ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

LOVE SEED!
日時: 2010/01/07 16:22
名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)

初めましてです。
のんびりです。動詞ではなく名詞です。
まだまだ未熟な私ですが、頑張るのでよろしくお願いします!

コメディ・ライトかシリアス・ダークのどっちに入れるか迷いました。だってどっちも入ってる感じになりそうだし・・・結局シリアスの方に入れましたが。

登場人物
「逢梨明ユウ(ありあ・ゆう)」
記憶喪失の少年。魔法と魔術が使えない魔導拒絶体質である。綺麗な銀髪は、右目で分けてありちょっと跳ねている感じ。印象的なその琥珀色の瞳はまさに宝石のようとまでどこかで言われているとかいないとか。
「真宮愛佳(まみや・あいか)」
ユウの第一発見者。修三の娘。銃器なら大体扱う事が出来る。茶髪の肩まであるセミロング髪。頭に黒いリボンをつけていて、後ろから先端が出ている。そこにフリルがあしらってある。
「冬樹白馬(ふゆき・はくま)」
名門校フレイヤ学園に通っている少年。無口でかなり真面目。特別所為のグローブをつけて相手を殴る蹴るが主な攻撃方法。綺麗な黒髪で、丸フレームの眼鏡をかけている。唯一その透き通ったブルーサファイアのような瞳が明るく見える。EX,s所属。
「真宮修三(まみや・しゅうぞう)」
愛佳の父。実は教師だったり。主にハルバードという戦闘用の槍のような斧を使用しており、家にある道場に3本ほど飾ってあるとか。
「冬樹先生」
防人学園生物学教師。
「葛木先生」
防人学園魔術科教師。


登場キャラ、及びそのキャラの説明は更新されて行きます!

Page:1 2 3



Re: LOVE SEED! ( No.4 )
日時: 2009/12/18 00:45
名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)

第1話「記憶と不幸の連鎖」(3)

 面倒な事になったな、とつくづく思う。
「ちょっとあなた、そこで何をしているの?」
 特に何もしていなかったと言うか、今更どうすれば良いのか分からなくなっていた時に後ろから言われた事だった。振り向いてみると、一人の女性が立っていた。歳は30代くらいだろうか、丸いフレームの小さい眼鏡をかけて、ショートヘアーにした綺麗な黒髪は彼女の年齢感を感じさせない。おそらく教師だろう。ユウとしてはありがたい事だったのだが、
「今は授業中でしょ?早く教室へ戻りなさい。それと後で生徒指導室に」
「と言われても俺に自分の教室なんて──」
「何?言い訳でもするつもり?」
「いや、だから──」
「だまらっしゃい!」
 実力行使とでも言わんばかりにローキックしてきた。側頭部に決まった蹴りをくらったユウは思いきり横にすっ飛ばされて柱に激突した。
「〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!」
 声にならない悲鳴をあげて床で痛みに悶える。ローキックは相当痛かったが、柱はかなり痛かった。しかも角がうまい具合に骨と骨の間にくい込んで激痛のハーモニーを奏でて来る。悶え苦しむユウを前になんの反省もしていない目の前の女教師。いや、もはやそれも疑わしくユウの目には映っている。人の皮をかぶった鬼と言う奴はもしかしたら本当に存在するかもしれないそう今目の前にいる人とか、と考えていると、
「何の騒ぎですか冬樹先生」
 痛みが治まらなくて振り向く事は出来ないが、男性の声が聞こえた。かったるそうな喋り方で、足音もなんだか同じように聞こえる。
「葛木先生」
「ありゃ、どうしたんすかーこいつ。苦しそうに悶えちゃって」
「口答えするので黙らせただけです」
 何も言わせてもらってはいない、そんな気がするのは気のせいだろうか。
 ようやく治まってきた腰をさすりつつゆっくり起き上がる。目の前にはスーツを着てはいるが、ワイシャツの方はボタンを第3まで開けネクタイもかなりゆるゆる。こっちもこっち教師っぽくない。もしかして自分の教師像がおかしいのではないかと思って来た。
「で、お前何やらかした?」
「何にも。俺は色々あって遅れてきたからどうすれば良いのか分からなかっただけだよ」
「まぁ!入学初日から遅刻!なんて子なの!?」
「話は最後まで聞いてくださいよ冬樹先生。全く、その早とちり癖治した方が良いっすよ?……で、名前は?」
「逢梨明、ユウ」
「逢梨明ユウぅ?」
 突如考え込む葛木(くずき)。5、6秒ほど考えて何を納得したのか閃いた顔をしている。そして一瞬同情するような瞳をユウに向けてきた。正直止めてほしい、とユウは心の奥底から思った。
「修三さんが言ってたのはお前だったのか、記憶喪失だってな?面倒な事に。まあ学校生活にそんなもんは関係ねぇから安心しろ。ほら、教室まで送っててやるよ」
 肩をつかまれ半分引きずられるように連れて行かれる。が、
「ちょっと待ってください葛木先生」
 それを冬樹が呼び止めてきた。また面倒な事になってきやしないだろうかと少し緊張してしまう。
「なんすか冬樹先生」
 が、葛木はそんな事も思っていないのか、かったるそうに首と目だけ冬樹に向ける。それが気に喰わなかったのかさっきよりも眉間にしわが寄る。
「一人で勝手に納得しないでください、その生徒が何だって言うんですか?」
「怪我して病院に行ってて遅れただけですよ。連絡は来てますから」
 それじゃ、と言い残して葛木はユウを引っ張りながら階段を上って上の階へ行く。3階まで来ると、1年の教室までやってきた。葛木曰く、2、3年はCクラスまでなのに対し1年はFクラスまであるらしい。2、3年は選ぶ事があるから、それだけ言って済まされた。
「さて、Bがお前のクラスだ。皆と仲良くやれよ」
 と言いながらドアを開け放つ。
 教室の中は黄金卿にでも来たかのように輝いていた。これが自分の求めていた物なのかと思ってしまうくらいだ。その輝きは段々と大きくなってきて、

 顔面に直撃してきた。

「うがああアアァぁぁぁッッ!!?」
 魔法だか魔術だかだったらしいそれは思いきりユウの身体を仰け反らせながら吹き飛ばした。今日3回目の被弾だった。一難さってまた一難とはよく言った物だとユウは本当に思う。
「だ、大丈夫!?」
 冬樹とは違う別の女教師がユウの元に心配そうな顔をして走って来た。それに続き生徒達までもがやってきた。大丈夫では無いが一応大丈夫と言っておく。
 ふと見ると、手に持っていた松葉杖は真っ二つに折れていた。
「……マジか」
「あの……ごめん」
 こりゃ弁償かも、そう思っていると聞き覚えのある少女の声で話しかけてきた。
「本当ごめんって、「「あ」」
 同時に指差し、はもる。周りにいる生徒達は愛佳を見たりユウを見たりしている。知り合いっぽい事に興味を持ったのかもしれない。
「えっと、確か朝の……逢梨明、ユウ。だっけ?」
「真宮愛佳だったな」
 ズキズキする顔を押さえながら改めて声の主の少女を見てみる。やっぱり朝の少女だった。真宮愛佳、修三の娘だ。
「「…………」」
 誰もこの空気の中で声を出そうとする人はいなかったそうな。

LOVE SEED! ( No.5 )
日時: 2009/12/19 18:38
名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)

 第1話「記憶と不幸の連鎖」(4)

 時は進んで学校帰り。愛佳とユウは同じ帰路についた。それもそのはず、帰るべき家は今は同じなのだから。
 家に帰ってきてまず当然のごとく始められた話題。それは──。
「こいつ、どうすんだ?」
 記憶喪失少年「逢梨明ユウ」。学園都市で今から寮を取ろうとしても確実にどこも空いてはいないだろう。だからといって愛佳達の家のような物は借りれない。簡単に言えば、完全なホームレス状態なのである。これからどうしようかなー、とボケっとしながら考えていた。
「新聞紙とダンボールがあれば何日かは過ごせるか?」
 凄い事を真顔で言う教師がここに居た。ある意味冬樹より恐ろしい。今日、今の今まで見てきた教師達は本当は教師でもなんでもないのではないかと思いたくなる。
「お父さん……それはさすがに酷いんじゃ」
「じゃあ他にどうしろってんだよ」
「家に置いてあげれば良いでしょ」
「……はぁ?」
 唖然として開いた口が閉じない修三に反して、ユウはまるで女神でも降臨したかのように目を煌めかせ愛佳を見つめた。人間こんなにも笑えるのか、そう思えるほどの笑顔で。
「あああ愛佳! そんな事出来るかッ、親がいるとはいえ若い男女が同じ屋根の下で寝泊まりなんて!」
「変な事言わないでよ! だいたいダンボールと新聞紙だけじゃ絶対風邪引いちゃうってば! それにお母さんだって同じ事言ったはずだよ!」
「くっ……ここであいつを出してくるのは反則だ! だが……だがしかし俺は認めんッ!こんな記憶喪失なんぞ家に置くかぁ!!」
 どこかのドラマの「娘さんをください!」「認めん!」っていう彼女の親へのお願いのシーンのような光景と言うか親子喧嘩だった。確かにどっちも一理あるような無いようなという所だが、ユウとしてはここで住まわせてもらえた方が滅茶苦茶ありがたいのだが、まさか喧嘩するとは思わなかったユウだった。
 とりあえずこの場を沈めようと仲裁に入ろうとして口を開こうとした瞬間、
「ゴチャゴチャ小さい事言ってんじゃないよ! 私が住まわせると言ったら住ませるんだよ!!だいたい娘も信じれないような男が親なんてやるなバカ!!」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 沈黙が続いた。
 いや、彼らの言い争いは続いているのだが、ユウの心の中でとても寒い風が吹いたような気がした。長い長い沈黙が覚めるのは少し時間がかかった。実は心の奥底で優しい良い子だなー、と思っていたから余計にだ。
「くっ、親の弱みに付け込むとは……! 親譲りの恐ろしさだな! でもそこに惚れたのは事実だよ!?」
「どうでも良いからそんな事。とにかく、お父さんがなんと言ってもユウは家で保護します。いや! 私が保護しますッ!」
「あのさ……」
「愛佳!! あんな記憶喪失で不幸で同情するような要素しか無くて、右目の傷跡なんかカッコいいなーなんて奴なんかおけません!」
「最終的に褒めてるし! ああもう面倒くさいとにかく私が住ませると言ったら住ませるの分かった馬鹿なお父さん!!」
「んな! お父さんに馬鹿は薙いだろう馬鹿は!!」
「あの、さぁ……?」
「「黙ってろ事の元凶がァァッ!!」」
「す、すみませんでした……」
 謝らないと殺されるような気がしてならなかった。つい土下座までしてしまうほどに。
 言い争いは約2時間ほど続き、最終的に押しに修三が負け、かくしてユウは真宮家に住む事になったのであった。

      *           *         *

 案内された部屋はまるで誰かが住んでいたかのような場所だったが、やけに片付いていて今では部屋のドア側の隅にベッドが一つあり、その隣に勉強机みたいな机と椅子があるだけだ。
 その机の上に一つの写真立てが置いてあった。それは見たくないかのように伏せられている。なんとなく気になったユウは手に取って見てみる。そこには今よりもっと幼い愛佳と、考えられないくらい若い修三、そして──。
 とある女性が1人。

「……それ、お母さん」

 後ろにいた愛佳がポツリと悲しげに言った。ユウは振り向けなかった。振り向いてしまえば、想像した通りの表情の愛佳がいるからだ。
「私がまだ10歳の頃、まだハーメリア戦争が続いている頃だったけど私の村だけは一度もそんな被害は無いまま過ごしてたの」
 ハーメリア戦争とはここ都市国セイヴァーと今でこそ共和国などと名乗っている帝国マルシェーリとの戦争だ。マルシェーリがセイヴァーを物にしようとしてきた事が始まりである。戦争と言っても、3年で終わった。場所がハーメリアと言うマルシェーリの都市だったためこの名がついた。
 そんな事を思い出しながら覇気の無さげに話す愛佳の話に耳を傾ける。
「でも、その頃夜中に村を魔獣が襲ってきたの。家を突き破って何匹かの魔獣が入ってきた」
 どこの村にも有り得る事だ。魔獣なんて物はそこら中にいる。だから襲われる村だってあるのだ。
「その時お父さんは将軍とかやってていなかった。だからお母さんが銃で対抗したの」
 愛佳はおもむろに太腿辺りにつけたケースから銃を取り出す。『アークM999』という形自体はオートマチックのようだが、リボルバー式のハンドガンで、反動などが押さえられ使いやすくなった物だ。おそらく愛佳の母の形見だろう。
「お母さんは武術科に行ったから強かったんだよ?最後の一匹だった。でも、突然目の前が光ってその光が消えた時には目の前が真っ暗だった」その時にね、と続けて「お母さんが私の名前を叫んだ時に、やっと目の前が開けた。そしたら……」
 自分をかばった母がいた。
 強い光を受けて目が対応出来ず一瞬暗くなった時に呆然とした愛佳を魔獣が狙ってきたのだろう。母親はどうやらそうはならなかったらしく、動けないでいる愛佳を庇うしか無かった。下手に撃てば自分の娘に当たってしまう可能性があったからだ。
 今まで明るかった愛佳にも自分を責めるほどの過去があったのだった。その時、記憶を取り戻したいと真に願わずにはいられなかった。自分が今まで何をしてきたか、どこに住んでどんな人生を送ってきたのかを知りたい。自分が何者かも分からずに死ぬのは悲し過ぎるとユウは感じた。
「……あはは、ごめんね。変な空気になっちゃったね」
「別に……。カッコいい母親だったんだな。愛佳の母さんは」
「うん、お父さんより尊敬してるって言ったらお父さん可愛そうかな?」
 2人して笑う。少し空気が軽くなった気がした。こうして笑うだけで周りは明るく見える物なのだと、ならずっとこの笑顔を守って行きたい、そう思えた。
「……さて、明日も学校だしもう寝ようぜ」
「うん……おやすみ。逢梨明君」
「……ユウで良いよ、長いか短いか分からないけど同じ家に住むんだし名前で呼んだって良いだろ?」
「そう、だね。うん、おやすみユウ」
「ああ、おやすみ愛佳」
 ゆっくり部屋を出て行く愛佳を見た後、一息ついてベッドに入る。明日から本格的に記憶探しだ。
 と、良いのだが。

      *         *          *

 鳥が鳴き始めた頃の朝。何人かの人が扉から出てきて外の空気を吸う頃だ。鳥のさえずりは気持ちを清々しくさせ、朝の日差しはうっすらと残る眠気を吹き飛ばしてくれる。
 そんな時だった。惨劇が起こったのは。
 人々は逃げ惑い。戦い、そして倒れて行った。
 敵は人々を上回る動きで襲い、肉を喰いちぎり、『何匹か』倒れて行った。
 1時間半くらいだろうか、すでにその村は『終わっていた』。
 村を終わらせた存在はゆっくりと北東へと向かって行く。その先にあるのは──。
 
 『学園都市アシュセイヴァー』だった。

Re: LOVE SEED! ( No.6 )
日時: 2009/12/20 08:28
名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)

 あれから数日が経った。
 いい加減学校にも慣れ、特に何事もなく過ごしている。
 と、言っても魔術も魔法も使えないユウは武術の授業以外ノートをとる意外無いのだが。のんびりと過ごす毎日だった。
 ユウの成績は今の所中の上くらい。魔法に関して駄目なユウは魔術に関しては無駄に知識があった。だからかもしれない。
 そして最近ふと思った事がある。
「こうしてて記憶って戻るのか?」

 第2話「消え行く記憶と決定祭」(1)
 
 今は昼休みだ。当然のように皆昼ご飯を食べ始める。
 ユウは愛佳が作ってくれた弁当があるのだが、クラスメートの原田と政岡の購買部に行くのに付き合う事になった。故に今現在廊下を歩いていたりする。ぐぅー……と、鳴り響くお腹の音。
「……何故俺まで行かにゃならんのだ」
 そうぼやくと原田が、
「いいじゃねーかよー。ちょっと購買に付き添って帰るだけだろ?」
 続いて政岡が、
「っていうか、俺は別にどっちでも良かったけど。ユウがついて来ようが来まいが」
「じゃあ帰って良いか?」
「今更だろう?」
 フッ、と不敵に笑う。結局政岡はどっちが良かったのだろうか。
 購買部につくと、漫画みたいな世界が広がっていた。
 群がる男達。
 それから離れて眺める女達。
 やがて諦め食堂へ歩いて行く女達。
 弾き飛ばされ転ぶ男達。
 そんな感じだ。
「んじゃ、逝ってくるぜ……」
「そうか、逝くんだな。まあ死地だしなある意味」
「俺は普通に行くが」
「さっさと帰ってこいよ、腹減ったから」
 再び不敵に笑うと政岡は亡者の群れへと特攻して行った。やがて見えなくなる彼の姿。それを追うように原田が突っ込んで行った。が、軽く弾き飛ばされていた。
 ユウはそんな光景を見ながら思う。どうすれば記憶は戻るのだろうと。
 ショック療法とかって言うのもあるらしいが、もうそんなような物は何回も受けたような物だ。だからおそらく無理。気長に待つと言ってもいつになるのやらだ。やはり自分から探しに行くしかない。
 行くしか無いのだが、結局こうしてボケっとしている自分がいた。
「駄目だこりゃ……」
「何がだよ?」
「うおわぁッ!?」
 いつの間にか目の前にいた原田が顔を覗き込みながら聞いてきた。もう生還していたようだ。
「いや、結局政岡に買ってもらった」
 手には焼きそばパンとカレーパンを持っていた。自分では行かなかったらしいので見直したのを撤回する事にする。
 ゆっくりと後ろの群れから出てきた政岡は、唐揚げ弁当を持っていた。が、何故か表情は怒っている。
「おい、原田。金を払え」
「何で?」
「何でじゃない、立て替えてやったんだ。さっさと俺に払うのが当然だろう」
「チッ、ケチな奴」
 渋々財布から500円政岡に渡す。受け取ると、さっさと教室に戻ろうとしたので2人はそれを追いかける。
 戻る途中、ふとこんな話題が出てきた。
「なあ、ユウは真宮と付き合ってんのか?」
「…………、ちょっと待て。何でそんな話が出てくるんだよ?」
「一緒の家に住んでいるのだろう?共に帰る所を見たと言う生徒も何人かいる。そういう噂が立ってもおかしくはないと思うが」
 そうかもしれない、ユウは思う。思うが、納得出来ない。
 いくらなんでも早過ぎはしないだろうか。まだ4月も終わっていない時にそんな噂が立つなど。まあどうでも良い事なのだが。
 もしかして愛佳もそんな質問をされているのだろうか。 
 と、考えに浸っている場合ではない。沈黙は2人にあらぬ想像をさせる恐れがあるからさっさと答えておくべきだ。
「噂は噂だよ、愛佳と俺はそんな関係じゃない。俺って記憶が無いし、今更寮の部屋も借りれないから一緒に住ませてもらってるだけ。大体そんなイベントも起きないぞ?」
「なんだつまんねーの」
「まあ、こんなに早くカップルが産まれるのもどうかと思うが」
 納得してくれたらしく、再び他愛も無い会話に戻るのであった。
 
     *           *         *

 教室に戻ると、愛佳と河原が既に昼食をとっていた。当然と言えば当然だろう。
「あ、お帰り。ちゃんと買えたみたいだね」
「原田は自分じゃ買ってないけどな」
「あー、政岡に買ってもらったんでしょ?いつも通りよねー。こいつ一回も自分で買えた事無いし」
「うるせぇ、別に良いじゃねーか。買えない物は買えねーんだよ!」
 威張って言う事ではない、と心の中でツッコミを入れておき、席について弁当を開ける。と、
「日の丸弁当……」
「あ……ごめん、時間無くって……」
 思いきり肩を落とす。空腹の中原田と政岡に付き合って帰ってきた物はこれだけだった。せめて漬け物くらいあってほしかったと思った。でも一応いただく。
「俺達も早く食おうぜ」
「ああ」
 2人も席につき、食べ始める。相変わらず他愛無い会話をしながら。

   *             *         *

 昼食を食べ終えると、愛佳が思い出したように話をきりだしてきた。
「そろそろ決定祭だよね?」
「ああ、そういやそんな事言ってたよなー」
「まぁ、出れるかどうかは分からんがな」
「私は見てる方が楽しいわね」
 やけに盛り上がりだした4人。だが全く理解出来ず1人頬杖をついてのんびりしているユウがいた。そんな事に気付かないようなので、とりあえず聞いてみる。
「なぁ、決定祭って何だよ?」
「「「「え?」」」」
 一斉にユウの方を振り向き、3、4秒ほど見つめてきた後愛佳だけが納得したような顔をして、掌をポンと叩いた。
「ユウは記憶が無いから知らないんだよね」
 それを聞くと他の3人も納得したような顔をする。もしかして知らなきゃならなかった事なのか、と思った。実は知識はあるが、こう言った行事に関しては何も知らないユウである。
 愛佳によると、決定祭とはこの学園都市アシュセイヴァーの理事長、今では新理事長のリッドベルト・クレア選抜の何人かで戦い、EX,s(イクセス)という学園都市の生徒会のような物を決定する祭りなのだとか。ちなみに、戦いとはブロック訳のガチバトルである。武器には防護装置(プロテクト)がかけられているようだが。
「選抜された何人か、だから私たちは無理っぽいかもね」
「ふ〜ん」
 その前にEX,sの事をあまり理解していないユウだった。
「ん? そういや……」
 ふと思い出した事がある。次の授業は武術科で、教師が恐い人で遅刻したら学園都市一週させられる訳で──。
 授業は1時30分から。現在1時20分。
「まだ間に合うな……」
「ユウ、どうしたの?」
 そんな言葉を無視して体操着袋をロッカーから奪い去り何も言わず告げずに一気に教室から飛び出す──ッ!!
「……何だぁ? アイツ」
「…………、あぁぁああぁ!!」
「んな、何だ愛佳。突然叫んで」
「次武術科だよ! しかももうすぐ始まる!」
 何ぃッ!!と、叫ぶ原田、政岡、河原。
 ちなみにユウは既に着替え終え、グラウンドに何事も無かったかのように遅れてきた4人を迎えていたとか。当然のように蹴られたユウであった。

LOVE SEED! ( No.7 )
日時: 2009/12/29 01:30
名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)

 第2話「消え行く記憶と決定祭」(2)

 学園都市一週は何とか避けた物の、他の生徒達の倍の授業量を受けさせられたユウ以外の4人は、無理矢理ユウを巻き込んだ。今更自業自得なのだと気付いたユウであった。
 授業終了5分前。生徒達を集めた武術科教師の潟塚(かたづか)は、近い決定祭についての説明を始めた。といっても、ほとんど愛佳が言っていた事と同じだったが、EX,s(イクセス)という学園都市と言う巨大な学校の生徒会についての事は詳しく説明された。
 愛佳は簡単にEX,sを「生徒会」とまとめたが、実際の名称は生徒会EX,sではなく、『学園都市アシュセイヴァー理事長選抜超少数と区別部隊EX,s』という長ったらしい名前だ。
生徒会としての仕事は当然やるが、主な活動はセイヴァーで起こる事件や、凶暴な魔獣の討伐などが多い。当然生徒レベルの話だが。
まさに、学園都市の『EXcellent symbol(卓越したシンボル)』。
 ちょっとカッコいい、そう思ったいたユウだが決定祭に出場出来るのは理事長に選ばれた10人のみ。記憶喪失で特に目立たず完全に怪しい自分など選ばれないであろうと思っていたユウだが、
「逢梨明、お前もう出場決まってるらしいな。頑張れよ」
「……は?」
「もうお前は出場決定だ。もう学園都市中の学校に知らせが来てる」
 ……………………………。
 意味が分からなかった。

     *          *          *

 放課後、帰る準備をしていたユウの元に愛佳達が寄ってきた。何だろう、滅茶苦茶笑顔だ。決定祭出場決定の事だろうとまあ予想はついてるけど、こいつらだと少し恐い気もする。
「ユウ凄いね! もう出場決定が決まってるなんて!」
「ん、ああ。まぁ、な」
 全く実感がない俺にはよく分からん。でも愛佳の言い方からしてかなり凄い事なのかもしれない。実感はないが。
「実感ねーなー、って顔してるな。お前」
「まぁ突然だったんだ、当然かもしれんな……」
「でもおめでとうね、ユウ。EX,sに入れたら祝ってあげるわよ」
 特に茶化すでも無く普通に賞賛して来たこいつらがまるで別人に見えたのは何故なんだ……。でも少し嬉しいのも事実だった。ありがとう、そうお礼を言うつもりだったんだが──。
「賞賛する意味なんてねぇぜお前ら」
 と、愛佳達の背後から声がした。男の物っぽい。
「こんな短期で即決されるわけないだろうが。何かセコい事でもしやがったんだよ」
「そんな事ユウがするかよバーカ。大体んな事で今代の理事長、リッドベルトさんが動かされる訳ないだろ?」
「分からねぇじゃねぇか。誰かに良い風に言ってもらったのかもしれないぜ、例えばそこの真宮の父親とかな」
「お父さんはそんな事しないよッ! 勝手な事いわないで!」
 やけに嫌な笑い方をしながらベラベラと屁理屈と言うかなんと言うか。とにかく適当な妄想を俺達に言って来た。っていうか、俺だけならまだしもなぁ。
「おい、俺の悪口なら俺だけに言えよ。愛佳や原田達に言う必要ないだろうが。そんな事しか出来ないのかよクズ」
「何だと……?」
「お前ら武術科の授業で見てたけどさ、めっちゃサボってたよな? そんでもって今度はこれか?駄目だな、全然だめだ。もう壊滅的に駄目だよお前ら」
「てめぇ、言わせておけばズケズケと!」
 大声張り上げても相手がこんな小物じゃ威嚇にすらならないもんだな。全く恐くない。俺は怯まずに続ける。
「よくここの面接通ったな。驚くぜ、逆にお前らがズルしたんじゃないのって聞きたくなるほどにな。ってか、授業中こっちみてヘラヘラ笑ってたけどもしかして自分たちが強いとでも思ってる訳?だとしたらただの思い上がり自惚れ自意識過剰ナルシストのクズ野郎だよお前らは」
「ンの野郎ッッッ!!」
 堪忍袋の緒が切れた、って奴なのか俺に殴り掛かってくる。よくある不良の行動パターン。すぐに暴力で訴える。全く、これだからクズだって言ったんだけどなぁ。せめてもっとマシな不良であってほしかった。ほら、番長みたいなもの凄いカッコいい感じの。いや、あれは不良じゃないか……。
 とか考えていると相手の拳は目の前。愛佳達が目をつぶっているような光景が目に浮かんだ。さすがに俺も調子に乗り過ぎたか、と思ったけど、
 普通に首を横に曲げたら避けれた。 
 なんと言うか、反射運動?勝手に動きました。いや全く。続いてまた反射的に相手の腹を殴る。それだけで気絶するもんだから驚いたよなー。やっぱり弱いんじゃないか。
 それからはやっぱりベタな展開。続いて殴り掛かって来た奴が気絶して最後の奴は逃げてった。とりあえずそこに放っておいたけどね、気絶した2人は。
 起きた時に周りを見渡してバカ面してるこいつらが目に浮かんだ。……おもしろかった。

Re: LOVE SEED! ( No.8 )
日時: 2009/12/31 02:31
名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)

  今日から決定祭が始まる。実は俺以外誰が出るのか全く分からない状況にあったりするのだが、俺としてはどうでも良かった。誰が出たって勝つ気でいる俺にとってはな。
 EX,s。ミッションのためにあちこち回る生徒会兼特殊部隊。
 それはつまりそこに入れば記憶が探し放題、なんて考え方をしちまうのは俺みたいな記憶喪失だけ、なんだろう。でも俺にとってはとても重要というか、まさに宝の山が眠っているかもしれないどっかのダンジョンみたいなものだ。だから出来れば入りたい所だ。 
 と、ドアをノックしてくる奴がいた。大方愛佳辺りだろうけど。
「入るよーユウ」
 やっぱり。
 適当に返事しておくと、ドアを開けて愛佳が入ってくる。何故か凄い笑顔で。それを見て思い出すは武術科の授業で原田達と一緒に俺を巻き込まんとしてきた時の笑顔だけ。ちょっと恐い。
「ねぇ、聞いてよ♪」
「んぁ? なんだよ?」
 どうやらまた俺が何かした、なんて訳じゃないらし。ちょっと安堵する。

「私も決定祭出る事になったんだよ!」

 ………………。

「はぁっ!?」

 第2話「消え行く記憶と決定祭」(3)

 決定祭の舞台はここ、学園都市アシュセイヴァー。ではなく、その隣にある技術都市シュヴェーデで行われる。理由は簡単、そんな事を催す場所が無い。でもこっちにはある。ただそれだけの事。
 ユウと愛佳は都市間を繋ぐ電車に乗ってシュヴェーデへと向かう。遠くにうっすらと見えるシュヴェーデは、何となく要塞のように見えた。
「……まさか、お前まで選ばれるとはな」
「私も驚いたよ。今日突然言われたんだもん」
 話によると、決まっていた生徒が今日断ったらしく代わりとして愛佳が選ばれたらしい。というか、補欠のような物だったため、すぐに選ばれたらしいが。
「お母さんとお父さんもEX,sに入ってたらしいんだよねー。だからちょっと憧れてたの」
「そいつは良かったな。入れれば尚更」
「うんっ!」
 嬉しそうに頷く。見ているとこっちも嬉しくなってくるから不思議だ。
 そのまま他愛のない話をしていると、うっすらとしか見えなかったシュヴェーデがいつの間にかくっきりと見えるようになっていた。
 近くから見てもやはり要塞のように見えた。都市内から見えるいくつもの運搬用のアームに、工場に建っている煙突から出てくる水蒸気。調べた限りでは、ガスを使わず太陽を含める熱や光などから発電し、それを使って開発、生産などをしているらしい。煙突から吹き出している水蒸気は、いちいち発熱する機材を使っているため、室温を下げるのに氷になる直前ほどの温度まで冷やした水をいくつかのタンクにいれて、冷たい空気をあちこちに送り出している。が、その代わりに周りの熱で水蒸気になって来るため煙突から出している。特に周りへは影響は無く、環境にはほぼ影響を与えないらしい。
「すごいね……。技術都市にくるのは初めてだよ……」
 愛佳が呟く。
 そもそもここに来るのは軍の兵士か研究員ぐらいなので、別に初めて来る、というのは珍しい訳ではない。
 電車がゆっくりと都市内へ入る。電車内のアナウンスから『技術都市シュヴェーデへようこそ』とか聞こえた瞬間に電車は止まった。
「いよいよ、だな」
 愛佳が頷くと同時に立ち上がり、電車から降りて行く。
 少し新鮮な感じがした。

     *          *         *

 駅から出て最初に見たのは巨大な人影だった。やけにゴツい影。上を見上げてみれば、歯車とモーターが回る音をならしながら動く巨大なロボット。機械人形だった。コクピットが無いのを見ると、自立行動型機構人形(オートマトン)のようだ。おそらく警備でもさせているのだろう。後ろから有人型機械人形が来て「すまないね」と一言言って自立行動型機械人形を連れて去って行った。
「……謝る理由がよく分からん」
「ふまれそうになったとでも思ったんじゃないかな」
 そんな事を話しながら会場に向かう。
 おそらく決定祭を見たいがために、普段は来ないような都市でも来る人はいるだろう。修三も今日は来るとか言っていたし、少なくとも誰も来ないなんて事は無いはずだ、とユウは思う。
 会場は「ドリームスタジアム」。単純にこの星の名前をとってつけただけだが、ある意味名前的には的を射ている。何故なら、ここではスポーツの大会がよく行われる。プロの選手はもちろん、学園都市内の学校での部活の全国大会なども開かれるため生徒達にとってはまさに『夢』のスタジアムだったりする。
 出場生徒はスタジアムの入り口の近くにいる警備員に出場書を見せ、担当の人に控え室に連れて行かれる。
「うぅ……緊張するよ……」
「情けないな愛佳。そんなんじゃ瞬殺だぞ?」
「仕方ないでしょ緊張しちゃう物はしちゃうんだから」
 控え室に入ると、もう他の出場生徒は来ていた。
 女生徒と男子生徒をあわせて8人。どちらも4人ずついるのを見ると、男女5人ずつ選ばれたようだ。見ていると獣人の少女もいるし、滅茶苦茶悪人面な少年もいる。誰も何となく威圧感のような物を出していた。それに怖じ気づくように愛佳の表情が不安げになる。
「いつまでもそんな顔されてるとテンション下がる。いつもみたいに笑ってろよ」
「出来る時じゃないってば……」
「今笑わないでいつ笑うんだよ。笑える状況だからお前は笑うのか? 違うだろ? 某弁護士だって言ってんだろ、こう言う時こそふてぶてしく笑うんだよ」
「……そう、だね」
 少し笑った。それを見ると少し安堵する。ちょっと無理してるかもしれないとユウは思った。ユウ自身正直に言えばかなり緊張している。だが、誰かが笑ってさえいればそれも緩んでくると言う物だ。この沈黙の部屋の中全員仏頂面していたら息が詰まる。
 と、そんな事を思っていると、
「おーおー、見せつけてくれるジャナイノ?」
 嫌みな言い方でこっちに寄って来たのは、さっきの滅茶苦茶悪人面の生徒だった。近くで見るとそれがさらに際立って見える。第一印象最悪な少年だ。
「こんな時にラヴラヴですかァ? イイご身分デスネェ?」
「別に。いちいち隣でお前みたいな顔されてるとテンション下がるから言っただけだけど」
「アァん?」
「ちょっとユウ!」
 無視して続ける。
「っていうか、随分余裕だな。まだ始まってもいないのに買ったつもりでいる訳か? だとしたら自意識過剰の自惚れ野郎だよ」
「へっ、自惚れでも自意識過剰デモネェヨ。俺が負ける訳ネェんだよ」
「そりゃ楽しみだ、負けた時のアンタのバカ面が目に浮かぶようだぜ」
 瞬間、ドガン!という音がした。横目で見てみると、目の前の男子生徒が壁を思いきり殴っていた。殴られた壁は思いきりヒビが入っている。
 愛佳が息をのむ音が聞こえた。
 何故かは分からない。
 普通は驚いたりビビったりする気がすると思うが、全くそんな事はなかった。それどころか慣れている気さえしてくる。
「喧嘩売ってるなら対戦相手として当たった時にでも売れよ。こんな所で売られても迷惑この上ないんだけど」
「……褒めてやるぜ、今ので怯まなかったのをな」
「別に。慣れてるっぽいから」
 鼻で笑うと、男子生徒はさっきまで立っていた所まで戻って行った。
「制服からして名門のフレイヤ学園だね……」
「頭良いわりにバカな訳だ」
 そろそろ時間だ。
 ドアが開くのと同時に、緊張もほぐれていた。
(あいつのおかげって言うのも癪だけど)
 運営者に連れて行かれ、スタジアムの中に出る。それと同時に騒がしいほどの観客からの声。
 
 決定祭が、始まった。


Page:1 2 3



この掲示板は過去ログ化されています。