コメディ・ライト小説(新)

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元勇者、居候になる
日時: 2020/08/24 19:34
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: 4mrTcNGz)

>>16(途中報告)


「転生……?つまり……?」

元勇者は、現代に転生していた。
それは、元魔王も同じで。

「そう!勇者も私も転生したの!この平和な世界に……!
って訳でもう勇者の家は無いから、私の家に住んじゃえ!」

元勇者は倒れてた所を元勇者より数年先に転生した元魔王に拾われて。

「すまない、何言ってるか解らない」

現代に馴染んた元魔王の家に、転生したての元勇者は居候する事になり______




このお話は、慣れない世界で試行錯誤してく元勇者と、そんな彼と楽しく過ごすのは、現代慣れした元魔王。平和な日常、偶にトラブル有りな、二人の少年少女によるラブコメディ


________________________
_________________

嘘です。構想段階でシリアスどんどん出てきました。そもそも過去設定が重いです。ラブコメディもするけどシリアス多めです。特にあるキャラのシリアス度合いがヤバくなりそうです。なので地雷な方は回れ右を。




お久しぶりです。覚えてる方はいないかと思いますが、蒼星という者です。
長らく(数ヶ月)失踪しておりました。申しわけありません。

コメライ板『不良部長と私の空想科学部』、二次総合板『クロスな日常物語』を執筆していた者です。
小説に対する熱意が半端なモノだったので(なりきりと平行……というよりなりきり優先だった)ネタが思い浮かばず失踪に至りました。今度は真面目にやります。が、執筆速度は自分のペースでいきます。日常物語みたいにかなりの速度で書いてて失踪になりたくないのでね。それとなりきりは止めときます。失踪したくないので。高校始まって忙しいのでね。
そんなこんなですが、それでも良いという方は宜しくお願いします!









#目次(ちょくちょく配置変わってすいません)

>>0- (一気に見る人用)

>>1 プロローグ
>>2 キャラ説明No1(仙李&雪永)
>>15 キャラ説明No2(勇里、春香、菖蒲、仁愛、優糸)

Episode1
>>3-4 大切な思い出
>>5 幕間 夜の魔王様

Episode2
>>6-13 注目を浴びる
>>14 幕間

Episode3
>>17- 予期せぬ出会い

Re: 元勇者、居候になる ( No.5 )
日時: 2020/08/11 23:29
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: j9SZVVec)

#幕間 夜の魔王様

仙李に浴室の使い方を教えた後、独り先に入浴してすぐ様あがる。その後仙李と交代し、雪永は眠りにつこうとするが……大学の友人______白口しらぐち仁愛にあから雪永の携帯電話に着信がきたので、仕方なくリビングのソファに座る。仁愛はただの友人ではなく、雪永の前世が魔王エーデルである事を知っている人物だ。尚、仁愛は前世の記憶は無い、ごく普通の一般人である。

「もしもし、仁愛?どうしたの、こんな時間に」
『いやー、今春休みじゃん?最近会えてないからさ、声くらい聴きたいなーって』

電話越しに居るであろう仁愛に問い掛ければ、そんな子供っぽい返答が帰ってきた。その声色は少し暗く、こんな遅くに電話をかけてきた罪悪感があるように感じた。

「それは嬉しいよ!とはいえ来週には始業式だよ?」
『解ってるよー!でも我慢できなくて』
「仁愛らしいね」

天真爛漫な彼女の声にクスッと笑みが溢れる。そして、いつも彼女と会話するノリで話し初めてしまった。今日は仙李が居ることを忘れて______



数分後。

「雪永、まだ起きてたのかい?」

リビングの扉が開かれるのと同士に、パジャマ姿の仙李がやって来た。パジャマは雪永自身のものなのでやや小さいようだ。

「あ、うん。友達から電話……あ、電話はさっき話した遠距離会話の機械ね。
それがきたから、少し話してて」

これはマズい、非常にマズい。
雪永は非常に焦っていた。無理に笑みを浮かべては吃りながらもなんとか仙李に説明をする雪永。
何がまずいかって。仁愛に今現在男と一緒に居るのをバレると、後日話題のネタにさせるからである。聴かれては困るので通話を終了しては携帯電話をソファに埋める。

「そうか。この世界の友達か……
友達がいるのはいい事だ。お邪魔だろうし私は先に休ませもらうよ」
「う、うん。お休み」
「ああ。お休み、雪永」
『え、なに!?え、え!
ちょ、なに起こってる!?』

何か意味深な事を言っては寝室に向かった仙李。彼の性格からしてただ単に雪永に友達がいる事を嬉しく思ってるだけであろう。そして、それよりも……終了したと思っていた通話は終了しておらず、会話は仁愛に筒抜けだった。

バタン、という扉が閉まる音で仙李が完全に寝室に入った事を確認すると、雪永は再び電話を握った。なんとかして言い訳しなければ、と焦りながら。

「えっと、あのね仁愛」
『雪永ー、雪永さーん!今のどういう事なの!?なに、今の声彼氏!?彼氏宅!?しかも泊まるの!?』

雪永は仁愛に話そうととするが、仁愛からの質問攻めにあい言い訳する隙がなかった。しかし、雪永にはまだ話題のネタ化を回避する方法は残っていて。

「自分の家だし相手勇者だよ!勇者が転生してきたの!」

が……雪永は焦りから判断力が低下しており、自ら地雷を踏みに行った。戸籍上の関係をいい事に言い訳をすれば回避ができたのだが。

『え?勇者って雪永が話してた勇者イキシア?
もうそれ実質彼氏じゃん』
「いやいやいや!何でそうなるの!?」

ガチトーンで呟く仁愛に必死に否定する雪永。だが、仁愛から追い打ちが掛かる。

『何度も夜中にわたしに電話かけてきてさ、勇者に会いたい、勇者来て欲しいって言ってたのどこの誰かな?』

そう。地雷の理由はこれである。仁愛に勇者関連を何も話してなければ地雷ではなかったのだが、魔王が転生してから勇者が転生する前の期間、仁愛が言った通りの事を何度も彼女に言っていたのである。何故言ってしまったのかは雪永自身にもわかならない。その時不思議と勇者に会いたくなったから、という事しか。そして勇者の事を仁愛と話すと、必ずと言っていいほど心がモヤモヤするのだ。

『それで好きじゃないわけないよね?
勇者さんも好きまでとはいかなくてもこうして泊まるんだったら脈アリだよね?
ならもう彼氏でよくない?』
「バカッ……!」

痛いところを的確に突いてくる仁愛。雪永は羞恥で顔が赤く染まっていた。

『照れてる?照れてる?

……好きならそんでいいじゃん。恥ずかしい事じゃないよ?』

仁愛は揶揄い気味に問い掛けては、少し間を空けてから真剣な声で述べて。

「好きかどうかは、正直よく解らない……。恋を経験した事ないから、この恥ずかしさがどこからきてるのかのも」
『そっか。好きなようで憧れや親愛、って事もあるからね。でも、おいおい解るよ。折角再開できたんだから、勇者さんと過ごしてその気持ちの正体を解いてごらん』

余り気持ちを言葉に出来ないが、自分なりに言葉を纏め、ゆっくりと伝える雪永。その言葉を聞いた仁愛は優しく諭すように返した。

「ありがと。……そろそろ私は寝るね。考え整理したいし」
『わかった。こんな夜遅くにありがとね。お休み。
それと……勇者さん絡みの事はわたしと雪永の秘密にするよ。それと悩みにも乗れるだけ乗るよ。雪永は根は繊細だから……ネタにしていい事と駄目な事は解ってるつもりだし。じゃ、また始業式で』
「うん。お休みなさい」

仁愛の気遣いに感謝してはお休みと眠りの挨拶を告げて通話を終了した。
こうして話してできた心のモヤモヤ。今暫くは消えそうでなくて。いつか解る日が来るのだろうか。そう思いながら寝室に移動し、毛布に潜り込み瞼を閉じた。

これから始まる勇者との新たな生活。これで何か解るような、そんな予感を感じながら。

Re: 元勇者、居候になる ( No.6 )
日時: 2020/08/13 11:30
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: SDPjcky.)

Episode2

#注目を浴びる-1


元勇者……仙李の居候生活が始まってから数日後。この数日間は雪永に様々な事を教わり、必要な日用品や衣類等を買いに行ったりしてある程度はこの世界の事も知れた。とはいえ機械というものについては、便利だが異世界から来た仙李からすれば複雑なものでありとても使いこなせるものではなくて。銀行という場所で通帳を使ってお金を引き出すのにも一苦労である。数日前には携帯電話……スマートフォンというモノを購入したのはいいが、機能が如何せん多すぎるのだ。雪永も全て教える事は難しいらしので、特に重要な機能である遠距離会話機能______通話とメッセージ機能辺りのみ教わったのである。



そして今日。

「いってきまーす!」
「行ってらっしゃい、雪永。くれぐれも気をつけて」
「はーい!」

明るい声とともに手を振る雪永を、仙李は笑顔で見送った。雪永は嬉しそうに微笑んでは、大きな鞄を背負い家を後にする。
どういう事かというと、今日は雪永の通う大学の始業式なのだ。そして、仙李の高校の始業式は翌日。なので今日は1人で過ごす事になる。

「さて……今日はどうしたものか」

1人になった部屋で、仙李は小さな溜息を吐いた。この世界に来てから初めての1人で過ごす日。正直言って、仙李はどうすればよいか解らないでいた。
何も決まらないままウロウロと部屋内を歩き回っていたら、部屋に配置されていたタンスに小指が当たって。仙李の痛みによる呻き声が漏れると共に、衝撃によりタンスの上から何かが落ちてきた。仙李はしゃがみこみ、落ちてきたものを拾う。

「合鍵か……そういえば先日雪永に貰ったな」

落ちて来たものはこの家の合鍵だった。先日、1人の時でも出かけれるようにと雪永が用意してくれたのだ。

「……そうだ。入学前日なのだから道の確認でもしておこう」

鍵を見つめていれば、仙李の脳内にひとつの案が思い浮かぶ。そうと決まればと、即行動を初め出かける準備をする。
部屋着から私服に着替え、携帯電話に財布と鍵をズボンのポケットへ入れる。髪を整え戸締まりを確認しては、ほぼ新品である靴を履いた仙李は家を後にした。



家から出ると、爽やかな風で髪が揺れて。風が顔に当れば、程良い涼しさで心地よい。
今は4月。この世界は春夏秋冬と季節が別れており、現在は春に当るらしい。

「天気もいいし、これが絶好のお出掛け日和というやつか。人通りもあって賑やか。平和だな」

道を歩いていれば、親とはしゃぐ子供や数人で楽しそうに話ながらすれ違っていく学生等、沢山の人物が視界に入る。そんな人々の様子を見て、この世界の平和さを実感する。
視界に入るのは勿論人間だけでなく、雲一つなく太陽が輝く青空に、道端に家々。道を走る車という移動用の機械。
ど荒んだ世界に居た仙李にとってはどれも新鮮だった。

暫く先日雪永と共に行った時と同じ道を歩いていくと、途中で一つ問題が起きた。

「通行止め……だと……」

道の隅に縦長の看板が置かれており、それを見た仙李は顔を顰める。
どうやら、この道の先は工事中のようだ。前回来たときは予告と書いてあったが、仙李はそれをすっかり忘れてた。

「どうしたものか……他の道は知らないし……」

額に頭を当て、大きく溜息を吐く。これは困ったぞ、と悩む。
そうして立ち止まる事数分。突如として機転が訪れた。

「そこのキミー!もしかしなくてもお困りかな?」

抑揚の有る声で話掛けられて。声のした方向へ振り返れば栗色の長い髪にきらびやかな格好でお洒落をした女性がいた。顔立ち等を見るに仙李と歳の差はそこまでないだろう。

「は、はい。明日から近くの高校に転校する事になってて、今日は事前に道の確認に来たんですけど……この道を通る予定だったのが、この通り通行止めで、どうすればいいのか困っている所です」

苦笑いをしながら仙李は女性に対し簡潔に説明をしてみせる。相手は初対面だし容姿が派手なので仙李への印象は悪い。
そんな印象は知らない女性は真剣に仙李の説明を聞いては、両手を叩いてある提案をしてきた。

「ならアタシが迂回路を案内するよ☆
アタシさ、その学校の卒業生だからここら辺の道詳しいんだよね」

はにかむ女性に、仙李はこの人は良い人そうだと感じて「お願いします」と案内を依頼する。
彼女は「任せておいてよ!」と快く承諾してくれた。一見仙李にとって苦手なタイプかと思ったが、この世界でも人を見た目で判断してはいけないようだ。

女性が早足気味で歩きだし、その横を仙李は歩く。

「キミ、転校生って言うけど、さっきの感じ的にこの町に来たのも最近が初めて?」

歩いている途中、女性はこちらを向いて首を傾げながらそんな問い掛けてをしてきた。

「はい。数日前来たばかりです。なので土地勘が殆ど無くて……」
「そっかぁ。アタシも数年前ここに引っ越してきたんだけど、来たばかりの土地だと戸惑うよねー」

土地勘が無いので少し恥ずかしく、話す声も小さくなってしまった仙李だが、女性はそんな仙李に気づいたのか、遠回しで『引っ越し時は誰もが通る道だよ』と言ってくれる。その気遣いに仙李は気づき、少し嬉しくなり、今度は仙李から質問をする。

「先程数年前引っ越してきたばかりと仰いましたが、貴方は何故この町に……?」
「あー、アタシの場合は親の都合。前はど田舎に居たんだけど親が転勤になって家族諸々引っ越した訳。キミはどうなの?」
「私も似た感じです」

女性は初対面の仙李相手でも気にする事無く質問に答えてくれた。良い人なので、彼女のオウム返しの質問に本当の事で答えたかったが、勇者云々は信じて貰えないだろうからと、仙李は罪悪感を感じつつ嘘を吐いた。



「っと……ここの横の道が工事してるとこから繋がる道ね。右曲がればすぐ学校だよ。ほら!」
「本当だ……ありがとうございます」
「困った時はお互い様って言うし、いいってことよ☆」

暫く会話しながら歩いていたら、女性は横断歩道で足を止めては右を指差す。そこには高校があって。仙李がお礼を述べれば彼女は笑顔で返す。

「じゃ、アタシはこの後用事あるからこの辺でー!じゃあね!」
「はい。ありがとうございました!」

歩行者用の信号が代わり、女性は手を振りながら別れの言葉を伝えてきて。仙李も再度感謝の言葉と共に笑顔で手を振りながら見送った。

「さて、目標は達成したし帰るか……!
それより……今の女性、優しくていい人だったな…………」

女性の姿が見えなくなると、手をおろしてはそんな事を呟きながら仙李は帰路についた。

Re: 元勇者、居候になる ( No.7 )
日時: 2020/08/13 14:14
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: GuSqVW3T)

#注目を浴びる-2


仙李が1人で通学路の確認をした翌日の朝。

「おはよう、雪永」
「おはよ、仙李。もうじき朝ご飯できるから早く食べて学校行こっか」
「ああ。いつも朝食の準備感謝するよ」

仙李が欠伸をしながらもさっと制服に着替えて寝室から出ると、フライパンを使って料理を作ってるエプロン姿の雪永が居た。醤油が焦げる香ばしい匂いが仙李の食欲を掻き立てる。

「今日は洋食か。元の世界でも似たようなモノは食べてたが、この世界に来てから食べる食事のほうが美味しく感じるよ」
「嬉しい事言ってくれるじゃん!そう言われると作り甲斐があるよ。
はい、かんせーい!」

仙李が素直な感想を述べれば、雪永は焼けた目玉焼きをトーストの上に載せながら、嬉しそうに口元を緩める。
今日の朝食のメニューは、目玉焼きと焼きベーコンのトーストに野菜をふんだんに使ったサラダ、そしてコンソメスープだ。

「いただきまーす!」
「いただきます。
……ふむ……やはり、雪永の料理は絶品だな」
「ふふー、そうでしょー?」

両手を合わせてこの国の食事の挨拶をしては、トーストを手に取りそれに齧り付く。ベーコンのしょぱさにトーストの香ばしさ、目玉焼きの控えめの甘さが癖になりそうだ。
仙李の反応を聞き得意げな顔をする雪永。
雪永は魔王時代、短い自由時間で趣味として料理を作っており、腕はかなりのものだった。仙李もそんな彼女の手作り料理を何度かご馳走になった事がある。そんな彼女の腕と、品質が元の世界より段違いに良いこの世界の食材がかけ合わさる事により、勇者達が居た世界の者からすれば普段の食事より比べ物にならない程の絶品の料理となるのだ。
そんな具合なので、仙李は雪永が振る舞う料理が毎度楽しみにしているし、一度食べ出すと一心不乱に食べてしまう。

「そんなに慌てて食べなくても大丈夫だって。時間は一杯あるんだし」
「…………もぐ、ごくっ。
ゆっくり食べてたらおかわりが出来ないだろう!」
「はいはい」

雪永に話掛けられた仙李は、行儀良く食べ物を飲み込んでから真剣に返した。それを見た雪永は軽くあしらうが、声調はとても嬉しそうで。

元の世界では娯楽が少なく、魔王エーデル達と合うまで感情の無かった上に、魔王達と親しくなってからは彼女らを守る為に力を付けるのに時間を費やしていた仙李……勇者イキシアからすれば、あの世界での娯楽は料理だけ同然であり、欲が少ない勇者でも食欲だけは強くなったという経歴がある。その食欲は仙李として転生した今でも衰えるどころか強くなっていた。




十数分後。食事を終え、二人で食器を洗い始める。

「もう、今日から学校なんだから手伝わなくていいのに」
「学校なのは貴方も同じだろう?お世話になりっぱなしは性に合わなくてね」

雪永の言葉に、仙李はさも当然ように返した。これまでの学校がない日は仙李が料理以外の家事をやっていたし、居候の身なので家事位はやらせてもらわないと、それこそタダ飯食らいなので、人としてそれは避けたかった。仙李が今日から通う高校の生徒は学校側に申請すれば働く事ができる……所謂バイトが可能な高校なので、近いうちに申請して働くつもりだ。因みに雪永も将来の事を考えて働いているのだと本人が言っていた。

「そういえば……今更なのだが、雪永は昔とは話し方が違うよな?何か理由があるのか?」

ふと、そんな些細な疑問が脳裏によぎり、食器を洗う為のスポンジを持つ手を止めてはそのまま雪永に尋ねる。その質問に、雪永は明らかさまに嫌そうに顔を引き攣らせた。

「あ、いや。少し気になっただけだから嫌なら答えなくても大丈夫だ」

その顔にマズいと感じた仙李は、無理はしなくても良いと慌てて伝える。その言葉を聞いた雪永は「ううん、大丈夫」と苦笑いして。

「ただね……この世界に来たばかりの頃いろんな人に変な顔で見られてね……その時仲良くなったばかりの仁愛に聞いたら『その話し方は中二病に見られるから辞めたほうがいいよ』って……それで辞めたの。ま、あの高圧的な話し方も派手な格好も魔王の威厳の為にやってたみたいなもんだから、今のほうが気軽だしね」
「そうか……」

恥ずかしそうに語る雪永だが、仙李は話の内容がはっきり理解できなかった。『この世界にはそういう特殊な病気があるのだろか?』と考察する。魔王時代の彼女は高圧的で、王としての威厳を感じさせる話し方や華やかなドレスだったのだが、今はどこにでもいるような女性であり、今の彼女が元魔王と言われても、この世界の人間は勿論、元の世界の人であっても仙李や側近のリコリスを始めとする親しい人物以外は全く信じることはないだろう。

「なぁ……私は今のままで大丈夫だろうか?出かけ先とかテレビとかで聴いてると『私』を遣う男性は少ないみたいだが……」
「大丈夫大丈夫。男の人のその1人称は畏まった言い方なんだからむしろ好印象じゃない?」
「それなら良かった」

今の話で少し気になったので、仙李は自身について尋ねると、雪永は全然問題無さそうに話しているのでそれを見て安堵する。王の威厳の為に高圧的な話し方をわざとしていた雪永と違い、仙李は記憶がある限りずっとこの口調なので変えるにしても簡単な事ではないからである。
そんな他愛のない雑談をしていると、あっという間に皿洗いは終了し、やがて学校へ向かう時間になった。

「そろそろ行ってくる」

仙李は必要なものが諸々入った鞄を背負い玄関へ向かうと、靴を履いては見送りにきた雪永にそう伝えた。

「行ってらっしゃーい!あ、言い忘れてたけど初日は職員室ってとこに寄らなきゃいけないみたい!」
「了解。じゃあ、行ってきます」

雪永の言葉に頷いては、一度振り返って小さく手を振り、家を後にしたのだった。

Re: 元勇者、居候になる ( No.8 )
日時: 2020/08/15 11:04
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: A3jnu3NM)

#注目を浴びる-3


*** *** ***


「了解。じゃあ、行ってきます」

そんな言葉と共に、仙李は家を後にした。

仙李が居なくなり、家で1人きりとなった雪永はリビングに戻ると、慣れた手つきで携帯電話を操作して、ある人物に電話を掛けた。

『もしもーし、魔王様どうしたの?学校じゃないの?』

暫く機械特有のコール音が鳴り響くも、突如とひて陽気な声が電話越しから聴こえる。
相手は男性だが、一瞬女性に聴き間違う可能性があるくらいには独特で高い声だ。

「もー、この世界で魔王様呼び辞めてって言ってるじゃん。学校だよー、もう少ししたら家出るよ」
『あー、ゴメン、転生前からの癖でねー』

意地悪っぽく雪永が言えば、声から冗談なのを察したであろう相手は、声の調子を変えること無く冗談に乗る。

「それよりさ……そっちに今日転入生行くでしょ?あれ勇者だから宜しくね!」
『やっぱりか。オーケーオーケー、……確か今の名前は仙李、だっけ?書類見て魔王様が保護者だから何となく察したけど。まさか勇者様までこっちに来るとはねー。
それより、ちょっと調べたんだけど、お二人さんが戸籍上親戚になった方が驚きましたよー』

雪永が軽いノリで言えば、相手は半ば呆れが混じったような溜息を吐くと、そんな軽口を叩いて。

「うん、清水仙李ね。
親戚になってるのは私もびっくりしたよ。世界の理云々の影響とはいえ」
『清水君ねー、りょーかい。転入生なら職員室来るのが自分達の学校のルールだから、そん時に接触しとく。
でも合法的に同居……悪く言うと現段階は居候か。勇者様に会いたいって言ってた魔王様からすれば嬉しんでしょ?』
「ちょ……!そ……そんなこと……」

揶揄うような相手に雪永は図星を突かれしどろもどろになる。
雪永の魔王時代は信頼できる仲間が沢山居たとはいえ、対等な関係で接して……自身を『守りたい』と言ってくれたのは勇者だけだ。それに自身達がきっかけで彼は自身の意思を持つという成長を見せてくれたのだし、彼と居ると魔王としての威厳なんて忘れて肩の力を抜いて楽しく日常を送れた。その出来事があり、雪永は彼とは実際に過ごした短い時間よりもずっと前から一緒に居たような、そんな錯覚をしていた。それ故に彼が居ないと寂しく感じてしまうし、彼と共に過ごせれば嬉しく思う。

『わかりやすいなー。
あ、でも勇者様の性格的にバイトしそうだし、バイト始まれば居候じゃなく同居だね』
「確かにしそうだけど居候のままじゃないかな?
保護者が居るのにバイトでお金稼ぎ過ぎると扶養控除適用外になるからそうならない様にお店側もシフト組むだろうし。それ以前に勇者のお金は貯金させて生活はそれ以外のお金でできるよ」

そんな相手の軽口に、本気になって説明を始める雪永。転生時に貰ったお金は自身と仙李の分合わせて1億は越える上、こう見えて雪永は副業でかなりの時間働いているので、贅沢さえしなければ10年ちょいは、仙李が全く働かなくてもそれなりに良い生活が可能なのだ。

『さいですか。え、なに?魔王様は勇者様を養いたいの?』
「んー、ちょっと違うかな。
恩返しだよ。あの世界で人間と対立してまで私達を守ってくれた事の恩返し?的な。
それと仙李との生活は楽しいし、あの世界では道具として苦しんでた彼の笑顔を見ると嬉しくて」
『そっか。昔っからだけどホント魔王様いい人だよ。……魔王様が嬉しいならそんでいっか。
……あ、やばっ……』

若干引き気味の声による質問を、雪永は相手の声を気にする事なく正直な気持ちを述べれば、穏やかな声が電話越しから聞こえた。その後すぐ相手の声のトーンが下り、電話越しから慌ただしさが解るようなくらい物音がして。

「え、どうしたの!?」
『ゴメン、魔王様!勇者様……仙李らしき人来たから切るね!』
「わ、わかった!」

心配と戸惑いに煽られた雪永が尋ねれば、相手は申し訳なさそうに、だけど状況が状況なのか早口で謝ってはそのまま通話を終了させた。

「……これで学校のほうも大丈夫そうだね。
じゃ、私も学校行こっと!」

通話終了が表情された携帯電話の画面を眺めてた雪永は、その後鞄を右手に期待を胸に、家から外へと駆け出した。

Re: 元勇者、居候になる ( No.9 )
日時: 2020/08/14 08:34
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: o/NF97CU)

#注目を浴びる-4


*** *** ***

「学校に着いたはいいが……職員室はどこだ……?」

雪永が通話をしてるのと同時刻。
仙李は学生が大勢いて賑やかな学校の敷地内で彷徨っていた。職員室に行くのは雪永から聞いていたが、肝心の場所を聞いてなかったのである。
暫く彷徨ってると、人だかりもどんどん減っていって、敷地内も静かになっていた。場所は解りそうでは無く途方に暮れかれたので、一旦玄関らしき場所へと向かうと、そこに1人の長い黒髪で、凛とした佇まいの女性が立っていた。制服を着ているのでこの学校の生徒で間違いないと思い、困り果てていた仙李は彼女に話しかけた。

「すいません。ここの学校の職員室の場所を教えていただけませんか?」
「どなた?……制服……場所解らないとなると新1年生の方ですか?申し訳ありませんが入学式は午後からで……」
「あ、いえ、私は3年生で転入生です」

女性は何か勘違いしたのか、お辞儀をして謝ってきた。仙李はそれに困惑し、彼女の勘違いを訂正しようと、言葉を付け足した。

「あ……転入生の方でしたか。すいません、私とした事が勘違いした上に決めつけてしまって」

仙李の言葉で勘違いに気づいたようで、彼女は羞恥で顔を赤くしながら額に手を当てては、再び深くお辞儀をしながら謝罪の言葉を述べた。

「あ、頭を上げてください。勘違いは誰にもありますから……!」
「そう言っていただけると助かります。ありがとうございます」

特に悪い事をした訳でもない女性が自身に頭を下げてるとなると、それを申し訳なく感じた仙李は頭を上げるように言えば、女性は今度は感謝を述べて。
この女性の様子に、仙李は前の世界の事を思いだす。勇者として人間の道具とされていた一方、人間に造られた事等何も知らない一般人からはそれそこ『人類の希望』としていつも感謝されたり頭を下げられたりしてた。あの頃はまだ魔王達に会う前……感情が芽生える前なので記憶は朧気だが、見てみぬふりをしてたか、軽くあしらっていた可能性が高い。その可能性が脳裏に浮かんだ事もあり、それと今の女性が重なって心の底から申し訳無くなって。

「あ、すいません。職員室の場所を……」

このままでは空気が悪くなってしまうし、仙李はこの可能性を思考から抹消したいからと強引に話題を逸らす。女性はあっと思い出したような顔をすると、「解りました。案内しますね」と歩き始める。

まず玄関に入り、そこから上履きに履き替える。そして校舎と渡り廊下を通り、もう一つの校舎へ。移動途中に話を聞いたのだが、この学校は北と南で校舎が別れており、北校舎に職員室や保健室、実験室や図書室等の特別教室と1年生の教室が、南校舎に2,3年生の教室があるそうだ。
途中、互いに自己紹介をした。女性の名前は黒須くろす春香はるかというそうだ。3年生で生徒会長だそう。女性こと春香は「生徒会長と言ってもただの堅物ですので。皆さんとは距離を置かれてるんです。そんな人間、リーダーとして相応しくないんですよね」と苦笑いをしながら卑屈になっていた。そんな彼女に掛けるべき言葉は仙李には解らなくて。ただ眺める事しか出来なかった。



「清水さん、着きましたよ。
では、私はHRがあるのでこれで」
「はい。ありがとうございます、春香さん」
「いえ。生徒会長として困ってる生徒を放っておけませんから。それでは」

数分後。職員室前に着いたので、春香にはお礼を述べて別れる。そして、その足で職員室の扉を軽くノックした。

「おはようございます。どんな御用ですか……?」

扉はすぐに開かれ、儚く、優しい声と共に、どこか既視感のある白衣を羽織った若い女性の先生が出ていた。

「はじめまして、おはようございます。
私は本日から転入生として来た者で、清水仙李と言います。職員室に来るようにとの事なのでこちらをお訪ねしました」
「転入生の子ですか……。私は養護教諭なのでその辺りのお話は解りませんので、他の先生を呼んできます。少し待っててくださいね」

仙李が要件を簡潔に纏めて伝えると、先生は柔らかい笑みを浮かべては、小さくお辞儀をしては扉を閉めて室内へ戻っていった。

先生の言葉通りに仙李は待っていると、すぐさま室内からドタドタと激しい物音が聞こえる。暫くすると物音は収まって、その後再び扉が開かれると、これまた既視感がある、黒髪で小柄な男性の先生が出てきた。

「いやー、待たせちゃってゴメンね?清水君で間違いない?いや______


勇者イキシア様、かな?」
「ッ!?」

はじめは飄々と、だが突如として先生の目つきが鋭くなり、先生と仙李意外聞こえないであろう小さい声で、耳元に囁いてきた。
雪永達、限られた人しか知らない筈のその名前が呟かれ、驚愕した仙李は反射的に身構える。この世界なので武器は当然持ってないが、元の世界ならば常備していた剣を抜剣していただろう。

「あー、構えなくても大丈夫。
落ち着いて、よーく先生を見てみて」

先生は少し困惑したように仙李から離れ、敵意が無いと伝えたいのか両手を上げる。
初めは仙李には先生の言葉は理解出来なかったが、少しずつ冷静になってくると徐々に意味が理解できてきた。

「もしかして貴方は…………」
「そう、多分そのもしかしてで間違いないよ。
ま、こんなとこで立ち話もなんだし、転入についての話も、あっちの話もしたいから移動しよっか。
……ついてきて」

仙李の言葉を遮った先生は、茶化すようにそう言っては、そのまま歩み初めて。彼の1歩1歩は大きく、仙李は彼を早歩きで追った。

そして、すぐさまとある部屋に入っていく。仙李も部屋に入った事を確認すると、先生は部屋に鍵をかけると、仙李の前に立った。

「よし。こんで邪魔は入ってこない筈。
……という訳で改めまして。お久しぶり、こっちでははじめましてだね。
諜報員ユーリ改め高校の教頭、栖川すがわ勇里ゆうりでーす!」

少しお巫山戯気味にドヤ顔をしながら名乗る先生こと勇里。
そう。彼こそが魔王の数少ない人間側の理解であり、諜報と魔法に長けた策士ユーリが転生した姿だった。


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