コメディ・ライト小説(新)

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彼女のためにゆるキャラを作る彼氏の話。
日時: 2022/07/16 11:09
名前: ふぇのめのん (ID: ovjUY/sA)

 全部で6話です。
 ひとつの話が大体2000文字くらいです。

Re: 彼女のためにゆるキャラを作る彼氏の話。 ( No.1 )
日時: 2022/07/16 12:00
名前: ふぇのめのん (ID: ovjUY/sA)

1話

 「あっ、シナ○ロールだ~」
 レジに向かう途中、突然彼女の声がしたので振り返ると、彼女は棚の前で立ち止まって何かを手に取っていた。
 よく見ると、それはあるキャラクターのぬいぐるみだった。
 全体的に白く、丸みを帯びた2頭身のフォルムに、垂れている長い耳が特徴の、有名なキャラクターだ。
 しかしすぐに俺の興味はぬいぐるみではなく彼女の方に移る。なぜなら彼女が特定の商品に対してわざわざ足を止めることは珍しいからだ。
 「そういうの好きなの?」
 「うん。てかバッグにもつけてるし」
 言いながら、彼女は持っていたぬいぐるみを棚に戻して、肩にかけているスクールバッグを体の前へずらす。
 「ほら」
 先程まで彼女が持っていたものとサイズもデザインもほぼ同じぬいぐるみが、スクールバッグのポケットから顔を出していた。
 「ほんとじゃん!え、そういうの好きなんだ?」
 俺は驚いてつい同じことを聞いてしまう。答えは聞かなくてもわかっていた。
 こういうぬいぐるみが好きだったのか、そうかそうか、と俺は思わずポケットのぬいぐるみを指で撫でる。
 「うん、好き。」
 彼女の意外な一面を知れた嬉しさで俺はいっぱいになる。
 「結構、好き」
 深刻そうな声だった。俺は思わず顔をあげる。
 頬を赤くして恥ずかしそうにしている彼女の瞳が、俺を見ている。
 いつもの余裕そうな彼女からは程遠い、初めて見る顔だった。
 「れ、レジ行こ!足止めてごめんね」
 彼女が歩き出す。同時に、ぬいぐるみの耳も揺れる。俺はぬいぐるみの後ろをついていく。俺の目線はぬいぐるみにしか行かない。
 言うの勇気いっただろうなー、と思う。あの言い方は本気で好きな時の言い方だったから。本気で好きなものを人に言う時は、勇気がいる。
 俺はレジに並び、持っていた棒アイスを2つ、店員の前に置いた。店員がバーコードを読み取っていく。
 「ヒャクハチエンが2点ー、合計でニヒャクジュウロク円になりマス。袋入りますカ?」
 イントネーションで外国人だと気づく。名札を見みるとワンと書いてあった。ワンさん。どこの国の名前だろうか。顔だけでは外国人と気づかなかったから、おそらくアジア系。台湾とか。
 「大丈夫です」
 そんなことを考えながら俺は画面の『現金』と表示されている部分を押して財布から小銭を取り出した。
 丁度216円、機械の口へ落としていく。
 『完了』を押すとレシートが出てきて、それを真下の箱に捨てる。
 「アリガトウゴザイマシター」
 「ありがとうございました」
 お礼を言い、俺たちは出口に向かって歩き出す。
 自動ドアが開くと、蒸し暑い熱気がぶわっと肌にかかった。
 「ほんと暑いねー」
 店の外に出ると、彼女が手のひらで顔を扇ぐ。
 目の前を、自転車に乗った学生や日傘をさした女性、サラリーマンが通り過ぎていく。その向こう側の道路には信号待ちの車がずらりと並んでいた。
 そして更にその向こう側で、真っ青な空を背景に真っ白な入道雲がもくもくと背を伸ばしている。
 「だなー、はい」
 俺は持っていた棒アイスの片方を彼女に渡す。
 「ありがと。でも本当に奢ってもらっちゃっていいの?」
 「いいのいいの、俺はバイトやってるんだから」
 袋を開けながら俺たちは同時に左に曲がる。このまま真っ直ぐ歩いた先に、彼女の家がある。
 「申し訳ないな。帰りも送ってくれてるしさ」
 「俺がやりたくてやってるだけだよ」
 棒アイスに舌をつけるとひんやりと冷たい感触がして、かじると爽やかなソーダ味が駆け抜ける。口の中のアイスは一瞬で舌の上を溶けてしまう。
 「うめー」
 思わず声に出す。
 「ね、美味しい」
 彼女もそう言って微笑んだ。それを見ると、俺は嬉しいはずなのになぜか胸がチクッと痛んだ。その理由はすぐにわかった。
 『結構、好き』
 低い声、赤い頬、熱い瞳。
 頭の中で彼女の声と表情が反芻する。
 歩きながら、俺のことだったらよかったのにと考える。
 「さっきのぬいぐるみさ、何て言うやつだっけ?」
 「シナ○ロールだよ」
 「へー、兎?だよね?耳長いし」
 「違うよー!子犬!」
 「犬なの!?てか何でシナ○ロールって名前なの?」
 「しっぽがシナモンロールに似てるから」
 「あー、なるほどね。なんか他にもキャラいるよね?」
 「いっぱいいるよー。私そういうゆるキャラ好きだからよく調べたりするんだよね」
 「ゆるキャラかー、確かに可愛いもんな」
 「でしょー?私本当にだーいすき、ゆるキャラ」
 「へー、俺も調べてみようかな」
 「無理に合わせなくても大丈夫だよ?」
 「別に無理はしてないよ、なんか俺もハマりそうだし」
 「ほんとー!?嬉しー!あ、家着いちゃった」
 気づくと彼女の家が目の前にあった。
 白い壁にオレンジ色の屋根がついていて、玄関のドアが茶色の、洋風の家だ。まだ中に入ったことはない。
 「じゃあ、また明日」
 「うん、また明日。いつも送ってくれてありがとう。あとアイスも。」
 「ん、別に。またね、バイバイ」
 俺が手を振ると、彼女も振り返す。それを見て俺は後ろを向き、来た道をまた歩き始める。 
 俺がゆるキャラを作ったら、もっと好きになってくれるだろうか。家に着くまで、俺はそんなことを考えていた。
 


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