ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 無題
- 日時: 2014/02/23 01:02
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: cA.2PgLu)
げらげら。
げらげらげら。
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- Re: 神様の懐中時計。 ( No.25 )
- 日時: 2011/02/13 01:04
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OTVrSGpZ)
- 参照: チンピラの性格とかわからんし。
小さな火種が生まれた。
それは忽(たちま)ちの内に青年達の衣服を融かして燃え上がり、それに痛みや苦しみを感じるよりも刹那速く、声を封殺するように巨大な紅蓮の焔(ほむら)と化す。その紅蓮を見据え、龍華は林中に響き渡った青年達の悲鳴を振り払い、その足を三歩、青年達へと踏み出しながら尚も叫んだ。
「路地裏でやるんだったらまだ可愛げあるわよ! でも、あんた達は古くなってるから、誰も来ないからなんていうフザけた理由で、今も神様が見守っているこの祠の前であんなことをしたのよ! 仮令人の目は切り抜けたとしても、神様は全部見てる! あんた達はやったことはあたしが今やってるこんなつまらない仕返しなんかより、ずっとずっと苦しい責め苦に値するわ! こんなもの、地獄の責め苦に比べたら至福よ!」
今のうちに味わっておきなさいよッ——龍華の絞り出すような声と共に、更に炎が勢い付いた。その苦痛に赦しと援けを請う青年達の叫びは森全体を揺るがし、しかし幾ら待っても青年達の叫び求める助けは来ず、赦されもせず、彼女の涙が混じった叫び声は更に切迫感を増していく。
「これだけで赦されるなんて思わないでよ? あんた達は普通の人代表なんだから、普通の人が普通じゃない人にしてきてる差別も偏見も犯罪も、全部その身で受けてもらうんだから! だからまだ死なないのよ、死ぬのはこの後数十年も先、あんた達があたし達普通じゃない人間の恨みもこの仕返しも過去に犯した罪も、みんなみんな! 全部を忘れ去った頃!」
炎は竹を追い越すほどに長く伸び、その勢いは何にも変えがたく凄まじい。
朱雀は獣道の横に転がっていた手桶に目を付け、それで手水場の水を汲み上げようとしたが、龍泉寺によってそれは阻止された。
「何でだ? あのままじゃアイツ等、殺されるぜ」
「あの炎は龍華が、そして世の中の虐げられてきた超能力者たちが長い間心の奥底に溜め込んできた激情をそのまま代弁したようなものです。だから、この手水場の水を全部使ったってとても消える代物じゃない。果凍瀧に油をばら撒いて火をつけても融けないのと同じような原理ですよ」
その答えを聞いた朱雀の顔に焦り。
「ま、まさか火ィつけたことあるのかお前?」
「過去にやった人が一人だけ。……では」
「ん? あ、お、おい待て! 龍泉寺!」
朱雀が手を伸ばし、立ち上がる龍泉寺の腕を掴むより先に。
龍泉寺は走る挙動の一つすらなく、憤怒の形相をする龍華の前に、背を向けて立っていた。
「龍泉寺君、どうして?」
憤怒の形相を解こうともせず、龍華が龍泉寺の背を見据える。その途端、青年達を炙っていた炎がパッと消えて龍泉寺の背広に火種が移り、それは即座に燃え上がって、巨大な一本の火柱と化す。その有様を朱雀が呆然と見つめる中、彼は叫ぶことも倒れることもせず、只管無言で直立する。
「答えて!」
声と同時に更に火柱の勢いが増す。龍泉寺は漸く一つの声を絞り出した。
「初デートだよ、今日」
「……!」
ふっと、炎が消え、
龍華の虚勢が三度崩れ去った。
龍泉寺は焼かれる直前とまるで変わらぬその後姿を声を上げて泣く龍華に晒し、しかし苦痛に耐える脂汗をその額から流しながら、それでも辛うじてその足で地面を踏みしめる。その姿を見た朱雀は今度こそ手にした手桶に溢れんばかりの水を汲み、徐に彼へ近づいて、頭から水をぶちまける。
龍泉寺の姿勢が一瞬揺らいだ、
「っと、何するんですか朱雀さん。腰はちょっと確りしたけど、痛いじゃないですか」
が、それを察知される前に踏みとどまり、朱雀に軽口を叩く。
「うっせぇ。刀だって水で冷やさねーと堅くならねーのと同じ原理だよ。シャッキリしろ」
朱雀も同じように軽口を叩き、二人共龍華に向かって少しだけ笑んで見せる。
「二人共……」
龍華も泣きながら笑み、龍泉寺は少し足を引き摺りながら彼女の元へと歩み寄る。
朱雀はケラケラと快活に大きく笑って緋色の翼を大きく広げ、真上の雨天へ向かって飛翔しながら、お呼びの時は合図しろやぁ、と大声を上げてから何処へと飛び去っていく。龍泉寺はその声に少し擦れた声で了解、と返事してから、立てるだけの力を失って落ちかけた膝に手を添えて無理矢理堪えた。
「あ、だ、大丈夫?」
「男は女の子を心配させないし、女の子は男の心配をしたらダメなんだよ」
龍泉寺はわざと軽く言って龍華の肩を叩く。龍華は少しだけ肩を竦め、「だったら心配なんかしてあげないわ」と小さく笑った。しかしその笑みは地面に倒れた青年を見るなり消え去り、沈鬱な表情に沈んでいく。龍泉寺も少しだけ肩を落とし、覚束ない足取りで青年達の下へ歩み寄ると、黙って地面に転がる彼等を見た。
「いっ、つぅ」
途端に、動きもしなかった青年達が呻き声を上げ、ゆっくりと身を起こし始める。
龍泉寺は龍華の言葉を手で制し、ポケットに片手を突っ込んだ無防備な状態で彼等を見据え、青年が全員落ち葉の上に両足を付けた所で、波が引くように三歩足を引いた。そして、憤怒だか恐怖だかよく判らない複雑な感情を含めて己のことを睨みつけてくる青年達に、笑み混じりの言葉を投げる。
「地獄の疑似体験はこれで御仕舞いだ。だけど、本物の地獄はこんなもんじゃない」
「な、に、言ってるんだ、テメェ。マジで地獄があるとでも、思ってんのか?」
途切れ途切れな茶髪青年の反発。だが龍泉寺は余裕の笑みと共に返す。
「あるさ。何ならもう一度体験させてあげようか?」
「……」
「イヤだろ? 分かったらとっととこの場から消えて欲しい。ああ、後ね。今この瞬間から、君達が何か一つでも悪行をしたら、死んだ後にあれよりもっともっと辛いことが待ってるってことをお忘れなく。何処で何をしようが、地獄の閻魔様は全部お見通しだよ。これからは真人間になって生きていくことだね」
途端、逃げるように石段を降りていく青年達の背中へ、ククク、と龍泉寺は意地の悪い笑声を漏らし、龍華にも笑いかけた。哀しげに顔を歪ませていた龍華も漸く笑顔を浮かべ、しかしその笑みは眼窩からこぼれる涙にあっと言う間に消されていく。再三の泣き顔に困惑する彼へ、彼女は声もなく抱き付いて、無言で涙を溢した。
龍泉寺も無言で彼女の肩を擁き、ほんの少しだけ微笑んで、立ち尽くす。
暫し、祠の前には葉摺れの音ばかりが地面に落ちていた。
- Re: 神様の懐中時計。 ( No.26 )
- 日時: 2011/02/14 23:02
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OTVrSGpZ)
- 参照: いろいろ酷いことを言う龍泉寺。
五
「そういえば、何で喧嘩したんですか? 多聞さんとか閻魔さんと」
龍泉寺の自室にて。
一体何処で買ってきたものか、辞書のように分厚い文庫本を持ちにくそうに捲る朱雀へ、敷かれた布団の上に寝転がる龍泉寺は唐突に尋ねた。朱雀は一瞬動揺したように肩を震わせ、彼へ愕然の表情を向けたが、直ぐに平静を繕って本にゆっくりと栞を挟む。そしてそれを徐に閉じ、自身も床の上に寝転がりながら答えた。
「閻魔のときは餡子餅三個、多聞のときは羊羹(ようかん)一本、それを賭けて将棋で勝負したんだ。そんで向こうが負けたんだが、どっちも空っ惚けて埒が明かなかったから、カッとなって暴力手段に出た。そんだけの話だよ。本当なら暴力も賭博も厳禁、もし一回でもやったら地獄行きの大罪なんだが、こと甘いものに関しちゃ皆目がちょっと無くてね……」
くつくつと笑う朱雀へ、龍泉寺は心底からの呆れと恐怖の混じった声で答える。
「す、すっごく軽い理由なんですね、神様が一人死に掛けたっていうのに」
「ったく、お前は幸せ者だぜ。俗世にいたら分からんかもしれんがな、天には甘いものなんて黄泉比良坂の桃くらいなんだ。他はこれっぽっちもありゃしねえ。下界じゃなんか誤解されてるかもしれんが、神様はこと甘いものに関しちゃ結構欲深い。高天原の神様全員集めて羊羹一切れ見せてみろ、飛びつかれてもみくちゃにされるぞ」
龍泉寺は唖然として声も出ない。
朱雀は少しだけ笑って「嘘だよ」ときっぱり言い切り、目を閉じて言葉を訂正する。
「ホントはな、お前がこのまま人間でもなく神様でもない、なんかどっちつかずの奴で居させてやってほしい——そう閻魔に頼んで、無碍(むげ)に断られたから怒ってただけなんだ。お前に神様なんて<縛り>は似あわねえ、冥府の一室でだらだら他の神様と漫才交わしてるような、そういう庶民臭い奴で居てほしい」
「しょ、庶民臭い、ですか」
「おうよ。でも、俺の意見なんかどの神様に言っても通じやしねえ。皆早く竜神様としての力が目覚めてほしいの一点張りだ。多聞なんか酷かったぜ、『庶民臭い竜神様なんて前代未聞だ』なんてこと宣(のたま)いやがる。だから思わず突っかかって、俺が先に撲りかかっちまった。そんで取っ組み合いの大喧嘩になっちまって、通りがかった仁が止めようとしたんだが、俺はワケも分からずに激昂(げっこう)してたから自棄糞になって仁に飛び掛かって、怪我も治ってなかった奴は抵抗もできずに、あのザマさ」
そういいながら力強く握り締めた拳が、小さく震える。
朱雀は握りこんだ己の爪が掌を傷つけることも構わず、益々強く握り締めて、只管何かに耐えていた。しかし押し込めていた激情——罪悪感は隙間から溢れ出て、何をも見透かすような翠眼(すいがん)から、一筋の涙として顕現する。言葉もなくそれ以上の乱れもなく、彼は頬へ伝う涙を拭いもせずに、天井より更に遠いところを見つめて押し黙る。
刹那漂った静寂は、朱雀自身の声で破られた。
「ったくよ、神様失格じゃねーか、俺……」
「いいんじゃないですか?」
即座に龍泉寺が声を投げ付け、言葉を上げさせる暇も作らずに、言葉を続けていく。
「閻魔さんは何だか女々しいし、多聞さんは見た目よりヘタレだし、闇霎様は天然のパッパラパーだし、朱雀さんは何だか乱暴だし、蘗川と虎渓はなよなよしいお手伝いさんだし、黄泉比良坂の神聖らしい桃の木はただの黄桃だし……僕、此処に来てそろそろ一ヶ月近いですけどね。どの神様も僕から見りゃ神様失格ですよ。だからそんなに自分を責めないでください」
朱雀は暫く妙なものを見る目で彼を見つめて居たが、やがて呆れたような笑いを漏らして、静かに「莫迦野郎」と呟く。そして力を失った声が、ぽつりと口から零れ落ちた。
「散々っぱら蔑みやがって……お前こそ神様失格だよ、莫迦タレ」
「それで良いですよ。だって朱雀さん、僕に庶民臭い神様で居てほしいんでしょう?」
畜生、切り返しの上手い奴だぜ——朱雀は涙声で笑って、乱暴に涙を拭った。
- Re: 神様の懐中時計。 ( No.27 )
- 日時: 2011/11/11 19:58
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: hfyy9HQn)
スレ落ちしないうちにあげ。
スランプ此処に極まれり・・・・・・。
- Re: 神様の懐中時計。 ( No.28 )
- 日時: 2011/11/12 17:54
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: hfyy9HQn)
第三章 叫べ人よ、その声は終りを破らめば
十五対一ではろくな抵抗も出来るわけがない。
あっと言う間に袋叩きに遭い、血を吐き、腕が折れても構わず撲られ、蹴り付けられる。意識の朦朧とする最中、幾度も化物だの死ねだのと罵声を浴びせられ、罵詈雑言が一つ終るたびにまた撲られる。こんな状態が続くくらいならば力を使って逃げ出してしまいたかったが、そう決心を固める前に、乱暴な手によって金網の外へと引きずり出された。
ゴミをゴミ箱へ捨てるような扱いである。
折れた腕を掴み、彼の体を辛うじて空中に引き止めていた手は、時を待たずして振り離される。そして傷だらけの身体はアスファルトの地面へ向かって、自由落下していく。僅か数秒の間、猛スピードで近づいてくる死に喉は血に掠れた悲鳴を絞り出したが、近くに居た教師がそれに気付いて走り出す前に、彼は腕で護り損ねた首から、アスファルトに激突していた。
その時初めて。
彼は己の首が折れる音を聞いた。
そして真っ赤に染まった視界に不思議な人影を刹那垣間見た。
その後のことは、一ヶ月近く記憶に残っていない。
只管真黒で、
微かに啜り泣きと謝罪の声だけは覚えている。
- Re: 神様の懐中時計。 ( No.29 )
- 日時: 2011/11/25 18:03
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: 3UdJFDb4)
一
杖に体重を掛け、右足を引き摺って歩むその男は、手に二冊の古い大学ノートを持ってソファに腰掛けた。
そして音を立てないように硝子のテーブルの上へ乗せて、己の差し向かいに座る若い男へ差し出す。
焦げ茶色のジャケットとスラックスに身を包んだ翠眼のその男は、やや憂いのある澄んだ視線をそれに向けて、やはり押し黙ったままノートを受け取る。その翡翠色の目は暫く呆然とした色を湛えて表紙を見つめていたが、やがてゆっくりと手がぼろぼろの頁を捲り、四年前の十一月八日の日付で再び動きを止めた。
次の頁は十二月二十九日から始まっている。
刹那の鋭い閑寂の後、静かに、若いながらも低い声が発せられる。
「一ヶ月以上——何も書かれていませんが」
やや訛りの入ってはいるが、落ち着いて静かな声が、若く低い声の遠回しな問いに返す。
「屋上からね、突き落とされたんですよ。と言うより、否応なく投げ飛ばされたに近いのではないでしょうかね。……そして、彼はそれで首の骨と肋骨を折って、病院に運び込まれたときは心肺停止状態だった。そこから奇跡的に命は取り留めましたが、一ヶ月近く死線を彷徨い続け、拙いながらも漸く文字が書けるようになったのがその日です」
「一体彼に何が起きたんですか?」
勢い込んで声を張り上げる男へ、彼は少し陰のある声で返す。
「虐めですよ。私の知る限り、小学生の頃から少し陰のある青年でしてね、それだけでもかなり酷い虐めを受けていたようですが、彼にあの稀有(けう)な力があると皆が知ってからは殆どリンチに近いことをされていました。先生方もそれは知っていたようなんですがね、何しろその虐めの中心人物が何度も傷害事件を起こして停学を喰らうような乱暴者だったから、手も足も出せずに」
「虐めは徐々にエスカレートし、この次第と言うわけですね」
「その通り。そして屋上から突き落とされた彼を最初に見つけたのが私、と言うわけです」
ふぅ、
と、両者同時に重々しい溜息を吐き、若い男はソファに深く背を預ける。ノートの上に無造作に置かれていた手は徐に頁を捲り、眠たげに落とされた視線は、蚯蚓(みみず)の這ったような型崩れした字を頭の中で解読しながら辿っていく。そしてノートを音を立てて閉じ、僅かに怪訝そうな表情を浮かべた。
「どうかしました?」
男の声に、若い男は首を傾げながら返答する。
「いや、僕の解読ミスなら致し方ないと思うんですが……<リュウは眠る>とは一体どういう意味でしょうか。まあ——『リュウ』を聖獣の『龍』と解釈した場合、そう言う小説があることは僕も知っていますし、読んだことも何度かあります。しかし、今此処でそれは言うことか、と問われると、それは違うと思いますが」
「確かに、彼は<龍は眠る>と書きたかったそうです。しかしながら、後々そのことを問い質してみても、彼は口を閉ざすばかりで何も答えてはくれませんでした。ただ、彼自身は「あの小説とは無関係だ!」と言い張っていましたがね」
なるほど、と言ったきり、若い男は顎に手を当てて沈黙した。
男はその様子を暫し見遣った後、杖に体重を掛けてゆっくりと立ち上がり、部屋の片隅に据え置かれている引き出しを漁って二枚の封筒を取り出し、それを思案する青年へ向かって差し出す。反射的に受け取った若い男は少し疑問気にその封筒を眺め、悩んでも仕方ない、と言う風に頭(かぶり)を振って、日付の古い封筒の中に入っていた手紙を取り出して目を通す。
そして直ぐに目を上げ、声を上げた。
「彼の友人が殺される、前日の日付ですね。コレを見る限り……」
「ええ、彼は確実に友人の草薙君が殺されることも、自分が殺されることも完全に予言しています。此処まで正確に予言していながら、何故この凶事を止められなかったのかは未だに分かりません。もしかすると、心の奥では「絶対にこれは自分では止められない」と諦めていたのかもしれませんね」
声に対する声に男は絶句し、新しい日付の封筒を開いて手紙を出し、目を通す。
手紙の内容は、実に簡潔で意味不明だった。
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