ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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紅い悪魔と女神様 ※コメントください
日時: 2009/10/04 15:46
名前: ちずる (ID: HKLnqVHP)

バリバリのファンタジーオタクなので、書く物もファンタジーです。実はコメディ・ライト小説か、シリアス・ダーク小説か迷いましたが、人がバリバリ殺されていくのでこっちになりました
そして最初のほうは全くシリアスでもグロテスク系でもないですが、……終わりに行くにつれ哀しくなってまいりますので。
テーマが重たいので、更新は亀より遅いかと思われます。許してください……

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Re: 女神のナミダ ( No.1 )
日時: 2009/10/04 10:48
名前: ちずる (ID: HKLnqVHP)

登場人物

アイリス 十七歳
孤児院で暮らしていた少女。足が速いことが自慢。
孤児院に来る前のことをすっかり忘れており、出身、名前も一切不明。忘れてしまったのは、あまりにも惨い過去のせいだと思われる。

青年(ヴィラム)   ?歳
年齢不詳、本名不明の浮世離れした美青年。呼び名は〈赤い悪魔〉と書いてヴィラム。変な名前だと自覚はしているらしいが、変えようとは思わないらしい。

ユーリ 十六歳
どこか世間知らずなお嬢様。奴隷商に捕まってしまったところ、アイリスと出会う。

まだ増えます。

Re: 女神のナミダ ( No.2 )
日時: 2009/10/04 10:58
名前: ちずる (ID: HKLnqVHP)

序 紅い月の下で


ある一人の青年は、戸のない窓から夜空を見上げる。
砂漠の国エスガルディアの離宮は、冷え冷えとした夜の冷気に包まれ、昼間の煮えるような暑さとは真逆の顔を見せる。
青年は自らの赤い髪をいじりながら、身体に巻いた毛布をさらにきつく巻きつけた。

「……寒いな」

彼はもともと、体が弱い。砂漠の夜は冷えるにもかかわらず、生まれつき弱い体の彼は、長い時間冷気にさらされるのはかなりこたえるはずなのだ。
そんな彼がなぜこんなところに立ち通しているか——

この青年の名を、ファイアス・エスガルディアという。

Re: 女神のナミダ ( No.3 )
日時: 2009/10/04 11:17
名前: ちずる (ID: HKLnqVHP)

ファイアスは美貌の顔をしかめると、髪を弄っていた手を顔の前に持ってきて、

ぱちん


指を鳴らした。

一瞬で、その指の先に火がともる。
「やっぱりこの方が落ち着く」
独白してから、守役の青年の小言を思い出して、軽く笑った。
「また怒られちゃうなあ」
力を使うなと私は何度も言いました、あなたは言葉を知らないのですか、……そんな類の小言が安易に想像された。
「だって、この方が楽なんだもの。しょうがないじゃないか」
脳内の守役に弁解する。
じゃあ外に出なければいいではありませんか。
このままでは、いつ御身体を悪くされるか。

やはり安易に想像できた。
何度も同じことを言われ続け、彼の返答パターンを把握してしまっている。自分で導き出した答えに、ファイアスはすねたようにも見えるしかめ面で呟く。

「それだけは嫌だよ」

暖を取るように指先に灯した炎に手をかざし、再び夜空を眺める。

彼が空を見るのは、——空が世界をつないでいることを知っているから。
紅い三日月が、ファイアスと彼の国を照らす。

「早く、君に会いたい」
空を見るたび、思う。
抱き続けた願い、想い、そして「彼女」に対する愛しさ。どうしても、とめられない。
若き王には、力ずくでも、手に入れたいものがあった。
「愛してる」
届かない言葉。想い。願い。この胸に抱いた愛おしさ
……。

ずっと前から、
君が来るのを待っている。
「愛してる……」

ささやく。
目を閉じるだけで、姿を思い描けた。
五千年のときを経てなお、鮮やかに輝き続けるその姿に、ファイアスは繰り返す。

夜空を見上げて。

Re: 女神のナミダ ( No.4 )
日時: 2009/10/04 11:27
名前: ちずる (ID: HKLnqVHP)

また一人の、青年がいた。
紅い三日月の照らす、わずかな明かりのもと、手にした剣を一閃させる。
青年の頬に滴るのは、汗でもなければ涙でもない、赤い液体だった。
「……ひ、人殺しっ……!」
青年の足元で、彼よりも巨体の大男が、柄にもない声でひーひーとわめいている。
「お前はっ……! ひとごろし……」
「そんなこと」
ふいに大男の声がぷつりと途切れた。
青年はこの状況で、恐ろしいほど青い目に、何の表情も宿していない。
絶命した男から剣を引き抜き、その血潮が身体を染めても。
最後に、狭いねぐらを見回して、死体の山を見るときも。

ひとかけらの表情も映さない。

人は、彼を怖れ、こう呼んだ。


紅い悪魔——ヴィラムと。


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