教科担任である教室が入ってきて。生徒達は授業開始の挨拶をし、数学の授業が始まった。

Re: 元勇者、居候になる ( No.12 )
日時: 2020/08/17 15:57
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: 0nxNeEFs)

#注目を浴びる-7

あれから2時間後。午前中の授業が終わり昼休み。
昼休みは50分あり、基本自由時間だが、大抵の生徒は昼休みの半分程を昼食をとる時間に使う。
それは、仙李も例外ではない。

昼食は弁当の持参か、学校のラウンジに隣接している購買で買うかの2択であるが、仙李は弁当を所持してないので購買で買う事にし、購買へと向かおうとする。その時……

「清水さん、お昼はどうされるんですか?」
「購買で買うつもりです」
「私もです!よければ一緒に行きませんか……?」

菖蒲に尋ねられたので素直に答えると、同行のお誘いが。

「いいですが……
私なんかでいいんですか?まだ出会ったばかりなのに……」
「はい。午前中仙李さんと一緒に授業受けて、いい人そうだと感じたので仲良くなっておきたいと思って。それと、昼食後の時間にでも校内を案内しようかと」
「そういう事ならご一緒させていただきます」

いい人そう、そう言われ気分が良くなった仙李は頷いて誘いを承諾する。いい人というイメージを持って貰えるのは普通なら気分が良くなるものだ。

「ありがとうございます。なら、向かいましょうか」
「はい」

彼女は鞄を背負い、教室から出て早歩きで購買へと向かい、仙李もその隣を歩いていく。


到着すれば、既にラウンジに沢山人がいて、購買も行列ができていた。

「すごい人数だな……」
「ですよね。
この購買のカレーパンが人気なんですけど、数に限りがあるのでみんな買う為に急いきてるんですよ。私もこのカレーパンは好きなんです」
「へぇ……それでこんなにならんでるんですね。……買えたら私も買ってみます」

人の多さに圧倒され、ポツリと呟くと菖蒲は苦笑いをしては、この行列の理由を教えてくれた。仙李はカレーパンというものは解らなかったが、そこまで人気なのならばさぞ美味しいことだろう、と思い、自分の番に残ってたら買おうと決めては列に並ぶ。

数分後、自分の番が回ってきた。

「あ、カレーパン残ってる!
すいません、カレーパンとサンドウィッチください!」

仙李がどんなものがあるか見ていると、菖蒲のそんな嬉々とした声が聞こえてくる。余程カレーパンを買えたのが嬉しいようだ。
そんな彼女を横目に、視界に入ったメロンパンというものが気になったので、カレーパンと一緒に買う事に。

「すいません、これとカレーパンを1つずつ」
「はいよ、メロンパンとカレーパンね。360円よ」
「解りました」

店員さんに注文してはお金を支払ってパンを受け取る。
そのパンを持って、先に支払いを済ませてラウンジで席を確保していた菖蒲が座ってる場所に行く。

「清水さんも無事に買えたようですね。お水持ってきておきました」
「はい。ありがとうございます」

席に座ると、菖蒲から水が入った紙コップを貰う。後で知った事だが、この学校はウォーターサーバーというものがあり、生徒は水は飲み放題だそう。
早速食べよう、そう思ったところで、購買の方から店員さんの声が聞こえた。

「ごめんなさい、今日のカレーパンは完売しました!」

その声と共に悲痛の声が列に並んでた生徒達からした。列から離れる生徒も一定数いて。その中には仙李が見覚えがある人物もいた。

「あ、春香さん!」
「あら、清水さん」

そう。生徒会長の清水春香である。
名前を呼べば彼女もこちらに気づいたようで近づいてきた。

「え、生徒会長……?清水さん、生徒会長とお知り合いなんですか……?」

菖蒲は驚愕した様子で、仙李と春香を広告に見ては小さく呟く。

「はい。今朝職員室に案内をしていただいて。
春香さん、その節はありがとうございました」
「いえ、お気になさらず」

菖蒲に簡易的に説明しては再度春香にお礼を言うと春香はそう返して。そんな彼女の視線は、仙李のカレーパンと菖蒲のカレーパンを行ったり来たりしていた。

「……春香さん、よければ私のカレーパンを譲りましょうか?先程買えなかったようですし」

春香は先程カレーパンを買えなく、彼女の表情からも明らかに欲しそうであるので、仙李はそんな提案を持ちかけてみる。

「い、いえ、それは清水さんが並んで、それで自分のお金で買ったものですし……それを食べる権利は清水さんのものなので……だから、私の事は気にしないで食べ…………食べてください」

口では断る春香だが視線はカレーパンから離れる事はなく、目は貰えるかもという期待で満ちているし、落ち着きがないのか指で髪を触ったり、そわそわしていた。実にわかりやすい。

「私は別にたまたま買えただけなので。中途半端な気持ちの人が食べるより、春香さんみたいに欲しがってる人が食べるべきですよ」
「いえ。生徒会長たるもの、生徒から物を譲ってもらうなんて……」

そこに追い打ちをかけると、春香はピクッ、と背筋を伸ばす。それでも生徒会長としてのプライドが勝ったようで断られる。が、彼女の口から僅かに涎が垂れていた。ここまでくると可哀想に見えてきて、どうにかして受け取って貰いたいと思う仙李。

「どうしたものか……
なら、今朝の案内のお礼、という事で受け取ってください。それならば代価という事になるので譲ったとは違いますし」
「そこまで言うのなら……いただきます」

お礼、という言葉を使って、このカレーパンを渡す理由を変えれば、春香のプライド的にも許容できたようで、仙李は彼女にカレーパンを譲った。その時の彼女の表情は堅物とは程遠い子供っぽさすら感じる笑顔で。その隣では菖蒲が、「あの生徒会長が……」と驚いた様子で呟いていた。

「あ、でも代金は支払いますね」

これでひと段落かと思えば、財布を取り出してそんな事を言う春香。それには流石の仙李も驚くし、菖蒲に至っては「やっぱり生徒会長だ」と色んな感情がせめぎあった、そんな感じだった。

「いえ、お気持ちだけで結構です。笑顔を見れるなら、これしきの出費なんて些細な事ですから」
「……解りました。ありがとうございます」

仙李がそう言えば、春香は代金を支払うのを諦め、近くの席に座っては幸せそうにカレーパンを食べたした。

「……なんですか、今の言い回し。もしかして生徒会長に気があるんですか?」
「え、どういう事ですか……?」

幸せそうな春香を見つめていた仙李だが、菖蒲に冷たい視線で睨まれた。彼女の言葉の意味が解らなく尋ねると、菖蒲は溜息を吐いた。
その溜息の意味が解らず仙李は首を傾げる。なんせこの発言は善意のみによるものだから。どれだけお金があろうとも魔族と人間の戦争を止められず、魔族の笑顔と魔王達を守れなかった仙李からすれば、大切な人や知人の笑顔が見れるならパン1つのお金なんて安いものなのである。

「なら聞きます。生徒会長以外の人が今の生徒会長と同じ状態だったら譲ってたんですか?」
「はい。……流石に知り合いに限りますけど」

鋭い視線を向けてくる菖蒲の質問に、困惑しながらも答える仙李。その答えを聞いた菖蒲は、小さい声ながらも笑い声をあげる。

「な、何変な事言いましたか……?」
「いえ。ただ……清水さん、面白い人だなって」
「えぇ……?」

首を傾げる仙李に、面白可笑しく笑う菖蒲。菖蒲に面白い人だと言われ困惑の声を漏らせば、彼女はクスっと笑う。

「なんなんですか?」
「いえ、何でもないです。さ、あんまり喋ってると校内案内の時間が無くなってしまいますよ」

もう一度尋ねればはぐらかされたので、仙李は仕方なくメロンパンを食べるも、暫くの間この事について、何故菖蒲があんなに笑っていたのかとずっと考えるのであった。

Re: 元勇者、居候になる ( No.13 )
日時: 2020/08/20 16:46
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: yLoR1.nb)

#注文を浴びる-8

昼食を取った仙李は、菖蒲に校内を案内してもらう予定なので、まだ食べてる彼女が食べ終わるのを待っていた。
そんな時、丁度食べ終えた様子の春香が話し掛けてきた。

「清水さん。カレーパン、ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「それは良かったです」

彼女は律儀に感謝を言いに来たので、仙李は微笑んで。春香は「それでは、私は生徒会の仕事がありますので」と立ち去ろうとするが、仙李はある事を思い出して彼女を引き止めた。

「あの……ひとつだけ、お聞きしたいことが」
「はい……?構いませんが……」
「栖川勇里先生について、何か知っている事はありませんか?」

彼女が承諾してくれた事を確認し、仙李は質問をする。今朝勇里と話した時に彼は春香の名前に反応したような気がし、彼女ならば何か知っているのかも知れないと考えて尋ねようと思ったのを、たった今思い出したのだ。

「栖川先生といえば……教頭で化学の3年生担当の……?栖川先生の授業は受けた事は無いのでどんな方かはご存知ありませんが、生徒からも保護者からも評判は良いようです。彼がどうかしましたか?」

春香は顎に手を当て考えながらは答えてくれた。表情を見るに何かを隠してるようには見えない。これは考察が外れたか、と少し悔しい仙李だった。

「あー……今朝、この学校について栖川先生に説明してもらったんです。良さそうな方だったので、どんな先生か気になりまして」
「なるほど、そういう事でしたか。では、私はこれで……」
「はい。引き止めてすいません」

何故、と問われれば、前世に関わる事は隠して答える。これで通せたようで、春香は納得したように頷くとラウンジを去って行った。

「その事なら私に聞けばよかったじゃないですか。隣の席なんですし」
「そうでしたね。ふと思い出した事なので……」

春香が去ったラウンジで、菖蒲は少し不満気に頬を膨らまして言ってきた。春香に聞いてこそ意味のある質問なのだが、それを言うとややこしい事になるだろうと感じ、それっぽく返しておく。

「そうですか、それなら仕方ないですね。
では……そろそろ校内案内、行きましょうか」
「はい!」

菖蒲はそれで納得してくれた様子で、鞄を持って立ち上がった。仙李も彼女に続き立っては、2人でラウンジを後にした。



ラウンジを後にした2人は、先ずはラウンジがある南校舎の1階を歩いていく。美術室、資料倉庫はここにあるようだ。そして、1階の端まで来ると階段で2階、3階へと登っていく。

「南校舎は1階以外は通常教室です。2階は2年生が、3階が私達ですね。2階には生徒指導室が、3階には生徒会室があります」

「なるほど……これは覚えるまで少し迷いそうですね。生徒指導室と生徒会室が……」
「その2つは紛らわしいですからね。毎年間違える1年生がいるんですよ」

用途は全く違う生徒指導室と生徒会室だが、何せ名前が似ている。これは間違えないように特に注意しなくては、と頭の片隅に置いておく。
次に、渡り廊下を渡って北校舎へ向かう。
北校舎に入ってから少し歩くと、菖蒲は足を止めた。

「ここが音楽室です。
実は……私、こう見えて軽音部のギター兼ボーカルやってるんです」
「ほう……」

彼女は苦笑いをしながら、そう説明する。
音楽について詳しくない仙李なので、こう見えてと言われても解らないので、相槌を打つ。少し解らない程度なら教えてもらうのもいいが、根本から解らないのは変人に見られてしまうから。
が、世間一般からすれば菖蒲は容姿も黒く艶のある髪を1つに束ね、年不相当な大人の顔立ち……所謂大和撫子であるので、意外と感じる人もそれなりにいるだろう。そこにしっかりとしてて、教室では比較的大人しい部類なのも、彼女がボーカルである事に意外性をもたせる。
そんな彼女は、廊下に貼ってある一枚のポスターを指さした。

「再来週の昼休み、新入生歓迎でライブをやるんです。よかったら清水さんにも私達の演奏を聴きに来てください。みんなで曲から作っているので、ここでしか聴けない曲なんですよ。それに、とっても楽しいライブにしますから」
「解った。是非とも行かせてもらうよ」

ポスターは軽音部ライブのお知らせだった。菖蒲の誘いを特に断る理由も無いし、菖蒲があまりにも嬉しそうに語るので、仙李はそのライブに興味を持ち、2つ返事で承諾したのだった。




その後、2人で校内を周り、丁度一周してラウンジに戻ってきて。
昼休みが終わる10分前となった。

「今日は案内ありがとうございます、菖蒲さん。お礼、と言ってはなんですが……何か私からもしてあげれませんかね……?」

歩き疲れたのでお互い近くの椅子に座り、水を飲んでる菖蒲に仙李はそう話し掛けてきた。

「お礼なんて…………なら……よかったら、私の友達になってくれませんか?」
「私で良ければ喜んで」
「はい……!」

彼女は一度吃るも、少し考えては、恥ずかしそうにそんなお願いをしてきた。それに微笑んで答えると、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。その笑顔はどこか幼さが感じられ、それに対し仙李はどこか懐かしさを感じて。

「あの……少し、変な事言っていいですか?」
「はい、大丈夫です」
「私……貴方に会ったのは今日が初めての筈なのに、ずっと前に会った事がある、そんな気がするんです。
いつもは自分から知らない人に話しかけるようなタイプじゃないのに、こんなにも気楽に話せるのは貴方が初めてですし」

「おかしな話ですよね」と苦笑いを浮かべる菖蒲に、「自分もそんな感じします」と伝える。
先程の彼女の笑みの懐かしさといい、この話といい、仙李もまた、彼女には会ったことがあるように感じるのだ。

「……!偶然、ですね。
そうだ。これからは敬語じゃなく、普通に話さない?貴方とならもっと仲良くなれる、そんな気がするの」
「それはいい案です……だな」

菖蒲はパン、と両手を叩き、仙李の前に移動してきてはしゃがんで手を差し出してきた。彼女の言葉通り、彼女となら仲良くなれる、そんな気がした仙李は笑顔でその手を握った。

「決定ね。改めてよろしく、仙李君!」
「こちらこそ。……菖蒲!」



***
Episode2終わり!
明日辺りに幕間を出してから勇里達のキャラ設定出せば一旦区切りです。幕間で残りキャラ出せばEpisode3開始前までにメインキャラを一度でも喋らせるというノルマが達成する。
キャラ設定出した後からは更新頻度が遅くなります。

Re: 元勇者、居候になる ( No.14 )
日時: 2020/08/22 22:20
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: AwgGnLCM)

明日辺り(明日とは言ってない)
……すいません。ただただ忘れてました。あ、シャニマスでプロメッサ咲耶とくら峰のtrueENDできましたありがとうございます。開始から約半年初truやぞ!
では幕間スタート!

***

#幕間 気ままな教師


無機質な電子音がメールの着信を知らせる。
その音に気づきいた若い男性は、資料を纏める手を止め、机のスマートフォンを手に取った。

「雪永からかー
………………へぇ、ナルホドねぇ」

送り主は草津雪永。男性の知り合いだ。男性はそのメールを読むと、楽しげに口元に笑みを浮かべる。
その後もマジマジとそのメールを眺めていると、彼にとって聞き慣れた声が聞こえた。

「あ、やなぎ先生じゃないですかー☆
どうしたんです?何か嬉しい事でもあったのー?」

柳先生……男性の事をそう女性は、ニヤニヤしながら彼の顔を覗き込んだ。
彼はとある大学の教師であり、女性は彼が担任のクラスの生徒である。

「うぉぅ、確かお前は……紅林くればやしか……」
「ちょ、その反応は傷つくんですケド……でもアタシ、昨日の午後入学したばっかなのにでよく名前覚えれましたね?」

男性が明らかさまに嫌そうに女性の名前を呼べば、紅林と呼ばれた女性は首を傾げて。

「いやー……お前みたいなザ、ギャルみたいな奴そうそういないし。しかも根はまともそうだし。
あと教え子が隣に居たら誰だってびっくりするっしょー」
「いやまぁそうですけど」

半ば冗談っぽく笑えば、女性は苦笑いで返す。その後、女性が「で、話題逸らされてたんですけど、結局何かあったんですかー?」と聞いてきて。

「ちょっとねー……親しい奴がこっちに引っ越して来たって連絡があっただけ。お前も嬉しそうだけど何かあった?」

スマートフォンの画面を見られないように、画面が下になるように机に置いては、人差し指を女性に向けて尋ねる。

「わります?だって念願の大学生じゃないですかー☆……ってのもあるんですけど。
昨日の午前中……入学式の前に、最近引っ越して来たばかりな男の子を高校に案内したんですよ。それが昔のアタシと重なって懐かしいなーって思って」
「ふーん……もしかしてボクの親しい奴と同じ奴だったりして」
「まさかー!それはないですってー」

思い出を語るように女性が話せば、男性は髪を指に巻きながら呟くので、彼女はそれに対し笑って。

「それもそうかー。
で…………なんでお前ここにいんの」

男性はそれに納得しては、真顔でそうを尋ねた。すると、女性は困惑気味の表情を浮かべてながら口を開き……

「いや、ここアタシのバイト先なんですけど。
てか先生こそなんで喫茶店で学校の仕事してるんですか。あと書類退かして貰えないと注文された珈琲置けないんですけど。何時まで持たせるんですか!パンとかもあるから重いんだけど!!」

と述べた。
最後は怒り気味に。
そう。ここは2人が通う大学の近くにあるごく普通の喫茶店なのであり、女性はバイト、男性は客なのである。

「それは悪い事した……今退ける」

怒り気味の女性に、男性は申し訳なくなり机に広げた書類を速やかに鞄に押し込む。綺麗になった机には、ゴトッ、と大きな音と共に珈琲諸々が置かれる。

「もう……高校生からバイトしてる身から……店員の身からすればこういう類はかなり厄介なのでこれからは気をつけてくださいよ?で、注文した商品は以上でお揃いですか?」
「ん。これで全部ある」

女性は溜息を付きながら忠告したり尋ねたりとしては、男性はふた言で片付けて。

「はーい。ではアタシはまだ仕事中なんで戻りますね。どうぞごゆっくりー」
「おう、バイト頑張れー」

女性はそういい残して店の奥へと向かい、男性は励ましの言葉を掛けては再びスマートフォンの画面を見る。
その画面には、先程のメールが映っていた。

______シダー!イキシアがこっちの世界に来たよー!今は仙李っていう高校生の男の子なんだけど、私の家に居候でいるから、何か仙李に伝えたい事があれば家に来て。

という文章。

「……もうシダじゃなく柳優糸なんだがなぁ。まぁ……気が向いたら会いに行くかー」

男性______優糸は、そんなメールを見て呟いた。彼もまた、仙李達と同じく転生した人間なのである。


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