ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 煉獄から死神少女。
- 日時: 2009/12/29 13:42
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
〆御挨拶
どうもこんにちは、更紗です。
何故かまたしても小説が消えました。ですがノベルでの連載が主なので、復活することができました。
死神、幻獣、神話や魔術系など、俺の好きなファンタジー要素詰め込み放題です。どうぞ宜しくお願いします。
※まだまだ未熟なので、アドバイスや感想を下さると有難いです。
※当然ながら荒らしはお断り。
※フランス語やら悪魔やらが出てくるので、分からない場合は更紗に聞いて下さい。
目次〆
Prologue 幻想と現実の死神 >>1
非日常01 死神少女、現る。 >>2
非日常02 死神少女、名乗る。 >>3
非日常03 死神少女、契約する。 >>4
非日常04 死神少女、居候になる。 >>5
非日常05 死神少女、客と話す。 >>6
非日常06 死神少女、見送る。 >>7
非日常07 死神少女、転入する。 >>8
非日常08 死神少女、ムカつく。 >>9
非日常09 死神少女、不思議な現象に出くわす。 >>10
非日常10 死神少女、魔剣と対峙する。 >>13
非日常11 天然少女、妖刀と出会う。 >>14
非日常12 死神少女、竜を連れる。 >>17
非日常13 死神少女、再会する。 >>18
非日常14 死神少女、逃げる。 >>21
非日常15 死神少女、犬に追われる。 >>24
Character Profile -キャラクタープロフィール-
〆泉井司 >>19
〆エヴァンジェリン=アリットセン >>20
訪問者様〆
〆みあみ殿
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.5 )
- 日時: 2009/12/15 21:01
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常04 死神少女、居候になる。
「あー終わった終わった」
自称死神は疲れたように溜め息をつき、床に座り込む。まああんだけ化け物がわんさか出てくれば、それも仕方無いか……。
ていうか今何が起きたんだ? 落ち着いて考えてみると、俺「契約する」とかその場の状況で言っちゃったけど。自分で言っておきながら言うのもあれだが、契約って俺はどっかのファンタジー漫画の中にいるのか?
まあそれはひとまず置いておくとして、今回はこの自称死神のおかげで助かった。礼言っとくか。
「えーっと、有難うな。自称死神」
「自称じゃない、死神。それと——私の名はエヴァンジェリン」
エヴァンジェリンはぷくうっと頬を膨らませてそう言った。こいつ……美少女だけに、こういう仕草は中々可愛い。いつもそういう態度をとればいいのにな。
そういえば、こんな普通の街中の家で化け物と死神が戦っていたというのに、俺の家は一つも傷がついていないし、街中を歩く人は誰もこちらを見ていない。
「なあ……。何で家壊れてないんだ? それに周りの通行人、何事もなかったかのように誰一人としてこっちを見ていないぞ?」
「アストラルは死んだ人間の魂だから、生きている人間には誰一人として見えない。私と関わりを持ったお前は見えるけどね。通行人が誰一人としてこちらを見ないのは、ウィニの力」
よく分かんねえけど、そういう事なのか。高校生一人と中学生だけしか住んでいない家に、鎌を持った少女が化け物と戦っている事が見えていたら、それこそ一大事だもんな……。
何とか危機は乗り越えて一件落着になった筈なのに、死神エヴァは此処を動こうとしない。それどころか、テーブルに置いてあるお茶を啜っている。
「おい……アストラルとかいう化け物は消えたぞ? お前は帰らないのか?」
するとエヴァはきょとんとして俺を見る。何か嫌な予感が……。
「何言ってるの? 私はお前を契約者としたのだから、今日から此処に住むのよ」
えーと、はい? 美少女がいきなり知らない家に押しかけてきてそのまま住むという、ラノベみたいな展開が今まさに現実に?
俺は反対しようとしたが、口を開こうとしたところでそれを止めた。何故ならエヴァが、大鎌を構えていざ叩き切らんという体勢で俺を睨んでいたからだ。
「……まあいいけど。俺の家広いし、二人だけじゃ部屋も余っていたところ……ん?」
俺の家って結構広いからエヴァの部屋くらいある筈……。どうせ二人しか住んでいないし……。
……俺今二人っていったな。そうだ、この家に住んでいるのは俺だけじゃない……。
「そうだ、紫苑になんて説明すればいいのか……」
***
「ただいまー、すぐご飯作るから待っててー」
「お前が司の妹の泉井紫苑?」
紫苑が七時頃に、部活を終えて帰ってきた。のはいいが、いきなりエヴァが玄関に仁王立ちで迎える。
ちょ、待ってストップストップ! いきなり知らない美少女が居たら、俺に変な疑いかけられるから!
という俺は、リビングのドアから玄関の状況を覗いている状態にある。無論、エヴァが変なことをしたらすぐ飛び出せるようにだ。
「えっと、どちら様……?」
「私はエヴァンジェリン、煉獄から来た死神。今日から此処に住むことになったから、宜しく」
おいいいいい!! いきなり死神って名乗るか普通! 死神には常識ってものがないんですか? 日本の常識が通じないんですか!?
紫苑がどういう反応をするかとハラハラしながら見てたが、なんと予想外の展開に。
「死神でエヴァちゃんって言うんだ。私は紫苑、中学一年生。宜しくねエヴァちゃん」
おいいいいい!! 妹の紫苑! お前は泉井家の泉井紫苑じゃなかったのか!? 何でそんな簡単に死神を認められるんだ? こいつも電波だったのか!?
俺はぐったりとしながら玄関に出て行き、二人を連れて再びリビングに戻った。母さん、父さん。貴方達の知らないうちに、泉井家に一人の少女が転がり込んでしまいました……。
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.6 )
- 日時: 2009/12/15 21:01
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常05 死神少女、客と話す。
***
「エヴァンジェリン=アリットセン、只の死神。宜しく」
『エヴァ様に仕える悪魔の、ウィニフレッド=シンクレアです。宜しくお願いしますです』
「私は泉井紫苑。宜しくねー、エヴァちゃんにウィニちゃん」
七時半過ぎ。紫苑、エヴァ、ウィニ、つまりは電波三人娘が和やかなムードで自己紹介をしている。俺、泉井司はそんな電波の話についていけず、一人で黙々とご飯を口に入れる。
何でだ。泉井家のまともな人間だった筈の紫苑が、何故に死神や悪魔が食卓に溶け込んでいてもにこやかでいられるんだ。
「お兄ちゃんも何か言いなよ」
「司も何か言えば?」
『司さんも何か言ったらどうですです?』
電波三人娘が突如ぐるりとこちらを向く。何だ、その目は。俺に何か話せというのか。お前ら電波の間に俺を入れて、俺まで電波にしようとかそういう計画なのか?
ああ、考えれば考える程頭がぐるぐるしてくる。とりあえず此処は何か言っときゃいいんだよな。
「えーっと、じゃあ……煉獄って何だ?」
俺がそう訊くと、電波共は驚いたような顔をしてこっちを見る。何だよ、普通一般人が『煉獄』なんて言葉知ってるか! ていうか紫苑! お前は知ってんのかよ!
頭の中で突っ込みまくっていると、驚いた顔から今度は冷めた表情で俺を見る電波。……そんなに俺をいじくって楽しいか。
「煉獄っていうのは、生と死の狭間のこと。私達死神は煉獄からこの世に来てるわけ」
“そんなことも知らないのか”という俺を嘲笑うかの表情なエヴァ。くっ……こいつら、黙っていればいけしゃあしゃあと……!
俺が打ち切れそうになって、箸をピクピクさせていた時だった。
突然窓が割れて、硝子の破片が弾け飛んだ。な、何だぁ!?
「あ痛たた……」
これはいったい何の夢だろうか……。長い栗色髪を後ろで三つ網にした少女が、いきなり空から窓に突っ込んできたんだが。
状況の理解できない紫苑とは違い、エヴァとウィニは驚いた表情で少女を見ている。そしていきなり上手く使えていなかった箸を放り出すと、少女の下に駆け寄る。
「シャロン!? どうしてシャロンが此処に……」
シャロンと呼ばれた少女は、くりくりした目を潤ませながらエヴァの胸に飛び込む。すいません、この展開に着いていけないのは俺だけでしょうか。
俺はふと、シャロンとかいう少女が入ってきた窓に目をやる。見るも無残に粉々になった窓硝子が俺の視界に入る。
「おい! お前いきなり何なんだ? 人の家の窓割って……これどうすんだ?」
「は、はう! ごめんなさい!」
俺のことがそんなに怖かったのか、ヒッと怯えた表情で何度も謝る少女。なんかこれじゃあ、俺が悪いことしたみたいで罪悪感が……。
そんな俺にエヴァ、ウィニ、紫苑が冷たい視線を送る。や、やめろ……確かに俺も言い過ぎたかもしれないが、元はと言えばこのシャロンとかいう女が……。
俺が弁解しようとする前に、何故泉井家に突っ込んできたのかとエヴァが事情を聞き始める。
「で、いったいどうしたの? シャロンがこの世に来るなんて、何かあったんじゃないの?」
「そ、そうなの! 私はそれを伝えようと、使い魔のユリアにエヴァの居るこの家に連れてきてもらったんだけど……」
使い魔? 俺が疑問に思ってると、栗色髪の少女の周りを羽ばたく蝙蝠がいた。そして次の瞬間、どっかの黒猫のように煙を纏いながら、ツンツンした桃髪の少女へと変身した。
『ほーんと、シャロンはあたしがいないと駄目なんだから!』
「ご、ごめんね。ユリア……」
そう主人である筈の少女を見下ろしながら威張っている、ツンツンした小柄な少女。立場がまったくもって逆だと思うんだが……。
ずれた話を戻そうと、エヴァがもう一度栗色髪の少女に問いかける。
「話を戻すけど、何があったのよ?」
「は、はうっ。ごめんなさい! それが……この世で魂を回収し終わって煉獄に戻ろうとした時、アストラルに襲われて……。一体だけで、何か変だなって思ったら、普通の人間の形をとるアストラルだったの……。そ、それで『“竜魂珠”はどこだ』って言われて……ううっ」
「……竜魂珠、ね。やっぱこれを狙う奴が出たか……」
あっという間に人間には理解できないような、死神とかファンタジーな奴らしか分からない話に。すいません、俺にも分かるように話して下さいよ。何故か紫苑も「うんうん」とか言っちゃってるし、分かんないの俺だけじゃん。
蚊帳の外にされていた俺だが、いきなりエヴァが俺の方を見て話しかけてきた。
「単独で竜魂珠を奪いにくるとは考えにくいし、何かの組織かもしれない……。で、司。お前は私の契約者(コントラクター)なのだから、勿論協力して貰うわよ」
「この人がエヴァの契約者なの? 私はシャロン=スウィーニー。宜しくね、司君」
『ついでだから名乗ってあげる。あたしはユリア=ハイゼンベルク。あんたがエヴァンジェリンの契約者? 随分と地味な人間ね』
……ユリアとかいう奴の上から目線な態度が、もの凄くむかつくんだが。
ていうかやっぱ首突っ込もうとしなかった方が良かったかも……。何か思いっきり変なことに巻き込まれようとしてるんだけど、俺。
話が段々とワケの分からないところにいこうとしていたが、紫苑がそれを食い止めた。
「まあまあ皆。話は後で。シャロンちゃんもユリアちゃんも、一緒に晩御飯食べよっ?」
「はい」と素直に頷くシャロンと「仕方ないわねっ」と相変わらずツンツンした態度のユリア。とにかく今は、いきなり来た訪問者も含めて晩飯を食うことにした。
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.7 )
- 日時: 2009/12/15 21:01
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常06 死神少女、見送る。
***
エヴァ、ウィニの死神&悪魔+シャロン、ユリアという新たな居候が来ながらも、何だかんだで休日を乗り越えた俺。毎週楽しみにしていた休日を「乗り越えた」なんて言い方をする日が来るとは……。
そしてやってきた月曜日、つまりは学校という名のかったるい五日間の始まりでもある日。紫苑は既に中学校に行っており、玄関まで出た俺は、怪しい4人組みに見送られ学校に行くことになった。
「行ってらっしゃーい」
『司さん、行ってらっしゃいです』
「頑張ってきて下さいね、司君」
『とっとと行きなさいよ、司』
エヴァ、ウィニ、シャロン、ユリアの順でお見送りの挨拶をする。どうも最後のツンツン娘の挨拶だけがムカつくな……。
少しムッときながらも、何事もなく家を出た俺。これから毎日、こうなると思うと何だか少し気が重くなるな……。
***
俺の通う高校は、私立の風之宮高等学院。この私立校に入った理由は進路に迷ってた時に中学からの親友、望月光輝に風之宮学院に入らないかと誘われたから、何となく入ったといういい加減な理由だ。特別頭の良くない俺は、偏差値がまちまちの学院に入ることに、特に反対する理由もなかった。
そして入ってから数ヶ月。俺は特に変わらず学院生活を送っている。
「おーっす、司! 今日は遅刻しなかったんだな!」
「うっせえよ光輝、この前はたまたまだ、たまたま!」
学校に着いた俺は、風之宮学院の朝休みに光輝のからかい半分で話しかけられる。いつもなら軽くスルーできる俺だが、あの電波死神共のこと、教室の女子のグループなどのざわめきが耳に入り、何だがイラつく。
俺がカリカリしているのに気づいたのか、気づけば光輝は自分の席に着いていた。ったく、あいつは自分が不利な状況に立つと、いち早く逃げてるんだよな……。
苛立ちを募らせていく中、朝休み終了を告げるチャイムが鳴る。教室の隅で騒いでいた女子や、廊下でふざけていた男子が次々と自分の席へ座る。全員が席に座るまではそんなに長くなく、あっという間にクラス全員が着席し、うるさかった教室が静かになる。俺の席は左の列、つまりは窓側の列の後ろから二番目だから、その光景がよく分かった。
沈黙が走る中、それを破るように教室の前の方のドアが開き、セミロングの茶色っぽい髪を後ろで束ねた、1年2組の担任篠塚綾が入ってくる。
「皆おはよう。出欠とるから、名前呼ばれたら返事するように。じゃあまず逢坂!」
一人ずつ名前を呼ばれていく。クラスの奴の名前を覚える気がない俺は、未だにクラスの3分の1くらい出席で名前を呼ばれていく奴の顔と、苗字が一致しない。
俺の苗字は「泉井」だからすぐ呼ばれる。返事をし終わりぼーっとしていると、後ろで椅子が倒れる音がした。誰だよ、出席如きで慌てる奴は。ていうか出席って別に立たなくていい筈じゃ……。
「は、はい!」
「伊吹、お前は相変わらずドジだな……」
伊吹……? 伊吹って確か、この前の席替えて俺の後ろになった……伊吹澪、だったか?
呆れ顔で篠塚先生が伊吹を見つめる。長い黒髪を揺らしながら、返事をする伊吹。はわはわと慌てているその姿は、まさにドジっ娘の象徴と言える気がする。
伊吹が席に座ると、それからまた次々と名前を呼ばれて出欠が終わる。
「一時間目は数学だ。頑張れよ」
そう言って篠塚先生は教室を出て行った。僅かな準備時間の中、教室のあちこちで女子男子が群れて話し始める。
さてさて、俺は数学の準備……ってえ!? やべえ、筆箱の中にシャーペン入れ忘れた……。休日ノートを整理している時、机に置きっぱなしにしたんだ……。どうしよう。
俺があたふたと慌てていると、後ろからとんとんと何かで背中を突かれた。一体誰だと振り返ると……伊吹? 伊吹がシャーペンの押す部分で、軽く俺の背中を突いたらしい。
「あっ、あの! 泉井君! 良かったら、私のシャーペン使って。二つ持ってるから」
「おお、サンキュー伊吹! 助かった!」
そう礼を言うと、伊吹がにこにことシャーペンを渡そうと筆箱を探る。と、座った状態でどうやったらそうなるかが不思議なんだが、突然滑って転んで筆箱の中身を落とした。床にバラバラと消しゴムや色ペンが散らばる。
「お前、本当にドジだな……」
「ごっ、ごめんね泉井君!」
一緒に拾いながら伊吹が謝る。ほんとドジっ娘の鏡だ、コイツ。
その時伊吹の顔は赤面状態。そんなにドジが恥ずかしいか……と俺は呆れながらそう思った。
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.8 )
- 日時: 2009/12/15 21:02
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常07 死神少女、転入する。
***
紫苑も帰ってきて七時半。リビングの机を六人の人間が囲みながら食事を摂る。人間といっても俺と紫苑以外は死神と悪魔しかいない為、六人と言っていいのか。こんな面子で晩飯を食っているのは、おそらく日本中探しても俺の家くらいだ。
使い慣れない箸で米を口に入れながら、エヴァが俺に聞いた。
「ねー司。学校って何?」
「……別にお前が知る必要はないだろ」
そうご飯を口に含めながら言う。するとエヴァはぷくーっと河豚のように頬を膨らましながら、ご飯を口の中にかき入れる。そして箸を勢いよく机に叩き付け、ごちそうさまも言わずズシズシとリビングを出て行った。……俺何か悪いこと言ったか? 別に俺は知る必要はないって言っただけで、特に何も……。
そんな俺を見て、ユリアが冷たい視線を送りながら言った。
「あーあ、エヴァ拗ねちゃった。司ってデリカシーってもんが無いんじゃない?」
んだとこの桃髪ツンツン娘。お前の生意気なその態度よりはマシだ。……と俺は言いそうになったが、ユリアの言っていることも間違っているわけではないので黙っておいた。
そんな中、シャロンやウィニなど次々と飯を食い終わり、部屋へと戻っていく。何なんだ、シャロンやウィニは何もしていないのに、何か孤独感というか疎外感というものがあるんだが。
とりあえず飯を食う俺の目に、紫苑がエヴァの方へと行くのが映った。どうしたんだあいつ。
「ねえ、エヴァちゃん。……」
「……い。ど……ば……」
俺はリビングに居た為、廊下のあいつらの会話はよく聞こえなかった。何か企んでいたりして……まさか。
***
朝休み終了のチャイムが鳴り、いつものように篠塚先生が前方のドアから入ってくる。何だか今日は篠塚先生が一段とはりきっているように見えるのは、気のせいか……?
篠塚先生は教卓に手をバンと叩き付け、クラス全員に言った。
「突然だが、今日は転入生を紹介する。さあ、入れ」
綺麗な声なのに男言葉な篠塚先生の口調。慣れている筈なのに、何かの前触れな気がして背筋がぶるりと震えた。
前方のドアから転入生が入ってくる。どうやら女子のようだ……おいおい嘘だろ。俺はこの時目を疑った。できれば幻覚であってほしいとも思った。腰まである長い黒髪に、ルビーのような赤い目の美少女。紫苑、まさか昨日お前……。
「転校生の黒神慧羽だ。皆、仲良くやれよ」
黒神慧羽なんて誰が付けた名前かは知らないが、あの顔、あの高校生とは思えない小柄な体格は、間違いなくエヴァだ。紫苑の奴、昨日エヴァに何か仕込んだのか……帰ったら問い詰めてやる。
「あいつ本当に高校生か?」「でもかわいー」「ほんとだ、なんつー美少女……」教室のあちこちで、転入生の少女に対しての感想が漏れる。その殆どは、少女に対しての称賛の言葉。
教室がざわめく中、篠塚先生が教室を見渡し、そして窓側の方を指差す。
「ええーと、黒神の席は……。ああ、伊吹の隣が空いているな。お前の席はあそこだ」
エヴァが騒ぎ立てないかとビクビクしたが、予想外に何も言わずに静かに伊吹の隣、つまり俺の右斜め後ろに座った。
こいつ、静かにしていれば美少女な部分が目立つし、学校に来れば結構モテるだろう。でもこいつは大人しくするような奴とは思えない、まだ安心はできない。
とにかく何とかして学校では静かにさせないと、俺がそう右斜め後ろを振り向くと、伊吹が自己紹介をしようとエヴァに話しかけていた。
「私は伊吹澪。宜しくね、黒神さん」
「黒神さんじゃなくて、慧羽でいい。宜しく、澪」
案外普通に仲良くしているな……。何でこんな所では常識があるんだ、何で俺の前では常識の無い態度をとるんだ。まあ此処で常識ある態度をとってくれるのは助かるが、何か腹立つな……。
出欠を取り終わり、篠塚先生は授業の為教室を出て行く。そういや一時間目は図書室か……。図書室に行く前に、まずはあいつを問い詰めてやるとする。伊吹と話していたエヴァの肩を掴み、こっちに引きずり込んだ。不思議そうにこっちを見る伊吹に図書室に行くよう、手でしっしと合図をする。
「なによ司。私に何か用?」
「エヴァ……てめえ『何か用?』じゃねーだろ! 何でお前此処に来てるんだ! いつから黒神慧羽とかいう奇妙な名前になったんだ!」
「『エヴァ』じゃなくて『エバ』! “黒神慧羽”っていうのは、慧羽はエヴァから、黒神は死神は黒い神だから黒神って紫苑が名付けたの! 此処に来たのは紫苑が私に学校のことを教えてくれたから、魔術を使って人間に扮したのよ!」
エヴァもエバも変わんねーだろ! てかこの名前付けたの紫苑か! あいつどんどんおかしくなっていくな……。しかも「魔術」とかまたファンタジーなもんが出てきたな。勘弁してくれ、これ以上俺を二次元に連れ込むな!
教室の隅でごだごだ言い合っている俺達を、不思議そうに伊吹が見つめていることに気づく。こいつ、まだ教室にいたのか……!
「泉井君、慧羽ちゃんと知り合い?」
「え……っ。ま、まあな! ちょっとな!」
適当に笑ってはぐらかす。伊吹は首を傾げていたが、にっこりと笑って俺達に呼びかける。
「泉井君、慧羽ちゃん、よかったら……一緒に図書室行こう?」
女子と行くというのはいささか照れ臭いが、特に反対する理由もない。俺達は自分達以外誰もいない教室を出て、図書室に向かった。
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.9 )
- 日時: 2009/12/15 21:03
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常08 死神少女、ムカつく。
***
「今日の練習はこれで終わり! 皆お疲れ様ー」
風之宮学院四階にある音楽室。そこには学院の一年生が五人、それぞれギターなどの楽器を弾いていた。五人の中には長い黒髪の少女、伊吹澪もいる。
伊吹澪は風之宮学院の中でも、今年設立されたばかりの軽音楽部に所属している。小学校は音楽クラブ、中学校は吹奏楽部と音楽関連の部活に所属していた澪だが、高校は音楽クラブや吹奏楽部とはまた違った音楽をやってみたいということで、軽音楽部に入ったのだ。
顧問であろう黒髪のショートヘアの女性が部活終了を告げると、部活メンバーは一斉に自分の担当する楽器を仕舞い始める。そんな中で、茶髪っぽい長髪をポニーテールにした活発的な少女が、澪に寄って来る。
「お疲れ様澪ー! やっぱ風之宮学院軽音楽部のキーボードは、澪でなくっちゃねー! もうすぐ文化祭だし、頑張ろうね」
「有難う千秋ちゃん。千秋ちゃんもギター頑張ってね」
話しかけてきたのは同学年で軽音楽部部長、桜井千秋。軽音楽部の中心とも言え、活発で明るく親しみやすい少女だ。澪は知っている人のいない軽音楽部に入り不安だったが、千秋がドジな澪に積極的に話しかけてきてくれ、おかげで軽音楽部の他のメンバーとも仲良くなり、楽しく軽音楽部を続けていられる。
千秋や他のメンバーは澪に「また明日」と言うと帰り、顧問の先生が帰る時鍵を閉めてくれないか、と音楽室の鍵を渡され、音楽室で澪は一人になった。
キーボードを準備室に仕舞い、教室の隅に置いてある鞄をとって帰ろうとする。が、その時いつもとは何か違うことに気づいた。
「これって……日本刀?」
何故誰も気づかなかったのかは分からないが、澪の鞄の上に鞘に仕舞われている日本刀が置かれてあったのだ。それも日本刀の中では大太刀に分類される、長大な刀だ。
突然の日本刀の出現に澪はどうしていいのか分からず、あたふたと慌て、辺りをぐるぐると走り回る。そしてドジっ娘らしく、音楽室の床に滑って転ぶ。いたたた……と額を抑えながら立ち上がる澪。
「どどどど、どうしよう! 何でこんな所に日本刀が!? 先生に言った方がいいのかな!? でもこんなの持ちながら校舎内歩き回ってたら、日本刀を持ち歩く怪しい人に見られるかも……。どうしようどうしよう!」
***
エヴァの校舎内見学に付き合い、気が付けばもう夕方。あーあ、ほんと勘弁してくれよ……。何でこいつが学校まで来てるんだよ。
そんな俺の気持ちも知らず、物珍しそうに校舎を見渡していたエヴァにこんなことをいったら、あの巨大な鎌で叩き切られるのがオチだろうか。口は禍の門と言うし、胸の奥底に仕舞って置くとしよう。
俺とエヴァは只今下校途中。校舎内見学の時のように物珍しそうに街中を見渡すエヴァを、俺は溜め息をつきながら見る。こいつに付き合ってると疲れる……。
俺がぐったりとしていると、エヴァが異変を察知したかのように辺りをきょろきょろと見る。今度は何なんだ……。
そうぐったりしている暇も無かった。だって俺達の目の前には、あの……。
「アストラル……! それも結構数が多い。司、竜魂珠が宿っているお前ならあいつらに触ることが出来る。いくわよ司!」
「はっ!? 何だよ竜魂珠が宿っているって!」
俺の言葉なんて聞きもせず、どこからか巨大な鎌を取り出し、次々と化け物共を切り倒していく。よく分からないが、俺もあいつらに触れるらしい。竜魂珠うんたらかんたらは後で問い詰めてやるとして、今はこいつらを倒すことが先か。
コンクリートの地面を蹴り、勢いをつけてアストラルに殴りかかる。すると拳は見事に相手の顔面にヒット。アストラルは吹っ飛ばされ、そして消えていった。
だが勝利を確信したのも束の間。俺が再び構えようと隙の出来たところに、他のアストラルが飛び掛る。や、やべえ……!
「司!」
エヴァが方向転換して俺を喰らおうとするアストラルを切り倒そうとするが、間に合わない。くそっ……こんなところで……!
俺がそうぎゅっと目を瞑ったところで、俺を喰らう筈だったアストラルが、エヴァ以外の何者かに切り倒される。エヴァ以外に一体誰が……!?
後ろを振り向くと、そこには黒服の男とシルクハットにベスト、ボーダーの靴下に茶色のブーツを着用した、エヴァと同じく巨大な鎌を持つ長い茶髪の少女だった。
「……フローレンス=クルック、助けてなんて言ってないんだけど」
「別にー……。ボクはアストラルを見かけたから狩っただけ……。君を助けようとしたワケじゃないよ。君は強いからそんな必要ない……。まあ一つ言わせて貰えば、アストラルに集中し過ぎて契約者さんの方ががら空きになってるかなー……」
ふわああ、とフローレンスとかいう少女は欠伸をかますと、面倒臭そうに片手で鎌を振り回す。エヴァもアストラルを倒していき、何とかアストラルを全て倒すことができた。
ん? そういや今こんだけ暴れたのに、誰もこっちを見てないな。ウィニは家だから、一体誰が?
「そこの契約者さん。もしかして“何故誰もこっちを見ていないのか?”とか思ってるー……? それはねえ、ボクの使い魔のおかげだよお……」
うおっ! こいつはサイコメトラーか! 何勝手に俺の心読んでるんだ!
まあ突っ込んだところで仕方無い。これ以上突っ込んでおくのは止めて置こう。で、使い魔っつーのはこの黒服の男か……? 黒髪に金色の目。何か猫みたいな感じの色の組み合わせだな。
「ゼルギウス=ベーレントだ。お前、エヴァンジェリンの契約者か……」
そう言って黒服の男は俺を見つめる。何でこう会う奴は俺のことをエヴァの契約者か何たら間たら言うんだよ。俺ってそんなショボく見えるのか? 死神とかと違って普通の人間だから、仕方ないだろうけど……。
俺と黒服の男が何故か見つめ合っているのをよそに、エヴァとフローレンスっつー少女が何やら話している。それにしてもエヴァの顔、何だか怖いんですけど。
「フローレンス=クルック……何で此処にいるの? 相変わらずどこかムカつくのは変わってないし……」
「うーん、ちょっとあるとこから盗んできた神器が、勝手にどっか行っちゃってさあ……。ここら辺にあるみたいだから、ゼルと一緒に探してたんだけど……。でかい日本刀、見かけたら教えてねえ」
「他探すよゼル」と少女が言うと、黒服の男は少女の方に向き直り、何処かへと消えていってしまった。今神器とか聞こえたが、魔術の次は神器か。どんだけファンタジーに侵食されてるんだこの世界は。三次元ニ次元化でも進んでいるのか、怖いもんだ。
おっと、俺はこんなことを考えている場合ではない。とっとと竜魂珠とかいうのについて、エヴァに問い詰めてやらないと。
「おい、さっきの竜魂珠が俺に宿っているうんたらかんたらって何だ。お前俺に何をしたんだよ!」
するとエヴァは面倒臭そうにはあ、と溜め息をつきながら説明を始める。
「竜魂珠っていうのは幻獣——つまりその代表であるドラゴンの力が宿った宝玉のことよ。その力を上手く使えば、魔術師や死神が何百人、何千人と取り囲んだところで瞬殺できる。代々煉獄では幻獣を最も上手く使える者——竜の巫女に竜魂珠を護る為に継承されていく。その竜魂珠は、死神が契約すると共に死神と人間に繋がりが出来るから、ごちゃごちゃと色々な力が宿っている死神より、何の力も宿っていない人間へと移り宿る。お前が今アストラルに攻撃できるのもそのおかげよ」
……何だそりゃ。理屈が全然分からないというか、ファンタジー用語多すぎて着いていけません。何で俺の身体にそんな面倒臭いもんが宿るんだ、俺の身体に障害が起きたらどうするんだコノヤロー。
エヴァは話し終えると、また一つ溜め息をついて呟いた。
「まあ竜魂珠がこっちにあるのはいいとして……。まさか神器がこの近辺にあるとはね。面倒臭いことになりそう」
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