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腐った彼は、笑わない。【05うp】
日時: 2010/01/08 23:37
名前: 宵子 ◆OKoRSyKcvk (ID: QBvEkUjp)
参照: 自重しろ。

く.そっ……!消えた……だとっ……!?

+++



あれだ、グロテスクな表現含んじゃうと思います。
後、お願いだからマナーとルールと常識は大切に。

……あれ、小説関係なくね(・ω・`)?

@腐った彼は、笑わない。 
   ・目次・

story−00 【プロローグ代わり】>>1
story−01 【腐った平社員は働かない】>>2
story−02 【腐った社長は笑わない】>>3
story−03 【腐った正義は許さない】>>4
story−04 【腐ったリーダーは救われない】>>7
story−05 【腐った闇医者は間違えない】>>8

Page:1 2



Re: 腐った彼は、笑わない。 ( No.4 )
日時: 2010/01/06 15:52
名前: 宵子 ◆OKoRSyKcvk (ID: tk7FG1Mp)
参照: 自重しろ。

story−03 【腐った正義は許さない】



 人間が宙を舞うところを見るのは、その時、男は人生の中で最初で最後だろうと感じた。

 時計の針はすでに深夜を指しているだろうこの時間。
 本来ならば家に帰っている時間に、何故その時男がいたのかなんて、彼にとっては愚問だった。
 何故なら彼は、この東京の新宿を拠点とした暴力団の一員だったからだ。
 一員とは言えど、彼はその中でもリーダーと呼ばれる、力をある程度持った人間で。その為、何人か上の人達から子分のような人間を付けて貰っていたのだ。

 ———どしゃっ。

 さて、と虚空に彷徨っていた男の意識は、砂が崩れ落ちるような音によって、眼前の事態に向き直された。

 視線を自分の周囲に巡らすと、およそ10分前には笑いあっていた仲間たちが、体中に痣や傷を残している姿。その中でも、現在口をだらしなくあけたまま気絶している男は、一番気が会うダチだった。

 しかしそいつも、今となっては自分に何も答えてはくれない。

 もう一度見回す。……その数、全て数えてると18人。
 ———いや、どしゃりと音を立てて今、新たな被害者として19人目の子分が地面へと沈んだ。


 自分以外の全員がやられてしまった。
 そう思う男の心中は。恐ろしいほど冷静だった。……それは驚愕からか、それとも。


 ——ビルとビルの隙間から射す、月の明かり。
 男はその光で照らされている19人目の——かつて彼が横中と呼んでいた子分——の顔を見て、固まる。
 
 そして考えた。
 先ほどの19人目の始末が終えられた時点で——自分以外の下っ端はやられてしまった。後残るは自分のみだと。

 ————何だよ……何だよッ!?


 そこで男はようやく自分の置かれた状況を理解し、焦りだした。
 ——パニックに陥った男が一番初めにとった行動は、とにかく現状を把握しようと、男はその無精髭が少し生えた顔で、周りを見回すことだった。

 何故こんなことに?———確か、俺等が気持ちよく飲んでたとこに変な奴が来て……突然ぶん殴られた、からだと思う。
 
 
 周りに散らばって動かない子分を見ながら、自問自答を繰り返す。
 

 俺の周囲は?———いつもの俺等が溜まってる廃ビルじゃねぇか。
 じゃあ足元に倒れてるのは?———俺の部下だ。
 

 じゃあ———誰がやった?


 ———男は、この状況を作り出した本人を見ようとし、垂れていた頭をゆっくりと上げた。
 月光で明るい廃ビルの2階。きらり、と割れたガラスの破片と、彼らの血溜りが鈍く光り——

 「……ひ、ひいっ……」


 ———そいつは影を纏いつつ、そこに存在していた。
 各負傷を負った集団の中心に———その男は立っていた。男1人だけが立っていることから、この状況を作り出した本人であることは、どこからどう見ても明白である。
 
 適当に伸ばされた赤い髪に、すらりとした長身。そして右頬を彩る派手な竜の刺青。
 それだけでも目立つというのに、合わせてサラリーマンが着るようなスーツを、お洒落に着崩している。
 まぁそのスーツも、先程の戦闘によってか、少し血で汚れていたが。

 赤毛の男は、鬼のような形相のまま、ぎろりと鋭い眼光で、リーダーと思われる男を射抜いた。
 びくり、とリーダーの男は体を強張らせ———ぶるぶると震えだした。

 かたり、と男が一歩を踏み出す。
 ———やばい、殺.される、かも……!?
 
 危険を察知し、リーダーの男はみっともなく口から唾を飛ばしつつ懇願した。

 「た、頼む……金ならやるから……やるから……! ゆ、許ひてひゅ……じゃなくて許ひて、くだひゃい……!」

 少し噛んでしまったが、リーダーの男は必死になって言葉を紡いだ。
 そんな男の様子を見ていないのか、赤毛の男はずんずんと男と自分の距離を詰めてくる。
 
 ———たんっ、

 赤毛の男はリーダーの男の目の前に立った。その瞬間、男の体を恐怖が支配した。

 ———何か何か何かすんすんのんのかよよ!?

 男がびくびくとそう思い、泣きそうになりながら赤毛の男の行動を見る。

 と、赤毛の男は、じろりとその男の顔を覗き込み、一言だけ声を出した。

 
 「……ぽい捨ては、禁止だろう?」
 「……は、はぁ……?」

 曖昧に頷き、赤毛の男の手をよくよく見ると、何故か自分達が飲んでいたビールの空き缶が潰されている姿が目に入った。
 ———何だ、それだけかよ……!
 男はほっと安堵すると、こくこくと大きく首を上下に動かしながら、その空き缶を赤毛の男から受け取った。

 「ふぃー、じゃ。俺はこれで」

 え? それだけ?
 そう思わせる程、赤毛の男は来た時と性格が180度変わったように、すんなりと何もせず帰っていった。来た時は怒り狂った様子で、突然丁度隣にいた男をぶん殴ったというのに。

 くるり、と赤毛の男が背を向ける。
 その瞬時、リーダーの男の脳内に、チャンスという勝利ともとれる言葉が浮かび———男はそれを、実行に移した。

 パーカーのポケットから、使い慣れたサバイバルナイフを取り出す。シャキン、と刃を出す様子を、背中越しに感じる。

 潰されかけた両足をゆっくりと立ち上がらせ、ナイフを構える。敵は目の前でのうのうと煙草に手をつけようとしている。

 「————あ、そう言えばさ……」

 赤毛の男が、ふらりと足をとめる。
 そしてリーダーの男を振り返った時。

 リーダーの男はすでに赤毛の男にナイフで飛び掛っていた。
 煙草をぽろりと取りこぼした赤毛の男の姿。
 大きく目を見開き、こちらの右手に構えたナイフをぽかんと見ている。


 その姿は、リーダーの男にとって——先程仲間をいとも簡単に捻じ伏せた者としては、随分間抜けな表情に見えた。
 
 「————し、ねぇ——— 」


 ……次の瞬間、地震のような轟音が、男の耳をつんざいた———。

Re: 腐った彼は、笑わない。 ( No.5 )
日時: 2010/01/06 15:52
名前: 宵子 ◆OKoRSyKcvk (ID: tk7FG1Mp)
参照: 自重しろ。

story−04 【腐ったリーダーは救われない】


 「つまりアレか」

 赤毛の男が、止まった時間の中で言葉を紡ぐ。
 目の前には、ナイフを構えた敵がいるというのに。

 「今俺にナイフを構えているのは———チャンスが出来たから、という実に悪質極まりない考えからか?」

 止まった時の世界のはずなのに、赤毛の男の舌は流暢に言葉を生み出す。
 それが何故かなんて、ナイフを構えている今となってはどうでもいい。———男はすでに、内心で勝利の笑みを浮かべていた。

 「もしかして、ナイフだから勝てると思っているか?」

 ああそうさ、その通り。
 男はその言葉に、そんな思いをこめた視線で、赤毛の男を見つめた。

 「あのな」

 もう一度、赤毛の男に語りかけられる。
 赤毛の男はまだ体の半分しか振り返っていない。
 男がこうしてナイフを振りかざそうとしている。なのに、彼からは恐怖が感じ取れなかった。表情が髪に隠れて見えないせいだろうか?

 「俺は悪が許せない。だから———」

 た、ん、っ———

 全てがスローになっているこの世界で、赤毛の男は完全に振り返ると。男は、男は———実に凶悪な笑みを浮かべて————

 
 「———ナイフなんて、低俗なもん……使ってんじゃねえよおおおおおおっ!!」

 
 赤毛の男が、怒った。そして腹の奥底から咆哮をあげる姿を、彼は見た。
 次の瞬間、止まっていた時間が動き出す。
 そして男はいつの間にか、自分を襲っている違和感に気づく。

 
 「……あ、れ……?」


 みちみちみち……っ……
 
 男はその瞬間、自分の耳に届く音が理解できずにいた。
 ナイフは手にしっかりと握られている。しかしそれよりも早く、何かをされた。

 体は宙に浮いたままだ。
 男は恐る恐る視線を自分の腹———異様な音がする腹部を——ちらりと見、そして———


  

 ほりゅ

Re: 腐った彼は、笑わない。 ( No.6 )
日時: 2010/01/07 19:25
名前: 宵子 ◆OKoRSyKcvk (ID: WkUUvDWJ)
参照: 自重しろ。

ちょっと安芸。

Re: 腐った彼は、笑わない。 ( No.7 )
日時: 2010/01/07 22:40
名前: 宵子 ◆OKoRSyKcvk (ID: yGNKhXgn)
参照: 自重しろ。

story−04 【腐ったリーダーは救われない】


 「つまりアレか」

 赤毛の男が、止まった時間の中で言葉を紡ぐ。
 目の前には、ナイフを構えた敵がいるというのに。

 「今俺にナイフを構えているのは———チャンスが出来たから、という実に悪質極まりない考えからか?」

 止まった時の世界のはずなのに、赤毛の男の舌は流暢に言葉を生み出す。
 それが何故かなんて、ナイフを構えている今となってはどうでもいい。———男はすでに、内心で勝利の笑みを浮かべていた。

 「もしかして、ナイフだから勝てると思っているか?」

 ああそうさ、その通り。
 男はその言葉に、そんな思いをこめた視線で、赤毛の男を見つめた。

 「あのな」

 もう一度、赤毛の男に語りかけられる。
 赤毛の男はまだ体の半分しか振り返っていない。
 男がこうしてナイフを振りかざそうとしている。なのに、彼からは恐怖が感じ取れなかった。表情が髪に隠れて見えないせいだろうか?

 「俺は悪が許せない。だから———」

 た、ん、っ———

 全てがスローになっているこの世界で、赤毛の男は完全に振り返ると。男は、男は———実に凶悪な笑みを浮かべて————

 
 「———ナイフなんて、低俗なもん……使ってんじゃねえよおおおおおおっ!!」

 
 赤毛の男が、怒った。そして腹の奥底から咆哮をあげる姿を、彼は見た。
 赤毛の男の表情から、冷静さが少しずつ欠けてゆくそして———
 ——次の瞬間、止まっていた時間が動き出した。
 そして男はいつの間にか、自分を襲っている違和感に気づく。

 
 「……あ、れ……?」


 みちみちみち……っ……
 
 男はそれを聞いた時、自分の耳に届く音が理解できずにいた。
 ナイフは手にしっかりと握られている。しかしそれよりも早く、赤毛の男に何かをされたということは、本能で察知した。

 体は1秒前と変わらず、宙に浮いたままだ。
 男は恐る恐る視線を自分の腹———異様な音がする腹部を——ちらりと見、そして———

「う、あ、あ、う………」

 
 ———また、理解し、恐怖した。
 
 みちみちと鳴り続ける妙な音———それは、赤毛の男が繰り出した蹴りによって、自身の腹が悲鳴をあげている声だった。

 「はっ……あ……なん……っで……!?」

 男は、腹を圧迫されて声が出ないのか、苦悶の表情を浮かべては、また大きく目が見開かれる。
 そんな男を見て、赤毛の男は落胆したように肩を落とし、ぼそりと呟くように言った。

 「……あーあー、最悪だ。こんな“悪”にムキになるようじゃーあ……駄目駄目だ、うん。駄目駄目×5ぐらいが妥当の判断か? いやまぁこれでも俺は我慢した方だろ……」

 男の様子を伺いもせずに、赤毛の男はぶつぶつと後悔の言葉を口にする。そんな赤毛の男の前でも、彼は恐怖で、脂汗で顔を塗れさせていた。

 「……悪は、駄目だ……そう、教えられたさ……だからさぁ……だからさぁ……だ、か、ら、さ、あ!」

 言葉は、紡がれるごとに声色を変えていった。それは、冷たい氷のような色から、炎のような灼熱の色へ———

 「だから、さあー————」

 ……そして、ようやく赤毛の男は、顔を上げた。
 その表情に宿っているのは————純粋な、純粋過ぎて見ているものが凍りつくほどの、笑み。
 
 赤毛の男は、彼にとって最後になるであろう言葉を、発した。


 「悪は、滅びとけ?」


 *



 「志賀人(しがと)さーんっ! お待たせしましたーっ!」

 ———廃ビル、午前1時。
 やけにテンションが高く明るい声が、窓に反響して、階全体を振るわせる。
 その甲高い声に志賀人と呼ばれた————悪張 志賀人(あくばり しがと)は、苦々しい表情を浮かべ、その声の主を見た。

 「うるせぇぞ、言葉(ことは)。甲高い声できゃーきゃー騒ぐな」
 「はーあっいっ! 私、志賀人さんの言うことなら何でも聞きますよっ! ……んでんで、この散らばってるヤンキーさん達、どーしちゃったんですかっ?」

 言葉(ことは)と呼ばれた少女は、その小柄な体躯に合わないぶかぶかの緑ジャージの上着を揺らせつつ、そう質問した。
 そんな少女に悪張志賀人は、先程戦闘を終えた男の顔から腰を上げつつ、

 「いや、俺が外に居たらこん中からビールの空き缶ぽい捨てしやがって———あんまりうるせぇから潰した。悪はいけねぇよな、悪は」
 
 と、ゆらゆらと廃ビルの出口に向かった。
 その後を、言葉が早足で追う。その際に、頭に常に被っているネコ耳帽子がずれ落ちそうになったが。
 悪張は、廃ビルから出る途中、最後に一度だけ気絶しているヤンキー達を一瞥し、言った。


 「悪は、この世に一番いらねぇんだよ。まぁ、俺が潰すけどな、徹底的に」

 悪張は踵を返し、夜の繁華街へと進み始めた。
 そしてその後を、ちょこまかと言葉がついて歩く。


 これが———裏の世界でいう、“正義屋”と呼ばれる者たちの——商売だった。


 

Re: 腐った彼は、笑わない。 ( No.8 )
日時: 2010/01/08 23:35
名前: 宵子 ◆OKoRSyKcvk (ID: QBvEkUjp)
参照: 自重しろ。

story−05 【腐った闇医者は間違えない】


   *


 ————同時刻、とある高級ホテルの最上階にて。
 夜景が綺麗だと有名なその階の一室では、男性2人が話し合っていた。
 いや、正確には、片方の男性1人だけが相手を罵っていると表現したほうが、合っているだろう。
 怒りの血相を抱えた男——口元に髭を生やし、きっちりとスーツを着込んだ方は、この地域では有名な国会議員だった。
 どうして彼がこんな時間に此処に居るのだろうか?
 議員の男は、唾を飛ばしつつ、ソファーを蹴り倒して、男に掴みかかるかと思うほど興奮していた。
 
 「ふざけるな! どうしてお前なんかにこんな額を渡さなければいけない……! 私は次の選挙に向けて忙しいんだ!」

 怒号を発する男の様子とは打って変わって、もう1人の男は、ソファーにゆったりと腰掛けて飄々とした態度をとり続けている。
 議員の男のスーツ姿とは対照的に———男の服装は、真っ白い白衣にベージュのジーンズ。ここが病院ならまだしも、高級ホテルとなれば些か可笑しい気がする。

 「どうして? なぜ? そんなことは貴方が一番分かっているんじゃあないんですかね。…………西間 義孝さん」

 白衣の男はそう疑うような口調で言うと、すくりとソファーから立ち上った。そして、夜景が評判だと噂されている、ガラスで作られた壁へと歩み始める。
 自分のフルネームを呼ばれ、議員の男は体を硬直させた。
 しかし、白衣の男がガラスの前に立つ頃には、国家議員の男は憎悪を込めた目で彼を睨み付けていた。

 「そもそも、貴方から取引を持ちかけてきたんでしょう? ————今回の選挙の票を、偽造して欲しい。そして、有力な斉藤議員が、選挙に出られないようにしてほしい。…………と」
 「だっ……だからといって、この額はあまりにも仕事に合わないじゃないか!」
 「……で、貴方は報酬を払わないと?」
 「そうだ! 当たり前だ! こんなの、常識がないにも程が———」

 ———と、議員の男の怒声を遮り、白衣の男は音もなく両腕を高く頭上に掲げた。
 いや、両腕を掲げたのではない。よく見ると、両手に持っているのは———2本の試験管。中では液体が揺れている。

 「これ、なーんだ?」

 まるで玩具を見せびらかす子供のような、満悦した笑みを浮かべる白衣の男。
 そんな男と対照的に、突然出現した不明の試験管に、議員の男は眉を八の字にしてゆく。

 「そ、それは……何だ!? ま、まさか……触れただけで感染する超極悪ウイルス……?」
 「テレビの見過ぎだって、アンタ」
 
 恐怖で顔が歪んでいく議員の男に、失笑する白衣の男。笑いつつも、試験管を何度か男の眼前にちらつかせる。
 その度に、いつもはテレビの中で偉そうな議員の男が、いちいち反応するのが、白衣の男にとっては非常に面白かった。
 やがて、その反応にも飽きたのか白衣の男は、どこからか2つのティーカップを取り出し、言った。

 「さて、ここでひとつ賭けをしようか」
 「か、賭け……?」
 「そう、賭け」
白衣の男は2つのティーカップに、これまたどこから出したのかポットに入っていた湯を注ぎ始めた。
 え?何してるんだ?と目を白黒させる議員の男。
 そんな男を放っておいたまま、実に明るい笑顔をしながら、白衣の男はスプーンでくるくると容器の中身をかき混ぜる。

 そこでようやく準備が整ったようで———白衣の男はテーブル上に、赤色と青色のカップを置き、言った。

 「さて、どっちか無害な方を飲み終えたらアンタの勝ち。無論、報酬はいらない。何も俺は話さない。だけど有害な方を飲んだら俺の勝ち。金は貰って———アンタは……」

 ばきばきばき…………
 白衣の男が言葉を言い終える瞬間、微かに液体の残りが滴る試験管を、右手で———砕いて見せた。

 「…………毒で、ばーん。ってのは?」

 ばーん。
 それと同時に、左手では拳が破裂するような仕草をしてみせる。
 その仕草に恐れをなしたのか、議員の男は首振り人形のように首を何度も何度も振った。

 
 —————ど、どちらを選べば良いんだ……!?
 議員の男は、必死に自身の安全が保障される道を模索する———だが、結局は賭けの2文字が頭を過ぎる。

 ————だけど、これは私の危機と同時にチャンスじゃないか! ……これで私が無害な方を飲めば……金は払わず、しかもこの件を話さずに……!

 
 ———三十秒程、議員の男は頭を抱えて考えていたが、やがて顔を上げた。
 額にはびっしょりと冷や汗をかき、握り締めた手は手汗で濡れていたが。
 議員の男は、答えた。

 「……青、だ……青のカップだ……!」

 そう搾り出すように声を出すと、男は青いカップを手にした。
 そして少し躊躇するような風を見せたが、目をつぶると、勢い良くその中身を飲み干した。

 にやり、と笑みの影が濃くなった白衣の男の表情に目がいく。が、これが自分の選んだ結果。後は待つしか———!

 「あ、あれ?」

 数秒経ち、議員の男は、自分の体に何も異変がないことに気付く。
 そして男は—————歓喜した。


 「や……った!私は……私は勝「え、何で?」


 男の喜ぶ声。それをまたもや遮るのは———白衣の男の、間の抜けた声だった。
 白衣の男に対し、議員の男は荒く罵る。

 「お前は馬.鹿かあっ!? ほら、見てみろ———私はこうやって生きて……」
 「だからさ」

 この男は、何度自分の言葉を遮れば気が済むのか。
 怒った男の顔色なんて気にせずに、目の前の白衣を着た男は———微笑み、言った。

 
 「だから、アンタは俺に頼るんだっつーの」


 次の瞬間———議員の男は、もがくように四肢をバタつかせ——苦しみ始めた。
 しかしそれさえも——白衣の男には関係なかった。

 議員の男が苦しみ始めた頃には、白衣の男はもう部屋の外へと歩んでいた。…………片手に、グレーのスーツケースを持って。

 「…………卑怯ですね」

 反論しようとした男を後にした男は、その静かな冷たい氷のような声に———後にしたはずの部屋を振り返った。
 閉じた部屋のドアには———桃色のナース服を身に纏った、肩までの黒髪をなびかせた、若い女性が寄り掛かっている。
 その男に対する視線は———嫌悪。凍てつくような眼差し。

 しかしそんな表情に慣れてしまったのか、男は曖昧な笑いを返し、また帰路につく。その後を女性は追いながら———手元のカルテに何かを書き込む。

 「本当に、卑怯ですね…………両方に、猛毒を仕込んでおくなんて……悪逆非道にもほどがあります……」
 「そうかい? だってそうでもしないと、あの議員。金払わなかっただろうし」

 変わらず、能天気な顔をしている白衣の男に、ナース服の女性はため息を漏らし———ぽつりと呟く。

 「…………さすが、と言うべきか分かりませんが……やはり貴方は変わらず、軋芽 帯人(きしめ たいと)なんですね…………」
 「ふふん、それは俺に対する最高級の褒め言葉だよ? ———十六夜(いざよい)ちゃん」

 白衣の男———本名、軋芽帯人。
 ナース服の女———姓名、十六夜。

 2人は、また新たな依頼者を見つけるべく————“闇医者”の仕事を探す為、夜の都会へと踏み出した。


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