ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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煉獄から死神少女。
日時: 2009/12/30 15:29
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

〆御挨拶
どうもこんにちは。ノベルでも執筆をさせて頂いております、更紗@某さんです。
さて、また消えましたよ。まあ某さんの生息地はノベルなので、復活はいくらでも可能なのですが。
そんな某さんと小説をどうぞ宜しくお願いします。

※まだまだ未熟なので、アドバイスや感想を下さると有難いです。
※当然ながら荒らしはお断り。
※フランス語やら悪魔やらが出てくるので、分からない場合は更紗に聞いて下さい。
※浅いコメントはご遠慮下さい。また、コメントついでに自分の小説を宣伝する行為は止めて下さい。

目次〆
Prologue 幻想と現実の死神 >>1
非日常01 死神少女、現る。 >>2
非日常02 死神少女、名乗る。 >>3
非日常03 死神少女、契約する。 >>4
非日常04 死神少女、居候になる。 >>5
非日常05 死神少女、客と話す。 >>6
非日常06 死神少女、見送る。 >>7
非日常07 死神少女、転入する。 >>8
非日常08 死神少女、ムカつく。 >>9
非日常09 死神少女、不思議な現象に出くわす。 >>10
非日常10 死神少女、魔剣と対峙する。 >>11
非日常11 天然少女、妖刀と出会う。 >>12
非日常12 死神少女、竜を連れる。 >>13
非日常13 死神少女、再会する。 >>14
非日常14 死神少女、逃げる。 >>15
非日常15 死神少女、犬に追われる。 >>16
非日常16 死神少女、イラつき過ぎる。 >>17
非日常17 死神少女、超能力を体験する。 >>20

訪問者様(ノベル・カキコ両方含むとして、カキコの訪問者様は小説を復活させた後の)
〆夜殿 〆満月殿 〆夜兎殿 〆(( `o*架凛殿
皆様、訪問感謝です。

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Re: 煉獄から死神少女。 ( No.11 )
日時: 2009/12/29 14:57
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常10 死神少女、魔剣と対峙する。

 アテナの強襲にエヴァは反射的に大鎌を振るう。大鎌は剣に当たりアテナは一旦後ろに下がった。
 さっきまでいきなりアテナが現れたことに焦っていたせいか、アテナの剣が普通の剣と何か違うことにエヴァは気づく。アテナの剣は禍々しい邪気を纏っているというか、どこか闇のように黒い。じいっとその剣を見つめていると、アテナがエヴァの疑問を察したかのように答える。

「この剣は貴方がお察しの通り、普通の剣ではありません。私の所有する神器で、“呪詛の剣”(ティルヴィング)と言います。絶対的な攻撃力を持つ神器ですが、その代わり持ち主を破滅に追い込む呪われし諸刃の剣——それがティルヴィング。支配するのに苦労しましたよ、随分と」
 
 エヴァも聞いたことはある、神器“呪詛の剣”。その剣はアテナの説明通り、鉄だろうが容易く斬れる攻撃力を持つが、呪詛の剣と言う名からもうすうす予想は付くが、意志を持つ剣で次第に持ち主を破滅へと導く呪いの魔剣。だが当の所有者であるアテナは、苦労したと言いながらもその表情からはまったく苦労したようには見えない。
 
「そんな恐ろしい魔剣を抑え込んだ? 剣よりお前の方が恐ろしいわね……」
「褒め言葉として受け取っておきましょう」

 アテネは変わらず無表情でそう言い、再び剣を構える。それに対抗する為、エヴァも大鎌でアテネに襲い掛かった。

 ***

 澪の背後から出てきたのは、澪と丁度同じくらいの歳の一人の少年。ニット帽のような黒い帽子、黒いマフラー、黒いコートにガンベルト、更に闇のように黒い髪に充血したような赤い目と、エヴァと同じ吸血鬼のような色の組み合わせだった。澪は少年だからと警戒してないのか、にこやかに笑いかける。
 少年は何をするかと思えばガンベルトから一つの装飾銃を取り出し、澪へと銃口を向ける。いつも天然でほわほわとしたオーラを放つ澪も、さすがにこれには驚き思わず口から悲鳴を漏らす。

「お前が神器“村正”の所有者か? その刀、こっちに渡してくんねえかな。通りすがりの女子高生を脅すなんて趣味でもないしメンドくせえけど……これでも一応“堕天の一団”(グリゴリ)十二柱の一柱だし……仕方ないからお前を脅して村正を奪うことにした」
 
 村正、グリゴリなど澪にとっては意味の分からない単語ばっかり出てきたが、自分の命が危険だと本能がさっきから身体へと訴えかけている。が、逃げようにも身体が動かない。
 謝っておとなしく刀を渡すべき、自分の命を救いたければそうするのが一番だろう。しかし此処で目の前の少年にこの刀を渡してはいけないと、よく分からないが命の危険と共に本能がそう言っている。自分の命が危険で助かりたいのに、その助かる方法を実行しようとしない——何とも矛盾していると澪は思った。
 どうするか考える時間が欲しいところだが、少年はそれを待ってくれなかった。ゆっくりと、少年が引き金を引こうと指をかける。澪は逃げたくとも、足が凍ったように動かない。

「その刀——渡せば助かるぜ、お前」
「……この刀、どうする気なの?」
「いいから早く渡せ」

 少年がそう言い放った時、銃が何者かの一撃によって弾かれた。少年はかすかに驚いたように弾かれた銃に目を向け、反対方向の銃を弾いた衝撃の方を向く。
 澪も驚いて振り向くと、そこに居たのは大鎌を持った栗色髪の少女、つまりシャロンだった。

「心配になって来てみたら、怪しい気配がするものびだから……。家で待機したままじゃなくて良かった」
「……誰だ、お前。邪魔するならお前を撃ち殺して村正を奪うまでだが?」

 少年は弾かれた銃を拾い、澪に向けていた銃口を今度はシャロンに向ける。少女の姿をしているとはいえ戦う術を持っているシャロンは、銃口を向けられたところでビクともしない。
 それを見た少年は引き金を一気に引き、弾丸を飛ばす。弾丸は太陽のような光を纏っている、灼熱の銃弾。その弾丸をシャロンは軽く避ける。

「その銃は普通じゃないよね。それも神器の一種かな?」
「ご名答。俺の所有する神器“太陽弾”(タスラム) それだけじゃない。この銃が他の神器と違うのは」

 口の端を少し上げてにやりと不敵に笑うと、少年はガンベルトからもう一つ銃を取り出し、銃弾を乱射する。弾丸の嵐にシャロンは翡翠色に輝く円——魔法陣を出現させ、ドーム型の盾で弾丸を防ぐ。だが、その
盾にも段々ヒビが入り始めてきた。

「驚いたか? 俺の神器タスラムは二つで一つ……つまり二丁拳銃ってやつだ」

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.12 )
日時: 2009/12/29 14:57
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常11 天然少女、妖刀と出会う。

 澪は今起きている状況が、何なのかまったく理解できていなかった。分かることといえば、今自分が“村正”という刀を持っているせいで、目の前の少女が危ない目に合っていることだ。この刀を少年に渡せば栗色髪の少女は助かる……だがさっきまでうっすらとしか感じていなかったが、今の光景を見てはっきりと分かった。あの少年に自分の持っている刀を渡してはいけないと。
 シャロンの盾はもうすぐで崩れてしまいそうだった。いつ弾丸を込めているのか、少年が銃弾を切らすことはない。このままでは、あの少女に弾丸が当たってて……。澪の脳裏に最悪な結末が浮かぶ。
 そんな中、澪は考え付いた。今少年はあの少女に集中攻撃をして、こっちにまったく目をやっていない。少年に気づかれぬよう背後から忍び寄って、この刀で軽く傷を付ければ……。それは不意打ちという、卑怯なことであることを澪は知っている。
 だが今はそのような事を言っている場合ではない。このままだと、自分達がやられてしまうのだから。澪は恐る恐る、鞘から刀を抜いた。
 するとどういうことか、刀は急にガタガタと揺れ始めた。まるで早く人を斬りたいと、疼いている様に。澪は気配もなく自然と歩き始め、その手に握られている村正は少年を断ち切らんと振り上げられていた。

「ちっ」

 少年は気配も無い澪——いや、村正に気づいたのか、舌打ちをして刃が当たる寸前で避ける。澪は刀が少年に当たっていないことを見ると、我に帰り自分が何をしようとしたのかに気づく。そう、自分は少女を殺そうとしている少年とはいえ“人”を斬ろうとしていたことに。慌てて刀を鞘に戻す。

「ごっ、ごめんね! 大丈夫だった?」

 さっき少年を斬ろうとしていたのとは一変、突然謝り始める澪に少年と少女は呆然と澪を見つめるばかりだった。

 ***

 夕方でまだそれなりに明るかった為、電灯が点いていなかった。それもあり、街中には明かりが一つとして無く闇に鎖されている。
 それにしても、一体異変の原因はどこにあんだよ……? そういやこの道を突っ切れって言われただけで、原因がどこにあんのかなんてまったく聞いてねえじゃねえか……くそっ。何故だか知らないが、街中に人間が誰一人としていない。とりあえずこのまま走り続ければ何か分かるか……。
 只走り続けるだけの俺の目にある光景が入ってきた。呆然としている少年少女二人は、二丁の拳銃を持つ俺と同じくらいの歳の少年に家で待機している筈のシャロン。んであそこにいる制服姿の女は……伊吹!? 何で伊吹が日本刀なんて持ってあんなところにいるんだ!?
 
「伊吹! 何でお前が此処にいるんだよ!?」
「えっ? 泉井君!? 泉井君こそどうして此処に……ってあわわわわ!」

 伊吹澪、今回も見事にドジっ娘体質発動。何故だかタイルが敷き詰めてある平らな地面の上で、滑って転んで尻餅をつきました。
 「あいたたた……」と尻を擦りながら立ち上がる伊吹。この平らな場所で転べば、確かに痛いなそりゃ……。
 俺が呆れながら伊吹を見ていると、黒服の少年が俺に尋ねた。

「司君に何かする気? 何かする気なら君をぶった切るよ」
「お前、この女子高生の知り合いか?」
 
 シャロンのことなどスルーし、俺の元へと寄って来る。
 何だこいつ、いきなり知らない奴にそんな事聞くか? ツンツンした感じの態度が何か気に食わないから答えたくないんだが、両手には二丁の装飾銃が握られている。脅されたら敵わないので、大人しく答えておく。

「そうだが、それがどうかしたのかよ?」
「どうもこうもねえんだよ、こっちは。とりあえず俺はその女子高生の握っている刀を“返して貰わなきゃ”いけない」
「返して貰わなきゃ……? それ、お前のなのか?」

 俺は少年の「返して貰わなければいけない」という言葉が引っかかった。少年が伊吹を脅しているようにしか見えないんだが、違うのか?
 状況が理解できない俺に、少年が溜め息を付きながら俺の疑問に答える。

「そうだ。その妖刀、もとい神器“村正”は俺達堕天の一団が所有していた物だが、つい最近誰かが村正を盗み出したんだよ」

 誰かが盗み出した……? それってまさか、自分のこと『ボク』とか言うフローレンスっていう奴か!? あの野郎……エヴァの関係者だからまともな奴だとは思っていなかったが、面倒なことに巻き込みやがって……!
 俺が一人でふつふつと怒りを沸かせていると、俺の背後から誰かの気配がした。
 振り向いてみると、見覚えのある顔の少女がこちらへと歩み寄っていた。長い黒髪のツインテールにメイド服、右手に握られている剣、さっきの丁寧語のコスプレ少女だ。一体何しに来たんだよ……おおかた、伊吹の持っている刀を寄越せとでも言いに来たのだろうが。
 この状況、結構ヤバくないか? そう危機感を感じていた俺だが、少女の口から発せられたのは意外な言葉だった。
 
「帰りますよ、オズ。村正に関してはまた次の機会とします。予想外の戦力があったものですから」
「はあっ? どういうことだよアテナ」
「どうもこうもありません、言うとおりにして下さい。叛く場合は切り刻みます」
「……はいはい、分かりましたよ」

 オズという少年は、アテナという少女に引きずられる様に帰って行き、やがて見えなくなった。

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.13 )
日時: 2009/12/29 14:58
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常12 死神少女、竜を連れる。

 一体何だったんだ? あいつら。
 オズたちが消えていった方向を眺めていると、暗かった空が元の夕暮れ空に戻っていった。サラリーマンのおじさんや下校中の女子高生のグループなど、突如消えてしまった通行人達も何事も無かったかのように街中を歩いている。オズとアテナがいなくなって起きた現象が元に戻ったっていうことは、あいつらがこの現象を引き起こしたのか?
 顎に手をあて考えていると、見覚えのある少女が空から舞い降りようとしていた。あの黒髪に赤い目はエヴァだ、俺は手を振る。……あれ、何かおかしい。エヴァは何かに乗って空を移動しているようだが、それは魔女の箒だとかファンシーな物ではなく、四つの足のような物体や、翼みたいに空を羽ばたく巨大な二つの何かが取り付けてある物体。その謎の物体はエヴァを乗せて、段々とこちらへと降りてくる。この物体って、死神、悪魔、アストラル、魔術、神器、妖刀とファンタジー要素連続で来て、次はドラゴンか!?
 ずっしりと重々しい音を立てて着地したのは、鋭い金色の眼光に鋭利な爪を持つ四本の足、巨大な翼を持ち、真紅色の鱗を纏っている異質な生き物——つまりはドラゴンだ。エヴァはドラゴンの背中から飛び降りて、俺の方に駆け寄ってくる。……待て待て。この変な現象が終わった今、ドラゴンなんて出現させたらマズイだろ。俺の平凡だけど平和な高校ライフを、マスコミvs俺の一大逃走劇に変える気か! それだけは絶対勘弁だ!

「エヴァ! こんな街中でドラゴン出したら目立つからしまえ! 通行人もこっち見てるだろ……あれ?」

 慌てて周りを見渡すものの、アストラルと戦っていた時のように通行人は俺達に気づいていないようだ。また魔術うんたらかんたらとかいうことなんだろうが、とりあえず俺はホッとした。

「私達全員の身体に結界を張っておいたわ。とりあえず見えることはないから安心して。で……何よ、司」
「『何よ』じゃなくて! 何だそのドラゴンは!」

 俺が吠えるように叫ぶと、エヴァは「ああ、これ?」とさすがファンタジー世界の住人。事態の重要さにまったく気づいていないようだ。ドラゴンはエヴァに懐いているらしく、エヴァが近くに寄ると頭を低くする。ドラゴンに表情があるのかよく分からないが、エヴァに撫でられることをどこか嬉しそうにしていた。

「この子は私の使い魔の深紅竜(ウェールズ) 見た目は凶暴だけどおとなしい竜だから、安心しなさいよ」

 おとなしいとかそういう問題か? 此処がどこか分かるか、You are in Japanだぞ? まあ俺が食われなかったとこだけは一安心ってとこだ。一件落着。

「えっ、ええええ慧羽ちゃん?」

 訂正、一件落着じゃない。伊吹にこの状況を完全に見られた……面倒臭いことになったなあ。きょとんとしている伊吹に、この状況、そして今まで何があったのかを説明することにした。

 約十分後。俺は通行人から誰一人として見られていない、実質透明人間状態で伊吹に今回の現象はおそらくあの少年と少女の仕業であること、そして死神のことや俺とエヴァが出逢ったことなどを簡潔に説明した。
 普通の人間なら軽く笑い飛ばし、馬鹿にするだろうがさすがは妖刀の持ち主。「へえ、そうなんだ。改めて宜しくね、エヴァちゃん」とあっさり事は進んだ。伊吹……お前のドジ体質は半端じゃないけど、人間性も半端じゃないな。自分でも良い意味なのか悪い意味なのかは分からないが。あれ、このパターン、どっかでもあったような……。
 事件はこれだけでは終わらない。「丁度良いし、村正が暴走しないか監視も含めて、シャロンは澪と契約したらどう?」というエヴァの提案で、あっさりと伊吹とシャロンは契約し、シャロン&ユリアは伊吹家へと住むことになった。……何故この現実世界で、ファンタジーな物事が簡単に進んでいくんだ。
 俺が呆然としていると、エヴァが俺の腕を引っ張った。

「私達もそろそろ帰らなきゃ。紫苑が心配してるわ」

 ***

 空までは届かずとも、高くそびえるマンションの屋上。シルクハットを被った少女と、黒ずくめの長身の男という奇妙な組み合わせの二人組みが、死神少女達のやり取りを眺めていた。

「……いいのか」
「何がぁ……」

 黒服の男——ゼルギウスは、主である少女、フローレンス=クルックに訊いた。

「妖刀、あの女に渡していいのか? あれはお前が堕天の一団(グリゴリ)から盗み出してきたものだろう?」

 その言葉に、フローレンスはやる気なさげな顔から、口の端を少し上げてにたりと笑みを作った。

「別にいいんだよぉ……あの娘に渡してみるのも、面白くなりそうじゃん……」

 少女は答えると、笑みを崩しまた一つ、欠伸をかますのだった。

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.14 )
日時: 2009/12/29 14:58
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常13 死神少女、再会する。

 漫画とかラノベには、ある日突然ファンタジーなモノがやってきたりして、気が付けば主人公はヒーロー的存在になってたり、ハーレムモテモテ現象が起きたりする部類は少なくない。
 俺の場合は、ヒーローになったりハーレム現象が起きたりなんて夢みたいな事は起きないが、それなりの事件には巻き込まれたりする。
 今日もまた、そんな事件に巻き込まれたりするのかもしれない。

 俺はその日、いつもより早く起きた。カーテンの隙間からこぼれている眩しい朝日の光が、ベットで目を瞑ったままの状態の俺の目に差し込んできて、余計眩しく感じる。暖房やストーブ、お風呂などとはどこか違う——例えれば人肌のような温もりを持つ布団の中から出るのは、結構苦戦する。
 朝の試練を乗り越え、冷たい水で顔を洗い制服を着てキッチンに下りてきた。紫苑はもう学校に行ったらしい、朝練というやつか。
 そんないつものキッチン。の筈が、俺の視界に入ってきたのは、誰かも知らない謎の美女——つまりは、またしても俺を面倒臭い事に巻き込みそうなものだ。
 黒髪の赤い目と、誰かに似ている容姿をした美女は、何故か普通に食卓の中に溶け込んでいる。
 この人誰だ……そう俺がエヴァに聞こうとした時だった。エヴァの様子がいつもとは何か違う。何というか、ピリピリしているというか……イラついているようだ。
 俺が考え込んでいると、黒髪美女が俺ににこりと笑って挨拶をした。

「あら、おはようございます。泉井司様。妹様は、随分と美味しい朝食を作られるのですね」
「えっと……すいません、誰ですか?」

 今最も疑問に思っていた事を訊く。にこりと笑う美女から返ってきた答えは、俺を驚愕させた。

「これは失礼致しました。私、アリットセン公爵家長女のシェリル=アリットセンと申します」

 アリットセン……? って、エヴァのフルネームってエヴァンジェリン=アリットセンだよな!? てことは、この人はエヴァの姉なのか!?
 当のエヴァは殺気立っている。さっきからイライラしていた理由は、もしかしてこのシェリルさんって人が来てるからか? 主の様子が違えば従者の様子も違う。いつもは人間の姿で朝食を摂っているウィニだが、今日は黒猫の姿で皿に注がれているミルクを舐めていた。しかもどこか怯えている様。
 暫くの間緊迫感がキッチンに漂っていたが、ついにエヴァが口を開いた。

「シェリル……どうして此処にいるのよ。煉獄にいた筈じゃないの?」
「相変わらず姉を呼び捨てなのですね、エヴァンジェリン。ウィニフレッドも今日はどうしたのでしょうか、使い魔仲間のキャロルが来ているというのに」

 キャロル? そう思っていると、俺のかかとに何か当たった。蒼く綺麗な瞳に、赤い首輪に金色の鈴が着けている黒猫。
 黒猫が俺の足元にぶつかったのを見ると、シェリルさんは優しげに黒猫に言う。

「キャロル、ぶつかったら『ごめんなさい』でしょう? それと名乗るのも礼儀ですよ」

 主の指示に黒猫は頷き、ぼむっと煙を巻く。ウィニの時のように、黒猫が少女へと変わった。ダークブラウンの髪をポニーテールにし、ぶかぶかの黒服で身を包んでいる少女。少女はくるりと俺の方を向くと、一礼した。

「さっきは、悪かった。キャロル=エルウェス、シェリル様に仕えている。泉井司、宜しく」
「あ、ああ。宜しく……」

 どこか特徴的な言葉で挨拶をする少女。うーん……未だに動物が人間になることが信じられないんだが。ウィニといいユリアといい。あのゼルギウスとかいう奴は人間だったのにな……。
 こんなどこかほんわかした空気も、エヴァの研ぎ澄まされた殺気には一瞬で押し潰されてしまう。
 だが殺気を向けられている当人、シェリルさんはまったく動じていない。にこやかな笑顔には、どこか黒さを隠しているようにも見える。何だかこれもこれで怖い。

「落ち着いて下さい、エヴァンジェリン。そもそも、貴方が家出なんてするから悪いのですよ?」

 その言葉にエヴァは「うるさい!」と子供のように騒ぎ立てる。
 はっ……? 家出? じゃあもしかして、こいつが腹を空かせて倒れていたのは単なる家出?
 俺の心を読み取ったのか、シェリルさんは答えるように言った。

「お察しの通り、この娘はアリットセン公爵家当主になりたくないと言って、家出をしたのです」
「う、うるさい! うるさいわよシェリル! 第一当主ならお前がなればいいじゃない!」

 どうやらシェリルさんから放たれた言葉はエヴァに相当なダメージを与えたらしく、顔を真っ赤にして更に騒ぎ立てる。ああ、頼むから足音を立てるな……。
 シェリルさん、エヴァの幼稚な罵倒も涼しい顔で受け流す。さすがお姉さん。あいつもこんなんだったら……おっと。
 そしてシェリルさん、人差し指でびしっとエヴァを指してこう告げた。

「だから私は、貴方を煉獄に連れ戻しにきました!」

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.15 )
日時: 2009/12/29 14:58
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常14 死神少女、逃げる。

「はあっ!?」

 シェリルさんの言葉に一番驚きを示したのは、勿論のこと当人であるエヴァ。目を丸くしいかにも“信じられない”という顔でいる。
 俺としてはこれ以上面倒な事に巻き込まれないよう、このまま帰って欲しいんだが家出娘のエヴァがそうする筈ない。エヴァは学校の教科書が詰まった鞄を引っ手繰ると、いってきますも言わずに逃げるように、というか逃げた。俺も慌てて自分の鞄を取り、シェリルさんに軽く礼をすると、急いでエヴァの跡を追いかけた。

「それで逃げたつもりでしょうか……愚かなる我が妹よ、ふふ」

 出て行く間際、シェリルさんが怪しく笑っていたのを俺は聞いた。
 また面倒臭い事になりそうだなと、俺はそう直感した。

 ***

 出欠を取り終わり、篠塚先生は教室を出て行く。
 とりあえず何も起きていないし、さっきのは杞憂で終わってくれるようだ。ほっと一安心だが、俺の右斜め後ろの女子——エヴァは違う。なんとか殺気を押さえ込んでいるが、未だにピリピリしている。そのせいか、隣の伊吹は怯えているし。
 まあそれはそれはそれとして、一時間目の準備っと……。
 俺が机から教科書を出そうとした時だった、突如俺のすぐ横の窓が勢いよく割れる。思わず伏せると、エヴァが俺を突き飛ばした。おかげで尖った硝子の破片は俺に刺さらず、怪我をせずに済んだ。
 どうやらさっきのは杞憂では済まなかったようだ。どこから入ってきたのか、黒いビックサングラスに、黒光りしているタイトなミニスカート、黒い毛皮のコートにブーツ、そして更には金髪と、いかにもセレブという感じの格好のシェリルさん。
 
「見つけましたよ、我が愚妹」

 シェリルさんはにこりと黒い笑みを作る。宿敵の登場に、エヴァはついに殺気をあらわにした。
 いきなり金髪美女が窓から乗込んで来るという、どっかの映画のような現象にクラスメイト達がざわめく。ある者は金髪美女を近くで見ようとし、ある者は散らかった硝子の破片を片付けようとする。
 でも今はそんな事に目をやっている暇は無い。此処はどうにかして、シェリルさんを……!

「って、おいエヴァ!?」

 俺が何とかシェリルさんをいさめようとする前に、エヴァが教室から走り去っていった。俺も慌てて跡を追おうとするが、丁度一時間目開始のチャイムが鳴る。更には担当教科の先生までが入ってきてしまった。

「おい、お前ら何をやってる? チャイム鳴ったぞ」
「すいません先生! 風邪っぽいんで保健室行って来ます!」

 くそっ、こうなったらやけくそだ! バレバレの嘘を付き、俺はエヴァの跡を追った。

 ***

 他の家より一回り大きい泉井家のリビングに、二人の少女がテーブルを挟み向かい合わせで座っていた。かぼちゃパンツの黒髪の少女は、エヴァの使い魔ウィニフレッド。だぼだぼの黒服にダークブラウンの髪をポニーテールにした少女は、シェリルの使い魔キャロル。この二人は昔から仲の良い使い魔同士なのだが、今二人はある危機に直面していた。

「どうしましょうです……」
「どうするか。シェリル様、しぶといからな」

 二人が頭を悩ませている事とは、キャロルの主人シェリルの事だ。シェリルは現在家出した妹、エヴァンジェリンを煉獄に連れ戻そうと司達を追っていたところだった。シェリルは暴走すると周りが見えなくなる、だから二人はシェリルが何か仕出かさないかと心配だったのだ。
 二人は暫く考えて、やがてキャロルがぽんと手を叩いた。

「私達が学校に行き、司達を助けるというのはどうだ」
「……」

 キャロルの提案に、ウィニフレッドは少しの間考え込んだ。そして言った。

「いいんじゃないです? そうと決まれば早速行くです」

 二人はそう結論付けて、急いで家を出ていった。
 こうして、今回の騒動はますます激しくなっていく事だろう。


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