コメディ・ライト小説(新)

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ソライロスコール
日時: 2023/01/18 22:55
名前: 緋彗 (ID: 5R9KQYNH)

ぼっちざろっく面白すぎだろ!!!
私もかつてはバンドを組んでました。ベースのあと、キーボードに異動しました。


投稿頻度いいの最初だけです

Re: ソライロスコール ( No.3 )
日時: 2023/01/20 14:08
名前: 緋彗 (ID: mwHMOji8)

第2話「実質ぶっつけ本番」

「着いたよ!Box、ライブハウスに」
結局断れずついてきてしまった。
しかも僕が男であることも言えないまま、ライブハウスまで連れてこられてしまった。
「これからあと本番まで5時間だけど、いける?」
「ご、5時間!?ち、ちょっとベースのスコア見せてよ!」
流石にキツすぎる。本番まで5時間は意味が分からない。
スコアもかなりすごいものだ。
「す、スラップ...」
指の皮膚が薄いせいで、高速スラップをすると指が切れてしまうため、絆創膏が欲しいのだが...。
「薫子どこに行ってたんだ?って、この子どうした」
「神田亜希帆ちゃんっていうの。同級生。公園でベース弾いてたから、拾ってきた」
「えー!?うそー!めっちゃ可愛いじゃん!!身長は平均より高い感じだね。目ぇでかぁ!」
なんだこの陽のオーラをまとってる輝いてる人は。眩しい、直視できない...。
「...す」
「え?」
「か...す。よ、く」
マジで何言ってるか分からない。声ちっさ。すっごい頑張って出してるのは伝わるけど、声ちっさ。
「あぁ...世那聴こえてないから。もっと大きな声で」
「...ッスゥゥゥゥ......甲斐世那です、よろしく」
すごい眉間にシワよってる。必死なのか顔真っ赤だし。
「あぁみんな自己紹介まだだったな。私は南原綾乃だ」
「高倉薫子だよー」
「四宮聖です!」
「四人合わせてアベリアでーす!」
四人の元気に圧され、思わず後退りしてしまう。
僕がバンドやってた頃はこんなことなかったな。
「じゃあ取りあえず着替えよ?制服じゃあれだし」
そう言って高倉さんが出した衣装は...スカートにオリジナルTシャツ。
ん?スカート?
「...えぇぇぇぇぇ!!!???」
「どっどうしたの?」
「えっと...非常に言いにくいんだけど...」
「?」
「実は僕、男...」
空気が凍ったことを察知し、今日で人生が終わった。
と思っていた。
「嘘でしょ!?かわいすぎ!!」
「...」←親指立ててる
「神田っち女の子より可愛いからスカートだって大丈夫だよ!!」
「そうだな。...あぁぁ!!興奮してきたぁ!!」
南原さんはそっち系の人なんだ...。

「...それじゃ、いい?」
ステージの奥にあるスタジオで、一度合わせることに。
ちなみに僕はスコアを見て10分も経っていない。さすがに厳しいんだけど...。
ドラムスティックが4拍鳴った後、一斉に鳴らした。

「...いい感じだね」
「な、なんとかなった...」
多分こんな経験は2度とないだろう。というかしたくない。
本番まで残り30分。
「ちょっと休憩にしよ?」
「...」←頷く
「神田っちちょっと着替えてきなよ。絶対可愛いから」
うん別に可愛い可愛くないは心配してない。というかズボンでも良くない?

「みなさんこんばんは!アベリアです!今日は助っ人としてベースを弾いてくれる神田亜希帆ちゃんに来ていただきました!」
(まだちゃん付けなんだ...)
「亜希帆ちゃんめっちゃ可愛くね?」
「やべえアベリアみんな美人だけど亜希帆ちゃんに惚れそう...」
あー同性に恋愛感情抱かれる気分ってこんな感じなんだー...。
観客の視線が僕の方へ向く。前のバンドでは注目を浴びることなんてなかった。
「それでは今日は一曲だけですが、聴いてください。かなうぼし」

「おつかれ~」
ライブは大成功で、なぜか僕のサインがめちゃくちゃ売れた。
「神田ちゃんすごかったね。サインバカ売れって」
「アベリア入ってもらいたいぐらいだよ!神田っちどう?」
突然の勧誘。
もちろん誘ってくれるのは嬉しい。だけど、またあの時みたいなことがあったら。
「...えと、ごめん。入ることはできないよ」
「そっか...理由、訊いてもいい?」
「うん。僕、中学までバンドやってたんだけど、ある日メンバーとの対立で逃げ出したんだ。だから、アベリアで同じことがあったらみんなに迷惑をかけちゃうから」
全部話した。胸の内の思いを全て。
「...そんなの、関係ない」
「え?」
「世那?」
「うちらは迷惑だなんて思ってない。亜希帆に入ってほしい、それで一緒にやってほしい」
彼女なりに頑張ったのか、息が上がってフラフラしている。
「世那、一気に喋りすぎたな。それで?神田さん、君はどうしたい?」
僕は、
「僕は、アベリアに入って一緒にやりたい」
「よく言った神田ちゃん!」
高倉さんが僕に飛びつき、後ろに倒れる。
甘い香りが鼻腔を突き抜け、ますます何も考えられなくなる。
「かおちゃん危ないよー?」
「全くだよ」
観客が居なくなった、静かなステージの上に5人。
「ごめんごめん。...じゃ、」
____ようこそ、アベリアへ!


2話終了です。
ライブハウスとかめっちゃなついです

Re: ソライロスコール ( No.4 )
日時: 2023/01/21 14:11
名前: 緋彗 (ID: 5R9KQYNH)

第3話「夏の香り」

「路上ライブ?」
「そう!宣伝の意味も込めて、路上ライブをやろうかなって」
7月に入り、ポカポカ陽気から一転灼熱地獄に姿を変えた。
Boxの中はクーラーが効いており、快適だ。
「ということで、新生アベリア第一回目のミーティングを始めます!いえい!」
ノリと勢いで拍手をし、ミーティング(?)が始まった。
「じゃあまず場所なんだが...よいしょっと」
南原さんが机の下から、衛星写真と図が載っているパネルを出した。
「横須賀駅前でやろうと思っている。そこで二手に別れてやろう。2人は警察署に行って、許可取り。3人はポスター作成」
するとPAさんがパソコンから顔を上げた。
「ポスター作るならアー写撮りに行けばいいじゃん?あたしカメラマンやろうか?」
「あーしゃ?」
「そっからか...アー写はアーティスト写真の略。どうせなら写真撮っといた方がかっこいいよ?」
アー写なんか一度も撮ったことがないので、正直不安なのだが...。
とりあえずは警察署に出向いて、許可取りに行かなければ。
「うーん...許可取ったあとに行こ?あそうだ!じゃん負け2人が警察署ね!」
「かおちゃんその言い方は自首しに行くみたいだから...」
「まあいいじゃないか。...よし、最初はグー!」
「じゃんけん」
ポン。
「ま、負け...」
「...うちも」
結局僕と甲斐さんが負けて、行くことに。
すると、なぜかみんな僕らの方を見てニヤニヤし始めた。
「...え、なに?なんでニヤニヤしてるんですか?」
「......行こ」
「え?あ、うん行こうか...」
甲斐さんは顔を赤くしていた。なぜに?

「...はい、それではお気を付けてお帰りください」
なんとか許可を取り終え、Boxまで戻ることに。
午後の1時なので、太陽は頭上にありとても暑い。
「甲斐さん、暑くないの?」
「暑い...」
オーバーサイズのロンTにジーンズ。この時期には暑すぎるコーデだ。
「もう少しだから」
「...」
最近は甲斐さんの声を聞き取れるようになり、かなり仲がよくなった気がする。
「甲斐さんって、なんでギター始めたの?」
「...うち、肌の色素が薄くて外で運動できないの。そんで、中学の時綾乃に誘われて始めた」
汗だくになりながら話してくれた。
そしてようやくBoxまで戻ることができた。
「あ、おかえりー。って、汗だくじゃん...」
「...琉歌るかさん、みんなは?」
「あー...PAちゃんとコンビニ行ってるよ」
琉歌さん、というのはBoxのオーナーである榎本琉歌えのもとるかさんのことだ。
琉歌さんは、扇風機の前で金髪を靡かせていた。
「亜希帆」
「?なに?」
突然甲斐さんに呼ばれ、僕は耳を傾ける。
「さん付け堅苦しいから呼び捨てでいいよ」
「え?...じゃあ、世那?」
すると満足そうな笑みを浮かべ、頭を撫でた。
「亜希帆」

「ただいまー」
帰ってきたみんなは、汗だくで死にかけ同然だった。
「ここは天国か...?琉歌さんクーラー4℃」
「バカか綾乃、電気代大変なことになるわ」
「アー写は?いい加減撮らないと、日ぃ暮れちゃうよ?」
「夕暮れ...?そうだ!エモいと来たら夕暮れの海沿いの道路だ!」
PAさんがいきなり大声を上げた。
一同唖然。
「17:30海沿い集合だ!」
急に決まってしまったことに、誰も返事ができず、一人で盛り上がってる変な人のレッテルがPAさんに貼られたことは僕らしか知らない。


3話終了です
アー写撮りたかったです

Re: ソライロスコール ( No.5 )
日時: 2023/01/22 21:23
名前: 緋彗 (ID: 5R9KQYNH)

第4話「スペシャルゲスト」

いよいよ路上ライブ本番。
時刻は17時、空は朱色に染まり始めていた。
「遅いなぁ...」
待ち合わせからすでに20分近く経っているのだが、まったくメンバーが来ない。
しかもロングスカートを履いているので余計に恥ずかしい。それにさっきからすごい男の人に見られるような...。
「あれ?アベリアの子だよね?」
「はっはい!」
急に話しかけられたので、体が跳ね上がる。
目の前には僕よりも身長が高く、ジーンズのオーバーオールを着た女性だった。
「あたし、甲斐友佳かいゆかっていうんだけどさ」
「えと、神田亜希帆です...」
するとおもむろに彼女のものであろうベースが出てくる。
「5弦ベース...?」
「そ。確か君、ベースの子だよね?」
「はい、そうですけど...」
悪戯な笑みを浮かべる。
「メンバーの子たちが来るまで、一緒にライブしてかない?」
「え?」
「アベリアの宣伝も込めてさ。こう見えてあたし、結構有名人なんだよ?」
アンプにシールドを繋ぎ、音出しを始める。
「あれ、甲斐友佳じゃね?」
「横はアベリアのベースの子じゃん。うわめっちゃ可愛い...」
「お、人集まってきたねぇ」
すると甲斐さんはベースを弾き始めた、即興で。
「神田ちゃんだっけ?怖がることなんてないよ、だってさ!こんな千載一遇のチャンスなかなかないよ?」
甲斐さんの周りだけ、世界が違う気がした。彼女が、彼女自身のオーラを築き上げている。
僕もあそこに入れたら、どれだけ楽しいかなって。
「...」
甲斐さんのスラップが周辺に響き渡る。
僕も負けじとスラップするけど、彼女の技術やベースに対する熱量が違いすぎる。
追い付けない。

「いやぁ大盛況だったねぇ」
「はぁ、はぁ...」
10分間ぶっ通しで高速スラップなんて2度としたくない。腕が死ぬ。
「ごめん!遅れた!」
「高倉さん!南原さんに世那!」
「ぜぇ、ぜぇ...。道が混みすぎて、今すぐセッティングするね?」
「...はな姉ちゃん、なんで居るの」
世那の言葉に、思考が停止する。
「お!世那~!いやー就活で失敗したからさ~、またBoxで働くことになったからさー!まあ琉歌には言ってないけど」
「え?姉ちゃん...?」
「そそ。世那の姉貴だよ。本名は甲斐羽那かいはな
あー、よく分かんなくなってきた。
「神田さん、大丈夫か?」
「うん、大丈夫...」

「お、おかえりー...。は?」
「よっす琉歌!就活失敗したからここで世話になるよー」
なんだろう、琉歌さんの羽那さんに対する視線が冷たい。
しかし羽那さんはおかまいなしに、ソファーに荷物を置き、そのまま寝た。
「...なあ、こうなったときの対処法知らない?」
「知らないよ」
「...PAさん」
「へけ?」
「姉ちゃんつまみ出して」
すると、急に羽那さんが焦った表情しだした。
「ちょちょちょちょーい、冗談キツいよ世那~。ここは平和に行こうな、な?PAちゃん今度合コン連れてくからさ、いいよね?」
「琉歌さん羽那さんここで働いてもいいですよね?」
うわー、大人って汚いな。
「羽那、お前...マジで最低だな。亜希帆まだ高1だし、世那高2だし」
「え!?高2!?」
思わず声を上げてしまった。
僕、年上相手に呼び捨てで呼んでたのか。
「...ほんとにすいませんでした世那先輩!!!」
「!?...え、いやその...」
「世那が焦ってる焦ってる。可愛いよなぁこういう世那って」
「そりゃ自慢の妹ですから」
「羽那さんはもう少し自分の立場を弁えようか」

「ただいまー」
「おかえりお兄ちゃん!」
はぁ、癒される最高だ...。
こいつは巫由ふゆ。小2になったばかりの妹だ。
「今日もライブだったの?」
「うん。たくさんお客さんが来たから疲れたよ...」
うん、色んなことがあって疲れたな。セクハラされたり、羽那さん追い出そうとしたり...。
しかし、僕には巫由が居るから疲れなんてどうでもいい。
「ん?なんか、イコライザーかからない...?」
嫌な予感がした。
「イコライザー、死んでね?」
気づかなければよかった。気づかなければ、普通に使えていたのに。
明日もライブだし、ベース壊れるし。代わりないし。
「...」
あきほ:すいません、ベースが壊れたのでライブできなさそうです
かおるこ:マジか!
羽那:あたしのベース貸そうか~?料金発生するけどwww
せな:ごめんねうちの姉貴が!大丈夫、ベースならうちに何本もあるから使ってね!
「...」
えーこわ。世那の普段とLINEのギャップやばすぎでしょ。
あきほ:じゃあ、お願いしようかな


4話終了です
ベースは僕何回も壊してますね。今のFenderのやつ壊したら泣きます

Re: ソライロスコール ( No.6 )
日時: 2023/01/23 19:11
名前: 緋彗 (ID: 5R9KQYNH)

第5話「さよなら相棒、よろしく相棒」

「代替品?」
「はい、神田ちゃんのベースは壊れちゃって...」
「だから昨日は羽那のやつだったのか...」
ぶっちゃけ昨日のライブはほぼ無心だった。他人のベースで変にスラップなんてしたら何が起こるか分かったもんじゃない。
「そーだ!神田っち、私と一緒に楽器屋さん行こうよ!」
「うぇ!?え、あのその...」
最悪だ。
楽器屋なんか行ったことすらないのに。
「みんなは?」
「パス~」
「私もだ」
「うちも」
みんな行かないじゃん。僕あの新天地という名の魔境に連れていかれるのか。
あそうだ、僕ベース買えるお金ないんだった。
「あー僕ベース買うお金ないからなー」
「大丈夫だよ神田っち、アベリアの広告収入とかグッズ代とかでお金たくさんあるから」
なんだろうな、四宮さんの目が笑ってないな。しかも茶封筒のままお店入ったら怪しまれ...ないか。

「いらっしゃいませー」
「うわあ...!」
四宮さんは目を輝かせながら見てるけど、僕は最高に怖い思いをしながら見てるんだよなー。
よし、とっとと選んでとっとと帰ろううんそうしよう。
「これください!」
「神田っちエレキギター買うの!?しかもストラト!?お金足りないよ!?」
「お探しのものはございますか?」
「あ、この子のベースです」
「ベースでしたら、そちらのアコースティックギターの隣のコーナーです」
店員さんが優しい人でよかった。多分優しい人じゃなかったら死んでた。
「ベースか...私よく分かんないんだよね~。ギターは分かるけど」
「前のはフェンダーだったから、別のメーカーにしてみようかな」
「お二人とも学生さんなんですか?」
「はい。同級生でして」
そういえばそうだった。
実はクラスが隣で、よくお昼は一緒に食べていたりする。
「それではこちらはどうでしょう?」
黒光りするベース。なんだか、あのバンドを思い出すな。
「YAMAHAか。BBシリーズ弾いてみたかったんだよね」
「女性の方でベースを弾いておられる方はかっこいいですよね」
「あ、えっと...男、です」
めっちゃ驚かれた。そりゃそうだよね、男っぽくなくて頼りないからね。
「し、失礼しました!」
「いえ、慣れてるので...」
「神田っち、どうするの?」
「...これにしようかな」
そして購入。値段は10万円とまあまあいいお値段だったが、これでバンド復活できる。

「おおー!」
「BB734Aか。いいベースだねぇ」
「てめえはいいからさっさとアンプ片付けろ」
「えー?琉歌辛辣~。いいじゃん別に」
「よくねえとっとと片付けろ」
あの二人は相変わらず、と言った感じだ。
なんだか、笑えるな。
「ふふっ」
「神田ちゃん?どうしたの?」
「いや、幸せだなって」
そう、幸せなのだ。家族のような存在のバンドのみんな、ライブハウスのみんな。
これが幸せなんだって、気づけるようになれた。
「はいはい!このままだと神田さん泣いちゃうから、とっとと新曲作るぞ」
「ええーせっかくいい感じだったのにー」
「聖、やるよ?」
「ほんと、亜希帆は可愛い」
こんな日常がいつまでも続くといいな。
僕はただ願うばかり。


5話終了です
小説用に曲作るなんて思いもしませんでしたが、楽しい

Re: ソライロスコール ( No.7 )
日時: 2023/01/25 16:14
名前: 緋彗 (ID: 5R9KQYNH)

第6話「元メン」

8月に入っても茹だるような暑さは健在だった。というかむしろ暑くなってる。
そんな中、夏フェスに向けた練習はクーラーの効いた部屋で順調に進んでいた。
「サビ前のドラム、フィルインもっとやっていいよ」
「りょーかい!」
「それじゃ、そろそろ休憩にしようか」
基本的に僕が色々口を出すことが多い。
みんなに迷惑だと思われてないといいけど、みんな楽しそうだ。
「神田さん、お茶とジンジャエールどっちがいい?」
「それじゃあジンジャエールもらおうかな」
「じゃあ私コーラ」
「聖、コーラない」
「つっかえねーこのライブハウス」
えー言っちゃったよこの人。いくら幼馴染みの経営してる店だからって流石にヤバイでしょ。
そういえば今日は夏フェスに向けたライブがあるのだ。
「おーい、ちょっといいかー?」
「うぇいびっくりぃ!?」
琉歌さんがスタジオのドアを開け、高倉さんのツッコミどころ満載の驚き方を無視しながら喋る。
「今日お前らがトリだからな」
「...え?」
「お前らが最後だ」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!???」
普通に聞いてない。
いやまあ昨日琉歌さん飲みすぎてヤバかったもんな...。
「ほれプログラム」
「うわマジじゃん...」
プログラムに目を通していると、見たことのあるバンドが。
「ゆうれいさまって...」
「知ってるの?」
「まあ...前居たバンドっていうか」
「えぇ!?そうなのか!?」
驚くのも無理ない。だって言ってないから。過去に入ってたバンド名言ったって、今は関係のない話だから。
とはいえ、本番まで会わないといいけど。
「お前ら、そろそろ入れ替えだから片付けてな」
「いやーライブハウスとかさいっこうだなー!」
懐かしいような声。察しがつくまでそう時間などかからない。
「お、亜希帆!そのバンドのヘルプか?いつこっち戻ってくんだよ。急に連絡取れなくなって心配したんだぜ?」
やっぱり、知らないんだ。僕が抜け出したこと。
「あのー...神田ち...神田くんはうちのバンドの正式メンバーですが」
「え?」
「...」
「おい、冗談だよな?お前、うちのバンド辞めたのかよ...?」
空気が凍る。
もう、こんな場所に居たくなかった。だから走った。
「っ!」
「あ、待って!」
高倉さんの呼び掛けに反応せず、僕はひたすらに走った。
怖かった。あいつらになにされるか、みんなに何をするか怖かった。

「はぁ、はぁ...もう運動ダメなんだから走らせないでよ」
「...っ」
「神田ちゃん、ダメだよ急にどっか行っちゃうなんて」
高倉さんが隣に静かに座る。
「...なんで」
「ん?」
「なんで、僕ってこんな弱いんだろ」
生暖かい液体が頬を伝っていく。
泣いていることを知られたくないから、震える声と嗚咽を殺して顔をズボンにうずめた。
「...亜希帆くん、自分が弱いと思うのならそれは違う」
初めて下の名前で呼ばれて、少しだけ動揺する。
「君が来なかったら、今頃アベリアは解散してた。その危機を救ってくれたのは亜希帆くんなんだよ」
冷たくて柔らかな感触が髪の毛越しに伝わる。
「...僕は、もう一度っ...もう一度認めてもらいたかった...!」
「よく言った少年!さ、気が済むまで泣きな?傍に居るからさ」

「どうも!アベリアです!本日は、2曲やらせていただきます!それでは聴いてください、独りぼっちリバーブ」
公開はyoutubeではしていない新曲だ。だからこそ緊張する。
しかもサブボーカルに僕が抜擢されてしまったことも相まって、先ほどの涙が嘘のような感覚だ。
「ありがとうございました。続いては、夏夢ディストーションです」
4拍のカウントから、イントロのギターが鳴る。
キーボードがメロディのためか、南原さんはとても気持ち良さそうだ。
「やっぱ、夏って感じだな」
「ん?琉歌、ついに頭いった?」
「殺すぞ。神田くんの作る曲は、なんか爽やかでいて切ないなと」
「彼の作詞能力はもちろん、作曲能力まであるとなるともう最強だね」

ライブが終わり、それぞれのバンドが帰る準備をしている最中、僕らは夏フェスに向けた練習を始めた。
「亜希帆、俺らのバンドに戻ってくる気はねえか?」
「またですか。彼はもう、戻ることは___」
「頼む!お前が楽しそうなの見て、ベースも上手くて、そんな楽しさを俺らにも共有させてほしい!!」
頭を深々と下げ、頼まれる。
けれど、僕が言える答えはただひとつ。
「ごめん。僕にはアベリアがあるし、アベリアが大好きなんだ」
これだけ。ただこれだけ。


6話終了です
コメントがないです


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