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回転と僕
日時: 2010/09/13 08:07
名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: lD2cco6.)

回転と僕



バンド青春小説ではない。
ちょっと壊れた愛がある。




目次

登場人物紹介(たまに更新) >>12

第一章
プロローグ 回転と僕 >>1
第一話 エルレガーデン>>3>>5>>6
第二話 三年後>>7
第三話 出会いの始まり①>>8
第四話 出会いの始まり②>>9
第五話 出会いの終わり①>>10
第六話 出会いの終わり②>>11

第二章
第七話 恋?>>13



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Re: 回転と僕 ( No.6 )
日時: 2010/09/02 22:00
名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: gQELPCFY)

 帰宅後、すぐ開封し、CDプレイヤーに挿入する。
 さあ、先ほどの正体を、僕に教えろ。
 祈るように、睨む。

 再生———。

 オープニング。
 爆音。
 しかし僕にはしっかりと聴こえていた。

 なんだかよくわからなかった。
 でも、
 とても、どきどきした。



 それからすぐ、ギターを始めた。
 同じように、感じたかった。

 僕は何かを求めるように、音楽を貪った。




 

Re: 回転と僕 ( No.7 )
日時: 2010/09/02 22:01
名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: gQELPCFY)

第二話  三年後



 高校生になった。

 別に特別入りたかったという訳ではない、電車で三駅先の、私立高校。
 軽音楽部は存在した。が、この部活に入りたいとは思えなかった。ギターの腕はハタから見ても中々のものになり、バンドを組みたい、と思い始めた。でもだからといって、イコール軽音楽部に入る、とはならなかった。中学生の時からこの辺りは何一つとして変わらない。

 もちろん、変わらないといっても進化しているつもりだ。軽音楽部の見学には行ってきた。
 だが、ただ表面的にかっこいいだけのアニメの曲や、相変わらず濁った「音」にしか聴こえない「音楽」ばかりで、バンドをやりたいという気持ちが深まる事はなかった。

 しかし僕が考えている「道」は他にもあった。

 学校が終わると、すぐ近くのライブハウスに足を運ぶ。ここが一番、僕曰く「音楽」というものを聴ける確率が高いのだ。少なからず、同じものを感じる者達が集まる場所だからかもしれない。
 
 顔馴染みの店員と他愛のない会話をし、掲示板に目を向けた。
 ライブハウスの掲示板には、色々なバンドがメンバーを求めるポスターが張り出されている。
 僕は今、ギタリストを求めるバンドのどこかへ入ろうと思っているのだ。

 僕が演りたいのは、ハード。
 ロックを知ってから、洋楽のハードロックバンドにものめり込んでいった。

 言葉では表せない、あのどきどきする感じ。

 あれを味わえるバンドは、果たしてこのビラ紙の中に存在するのか?
 僕はあるバンドの求人ポスターに目を止めた。求めているのはギタリスト。結成時は比較的最近。ポスターに書かれている手書きの字体の雰囲気が視覚的に好みであったという、どうということない、たったそれだけの理由だった。
 変なところにこだわりがあるが、それ以外はかなり適当なのだ。

 「ねえ大助さん。このバンドって知ってる?」

 大助さんというのは、ここで働いている唯一の店員だ。学歴がなく、仕事を探すのに苦労したとかぼやいていた。髪は脱色していて、見た目三十代前半。

 「『ブルージーンズ』だろ?
ここに来るバンドで知らないとこなんかナーイよ。そのヴォーカルは中学ん時からここ通ってんの。いつもバンドがしたーいしたーいって煩い野郎だった」

 「学生なんだ」
 この趣のある字を書くのはそいつなのか?ふと思った。

 「そのヴォーカルだけな。ベースもドラムも、ワケアリ林檎だぜ」
 「なんなのその表現」
 僕は思わず苦笑した。

 「すこーし人より傷がついてるが、楽器やらしたら一丁前。まさに、ワケアリ林檎。俺はその方が好きだな。まあ林檎はなんでも普通に旨いけどな」
 「比喩は上手く使ってよ。てかブルージーンズってバンド名、だせぇな…」
 そういうと大助さんは大声で笑った。

 「気に入ったのか?」
 「バンド演奏聴いてないのに、気に入るも何もね…」
 「相変わらず上から目線な野郎だな〜。ま、なんと都合よく今日はブルージーンズの演奏があるんですよねぇ」
 「え」

その時は丁度訪れていた。僕は特に期待はなかった。ただポスターの字と、大助さんのユニークな比喩表現に導かれ——。

扉を開けると、ゴゴゴと爆音の予兆が広がっていた。

Re: 回転と僕 ( No.8 )
日時: 2010/09/04 15:32
名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: lD2cco6.)

第三話   出会いの始まり −①



 まあ簡単にいえば、そのバンドの音楽は僕のドストライクであった。
 本当に一言で済ませられる、心から愛する音楽というのは本来あっけないほど単純なんだろう。

 たぶん、演っているのはオリジナルの曲だと思った。
 ヴォーカルの「彼」の声がすべての音に乗る。流れの先頭に立って。
 ギターの腕は多分、僕の方が上だと思うが、歌は上手い。ロック向きの力強い声だ。腹から出る声というのはここまで気持ち良いものだったろうか?

 ベースの姿を見た時、思わずぎょっとした。
 髪は貞子を彷彿させるように、顔を覆う。身体は骨のように細く、身長は180超はあるだろう。重い楽器を背負う肩幅は小さい。年齢不詳。しかし体型からして、男だろう。第一印象、一言で表すなら、こんな言葉がぴったりというのもおかしいが、これがベストだ。「きもい」。

 ドラム、かなりの大男。腕の膨らみからして、力強い音を出すのは頷ける。が、学生ではないだろう。オーラそのものに貫禄がある。ライトに照らされ、男の身体に現る、刺青。その迫力といったらこの上ない。

 このバンドで演れたら、最高だろう。

 淡々と思う。
 脳裏に浮かぶ、満足気な己の精神。
 心からの欲、妬けつくような渇き。
 体感し、得たい。
 欲しい、欲しい。あの舞台が。あの仲間が。
 
 演奏が終わった。
 ヴォーカルは最後、マイクに向かって小声で「ありがとう」と言った。
 素声で、高校生くらいだと分かる。ベースは相変わらず俯いたまま、さっさと舞台を後にした。

 

Re: 回転と僕 ( No.9 )
日時: 2010/09/08 21:29
名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: lD2cco6.)

第四話  出会いの始まり −②


 「え、マジで?」

 目の前で目を大きくする幼顔の男。驚いた。
 この制服…。僕と同じものだった。

 「ちょお宮木〜!こいつ俺らのバンドに入りたいんだって!てか同高じゃね!?」

 出演者控え室でクーラーの真下で一人はしゃぐ。
 宮木と呼ばれたのはベースだ。何も喋らず、イスに座っても尚俯き、汗を拭いていた。
 
 「ふーん。今の聴いてか?」

 ドラムの大男が僕に近づく。見た感じの年齢は四十代か五十代っというところ。

 「はい…。ギターを募集してるというポスターを読みました。僕、ギターやってるんで」
 「ほほ〜。良いんじゃねえか?まあ、俺はドラム代理だから決定権はないけどな」
 「え、そうなんですか」

 ドラム代理とはどういう事だろうか。
 ドラムもいないということか?いや、それなら募集要項にもドラムを明記するはずだ。

 その時、ベースがチラッと僕を見た。目が合う。
 髪と髪の間から現れた瞳は、光が無く、いったいどういう思いで僕を見たのか、分からなかった。
 僕は何も言わず、目をすぐ逸らした。

 「俺はね、桜崎八雲ってーの。よろしく。あ、よろしくってのはバンドとしてよろしくじゃなくて同じ高校の人としてよろしくって事ね。で、何組の何さん?」

 わざわざそんな事言わなくても。いまいち掴めない。このヴォーカル。いや、桜崎。

 「1−5。吉川、春臣です」
 「ハルオミ?かっけー!俺は2組!」
 「そっちだって、ヤクモって。聞いた事ない」
 「そだな!あははは!」

 本当、陽気な奴だ。これから学校でも会うかもしれない。でも仲良くやっていけそうな気がした。

 「うーん、まあ吉川君とはこれから仲良くやってくとして。バンド話はまた別なんだよねぇ」
 「実力とか、見るか?」
 「あー!それも大事!でもね、こっちのお姫様が喩え実力があっても気に入らない事にはどうしようもないわけ」

 お姫様?ここに女子は一人もいないが…。
 まさか。

 「お姫様ぁ?ぶはは!あいつはどっちかってーと女王様、だろ!」

 ドラムが笑う。僕は聞いた。

 「あの、そのお姫とか女王って・・・?」
 「あー。ドラムだよ。このバンドの本当のドラマー。俺はそいつの親戚みたいなもん」

 ドラムは女。そこに特に大きな感動があった訳ではないが、女性が力強くドラムを叩く姿を思い浮かべると、漠然と魅力的に感じた。

 「う〜ん…。まあ、とりあえず、行きますか!」

 桜崎がパンッと手を叩いた。

 「どこへ…?」

 僕がそう問うと、桜崎はニヤッと笑い、僕を見た。

 「女王様のところへ!」



 

Re: 回転と僕 ( No.10 )
日時: 2010/09/11 20:52
名前: 95 ◆/diO7RdLIQ (ID: lD2cco6.)

第五話  出会いの終わり −①



 通称女王様、が住んでいるという家、そこは小さなスタジオだった。
 住宅街を抜け、少し寂れた雰囲気の家が立ち並ぶ。そんな中に大きな長方形型のコンクリートを置いたような——。家の外観など興味無し、という建てた者の意図が見えるようだ。

 「ここは、俺の家ね」

 ドラム代理——入江和義さんは躊躇なく家に招待した。見た目に似合わず、気さくで、優しく、良い大人な感じの人だ。

 ベースの宮木というは、そそくさと中に入った。太陽の光から逃げるように。僕も話しかけた訳ではないが、お互いの存在を無視するように、一度も会話していない。

 桜崎は僕の隣に来ると、小さく耳打ちした。

 「もうね、俺はこの家に入れるって時点で加入オッケーしたようなもんだよ。宮木もあんな態度だけどさ、春臣君のこと嫌いじゃないと思うよ」
 「いや、だって好きとか嫌いとかいう時点でまだ話したことない…」

 思わず顔を顰めた。どう見てもあいつ、俺のこと嫌いだろう!と叫びたかった。桜崎に心を開いているのはなんとなく分かるから余計に、僕に対する冷たい態度が際立った。
 しかし桜崎はそういう理屈みたいなものを呑まないタチなのか、当たり前のように否定する。
 
 「あのね、会話とかしなくたってそういう直感みたいなものがあるわけ!臣君だってあるでしょ、見た途端、あ、こいつ嫌い、好きとかさ!」
 「まああるけど…。そういうのって大半が変わる……つうか臣君て」
 「えー。じゃあ臣君は宮木のこと嫌い?直感でさ」

 桜崎に問われ、玄関で丁寧に靴を脱ぐ宮木を見た。相変わらず髪の毛で顔が見えない。
 直感で——。

 「——苦手かな。何考えているのか分からないとか、そういうのは平気だけどさ、それが不気味に感じるのって初めてなんだ。だから…苦手」
 「不気味かあ……」

 その時、なぜだかはわからないが、桜崎は笑っていた。
 こいつもかなり、分からない奴だ。


 家の内装は、ごく一般的なものだった。
 しかし廊下を少し歩いたところで、急に後から増築したような段差があり、危うく転びそうになった(桜崎はその度笑っていた)。床が一段下がった細い廊下。五メートルほど進むと、厚い扉があった。

 「ここがスタジオね。かなり広いよー。ピアノとかドラムとか真夜中にバンバンやっても外から漏れる心配は無し!」

 そういって和義さんは暑い扉を開ける。
 中に入ると、そこは本当に広かった。電気を点けると、かなりの眩しさに目が眩んだ。
 壁には十台以上のギターがあり、ドラム、その奥にはピアノ。
 部屋の奥には透明なガラスで囲まれた小さな部屋もあった。

 「あの小さい部屋は休憩室みたいなもん。知り合いのバンドがよくここに泊まり合宿やるから、あそこには冷蔵庫、テレビ、ソファがあるよ。この部屋にはトイレもシャワー室もある。有料で貸してる」

 僕は素直に感心して見渡す。
 ここで寝る間も惜しんでバンド練習か。青春ぽいなぁと他人事のように思った。

 「和さん、ヒメは?」

 桜崎が和義さんに聞く。その時——。

 「ここにいるけど」

 みんな一斉に振り向く。
 髪は脱色していて、白に近い金色、ストレートでセミロング。身長は150程だろう。目は大きく、眉毛は細く、色白で、かなりの細身。だらしなく黒のTシャツとだぼだぼのジーンズを着ていた。
 そしてその細い腕から、微かに見え隠れする、黒い影。それは和義さんの腕に見たものと同じ、刺青。

 「なんだヒメ、起きてたのか。寝てると思って今から起こしに行こうと思ってたんだぞ」

 ヒメと呼ばれた少女は、大きく欠伸をしてから気だるそうに声を発した。

 「おしっこしようと思って起きたら、なんか騒がしいなと思って。泥棒だったら大変だから見に来た。そしたら叔父さん達で。期待して損した。じゃ」

 そういって少女は去ろうとした。
 和義さんはため息をついて止める。

 「まてヒメ。この吉川君がギタリスト志望だという事だ」

 すると少女の足が止まる。そして振り向いた。
 僕は穴が開くほど凝視され、思わず生唾を飲んだ。数秒後、やっとその痛い視線から開放された。

 「何それ、私が決めたいといけないわけ?」

 少女は眉を顰める。
 そうか、名前がヒメ、なのか。今理解した。

 「俺はさ、ヒメにちゃんと俺たちのバンドメンバーとしてドラム叩いて欲しいわけ。だからヒメも気に入らないと駄目だろ?」

 桜崎が言うと、ヒメは更に眉間に皴を寄せる。

 「叩いて欲しいって、叩いてるし。それに私が気に入る人間なんてそうそう居る訳ないじゃん。なんでか分かる?」
 「えー。うーん…。分かんね」

 なんだこの会話…。ヒメという少女は、どう見ても僕や桜崎と同い年くらいだろう。タメでこんな会話と空気、初めて見た。

 「自分を気に入る人間が居ないから…」

 そう答えたのは、宮木だった。
 普通の、低い男の声。女性が好きそうな低音だった。俯いたままだったが、声は不思議としっかり聞こえた。

 「そういうことよ」
 「そんなことねえよぉ。つうか寂しいこというなよお」

 桜崎は子供が駄々こねた時のような声を出す。

 「うっさい。じゃ、私眠いから。そこの人が、バンドのメンバーになろうと、私が辞めることないから安心して」
 「だっから!ヒメさ、ライブハウスの演奏とか一緒に演ってくれないじゃん。俺だって宮木だって、ヒメと一緒に演りたいんだよ」

 そうだ。和義さんがライブハウスでバンド代理として演奏していたというのだから、きっと正ドラマーは何か急用でもあったのだろうと予想していたが、今まで寝ていたというではないか。どういうことだろう。
 腕に見える刺青と同じように引っ掛かり、気になった。

 「…わーったよ。じゃあ今から、みんなで演奏しよう。面倒なことは、それから決める」

 面倒なこととは、ライブハウスでの演奏のことだろうか。
 僕、桜崎、宮木、そして、ヒメ。
 出会って一時間もしないこのメンバーで、一体何を見出せるだろうか……。
 やはり他人事のように思いながら、桜崎にギターを構えるように指示された。


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