ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

多分、誰も分からない。 完結しました。
日時: 2010/04/05 17:54
名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)

友情や恋愛など、人間が持つべき感情を『最初から知らない』のと『途中から忘れた』の、どちらが辛いのか。


自分の中での『普通』を否定された時、どれほど辛いのか。


世間一般の『普通』を押し付けられた時、どれだけ傷付くのか。


自分の中での『普通』を表に出さず、世間一般に通用する『普通』の仮面を被って過ごしている自分にとって、『普通』の人間がどれだけ羨ましく、また憎らしく思うか。


『好きだから傷付けたい。嫌いだから愛したい』という、自分を最もよく表現できている言葉の意味。


これら全てのことを、『普通』の人間に聞いたとすれば——


多分、誰も分からない。



+多分、誰も分からない。+



声がする。その声は、二種類に分けられる。

一つ目は、誰かが泣き、何かを叫ぶ声。

二つ目は、大勢の人間が、その誰かに浴びせる罵声。

もう、こんなのは日常茶飯事だ。

この二つの声に当てはまらない人間が、自分を含めて二人いることも、いつものことだ。

ああ、泣き叫ぶ『誰か』が自分に助けを求めるのも、いつものことだったっけ。

正直言って、面倒臭い。だけど、『助けない』という選択肢は、最初からない。

だって、自分は彼女の『親友』だと思われているから。

「やめなさい。何があったの? 泣いてるじゃない」

ああ、本当に面倒臭い。親友なんて、向こうが勝手に思っているだけなのに。

「ああ、長谷川マシロか。お前もよく飽きずに止めにくるな、面倒臭くねぇ?」

うん、すごく面倒臭いよ。でも、そこのやつが『親友なら止めに来るのが当たり前』っていう顔してこっち見てくるんだよ。

「こいつ、また俺の教科書盗んだんだぜ? こいつ正真正銘の泥棒だよ、万引きも繰り返してるしよー」

「じゃあ、ワタシが叱ってもいい?」

「今日中に徹底的に痛めつけるなら、何してもいいぞ。泥棒と親友ごっこなんて、お前も大変だな」

『痛めつける』、『何してもいい』。この二つの単語に、自分が反応するのが分かった。


だったら、羨ましくて憎らしいこいつを、徹底的に痛めつけてやろう。


続く

この作品は、いじめ・残酷・キャラ狂いの表現を含んでいます。苦手な方は読まないで下さい。

Page:1 2



Re: 多分、誰も分からない。 本編は完結しましたが、まだ続きます。 ( No.6 )
日時: 2010/04/02 12:04
名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)

上履きの中に入っていた手紙。


そこには、


『こんな思いを自分がしてるって事、普通の人間なら、多分、誰も分からない』


と書いてあった。


でもね『長谷川』。私も『普通の人間』のはずなんだけど——


その気持ち、多分、私は理解できるよ。



+多分、私は理解できるよ。+



私は、暇があれば本を読んでいるような人だった。

その証拠に、休み時間はいつも読書しかしなかった。

しかも、私は人が苦手で、特別仲が良いと言える人がいなかった。

だから、今でも不思議なのだ。

何故、長谷川があの日、私に話しかけたのか。


「ねぇ、何読んでるの?」

それは突然のことだった。長谷川がいつの間にか私の前に立ち、私の顔を覗き込んでそのようなことを聞いてきたのだ。

「ラノベだよ」

なるべく読書にも長谷川の機嫌にも支障を来さない程度に答える。それで会話が終わるはずだったのに、更に長谷川は続けてきた。

「ああ、それならワタシもたまに読むよ。絵が可愛いよね」

どう返事をしていいか分からずに黙っていると、長谷川は静かに私から離れた。

そう、それでいいのだ。人と関わりたくないから素っ気なく接し、その結果人が離れていく。今までそうして人が私と関わらなくなったし、長谷川もそうだと思っていた。

だが、そんな私の予想は完璧に外れていた。


将来の夢を書いた紙が返却された日、また長谷川が話しかけてきた。

「キミは将来の夢、何て書いた?」

「小説家」

なるべく単語で答えて素っ気なく返事をしたが、長谷川はその返事に食い付いてしまった。

「え? 小説書くの? すごいね」

どんどん長谷川が詰め寄ってくる。近い近い、顔が近いってば。

「ま、まぁ、今も書いてるけどね」

混乱してきた私は、目の前の相手が更に食い付くようなことを口走ってしまった。

「え、投稿してるの?」

「違う、ネットの小説サイトに自分のを投稿して、更新してるだけ」

「いや、それでもすごいよ。それで、そのサイトの名前は?」

やばい。読むつもりだ。

そう察した私はいよいよ本格的に混乱してしまって、図書室に備え付けてあるパソコンのところまで長谷川を連れて行ってしまった。

「サイトへはこう行くの。で、私のハンドルネームはこれ」

「わ、ありがとう。家で読んでみるね」

何教えてんだ自分。教えた直後に激しく後悔した。

その後、ある疑問が強く心の中に浮かび上がった。


何故、長谷川は私と関わろうとする?


テストは常に学年トップ、運動神経も抜群だから通知表は常にオール五。容姿も完璧で、明るくて、生徒はもちろんのこと教師からも好かれている。

彼女の悪い噂や陰口は一切聞いたことがなく、どんな性格の人でも彼女とは仲が良い。

そんな彼女が何故、私と関わろうとするのだろう。


そんなことを考え続けてきたある日、増田のマスコットが無惨に切り刻まれていた。

増田の一番の親友と言っても過言ではない長谷川は、当然のように増田を慰めていた。

そして、たまたま昇降口で長谷川と一緒になったらしい辻も、戸惑いながらも増田を慰めていた。

クラスメイトも、口々に増田を慰めたり、励ましたりしている。

ああ、どうしよう。私も励まそうと思ったが、何の感情も湧いてこない。

仕方なく、何も言葉をかけずに自分の席に座り、静かに読書を始めることにした。

「おい、あいつ何も言わなかったぞ」

「あいつが犯人じゃね?」

想像していた通り、私が疑われる。当然、濡れ衣なのだから、放っておけばいい。

そういう意味を込めて、ちらりとそっちの方を見やる。


—— 一瞬、息が止まるかと思った。


長谷川が、今までに見たこともないくらいの歪んだ笑顔を見せた。それは、まるでこの状況を楽しむような笑みだった。


この瞬間から、私を取り巻く環境が変わり始めた。


続く

Re: 多分、誰も分からない。 本編は完結しましたが、まだ続きます。 ( No.7 )
日時: 2010/04/02 14:33
名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)

その後も増田への嫌がらせは続いた。その度に私が犯人だと周りから思われ続けた。そして、ますます私から人が離れていった。

それでも、長谷川は私に話しかけてきた。最初はあの歪んだ笑顔もあって、二度と関わりたくないと思っていたが、時が経てばそんな思いですら薄れていき、普通に会話するようになった。

そう、『普通に会話』するようになった。今までの私では考えられないことだった。

——長谷川となら、『友達』になれるかも……。

そう思い始めたのもこの頃だった。


しばらく経ったある日。

「……転校します」

辻が転校することになった。といっても、電車に十分くらい乗っていれば着く程度の距離。そう遠くない。

辻は長谷川と固い握手を交わしていた。あれが友情というものなのか、としみじみ思った。


更に数日後、増田が不登校になった。原因はもちろん、あの嫌がらせだ。

そのせいもあってか、クラスメイトの何人かの視線が私に刺さったが、本を読んでやり過ごした。

読書を続けながら、長谷川の方を盗み見た。


「毎日続けて嫌がらせなんて、犯人も相当精神的に病んでいそうですね」


その言葉を先生が口にした瞬間、長谷川の表情に亀裂が走った。

——……まさか、ね……。

一瞬浮かんだ考えを振り払い、長谷川から視線を外した。


その後の長谷川は、どこか変だった。

普段なら絶対にしないミスをしたり、足下が覚束なくてよく転んだり……。

長谷川の異変は、挙げたらキリがないほど沢山見つかった。


そして、その翌日、私の上履きに手紙が入っていた。


続く

Re: 多分、誰も分からない。 本編は完結しましたが、まだ続きます。 ( No.8 )
日時: 2010/04/05 11:18
名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)

私はその手紙を読んだ。

その手紙には、増田に嫌がらせをしたのは自分だ、と書いてあった。

何故犯人が私に手紙を書くのか。私が疑われていたたまれなくなったのか。

そんなことを考えながら差出人の名前を見た途端、息が詰まった。


そこには、『長谷川マシロ』と書いてあった。


更に、一番最後に、会って話がしたい、とも書いてあった。

長谷川の靴箱を見れば、長谷川はまだ来ていないということが分かった。

私は手紙の余白の部分を破り、『了解』と書いて長谷川の上履きに入れた。


放課後。私と長谷川は、誰もいない図書室にいた。私が図書室を掃除する、と嘘を吐いて鍵をもらい、長谷川を連れてきたのだ。

それから、長谷川は全てを話した。どの話も私にとっては衝撃的だったが、何故かすんなりと受け入れることが出来た。

「ごめん、ワタシのせいで疑われることになって」

「ううん、平気。長谷川も、大変だったね」

その後は長谷川も私も笑い合いながら色々なことを話し、嘘がバレて先生に怒られてから帰った。

「じゃあ、ワタシこっちだから」

長谷川が途中で左折し、後は一人で家まで帰った。

家に着くまでの間、私はずっと考えていた。

私は、長谷川と友達になれそうな気がしていた。そして、手紙という思わぬ形で距離がかなり縮まった。


——そう、思っていたのに。


長谷川は『友情』がどういうものか忘れてしまっていた。

だから、私達は『友達』になれない。ある意味私の片思いだ。

そう考えると、自然と笑えてくる。例え笑みが乾いたものでも、笑える。

私は、何て愚かだったんだ。自分のことばかり考えて、他人の苦しみに気付けなかった。


気付くには、人と関わるしかない。


「これから人と関わり続けるのか……。少し嫌だけど、それしかないしなぁ……」

長谷川のおかげで気付けたのだ。長谷川とは、是非とも友達になりたい。


「友達になれなくても、せめて何かしてあげたい……」


絞り出した声は、綺麗な夕日の中に溶けていった。


続く

次回、一気に卒業式まで飛びます&最終回の予定です。

Re: 多分、誰も分からない。 本編は完結しましたが、まだ続きます。 ( No.9 )
日時: 2010/04/05 17:35
名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)

卒業式が終わり、私は長谷川に呼び出され、校舎裏に来ていた。

三分程待つと、長谷川は現れた。

「ごめんね、遅れちゃって」

「私は平気だよ。それより……どうかした? 少し顔色が悪いけど」

長谷川の顔色は悪く、まるで貧血を起こした人のように青ざめていた。

長谷川は何度も言い淀んでいたが、やがて決心したように口を開いた。


「……リリコに、会ったの……」


「……え……?」

リリコ、つまり増田リリコ。長谷川を親友だと思い込んで、長谷川による嫌がらせで不登校になり、今日も来なかったクラスメイト。それが来たとは。

「……卒業証書、受け取りに来たんだって……」

それで偶然会った、という訳か。それなら、そこまで怯えなくてもいいのに、と私は思った。

だが。


「それで、ワタシの顔見て、『マシロが止めさせてくれなかったから私は不登校になったんだよ。全部マシロのせいなんだよ、この役立たず!』って……」


声が、出なかった。

増田は犯人が長谷川だと気付いていない。でも、上辺だけとはいえ慰めの言葉をかけてくれた人に対して『役立たず』なんて……。

「で、ワタシ、決心したの。キミの夢を知った頃から考えていたことを、キミにしてもらおう、って」

「……それは、何?」

気が付けば、長谷川の顔色は良くなっていた。そして、異性はもちろん、同性も見とれる程の笑顔を見せた。


「ワタシが手紙に書いたこと、それから、キミが見た真実。それら全てを、小説にしてほしいの」


その後、長谷川は私にサイトの行き方の確認と自分が使う予定のハンドルネームを教えた。

そしてついに、別れの時が来た。

「ワタシ、キミにすごく迷惑かけたから、二度とキミの前に現れないよ」

私が頷くと、長谷川は背を向けて走り出した。それに構わず、私は言葉を発した。


「でも、それは『ただの口約束』だから、またいつか会えるかもしれない! その時は、一緒に遊ぼうね! 大丈夫、これも『ただの口約束』だから!!」


長谷川は何の返事も寄越さなかったが、私の声はきっと届いていたはずだ。


そして、時は流れた。


ねぇ長谷川、私は約束を果たしてちゃんと書いたよ。


あなたは、これを読んでいますか?


読んでいなくてもいいです。


だから——とにかく笑顔で生き続けて下さい。


+END+

次回後書きです。

Re: 多分、誰も分からない。 本編は完結しましたが、まだ続きます。 ( No.10 )
日時: 2010/04/05 17:53
名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)

+あとがき+


最後まで読んで、皆さんの中にももう分かった人がいると思います。

そうです。——この話、実話なんです。

そして、最後まで名前が出なかった『私』とは、私、つまり『転がるえんぴつ』のことです。

今回、この話の舞台は『学校』でしたが、実際は違います。実際の舞台のシステムが学校に似ていたので、舞台を学校にしました。

なるべく、話の内容も実際より軽くしてみました。これでも一応、軽かったんですよ?

ただ、長谷川マシロのモデルになった人に、『ワタシみたいな人間もいるって事が分かるようにしてほしい』と頼まれ、手紙を読み返して書きました。


登場人物のモデルとなった人が今どうしているか、ですが。

増田は、元気にしています。たまに道ですれ違います。増田は私のことが好きではないみたいなので、その度に嫌そうな顔をしたり悪口を言ってきますが、元気になった証拠なので、大目に見ています。

辻からは、たまに電話がかかってきます。内容は全て『何か面白い本があったら教えてほしい』というものですが。まぁ、元気にしているようです、声から察するに。


でも、今も私は長谷川には会えていません。教えてもらったハンドルネームも見かけません。

だけど、私は長谷川が元気に、そして笑顔で過ごせてたらいいなー、と思っています。


長谷川、次に会う時は『友達』として会えるといいね。


ここまで読んでくれた皆様、ありがとうございます。

                BY 転がるえんぴつ


Page:1 2