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- 月夜の白鳥姫〜背徳の旋律〜 ヒストリカル・ロマンスです
- 日時: 2011/01/07 17:45
- 名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)
こんにちは。キャサリンといいます。
今回はヒストリカル・ロマンス「月夜の白鳥姫」をかきたいと思います。雰囲気はプリンセス系かつダークな感じを目指します。
たぶん二部作になる予定!
18世紀初頭が舞台で、架空の王国にすむヒロインの出生の秘密と冒険をえがきたいと思います。
長編になると思いますが、よろしくお願いします!
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- Re: 月夜の白鳥姫〜背徳の旋律〜 ( No.5 )
- 日時: 2010/12/30 10:03
- 名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)
「姉さん…ほんとうにヤツらのところに行く気なの?」
家にひきもどそうとする弟を振りきって私は、ド・ゴーシュのアジトへ大股で向かっていた。今度こそは、私たちをいじめぬくあのド・ゴーシュをこらしてやらなければならない。
クズ部下たちをふっとばし、ビリアンをひきずりだして火にくべてやるわ!フランツは私の、殺意にも手がとどく激しい憤りにおびえていた。
「ねえ、やっぱりやめようよ。ぼくらに刃向かいできっこないよ」
だがもうおそかった。
バラリアン広場に、ヤツらはいた。
私たちをするどくにらみつけている者もあれば、ニヤニヤして軽蔑しているような者もいる。時計台の一番小高いところには黒髪番長のビリアンがいて、怒りにわななく私にいちはやくいやみな微笑を投げかけてきた。
ルックスはエドガー王子にひけをとらないくらいいいのに、なぜこいつは泥棒なんかしているのだろう。私はずっと前からビリアンを見るたび思っていた。そしてなぜか、ビリアンはミストウィーユ家──私を嫌っていた。
私は軽蔑のまなざしを向ける下っ端たちを無視して、私は堂々と時計台の前へ歩いていった。
するとビリアンは期待していたかのように目を光らせた。
「おい、偉大なるミストウィーユのプリンセスのお出ましだぞ」
ビリアンがけたけたと笑うと、まわりがこらえていたかのように笑いだした。だめよ。こんなところで爆発してはいけない。最後にガツンとやってやるのだ。今までうけた屈辱を何倍もの憎しみに変えて。
「お黙りなさい。ビリアン・フォールコン。あなたの声をきくだけでむかむかしてくるわ」
「お黙りなさい、だとよ」笑いのさざ波がおこる。
私は毅然と言い放った。もう、ビリアン以外のヤツらは目に入らない。
「耳障りよ。ビリアン!私は王女でもないしいい生まれでもないわ。けど、あんたたちと違って人間の心はもってるのよ」
ビリアンの目の色が変わった。私は一瞬うろたえた。あの瞳の奥にかくれる冷たい炎はいったい何なんだろう。
「俺たちが人間じゃないと?」
「…そういうことよ」
「貧民街のとくにひどいところにすんでるヤツに言われたくないな。かの有名な工場に勤める短気で頑固、単純なルーサー・ミストウィーユの娘のくせによ」
「父さんは短気でも頑固でも単純でもないわ!あなたはどうかしてるのよ!ビリアン!!」
ビリアンはくっくっと笑った。まるで私が重度の精神異常者で、耐えられないほどおかしなことをいっているかのようだ。ついにこのとき、私の怒りは限界に達した。
「白状しなさい!!ビリアンとそのおかしな下っ端たち。私たちのお金を盗んだのはお前たちでしょう!!」
憤激にかられた声に、フランツはとなりで飛び上がった。あまりに単刀直入に叫んだので、下っ端たちも一瞬震えた。ビリアンはいかめしい顔をして私の顔に視線を走らせた。
「俺たちが盗んだと…?…ふざけるな」
「あんたたちぐらいしか、こんなひどいことはやらないわ。さあ、返して。なにもかも返すのよ」
ビリアンがけたたましい笑い声をあげたのを合図に、ド・ゴーシュの全員が嘲笑した。それは恐ろしいほど老獪な響きだった。私はこれを覚悟で来た。今さらすごすごと帰るなんてやだ。
私がもう一度わめくと、そくざに下っ端の数人が私たちの前に迫ってきた。しまった!うかつだった!なぜ私はフランツを連れてきてしまったのだろう?暴力がないわけないだろう!
案の定そいつらが私たちをおさえつけた。フランツは泣き叫び、私は叫びと恐怖をこらえてビリアンを心のそこからにらみつけた。ビリアンはほくそ笑んでいる。
「やれ」
その一声と同時におさえつけている下っ端が私と哀れなフランツに向かってこぶしを振りあげた!もう終わりだとあきらめた瞬間、聞いたことのない透き通るような声がするどく響いた。
「待て!なにをしている」
なぐりかかろうとしたヤツも、時計台の上で笑っていたヤツらも全員声の方向に視線を走らせた。私も希望を感じながら目を上げた。その瞬間思わず目をみはった。
- Re: 月夜の白鳥姫〜背徳の旋律〜 ( No.6 )
- 日時: 2011/01/01 11:24
- 名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)
何十人もの視線の先にあったのは白馬にのり、高級な服をきたあまりにも美しい、すらりとした青年の姿だった。
大理石のような白い肌、完璧なブロンドに、怒りに燃えるエメラルドの瞳。唇からはうっとりとするほど美しい声が響いた。
「お前たち、二人をただちにはなせ。はなさないと即刻全員を国王の前にひったてるぞ」
私をつかんでいた薄汚れた手はつき放つように離したが、腕がひりひりとした。力ずくでおさえられたからだ。
青年が彼らに一瞥を与えると、ド・ゴーシュはつまらなそうな表情をしているビリアンを先頭にバラリアン広場を去っていった。その姿はひどくみじめで、私は思わず笑みをもらした。
私がフランツを支えながら、青年にお礼をしようと彼に向き直ると(さっきは気づかなかったが)気だての良さそうな従者が私たちに薬をわたしてくれた。
「ひどい傷ですね。顔面に小さなひっかき傷がついていますよ」
私は思わず手を顔にやり、フランツの顔を見た。ぐったりとしたフランツの顔には爪でひっかいたような傷が数個ついていて、顔をなぞった自分の手には血がついていた。
「おそらくおさえつけられたときにヤツらの爪がかすれたのだろう。それにしても、何てヤツらだ」
青年は白馬から優雅に降り立つと、同情を目に浮かべて私たちを見つめた。そして彼は私の髪に視線を走らせ、ハッと息を飲んだ。
「なんて珍しい髪色をしているのですか、あなたは。銀髪がかったブロンドだ。光にあたるとほとんど銀髪に見える」
従者も相づちをうって微笑を浮かべた。「ご両親のどちらかが銀髪でどちらかが金髪なのでしょうな。それにしても…いや、珍しい」
私はとりあえず微笑み返し、薬の礼をいった。青年はアレクシス・フォン・マルハーン・ハーバンティーナと名乗り、ハーバンティーナ伯爵ローレンスと呼ばれていると告げた。
ハーバンティーナといえば、カレンシアの南にある、絶景が数々存在する豊かで美しい町だと聞いている。大きくなったらぜひ行ってみたいと思っていた場所だ。
「あなたがたはなんという名ですか?」
ローレンス伯爵は、ベルベッドのようになめらかそうな濃いブルーの服につけられた勲章をきらめかせながら微笑んだ。それは目もくらむほどの美しさだった。
私はどぎまぎしながら答えた。「私はメーヒェルン・ミストウィーユ。弟はフランツといいます」
「どうぞ、メーヒェンと呼んでください」
伯爵は目を輝かせた。「メーヒェルン…古代タリア語で『月夜』を意味する言葉ですね」
なんて教養のある人なんだろう!──私は感動した。
自分の名前にそんな意味があるなんて想像もしなかった。
「あなたにぴったりのお名前だ。その髪は夜にこそふさわしい。ちなみにおいくつですか」
「15です。フランツは12」
「そうですか。わたしは17です。こちらの従者はギルバートといい、わたしの忠実な部下でもあります」
ギルバートは優しく微笑を浮かべた。
- Re: 月夜の白鳥姫〜背徳の旋律〜 ( No.7 )
- 日時: 2011/01/03 13:58
- 名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)
私は噴水のそばでフランツに薬をぬってやりながら、ローレンス伯爵とギルバートと話し込んだ。
ド・ゴーシュの仕打ちや、窃盗のことを苦々しげに語っている間、ローレンス伯爵は悲しげにうなずいてくれた。伯爵という高位にいながら、私たち貧民にたぐいまれなる好意をよせてくださる彼に、私は惚れてしまった。
彼のブロンドも、微笑も、声も、姿も…何もかもが貧乏で汚い私には不似合いだったが、それでも彼が好きだった。でもきっと─フィアンセがいるはずだと、心の片隅で思っていたが。
フランツの顔にガーゼをつけてくれながら、伯爵はとんでもないことを言い出した。
「そういえば、明後日はクリスマスだ。失礼だが、見たところあなたたちはあまり食べていない様子だ。あなたもそうだが、弟さんはひどく痩せている。ド・ゴーシュたちに盗まれてしまったのでは、良いクリスマスを過ごせない。わたしがぜひ夕食に招待したいのですが」
私はハッとして顔を上げた。ローレンス伯爵が冗談を言っているのかと疑ったからだ。だが、彼の目に光る強い正義がそれを完全に否定していた。私はあわててかぶりを振った。
「めっそうもありませんわ、伯爵。私たちのような貧しい者にそんな——」
「ぜひ来ていただきたいのです。わたしはあなたを人目見たとたん、ただ者じゃないことが瞬時に感じ取れた。あなたの前世がそれに関係しているのかわからないが、あなたは貧しい家にいて、そこで一生を終えるのは惜しい。わたしとお近づきになりませんか。わたしなら、お節介なようだが、あなたにちゃんとした仕事を与えることもできます」
あまりにも夢のようで、私はうまく喜びと遠慮を口にすることができなかった。「でも…」と言っても伯爵は譲らなかった。
「わたしは、貧しい人々を目にしてきた。そしてずっと救いたいと願っていました。この機会は、そのようなわたしに対する、まさに神のお導きだと思うのです」
私はしばらく黙っていたが、熱心な彼にとうとう折れ、明後日に彼の館へ家族そろって行くことになった。
私の中では、うしろめたい気持ちと好意に甘え、面倒を見てもらいたい気持ちで、激しい葛藤が繰り広げられた。
伯爵と別れ、フランツの手をひきながら、私はディナーで、彼に嫌われるようなことをしないように祈っていた。
「本当なのかい?メーヒェンったら。ハーバンティーナの伯爵がわたしたちを?」
招待のことを告げると、母さんが目をまるくしていった。
私は水を入れたバケツを運びながら、うなずいた。母さんはまだ信じがたいようで、黙々と働く私をしげしげと眺めた。
「…それにしても、あんたどうやったらそんなに顔にひっかき傷ができるんだい。フランツも…」
フランツに真実を話さないよう目配せをして、私はさもすまなさそうにいった。
「バラリアン広場を歩いていたのよ。フランツが噴水を見たいっていうから。そしたら時計台で私がつまずいてしまって、偶然そこには小さな砂が散らばってて…」
「二人ともども転んで……」母さんが続けた。
「かすり傷になってしまったわけ」
私はなるべく平然といおうと努めた。幸い母さんは気づいていない。
「ドジな子だねえ。そんな救いようのない娘を伯爵が救ってくださったのかい?」
「ええ、そうよ。私があまりにもバカだから放っておけなかったのよ、きっと」
フランツが少々不満げだったが、私は一瞥を与え、それから母さんに微笑んだ。
「だから、ね。行きましょうよ。せっかくのクリスマスですもの。それに伯爵の好意も無駄にできないわ」
「…そうねえ。行ってもいいけど。父さんは行かないと思うわよ。あの人、貴族はむかしから嫌いなのよ」
- Re: 月夜の白鳥姫〜背徳の旋律〜 ( No.8 )
- 日時: 2011/01/07 17:35
- 名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)
母の予想通り、父は行かないといいはった。
今日も服に油の臭いをしみこませて、大股で帰ってきた。出迎え、伯爵のことを話し出したとたん、父さんの顔は嫌悪で歪んだ。こんなときほど、ハンサムじゃない彼の顔はないと思う。
「ローレンス伯爵だと?なんだそいつは。行ってもいいが、オレは絶対に行かないぞ。それにおまえたち、伯爵の館に似合うほどの服なんかもってないじゃないか。みっともない服で招待され、ミストウィーユ家の名誉を汚したら、許さないぞ」
貧民街の家族に名誉もクソもないでしょう──とは言えず、私は仕方なくうなずき、ためらいがちに自分の服を見つめた。
「…ちゃんと洗っていくわ。一番いい服きていくから…」
一番いい服─灰色の色あせたワンピースだった。
「知らん」父さんは鋭く私をにらみつけた。
「勝手にいっちまえよ。恥ずかしい思いをするのはお前なんだからな。フランツだってましな服はつぎはぎだらけ、ズボンは穴だらけときてる」
「でも、せっかくの好意なのよ」
「行けばいいだろうって行ってるじゃないか。オレはとりあえずいっさい関わらん」
「ひどいわ。父さん」
「ひどい?貴族のジコマンに利用されているお前も悲惨なほどひどいぞ」
私はそっぽを向いた。「もういいわよ」
アレクシス・ハーバンティーナの魅力を知らない父にいっても無駄なことが分かった。
「僕伯爵好きだ」
ふいのフランツの一言に私は泣き出してしまった。
父と言い合いをしてからずっと部屋に閉じこもってフランツと話していたが、伯爵の館に赴くこともできない自分たちのみじめさにむなしくなったのだ。フランツは伯爵を親か兄のように慕っているというのに、私は容姿が恥ずかしくて会うことが恐ろしくなってしまったのだ。
父は、私の中に「羞恥」の苗を植えてしまった。
「どうすればいいのかしら。クリスマスに2ペリオぐらいのウィンス(野菜の一種)を食べるなんて耐えられない。ド・ゴーシュがいなければもっといい食べ物が手に入ったのに……。しかもそれを服にまわすこともできたわ。それでディナーにもいけたと思うと…」
私は嘆き悲しみ、もう一度伯爵に会いたくて胸が痛んだ。
あの優しさにもう一度包まれたい。あの微笑みを見せてほしい。
「姉さん、もう伯爵には会えないの?」
フランツはため息をもらして布団にもぐりこんだ。
私はゆっくりとうなずくことしかできなかった。
そしていち早くこのことを忘れたくてすぐに眠りにつこうと強く目を閉じた。
- Re: 月夜の白鳥姫〜背徳の旋律〜 ヒストリカル・ロマンスです ( No.9 )
- 日時: 2011/01/09 18:12
- 名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)
本来ならば、明日は豪華なクリスマス・ディナーだったのに、私たちはみじめったらしい容姿にあきらめ、たった2ペリオでウィンスを買いに行くことになった。家族4人でわけたら、一人ぶんはたったの5、6センチしか食べられないだろう。
「姉さん、お腹すいた。朝ご飯食べたかったよう」
フランツは珍しくじめじめと湿気たフィール・ド・トリノの街道を歩きながらぶつぶつと文句を言った。
空は私の気分にぴったりとしていて、灰色のカーテンがかかっているようだった。そのとき一羽の白鳥がひどく慌てたように空を駆けた。まるで暗い灰色の運命の中を必死に逃げ出そうともがく私のようだった。
「…黙って…。ウィンスをさがすのよ」私は力なく返した。一言しゃべるたびに、体中の希望の芽がつみとられていく気がする。今の私にぴったりの言葉は、『虚無』かもしれない。どうしようもなくはかない思いにとらわれ、私は自分の制御をできないでいる。
あきらめなさい。
お前と伯爵が釣り合うわけがない。身分にしても。財力にしても。容姿にしても…!
誰かが私の無力な心にささやいてくる。でもそれは正しいのだと、私はぼんやりと感じていた。
──夢を見てはいけない。それが叶うはずもないと分かったとき、傷つくのは自分だけなのだから。
とぼとぼと店に入っていくフランツの後ろ姿を見つめながら、私はそばのベンチに虚脱感ただよう表情ですわりこんでいた。そばを通り過ぎてゆく金持ちたちはさも汚さそうに私に一瞥をよこしてきた。
私は完全に無視していた。愛想良く微笑もうともせず、にらみつけようとも……ただ静かに、横たわるようにすわって、なぜこの世に権力があるのだろうと考えた。なぜ虚無が存在するのか考え、そしてなぜ自分が存在しているのかを考えた。
だが、答えは見つかるはずもなく私は首をうなだれた。
と、同時に銀髪がかったうすいブロンドがカーテンのように顔の横に下がってきた。
私はふいにこの髪を恨めしく思ってうしろに波打たせた。
伯爵は私ではなく、この髪を気に入ってるにすぎない。
私などなんの意味もないのかもしれない。もし私がただのブロンドだったら、彼は私自身を気に入ってくれたのだろうか。珍しい髪色の私ではなく、平凡で快活な私として。
「姉さん!これ見てよ」
気づいたらフランツが満面の笑みで横に立っていた。
両手には大きな箱が二つ抱えていた。どちらとも、クリスマス・カラーのリボンがついている。疑わしげな私を見て
フランツは笑い声を上げた。
「これを見ろよ!」
私の目は箱に添えられた小さなカードにすい寄せられた。
『月光の乙女に─伯爵からのクリスマス・プレゼント』
思わず顔がほころんだ。
──ああ、神様!
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