ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 虚構の聖都市
- 日時: 2010/12/23 17:11
- 名前: 秋華 ◆gYINaOL2aE (ID: SmzuliUF)
初めまして、秋華と申します。今回が初めての投稿です。
中傷等をせず、感想やアドバイス等仲よくしてくださると嬉しいです。
未熟な初心者ですが、読んで頂ければ恐縮です。よろしくお願いします。
虚構の聖都市は、過剰ではありませんが、この先暴力・流血等の描写が含まれることがあります。大した事を書くつもりはありませんが、ご了承ください。どうしても不快な方は、控えるようお願いします。読んでからの文句等は受け付けません。
以上の事をご了承の方は、どうぞお付き合いよろしくお願いします。
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- Re: 虚構の聖都市 ( No.4 )
- 日時: 2010/12/24 13:44
- 名前: 秋華 ◆gYINaOL2aE (ID: SmzuliUF)
こんにちは。さっそくコメントを頂いてしまい、恐縮な思いでいっぱいです。
こたつとみかん様
真っ先にご感想を聞かせてくださり、本当にありがとうございました!最初という事で張り切って書き上げましたので、せっかく褒めて頂いたのにボキャブラリーの数がこの先持つか分かりません!
でも更新がんばります。
神凪様
お声をかけてくださり嬉しいです。上でも書かせて頂きましたが、文体持つか分かりません。すいません。でも、コメントをくださり嬉しかったので、これから頑張っていこうと思います。ありがとうございました。
- 第一章 乞食アルの大きな夢 ( No.5 )
- 日時: 2010/12/24 13:54
- 名前: 秋華 ◆gYINaOL2aE (ID: SmzuliUF)
埃まみれの髪を梳きながら、アルは異臭漂う裏路地を徘徊していた。息を吸い込めば腐った食べ物、火を焚く煙、垢にまみれた体の体臭、汚物の臭いがいっぺんに押し寄せてくる。しかし此処に住みつく者ならば、それこそ我が家のように嗅ぎ慣れた悪臭だ。それはアルも例外ではなかった。アルはこの路地を歩く度に思う。
あの澄ました司祭や金持ち連中に、この臭いを嗅がせてやりたいもんだ。
この鼻が曲がる様な臭いに大いに顔を歪め、涙ながらに路地を出ようとするに違いない。どんなに見もので愉快だろうか、と想像しながらアルは口角をつり上げ嘲笑する。
それでも尚、彼らはショックから立ち直れば、この者達は背徳者なのだから当然の報いだ、と非難しだすことは目に見えている。しかしいくら罵られても、アルは確固たる確信があった。
この街は理想郷なんかじゃない。神に守られた聖都市でもない。
ただの独自の商業と技術で独立した、世間が狭く孤立した街。そして吐き気がするほど、貧富の差が激しい街だ。一般市民達は、アルの様な乞食や粗暴者等ストリート暮らしの者達を「神に見放された背徳者」と見下す。
アル達は、あらゆる物のゴミ捨て場のような街の隅に追いやられ、一生を過ごしているのだ。茹る様な夏の暑い日にも清潔な水一杯さえ飲めず、凍えるような冬の夜に暖かいスープ一杯ありつけやしない。本当にそういう人間がいて、死んでいく。いくら神を崇め慈悲を乞うたところで決して届く事はない。そういう場所。
アルも汚いボロを身に纏い、顔も体も痩せこけてはいたが、目だけは生命力に燃える強かな少年だった。細いばかりに見える手足にも、並はずれて固い筋肉がしっかり付いている。アルは自分の境遇を恨みこそすれ、悲嘆にくれることはない。自分達がこの街で一番、兵士よりも司祭よりも誰よりも強く生きている集団だと分っているからだ。
特に臭いがきつい通りを過ぎると、アルの目の端に洒落たスーツを着込んだ男が映った。この場では絶対ない恰好にアルは即座に足を止め、警戒しつつ男を睨みつけ拳を握ったが、相手の顔を認めてひょいっと顔の力を抜く。いつも鋭い表情をした顔つきが、急に年相応になった。
「何だ……お前か、ジェロ」
「顔を確認される前に殴られるかと冷や汗をかいたじゃないか」
ジェロはそう揶揄しつつ、少しも危惧していなかった様な顔で笑った。舞台俳優のように完璧な笑顔に、アルはフンと鼻を鳴らす。
「そんな恰好でいるお前が悪い」
アルは即座に周りを確認してジェロを見咎めた奴が他にいない事を確かめてから、人がいないさらに奥へとジェロを促し、二人で人が一人やっと入れるほどの通りへと入る。二人とも細身なのが救いだった。アルはジェロを隠すように立ちはだかり、人がいる通りの方に背を向ける。ジェロに向き直ると、アルは改めて整えられた頭の天辺からつま先まで眺めてニヤリと笑った。
- 第一章 乞食アルの大きな夢 ( No.6 )
- 日時: 2010/12/25 13:37
- 名前: 秋華 ◆gYINaOL2aE (ID: SmzuliUF)
「素敵で上等な服だな」
「ある寂しい未亡人から、一着プレゼントして貰ったのさ」
アルにはジェロの言う、寂しい未亡人が何者か見当もつかない。しかし、一目で上等と分るスーツをわざわざ仕立ててプレゼントするとは。相当ジェロにご執心なのだろう。それがジェロの狙いに他ならぬのだが。
「その未亡人とやらは、勿論金持ち貴族なんだろうな?」
「いいや。衣装業界を牛耳る大商人さ。元は夫が経営していたが、その夫が一年前病気で急死。それ以来、彼女は夫の店を守ろうと奮闘している。おかげで店は稀に見る大繁盛だ。しかし、レディは男以上の底意地を見せる時もあるが、男同様に脆くなってしまう事もあるからな」
「成程。うまく付け入ったな」
「嫌な言い方だ……重みに耐えきれなくなった彼女を、僕はそっと支えただけ」
ジェロが密やかに微笑んだ。
ジェロは、ストリートの住人では誰も手出しが出来ないほどの情報屋だ。そして、大抵の女なら一目見ただけで瞳が蕩けてしまう位、柔和で甘い端整な顔とスラリとして恵まれた体躯を持っている美青年である。アルは常々、ジェロがもし一般の市民だったら、舞台俳優になっていたか又は吟遊詩人か、それか女に刺されて早々に死んでいただろうと思っている。女癖の悪さは、商売のためであるとしてもだ。
ジェロのやり口はこうだ。まずストリートに限らず、時には今の様に清潔な服に着替えて街中をブラブラと出て行く。そして今までかき集めた情報や世間話を駆使して、入念に情報源を選ぶのだ。そして辛抱強く待ち、絶好のタイミングで声をかける。
ジェロの才能は、その容姿だけではない。女に限らず人を唆せるような、人の最奥に眠る様な思いがけない感情を動かす甘言の囁きだった。情も孤独感も愛も憎しみも、彼の囁きで引きずり出されてしまう。そして引きずり出されたが最後、誰もが彼を愛すか或いは恐れるようになってしまう。
蛇の舌より悪魔の舌より、性質が悪い。同じ甘美な誘惑でも、ジェロの囁く事はその人物の心髄にある真実なのだから。
真実はこの上なく美しく、この上なく恐ろしいものであるが故だ。
「そして今は、夢多き無垢な乙女に逢って来たところさ」
「可哀想に。あんまり純真な子供は引っ掛けてくるなよ。良心が痛まないのか、節操なしめ」
アルの声に棘が出てくる。
ジェロの存在は、麻薬のようなものだ。つまりは依存性が高い。ジェロはアルより年上で、幼いころからジェロと共にいたアルにとっては兄貴分といった存在だ。彼に助けられた事、教えられた事は数知れず、信頼も尊敬もしている。
自立した女がジェロに心酔しようが、自己責任だろうとアルは気にも止めない。しかしアルは、ジェロの毒に侵されたら確実にその先の人生は大きく歪むだろうという確信もあった。
「子供は良くも悪くも周りに感化される生き物だ。お前みたいな、強烈な毒を吸い込んだら———————」
アルは責めるように言い募るが、ジェロはきょとんとして、まじまじとアルの顔を見つめると腹を抱えて笑いだした。カラカラとしたその笑いに、アルはカッとなる。言い返そうと口を開いたアルを、ジェロは手を振って制止した。
「お前が言うのか!周りもお前の言う毒も、全て跳ねのけた子供だったお前が!お前にこれを言う日が来るとは思わなかった。
子供を甘く見るなよアル!それはお前が証明したんだから!」
- 第一章 乞食アルの大きな夢 ( No.7 )
- 日時: 2011/01/10 18:05
- 名前: 秋華 ◆gYINaOL2aE (ID: SmzuliUF)
この街の夜は寒い。夕方頃になれば、夏でも昼間の気温が嘘の様に急激に冷え込んでいくのだ。
特に冬は血も凍るような冷気を凌ぐため、アルとジェロはしっかりとボロの外套を身体に巻きつけ、火を焚き続け暖を取る。明々と燃える火が、柔らかく二人の顔と汚れた床を照らしていた。
二人の城は、様々な書物が詰め込まれた様な小さい寂れた廃屋だった。すきま風は当たり前だが、屋根も壁もある。上等な部類だ。スペースを惜しむように詰め込まれた本は物語といった類ではなく、全てこの街の外の事が記されたものでだった。
様々な言語、文字。食べ物や衣類、住居、政治、そして宗教等——————他国の暮らしぶりが詳しく書かれていた。この街と似たようなものもあれば、アルが思いもしなかったようなものまである。
棚に仕舞われた丸められた羊皮紙達には、全土の地図が描かれていた。地図の端にはあちこちに走り書きがあり、「宝石」「蚕」「注意」等持ち主の勤勉さが伺える。しかし、インクも紙もくすんだ相当古い物だ。
ここの所有者だったのは、探検家か学者だったのだろうと常々アルは思っていた。顔も名前も知らない人物だが、その人が生きていたのは本当に昔々で、理不尽な死を強いられなかった事を祈る。
それこそ現代のこの街で、世界に思いを馳せようなど、重罪もいいところだからだ。
しかし、恐らくアルの感は外れていない。ここの家主はきっと、裁判にかけられ幸せな余生とは程遠かっただろう。そうでなかったら、アルのような者達がゴロゴロしているこの地域で、アルとジェロの根城になっていないはずだ。
夕食用の僅かな雑穀のパンを炙りながら、ジェロはアルの方を見る。
「難しい顔をしてるな。ただでさえおっかない顔が、余計おっかなくなるじゃないか」
眉間に皺を寄せて火を見つめていたアルは、ギロリと横目でジェロを睨んだ。
「うるさい。笑顔を周りに振りまくのがお前の仕事なら、俺の仕事は周りに睨みをきかせることだ」
「乞食のくせに……そんなんじゃあ、物乞い一つできないだろう」
ジェロの呆れた様な物言いに、アルはフンと鼻を鳴らす。
「背徳者と言われてる俺が、媚を打ったところで奴らは見向きもしないさ。俺に時々、僅かなパンや肉、チーズを分けてくれるのは背徳者を改心させようとお節介をやくヨボヨボのじーさんだけ。あの爺、何度俺が改心しないと言い張っても寄って来るんだ」
アルは愚痴を言うように顔を顰める。司祭並に善人ぶった爺だとアルが呟けば、いよいよジェロは呆れ返った。これ見よがしに深いため息をつきながら、炙ったパンをアルに突き出しながら指摘する。
「そのお節介爺を、ストリート連中に睨みをきかせてまで、手を出されない様庇ってるのがお前だろう。僕の顔の広さを舐めるなよ」
「……大事な食糧源だからな」
さすがのアルは、目に見えた動揺を見せずにそっけなく返したが、アルの指が一瞬不自然に手の甲を引っ掻いたのを、ジェロは見逃さなかった。無言でパンを齧り出すアルにならい、ジェロも一口パンを齧りアルに気付かれない様ふっと微笑んだ。
- Re: 虚構の聖都市 ( No.8 )
- 日時: 2011/01/29 17:03
- 名前: 秋華 ◆gYINaOL2aE (ID: SmzuliUF)
「アル。今日逢いに行って来た、ご令嬢の話なんだけど」
「ご令嬢?例の『夢多き無垢な乙女』って奴?」
「奴ってお前……女性にはちと無礼すぎるな。そんなんじゃ、素敵なレディ一人として振り向いちゃくれない」
「女専門はお前で、俺は専門外だ。それで?」
「マナーは後でまたきっちり叩きこんでやるとして……彼女が面白い話を聞かせてくれたんだ」
アルは最後の一欠けらを呑み下すと、人が変わったように深刻な顔になったジェロを認め、息さえ顰めるようにジェロの話に神経を集中させる。
「最高司祭のアジミアを始めとする司祭共が住む地区、『神の膝下』で幽霊を見たんだと」
「化け物?この世で一番清らかな場所だって散々騒がれてる所でか?」
「所詮はハリボテだろう?彼女の家は貴族の中でも随分お偉いようで……ある司祭に夕食に招待され、庭に出た彼女がふと足元を見ると、伸びていたって言うんだ……」
ジェロが声を顰めた。
「青白い、人間の手が……」
「見間違いの可能性は?」
アルは微かに目を見開きつつも、冷静に聞き返す。ジェロはゆっくり首を振った。
「彼女はしっかりこの目で見たと言い張っていた。汚れた指が蠢いて排水溝の鉄格子を握っていた所も、鉄格子が揺さぶられてガタガタと音まで立っていたらしい。
その手は彼女が悲鳴を上げた途端、引っ込められ消えた……
アル、お前はどう思う?」
「お前が安っぽい嘘に騙されるとは思えない。足元と言われると、間近ではっきり見えたはずだから見間違えの線も薄い。あとついでに、幽霊なんてものは俺は信じてない」
アルは淡々と自分の意見を上げていきながら、それらを組み立てて一つの仮定が浮かび上がってくる。
「生きている人間が、排水溝にいた……?」
「なあ、『神の膝下』の下に何かあるとは思えないか」
アルは弾かれたようにジェロを見る。ジェロの碧眼が、確信と強い意志で鋭く光っていた。
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