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- 心のメスをふるって
- 日時: 2010/01/05 11:55
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
クリックありがとうございます!初投稿です。
医大中退のホステスの話です。
よろしければご感想等、お願いしますm(__)m
主な登場人物-------------
小川京子(29)…女子医大中退のホステス
中村小雪(28)…京子の医大時代の同級生の女医
金井誠一(38)…浪速大学医学部講師(内科)
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- Re: 心のメスをふるって ( No.6 )
- 日時: 2010/01/05 16:58
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
心のメスをふるって 第六話
「永井医学部長にはお気をつけ遊ばせ、あの方は狙った獲物は離しません事よ」
京子が、一人の地味な教授夫人が言った一言を、思い出したのは、永井と三回目の食事をしているときであった。
一ヶ月前、実験が夜遅くまで続いた日、同じ沿線沿いであるからと家まで車で送ってもらい、その途中軽い食事を奢られてから、夜遅く実験が続く日は、二人で帰るのが決まりのようになっていた。京子は大学卒業後、教室に残るつもりで居たし、また飛びぬけて優秀な生徒でもあったから、永井と近づいている事は、変な意味なしに、不自然ではなかった。
しかし、今日は永井の様子が何時もと違う。京子は、やはり、教授と生徒の関係でも、食事など一緒するべきで無かったのかもしれないと思い、あの一言を思い出したのだ。そして、その後心配通りになってしまった。
———嫌な事を思い出したわ。京子はバー・シルヴィアに居るというのに、少しばかり、医大生時代の辛い思い出に浸ってしまっていたのだった。
「どうしたんだい、ボーっとして、」
常連客の角川は、京子の顔を覗きこむと、
「それでだな、我々も、教授選の票集めに頭を捻っているのだよ」
そう云い、別の医師が、
「この間、僕がここへ連れてきた、金井先生と云う方がいらっしゃるだろう、あの方が票集めどころか、相手の出馬を取り消せるかもしれないキーワードなんだがね、どうもあの金井先生は真面目すぎていけないよ」
京子は金井の名前が出たことに、好奇心が湧いたが、もうホステスなどに話しすぎるといけない、というメッセージを、また別の医師が、その話しすぎたものに目で制した。
席から離れて、京子は気になった。金井先生がキーワード———。教授、せめて助教授ならばともかく、講師の金井がキーワードとはどういう話だろう。久しぶりに、心のしっぽを捉えられた話だと思った。
- Re: 心のメスをふるって ( No.7 )
- 日時: 2010/01/05 18:35
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
心のメスをふるって 第七話
午後五時を回り、浪速大学付属病院第一内科の医局内は、一日の仕事が終わった開放感で皆ざわめいていた。その中で金井誠一は雑談に参加せず、一昨日から始めている動物実験の事を考えていた。
「金井先生、真鍋助教授がお呼びです———」
ふと気付くと医局の入口に第二外科看護婦長が立っている。第二外科助教授、真鍋元は金井と同期の38歳であるが、四年前、若くして助教授になり、さらには来年現教授退官後、教授になるのかもしれなかった。研究熱心ではあるが、いまいち、人を惹き付ける華やかな魅力が乏しい金井に比べて、真鍋はその両方を兼ね備えた稀有の人物である。
金井は、多少引け目を感じている真鍋と話す事が、最近苦痛になってきているのだった。俺に何の用だろう。講師である俺に———。
助教授室をノックすると、
「入り給え———」
真鍋の男らしい声が聞こえてきた。
「真鍋先生、お呼びでしょうか」
同期とはいえ、先に昇格したものには、敬語を使わなければならないのが、大学での決まりだ。
「そんな話し方は止めてくれ給え、金井君、君と僕とは同期で無二の親友じゃないか」
何時も横柄な真鍋にしては、物腰が柔らかく、金井は訝しげに真鍋を見た。
「まあ———ここでは何だから、今日、心斎橋の、バー・シルヴィアは分かるかい、あそこで落ち合おう」
大学で話しにくい話など、俺にしないでほしい、そう金井は思った。
- Re: 心のメスをふるって ( No.8 )
- 日時: 2010/01/05 19:05
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
心のメスをふるって 第八話
夜七時に大学を出ると、金井は、バー・シルヴィアに向かった。助教授である真鍋が俺に用とは何なのだろう———。金井は、先ほどの真鍋の猫なで声を思い出し、あまり楽しくない気分で、バー・シルヴィアのドアを開けた。真鍋はもう先に座っていて、女性達と楽しそうに談笑していた。
「真鍋先生———」
声を掛けると、真鍋よりも先に、ホステスの女性が、
「あら、真鍋先生のお相手は金井先生でしたの、この間は診て頂いてどうもありがとうございました」
一瞬金井はキョトンとしたが、この間診察をした患者だと分かると、見かけた事があると思ったと伝えると、その美しいホステスの頬が少し紅くなった気がした。
「この美人と知り合いだったのかい、なかなか金井君も放っておけないな」
真鍋が二人をからかうと、金井は耳まで紅くしてしまった。
「金井君は愛妻家でね、京子が入れる隙間はないよ、でも、金井君が京子のことを気に入ったと云うのだったら、僕は秘密にしておいてあげるよ」
少しばかり三人で談笑した後、真鍋は京子に、席を立つようそれとなく指示した。
「ところで金井君、うちの第二外科の中川教授が来年退官になる事は知っているだろうね」
真鍋が声を潜める様訊くと、
「当たり前じゃあないか」
だから何なんだ、その後、真鍋が教授になるのであろう、どうしてそんな事を訊くのか。訝しげに黙っていると、真鍋は、
「それでねえ、うちの先生は、どうも他の大学から———次期教授を連れてこようとしてるのだよ」
そう云った。まさか!真鍋を置いて、国立浪速大学の医学部教授の椅子に座れる実力を持った医師は、他にいる筈がない、金井はそう思っていただけに、驚きを隠せなかった。しかし、真鍋は、学問的業績、豪快な人柄を合わせもっているが、どこか人の癇に触る、権力を振りかざす面がある事も確かだ。この俺がそう思うように、第二外科の中川先生にも、何か触ってしまったのかもしれない。金井は、自分と同期ながら、先に助教授、果ては教授まで上り詰めようとしている男を微妙な心境で見ていた。
- Re: 心のメスをふるって ( No.9 )
- 日時: 2010/01/05 20:43
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
心のメスをふるって 第九話
昨夜、真鍋は、金井を呼び出し、どうも来年退官の第二外科の中川教授は、他の大学から次期教授を連れてくるらしい、と一言漏らしただけで、後は店のホステスと楽しそうに談笑していただけであった。たとえ中川教授が、他の大学から移入教授を連れてきても、次期教授は教授会の選挙で決まることであるから、あれ程優秀な真鍋が敗れてしまう事はないのではないか。金井は、なるべきものが教授になれば良いと思い、教授選の事は忘れて動物実験に没頭した。
正午すぎ、看護婦が、
「金井先生、診察のお時間です」
そう伝えに来、金井は、実験の続きを助手に任せ、診察室へ向かった。カルテへ目を通していると、今日、バー・シルヴィアのホステス、小川京子が、今日検査結果を聞きに来る予定になっていた。検査結果は異常なく、ただの風邪であったが、学生時代に胸を患った事があるとの通り、胸のレントゲン写真に空洞が見えた。あのホステスが、昨夜、俺に向かって顔を紅らめた様に見えたが、それは気のせいだろうか。金井はこの間の診察で見た、京子の身体を思い出した。いや、いけない、俺は医者だ、そう気を直し、午後診察一人目の患者を診始めた。
午後診察が始まり二時間を過ぎた頃、小川京子の名が呼ばれた。十日前の初診では、見られなかった、顔色の輝きがあり、検査に異常が無かった事を伝えると、京子は、凛とした清楚な声で例を言った。金井は、この女は、バーのホステスに似つかわしくない、気品があると思った。
- Re: 心のメスをふるって ( No.10 )
- 日時: 2010/01/06 21:25
- 名前: 静香 (ID: RJkIHa4L)
心のメスをふるって 第10話
築三十年、3LDKのアパートで、金井真知子は夕飯の用意をしていた。今日は一人息子、友広の誕生日で、いつも忙しい夫も早く帰ってくる筈であった。慎ましい食事であったが、テーブルの上に飾ったカーネーションと、デコレーションケーキが、息子の誕生日らしい彩を添えていた。今日12歳になった友広は、最近、自分の家の経済的状況に不満を持っているらしい。口にこそださないが、デパートを通りかかった時、丁度高級プラモデルのフェアをしていて、悲しそうな顔をしていた。国立大学医学部講師の夫、というと聞こえは良いが、実際は貧乏学者である。
ガシャン—と乱暴な音がして、ドアが開いた。
「ただいま!パパは帰ってきた?」
友広であった。まだなのよ、と言うと、まだかなあ、まだかなあ、と待ちきれない様子で足をばたばた動かした。普段、金井は朝は友広が起きるより早く家を出、また帰ってくるのも遅い。そんなものだから、友広は金井が自分の誕生日で早く帰ってくるのが嬉しくてたまらないらしい。真知子も、久しぶりに三人で食卓を囲めると思うと、気持ちが明るかった。
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