ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

Blood Lily 
日時: 2009/12/25 20:27
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

消されたんで、作りました。

■登場人物■

ノエル…17歳 今は途絶えた「修羅」の生き残り。明るく、ムードメイカー。5年前、ある事件を起こし3年間監禁された。

リリー…15歳 最強の死神ディオネアスに酷似した鎌を持つ。 その為、「危険人物」として幼い頃から監禁されていた。 シンシアの子供。

トト…16歳 リリーを尊敬し、彼女にだけは敬語を使う。実年齢より少し幼い言動。 名前は偽名で、本名を呼ばれると発狂する。

ラズ…17歳 無口で無表情。 トトとは仲が良い。5人の中で一番常識がある。

シヴァ…18歳 死神の中では最年長。 短気で、主にノエルを叱っている。 

フィーロ…26歳 司令官。 死神を道具ではなく、人間と見ている数少ない人間。 皆から信頼されている。

シャーネット…?歳 反政府組織側についた死神「キラー」の一人。 外見年齢は15歳ほどだが、実力は死神より上だった。

ジーモ…17歳 シャーネットの鎌で彼女の世話係。唯一、人間で武器化できる存在。シャーネットとは異界を共存してある。

アルド…25歳 ノエルの実兄で修羅の生き残り。キラーの一人で鎌を召喚せず『鎖羽』などの修羅特有の禁術を扱う。

Page:1 2



Re: Blood Lily  ( No.5 )
日時: 2009/12/25 12:24
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

          †


水の流れる音がする。 豪華な大広間の階段を上がり、奥の部屋に足を運ぶ。
「ジーモ?」
シャーネットが自分の鎌を探していた。 水の音がする部屋を覗き込み、
「ジーモっ!」
「ッ、シャーネ・・・・・っ」
口から血を吐いているジーモを発見し、駆け寄る。
「ジーモ、何して」 「ゲホッ、ごめ・・・・・っ、副作用だから。 大丈夫だから・・・・・・・ッ」 「大丈夫じゃないじゃんっ」
長い髪が水に濡れて、重い。 シャーネットがジーモの前髪を掻き揚げる。
「何してる」
背後から声がして、シャーネットが反射的に振り返った。
「アルド・・・・、どうしようっ。 また副作用で、ジーモが」
アルドと呼ばれた、黒髪に赤い目をした青年がジーモを睨むように見た。
「お前と異界を共存しているのだろう? その血を飲ませれば拒絶反応も収まるはずだが」
シャーネットが鋭い歯で唇を噛む。 うっすらと、どす黒い血が流れた。
「俺の血、飲んで」 



落ち着いたジーモが、血で染まった服を脱ぐ。
髪を一つに結わえ、長く息をする。
「もう、どうしていっつも俺に言わないで一人で耐えちゃうのさー。 お前の拒絶反応を和らげるには、俺の血が必要だって言ってるだろー」
「ゴメン・・・・・・」
「お、今日は素直に謝るねえ。 どんな風の吹き回しだろう」
感心しながらも、ソファでゆったり寛いでいるシャーネットを、アルドが呆れたように睨む。
「で、何だよ。 お前、帰ってきてたの?」
「まあな」
「アルド、また背ぇ伸びたねー。 今何歳だっけ」
「シャーネ。 お前、死神二人何故トドメを刺さなかった」
アルドが責めるように訊ねた。
キョトンとして、シャーネットが
「お慈悲をかけてあげただけなんだけどなあ」
「慈悲、だと?」 心外そうにアルドが眉をしかめる。 ニヤリと笑い、シャーネットがグラスに水を注ぐ。
「だって、ディオネアスの鎌を持つ死神を殺したら、何が起こるかわっかんないじゃん」
「・・・・・・・・・じゃあ、何故拉致らなかった」
「んー。 何か弱っちーし、あいつ多分殺す価値も連行する価値も全然無いよ。 楽しみにしてたんだけど」
ジーモが髪を拭きながら、
「そーいや、面白い奴にも会ったぜ」
「面白い奴?」
怪訝そうにアルドが眉をしかめる。
「誰かさんと同じ、黒髪で真っ赤な血染めの目ぇしてさ。 右腕に刻印が刻まれている、誰かさんと同じ種族の・・・・・・・・・・・・・・」

ジーモが発言をやめた。
その腕に、ダーツの矢が刺さってる。
「・・・・・・・・・テメー、うぜーぞ」
「そうか。 生きてたのか・・・・・・奴は」
しれっとして、謝りもせずにアルドが呟いた。 矢を抜きながら、ジーモがソファに座る。
「ピンピンしてたよねえ」
シャーネットがアルドをチラ見しながらそう言った。
手を組んで、何かを考えながら遠くを見つめる。
「・・・・・・・・そうか。 あいつは、生きてたのか」
「ゾクゾクする? おにーさん♪」
クスクスと笑い、シャーネットが挑発するようにアルドの耳元で囁く。
かすかに笑い、アルドが首をポキッと鳴らした。

「それは、楽しみだな」

Re: Blood Lily  ( No.6 )
日時: 2009/12/25 16:08
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

        第5夜
     そして死神はただ足軽く



黒いワンピースを着、リリーが髪を掻き揚げる。手袋を履き、足を床に降ろした。
世界はまだ、雪景色。
(ノエルは、何を怒ってたのかしら)
ぼんやりとそう考えながら、病室から出る。 冷たい空気に肌が触れ、鳥肌がたつ。 廊下は薄暗く、人の気配も無い。
非常口の光っている扉を呆然と見つめながら、突っ立っていると、
「リリー、何やってんだよ」
ノエルに肩を軽く叩かれた。 ハッと我に返り、リリーの瞳孔を縮小する。
「何でもないわ」 「あっそ。 で、フィーロから俺らの任務、聞いたから。 さっさと行くぞ」 「ええ。 そうね・・・・・・、と。 さっきは何を怒ってたの?」
「もういいんだ」 「は?」
ノエルがポンポンとリリーの頭を叩く。
少し乱れた髪を整えながら、怪訝そうに顔をしかめる。
「もう、いい」 「・・・・・・・・・・・・・」




「下級都市、レントンの町で人間の魂が売買されているらしい。 容疑者として名前が上がっているのは、裏社会で幹部を務めている、マキアート氏。 どうも反政府組織との繋がりもあるらしーぜ」
「・・・・・珍しいわね」
「何が?」
「ノエルが、私より先に任務内容を知ってるなんて」
列車の用意された個室の中。 自分と向き合って座っている、少し驚いた顔をしたリリーを、ノエルがげんなりと見つめ返す。
「あのなぁ。 俺だってやる時はやるんだよ。 それにお前入院してたから、フィーロが気遣って教えなかったんだよ」
「そう。 ・・・・・・なんか、迷惑かけたみたいね」
「あったりまえだっ! 心配かけんなっ!」
急に怒鳴られ、リリーが顔をしかめる。
耳を塞いで、 「大声出さないで。 うるさい」 ノエルを軽く睨む。
(はー、鈍感なだけじゃねぇの?)
心の中でため息をつきながら、ノエルが足を組む。
片目で、リリーを見てみた。

真っ白な雪のような長い白髪。 アイスブルーの瞳は輝く事もなく、孤独感が漂い不安定さをあらわしている。 睫毛も長く、顔立ちも整っている。
シンシアに、少し似ている。
「・・・・・・・・・・・俺、お前の事心配なんだよ」
リリーが視線をノエルに移す。
「シンシアに似てるとかじゃなくて、リリーっていう人間が大事なんだよ」
───キミが思っているよりはるかに、皆キミが大切なんだよ。
フィーロの声が、脳裏に浮かんだ。
「・・・・・・・ありがとう」
顔を上げる。
無表情なリリーがいた。
でも、
無表情だけど、
「こう言えば、よかったのかしら」
「・・・・・・・・言えんじゃん。 ありがとうって」
少しだけフィーロを突き放した事を後悔した。
悲しげに笑う、彼の顔を思い浮かべる。
列車の汽笛が鋭くなった。

Re: Blood Lily  ( No.7 )
日時: 2009/12/25 19:10
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

レントンは港町で、ほとんどが漁師として働いている。 漁業が盛んで、下級都市の市場には必ずといっていいほど、レントンで取れた魚が並んでいる。
下級都市ではさほど貧困に苦しんでいる人々は見えない。
列車から降りると、潮の香りが漂っていた。
雪は降り止んでいる。
「港町だから、けっこう寒いわね」
「海も近いし、雪積もってるからな」
半そでのノエルを、呆れたようにリリーが見つめる。
「・・・・・ポリシーを貫くのね」
「ああ。 俺は俺だからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
人々が不審な顔で死神を見てくる。 いつもの事で、それほど気にも留めずにレントンを見渡す。
レンガで造られた住宅街。 魚が並んでいる市場。
「見たところ、闇社会に通じてるような会社とかはなさそうだけどな」
「そうね。 でも、人間は嘘が上手いから」
「・・・・・・あ、リリー。 見ろよ、アレ」
「え?」
ノエルが指差した方向を見る。 
「教会ね」
さほど大きくない、小さな教会があった。 冬の為か、イルミネーションをつけている。 
「下級都市でイルミネーションなんて・・・・・・ちょい儲かりすぎじゃねえ?」
「それに、神聖な教会にあんなごちゃごちゃした飾りをつけるなんて、シスターや神父はイカレね」
「ここ・・・・・・・・・・探ってみるか?」
「その価値はありそうね」

リリーが答えた時、とてつもなく大きな鐘の音が聞こえた。 レントン中に響くのではないかと思うほど、大きい。 鼓膜が破けそうになる。
「うっせー!」 顔をしかめながら、ノエルが怒鳴る。 リリーは耳を塞がずに、不快そうな顔をしていた。
「っ!? ノエル、見てっ」 「うおっ」
その鐘を聞きつけてか、町中の人々が教会に集まりだした。 二人は慌てて道の端に移動する。
「何じゃ、こりゃっ」 「今ちょうど12時だから、巡礼の時間かしら」
リリーの推定通りに、人々は十字架をきり、祈りだした。
老若男女問わず、ざっと百人は越える人々が何かを唱える。
「これ、普通なのか? ちょい異常じゃね?」
「教会に、やっぱり何かあるみたいね」
二人が話していると、教会の扉が開いた。
中から、一人の少女が現れる。 金髪碧眼で、年はまだ10代の前半ほど。
シスターなのか、黒いローブを羽織っている。
「マリア様よっ」 「マリア様ーっ!」
人々が呟いたり、手を振ったりしている。
マリアと呼ばれた少女は、不敵に微笑んで両手を胸の前で組んだ。
そして、口を開く。

「迷える子羊たちよ。 どうか暗闇に絶望しないで。神様はきっと、私たちを見てくださっています。 さあ、救済を求めなさい。 呪詛ではなく、謳歌を唱えなさい」
澄んだ、美しい声だった。
しんっと静かになる町中。 
マリアは目を閉じて、息を大きく吸い込み、
「・・・・・・・・・・・へえ」
歌った。
それこそ、ノエルが聞きほれるほど。 リリーもその声色に少しばかり驚く。
マリアは時に大げさに手を挙げながら、体を少し動かし、歌を歌った。
しかし、
「・・・・・・・・・・っ、ノエル」 「あ?」 「これ、賛美歌なんかじゃないわ」 「どういう意味だよ」
リリーがその違いに真っ先に気づいた。
声を小さくして喋る。
「これ、呪詛よ。 音程を変えて、歌も上手いから賛美歌に聞こえるかもだけど、歌詞を聞けばすぐにわかるわ。 呪いを歌ってる」
「・・・・・・・・・・ッ、じゃあ」
リリーが頷く。
「不自然だわ。 音楽は、人の脳にある程度の衝撃を残すの。 マイナス思考になったり、ポジティブになったり・・・・。 これが呪詛なら、町の人々は賛美歌と間違えて聞き惚れ、自分も気づかないうちに絶望に犯されてしまう」
そして、
「アンデットが・・・・・・作りやすくなる」
ノエルの答えに、リリーが歯軋りをする。
眉をしかめ、 「タチの悪ぃ連中だぜ」 ノエルも悪態をつく。

やがて歌が終わり、人々は涙を流しながらしばらくその場を離れなかった。
マリアはお辞儀をして、教会内に入っていく。
「ここらで一暴れしたら、反乱が起こるよな」
「ええ。 あのマリアっていう子、やけに町の人から支持を集めているみたいだし・・・。 ヘタに動いたら、まずい事になるわ」
ノエルが教会を見ながら、 「あの女も反政府の一人なのか?」 「キラーである可能性もあるわね」
リリーが舌打ちをする。
やがて人も教会付近から立ち去り、数分後には誰もいなくなった。 また元の持ち場に戻っていく。
「よっしゃ。 行くか」
二人は立ち上がり、教会の扉を開ける。

Re: Blood Lily  ( No.8 )
日時: 2009/12/25 20:25
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

教会内は、普通の教会だった。
パイプオルガンに、ステンレスの色ガラスには聖母子が描かれてある。 十字架には史上最強のディオネアスのミイラ化した彫刻が架けられていた。
「あなた方、どちら様ですか?」
その中央に、マリアが立っていた。
悲しげな目でこちらを見てくる。
「あなた方、死神ですよね。 ここは神聖なる神の場所です。 穢れたあなた方は、出て行ってください」
澄んだ声だが、強気だった。
「それは、あなたもじゃないんですか?」
「・・・・・・・・何の事でしょうか」
「あの賛美歌。 呪詛でしょう」
マリアは何の反応も見せず、首を傾げる。
「おっしゃってる意味が、よくわかりません」
「あの歌、ディスカニアのずっと昔の母国語なんです。 多分、今時知ってるのは中心都市の学者ぐらいだと思います」
(何でテメーは知ってんだよ) 
ノエルが頬を引きつらせながら心の中で突っ込みをいれる。
「あの歌は、聞けばあなたの美声と和やかな音楽で賛美歌にも聞こえる。 でも、歌詞を聴けば一目瞭然です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「歌詞は、ああ 我らの愛しい鮮血を
     どうか悪魔に捧げましょう
     髑髏の眼窩に夢を預けて
     彼らは地獄に恋焦がれる
     魂をこちらに渡せ
     そして食い漁る永遠の闇に飲まれて」

そのえげつない歌詞に、ノエルが思わず顔をしかめる。 
「これ、賛美歌なんかじゃないですよね。 死神が好きそうな歌です。 例えば、アンデットとか?」
マリアは顔色も変えず、リリーを睨みつける。
「よーよーよー、お嬢さん。 アンタ顔可愛いけど、正確最悪だぜ? 反政府側なわけ? 吐けよ」
ノエルがリリーの肩に腕を乗せながらニヤリと笑う。
追い詰められたマリアは、あまり反応を見せずに、
「お引き取り下さい」
それだけ言った。
明らかにノエルがイラッときたのか、眉をしかめる。
「神の前でシスターを冒涜するなんて、邪道です」
「神? アンタの神って、何だよ」
「人々の悩みを解き放ち、優しく全てを包み込んでくれる方です」
淡々と真顔でそう言うマリア。 そして、十字架に触れる。 
「神の御霊は、ここにあるのですっ」
十字架をきり、聖母子に向かって両手を広げる。 
リリーが目を細めて、その異常な執着心を目に焼き付ける。
「ここらで、裏社会のマキアート氏が魂の売買をしているらしいの。 何か───知ってる?」
リリーが話題を少し変えた。
マリアは振り返らず、何も語らない。
「おいっ」
ノエルが怒鳴っても、知らんふり。
ため息をついて、 「もういいわ。 あなたを反政府重要参考人として、連行します。 大人しく伏せなさい」 リリーが宣告する。
マリアが勢いよく振り返り、
「冗談じゃないわっ! どうして私が連行されなきゃいけないのよっ!」
「マキアート氏を、ご存知ですか?」
「そんなの、偽名に決まってるじゃないっ!」
ハッと、口を抑えるマリア。

「ふ〜ん。 偽名、なんだ〜」
「ッ、違うっ! 今のはっ」
リリーがポケットからテープを取り出した。
「録音、完成」 「・・・・・・・・ッ、違うっ! そんなんじゃな、」
マリアの目が大きく見開かれる。 そして、数秒後には口から血を吐いた。
「「・・・・・・・・!?」」
唖然と呆然と倒れていくマリアを見つめ、リリーとノエルが絶句する。
そして、

「邪魔だ」

背後から、声がした。 ノエルが振り向く。
聞き覚えのある、声。 思い出したくもない、声。
「俺の前に立つな」 「な、んで・・・・・・」
勢いよく背後から背中を蹴り飛ばされ、ノエルが教会の壁に激突する。
リリーが素早く異界から鎌を召喚し、ノエルを庇うように前に立った。
「ダメだろーが。 マキアートの正体を喋っちゃ」
倒れているマリアの額を突付きながら、男が低い声で呟いた。
黒い髪に、血染めのような赤い瞳。
黒い神父のようなローブを被っている。 その外見は整っており、キレイな顔立ちだった。
「出来損ない」
小さくマリアにそう下し、手を添える。
「何を?」
リリーが怪訝そうに目を細める。
『鎖羽』
男がそう言うと、手から火花が飛び散る。 蒼く光り、しばらくすると、
「・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!」
マリアの頭が、粉砕した。 肉片が飛び散る。
返り血を浴びた男が立ち上がり、ゆっくりとリリーの方を見た。
(今の・・・・・・術は・・・・・、)
覚えがある。 5年前ノエルが起こした事件。 その時、彼が使っていた、ある特定の種族の特徴的な術。
殺傷術。

修羅の、一族が使う殺傷術。

「・・・・・・・・んで、」
上半身を起こし、唇が切れたのか血を流しながらノエルが顔をしかめる。
「何で、オメーが生きてるんだよ」
「それはこっちの台詞だ」
髪を掻き揚げながら、男が言った。 どことなく、ノエルに似ているその容姿。
「アルド・・・・・・・ッ」
「大きくなったな、ノエル」
兄と、弟。
修羅の生き残りで、死神とキラーという別々の道を歩んだ、血の繋がりのある兄弟。
「この、糞兄貴・・・・ッ、やっぱお前、禁術使ってやがったのかっ!」
「今見ただろう」
「マキアートっつーのもお前か!?」
ノエルが怒鳴り散らす。
「マキアートとは架空の人物だ。 裏社会で魂を売買していたのは俺だがな。 この女は神とやらに異常な執着心を見せていたから、呪詛を賛美歌のように変えて、歌うように依頼した。 ただの人間だ」
首から上が無くなったマリアを、リリーが無表情に見下ろす。
「この、糞野郎ッ」 「何とでも言え。 しかし、お前がまだ生きていたとは驚きだ。 5年前、死神に処刑されたと思っていたんだが」

ノエルが唇を噛み締める。 血が滲むほど。
リリーが鎌をアルドに向ける。
「あなたとノエルが血縁関係だろうが、あなたの犯した罪、そして修羅の生き残りでキラー側についたあなたを生かしておく訳にはいかない。 よって、今ここで処刑しますっ」
ディオネアスの鎌と酷似した鎌を見て、アルドが少しだけ息をついた。
「処刑、ねえ。 ガキが何を言うのかと思ったら」
「ガキでも、死神ですから」
「凛々しいねぇ。 さすがディオネアスの鎌を持つだけある」
「これは、私の鎌よっ」
リリーがアルドに襲い掛かる。 「ばっ、止めろ!」
ノエルが止めたが、遅かった。
リリーの鎌がアルドの腕に触れる前に、
『鎖羽ッ』
手の平で視界が封じられる。 火花が散っているのを確認して、 「ッ!」 瞬時に伏せた。
その頭上を、蒼い光線が走っていく。 壁に激突して、穴を開けた。
「素早いな、女」 
アルドが無表情で呟いた。

ノエルも立ち上がり、鎌を召喚する。
「はあああああああああああっ!」
アルドに斬りかかる。 それを避け、鎌を出さずに手の平でまた鎖羽を召喚しようとした。
「鎌なしで勝つってゆーのかよっ!」
「何故、お前ごときに鎌を出さなければならない?」
「言ってくれるじゃねーかっ!」
半分躍起に、半分憎しみでノエルが鎌を振り下ろす。
「だあああああああああああっ」
その全てを避け、アルドが鎖羽を放つ。
「ぐはっ!」 「ノエルっ」
何とか鎌で遮り、かすったぐらいで事は終えた。
「何で・・・・・・ッ、しんでなかったんだよっ!」

Re: Blood Lily  ( No.9 )
日時: 2009/12/25 22:20
名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)

        第6夜
     生き別れた死神たち


鉛色の空の下。 激しく降る冷たい雨が、体温を奪っていく。 体を寄せ合い、必死で暖めようとしてみるがダメだった。
「ヤバイ・・・・・・、寒い・・・・・・」
「大丈夫か? 体丸めろ」
年が少しばかり離れた兄弟が、洞窟の中で雨宿りをしていた。
兄の方はもう十代の後半ほど、弟の方は十代前半ほどだった。 漠然と、時間が流れていく。
「母さんと、父さんは?」
「・・・・・・・・・・心配するな。 きっと大丈夫だから」
兄が、そっと弟の肩を寄せる。 多分、もうダメだろうと自覚しながらも。
遠くで悲鳴が聞こえる。 びくりと、弟の体が震えた。
「に、さん・・・・・」
そう呟くと、後ろから目を塞がれた。
「耳を、塞いでいなさい」
ゆっくりと、耳を塞ぐ。
後ろに、兄の体温を感じながら。
音は遮断され、光も見えなくなった。

「居たぞッ! 修羅の生き残りだッ!」
「処刑しろっ!」
自分とあまり変わらない年齢の、死神。
彼らが鎌を持ち、近づいてくる。
兄は弟がしっかりと世界を遮断しているのを確認してから、
「・・・・・・・・鎖羽」
右手の手の平を突き出した。
「ひるむなっ! 相手は二人だけだっ!」
鎌を突き出される。
兄は無言で、手の平に蒼い火花を散らした。

『咲け、狂い華』

悲鳴と、何かが割れる音。 弟は歯を食いしばりながら悲鳴を我慢した。
「もういいぞ、ノエル」
そっと、手をどかされる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
目の前には、黒こげになった人間の死体があった。
「悲しいものを、見せてしまったな」
「・・・・そんな事、ない」
「もうしばらくの我慢だから。 修羅を抑えておけよ。 大丈夫だから」


大丈夫だから。


「どうして、反政府に俺も行っちゃダメなんだよ!」
「反政府は、俺みたいなのが行った方がいいんだ。 お前は、政府に行け」
「やだよっ! あいつら、俺らを殺そうとしたんだよっ! 何でそんな事言うんだよ、バカッ!」
「・・・・・・・・ノエル、いつか俺はお前を殺しに来る」
「っ」
「修羅の血を途絶えさせなければ、危険すぎる。 しかし、無知で非力な弟を殺すほど、俺はまだ感情を捨てきれていない。 それまで、待っていろ」
「やだっ! 俺は絶対に政府の所になんかっ」
「ノエル」

気づけば、目の前にアルドの手の平があった。
「・・・・・・・・」
「ころすぞ」
涙が頬を伝う。 震えながら、尻餅をついた。
「じゃあな」
「・・・・・・・ッ!! なら、ならっ! 俺は兄さんを、アルドを殺してやるっ! そんで、絶対に修羅を途絶えさせてやるからっ! お前なんかに、お前・・・・・・なんかに・・・・・・・」
ボロボロと涙を流しながら、立ち去っていく兄を、弟は永遠と見送った。
「兄さ・・・・・ん・・・・・・」
最後にそう言って、嘔吐した。
何が何だか、もうわからなくなってくる。
「・・・・・・ッ、誰か・・・」
たすけて。

「・・・・・・・どうしたわけよ」
目を開けると、黒髪の美人な女がいた。
「・・・・誰、ですか?」
「今、質問してるのはこっち。 アンタ、修羅だよね。 だって、黒髪だし赤い目してるし」
淡々とノエルの種族について語る女。
そのキレイすぎる顔と、絶望的な瞳にノエルは少し見とれた。
「えっと・・・・・・誰?」
「アタシ、任務すっごく嫌なわけ。 でも、修羅一族撲滅だから嫌々地下牢から引っ張り出されたわけ」
「はあ・・・・・・」
「アタシ、シンシアっていうの」
女が自分を指差して自己紹介した。
「死神、なのか?」
「うん」
「俺を・・・・・・・殺すのか?」
「何で?」
そう訊ねられ、言葉につまった。
ノエルが唾を飲む。
「だって、俺修羅だし・・・・ちっせーけど、修羅だし」
「でも、死神だろ?」
男みたいな口調でそう聞かれ、こくんと頷く。
「じゃあ、大丈夫だろうね。 今から養育帰還に戻ろうか。 立てる?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
手を貸してもらって、立ち上がる。
シンシアと名乗った女は、ノエルの手を握って歩き始めた。
「あの、えっと」 「好きなように呼びい」 「じゃ、じゃあシンシアさん。 ありがとう」
シンシアがノエルを見る。
そして、
「へー・・・・・・ふうん、うん。 お礼が出来るっていうのは良い事だよ、うん」
「は? え、そう?」
「うん。 良い事だよ。 多分、んー。 きっと」
曖昧な返事。
黒髪をたなびかせながら、シンシアが俯く。
それが、ノエルとシンシアの出会いだった。




          †


「俺はあの時、シンシアに助けてもらってなかったらしんでたッ! 野垂れて、這いずりながらッ! お前は俺を捨てて、裏切った!」
「感情的になるな。 目ざとい」
「───のやろう!」
ノエルが苛立ち、鎌の先端で床に魔法円を描く。

『嬲れッ! 邪気狂いッ!』

鎌がどす黒く光り、巨大化する。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッッ!!」
「ッ」
アルドがこれは避けきれないと判断したのか、鎌を召喚してその刃で攻撃を受け止める。
「このっ!」 「無駄だ。 今のお前に俺は倒せない」 「糞ッ!」
ノエルが悔しそうに発動をとく。
「お前の、その修羅の力を解き放たん限りは、俺には勝てまい」
「なっ、ダメよノエル!!」
リリーが怒鳴った。
「わかってる・・・・っ」
だけども、このままでは勝てない。
修羅の力を発動しない限りは・・・・・・。

しかし、5年前の惨劇が脳裏を掠める。
ノエルの精神破壊が生んだ、あの惨劇。
止めるのに、シンシアが最大限発動をしたほどの、あの威力。
リリーもあの場に居合わせたが、捨てたと思った恐怖が一気にこみ上げ、動けなかった。
その時に言われたのだ。

───感情を捨てなさい。

そう、彼女に。


Page:1 2



この掲示板は過去ログ化されています。