ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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紅い悪魔と女神様 ※コメントください
日時: 2009/10/04 15:46
名前: ちずる (ID: HKLnqVHP)

バリバリのファンタジーオタクなので、書く物もファンタジーです。実はコメディ・ライト小説か、シリアス・ダーク小説か迷いましたが、人がバリバリ殺されていくのでこっちになりました
そして最初のほうは全くシリアスでもグロテスク系でもないですが、……終わりに行くにつれ哀しくなってまいりますので。
テーマが重たいので、更新は亀より遅いかと思われます。許してください……

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Re: 女神のナミダ ( No.5 )
日時: 2009/10/04 11:33
名前: ちずる (ID: HKLnqVHP)

「よく知っているさ」

呟きを聞いたものは誰一人としていない。

Re: 女神のナミダ ( No.6 )
日時: 2009/10/04 13:23
名前: ちずる (ID: HKLnqVHP)

一 予感

——ああ、やっちまった。

アイリスは内心頭を抱えた。本当に抱えることができなかったのは、手が後ろ手に縛られているからである。ほこり臭い狭い一室。ついでに息苦しいことから他にも同じ立場の者がいて、ここにぎゅうぎゅう詰めになっていることが分かる。

窓はない。古びた木製のドアに厳重に鍵がかけられていて、足は太い縄で縛られていた。
手首のみがかすかに動かせる。

——何でこんなことになっちゃったのよ……
アイリスは特に目立つ少女というわけでもない。
腰まで伸ばしている金髪はともかくとして、顔は至って平凡なほう——だと思っている。
アイリスは、自称・平凡な顔をしかめて、何とか縄がほどけないかと身をよじる。

奴隷商。
誘拐、拉致、その他もろもろで手に入れた奴隷を高い金で売る、非合法組織。
アイリスは今、その奴隷としてつかまっているわけだが、このまま行けば売られた先により、肉体労働か水商売路線まっしぐらである。
アイリスにとっては、当たり前だがそんなのはごめんだ。

脱出してやる、という意志を固めたものの、手の縄はほどけず、血もにじんできたところでやめた。
何か縄を切る鋭利なものを探して、芋虫も真っ青な動きで部屋を這い回る(という風にしか表現できない)

Re: 女神のナミダ ( No.7 )
日時: 2009/10/04 13:43
名前: ちずる (ID: HKLnqVHP)

その一室には、両手の指で足りるほどの少女が、やはりアイリスと同じように縛られ、転がされていた。
「ね、なんか縄切れそうなものもってない?」
少女達は、一瞬アイリスを見たが、みなその芋虫のような動きに顔を背けた。
関わり合いになりたくないという無言の訴えが、その背から伝わってくる。
むっとしたが、そこで食い下がったらおしまいだということは、長年の孤児院暮らし——くそ生意気な弟妹たちの世話——で重々承知している。アイリスは、再び口を開いた。
「何か、縄を切れるようなものよ。このまま皆で闇の世界へゴーなんて哀しすぎるじゃない? だから皆で——」
「ありますよ」
ふんわりした声がアイリスをさえぎる。
「私の腰のところ、短剣が」
驚いて(その短剣が取り上げられていないことに驚いて)見遣ると、肩につくほどの金髪の少女が、紫の目を細めてにこりと笑ったところだった。
「なんだか分からないけど、見落としてくれてありがとう、ね」
アイリスは、やはり芋虫歩きで少女の下へと近寄った。
「ありがとう、あなた、名前は?」
「ユーリといいます。あなたは?」
そう聞いてから、ユーリはアイリスの顔を見て、まあ、と呟いたあと、
「あなたも私とおなじ目の色をしているのですね」
やはりふわりと笑って見せた。

Re: 女神のナミダ ( No.8 )
日時: 2009/10/04 14:16
名前: ちずる (ID: HKLnqVHP)



「まだ見つからぬのか」
「…………」
苛ついたような声に無言を返す銀髪の青年は、その人物に思い切り蹴飛ばされても声を上げなかった。少女の肌より白く、蝋人形を思わせるような細い指が赤の絨毯に這う。
「………………」
「その態度が気に食わぬと申すに!」
「おやめください、王!」
傍らの若い妃が、壮年の王と青年の間に割って入った。金髪に、紫の目をした美しい女性である。
ガラス細工の声帯からでたようなはかなげな声で、青年を弁護した。 
「この者とてわざとではございません、せっかくあの子を探してくださっているのに……」
「そなたは黙っておれ、エリザベト。……この者は奴隷商を十も回った上にすべて壊滅させておる!後始末のなんと多いことか。わしは「ユーリを探せ」とは言ったが、「死体の山を作れ」といった覚えはない!」
「………………」
「あなたが奴隷商をしっかりと取り締まらなかったのが悪いのです!私は何度も明言いたしましたわ!」
王妃は、先ほどのか細い声から一転、力強く夫を詰った。奴隷商に愛娘をさらわれた母親の訴えである。
次の言葉で、王妃は王を追い詰めた。
「あの子に何かあったら……私はあの子の後を追いますわ」
「な、何を言うエリザベト……」
「本気です」
紫の目が、縦より横が長い王の双眸をまっすぐに射抜くと、けり倒された姿勢のままの青年を立たせ、大広間から連れ出してゆく。
放心している王を残して。



「ごめんなさいね」
「…………それを言うのは俺の方だろう」
王妃に向ける言葉ではないのだが、エリザベトは銀髪の青年——ヴィラムに笑いかける。
「もうあんなご老人はたくさんですわ。頭が固くて硬くて……あと十年私が遅く生まれていたら良かったのだけれど……いえ、あなたが十年早く生まれていたら、かしら」
どこか艶っぽい笑みを浮かべた後、ヴィラムの整った唇に唇で触れる。
「…………俺はその気はないといったはずだが」
「あなたは無くても私はあってよ」
エリザベトは、無抵抗のヴィラムを間近から見つめる。
海と空の間の色をした双眸が、エリザベトを写していた。整った鼻梁、銀色の睫とそれらを覆う長い前髪。
時には表情を隠すのにも役立つ前髪をそっと掻き揚げて、エリザベトは甘くささやいた。
「愛人候補に入れておいてくださいな」
そうして、花のような香を残し、惜しげに離れた指を、青の目が追う。
人気が無くなった回廊で、ヴィラムは呟いた。

「無理だな」

やはり、聞くものはいない。

Re: 女神のナミダ  ※コメントください ( No.9 )
日時: 2009/10/04 14:55
名前: ちずる (ID: HKLnqVHP)



「ねえ、この短剣切れ味悪いんだけど……!」
アイリスは疲労のたまった手首を休めながら、ユーリの縄を手探りで触った。
——何でこんなに切れないのっ?
お世辞にも、「もうすぐ切れそう」なんて言えない。
「ええと、じいやが」
「ジイヤ?」
「私専用に鍛冶屋さんが刃を特殊加工してくれました。確か……‥…安全性に長けているとか」
つまり。ユーリにもたせると危ないから刃の切れ味を悪くしたのだろう。
「もういい。分かった」
切れない刃物なんか携帯してても意味ないじゃない!という罵声を呑み込む。
アイリスは、再び仕事を続けることにした。

「アイリスさん」
ふいにユーリが小さく言った。
「アイリスでいいよ」
「じゃあ、…………アイリス」
少し言いにくそうにアイリスを呼んだあと、続ける。
「子供は、夢をもっていいですよね?」
「え?………………まあ、誰だって夢はあるんじゃない?別に夢を持ってて悪いって訳でもないし」
「たとえば……親の仕事を、子供が無理やり引き継がなきゃいけないとか、そういうのどう思います?親がその仕事をしているだけで、その子供の夢を潰して良いと思いますか?」
急に早口になったユーリに少し驚きつつも、アイリスは答える。
「あんたは、そういう立場にあるわけね、ユーリ」
「…………私、ずっと旅をしたかった」
細々と語り始めたユーリの話を、その部屋にいた誰もが聞いていた。
「旅をして、いろいろな国の伝承をまとめて、それを本にするんです。私、……伝説とか、御伽噺とか大好きで……いつか、旅をするんだって、ずっと思ってたんです……なのに」
そこで、ユーリの声が険しくなった。
「お父様もお母様も、私が次の王になるって決め付けて。私の意見なんて、聞いてくれませんでした。…………だから、家出したんです」

その時やっと、ユーリの縄が切れた。
「やった!次の人の縄切って、ユーリ」
「…………あの、話聞いてました?」
疑わしげな少女のまなざしに、アイリスは答える。
「聞いてたわよ。話についての感想は後。いつ奴隷商の馬鹿どもが来るかわかんないし」
そういって、ユーリを促した。


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