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或る手記と少女と
日時: 2010/01/31 19:29
名前: 奄々 (ID: 7nl1k8P4)



07 . 01







Ich liebe Sie.
……Danke so weit.









それは
闇であり



虚無であり




空虚。





貴女は












ただの闇なのに

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一 ( No.6 )
日時: 2010/02/01 18:18
名前: 奄々 (ID: oCFL5OUI)

一 01 . 04










少女は走っていた。

暗闇は、彼女を取り巻き今にも包み込んで少女を消し去ってしまいそうだった。
平穏で平凡でありきたりな街は、危険で非凡な街と化していた。
戦火は住民の全ての家屋を燃やしつくし、今も尚、美しいほど野蛮なその手を天へと、街へと、伸ばし続けている。

黒く濛々と立ち上る煙は、少女の目を涙に濡らし、肺を苦しめた。
まだ熱い、黒こげた地面を裸足で駆け抜ける少女の足は、煤で黒い。
足ばかりではない。顔をはじめ、手も、首も、服で差え、体中煤で微かに黒い。

擦り切れ、煤だらけの服は、白い見事なドレスを思い浮かばせる。
彼女のボサボサで真っ黒な髪も、金色の美しい長い巻き毛を思い浮かばせた。
戦火は、街を包みこみ、人を焼き、立派な建造物を焼き、少女を醜くい姿に変えたのだ。


ふと、少女は足を止めた。目の前に、少年の姿を見たからだ。
少年の唇が動く。少女の目が緊迫から微かな安心へと揺らめいた。




「ナターシャ……」




少年の口から漏れた、少女の名前。少女、否、ナターシャは顔を安心に歪ませ、泣いた。



「キース、聞いて。皆私のせいなの」




少年、キースは何も言わず俯いた。

一 ( No.7 )
日時: 2010/02/05 23:04
名前: 奄々 (ID: KTH/C8PK)







「泣くなよ」
「無理」
「泣かれると困る」
「なんで?」
「分かんないけど」
「慰めてよ」
「嫌だよ」
「意地悪」
「……少なくとも、これはナティのせいじゃない」
「嘘。私のせいだよ」
「お前は聞いただけだ。しょうがない」
「盗み聞きした私が悪いのは間違いないよ」
「たまたま聞いてしまっただけじゃないか」
「キース、分かってない」
「当たり前だ。俺は武器商だし」
「分かろうとしてよ」
「お前、押し付けがましいよ」
「仕方ないでしょ」
「泣いてたんじゃ無いのかよ」
「……」




ナターシャは、この国の第一皇女だった。海に囲まれた孤島は二つに分かれ、その片方がナターシャの国である。
樹に囲まれ、エメラルド色の海に囲まれ、まるで其処は御伽の国。誰にも邪魔されない、誰にも平穏を乱されない、楽園だ。


そう、嘗ては。今はもう、ただの荒れた無人島の様。
人々は獣のように汚れ、美しい赤塗りで統一された建造物も、焼け尽くした廃墟と化したのだ。


全ての始まりは、二つの小さな国の喧嘩から始まった。それは決して、争いではなく、喧嘩だったのだ。
無邪気な子供の様に、それでいて邪悪な鬼の様に。
じわじわと、喧嘩は広まった。全ての始まりの喧嘩、そのまた始まりは、ナターシャの盗み聞きだった。
少なくとも彼女は、そう信じて止まない。



国王の歪な思考回路。不自然に歪んだ人々の思い。始まりは、ナターシャ。
その日、二国の国王はナターシャの国の城で、密会を開いた。
重大な秘密を彼らは打ち明けあい、苦悩した。その内容は誰も知らない。ナターシャを除いては。
彼女は、こっそりとその秘密を知ってしまったのだ。其れを知った父王は嘆き、隣の国の王は怒り狂った。これが、事の始まり。

其の秘密は知られてはならなかったのだ。皇女でさえ。誰にも、言ってはいけなかったのだ。神にさえ。
こうして運命的な戦いは始まった。全ては喧嘩から。全ては、秘密の為だった。

彼女は嘆き、苦しみ、悩み、泣いた。
誇り高き皇女も、所詮ただの少女。






「悪いのは敵国だろ」
「うん。でも私も悪い。きっかけを作ったもん」
「お前今年でいくつだっけ」
「16。キースの1こ下」
「だったらもう、ぐずぐずするのやめろよ」
「幾つになったってぐずぐずしちゃうよ」
「おきてしまった事はショウガナイって言うだろ」
「でも……」
「自分が悪いと思うなら、さっさと兵を挙げて敵国潰せよ」
「私は兄の様な権力も兵力も無いのは、キースも知ってるでしょ」
「じゃあ、クラウスを探そう」
「私、兄は嫌い」
「クラウス、いい奴じゃないか」
「キースは知らないんだ」
「王室の事なんて、興味ない」
「そう」
「俺には、ナティもクラウスもいい奴に見えるけど」
「私も含まれてるんだ」
「まあね」



二人は、火の消えた廃墟を歩きながら、ナターシャの兄、クラウスを探した。

一 ( No.9 )
日時: 2010/02/05 22:46
名前: 奄々 (ID: KTH/C8PK)










「酷い……。皆死んでる」






ほんの数日前だ。ナターシャが秘密を知ったのは。
怒り狂い、獣と化した隣国は一瞬のうちに国を滅ぼしてしまった。



美しかった城。美しかった街。
その全てが愛おしく、遠く感じ、民達の暖かさに懐かしささえ覚える事が無かった。
ただ、二人は呆然と立ち尽くし、死体の山を見た。
否、それは人の屍ではない。ただの肉塊だった。ただの焼きすぎた肉だった……。






「違う。此処は俺の国じゃ無いんだ……」
「キース……」
「何?」
「兄は生きてるのかな」
「……生きてるよ」






キースの掠れた声が、虚しく廃墟に響いた。風がひゅう、と彼らの側を吹きぬける。
生きている確信なんて、根拠なんて何一つ無い。ただあるのは、祈りと願いだけだった。




肉の焼ける臭い。焼け付くような地面。其れは裸足を貫き、まるで死ね、とでも言っているかの様。
何とも言えない悲しみは、哀しみに変わり、ただただ空虚な闇が口をぽっかり開けている錯覚を起こす。
誰が悪い? 誰を恨めばいい? 私が悪いの? 空を切る心の闇と疑問はナターシャを苦しめた。





耳鳴りが止まない。きいん、と不快な音が脳に伝わる。頭が痛い。鼻が千切れてしまいそう。心臓は、何時もと同じなのに。







「どうして……」
「ナティが知った『秘密』を俺は知らないほうがいいのか?」
「今は話せそうに無いよ。明日……、きっと明日話す」





キースが舌打ちを打つ。













「俺に明日なんて無い」


Re: 或る手記と少女と ( No.10 )
日時: 2010/02/01 20:43
名前: 十和 (ID: zCJayB0i)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode

ナターシャが皇女?キースが武器商?
キースの最後の言葉が意味深です!!
ドキドキの展開にハラハラさせられっぱなしですww
奄々頑張れ!!

すぺしゃるかんしゃ ( No.11 )
日時: 2010/02/05 22:53
名前: 奄々 (ID: KTH/C8PK)

十和様。


なてぃちゃんは実は皇女では無く皇子だっt(狙撃


因みにキースの言葉が意味深なのは、俺の文章力が足りないからさっ

励ましの御言葉有難うー
お互いがんばろう!


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