ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ぢんせいのプリズム。
日時: 2010/03/15 16:40
名前: アキラ (ID: BLbMqcR3)

          
            .
コウノ  トオヤ
河野 十夜──年齢は知らない。 たぶん二十代。 変な店で働いてる。 不思議な人。

キサラギ アカネ
如月 朱音──17歳 私 なにもない人。 一人暮らし。 どうでもいい。

Page:1 2 3



Re: きらいだけど。 ( No.1 )
日時: 2010/03/14 12:00
名前: アキラ (ID: BLbMqcR3)

                     .



         第1章
        黄昏キラキラ



いつだって。
そう、いつだって私は何もなかった。

親は小学生のとき死んじゃったし、親戚なんて知らないし、兄弟もいないし。

別に、さみしくないけど。


「今日も来たんですか」

目の前に置かれる珈琲の湯気を目で追いながら、声の主の方を向かずに私は無言でうなづく。

「今、学校の時間じゃないんですか?」
「行ったって、意味ないし」
「留年、最悪退学になりますよ」

どうでもいいじゃないかー、そんなこと。
我ながら、世間舐めてるって自覚してるけど。

「朱音」

優しい声色で名前を呼ばれる。
声の主は、この変な喫茶店の店主。 てか、ここ他に店員いねーんだけど。

珍しい色素が抜けたみたいな髪の毛に、整いすぎてる顔が気に入った。 好きじゃないけど。

「カンケーないでしょ」
「はい。 でも放っとけないので」

お前は私の親か。 
珈琲を一口飲む。  にが。

「よく店潰れないね。 お客さん来ないのに」
「これ、本職じゃないんですよ」
「あー、そーなん? なんの仕事してんの?」

ながーい沈黙。
子供には分からない世界とか言ったら殴る。

「朱音にはまだ分からない世界ですよ」

殴った。
キレイな頬を力いっぱい。 

「………ったいですね」
「なんかムカッときたので」

苦すぎる大人の珈琲を飲む。
静かで、流れるジャズの音量もうるさくなくて。
心が落ち着く。



今日もここは、誰もいない。

Re: きらいだけど。 ( No.2 )
日時: 2010/03/14 12:52
名前: アキラ (ID: BLbMqcR3)

                  .




ダークファンタジーを思わせるような外装で、街のすみっこにちょこんとある喫茶店。
店内は狭くて、だけどどこか懐かしい匂いがする。

その店長であり、唯一の店員である河野 十夜は、今日もエプロン姿で珈琲を作る。

「ぬぅ……いつも思うけど、やっぱ苦い」
「いつも思うんですけど、学校行きましょうよ」

出された珈琲を飲んだ感想と、人生ダラダラ生きてる私の感想。
どちらも正解。 花丸です。

「いーの。 俗に言う登校拒否ってやつ」
「自信満々に言われても困ります」

確かに。  

「で、本題に入るけど」  「はい」  「なんの仕事してんの?」  「……秘密です」

ヤバイ仕事なのか? 秘密です、だろうなぁ。
第一この人、普通の人間じゃないっていうか。

他の世界から来た、っていうか……。
我ながら、メルヘンだと思う。

「あ、そろそろドラマ始まる」
「お会計ですか?」

うなづいて、財布から200円出して直接コイツに手渡す。

「また来るから」
「お待ちしています」

柔らかく微笑んで、いつも通りドアを開けてくれる。紳士的っていうんだろうね、こういう奴。

Re: きらいだけど。 ( No.3 )
日時: 2010/03/15 16:18
名前: アキラ (ID: BLbMqcR3)

                      .




学校っていうのは、仲間との触れあいだの教育だの上下関係の設立だのくだらない事を覚えさしすぎだと思う。

子供のちっぽけな脳みそが、大人によってぎゅうぎゅうに押し込まれて、パンクしてしまうかも知れないのに。

学校の大人は、イジメはしてはいけませんとか、人の傷つく事をしちゃダメですとか言ってるけど、それって子供の特権だと思う。

だから、クラスに一人か二人。 孤立している生徒がいるのは当たり前。

「なんか言えば?」  二つ隣りで声がして、目だけを動かす。
「黙ってちゃ分からんでしょーが」

クラスでかなりド派手な化粧のグループが、一人の同じような女子を囲んでる。

「杏奈の彼氏盗ったんだろ? 性悪女」
「一人じゃなんも出来んクセに偉そうに言うなよ」

なんで女子って好きな人がどーのこーのって話に敏感になるんだろう。
別に男子ぐらいそこらへんにいるのに。

「だって、向こうが杏奈とはもう別れたって言ってたからっ」
「はぁ?」  「杏奈別れてないっつってたし」

ちゃんと本人たちで話し合わせればいいのに。
こういうふうに、人間は適当に味方を見つけて適当に逃げ道を探していく。

自分だけは安全圏。 

「杏奈に謝れって! んで男とも別れろ」
「はぁ? 意味分からんしっ」
「お前の根性の方が意味分からないから〜」

もうすぐでホームルーム始まるのに、いつまで修羅場は続くんでしょうか。
こういう時、教師はあえて見て見ぬふりするモンだよなぁ。

大人っていい加減だ。 私もああいう大人になるんだと思うと人生やっぱどうでもいいって思う。

ほら、先生来たじゃん。 さっさと席つい何かが倒れる音がした。

同時に、悲鳴。

「お前らいい加減にしろっっ!! 」

さすがに振り返る。
なんか、女子の団子みたいなのか出来ていた。

ただし、染み出たお汁は真っ赤だったけど。

「ひっ………」  赤く、赤く、血が噴き出る。
いじめられっ子が包丁でケバ女を刺していた。

「かはっ」  「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
クラス中に悲鳴が響き渡って、阿鼻叫喚の渦。

包丁を抜かれた華奢な体が、倒れる、倒れる。

たぶん、人生を17年間生きて人の死体を直接見るって機会、なかなか無いと思う。
いい社会見学じゃん。

Re: ぢんせいのプリズム。 ( No.4 )
日時: 2010/03/15 16:35
名前: アキラ (ID: BLbMqcR3)



                     .

殺されたのは、同じクラスの坂東ミナ。
殺したのは、同じクラスの伊佐坂 リコ。

二人とも、共通の杏奈っていう友達がいたんだけど、その彼氏を盗っただのなんだので揉めたらしい。

いや、杏奈が殺されるのは分かるけどさぁ。


「で、早退になったんですか?」
「事情聴取で、その時の状況聞かれたけど無視した」

この喫茶店は24時間営業なのかね。
いつも来たら開いてるけど。

「ここってさ、いつも開いてるの?」
「いいえ」
「じゃあ、なんで私が来たらいつも開いてるの?」
「………分かりますから」
「嘘つけ」

コイツは本当にどこまでが本当なのか分からない。
だから、面白い。

「で、その原因になった杏奈さんは?」
「さあ。 ぶっちゃけ人間の名前なんて覚えてない」
「わたしのは?」
「とーや」

あ、笑った。 随分嬉しそうに笑うんだねぇ。
まあ元から微笑んでるような顔だったから。

「てか、なんかここ来たら落ち着くんだよねー」
「そうですか。 それは良かったです」

洗い物してるけど、客いないのに洗う物なんて出るのかね。
色々突っ込みたりないけど。

「………私とアンタって、どっかで会った事ない?」
「ないでしょうねぇ」
「そう」

でも、懐かしいんだよなぁ。
この人といい、店の匂いとか雰囲気とか。

「もう一つ言っておきますけど」
「ん?」

目が合う。
時間が止まるような錯覚。
こういうの、心臓まで止まってたんじゃないかって後々思う。


「人の死に、慣れないでくださいね」

「……………笑えないジョーク?」

「どうとってもらっても、大丈夫です」


Page:1 2 3



この掲示板は過去ログ化されています。