ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- android heroes!! 〜シリアルじゃない^q^〜
- 日時: 2011/01/06 02:01
- 名前: なる ◆7lihNriEqk (ID: nxPXMTJg)
始めまして。
雑談掲示板の方でお世話になっている、なると申す者です。
糞駄文で気ままでバトル多めな小説になりそうですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
積もる話もあれなんで、世界観と人物設定からお話ししていきます。
▼この小説の世界観
ファンタジーでありながら、バトル特有のシリアスさを全面に押し出した小説。
人口の過半数が有機アンドロイドになってしまった世界を描く。
いわばアクションヒーローもの。
描写が不適切だったり未熟だったりするのは、作者の勉強不足&センスの無さから来ている。
▼人物紹介
和泉 凛/いずみ りん 19歳
高校を中退し、自由気ままにメカニック関係の仕事を請け負っている技師。
主に故障したアンドロイドを修復する作業に徹し、自身も2体の有機アンドロイドを操る使い手である。
作業の邪魔にならないように、紫色の髪を後ろで一つに縛り上げている。
アルト メルト
凛が操る有機アンドロイド。
見た目は15歳前後の若い男性風。データがインプットされたディスクをPCにインストールして行動する。
アルトとメルトは現在発売されている有機アンドロイドの中で一番の古株であり、初期型なので行動に限りがある。
しかし凛の操るアルト、メルトは最新型のディスクを搭載しているため、かなりの高性能。
一応双子の設定。
▼紅葉/くれは
年齢不詳。常に着物を身に纏っていて、大人びた雰囲気を醸し出している。
彼女もまた有機アンドロイド1体を操る使い手だが、普段は呉服屋で着物の展示販売を行う営業のスペシャリスト。
長く深い茶色の髪を巻いて、かんざしでひとくくりにしたお団子のような髪型。
▼夕炉/ゆうろ
紅葉が操るアンドロイド。次期型アンドロイドなので高性能な上に戦闘に特化しており、価格も手頃なため人気を博している。
見た目は10歳程度の女の子を模してある。
目次
プロローグ >>1
>>2
android heroes!! 本編
battle1 >>5
battle2 >>6
battle3 >>7
battle4 >>8
battle5 >>9
Page:1 2
- Re: android heroes!! ( No.5 )
- 日時: 2010/12/26 00:21
- 名前: なる ◆7lihNriEqk (ID: nxPXMTJg)
とりあえず紅葉さんを客室兼リビングに招き入れ、洗い物が終わり暇そうにしているアルトにお茶を出すよう指示した俺は、黒皮のソファにゆっくり腰をおろした。
図々しくも先にソファを占領していた紅葉さんに向き合う形で座る。
紅葉さんは今日も今日とて綺麗だ。
真っ赤な着物には金色や銀色の派手な柄がデザインされているにも関わらず、紅葉さんが着ても全く違和感がない。
かんざしは季節からとってきたのか名前からあやかってきたのかは不明だが、これまた赤色の紅葉形をしている。
緩く巻いた髪は、手入れが行き届いているという証拠を見せつけるかのように艶やかだ。
俺みたいな薄汚い技師と絶世の美人が何故このように親しくなっているのか……
それは、まぁ単純に紅葉さんが操るアンドロイドの修理を俺が担当したことに由来するのだが、いきさつなど語っても大して面白くもないので割愛させてもらう。
「お茶、どうぞ。」
そうこうしている内に、働き者で主人(俺)に従順なアルトが、円い盆を手にとたとたとやって来た。
俺の前には挽きたての珈琲が、紅葉さんの前には極力まで濃く煎じた緑茶が、俺の隣でソファに体育座りしているメルトの前にはオレンジジュースがそれぞれ置かれた。
アルト自身は、最後まで盆の上に残ったサイダーを机に置くと、盆を片付けに再びキッチンへ戻っていってしまった。
紅葉さんは苦そうな色をした緑茶を一口啜ると、「ところで」といきなり本題に移るような素振りを見せた。
料金の延滞ならお断りしますよ、と喉まで
出かかった言葉を飲み込む。
「夕炉の事なんだけれど……」
一応説明しておくが、夕炉というのは紅葉さんが操る有機アンドロイドの名前だ。
俺が操るアルト&メルトは所謂初期型で、紅葉さんの夕炉は次期型。
アルト&メルトより後に生産された機体ということだ。
夕炉は戦闘に優れた機体で、予め戦闘ディスクが付属している。
俺のメルトも戦闘ディスクをインストールしてあるが、もともと付属していた訳ではなく大枚を叩いて購入したディスクなので、夕炉ほどお得ではない。
むしろ損。
今日は一緒に来ていないみたいだが、いつもは紅葉さんにべったりで人工ポニーテールを揺らしながらはしゃいでいるあの夕炉が、錯乱したアンドロイド相手に奮闘するなんて考えただけでも鳥肌が立つ。
言い忘れていたが、夕炉は女の子だ。
「夕炉がねぇ、ウイルスにやられちゃったみたいなのよ。」
「ウイルス?メンテナンスは受けてるんですよね。」
「当たり前じゃない。夕炉はあたしの友達であり妹であり大切な娘なのよ。メンテナンスを怠ってウイルスに侵入されるなんて有り得ないわ。」
いきりたって緑茶をこぼしそうになる紅葉さんにビクつくアルト。
いつの間にかサイダーを置いた場所に戻ってきていた。
「じゃ、じゃあ原因は一体…」
「えぇ、それなのよね……まぁ恐らく…」
分かり切ったような表情で紅葉さんは言った。
「外部からの侵入による感染……なのでしょうけど。」
- Re: android heroes!! ( No.6 )
- 日時: 2010/12/30 01:08
- 名前: なる ◆7lihNriEqk (ID: nxPXMTJg)
「外部からの…?一体誰が…」
「そうなのよねー…まぁ被害は最小限で済んだんだけど、あたしの大切な戦闘データが根こそぎ持っていかれちゃって。」
紅葉さんの話を聞く限り、戦闘データを詰め込みすぎだとは思ったが、そこはあえて突っ込まないことにする。
昔いらん突っ込みを入れて、腹に拳を突っ込まれたことがあったからだ。
人間は経験を生かして生きていると、この時しみじみ実感したのは言うまでもない。
「機体の損傷は?」
「それがね、どこにも傷跡は無いのよ。多分だけど、ASKと情報を共有してるPCから侵入したんだと思うわ。……蚊みたいなものね。養分を吸い取って、害を与えていく。迷惑な話よ。」
紅葉さんは一通りそう話すと、大きな溜め息をついた。
娘のように可愛がってきたアンドロイドが、危機に直面している。
考えただけでも震え上がってしまいそうな状況なのにも関わらず、紅葉さんは何時もの整ったポーカーフェイスを崩そうとしない。
それは彼女なりの「けじめ」のようにも思われた。
それでこそ偉大なる使い手 紅葉なのだが。
「で、今日は夕炉は。」
「連れてこれるものなら連れてきたわよ。ウイルスは感染るでしょ?あんたのオンボロアンドロイドに感染しちゃタチが悪いじゃない。」
「なっ…オンボロとは失礼ですね…まぁその通りですけど。」
「凛のばーか」
「っは…!?」
隣を見やると、オレンジジュースを飲み終わって手持ちぶさたに足をばたつかせているメルトが文字通り膨れていた。
どうやら俺がオンボロアンドロイドだというのを肯定した事によってすねてしまったらしい。
「お前…いいご身分だなオイ…」
「まだ発売されて4年、俺がここに来て3年しか経ってないのにオンボロ扱いするとかあり得ない。最低。アンドロイドに対する愛情が足りない。」
立て続けに罵られた俺が再起動するまでに要する時間 12秒。
「っ、もういい。アルト、珈琲お代わり。」
「あたしの緑茶も淹れてくれる?」
「オレンジ飽きた。メロンソーダのアイスのったやつがいい。」
「分かりました。」
一度に大量の仕事を押しつけられても最後までしっかり、しかも笑顔を絶やさずやり遂げるアルトの忠誠心と行動力にはひたすら感服だ。
たまにはオイルでも差してやるか、なんて庶民的な考えに浸っていたとき。
つけっ放しになっていたテレビから、極端に抑揚を抑えたアナウンサーの声がふと聞こえ、思わず画面を振り向いてしまった。
「…続いてのニュースは、有機アンドロイドウイルス混入事件についての情報をお伝え致します。現場の北原さん?」
パッと画面が切り替わり、背後に巨大なモニターを湛えた映像が映し出される。
画面中央に立っている男性は、端的に事件の状況を伝えると、慌ただしく動き回る職員らしき人達を映すようにカメラマンに指示を出した。
ズームで映される男女。見覚えのあるこの制服は…
「ASKのモニタールームね…」
そうだ。職員の胸元に輝くバッジがそう主張している。
「それにしても…ウイルス混入事件?初耳ねぇ。」
「今まではウイルスに侵されて自我を失ったアンドロイドは、全てASKが回収していましたから。きっとこれだけ騒がれるって事は、ASKも処理が追い付いてないことを提示してるようなもんですよ。」
「あんたも難しい事言うわね…要するに、ASKでさえ処理しきれない量のウイルス感染アンドロイドが発生してるってことでしょ。」
「そうですね…一部の暴走アンドロイドは処理されてるみたいですけど。このままASKの処理が追い付かないままでいれば、いずれ暴走アンドロイドによる破壊攻撃が始まってしまいます…相当危険ですよこのパターンは。……紅葉さん?」
「夕炉が…夕炉が危ない…」
うわごとのように繰り返しそう呟いていた紅葉さんは、残っていた極濃緑茶をがぶ飲みするといそいそと帰り支度を始めた。
「もう帰るんですか?交換用のネジは…」
「いいわ、今度貰う。………もし何かあったらあんたに電話するから、その時は宜しく頼むわよ。…じゃ」
「え、紅葉さ
バタン
突然来て突然帰るのがあの人の流儀なのは重々承知していたつもりだったのだが、今回は流石に参った。
あんなに焦っている紅葉さんをほうっておける筈がない。
かと言ってすべき事も浮かばないし、どうしたものか…
冷め切ってしまった珈琲を啜りながら俺は深くうなだれた。
- Re: android heroes!! 〜ウイルス錯乱編〜 ( No.7 )
- 日時: 2010/12/31 00:53
- 名前: なる ◆7lihNriEqk (ID: nxPXMTJg)
その日の夕方頃だったと思う。
何度考えてみても答えが出せなかった俺は、諦めて酷使してしまったアルトの機体をチェックしていた。
少し腕の内側の人口皮膚が傷ついているような感じがし、工具箱から培養された皮膚とメスを取り出して怖がるアルトの目の前でチラチラとちらつかせていると、メルトが何かを手に走ってくるのが見えた。
最近新調したばかりの、真新しい俺の携帯だった。
まさかとは思ったが、一応アルトをびびらせるのは止めて電話に出る。
「…もしもし?」
少しの沈黙が、その時の俺にとっては凄く長く感じられた。
「あの
「凛!!夕炉がっ…夕炉がぁっっ!!」
「紅葉さん!?紅葉さん!!落ち着いて下さい、今すぐそちらに向かいます!」
「早くっ…夕炉がしんじゃう……っ!!
プツッ…… ツー ツー ツー
繋がらなくなった携帯を放り出して、俺は黒いコートを羽織った。
「アルト、メルト、急用だ。直ぐに準備をしろ。」
急かすつもりは無かったのだが、録画したドラマをのんびり眺めていたアルトを急かさずに誰を急かすというのだ。
幸いメルトはキッチンで冷蔵庫をあさっていたので、素早く抱え込んで車に連れ込むところまでは順調に事を進めることができた。
それで、だ。
何なんだこの車の量は…
前も後ろも車で埋め尽くされている。
とりあえず大通りに出た時はこんなに混んではいなかった。
恐らくどこかで事故でもあったのだろう、俺ははやる気持ちを抑えてぐったりとハンドルにもたれかかった。
心配そうにアルトが顔を覗かせる。
「ご主人様…この様子だとあと40分は動きませんよ…?」
「う…ん、どーすっかなぁー…」
盛大に溜め息をつくと、後部座席にうずくまって景色を眺めていたメルトが突然口を開いた。
「…今ざっと交通情報調べてみたんだけど、この近くに有料の駐車場があるからそこに車停めて、最寄りのバス停から桜井町まで行けば10分くらいで着くよ。」
「それ本当!?」
驚いたようにうずくまったままのメルトを振り返るアルト。
「本当。どうすんの?やっぱり2km先で事故ってるみたいだから動かないよ。」
分かってる。手段はそれしか残されていないことも、メルトの提案が正しいことも。
ただ…
「その駐車場ってのは…どれくらいで到着できそうなんだ?」
「…はぁ?」
あ、今の「はぁ?」が含んでいる意図は俺でも分かった。
完全にメルトに呆れられている。
いや、この際そんな事はどうでもいい。
「駐車場までなら…列が動き出すまでの時間も含めて4分くらいかな。………全くうちの主人はこれだから…」
「や、ごめん俺もそこまで責められるとは思ってなかった。」
4分か…まぁ妥当な時間だな。
情報を少しでも多く取り入れようと、ラジオのつまみを捻る。
暫くラジオ特有のノイズが混じったあと、さっきニュースで聞いたような抑揚のないアナウンサーの声が流れだした。
「…すが、勢力の拡大はASKにも抑えきれない程のものであり、依然としてウイルス対策ソフトの配布が続けられています。…続いてのニュースは…」
「勢力の拡大…?ウイルス混入何とかの事か。ASKも手に負えない程って…」
「相当危険な状態ですね。しかもウイルスバスターの生産が間に合っていないらしいですし。……あ、やっと動きましたよ。」
アルトが身を乗り出してそう告げてくる。
見ると先ほどよりは大分走らせ易くなっていた。
ここぞとばかりにアクセルを踏み込み、目的の駐車場が見えるところまで車を動かす。
そして何とかして駐車場に滑り込むと、素早く車をとめ、バス停へ走った。
こういう時頼りになるのはメルトだ。
双子であるという設定に魅入られた俺は、データディスクも仲良く半分こにしてしまったのだ。
もちろんディスク自体を割った訳ではない。
アルトには付属の家事データのディスクをメルトにはこれまた付属の戦闘データのディスクをインストールしたのだ。
つまり、アルトは家事全般と主人奉仕に特化した機体に、メルトは戦闘全般と情報統合に特化した機体になっている。
イコールお互いインストールされていない分野はあまり得意ではないのだ。
そんな訳で頼れる機会の数少ないメルト君には、今日とっても活躍してもらおうと思っている次第だ。
「バス来たけど。凛乗らないのか?w」
小馬鹿にしたようなムカつく笑みで主人である俺を見下ろすメルト。
お前、仮にも主人に対して呼び捨てとは何だ?
とも言ってはおれず、「すまん、考え事。」とだけ言って潔くバスに乗り込んだ。
- Re: android heroes!! 〜ウイルス錯乱編〜 ( No.8 )
- 日時: 2011/01/04 01:32
- 名前: なる ◆7lihNriEqk (ID: nxPXMTJg)
すぐに降りられるように座席には座らず、運転席側の扉の前に整然と並ぶアンドロイドとその使い手。
昔の人々からしたら異様な光景かもしれないが、現代に至ってはこんなの日常の一部でしかない。
周りを見渡してみれば、目につくのは色とりどりに着飾ったアンドロイドたちと、悠長にも座席に鎮座しうたた寝を決め込んでいる使い手だろうか。
アンドロイドたちは別段嬉しそうな顔をするわけでもなく、ただ眠りこける主人の傍で万一の場合に備えている。
彼らは高性能のカメラ機能が付いた小さな水晶体で敵を感知し、すかさず防衛体制に入るよう基礎から叩き込まれているのだ。
心を持たないアンドロイドは時に残酷で、無情である。
加減を知らないアンドロイドたちは手当たり次第に暴れ散らし、取り返しの付かない事態を引き起こすのだ。
悲しいことに初期型アンドロイドの過剰防衛は年々増してきている。
今年だけで幾つあったかな。
ゆうに10件は超えていたと思うが、ここは俺の記憶力が悪いと勘違いされそうなので敢えてスルーだ。
そうそう、帰りにコードと銅線買っていかなきゃな。
何もしてないのに、メルトの機体内部で電気信号を送っていた回路がぶち切れたのだ。
それも一本や二本どころの騒ぎではない。
小指ほどの束になっていた回路が、何らかの衝撃を受けて二十本位まとめて切れたのである。
俺もメルトも普通に生活していたから、あの日急にメルトが幼児程度の言語しか話せなくなっていなければ永遠に気が付かなかったかもしれない。
原因の解明はまだしていない。
銅線の差し替えの際に分かることだからだ。
とまぁ近況を誰にともなく説明していると、ふいに服の裾が引っ張られた。
アルトが上の空で考え事をしていた俺を心配して、到着が近い事を告知してくれたのだ。本当によくできた機械だな。
俺の妹よりも出来る奴に出会ったのは久しくこれで2度目だろうか。
主人の心配より、移り変わる窓の外の景色に気を取られているメルトを見ると涙が出てくる。
「桜井町で降車の方ーーまもなく到着致します。お荷物お忘れのないように………」
車内にアナウンスが流れ、俺たちは3人分の運賃を払ってバスを降りた。
アンドロイドとは言え、一応人間と同等の生活をしている者たちだ。
当然運賃も支払わなければならない。
「有機」と言うだけあって食費もかかるし、メンテナンスもそれなりの費用がかかる。
アンドロイドを操ることは決して容易いことではないのだ。
「紅葉さん家は南中の近くにあるって言ってたな…」
去年の年賀状を手に、見慣れない街をうろつく俺達。
緊急事態という状況に気が動転した俺は、大した情報も位置特定能力もないくせに勢いのまま家を飛び出してきてしまった。
まるで親と喧嘩をし、口先だけで家を飛び出してしまった哀れ極まりない家出娘のようだ。
しかし同じ境遇とは言え、俺には二人の優秀なアンドロイドがいる。
機嫌が良いのか鼻歌を唄いながら辺りを見渡す青頭と、憂鬱そうに眉根を寄せ、こちらからの指示を待っている薄青頭。
そろそろ指示を出してあげないと後々文句を垂れられるので、取り敢えずは「紅葉さん家の位置を特定してくれないか」とだけ伝える。
返ってきたのは予想通り一言だった。
「全くうちの主人はこれだから…」
憎まれ口を叩くのだけは妙に上手いメルトだが、秘められた潜在能力は半端じゃない。
数秒とかからないうちに紅葉さんの家を特定してくれた。
素直に誉めてやると、メルトは照れくさそうにそっぽを向いてしまったが「凛の位置特定能力がないだけ」とまでは言われなかったことにひとしおの感謝をしよう。
そんなこんなで紅葉さんの家が見えてきた。
大きなお屋敷。
歴代が武家だったのもあるが、外装の凝り具合は紅葉さんの亡きお父さんが生粋の武将好きだったことにも由来するらしい。
広大な敷地には池や盆栽、縁側には真っ白な猫が悠然と佇み、哀愁を漂わせる景観には当時の武家たちにも引けを取らない美しさがあった。
なんて悠長にも紅葉邸宅を解説していると、待ち切れないとばかりにメルトが呼び鈴を鳴らした。
からんからん、と良質な銅鈴の音が鳴り響く。
流石は紅葉さんのお父さん、チャイムでさえ自分好みの音に改造済みだ。
直ぐだった。紅葉さんは凄い勢いでダッシュしてきたらしく、薄い汗を浮かばせて小さく肩で息をしていた。
「いらっしゃい、取り敢えず奥座敷に。」
どうやら紅葉邸では奥座敷で客人をもてなすようだ。
有り難く靴を脱がせて貰うと同時に、背後で仲良く身を寄せ合っていた二人にも上がるよう指示を出した。
- Re: android heroes!! 〜ウイルス錯乱編〜 ( No.9 )
- 日時: 2011/01/06 01:55
- 名前: なる ◆7lihNriEqk (ID: nxPXMTJg)
初めて入る紅葉さんの家。
人生でまたとない、女性の自宅への訪問だ。
紅葉さんは奥座敷にある、樹木を縦に切り出したような形のテーブルの前に俺達を座らせると、パタパタと二階へ上がっていってしまった。
目の前には桜色の湯飲みに注がれた濃いお茶。
緊急事態だというのに紅葉さんは俺たちのお茶受けまで用意していた。
流石は武家の末裔娘、格が違う。
電話での対応は慌てふためいて発狂寸前の紅葉さんだったが、今は大分落ち着いたようで、俺の家兼作業場に来た時より暗めの色合いをした着物を優雅に着こなしていた。
何を着てもこの人なら違和感がなさそうだ、なんて緊急事態なのにもかかわらず考えていると、二階から紅葉さんが降りてくるのが物音で分かった。
「お待たせ。確かあんたのアンドロイドたちはウイルスバスターをインストール済みなんだっけ。」
「はい。」
「でも心配だわ。念のためにあんたのアンドロイドたちは夕炉に近づけさせないようにして頂戴。伝染るだなんてあたしが悪く思われるじゃないの。」
「分かりました。まぁ奇遇なことに明日はメンテナンスですし、大丈夫です。」
紅葉さんは俺から面会の承諾を得ると、廊下へ出て夕炉を抱き抱えて戻ってきた。
酷くぐったりとした様子の夕炉からは何時もの笑顔は微塵も見られず、代わりに夕炉から見て取れるのは人工皮膚の血色が悪いことと、ほっそりとした手や足が心なしかよりほっそりして見えるという事だけだった。
黒地に青い蝶々の模様が入ったシンプルかつ可愛いらしいデザインの着物を身にまとった夕炉は、抱き抱えられたままこちらを一瞥すると僅かに微笑みを見せてから「お兄ちゃん達………こんにちは……ケホッ…」
と呟くように言い放った。
凄く抱きしめたい衝動に駆られたが、ロリコンと勘違いされるのは甚だ御免なので寸前で踏みとどまった。
まぁ…左隣からジリジリと感じる嫉妬の怨念にねじ伏せられたと言うのが妥当なのかもしれないが。
アルトはゆっくり首を傾げると、これまたゆっくり「ゆうちゃん、こんにちは。」と挨拶をした。
メルトはと言うと、恥ずかしいのか嫉妬しているのか知らないが押し黙ったまま微動だにしない。
痺れを切らした俺がメルトの耳元で「小さい子に優しくできない奴は嫌いだな、」と囁くと、メルトは慌てて夕炉に挨拶をした。
一段落ついたところで、紅葉さんが本題をさらりと口にする。
「見ての通り、夕炉はウイルスに侵されて弱ってるの。病状が現れ始めたのが3日前だから、まだ点検にも行ってないし、原因は恐らく外部からの侵入によるウイルスの感染。人工皮膚も日に日に傷んでいくし、どうしたらいいのかしらね。」
遠くを見るような顔つきで縁側を挟んだ向こう側の池に目を落とす紅葉さん。
色鮮やかな錦鯉が数匹、ゆるやかに池の中を泳ぎ回っていた。
「機体の損傷は?」
「これがねぇ…無いのよ。失ったものは沢山あるのだけれど。」
くすり、と紅葉さんが笑う。
その小さな笑みでさえ、何か趣深いものを感じてしまうとは紅葉さん恐るべし。
「電話に出てもらってた時はね、夕炉が自分の指を食い千切ろうとしてたから凄く慌てたんだけど…あたしの早とちりだったわ。それはアンドロイドに良く見られる自虐行為の一つで、自分の中で不具合が起きたときとかに現れるものらしいのよ。多分夕炉も自分の中に侵入してきたウイルスを察知して自虐行為に陥ったんだわ。」
「あくまで憶測なんだけどね!」と付け足しつつ朗らかに微笑む紅葉さん。
紅葉さんは笑顔が良く似合う。
だから俺は、何時どんな時でも紅葉さんに笑っていてほしいから、積極的に頼み事は聞いている。
けど今回ばかりは笑っている暇も無さそうだ。
今回の事件を暴くためには、常に時間とも戦い続けなければならないのだから。
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