ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 芥の宵
- 日時: 2010/04/11 01:03
- 名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)
シリアスの中に少しは面白みを見つけ出してくれたら
有り難いです^^語句がおかしかったりしますが、大目に見てください。コメント待ってます^^
___今のところの登場人物___
・柳田 美那子(やなぎだ みなこ)
図書館の事務員。夕方からは飲食店でアルバイトを
して生計をたてている。黒く長い髪を一つ結びして
いる。ミステリアスな雰囲気がどことなくある。
・寒川 黒(かんがわ くろ)
犯罪撲滅会会員。髪も服も靴も名にちなんでか全身
真っ黒なスタイル。常日頃堅苦しい喋り方をする
クールボーイ。
・浜崎 白(はまざき しろ)
犯罪撲滅会会員。黒とは不仲。我が儘で冷血。でも
雨露に晒された犬は拾っちゃうタイプ。陸軍訓練を
うけた経験もあり、銃が扱える。
・寺田事務長
黒達の勤める犯罪撲滅会支部の事務所で一番偉い
人。妻子持ちで超仲良し。部下には容赦ないけど。
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- Re: 芥の宵 ( No.1 )
- 日時: 2010/04/11 17:00
- 名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)
塵芥に集まる常世に
優劣などあるのだろうか
1 心酔
「美那子さん、本棚の整理頼めるかしら。新作の本
も棚に入れてきて。倉庫の段ボールの中にあるか ら」
昼下がりの東京。
七月になり、誰しもが冷房恋しくなる季節。
美那子は県立図書館のカウンター席に座っていたが
同僚の呼び声に短く返事をした。冷房の効いた
図書館から重い腰を上げて、美那子は暑苦しい
倉庫へ向かった。
柳田美那子。もう今年で25歳になる。
愛想もなく、余り感情を億尾に出さないせいか、
平均よりやや交友関係は薄めである。それなりには
いるということだ。要約すると、目立たないタイプ
である。顔は普通なのだが、浮世離れした雰囲気が
ある。
「…これかな」
倉庫に行き、新書の入った段ボール箱を抱えると
図書館に運んだ。そして踏み台を探していると
同僚が困った顔で美那子に言った。
「御免美那子さん、子供が悪戯してどこかに持って
いっちゃったみたいなの。後で持って行くから
届くところだけ入れておいて」
「わかりました」
美那子は特に気にせずに本棚へ向かった。
「寺田会長、昼飯買って来ましたよー」
寒川黒は、コンビニで買ってきた弁当の袋を片手に
三階建てビルの、自分の事務所二階へ入った。
「寒川君!いつも思うが何で君はそんなに買い出し
遅いんじゃ!はじめてのおつかいより尺長いよ!」
「すいません。途中でツ●ヤ寄ってたんです。
優柔不断なA型だから迷うのは当然でしょう」
「何で途中で●タヤ行くんじゃ!!」
「DVD借りたら昼飯代が少なくなりまして。はい。
会長のはおにぎり二個でよかったですよね」
黒は寺田会長にそれを渡すと、自分はちゃんとした
コンビニ弁当を食べだした。
「なんで寒川君だけ弁当なんじゃーー!!」
怒声響く事務所は、相変わらずである。
寒川黒。
犯罪撲滅会会員である。犯罪撲滅会とは、名の通り
犯罪を抑止する団体である。
黒本人もよく知らないのだが日本政府の中で未来を
予知する人間が存在していると会長から聞いたこと
がある。その人物は政府の中でも権力を持つ者で、
未来の犯罪を抑止すべく、その手足となる犯罪
撲滅会を立ち上げた。犯罪撲滅会は日本国民から
3000人選ばれる。一年ごとに補充される。
増員制度はない。会員は無差別に選ばれる。
噂では断ると殺されるというものまで広まり、
皆断れずに会員として働いている。金が弾むので
すすんでなるものもいるが。
そんな三千人の一人、寒川黒と寺田会長は、
町の犯罪撲滅会支部のこの事務所で働いている。
「会長が寒川に頼むからいけないんですよ」
事務所内の個室から出てきた茶髪の男は
黒の同僚、浜崎白である。黒とは同い年で
実力も同じくらいなのだがとても犬猿の仲である。
「じゃあ浜崎、お前が買ってくればいいだろ」
「お前がジャンケンにいつも負けるからだろ」
そしてまたいがみ合いに発展するのである。
黒は食事をし終えると、真夏にも関わらずネックの
ついた黒い長袖を着たまま外にでようとした。
すると寺田会長は呼びとめた。
「あ、寒川君!どこに行くんだね」
「夜の仕事の下見ですが」
「じゃあこれ返しにいってもらえんかね」
「ツタ●ならもう行く気ないですよ」
「違うわ!本じゃよ。娘が借りたんだが返す機会が
なくてな。今日返そうとおもったんじゃが外は
暑くて敵わんし。返してもらえんか?」
黒は本を受け取ると、本についてあるバーコードを
目を細めてみた。
「近くの県立図書館の本ですか?何で僕が…」
「レンタル料返してくれるならいいんじゃよ?」
「行って来ます」
黒は即答して事務所を出て行った。
- Re: 芥の宵 ( No.2 )
- 日時: 2010/04/17 20:39
- 名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)
心に巣くう暗闇を
できる限り見ずに生きて
2 日常
黒はまず、『夜の仕事』の下見から済ませることに
した。
撲滅会は、本部は東京の何処かにあるらしい。
そこを拠点にして支部が点々とある。
黒もその支部に所属する一人である。犯罪率が
高い所に支部が集中している為に、東京に
多く点在している。
仕事の内容は名のわりに地味なものが多い。
まず本部は犯罪を予知する。そして加害者を調べ、
個人情報を会員に渡す。
そして『説得』して事を済ますのだ。
かっこいい仕事ではない。地味だし、その上説得など
通じる試しは少ない。そして最終手段は犯罪決行の
当日に犯罪を阻止するか、加害者を裁く。
何とも、当初の行動と比べれば強引な策である。
それに従う会員も死にたくないだろうに。
死傷者が増えるのも無理はない。
「この家か」
黒は一軒の民家を見ていた。一般的な民家だ。黒は
暫し家を眺めて歩き出した。
黒は遠目にその家を盗み見ながら本部から来た
資料に目を通していた。
在住しているのは中年女性と成人男性二人だ。
母と兄弟二人暮らしの家庭で、父親は何年か前に
亡くなったらしい。思春期に親を失くすというのは
かなり精神にきてしまうのではないだろうか。
黒は犯罪者になる予定の、この家にいる兄を
犯罪から救わねばならない。
今日もいつも通り説得して事を済ます。予定通りに。
そして事務所への帰り道の途中で本の存在を思い
出した。それは子供向けの絵本だった。
やはり人が犯罪に走るのは、それなりの理由を
伴い発生する。無差別殺人も万引きも精神的な
ものから起こる。
説得というのも、『貴方は数日後人を殺しますから
そんなことは止めてくださいね』などといっても
大抵の人間は信じるはずがない。結局のところ、
犯行をする際に力ずくで阻止するオチになる。
やはり何度もそのようなことが続くと、この
偽善活動も憂鬱な気持ちになる。
そんな中で本を返しに行くなんて。
「面倒くさい」
ぽつりと呟いた黒だったが、ふと思った。
(本なんて、もう何年も読んでいないな。)
少し図書館に興味を持った。生まれてこの方、
自分から本を読もうなんて気がなかった。
小学校の図書室にいくことも億劫だったのに、
ましてや町の図書館に行こうなど考えたことも
なかった。
空を見ると、青すぎる色が頭上に描かれていた。
雲は点々と存在し、仄かに白い。綺麗な空だ。
こういう日だと自分はつくづく損をしているなぁと
思い、泣きたくなる気持ちであった。
- Re: 芥の宵 ( No.3 )
- 日時: 2010/04/17 21:05
- 名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)
あの時、貴方と出会わなければ
私は変わらず堕ちていましたか
3 混迷
『姉ちゃんへ 早く家に帰ってきてね。もうすぐ
お盆になるし、美沙子姉ちゃんはどうせ
帰って来ないから大丈夫だよ。 結城』
美那子は図書館の奥の事務室でコンビニ弁当を
啄みながら、弟から来たメールを見て微笑んだ。
『結城へ 本家は住み心地が悪いでしょうね。
わかった。お盆には帰るからね。 美那子』
弟の結城は今年で十九になる。美那子とは六歳違い
の弟である。結城は実家に住んでいて、そこから
仕事場のカフェへ通っている。美那子にとって
唯一の可愛い弟である。
メールは一日に二回は絶対に送ってくれる結城は
美那子を姉としてとても慕っている。美那子の
心休まる存在でもあった。
「美那子さん、カウンターよろしくお願いします」
「あぁ、わかった」
美那子は携帯をマナーモードにして制服のポケット
に入れると、カウンター席に座った。
しばらくすると、細身の男性が本を返却してきた。
こんなに暑い季節にも関わらず黒い長袖に
ジャケットを羽織り、細めの黒いズボンを
はいている。それなのに涼しそうなその男性を見て
美那子は変な人だなと思った。
子供向けの絵本だ。子供でもいるのかなぁと
思いながら美那子が本についているバーコードを
機械に認識させる。本が返却期限を過ぎていた。
「返却期限が過ぎていますね。次回からお気をつけ
下さい」
「そう言っておきます」
少しうんざりした様子で男がいったので、代わりに
本を返しに来たのかと、少し同情した。
男はキョロキョロと図書館を目で見回すと
美那子に向って気難しそうな目で近寄ってきた。
「沢山本があるのですね」
当たり前じゃないか、ここは図書館だぞ、と
美那子は言いかけたが止めた。なんだか子供の
ような目で見回していたから微笑んでしまう。
「俺も借りてみようか。こんな憂鬱な気分のまま
あの家に行くのも気がすすまん。すいません、
借りるにはどうしたらよいのですか?」
成人男性にしては古風な喋り方だなと思いながら
美那子は個人情報の紙を取り出した。
「この紙に氏名、住所、連絡先をお書きください。
カードを発行します。カードを使えば借りれますよ」
「成る程。今時は手書きで借りるなどしないのか」
ぼそりと男が呟いたアナログ思考には美那子も
スルーした。男は達筆な字で書き始めた。
書き終わると美那子に紙を渡してきた。
「えぇと…。明石怜治さんですね。すぐに発行
致しますのでその間に本を選んでください」
「わかりました」
男は上品に会釈すると本棚の奥に消えていった。
美那子がカードを発行し終えると、事務室から
声をかけられた。
「柳田さん。木下さん入るから本の整理に回って
くれないかしら」
「あぁはい。わかりました。カード発行したんで
置いておきますね」
「わかったわ」
美那子は明石怜治のカードをカウンターに置くと、
倉庫から引っ張り出してきた本の整理に
取りかかった。
- Re: 芥の宵 ( No.4 )
- 日時: 2010/04/18 18:42
- 名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)
古風な愛
叶わずに落ちぬことを
4 移行
黒は図書館に来て本を返すとぶらぶらと館内を
歩き回っていた。本を読もうと思いついたものの
何のジャンルがいいのか、何処にあるのかすら
わからない。
「慣れないことをするんじゃなかったかな」
頭をかいてから、また目を本棚に向ける。館内は
掃除されているものの、本特有の埃っぽさが拭え
ない。鼻炎のせいもあって今日何度目かのくしゃみを
一つした。その度に子連れの奥様方からの鋭い視線に
さらされるのでたまったものではなかった。
「俺は機械扱えないし…いい本はないものか」
黒はクソがつくほどの機械音痴である。そのため
寺田会長と白からは、事務所にある唯一の最新型
パソコンに近づけさせてもらえないままである。
図書館の人にでも聞くかなぁと思っていると、
一生懸命背伸びをして本を棚に入れようとしている
事務員が目に入った。
「…ほんとに入らん。届かんなこれは…秋本さん、
早く踏み台持ってきてよ…」
美那子は背伸びをして新書を棚に入れようとしたが、
あと数センチで入らずに愚痴を零していた。
別に放置して後々入れえばいいが、その本は美那子が
私的に気に入っている本だったので、何となく
頑張って入れようとしていた。
「う……うぅ、届か…ない」
すると、横から不健康で病的なほどの白い手が、
ひょいっと伸びてきて本を棚に入れた。
「これで宜しかったでしょうか」
「…あ」
美那子は、その手の方へ目を向けた。
黒は、少し驚いた様子で自分を見る女に微笑んだ。
余りにも頑張っていたのですこし余計なことを
してしまったかもしてない。
「さっきの……。あ、ありがとうございました」
女は頭を下げてきた。律儀な女である。
「あ、カードなら出来ましたよ。カウンターで
お受け取りください」
「あぁ…どうも」
黒は『明石怜治』という偽名で日本国に存在して
いる。先ほどもカウンターでそうこの女に名乗った。
会員は身元をばらさない為にもう一つの仮の名で
生きているのだ。まだそれに慣れない黒は
それを聞くたびに苦笑してしまうのだった。
「本がね、決まっていないのですよ」
「どういうものがお好みですか?」
「いつも読まないものですから…何をよんでいいの
かわからなくて」
女は少し考えると、先ほどしまい込んだ本を
指差した。
「この本はどうですか。短編集ですので簡単に
読めますよ」
黒は再びその本を棚から取り出した。
「『芥の宵』…ですか。変わった本ですね」
「何十年か前のもので。現在は絶版になっていて
価値の高い本ですよ」
「ふーん…。では、これを借りたいと思います。
ありがとうございます。えぇと…柳田、さん?」
黒は女___柳田美那子の胸についてある
ネームプレートを見ていった。美那子は短く答えた。
「いえ、こちらこそ どうもありがとう」
それが始まりだったのだろうか。
- Re: 芥の宵 ( No.5 )
- 日時: 2010/06/12 14:07
- 名前: 黒林檎 (ID: B240tmf4)
言霊がかき消える世
ならば私は閉口に努めよう
5 先導
「こんばんは」
黒は慣れていない下手糞な上辺の笑みを湛えた。
深夜九時に、自分の玄関先でそんな見慣れない
男の笑みを見て面食らうのは至極当然である。
「誰ですか、あんたは」
家主である男は黒を訝しげに見て言った。
黒は薄型の携帯のようなものを持っていた。
それを覗き込むようにして見ながら言う。
「前島 朝人さんはいらっしゃいますか?」
「朝人は___俺ですけど」
家主・前島朝人はさらに怪訝そうな表情をした。
何だってこんな普通の家に変な来客が来るのだろう。
黒はそれを見透かしたように肩を竦めて見せた。
「犯罪撲滅会の者です」
「!!」
朝人は度肝を抜かれるような思いだった。
「あんたは数日中に人殺しになる」
「何物騒なこと言ってんだ。馬鹿馬鹿しい!」
「貴方は債鬼に追われてる筈だ。金がないんだ。
だから貴方は夜逃げしようとする。だがそれは
失敗する。それを債鬼に見られ捕まる」
朝人は身を硬直させた。借金取りに脅されている
のは事実だし、三日後に夜逃げをしようと弟と母に
そう算段していたところなのだ。
「別に警察に突き出すつもりはないのですよ。
未遂ですから。ただ実行するとそれはもう
犯罪に成る。俺は犯罪撲滅会だから、その時は
貴方を刑務所にぶち込むことになる」
「………」
「いいんですか、辛いですよ刑務所は。きっと
後悔するでしょう。貴方が貧しいと思ってる
ここの暮らしより、ですよ?」
朝人の心は揺れていた。
事実を言い当てられて困惑していることもあったが
未来を予測され、それが当たるであろうことが
わかる自分が恐ろしくて堪らなかった。
黒はそんな隙を逃す男でもなかった。
「信じられないのならば証拠を突き出せば良いで
しょうか」
黒は朝人を突き飛ばすとずんずんと家の中へ入って
来た。朝人は慌てて立ち上がろうとしたが、何故か
腰が立たなかった。変に打ち所を喰らってしまった
のだろうか。
「馬鹿野郎。不法侵入だ、警察呼ぶぞ」
黒は忙しなく動かしていた目を朝人に向けた。
それは頓着のない、まるで泥の沈殿した沼のような
目の色をしていた。
こんなに生気のない人間は見たことがあっただろう
か?
そう場違いに考えていた朝人に黒が声をかける。
「僕は構いませんよ。だが警察に来られたら
貴方も困るはずだがね」
「は……」
黒は廊下を歩き、その度に部屋の襖を開けては
押入れを調べたり戸棚を開けたりしていた。
日本家屋は広いなとぼんやり黒は考えていた。
すると、兄の怒声を聞きつけたのか、おそらく弟の
前島和人が黒に向かって叫んだ。
「おい、何してんだ出ていけ。警察を呼ぶぞ!」
「そんなことしたら困るのは俺ではなく貴方の
お兄さんじゃないですか」
「何?」
「あぁ、あった」
黒は廊下から雨戸を開けて外の庭に出た。
そこには古ぼけた用具入れと手入れの行き届いて
いない菜園があるのみだった。
「止めろ!!」
「兄ちゃん?」
朝人はようやく動けるようになったのか、和人を
追い越して黒に飛びかかった。
だが黒は身を翻して朝人を避けた。そして足で
朝人の腰を思い切り蹴った。呻いて朝人は
庭に倒れた。内臓を打ち付けたらしく、息の漏れる
呼吸を何度かしていた。和人は驚いて兄にかけよる。
「何てことすんだ、兄ちゃん、大丈夫か!」
「僕がここにきた理由は、これですよ」
黒が勢いよく用具入れの扉を開ける。
そこには、普通の家庭には似つかわしくない
斧やら鉈やら、薬品の入った瓶がいくつかあった。
和人は初めてそのようなものが入っているのに
気がついたらしく、仰天していた。
「何だこれ…」
「お兄さんが用意したものですよ」
「兄ちゃんが?」
朝人はガックリと項垂れていた。それは黒に蹴られた
打撃の苦痛とはまた別のものであろう。
「この瓶に入った薬品は取り扱いの免許がないと
違法所持になるものですよ、朝人さん」
そう言って黒は薬品を庭の壁に叩きつけた。
焦げ臭い匂いがして、中身の薬はすべてなくなった。
「あなたはそのうち夜逃げしたら、債鬼がこの家に
来るのを待ってひと泡吹かせてやろうと思った。
そうでしょう?だがそいつらは夜逃げの晩に
来てしまった。そして貴方はそこで予め用意して
あったこの鉈やら薬品やらで死傷させちまうんだ」
「そんな…う、嘘だ!」
「そうですか?でも僕の言った前半は貴方の思惑
通りだったでしょう?違いましたか?」
「……」
黒は溜息をついて二人を見た。
「撲滅会の予想は確実に当たる。だが、回避は
できるのですよ。貴方がしようとしなければ、
貴方は犯罪に走らないのですよ」
「……だが、止めてどうなる。その確実に当たる
予想じゃ、夜逃げの時に借金取りが来るんだろ」
黒は老獪な笑みを浮かべた。
飲み込みが早い人間は嫌いではないらしい。
「ご安心を。貴方は不法に借金をせびられてました
からね。金の算段はつけておきました。だから
もう貴方は金を請求されないし、夜逃げも
しなくていい。そして殺人も犯さなくていいの
ですよ」
「えっ」
次に度肝をぬかれたのは前島兄弟である。
そのとき、不法侵入の怪しい男とばかりに思っていた
黒が、今や背中に後光が見えるくらいだろう。
「犯罪を撲滅するんですからね、何でもしますよ
僕は」
「…ほ、本当に…」
黒は静かに頷くと庭の塀から外に出た。
「何日間か撲滅会の保護下に置きますが、貴方が
犯罪に走らないのなら、大切な母と弟さんとも
また以前のように暮らせますよ。また後日、
説明に来ますからご安心ください」
前島兄弟は、ただただ脱力と茫然としているしか
なかった。
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