ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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芥の宵
日時: 2010/04/11 01:03
名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)

シリアスの中に少しは面白みを見つけ出してくれたら
有り難いです^^語句がおかしかったりしますが、大目に見てください。コメント待ってます^^

___今のところの登場人物___
・柳田 美那子(やなぎだ みなこ)
 図書館の事務員。夕方からは飲食店でアルバイトを
 して生計をたてている。黒く長い髪を一つ結びして
 いる。ミステリアスな雰囲気がどことなくある。
・寒川 黒(かんがわ くろ)
 犯罪撲滅会会員。髪も服も靴も名にちなんでか全身
 真っ黒なスタイル。常日頃堅苦しい喋り方をする
 クールボーイ。
・浜崎 白(はまざき しろ)
 犯罪撲滅会会員。黒とは不仲。我が儘で冷血。でも
 雨露に晒された犬は拾っちゃうタイプ。陸軍訓練を
 うけた経験もあり、銃が扱える。
・寺田事務長
 黒達の勤める犯罪撲滅会支部の事務所で一番偉い
 人。妻子持ちで超仲良し。部下には容赦ないけど。 

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Re: 芥の宵 ( No.6 )
日時: 2010/06/29 19:36
名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)

ちょっと一休みに^^ 

___続編登場人物___
・吉岡 幸次(よしおか ゆきじ)
犯罪者撲滅会員。謙虚で聡明。白達に好かれている。
実家が呉服屋を営んでいるせいか、常に着物姿。
日本刀を扱うのが得意。
・桶川 慶次郎(おけがわ けいじろう)
美那子の数少ない友人であり幼馴染。
電化製品会社の支店長を任されている。
今時の若者で口が軽そうだが意外と思慮深い。
・千葉 秋保(ちば あきほ)
子役の真実子の実の叔母でありマネージャー。
・如月 真実子(きさらぎ まみこ)
芸能界で子役として女優を目指している。
出生が隠されているが……。
・東堂 孝之(とうどう たかゆき)
秋保の芸能プロダクション会社の同僚マネージャー。
長身の上に声が低く強面なので印象が893だが
実は普通に優しい人。真実子の世話も時々する。

Re: 芥の宵 ( No.7 )
日時: 2010/06/29 19:52
名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)

温厚の情に調子に乗るのは
きっと奈落に堕ちようとしているのね





6 上旬





寺田事務所。
そのオフィスで浜崎白は苛立ちを隠せずにいた。
腹が立っている元凶___気の合った試しのない
同僚、寒川黒のせいである。
黒は白の座るソファーを陣どり、午後になっても
惰眠を貪り続けていた。
白は肺に吸い込めるだけの空気を吸い込むと、一喝。

「退けぇぇぇぇっ!!」
「うぉっ」

黒は浅い睡眠中だったのか、敏感に白の怒声に
反応し、見事にソファから転がりおちた。
すかさず白はソファに座った。
寝起きの悪い黒は暫く馬鹿のように首を左右に
ぶんぶん振っていたが、やがて頭がさえたのか
黒は寝ぼけ眼で白を睨む。
低血圧な上に機嫌も悪いので口喧嘩にも拍車が
かかる。

「何をする」
「自室で寝ろ!」

事務所は広く、一人一部屋自室が付いているのだ。
黒は半目になりながら、腰を老人のように拳で
とんとんと叩きながら自分の小さいソファに座る。

「何も怒鳴ることはないだろう」
「煩い。その目障りな険悪顔をこちらに向けるな」
「何だと?」

二人の背景に雷やらなんやら現れた頃に
一人の青年が苦笑いで二人の仲裁にやってきた。

「寒川さん、浜崎さん、止めてくださいよ。
 部屋の室温もっと上がっちゃいますよ」

この青年の名は吉岡 幸次。
黒達より若干年下だが頭の上がらない人間の一人だ。
短髪の黒い髪が涼しげな着物姿の彼によく似合い、
実年齢より大人びても見える。
整った顔を苦笑いで崩しながらも二人の間に
割って入った。

「お前からも言ってやれ、幸次。こいつの自堕落な
 生活習慣を嫌でも見る俺の身にもなれよ、寒川」

白は若干の潔癖でもある。

「まぁまぁ…黒さんは昨日仕事してたから疲れて
 しまってるんですよ。さ、黒さん部屋の布団で
 寝てくださいね」
「そうだ、僕は疲れてるんだ。少しは気を使え〜」

黒が白に向かって舌を突き出すと、また白の嫌悪度
が上がったらしい。

「蜂の巣にされたいのかこの馬鹿」
「首へし折られたいかこの馬鹿」
「この大馬鹿」
「馬鹿の骨頂」
「だーっもう止めてくださいよ!」

こうして寺田事務所の午後は過ぎていく。


Re: 芥の宵 ( No.8 )
日時: 2010/08/25 20:28
名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)

雪原に一人きり
嗚呼、埋もれていく





7 再通信





お盆に帰省することにした。二年ぶりの帰省だ。
美那子は少し気分がよかった。
そのせいもあってか、図書館内の事務室で
キーボードを打つのも軽快にこなしていた。

美那子は兄弟が他に三人いた。
兄、弟の結城、妹の三人である。美那子は長女だ。
余り実家に帰省したがらないのは、柳田本家に
住んでいる妹が原因だった。
美那子は昔から頗る妹との折り合いが悪く、
会っては喧嘩ばかりしていた。
そのせいで美那子は余り実家に顔を出さない。
弟の結城も実家に暮らしているので、中々会えない
のはそのせいだった。
しかし昨年妹は結婚して実家から夫のいる神奈川へと
引っ越したらしい。忙しくて今年は実家には当面
帰れないようで、美那子はこっそりと行こうとして
いる。



「…ん〜、こんなもんか」

事務の仕事もあらかた終わり、事務室に飾ってある
時計に目を移す。もう昼だ。
図書館に一番人が少なくなるころ合いだ。
美那子は財布を持って外に食べにでも行こうかと
すると、カウンターに利用者がきた。
タイミングが悪いなぁと思いながらカウンター席に
向かうと、そこには先日会った男がいた。

「あ、先日の」
「ん?」

美那子は俯いて本を受け取ったので、その男を
見上げる。真夏にも関わらず長袖長ズボンの
黒服の男。美那子は小さく「あぁ」と呟いた。

「…明石さん、でしたよね」
「嬉しいな、覚えていてくれましたか」

明石怜治こと寒川黒は涼しげな笑みを浮かべた。
美那子もゆったりと微笑み返した。

「貴方くらいの利用者は少ないですからね」
「そうなんですか」
「えぇ、本なんてもう読まない人が多いんじゃ
 ないかな」
「そうですか…こんなに面白いのに」

美那子は苦笑した。学生を除いたら他に二十代の
利用者なんてほんの少しだから。

「借りた本、面白かったです」
「よかった。…今日は借りないんですか?」
「えぇ。本を読みたいのは山々なのですが…
 いかんせん仕事が忙しくて」

へぇ、と美那子は相槌を打ったものの、
この怪しげな男は一体どんな仕事をしているの
だろうとぼんやり思った。
黒は、美那子が脇に挟んでいる財布を見た。

「…これから昼食ですか?」
「え?…あ、そうです」

行儀の悪いことをしたなと美那子が赤面していると
黒はぽつりと言った。

「僕も今からなのです。どうですか、一緒に」
「え?」

突然の誘いだった。美那子も二度しか見ていない
男から食事に誘われるなど思ってもいなかった。

「…嫌でしたか?」

少し悲しげな目で見られた。う、と美那子は呻く。
押しに弱い自分が時々情けなくなる。

「あ、の…そんな、何で」
「面白そうな人だなぁと。一度話がしてみたかった
 んです。あ、そこの店なら近いでしょう」

黒は窓から見える、道路を挟んだ向かいにある
ファミレスを指差した。確かにそこは美那子が
よく行っている店だった。

「あの…」
「? どうしました」
「……わかりました」

食事に行くだけならいいか、と仕方なく美那子は
折れてカウンターから出てきた。

「あら、柳田さん。今から昼食?」
「はい」
「へぇ。……そうなの?」

美那子は出て行こうとすると出口で仕事先輩の
秋本に会った。横にいる黒をばっちり見られたので
帰ってきたら間違いなくあることないこと言われる
だろうな…と思い、肩が重くなった。

Re: 芥の宵 ( No.9 )
日時: 2010/07/20 22:29
名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)

螺子がひとつ
涙がふたつ
戻れないみっつの道





8 微量





寒川さんと浜崎さんは、とても折り合いが悪い。
仕事の時はビジネスパートナーとしてつきあうものの
寺田会長の目が少しでも外れると犬猿の争いになる。
何がダメなんだろう?
気に入らないだけだとお二方はおっしゃるが、他にも
原因はありそうだな…。

ぼんやりと幸次は、昼下がりの事務所で考えていた。
先ほどの仲裁が終わると白は仕事に出て行った。
黒は一時間ほどして自室から出てくると、妙な
顔つきで本を小脇に「散策してくる」と言って
まだ帰ってきていない。

「浜崎さんは帰るのが遅くなるとしても、寒川さん
 が仕事の日以外に外に出歩くなんて珍しいなぁ」

黒はインドア派なのか、余り外に出ない。交代の
飯の買い出しか気分転換にコンビニ…くらいしか
黒の行くところが思いつかない。
だが、出るときに本を持っていた。あれは確か
バーコードが貼ってあったから貸し出し用の本だと
幸次も気付いた。

「寒川さんって本読んだりするんだなー」

幸次は暇だったので事務所内の掃除をすることに
した。幸次は綺麗好きでもある。
面倒臭がりの黒は幸次に自分の部屋の片付けも
任せているので、幸次は黒の部屋へ入る。
目ぼしい家具はベットとデスク、クローゼット以外
ないというシンプルな内装だ。
しかし黒が解決済みの仕事の資料などを
散乱させているので足の踏み場も無かった。

「もう寒川さんは…ファイルの整理もしないで。
 …ん?」

昨日付けで送られた資料だけはデスクの上に綺麗に
並べてあった。幸次は首を捻る。

「珍しいな…寒川さんが資料にすぐ目を通すなんて」

少し疑問に思ったものの、考えても仕方ないと
幸次は書類整理に集中した。

Re: 芥の宵 ( No.10 )
日時: 2010/09/10 22:16
名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)

私を探れずに
貴方とすれ違い


9 追悼





「僕はパスタで。貴方は何をお食べになりますか」

店員より丁寧な口調でこの人は私に話しかける。
口調からは思えないほどまだ若そうなのに。
紳士なんだか不審者なんだか。
それについてきた私も間抜けだけどさ…。

「私はサンドイッチとコーヒーを」
「かしこまりました」

店員は少し訝しげに明石さんを見た後、
厨房に戻った。
明石さんは手を自分のと重ねてそれに顎を乗せた。

「淋しい人だなーとか、思っていますか?」
「え?い、いえ。私も今日は一人だったし…。
 寧ろ何で私と…というか」

そう言えばそうだ。
面白そうな人だから声をかけたといった。
まだ律儀そうな態度だからすんなり頷いたけど、
これがコンビニにたまる様なチャラけた男だったら
即引っ叩いただろうに。何だかこの人には
逆らえないような威圧感と、冷静な物腰がある。
……あまり本は読まないと言っていたけど。
私は、この人は本がとても似合うと思った。

「えーと…先程忙しいって言ってましたよね。
 何をなさってるんですか?」
「何に見えます?」

疑問を疑問で返された。私は面喰ったものの、
真剣に考えてみた。アルバイト…には見えない。
何だか職には就いてる感じがするし。

「デザイン関係の仕事…とか?」
「あっはっは。そんな風に見えますか?」

明石さんは心底楽しそうに笑った。

「インテリな感じがしますよ、明石さんは」
「へぇ。そうですか?そんな風に見えてるんだ。
 残念ながら、そんなシャれた職業じゃない
 ですね」
「うーん…」

一般的な企業の会社員にも見えないし…。
それにまだ若そうだから、偉い地位の人でも
なさそうだしな。

「企業を自分でおこしたり?」
「してませんね」
「ネットで会社を立ち上げたりは?」
「生憎、機械は全く扱えません」

ますますわからなくなってきた。
明石さんはただ面白そうに私の顔を窺う。
なんなんだろう?
いったい何者なんだろう、この人は。

「…わかりません。答えは?」
「あぁ。もう観念しましたか?」

明石さんは、悪戯した子供っぽい顔で私を見る。
ちょっと悔しいけど、ギブアップだ。

「えぇ。私の負け」
「ふふ」

明石さんは手をちょいちょいと招くように動かす。
私は一瞬何をしているのか分からなかったが、
きっと耳を欹てて、という意味だろう。
明石さんは先ほどより小声で話し始めた。

「貴方には明かしましょうか」
「……何を、ですか」

明石さんは、無味無臭な、冷たい笑みを浮かべて
私をただ見つめていた。

…あの時、あの人に深く立ち入らなければ
よかったと、私は酷く後悔することも知らず。
私は彼を見つめ返した。

明石さんは先ほどとは打って変わり、穏やかで
どこかしらさわやかさも感じられる笑顔で言った。

「改めて自己紹介しましょう。僕は寒川黒。
 犯罪撲滅会の会員の一人です」

そのときの貴方の顔が、今でも忘れられない。








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