ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 煉獄から死神少女。
- 日時: 2009/12/30 15:29
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
〆御挨拶
どうもこんにちは。ノベルでも執筆をさせて頂いております、更紗@某さんです。
さて、また消えましたよ。まあ某さんの生息地はノベルなので、復活はいくらでも可能なのですが。
そんな某さんと小説をどうぞ宜しくお願いします。
※まだまだ未熟なので、アドバイスや感想を下さると有難いです。
※当然ながら荒らしはお断り。
※フランス語やら悪魔やらが出てくるので、分からない場合は更紗に聞いて下さい。
※浅いコメントはご遠慮下さい。また、コメントついでに自分の小説を宣伝する行為は止めて下さい。
目次〆
Prologue 幻想と現実の死神 >>1
非日常01 死神少女、現る。 >>2
非日常02 死神少女、名乗る。 >>3
非日常03 死神少女、契約する。 >>4
非日常04 死神少女、居候になる。 >>5
非日常05 死神少女、客と話す。 >>6
非日常06 死神少女、見送る。 >>7
非日常07 死神少女、転入する。 >>8
非日常08 死神少女、ムカつく。 >>9
非日常09 死神少女、不思議な現象に出くわす。 >>10
非日常10 死神少女、魔剣と対峙する。 >>11
非日常11 天然少女、妖刀と出会う。 >>12
非日常12 死神少女、竜を連れる。 >>13
非日常13 死神少女、再会する。 >>14
非日常14 死神少女、逃げる。 >>15
非日常15 死神少女、犬に追われる。 >>16
非日常16 死神少女、イラつき過ぎる。 >>17
非日常17 死神少女、超能力を体験する。 >>20
訪問者様(ノベル・カキコ両方含むとして、カキコの訪問者様は小説を復活させた後の)
〆夜殿 〆満月殿 〆夜兎殿 〆(( `o*架凛殿
皆様、訪問感謝です。
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.1 )
- 日時: 2009/12/29 14:52
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
Prologue 幻想と現実の死神
どこにでもいそうな、地味でありふれた高校一年。それが俺だ。
そんな地味な高一に、突如事件が起きた。俺の地味ながらも平和な日常が、音を立てて崩れ落ちたのだ。
知らないうちに日常が終わっていて気が付いたら非日常が始まっているなんて、どこの漫画だって感じだ。いや、俺の非日常は、どちらかといえば日常に溶け込んだって感じかもしれない。まあどちらにしろ、俺の地味で平和な日常は、突然前触れもなく終わったってわけだ。
いきなりだが“死神”と聞いて、何を連想する? 大抵の奴らは黒いローブを着て鋭い大鎌を持ち歩いてるだとか、人の魂を狩る不気味なものだとか、そんなことを想像するだろう。
俺もつい最近まではそう思っていた。……じゃあ鎌持ち歩くだとか、そういうのではないのか? いや、あながち間違ってはいない。むしろ当たっている。
ならどこか違うか。それは大体当たっている想像の中の「不気味なもの」ってとこ。骸骨被ってたりだとか、そういうのじゃないわけ。俺の言ってる大抵の奴らの死神の想像が分からないって奴は、今すぐウィキペディアにGO!
大抵の人間が想像する死神イメージ図を俺が否定できる理由、それは俺の日常が消え去った原因でもある。
つまり俺は死神に会ったことがあるのだ。別に変な儀式をして呼び寄せたとか、そんなんじゃない。断じて違う。
だってその死神は、俺が玄関のドアを開けた瞬間——そこにいたんだからさ。
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.2 )
- 日時: 2009/12/29 14:53
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常01 死神少女、現る。
「んじゃ行ってきます」
俺はそう言って玄関にある自分の靴を穿く。と言っても、妹の紫苑は俺より先に学校に行っている為、放任主義のこの家には今誰もいないのだが。
ガチャ、と音を立ててドアを開く。すると足元から、何か呻き声が聞こえた。
「お腹減っ」
バタン、と開いたドアを閉める。今……何かいたような。長い黒髪の少女がいたような。
いや気のせいだ。ドアを開けたら美少女がいましたみたいな、漫画やラノベみたいな展開があるわけがない。
俺はもう一度改めてドアを開く。
「酷いわね……空腹で倒れた女の子を無視してドアを閉めるなんて……。お前の魂、狩ってやる!」
もう一度バタンと音を立ててドアを閉めた。
気のせい……気のせいの筈だ。ドアを開けたら美少女が、憎しみに満ちた赤い目で俺を睨んでるなんて。きっと幻覚だ。「魂狩ってやる」とかいう声も聞こえたが、幻聴に違いない。最近ストレス溜まってるんだな俺……。
そう言い聞かせて、俺は本日三回目ドアを開く。
「覚悟しなさい!」
「ってうわああああああ!?」
三回目ドアを開けた時には、銀色に光る巨大な鎌を持った黒髪の少女が、今にも俺を叩き切りそうな勢いで襲い掛かってきた。
一瞬どうなるかと思ったが、少女が鎌を振り下ろそうとした瞬間、空腹のせいなのかその場で倒れた。
……どうする俺。幻覚ではなかった、今のは確かに幻覚ではなかった。あれが現実でも、俺は学校に行かなければならない。しかし此処で俺が少女を放置すれば、少女は復讐と言わんばかりに俺に鎌を振り下ろすだろう。そして更に俺は空腹で倒れた少女を放置した最低な男として、近所に知れ渡るだろう。
「……くそっ!」
俺は少女を抱え家の中に戻り、台所にまで連れて行った。
「おい起きろ! お前腹が減ってるんだろう!? 俺んちの朝飯の残り食ってけ! 食ったら帰れよ!」
荒々しい声でそう告げると、俺は一目散に家を出て学校へと走っていった。
ああ、あの誰かも知らない女のせいで、俺は今日遅刻するのか……。
***
「じゃーな司、来週は精々遅刻しないよう頑張れよ」
光輝は半分からかうようにそう言うと、別の方向へと歩いていった。ったく、今日はあの女のせいで遅刻した上に、ペナルティとして居残り掃除だもんなあ……。ついてねえな、俺。
家の前に着くと、そこにはもうあの物騒な大鎌はなかった。あいつ、帰ったのか……。一時はどうなるかと思ったが、一件落着だな。
安心しながらドアを開けると、そこには悪夢が待ち構えていた。
「随分と帰るのが遅かったね」
……おいおい嘘だろ。何の冗談ですか、何のドッキリですかこれは。
目の前には先程の長い黒髪の美少女が、仁王立ちで立ち塞がっている。
「泉井司……だっけ。朝食、中々美味しかったよ」
笑いもせずに礼を言う少女。
こいつ、何で俺の名前知ってるんだ、しかも何で平然と俺の家にいるんだ。朝食食ったら帰れって声、聞こえてなかったのか?
俺が考えて込んでいるところに、少女が話しかけてきた。
「まあ此処で立ち話をしているのもあれだし、座って話しましょう」
「は? てかお前帰れって言った筈じゃ……っておい!」
俺の声など無視して、少女はとっととリビングの方向へと歩いていく。
ほんと何なんだあいつは……。此処はお前の家じゃないっての。イラつきながらも俺は少女の跡をついて行く。
リビングには少女が所有していると思われる巨大な鎌、それと黒猫が少女の方へと寄り添ってきた。
俺と少女は、テーブルに向かい合わせになって座る。こいつは何も言おうとしないが、俺にはこいつに聞きたいことが沢山ある。
「おい……何でお前此処にいるんだ!? 何で俺の名前を知っているんだよ? その鎌は何だ? そもそもお前は誰なんだよ!?:
「うるさい黙って。そんな一辺に聞かれてもワケが分からない。まあとりあえず私が誰かくらい教えてあげる」
少女は腕に抱いた黒猫を撫でながら名乗った。
「私はエヴァンジェリン、エヴァンジェリン=アリットセン——死神よ」
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.3 )
- 日時: 2009/12/29 14:53
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常02 死神少女、名乗る。
「……えーと、はい?」
自分の名を名乗るところまではいい、けどその後なんて言った? 死神? 死神って言ったよな? あんな物騒な鎌持ってる時点で普通じゃないが、此処までいくと本格的な電波少女か?
冗談かとも思ったが、少女の目は真っ直ぐとしていてどうやら本気のようだ。冗談なら「お前大丈夫か?」とか軽々しく言えるが、ここまで本気だと逆に言葉が詰まる。
「だから死神だって言ってんのよ。お前、耳悪いの?」
いや……耳は悪くないんだが。悪いのはお前の頭だと思うんだが。
こんな事を思っていても、うかつには言えない。変なことをいえば、傍にある大鎌で叩き切られるかもしれない。
もしかしたら死神のコスプレしてんのか? 黒服に巨大な鎌、これで美少女じゃなければまさに死神だ。
「つまりお前は、エヴァンジェリンという名の死神のコスプレをしてるんだな? 分かりづれえよ、最初からそう言えって」
「何言ってるのお前。私の名前はエヴァンジェリン! 死神よ!」
すいません、俺はどうコメントすればいいのでしょうか。こいつの親はどういう教育してるんだ? こいつの親は子供にこういう事を教え込んでいるのか? 親も電波なのか?
俺が無言でいるのを見て、自称エヴァンジェリンという名の死神は、傍にある大鎌を掴む。
「信じてないの? なんなら、お前の魂狩ってあげようか?」
自称死神はギラリと目を光らせながら言う。魂は狩られなくても、これじゃあ魂じゃなくて俺が狩られる。
さすがに俺が狩られちゃまずいので、何とかしてこの電波少女をいさめなければ。
「ひとまず落ち着け。お前、どっからどう見ても痛すぎる電波少女だぞ? とりあえず本名教えろ、本名」
『そこの貴方! 人間の分際で、エヴァ様を貶すような行為は即刻やめるです!』
ん……? 今どっからか声がしたぞ?
辺りを見回しても誰もいない……と思ったら、少女の腕の中の黒猫が喋ってる?
「いいのよウィニ。こいつ人間だから、私の存在が信じられないの。最後まで信じないようならこいつの魂を狩って、私が死神であることを証明すればいいんだから」
えっと自称死神は腹話術ができるんだな。そうなんだな、きっとそうだ。
けどそんな俺の考えを、次の黒猫の行為が全否定した。
『お初にお目にかかるです、人間。私はウィニフレッド=シンクレアと申しますです』
黒猫が眩い光りを放ったと思ったら、漫画のように黒髪にかぼちゃパンツを穿いた小柄な少女へと擬人化した。此処三次元だよな。擬人化って二次元だけの筈だよな。単なる空想の一部の筈だよな。
俺のそんな考えを読み取ったのか、ウィニフレッドとかいう少女はいきなりナイフを取り出し、今にも襲い掛かってきそうな感じで構えている。さっきから少女に鎌だのナイフだの、なんという不似合いな組み合わせばっかりなんだ。
「……えっと、何のイリュージョン? ウィニフレッド? 何それ?」
『だから私はウィニフレッドという名の悪魔で、エヴァ様を主としているんです!』
死神の次は悪魔か。電波少女を超えて狂人かこいつらは? でもなんかエヴァンジェリンとかいう奴と、ウィニフレッドとかいう奴の主従関係は分かる気がする。喋り方っつーか、名乗り方がまったく同じ。
俺は自称死神のエヴァとかいう奴にヘルプの視線を送るが、今にも斬られそうな俺を無視し窓の外を見つめている。こいつ、俺が斬られてもいいってか……。そんなに死神を認めない俺が嫌か。
そう思っていたが、それにしては何か変だ。スルーしているというよりは、何か見ている感じ……。ウィニフレッドとかいう自称悪魔も、何かに気づいたらしく自称死神と共に窓の外を見つめる。
そして自称死神は溜め息をつく。
「あーあ、見つかっちゃったみたい。ウィニ、猫に戻りなさい」
『はいです』と自称悪魔は頷くと、ぼんと音を立てて黒猫に戻った。
見つかったって……何にだ? まったく分からない。
状況が理解できない俺を見かねたのか、自称死神は俺に説明をした。
「お前、分からないの……? どうやら私達」
俺はハッとして辺りを見渡す。……ようやく俺も分かった。
「彷徨える亡霊(アストラル)に、囲まれちゃったみたい」
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.4 )
- 日時: 2009/12/29 14:54
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常03 死神少女、契約する。
周りを見ると下品に涎を垂らし、今すぐにでも襲い掛かってきそうな半獣半人のような奴らが、俺達の周りを取り囲んでいた。半獣半人どころか、目玉が片方無い奴、顔がたくさんついている奴など、本当に化け物のようだ。
死神、悪魔、その次は化け物か……。俺は知らないうちに異世界にでも旅立ったのか? どこのファンタジー漫画だおい。
「おい自称死神……。こいつらがアストラルとかいう奴か?」
「自称じゃないわ、死神よ。そう、そいつらがアストラル。何かこの世に未練があったりとか——そういう奴らが死神に魂を狩られることを拒んで、この世に居続けた結果がこれ。死者の魂がいつまでもこの世にいると、やがては負の力が増幅しこんな醜い姿へとなるの。気をつけて、そいつらは人の魂を喰らうわ。魂を喰われたら……アストラルの代わりにお前があの世逝きね」
こんな奴らの代わりにあの世逝きだと? 冗談じゃない……。そんなふざけたことがあってたまるかよ!
俺がアストラルとかいう奴に殴りかかろうとすると、それを自称死神が鎌で止めた。
「おいっ、どけよ! 俺はこいつらを……」
「何言ってるの? お前がアストラルに殴ろうとしたところで、拳は空振りして終わりよ。考えてもみなさい。アストラルは本来なら、この世にはもう“いない”存在なのよ? 私達死神みたいに、アストラルを狩る力を持ってない奴にこいつらは倒せない!」
おいおい馬路かよ……俺は指を銜えて此処で見てることしかできないのか? こんな小さい女の子にしか頼れないのか……?
俺が悔しそうに顔を歪めていると、自称死神は俺の目を見て言った。
「安心しなさい、私一人でもこいつらは倒せる。お前はそこで待ってるだけでいい」
自称死神は身の丈よりある大鎌を持ち上げて、その鋭利や刃を振るう。鎌は次々と化け物共に直撃し、粒子となって消えて行く。
こいつ……本当に死神なのか? ここまでくると、さすがに認められなかった死神を認めるようになってしまう。
だが化け物共は思ったより数が多く、切っても切っても現れる。こいつらクローンかよ……!
一人対大勢という圧倒的不利な状況で、敵を倒していった自称死神だかついに隙をつかれ、壁に吹っ飛ばされた。
「お、おい! 大丈夫かお前……」
「平気……お前はそこで待ってればいいの」
変なところを打ったらしく、よろよろと立ち上がる自称死神。傷を負いながらも、なお次々と出てくる化け物を斬って行く。
こいつ……全然笑わないし、自分のこと死神とかいう電波だけど、すげえ優しい奴なのかもしれない。化け物共を倒すだけなら、俺なんて庇わないでとっとと倒せばいい。
俺は耐え切れず、ついに訊いてしまった。
「なあ、俺に何かできることはねえのかよ!? 俺も何か力に……」
「……一つだけあるけど、お前を巻き込むわけにはいかない。お前はお腹が減って倒れた私に、ご飯を食べさせてくれた。これはそのお礼」
自称死神の言葉を聞いて、こいつは俺の思っていたようなむかつく奴ではないんだと思った。只、少し不器用なだけだったのかもしれない。
だから俺は、俺を助けてくれているこいつの力になりたい!
「俺に出来ることなら何でもする! その方法が何か教えてくれ!」
すると自称死神は鎌を止め、静かにその方法を告げた。
「……契約、私と“契約”すること。もし今のお前に私を助けてくれる勇気があるなら、契約して欲しい」
「え?」と俺が聞き返す前に、俺の足元に光る円が出現した。変な文字や模様が描かれている。これって……ファンタジーとかに出てくる『魔法陣』ってやつか?
何が何だか分からない俺に、自称死神は叫んだ。
「私と契約すると……『エヴァンジェリン=アリットセンと契約することを誓う』とその円の中で言うのよ!」
よく分からないけど……とりあえずそう言えばいいんだな!
「俺は……泉井司は、エヴァンジェリン=アリットセンと契約する!」
俺が円の中心で出る限りの声で叫ぶと、只光を放っていただけの円が黄金の眩い光を放ちながら、俺を取り囲む。
するとどうだろう、自称死神までが黄金に光りはじめる。何がどうなってるんだ? 契約に成功したのか?
何か不思議なオーラを纏いながら鎌を構える自称死神に、化け物が突如怯える。
{お前は幻獣使い——“竜の巫女”か……!}
化け物がそういい終える頃には、自称死神によって化け物は全て一掃されていたのだった。
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.5 )
- 日時: 2009/12/29 14:54
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常04 死神少女、居候になる。
「あー終わった終わった」
自称死神は疲れたように溜め息をつき、床に座り込む。まああんだけ化け物がわんさか出てくれば、それも仕方無いか……。
ていうか今何が起きたんだ? 落ち着いて考えてみると、俺「契約する」とかその場の状況で言っちゃったけど。自分で言っておきながら言うのもあれだが、契約って俺はどっかのファンタジー漫画の中にいるのか?
まあそれはひとまず置いておくとして、今回はこの自称死神のおかげで助かった。礼言っとくか。
「えーっと、有難うな。自称死神」
「自称じゃない、死神。それと——私の名はエヴァンジェリン」
エヴァンジェリンはぷくうっと頬を膨らませてそう言った。こいつ……美少女だけに、こういう仕草は中々可愛い。いつもそういう態度をとればいいのにな。
そういえば、こんな普通の街中の家で化け物と死神が戦っていたというのに、俺の家は一つも傷がついていないし、街中を歩く人は誰もこちらを見ていない。
「なあ……。何で家壊れてないんだ? それに周りの通行人、何事もなかったかのように誰一人としてこっちを見ていないぞ?」
「アストラルは死んだ人間の魂だから、生きている人間には誰一人として見えない。私と関わりを持ったお前は見えるけどね。通行人が誰一人としてこちらを見ないのは、ウィニの力」
よく分かんねえけど、そういう事なのか。高校生一人と中学生だけしか住んでいない家に、鎌を持った少女が化け物と戦っている事が見えていたら、それこそ一大事だもんな……。
何とか危機は乗り越えて一件落着になった筈なのに、死神エヴァは此処を動こうとしない。それどころか、テーブルに置いてあるお茶を啜っている。
「おい……アストラルとかいう化け物は消えたぞ? お前は帰らないのか?」
するとエヴァはきょとんとして俺を見る。何か嫌な予感が……。
「何言ってるの? 私はお前を契約者としたのだから、今日から此処に住むのよ」
えーと、はい? 美少女がいきなり知らない家に押しかけてきてそのまま住むという、ラノベみたいな展開が今まさに現実に?
俺は反対しようとしたが、口を開こうとしたところでそれを止めた。何故ならエヴァが、大鎌を構えていざ叩き切らんという体勢で俺を睨んでいたからだ。
「……まあいいけど。俺の家広いし、二人だけじゃ部屋も余っていたところ……ん?」
俺の家って結構広いからエヴァの部屋くらいある筈……。どうせ二人しか住んでいないし……。
……俺今二人っていったな。そうだ、この家に住んでいるのは俺だけじゃない……。
「そうだ、紫苑になんて説明すればいいのか……」
***
「ただいまー、すぐご飯作るから待っててー」
「お前が司の妹の泉井紫苑?」
紫苑が七時頃に、部活を終えて帰ってきた。のはいいが、いきなりエヴァが玄関に仁王立ちで迎える。
ちょ、待ってストップストップ! いきなり知らない美少女が居たら、俺に変な疑いかけられるから!
という俺は、リビングのドアから玄関の状況を覗いている状態にある。無論、エヴァが変なことをしたらすぐ飛び出せるようにだ。
「えっと、どちら様……?」
「私はエヴァンジェリン、煉獄から来た死神。今日から此処に住むことになったから、宜しく」
おいいいいい!! いきなり死神って名乗るか普通! 死神には常識ってものがないんですか? 日本の常識が通じないんですか!?
紫苑がどういう反応をするかとハラハラしながら見てたが、なんと予想外の展開に。
「死神でエヴァちゃんって言うんだ。私は紫苑、中学一年生。宜しくねエヴァちゃん」
おいいいいい!! 妹の紫苑! お前は泉井家の泉井紫苑じゃなかったのか!? 何でそんな簡単に死神を認められるんだ? こいつも電波だったのか!?
俺はぐったりとしながら玄関に出て行き、二人を連れて再びリビングに戻った。母さん、父さん。貴方達の知らないうちに、泉井家に一人の少女が転がり込んでしまいました……。
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