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- Ravinalog γブラック・ラビットγ
- 日時: 2010/07/10 06:33
- 名前: ヨシュアさん ◆FdjQaNCWZs (ID: bQobMYPz)
クリックありがとうございますw
どうも、ヨシュアさんと申します。
一つコメディ・ライトで、『世にも微妙な物語』を書いていますが、こっちでも書こうと思い、スレを立ち上げました。コメディ・ライトのほうをメインで上げてくつもりなので、こっちはチマチマ上げてく感じになります。
つたない文章で申し訳ありませんが、頑張ります。
ルールは人に迷惑をかけなければ基本的におkです。
後、読んだ人は出来るだけコメントよろしくお願いします!!
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>>1 プロローグ —クロウサギ—
>>2 第一話 —刃音 黒兎—
>>4 第二話 —リィハ・スカイリトゥーネ—
>>5 第三話 —日向 日和— 〜前編〜
>>6 第三話 —日向 日和— 〜後編〜
>>7-8第四話 —一緒に帰るのはまたねを言うために—
>>9 第五話 —白雪 月姫—
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黒い兎だからこそ、俺は——“逃げ道から逃げ続ける!”
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- Re: Ravinalog γブラック・ラビットγ ( No.6 )
- 日時: 2010/06/28 06:23
- 名前: ヨシュアさん ◆FdjQaNCWZs (ID: bQobMYPz)
第三話 —日向 日和— 〜後編〜
そうか……そういうことか……。
「んなことより! 何で、俺がクロウサギだってことを知ってる? 誰から聞いた?」
リィハは鼻で「ふふっ」と笑ったかと思うと、口を開いた。
「まだ登校中よ。私は学校に来たら、教えてあげるって言ったつもりだったんだけど?」
俺は少しきつめに言ったつもりだったが、どうもこいつには意味が無いらしい。
「登校すればって言ってなかったか?」
リィハは相変わらず、口元の端を下げずに、不思議な微笑みを保っていた。
「そうだったかしら?」
はぐらかしやがる……。
俺はあからさまに不機嫌になる。両隣にわかるように。
「答える気が無いなら、もういい」
俺はクロウサギの話題から、逸らすために少し大きな声で言った。周りに聞こえたかもしれない。
「んなことよりもだ……何で、俺のところだけに迎えに来たんだ? 北ベースシティならともかく、此処——西ベースシティなんて、そこら辺にごろごろと不登校な奴がいるだろ。もしかして他にもお前ら見たいのが居るのか?」
俺は真っ直ぐにリィハの方を見て言った。リィハはその蒼空の瞳に俺の顔を映し「いないわ」と、答えた。
「だったらどうして、他の奴らを迎えに行かないんだ?」
前に向き直ったリィハはまるでこの質問を待ってたかのように
直ぐに答える。
「来ないんじゃなくて……来れない理由があるとしたら?」
「どういうことだ?」
リィハは一つ小さく頷く。
「知ってる? 最近、病院の患者が多くなってきてるの」
俺は首を傾げた。
「それがどうした。それが関係あるって言うのか?」
また、リィハは頷いた。少し深く。
「ええ、あなたを除いての不登校者全員がその入院患者……」
「なっ……! 嘘だろ!?」
リィハは首を横に振った。本物の朝日のような白い髪をなびかせて。
「嘘じゃないわ。全部が全部本当よ」
「んなことがあるわけ——!」
俺が言い掛けた途端、リィハは俺の上唇に左手の人差し指を置いて、止めた。
「あった……。これが事実。事実は誰にも曲げられない。時間しか……」
リィハは詩のように呟いた。小鳥がさえずる様に。
「そうかよ。でも……何で……」
「その人たちは皆『Ravinalog』をやっていた」
俺はただ前を見つめ、足を進め、言葉を口から出した。
「それが関係あるって言うのか?」
リィハはふと目を閉じると、微笑みとは別の笑みを浮かべて言った。
「さぁ? でも、あなたは……心当たりがあるんじゃない?」
どういうことだ……? こいつは、リィハはまさか、あいつのことも知ってるっていうのかよ……。
「お前、俺のことをどこまで知ってんだ?」
俺はリィハを睨むが、リィハは気にも留めずに言う。
「全て……何て言ったら大げさかもしれないけど、5割以上のことは知ってるつもりよ」
リィハは俺の顔を見て、また不思議な微笑みを浮かべる。
——見れば見るほど、あいつに似てる気がしてくる。——
俺は思わず目をそっぽに向けた。その方向には空よりも濃い青いものがあった。もっと正確に言うと青く揺れる長いものがあった。そんでもって、さっきから存在感が妙に薄くなっていた日向 日和が満面の笑みを浮かべ、俺を見つめていた。
青く長いものはこいつのポニーテールだったようだ。
「なっ、何だよ……」
「ほら、あっち見て!」
日和が笑顔で指差した方向。俺達が進んでいる向こうには一つの大きな建物がそびえ立っていた。
学校か——。別に何の思い出も、思い入れも無いただの安物の塗装がされた建物——。俺には必要の無いものだ。
俺はそうな風に考えていると、急に日和に左手を引かれ、こけそうになり、踏み出した右足に力を入れてしまう。左手を握っている手はぎゅっと掴み、離そうとせずどんどん引っ張っていく。俺は体制を整えることも出来ず、ただ走らされるように引っ張られていく。
「学校、楽しいよ! すっごく楽しいんだよ!」
日和は俺の方に向くとそう言った。日和はリィハのような微笑とは違って、自分の全部をさらけ出したような満面の笑みを浮かべていた。朝日でも夕陽でもない。いつも、高くまで上った太陽が全部を照らしてくれるような光——。そんな笑顔だった。
到底俺には出来なさそうなことだった……。
「ちょっと待て、止まれ!」
俺が停止を促すと、日和は止まり、俺を見た。
「いきなり走り出すな……」
「御免……だってすぐそこだったんだもん……学校」
肩をしゅんとさせた日和は反省してる様子だった。
俺は別にそこまで怒ったつもりは無かったんだが……にしても、こいつは本当に学校が好きなんだな……。
俺はゆっくりと俺たちに近づいてくるリィハを一瞥し、言った。
「楽しいか、楽しくないかは俺が決める。お前が決めることじゃない」
それでも日和は無邪気な笑顔で言う。
「絶対に楽しいって感じるよ! 絶対に!」
「はぁ……」
俺は一つ大きな溜め息を付き、もう一度学校と呼ばれる建物を見る。
あいつが居なくても、楽しいと俺は感じれるだろうか? 楽しいと感じてしまえば俺は明日からどうすればいいのだろうか? 楽しいと感じたくない……その言葉が心の中に過ぎる。
俺はやっと追いついてきたリィハを一度見ると、前に向きなおしもう一度歩き出した。さっきと同じように挟まれて歩く俺は両隣を見る。
右には太陽のような満面の笑みを浮かべて、歩く青髪の少女——。
左には月光のような不思議な微笑みを浮かべて、歩く白髪の少女——。
俺はただ一人のことを考えた……。決して忘れないように……。
月姫——。
- Re: Ravinalog γブラック・ラビットγ ( No.7 )
- 日時: 2010/07/03 08:33
- 名前: ヨシュアさん ◆FdjQaNCWZs (ID: bQobMYPz)
第四話 —一緒に帰るのはまたねを言うために—
やっぱりというか、予想通りというか……学校は結局、思ったほど楽しくは無かった……。
授業は全部退屈なものばかりだし、今まで来なかった俺に興味本位で近付いてくる人間はうざかったし、何よりもあいつが、月姫がいない……。友人が居ない学校で楽しく過ごそうなんて、無理なことだった。
いつもの日々——。
それに戻ることに恐怖なんてない——。此処に未練も無い——。
俺は塗装がところどころ剥がれ、他にも剥がれかけている建物に背を向けた。
もう戻ってこないだろう。此処には……。
俺は決め付けでは無く、直感でそう思った。
その時だ……。
「おーい! やいばねく〜ん!」
妙にマヌケっぽく、幼い子供のような感じの呼び方。日和の声だ。
後ろに振り返ると、そこにはこっちに走って向ってくる日和がいた。
ディスプレイの太陽が時間帯に合わされ、空は茜色に染まり、
赤ともオレンジとも付かぬ光に西ベースシティは照らされる。
その光に照らされながら、日和は登校の時と同じ笑顔で俺の目の前までやって来る。
どこから走ってきたのか、日和は肩で息をして、額に汗玉を浮かべていた。夕日の中でも一際映える日和の深い海のように青いポニーテイルが少し乱れている。
「どうした?」
俺は無愛想にそう言う。
日和はまだ荒い呼吸を整えながら、そんな俺に笑顔向けてくる。
「一緒に、帰りたくて……えへへ」
まだ何か企みがあるんじゃないかと俺は疑った……が。
こいつはそんなことを考えられる人間じゃない……出会った時から、少しわかっていた。きっと俺と一緒に帰りたいというのも本心から言ってるんだろう。
「ダメ……?」
五月蝿いだけで何の薬にも、毒にもならないこいつが子供っぽく言ったのか、それとも元々こいつは子供っぽいのか……。まぁ、どう考えても、後者だろうな。
俺は浅い溜め息を一つ吐き、日和の同行を了承しようと「どうせ、最後だ」と言った時だった。
「それじゃあ……私も一緒でいいですよね」
突如として後ろから、聞こえてきた声。
俺は驚き、一つ飛び退いてしまう。
「あら、そこまでびっくりしなくても……」
一糸も乱れぬリィハはクスッと笑うと、俺の目を見てもう一度言った。
「私もご一緒しますよ」
俺はリィハの突然な登場でたじろぎ、思わず了解をしてしまった。
「あ、あぁ……」
俺は日和を見やって思う。
こいつはどっちかって言うと毒だな……。
リィハはにっこりと微笑むと、日和の傍に行き、まだ息切れしている日和の背中を撫でた。
俺は少しリィハを睨んで言う。
「つーかお前、忘れてねーか?」
リィハは日和の背中を擦りながら、「ふふっ」と笑う。
「約束のこと、別に忘れてませんよ。私はあなたに聞かれなくても教えるなんて、一言も言ってませんから」
リィハは涼しい顔でそう言った。
「わ、忘れてたわけじゃ——!」
「それにあなたも、帰るのに私を置いていこうとしてたでしょ。だから教えない。お相子よ」
それを聞いて、俺は一つ大きな溜め息を吐いた。
「……そうかよ、だったらもういい」
「あら、いいんですか?」
リィハの不思議な微笑みに変化は無かった。だけど、少しは驚いてるようだ。日和の背中を擦る手が止まっている。
俺は日が傾いてる西の空を見た。偽者のくせにやけに眩しい太陽。それに合わされて、変わった火の色のようなオレンジの空。
俺はこれを初めて見たとき、これが本物の太陽なんだ……って、しばらくずっとそう思っている時期があった。これは偽者だ……ってのを何時誰に聞いたかまでは忘れてしまったが、その時の俺にとってその言葉こそが嘘に聞こえ、世界が逆さまになったような衝撃だった。
いつもと変わらない軌道で太陽が東から西に下りて、そして夜はいつも同じ場所で輝く星と日ごとに欠けては満ちていく月があって、定期的に配置された雲がそれらを見え隠れさせる。それが、俺の知ってる空で、俺の世界のはずだった。
だが、しかしその小さすぎる世界は一つの言葉で微塵にも砕け散り、消えてった。
でも、どうだろう? それを知ったところで次の日も、また次の日も、俺の見る世界が変わっても、俺の日々が変わることは無かった。
だからこそ、俺がクロウサギであることを誰が知っていようが、俺の日々に変わりなんてない。知ったそいつも変わらない。クロウサギの招待を知ってる。ただそれだけの事実。大体、俺のログイン状況を探れば俺がクロウサギだってことは誰にでも、すぐにわかる。絶対に知られないことじゃない。
大体、俺はクロウサギの招待がばれようが、クロウサギでveilを狩り続ける日々は続くんだ。
誰に見られようが、誰に知られようが、黒の兎は走り続け、狩り続けるんだ。
「別に……もういいって思っただけさ」
リィハは俺の顔を下から覗き込む。
「もしかして……別に大したことはない。って思いついた?」
口の右端を吊り上げ、俺は苦笑に程近い微笑みをリィハに見せる。
「お前って、何個も先回りした考え方してるんだな……」
「そうじゃないと、脅しなんて出来ないわ」
リィハは背中を擦るのやめ、右手を差し出したかと思うと俺の右手を握って、口を開く。
「私は周りに言いふらして、あなたを困らせることが出来るわよ。それでも、もういいって言える?」
俺は鼻で短く笑い、こう言った。
「お前って、そんなつまんねーことする奴じゃないだろ」
リィハはにっこりと微笑んだまま、少し首を傾けて、「まぁ……そうね」と言った。
リィハが握った手を離すと、そこに体力が戻った日和が割り込んでくる。
「ねぇ、さっき言いかけてた……『どうせ、最後だ』って、どういう意味?」
日和は随分と心配そうな瞳で俺を見つめていた。
「別になんでもねーよ」
俺は素っ気無く答えた。
日和は潤んだ瞳でそれに食って掛かる。
「学校! もう、来ないでおこうなんて……思って、ないよね…
…?」
こいつはどうも勘がいいらしい。
「思ってねーよ」
俺は本当は思ってることを隠し、嘘を言った。
嘘でもこう言わないと、この場は落ち着きそうに無い。
「本当……?」
日和は涙目な上目遣いで言う。俺はそれにそっぽを向いて、短く「ああ……」と答えた。
リィハは俺の心情をわかってるのか、わかってないのか、とりあえず日和をなだめようとしてくれてる。
- Re: Ravinalog γブラック・ラビットγ ( No.8 )
- 日時: 2010/07/03 08:34
- 名前: ヨシュアさん ◆FdjQaNCWZs (ID: bQobMYPz)
「大丈夫だから、日和。泣かないで……ほら、あなたの可愛い顔が涙で皺くちゃになっちゃうでしょ」
リィハはハンカチを取り出して、日和の瞼に溜まった今にも零れそうな涙を拭い取っていく。
そこまでして、俺に学校へ通ってほしいのか……? 何のために……。
「じゃあさ、刃音くん。一緒に帰ってくれる?」
俺のため、自分のため、その両方なのか。それとも一方なのか。いや、そんなことはどうでもいいことだな……。
「わかったから、泣きそうになるのはやめてくれ」
そう言った瞬間、日和の目尻にはまだ少し涙が浮いていたが、笑顔はさっき見せたお日様になっていた。
「って……言っても、俺は寄るところがあって、しかもそれは逆方向。結局、一緒には帰れない。まぁ、ここで待つって言うなら、別に俺は構わないけどな」
目の前の二人は練習でもしたかのように、お互いの目線を同時に合わせて、二人同時に言う。
「付いていってはダメですか?」
「付いてっちゃ、ダメ?」
二人の瞳は懇願を含んだ脅しに限りなく近いものだった。
俺はそれにたじろぎ答える。
「つ、付いてくるって、病院だぞ?」
二人は俺を見つめてくる。俺はそれに耐え切れず、仕方なくオッケーしてしまった。
「お前ら……そこまでして一緒に帰りたい理由があるのか?」
リィハは横目で日和を見る。どうやら、ここは日和に任せるという合図らしい。
日和はその合図を見てたのか、見てなかったのか、喋りだす。
「だってね。……またねって、また明日会いたいって言いたいから、一緒に帰りたいの!」
日和はディスプレイの偽者の太陽なんかよりもずっと眩しい笑顔でそう言った。
「そうか……」
俺はまだ、一日しかこいつと一緒に過ごしてないけど、何となくこの言葉は日和らしいと、俺は思った。
- Re: Ravinalog γブラック・ラビットγ ( No.9 )
- 日時: 2010/07/09 06:48
- 名前: ヨシュアさん ◆FdjQaNCWZs (ID: bQobMYPz)
第五話 ——白雪月姫——
俺は通い慣れた病院の通路を歩いていた。
実は塗りなおされたんじゃないかと疑ってしまうほど綺麗に磨かれた白い床。ナースがいつもカートのようなもので運んで散布しているつんと鼻をつく薬品の匂い。横を通り、軽く会釈をしてくる医者や患者。何もかもがいつも通りように見えた。
だが……何かが違う。入り口兼出口から、この病院に入ってきたときから、妙に病院内は慌ただしい雰囲気があった。
そして、俺もいつもとは違い二人の少女を率いて、いつもの病室へと向かっていた。
「ナースさん達とは顔見知りみたいね」
リィハは挨拶代わりの会釈をしてくるナースに同じ会釈で返しながら言った。
「まぁ……別に仲が良い訳じゃないけど、あっちはそこそこ見慣れてるんじゃないか?」
俺はそれに素っ気無く答える。
ちなみに日和は病院が物珍しいのか、口を閉じ、さっきから頻りに首を動かして辺りを見ていた。正直、病院で五月蝿くされたら、困る俺にとっては静かで好都合だ。
日和ほどとは言わないが、リィハも少し物珍しそうに周りを見ている。
「それで……あなたが向かってる部屋はどこなの?」
「この西病棟の333号室だ」
白い壁に取り付けられたこれまた白いスライドドア。そのスライドドアには番号が記入してあった。——331号室——
もうひとつのスライドドアを通り抜けた先。そこがあいつの……。白雪月姫の病室だった。
333号室のプレートが付けられたドア。ドアの横にある壁には『白雪月姫』の表札。
俺は一瞬躊躇して、ドアに掛ける手が止まる。
本当に……こいつらを連れてきて良かったのだろうか? 月姫のところに。
俺は自嘲するように微笑んだ。
いや、月姫ならこう言うな……。
“そんな些細な事実を気にする余裕があるなら、もっと他人を気づかったらどう?”
今更迷う必要なんて、無い——。
俺はドアに手を掛け、開けた。
決して曇ったり、雨が降ったり、することの無い夕晴れに透かされたカーテンの何とも言えない光に一人の少女は照らされていた——。
雪のように白い手。雲のように白い頬。月明かりのように白く、長く伸びた髪。そんな人形のような人間が一つの乱れも無いベッドで“ねむり姫”のように目を閉ざし、天井に向いて眠っていた。
美しい光景なのかもしれない。だが、同時にこんなものを美しいと思ってしまう自分がたまらなく醜く憎い。
月姫——。
「綺麗な人だねー」
部屋に入ってきた日和が言った。眠ってる月姫を起こさないためか、声を出来るだけ小さくしているようだ。
「うん……本当に綺麗ね……」
続いてリィハも同じように言う。
俺は何となく誇らしかった。別に月姫とは恋人という仲じゃなかったが、綺麗と呼ばれる友人がとても誇らしく思えた。
だけど、これは作り物の美しさだ——。月姫は起きない……。
喋ってくれない。話を聞いてくれない。笑顔を見せてくれない。冗談を言ってくれない。怒ってくれない。悲しそうな顔を見せてくれない。下手な料理も作ってくれない。歌も歌ってくれない。今日も明日も明後日も、ずっと……。
起きていた月姫の方が何百倍も美しかった。普段、気づかないぐらいに美しかった……。
そう、俺は気づかなかったんだ——今、月姫は……。
「月姫は……6年眠ってる。ずっとここで……」
それを聞いたリィハは目を閉じて、何か考え事をしているようだった。目を開けて、もう一度月姫の顔を見ている。納得した、ということなのだろうか?
日和の顔は驚きで満たされ、ゆっくりと口から零れるように言葉が出る。
「6……年……」
俺は眠り続ける月姫を見つめる。
これがおとぎ話なら、どれだけ良かったんだろう……。目の前に眠るのがどこかのお姫様で、俺がそれ見つけられたなら、キスで目覚めるなら、俺は迷わない。たとえ起きたときに怒ったとしても。
部屋がしばらく音を失ったような沈黙に包まれる。
「月姫さんは……黒兎にとって、どういう存在だったの?」
リィハがこの空気を破るように口を開いた。
どういう存在——。
友人——の一言で片付けてしまうのは簡単だったが、俺にとってそれ以上の存在であることははっきりとしている。だからといって、片思いしてきた想い人というわけでもなかった。
だからこそ、俺はこう答えるしかなかった。
「パートナーだよ。クロウサギの、最初で最後のパートナー……」
白雪月姫。シロウサギ——。
「今日、初めて来た私が聞いていいことなのか、わからないけど……何故、月姫さんは意識を無くしているの? 六年も……」
珍しく遠慮がちに聞いてくるリィハ。こうなった理由を本気で知りたいんだろう。
俺はゆっくりと目と閉じて、一生かかっても忘れられそうにも無いあの時の光景がすぐに脳裏に浮かぶ。
俺は「わかった……」そう呟くように言った。
出来るなら、あまり思い出したくない……。
出来ることなら、自分の記憶の中から削除してやりたい……。
でも、俺は……決めた。俺はクロウサギ。
黒い兎だからこそ、俺は——。
“逃げ道から逃げ続ける!”
- Re: Ravinalog γブラック・ラビットγ ( No.10 )
- 日時: 2010/07/12 23:06
- 名前: 空 ◆EcQhESR1RM (ID: BwWmaw9W)
鑑定屋です。
終わりました!
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