コメディ・ライト小説(新)
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- ハッピーバイバイバレンタイン【前日譚更新中】
- 日時: 2022/04/06 18:28
- 名前: 永久 知音 (ID: hDVRZYXV)
こんにちは、永久 知音と申します。
雑談掲示板では、オノロケという名前で活動しています。
以後、お見知りおきを。
さて、今作を閲覧頂き、誠に感謝いたします。
今作は、私にとって、初めての短編&久々の三人称視点となります。
バレンタインの日に親友との別れを告げられた二人の男子高校生の話をコメディ調に書きました。
拙い箇所もありますが、暖かい目で御覧頂けると嬉しいです。
作者からの挨拶を終わりますm(__)m
目次
【本編】
一話『別れ告げる』 >>1
二話『モテるテル』 >>2
三話『呪いビビる』 >>3
四話『ベルは鳴る』 >>4
五話『また逢える』 >>5
最終話『爪握る』 >>6
【前日譚】
一話『未タイトル』 >>7
二話『未タイトル』 >>8
三話『未タイトル』 >>9
- Re: ハッピーバイバイバレンタイン ( No.5 )
- 日時: 2022/02/14 23:14
- 名前: 永久 知音 (ID: hDVRZYXV)
「なんだかんだでお前と毎日過ごせて楽しかった。今までありがとな、サク」
「……ああ」
笑顔に徹していたサクの口から、小さなため息がこぼれた。
やはり親友との別れは辛いのだろうか。今に思えば、いつも通りの明るさでいたのも、別れとは程遠い話をし続けたのも、もしかしたら、そんなむなしさを実感したくなかったからなのかもしれない。
下をうつむくサクに、テルは優しく、だけど力のこもった声で、言の葉を紡いでいく。
「そんな顔すんな。きっといつかまた逢える。それに言ってたじゃねーか。別れ際に親友に見せんのは笑顔なんだろ?」
サクは少しの間、黙ったままだったが、親友の言葉を深く噛みしめながら、ある決心をする。顔を上げて、一心にテルを見つめ、口を開いた。
「やっぱ今言っとかないと、俺、後悔する。長い間会えなくなるんだ。だからここで伝えたい」
とても真剣な表情のサクに、テルも誠意を持って瞳を向ける。
「テルはきっと向こうでもすげーモテるし、友達もたくさんできる。だから……だけど、俺のこと、忘れてほしくねーんだ! 俺という存在がお前の心の中でいつまでも生き続けててほしい!」
そう言い切ると、サクは照れ臭そうに歯を見せ、笑う。
サクの秘めていた想いに少し驚きはしたものの、テルはすぐに笑顔で返す。
「十二年一緒にいて忘れるわけねーだろ。俺ら、親友だぜ?」
当たり前のように言い放ったテルの言葉に、サクはとびっきりの笑顔を見せずにはいられない。
十二年、ともに過ごした親友、サクの顔に映る、あまりにも純粋で、それでいて危うい、サクという人物像そのものが具現化されたような笑顔。
その笑顔は、テルの心の奥底までもを満たす、かけがえのないモノとなった。
こうして、親友との最後の別れは、最高の笑いへと変化を遂げた。
新幹線の扉が、とうとう閉まる。
- Re: ハッピーバイバイバレンタイン ( No.6 )
- 日時: 2022/02/14 23:17
- 名前: 永久 知音 (ID: hDVRZYXV)
テルは、新幹線の中で、扉が閉まる間際に聞いた、黄色い声援と、一人の親友の力強い別れの言葉を思い出していた。
今にも溢れ出してしまいそうな熱情を、親友がくれたクッキーとともに喉に押し込む。
ふと、紙袋の一番上に置かれた黒い布の包みに目を向ける。
「結局、持ってきちゃったな」
自分の爪が入った包み。あまりにも印象的な親友からの餞別。
いつの間にか、布をめくり、中身をもう一度眺めていた。
……。
……。
テルはかすかに微笑む。また、爪を見る。
テルは小さく笑う。包みをそっと閉じる。
「これじゃ、……捨てられねーじゃねーか」
優しく、握りしめる包みにあったのは、
十一本の爪。
- Re: ハッピーバイバイバレンタイン【前日譚】 ( No.7 )
- 日時: 2022/04/01 18:38
- 名前: 永久 知音 (ID: hDVRZYXV)
──バレンタインから少し前
「俺、引っ越すことになった」
それはあまりにも突然に告げられた。
いつもの帰り道の何気ない会話が、いつの間にか静寂を迎えている。
人間、本気で驚くと声すら出ないと言うのはどうやら迷信ではないらしい。
深く染まる夕焼けの中では、サクの顔に広がる薄い青色がとてもよく目立つ。
十二年を共に過ごした親友、テルが淡々と紡いだ、あまりにもあっさりとした言葉。
それが親友への別れの伝え方なのか。もっと情緒を含むことはできなかったのか。
様々な感情が交錯する中でも、特に強く感じたものは、悲しみでも、驚きでもない。
──冷めた怒りだ。
それでもサクは、その憤怒の想いを決してあらわにすることはなかった。
親友には分かるのだ。テルが今どんな思いで、歩き続けているのか。
思えば、最初から様子はおかしかったのだ。
朝、一緒に登校していた時も、学校で駄弁っている時も、そして今も。
笑顔ではあったが、どこか遠くを見ているような、気の抜けた様子だった。
そしてなにより、別れを告げるその短い声がわずかに震えていた。
それだけでサクには、テルが必死に隠そうとしている心の辛さが分かってしまったのだ。
自分はテルに何を言えばいいのだろう。
サクは停止している思考を無理やりに動かすが、すぐにその答えは出ない。
「......そ、そうか」
結局サクも、テルと同じ単調な言葉で返事をする。
それがまた、テルの心にもチクッとした痛みを感じさせていた。
二人の間の静かな空気を破ったのは、夕焼けを泳ぐカラスの乾いた鳴き声だった。
- Re: ハッピーバイバイバレンタイン【前日譚更新中】 ( No.8 )
- 日時: 2022/04/02 14:35
- 名前: 永久 知音 (ID: hDVRZYXV)
今、学校は水曜日の昼休みを迎えている。
騒がしく話し声が飛び交う教室の中で、一人、安眠を迎えている少年がいた。
連日続く引っ越しの準備で、全身に疲労がたまっているのだろう。
テルは机に突っ伏して、綺麗に整った顔をだらしなく崩していた。
そこに鉛色の刃物を片手に、ゆっくりと近づいてくるもう一人の少年。
彼はその刃物を、カチカチと不気味な音と共に、テルに向ける。
その時だった。
「サ......ク......」
テルが眠気の混じった柔らかい喉声を発した。
刃物をサッとズボンのポケットしまい、少年、サクは、平静を装う。
「むにゃ」
どうやら、寝言のようだ。サクは安堵で胸を撫で下ろす。
同時に、自分の名前がテルの寝言で発せられたことに、密かに喜びを感じていた。
「それにしても......」
サクは、テルの寝顔をまじまじと見つめる。
いつもは見られないあどけない表情だ。
しばらくそれを見続けた後、ハッと我に返った。
緩んだ口元を両手で軽く叩くと、ポケットからまた刃物を取り出した。
サクは改めて、これまでの経緯を振り返る。
先日、テルに引っ越すことを伝えられた。しかも、バレンタインの日に、らしい。
親友と別れるだけでも、枕に顔をうずめて叫び泣くほど悲しいのに、バレンタインの日となるとなおさらだった。
テルは親友のサクから見ても相当に良い人間だ。
誰にでもノリよく接し、困っている人は放っておけない性格。
決して自分の芯を曲げず、みんなを引っ張るリーダー的存在でもあった。
ただ、自分がモテていることを全く知らない。いわゆる鈍感男なのだ。
輝く人柄、整った容姿とは裏腹に恋には疎い男。
だからこそ、バレンタインの日に引っ越すというのは学校中の女子の気を大きくさせる。
みな、その日に想いを伝えようとしているらしい。
それは引っ越し当日、サクがテルと話せる時間が減ることを意味していた。
サクにとってテルは何にも代えがたい存在だ。
テルに自分のことを忘れてほしくない。
そのために、最後の別れは一生忘れられない、印象的なものにしたい。
そうすれば、サクという存在がテルの心の中にいつまでも残り続ける。
だから、これもしょうがないことだ。
サクは、刃物を大きく後ろに引き、そして。
テルの両手目掛けて弧を描いた。
カチチチチチ──
「よし、テルの爪十本ゲット!」
テルは鉛色の刃物、爪切りをカチカチと二回鳴らし、口笛を吹いてみせる。
別れ際、この爪をテルに渡せばきっと印象に残るはず。
そう、これはしょうがないことなのだ。
サクはポケットに爪切りと十本の爪を入れ、再びテルの寝顔を覗く。
「気持ちよさそうに寝やがって。ほんとに鈍感だなテルは」
これだとチャイムが鳴っても起きなさそうだ。
サクはやれやれと肩をすくめ、テルの背中に右手を近づける。
と、その前に......。
「ふああぁあ。お、サクおはよう。何してんだ?」
テルはあくび混じりに、横で口元をニヤニヤニヤつかせるサクに声をかけた。
「なんでもねえよ」
「お前のなんでもないほど信用できないものはねえ。白状しろ」
「テルの顔に油性ペンで落書きをさせていただいた」
「はあ!? まじかよ。トイレまで連行だ! ついてこい」
テルは眉をひそめ、サクの右手を思い切り引いていく。
サクは教室中に響く笑い声を発しながら、大人しくテルに連れてかれた。
左手にスマホを隠し持ったまま。
その時のサクの笑顔はとても清々しく、女子顔負けの可愛さだったのは学校中に波紋を呼んだ。
ただ、サクのスマホにテルの寝顔が収められていたことは誰も知らないらしい。
- Re: ハッピーバイバイバレンタイン【前日譚更新中】 ( No.9 )
- 日時: 2022/04/06 18:27
- 名前: 永久 知音 (ID: hDVRZYXV)
金曜日、テルは引っ越し最後の準備のため学校を休んだ。
テルのいない教室、その中からは生徒たちのざわめきが聞こえる。
ただそれは他クラスでも同様だった。
みな黒板の上に設置されているスピーカーに耳を傾ける。
《繰り返します。灯亜 テル君の引っ越しに関する連絡です。
バレンタインデー当日、テル君の家や巡駅にて彼に告白等を行おうとする本校生徒が多数おります。それによる混雑で、テル君及び地域の方々への迷惑が予想されます。
よって、明日の午後四時、本校の体育館にて、テル君以外全校生徒で任意参加のじゃんけん大会を行い、当日、テル君と直接会話をできる生徒を優勝者一人に絞ります。また──》
朝のHRに流れたその放送は多くの女子生徒、そしてサクに絶望を与え、また闘志を燃やさせた。
その熱気にはどのクラスの男子も怖気づく。
「私が絶対に勝ってやるわーー!!!」
「あんたいつもグーしか出さないんだから無理よ」
「はあ!? じゃあパーを出してやるわ!」
そんな会話を聞きながら、サクはじゃんけん大会で優勝する方法を考え始める。
いつだって一緒だった親友に言葉なしに別れるなんて考えは彼にない。優勝以外ありえない。
信じているのだ。テルとサクを繋ぐ絆の力を。
HR後、テルの爪を握りながら少年は立ち上がる。
全ては親友との印象ある別れのために。
「俺頑張るからな。テル」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「頼む! じゃんけん大会に参加してくれ! そして勝ち残ったら俺に負けてくれ!」
その昼休み、サクは学校中の男友達に手のひらを合わせ、そう頼んでいた。
頼み事をされた相手はみな揃って真顔で言う。
「お前は何を言ってるんだ」
「だから、じゃんけん大会で俺に負けてくれ」
「そういうこと言ってんじゃねえよ!」
困惑の瞳を浴びせてくる男友達の一人にサクは頭を掻きながら、ことの説明をする。
じゃんけん大会のルールはとてもシンプルで、代表の先生一人と参加生徒全員が王様じゃんけんを繰り返し、勝ち残りが十人以下になったら、その勝ち残った全員で直接じゃんけん勝負をして、優勝者一人を決めるというものだ。
サクは、勝ち残った生徒の中に協力者、つまり負けてくれる友達がいれば、より優勝が確実になると考えた。
もちろん協力者が一人も勝ち残らなければそれまでなのだが。
「まあ、言いたいことは分かったよ。いいぜ、協力してやる」
説明を受けた男友達は乗り気とまではいかないものの、友達の頼み事だからと首を縦に振った。
その途端、サクの目には星にも負けないきらめきがたくさん映る。
「うおおお! まじさんきゅー。やっぱ持つべきものは友達だな!」
勢いよく男友達に抱きつこうとするサクの顔に、大きな手のひらが押し付けられる。
「その代わり。いつかラーメンおごれよ?」
「おう!」
顔の手をどけると、サクはとびきりの笑顔で返した。
親友のために奔走する彼は、どんどんと輝きを増す。
「ところで、サクの作戦って穴あるよな。お前自身が王様じゃんけんを勝ち残れなかったら全く意味ねえぞ」
その意見は予想済みと言わんばかりにサクは得意顔を見せつける。
自慢げに口を開こうとしたその瞬間、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、サクは自分の教室に戻った。
──そして、放課後。
ある生徒は部活動に励み、またある生徒は友達と帰路につく。
そして彼らとはまた別の少年、サクは校内の誰もいない部屋で一人で座っていた。
なにやら身体をそわそわさせて落ち着きがない様子だ。
そこに一人の女性の先生が、ゆっくり扉を開けて入ってきた。
「ごめんなさい。少し遅れました」
「俺も今来たばっかだから大丈夫です!」
簡単な挨拶を終えると、二人は早速本題に入る。
「先生は明日の王様じゃんけんの代表ですよね?」
先生は情報伝達の速さに驚きつつ、サクの質問に肯定の意を示した。
返事を受けると、サクはいつもは見せない真面目な顔で言った。
「先生、明日のじゃんけんで先生の出す手を教えてください」
「へ?」
あまりにも突飛的な頼みに先生は裏返った声を出し、顔を呆けさせた。
生徒相談室の中で二人は互いを見合う。
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