ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- Cherry blossoms
- 日時: 2010/05/10 16:25
- 名前: 泡沫 ゆあ (ID: CRzWJbwd)
暖かな風に包まれる日。
空には桃色の花びら達が舞い踊る。
うららかな日和の下で、
人々は、新たな生活に向かって進んでいく。
・・・ただ一人を除いて・・・・・・。
これは、一人の少女に恋をした少年と、時間の止まった少女の、<死>の物語・・・。
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- Re: Cherry blossoms ( No.3 )
- 日時: 2010/05/24 13:36
- 名前: 泡沫 ゆあ (ID: Ex55yMPi)
第三話<未知数の選択>
桜は、学校の図書室で本を漁っていた。
本など見向きもしなかった桜の行動に、教師は感心しながら見ていた。
桜の探しているものは生徒名簿。
昔の生徒名簿は図書室に置いてあるのを、桜は知っていた。
もしかしたら、さくらはここの生徒だったのかも知れない。
そう思って今に至る。
「・・・・・・!」
何冊か見ているうちに、<さくら>という名前の女生徒を見つけた。
写真に写っているのも、紛れなくさくらである。
「・・・・・70年前・・・・?」
70年前の生徒の中に、さくらがいた。
そして、卒業写真が普通に載っているのだから、卒業時には生きていたということだ。
意味がわからない。
「・・・・・・・・・・さくら」
- Re: Cherry blossoms ( No.4 )
- 日時: 2010/06/04 22:14
- 名前: 泡沫 ゆあ (ID: Ex55yMPi)
第四話<近しい人>
桜は落胆しながら帰路についていた。
あれから一週間、手掛かりは何一つ見つからない。
さくらは気にしないで。と言っていたが、約束した。
見つけて見せる。絶対に。
そう意気込んでいると、後ろから声を掛けられた。
「お、珍しいじゃないか。こんな遅くまで何やってたんだ?桜」
最近残業が続いて顔を見られなかった父の姿があった。
「・・・・探しものだよ」
「とかいって、彼女と仲良くしてたんじゃないのか?」
にやり。と父は意地悪く笑う。
その言葉に、桜は少し顔を赤らめてそっぽを向いた。
「・・・・図星だな?どういう子なんだ?」
お父さんに相談してみろ!と胸を張る父に、思わず笑ってしまう。
「少し、気になるってだけだよ」
「へえ。で?何て名前の子なんだ」
父は本当に興味があるらしい。
桜の顔を覗き込んでまで聞いてくる。
「・・・・さくら、って言うんだ」
可愛い名前じゃないか。と父はニコニコして桜の頭をガシガシ撫でる。
「それにしても、偶然だな」
「?何がだよ」
桜の問いに、父の口からは信じられない言葉が零れてきた。
「お祖父様の若いころの恋人の名前も、<さくら>っていうんだよ」
その言葉に、桜は大きく目を見開くだけだった。
- Re: Cherry blossoms ( No.5 )
- 日時: 2010/06/06 21:22
- 名前: 泡沫 ゆあ (ID: h9T9UkU2)
第五話<開かれた秘密>
「・・・・それ、本当の話なのか?」
桜の鼓動は高鳴っていく。
これほどまでに緊張したことがあっただろうか。
「本当だよ。お祖父様の時代はモノクロ写真だったから実際に見たことはないけど。
そのさくらさんの髪は綺麗な桃色をしていたそうだよ」
同じ、だ・・・。さくらも桃色の髪をしていた。
「・・・そのさくら・・・さんはどうなったんだ?」
「さあ・・・・。お祖父様の話によれば亡くなったらしいけど」
いてもたってもいられなくなり、桜は祖父の家に向かって走り出す。
もしかしたら、見つかるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら、閉じられた秘密に触れようとしていた。
- Re: Cherry blossoms ( No.6 )
- 日時: 2010/06/13 21:17
- 名前: 泡沫 ゆあ (ID: h9T9UkU2)
第六話<犯人>
真っ暗な道をわき目も振らずに走った。
その結果、数分で祖父の家に着いた。
・・・・相変わらず、大きな家だ。
純和風で、瓦屋根で、三十坪の庭があって、数十万する鯉が何十匹も泳いでる池があって・・・。
「って、今はそういう問題じゃなくて・・・・」
首を数回振って、玄関先にたれている鈴の紐を引く。
ちりん。と小気味いい音がなって間もなく、家の主が現れた。
「・・・おお。桜じゃないか。久しぶりだなあ・・・・・・。
どうした?こんな時間に・・・・祖父ちゃんに何か用か?」
祖父は優しい。
いつも和やかな笑顔を浮かべてくれる。
・・・・でも・・・・・・・。
「・・・き、聞きたいことがあるんだ。祖父ちゃんに・・・。
祖父ちゃんの・・・・昔の恋人について・・・・・・・」
「!!・・・・・・・そうか」
少し目を伏せて、祖父ちゃんは悲しげに笑った。
「さくらのことを・・・・聞きたいんだな?」
祖父の言葉に、軽い衝撃を受けた。
何もかもを、知っているかのような瞳で桜を見つめてくる。
「・・・・学校に行って、さくらと三人で話をしよう」
・・・祖父の中に、さくらは<在>った。
- Re: Cherry blossoms ( No.7 )
- 日時: 2010/06/13 21:52
- 名前: 泡沫 ゆあ (ID: h9T9UkU2)
最終話<さくら>
「・・・・桜?こんな夜遅くにどうしたんですか?」
さくらは、変わらぬ姿で屋上に居た。
「、今日はお客さんも居らっしゃるのね」
さくらの態度は変わらない。にこにこと祖父の姿を捉えている。
「・・・・久しぶりだな、さくら・・・・」
「!・・・・・・久しぶり?ですか・・・・・。
ごめんなさい、何所かであった事がありますか?」
心底申し訳なさそうに謝るさくらに、祖父は一枚の紙を取り出す。
「これに、見覚えはないか?」
「・・・・・・これは・・・・・・・」
手紙、だった。
「・・・・・そう、そういうことだったのですね」
さくらは、納得したように微笑む。
「・・・・どういうことだよ、祖父ちゃん。・・・さくら」
状況が飲み込めない桜にさくらは優しく微笑む。
「桜、私は・・・・自ら命を絶ったの」
「っ・・・・え」
さくらは優しく笑ったまま。祖父は少し眉を寄せて語りだす。
「・・・・・この学校を卒業したあの日、さくらは突然私に言ったんだ・・・」
『さくら、何だ?話って・・・・』
『・・・・馨さん。お願いがあるんです』
馨。即ち桜の祖父の名である。
『私の体を、この学校のどこかに埋めてください』
『!!なな、何を言い出すんだ!!!!』
『っ・・・・・』
『私は、さくらが好きだ!!結婚の話までしたじゃないか!!
・・・・なのに、なんで、そんな・・・・・・・』
『・・・・私は、禁忌を犯しました。私の家系は、代々<予知>の力を授かります。
私にもその力があります。・・・・でも、その力は私欲のために使ってはいけないのです。
・・・・・それを、私は破ってしまった。使ってしまった。私欲のために・・・・』
『さくら・・・・・・・・』
『私は、70年後の世界を見てしまった。・・・・そこで恋に落ちてしまったの』
『・・・・誰、に?』
『・・・・・・馨さんの、お孫さんに・・・・・・』
『!!』
『私は、もう生きていけない。馨さんのことを傷つけて、生きられない。
・・・・・だから、埋めてください』
私が誰にも、何にも触れないように。
『・・・・さくら・・・・・・・・・・・』
『最期にひとつ、お願いがあるんです。
・・・・私は、ずっとここで待っています。ずっと、ずっと・・・・・。
だから、また・・・・・・・・・・』
会いに来てください。
「・・・・それから、さくらは服毒をはかり、死んでしまった」
祖父は目じりに涙を浮かべて話し終わった。
桜は、さくらの方を振り返る。
「祖父ちゃんの孫って・・・・・俺?」
桜の問いに、さくらはこくりと頷く。
「70年も、桜に恋焦がれていたの。・・・・どうして忘れていたのかしら・・・・。
待つことに、少しの絶望を感じていたのかも知れない・・・・・。
ありがとう、私を見つけてくれて。
・・・・・大好きです。桜」
そう言ったさくらの体から光が溢れ出し、消え始める。
「!!待てよさくら!!俺だって、俺だってお前が好きなんだ!!!!逝くなよ!!!」
さくら!!叫んでもさくらの体は透明度を増していく。
「・・・・・・桜に、素敵な贈り物をして逝きます。・・・ありがとう」
さくらの体は、夜の闇に溶けていった。
「・・・祖父ちゃん、なんか、ごめん」
桜はいたたまれなくなり、謝った。
「・・・・いや、気にするな。
・・・・・・・それに桜のお陰で最高のものが見られたよ」
「え・・・・」
校門の一本の大きな桜が、満開になっていた。
「・・・・あそこに、さくらは眠っている。祖父ちゃんが埋めたんだ」
「・・・そうなんだ」
普通に聞けば、ぞっとする話かもしれない。
けど、数十年の時を越えた奇跡の前では、ロマンチックな話ではないか。
「贈り物をありがとう、さくら」
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