ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- BloodLily
- 日時: 2009/12/26 11:17
- 名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)
またまた消えました((ガビーン
でも諦めませんよ。 絶対に諦めません!!
食いついていきます(笑
- Re: BloodLily ( No.6 )
- 日時: 2009/12/28 11:40
- 名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)
教会内を炎と熱い空気が満たし、ステンレスのガラスが割れた。
「なっ」 「あまいな、お前は」
アルドは素手で刃を掴んでいる。 そこから、血が滴り落ちていた。 どす黒い、人間のものとは思えない色の、血。
「そういや……ッ、キラーっつても死神だろ!? お前、何で大人になってるわけ?」
「貴様には関係ない事だ」
「その黒い血……人間のモンとは思えねーなぁ」
ニヤリと口角を上げ、ノエルが笑う。 しかし、目は笑っていなかった。
アルドの頬が、数ミリ切れてるのを見て、
(あいつ、『漆黒の竜』を発動させてもあれ程度しかくらわないの?)
リリーが歯軋りをする。 口の中に、血の味が広がった。
「やはり、まだ貴様は幼い。 何も成長してない」
「意味わかんねー。 抜かすなッ」
「実兄をころす覚悟が、足りていない」
「ッ!!」
ノエルが怒りでカッと目を見開く。
「てっめ……、好き勝手言ってんじゃねぇよッ!!」
鎌を抑える力を込め、アルドの手に刃が食い込む。
痛みに少しだけアルドが顔をしかめた。
「っ」 アルドの蹴りが、ノエルの腹部に激突する。
「ノエル…、引きましょうっ。 これ以上は無理よ」
「ペッ。 ……撤退?」
「あなたが言ったのよ。 無理だと思ったら撤退をって。 任務より、人命が優先されるから」
「っ」
長年憎んでいた兄が目の前にいる。 それで逃げる事は、ノエルのプライドが許さなかった。
「逃げるがいい」
アルドの言葉に、ノエルが拳を握り締める。
「今俺に向かい合った所で、貴様の勝敗は皆無だ」
- Re: BloodLily ( No.7 )
- 日時: 2009/12/28 15:27
- 名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)
悔しい。 悔しいが、アルドの言っている通りだった。 ノエルが憎しみを露にしながらアルドを睨みつける。
「俺に勝ちたいんだったら、もっと闇に溺れろ。 溺れ、同化し、一体となれ」
適わないのなら、闇の力を借りる。 修羅を発動できないなら、闇と同化する。
汚いやり方でも、勝ちは勝ち。
「そして、もう一度俺の前に現れて来い。 本気で俺を八つ裂きにしたかったら、だが」
「してやりてぇよ!! この、糞野郎!! 」
「威勢だけはいい。 野良犬みたいだ」
「ざけんなっ!! 」
吠えるノエルを、実際心配しているのか判らないが、心配そうな顔でリリーが見つめていた。
「ノエルと……そこの女」
「何」
指名され、リリーが怪訝そうにアルドを見た。
赤い瞳は、今自分の前で悔しそうにしている少年と同じだった。
「ディオネアスの鎌も、いつか必ず貰うからな」
「…………これは、私の鎌よ」
その返事には何も答えず、アルドは闇の中に消えて行った。
しばらく、その消えた方向を睨んでいたノエルだが、ふいに脱力し、リリーの胸に倒れこんできた。
「ノエル!? 」
怪我をしたのかと、彼の顔を覗き込む。
「わり……ちょい目眩と、吐き気しただけ……」
「……そう」
「ごめん、だけど…………ほんの少しだけ、こうさせて…………」
リリーから、見えないようにノエルが俯く。 あえて何も言わずにリリーはノエルから視線をそむけた。
教会のガラスは割れて、本来そこで笑みを浮かべるべき聖母子もいなかった。
マリアの頭部が無いタヒ体を、真っ黒な節穴の目でリリーが見つめた。
ノエルの体重がかかって、重い。 こんな冬に半そででいるから、体温は温かいはずなんてない。
だけど、それでも、
誰か人の温かさを知りたくて、
感情を失くしているリリーの腕の中で子供のように落ち着いているノエルを、
「………………………………………………………」
リリーは、何も思わずにただ抱きしめていた。
- Re: BloodLily ( No.8 )
- 日時: 2009/12/28 16:21
- 名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)
第7夜
名前で呼ばないで
「どりゃあっ!! 」
真っ白な雪を掻き分ける波動が生まれた。 そしてそれは、確実にアンデットを射抜く。
多少の返り血も気にせずに、白い鎌を持ったトトが満面の笑みを浮かべた。
「これで、ご飯食えるねっ」
「あーもー。 俺のも残しといてって言ったのに」
鎌を召喚したはいいものの、何もできなかったラズが不満を言った。
「ラズが遅いのがダメなんだよ」
悪気もこれっぽっちもないトトが、鎌をしまった。 ラズもため息をつきながら、 「ま、いいか」 と鎌を異界に戻す。
実際、ここの所はトトを甘やかしてばっかりだ。
もう突っ込みを入れるのも面倒くさくなり、最近はほぼ放置している。
「シヴァ、生きてるかなー」 「あの人はそう簡単にはタヒなないでしょ」 「瀕タヒって聞いたから、まさかのまさかでお陀仏かもー」
縁起でもない事を楽しげに語るトトを、複雑な目でラズが見つめていた。
「さ、宿に戻りましょう」 「……そうだね」
妙にビビリな宿主から鍵を受け取り、トトが 「オープン!」 と題して扉を開けた。
「ラズ、凄いよ! ひっろーい」 「ホントだね」
軽く返事をして、ラズが机の上にあったリンゴを齧る。 その甘さに若干の不満を抱いたが、特に何の反応もしないまま、
「トト」 「う?」 「リンゴ、いる?」 「いる」
好奇心旺盛で食欲旺盛なトトにあげる事に成功した。
何の確認もしないまま、ただラズのくれたものを信用して齧る。
「あっめー」
妙な方言でトトがリンゴの甘味を評価した。
「トト、先に風呂入って」 「ラジャっす」
リンゴを齧りながら、バスタブに向かう。 ラズは疲れたのか、ベッドの上で寝転んだ。
瞼が、自然と重くなる。
「ねっみ…………」
そう呟いて、遠くでシャワーの音が聞こえてくるのを聞きながら、そっと瞼を下ろす。
「
」
しかし、物凄い悲鳴と奇声、『音』に似た莫大な音量で目を覚ました。 それどころか、眠気のスイッチがオンになっていた脳内もきれいに流れた。
「…………トト?」
その、機械的な不快な音がトトのものだと判るのに、時間はあまりかからなかった。
急いでベッドから降り、風呂場に向かう。
「トトッ!! 」
流れている水が、赤く染まっていた。
トトが、自分の手首をガリガリガリと爪で削っている。 皮膚が爆ぜ、肉片が散らばっている。
「トト!! 」
暴れるトトをラズが抑え付ける。 彼女は裸だったが、そんな躊躇いなど、どうでもよかった。
「落ち着けッ!! 」
「”#’&”#!(”’%(’&$(#)$&!!”!!!”)#(”!#!’”##!$”)’&$’!」
意味不明な言葉を、鼓膜が破れるほど叫んでいる。
叫び、というより吠える、だ。
ラズは右手でトトの口を抑える。 唇の上から抑えるなんて生易しいものじゃない。 口内に手をいれ、左手で手首を自傷しているトトの腕を抑え付ける。
「があああああぁっ、あああぁぁぁあぁつ!! あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ、 ────がぁぁっ!! 」
上半身を痙攣させながら、動きが大分おさまってきた。
慣れた手つきで自傷行為を止めさせ、ラズが自分のバンダナでトトの両手を縛る。
「たすけて」
弱々しく、トトの口から出てきたソレは、
彼女が昔、何百回何千回と繰り返した願い。
しかし、それが相手に届いた事は、
一度だってなかった。
ラズはタオルでトトの体を包み、華奢な彼女をベッドまで運んだ。
冷めないように、タオルを何枚か追加した。
「………にしても痛い」
先ほど、トトの自傷行為を止めさせるため、手を彼女の口内に入れたが、その際に強く歯を立てられた。
見事に歯型がついている。
トトの手首に、持参していたトランクから包帯を取り出し、傷口を塞いだ。
(動脈傷つけてなくてよかった……)
安心しながらも、眠気なんて引っ込んだ為、どうしてトトが発狂したのか原因を探してみた。
「………これか」
原因はすぐに見つかった。 トトの本名がプリントされてあるシャンプーが原因だった。
彼女の本名は、『とてもキレイで可憐な、淡い色を示す言葉』で、ディスカニア王国では貴族がつけるような名前だった。
この下級都市で宿屋のシャンプーにそういう言葉をプリントするのは云々と、中心区に何か言われそうだが、とにもかくにもこれが原因だとわかった。
ラズはすぐにシャンプーを隠し、
「糞ッタレ」
煙草を取り出した。
火をつけて、煙を吐く。
部屋から、嘔吐している音が聞こえて戻ってみる。
「……………………」
胃液をシーツにぶちまけているトトが、痩せている体を震わせていた。
- Re: BloodLily ( No.9 )
- 日時: 2009/12/28 16:59
- 名前: 朝倉疾風 (ID: VZEtILIi)
「大丈夫だから」
何の根拠もなく、ラズが耳元で囁く。 その低音に落ち着いたのか、嘔吐は納まった。 肩で行きをしながら、ラズを見る。
「ら、ず……? らずらず、らずらずらず?」
「ん、ラズデス」
トトがまだ小刻みに震えている両手を差し出してきた。 ラズがそれをほどく。
「落ち着いた?」
「て、手、て……どしたの? 血出てる痛むの痛いの大丈夫なの血痛いよ?」
妙なカタコトで自分がつけたラズの手の平の傷を心配して、そこを撫でる。
鈍い痛みが走ったが、あまり気にせず、トトの額を撫でた。
「目、閉じて」
「あ、あああああああ、 あ あああ でも、暗いよ? 暗い、暗いと困る怖い怖いし、 ああ?」
「俺の手、握ってていいよ」
力強く、握り締めてくる。
まだ錯乱しているのか、時折黒目をあちこちに焦点を合わさずに移動させている。
「ね、ねぇ。 あいつらは? あいつらはどこ?」
「大丈夫。 みーんないないから」
「ホント? ホントにホント?」
「うん」
トトが示している、『あいつら』。 それは、彼女がアンデットよりも、キラーよりも反政府よりも憎み、トラウマとなっているやからだった。
「つか、服どこやった」
「……風呂?」
いったん離れて風呂場を見ると、そこに濡れたトトの服があった。
乾くか、と心配しながらラズがそれを物干し竿にかける。
「トト、ちょい立って。 あ、タオルはそのままで」
「うぃーっす」
いつもどおりのトトだった。
嘔吐物で汚れたシーツを風呂場で洗い、適当に置いておいた。
「ラズ」 「はい」 「ありがと」 「ん」
短くお礼を言われて、短く返事をした。
トトはベッドの上に寝転んで、長く息を吐いた。
トトの本名は、死神の中ではラズしか知らないだろう。 トトが昔、死神だと判った時、彼女の母親は身を挺して政府に我が子を連行されないよう、トトを抱きしめていた。
その、まだ幼いトトの目の前で、
母親は頭を跳ばされた。
その時、トトは10歳だったと聞いている。 よくもまぁ、異界を発動させてもなお、殺.人衝動に悩まされず、親子仲良く生きていたなと、ラズはトトの人間性を羨ましいとすら思った事もある。
彼女の名前を呼びながら、母親は頭部のないオブジェと化した。
トトの、名前を連呼しながら───
───ラズにだけ、名前教えてあげる。
ラズのどこを気に入ったのか、ラズ自身判らなかった。 しかし、会って直後にトトは、発狂しながらもラズに本名を教えた。
そして、嘔吐はしたものの、笑ってピースで、
「ぶっさいくな名前っしょー?」
そう誤魔化した。
心ズタぼろのはずなのに。
ラズは、笑わず、でも嫌がりもせず、トトを抱きしめていたのを覚えている。
「お前は、トトだよ」
眠りにおちたトトに、そう言ってみる。
昔も、そう言ってトトの存在を認めた。
- Re: BloodLily ( No.10 )
- 日時: 2009/12/28 17:05
- 名前: 藍羽 (ID: jusjvnjl)
やっぱり死神のお話イイですね。
個人的にはこういうの、大好きです。
トト・・・
すごくかわいそうですね。
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