コメディ・ライト小説(新)

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バグズストーリー
日時: 2021/08/26 14:21
名前: t (ID: BgqTPKsJ)

僕の身の回りでは、不可解なことは起こらない。
18年間生きてきて、まだ短い人生だからなのかもしれないが、謎めいた事件・現象とは無縁の人生を歩いてきた。今日までは。

Re: バグズストーリー ( No.2 )
日時: 2021/08/27 15:34
名前: t (ID: BgqTPKsJ)

2
僕はゆっくりと廊下を歩いた。夏の昼下がり、人通りの多い長い廊下で速く移動すると誰かにぶつかる可能性がある。目的地の自分のクラスまで来ると、次の数学の準備をした。
放課後になっても、3組の夜風という人物のことには担任の先生は一切触れることがなかった。夜風という人物が至って目立つタイプの生徒でもなかったことから、クラスの誰もそのことについて担任に質問することもなかった。何事も無かったように、帰りのホームルームを終えた。
帰りの電車の中、適当にニュースサイトをスマホで見ていると、「千葉県の女子高生が1週間行方不明」と題したニュース記事があった。僕は声に出そうなくらい、驚いた。同じ学校、それも同学年の生徒が全国のネットニュースになっていることに、衝撃を受けた。こういう事件は自分の学校とは無関係で、どこか遠くの世界で起きているものだと勝手に思い込んでいたが、実際にこうして自分の近くで起こると、まるで夢の中という感覚すらあった。
翌日、学校へ登校すると、どこのクラスも「夜風行方不明」の話題で持ち切りだった。廊下を歩くだけで、他のクラスからそのことについて会話しているのが聴こえてくる。朝のホームルームの前の数分の間にかなりの情報が入って来た。
担任がホームルームを始めると、単刀直入に、その話題について話し出した。
「えー、みなさんもニュースで見たと思いますが、3組の生徒1人が、1週間前から行方不明です。警察も捜査していますが、夜風さんの事情など何か知っていることなどがあれば、どの先生でもいいので、話してください」
チャイムが鳴ると、いつものように学校が始まった。

Re: バグズストーリー ( No.3 )
日時: 2021/08/28 16:58
名前: t (ID: BgqTPKsJ)

3 
数週間後には夏休みが始まる。友人らと遊びに行く予定を大雑把に決めた。男同士だが、この4人がいれば楽しくなる自信がある。夏休みまであと少しだと僕らだけではなく、クラスのみんなも待ち望んでいた。
そして、夜風が行方不明になって2週間が経った。
ネットニュースだけでなく、テレビの全国のワイドショーでも報道されるようになった。この手の事件ほどメディアが好きなものはない。「他殺説」「誘拐説」様々な憶測が流れ、世間は多少騒ぎ立てた。だが、僕、そして僕以外の生徒たちは、普通に部活に行ったりと普段と変わらない日々を過ごしていた。まだ行方不明という段階、夜風が友達が少ない人物というせいもあるが、僕の中では「結局日常ってこういうものか」と割り切っているように感じた。
月曜日。放課後にバイト先である飲食店に向かった。学校からそれほど離れていない。夜の8時以降にその地域に行くが、そんなに店があったり活気づいた街でもなかったので、バイトが終わっても長居することもなく、すぐに自宅に帰っていた。今日も夜の遅い時間帯にバイトを終えると、店を出たすぐにある道端の自動販売機で飲み物を買い、夜の風を受けながら佇んでいた。数個の星が空に映える。2組の通行人が僕を横切ると、耳に彼らの話している内容が入った。
「あの白い一軒家らしいよ。行方不明の女子高生の家って」
1人が指さし、雑踏の中にある家が視界に入った。まさか、バイト先のすぐ近くに、夜風の家があったなんて。夜の道で1人、僕は心がざわついた。
見てみると、ごく普通の一軒家だった。おそらくメディアの取材で連日昼間等は騒がしいのだろう。夜風の親は一体今、どんな気持ちなのだろう。子供が行方不明という現実を受け容れられているのだろうか。僕はカバンを肩に掛け、右手に飲み物を持ったまま歩き出した。夜風の家の前に来る。灯りは1つもなく、誰も自宅にはいない様子だ。辺りは静けさが包む。たまに走る車道の車の音が鳴り響く。1度も会った事もない夜風のことを思いながら、その場を後にした。
しばらく日々が続くと、夏休みが訪れた。

Re: バグズストーリー ( No.4 )
日時: 2021/08/30 13:34
名前: t (ID: BgqTPKsJ)

4 
8月に入り、クーラーの効いた部屋でスマホゲームをしていた。友人らと小旅行に行くのは3日後。その日以外の休みは、かなり暇な毎日を過ごしていた。普段見ない時間帯のワイドショーを横目に、スマホの画面を見つめている。気づけば昼も過ぎ、夕方に差し掛かる。
3日後、原チャリで神奈川へ向かった。4人ともバイクの免許を持っていたので、海の側を並んで駆け抜けた。気持ちがいい。快晴の下、目的の無い遊びの時間を費やした。
旅行から家に帰ると、自宅に着いた途端、「まだ夏休みの宿題をやってない」ということに気づき、8月の中盤なのでかなり焦った。その日から、連日宿題漬けの毎日を過ごした。
そうして、すぐに夏休みが終わってしまった。
街はいつもと変わり映えしない。学校へ向かう道も昨日の夕立の跡が残る。若干涼しさを感じながら学校へ歩いた。
朝のホームルームが始まる。担任が出欠をとると、今日の予定、始業式の段取りを話したあと、
「3組の夜風さんは、まだ行方不明のままです」
と続けた。僕はハッとした。そうか、同じ学年の生徒が行方不明だったんだ。忘れていた。テレビのニュースでも報道されなくなっていたので、完全に記憶から消えていた。まだ見つかっていないのか。
頭の中で、夜風の自宅の外観をぼんやりと思い浮かべた。
9月は、テストから始まった。休みが終わったかと思えばすぐに勉強だ。それに高3の最後の方の時期というのもあり、難易度も高かった。僕も必死に食らいついた。特に大学に神学するような学生ほど、休み時間などを活用して勉強に取り組んでいるように見えた。テストが終われば学園祭だ。10月にあるイベントだが、皆「どうでもいいかな」のようなオーラを出していた。
僕たちのクラスも、何をやるか決めなければいけない。
それにも疲れるし、面倒ではあったが、クラスの話し合い、投票で「カフェ店」をやることになった。
10月になり、学園祭が直前になる時期にもなれば、誰も「夜風」の話題すら口に出さなくなっていた。

Re: バグズストーリー ( No.5 )
日時: 2021/09/01 16:50
名前: t (ID: BgqTPKsJ)

5
10月の中頃、僕は学園祭の最中、クラスから相当離れた校舎の空いている教室で、友人らとたむろしていた。僕のクラスのカフェは、「飲み物の在庫切れ」により、予想よりも早い時間帯に終わった。午前10時から開店し、2時間で閉店となった。暇になった僕のクラスは離散した。僕も屋台をやっているクラスに行って腹を満たし、大体の出し物を見て回った後、友人らと今いる教室で休憩していた。
「マジだるいな」
「テスト明けのいい気晴らしにはなったよね」
僕が言うと、横山が返した。
外を窓から見ると快晴だった。これ以上ないほどの光が辺りを照らす。大勢の生徒たちが移動するのが見える。友人同士、カップル、1人、仮装した人。たまに教師も歩いている。学園祭日和といったところか。曇天だと楽しさも半減するだろう。
「あの2年のオバケ屋敷ヤバくなかった?」
「ああ、リアルに作りすぎな」
佐藤がスマホに視線を落としながら言う。僕もスマホでSNSを見ていた。
「それにしても、夜風ってまだ見つからないんだな。流石にもう生きてなくね?」
田口が言うと、みんなうなずいた。にしても、「夜風」という名前を久しぶりに聞いた気がする。
「まだ分からないよ。ただの家出でどっかにいるかも」
僕が言うと、それもあるな、と横山が返す。
「ツッイターで夜風の写真出回ってるけど、よく見るとかわいいよね」
佐藤が床に座ったまま言った。僕はイスに座ったまま、スマホを見ながら「そうか?」と返した。僕は、今まで夜風の写真をみても何も思ったことがなかった。

夕方が近づくと、学園祭は終わった。皆ゾロゾロと移動し、店やイベントの出品物を片付け始めた。僕らも空き教室から解散し、それぞれのクラスに戻った。カフェの後片付けに加わり、無言の空気の中、せっせと手を動かした。

Re: バグズストーリー ( No.6 )
日時: 2021/09/03 15:36
名前: t (ID: BgqTPKsJ)

6
月日は流れ、3月になった。学園祭が終わってからは怒涛のように時間の流れが早く感じた。テストや勉強に追われる日々だったし、進路を決めたりなど高校生最後の課題を色々とこなさなければならなかった。秋、冬は忙しかった。
明日は、卒業式だ。
僕は地元の私立大学に合格し、卒業後の進路は決まっていた。危ない橋は渡らず、堅実な道を選択した。残すのはあと卒業式だけとなった今日、僕は家でスマホゲームをしていた。明日でこの高校ともおさらばか、と感慨深い気持ちにはなったものの、次は大学生。まだ学生生活は続くので、寂しさもそこまでだった。一つだけあるとすれば、地元から離れる友人に対してくらいだった。
スマホを置くと、テーブルの上にあるジュースを飲んだ。今何時だ?と時計を見ると15時。1時間ゲームに没頭していたと知った。さあ、次は何するかと辺りを見回す。卒業アルバムが視界に入ったので、手に取り、開いた。
数々の写真が溢れる。そこに思い出が全て詰まっていた。行事やイベントなど今まで楽しんだ写真、授業風景、何気ない日常を切り取った写真。どれも思い入れがある。他のクラスのページも見ていき、3組のページをふと見ると、夜風の写真が目に留まった。個別写真は行方不明になる前に撮られたものだから、そのまま何事もなかったかのように載っていた。笑顔を見せていた。結局、夜風は行方不明のままだった。数か月経つが、何も進展がない。ニュースにもならなくなり、夜風のことを話す人も見なくなった。その時初めて「かわいそうだ」と思った。卒業式にも来ないだろうし、学園祭などイベントにも不参加で、楽しい思い出が夜風には無かったわけだ。本当に今、夜風はどこにいるんだろう?生きているのなら、何かメッセージを発してほしい。

翌朝。いつものように起床した。今日で高校も最後かと思いながら、身支度を進める。テレビから流れる天気予報は「雨」だった。


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