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月夜の白鳥姫〜背徳の旋律〜   ヒストリカル・ロマンスです
日時: 2011/01/07 17:45
名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)

こんにちは。キャサリンといいます。

今回はヒストリカル・ロマンス「月夜の白鳥姫」をかきたいと思います。雰囲気はプリンセス系かつダークな感じを目指します。

たぶん二部作になる予定!

18世紀初頭が舞台で、架空の王国にすむヒロインの出生の秘密と冒険をえがきたいと思います。

長編になると思いますが、よろしくお願いします!

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Re: 孤独の白鳥姫 ( No.1 )
日時: 2010/12/24 17:45
名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)

プロローグ


冷たい冬の風が、私の頬をなでるようになると、いつも体中が凍り付くような恐怖を覚える。
それは、14歳のあの日、見知らぬ男たちに殴られ、蹴られ、あげくのはて袋につめこまれた、あの地獄を思い出すからだ。
私を恐怖に陥れ、芯まで凍り付くような場所に横たわったまま、私はひたすら神に祈った。神は、きっと汚れていないはずの私を救ってくれると思ったからだ。だが、神は一時も私に微笑みを向けてくれることはなかった。
いたわるように、その慈悲の手をさしのべてくれることはなかった。私はすでに自分自身しか信じることができなくなっており、生き延びるためにはすべてを捨てて逃げるしかないと確信した。

温かい食べ物も、ワインも、金色の香料も、薔薇色の紅も、銀色のすけるドレスも、うつろな心の私にはなにひとつ魅力的には見えなかった。

Re: 孤独の白鳥姫 ( No.2 )
日時: 2010/12/26 21:42
名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)

王妃ミネリアの微笑は、そこにいるすべての人々を魅了した。

まずしく、教養もない者でさえも、それがきっと女神の微笑であり、王家への信仰をうながす光だと瞬時に感じ取った。そして私もその一人で、欠点のない完璧な王妃の顔に見とれていた。だが、完璧なのは王妃だけではない。まわりの王家一族の美しさも、群を抜いている。

敬虔王と呼ばれる信心深い王ローンの見事な銀髪と民衆をいたわるような優しげなまなざし。長女である王女リリアンの淡く、はかない雰囲気をかもしだすルビーの瞳とクリーム色の肌は王妃ミネリアにそっくりだし、次女ファーンの亜麻色の髪はチョコレートのようにツヤ光りをはなっている。そのアクア・マリンの瞳はとてつもなく優美だ。

それに三女のコーネリアも負けていない。真っ白な肌、漆黒の髪をもつコーネリアは妖艶な雰囲気をかもしだす美女だった。目は深いエメラルドの色をしていて、直視するだけで自分が恥ずかしくなってくる。

そして一番小柄で華奢な四女アナスタシスはまだ少女っぽいといえど、ファーン王女とおなじアクア・マリンの瞳にきらめくブロンドをもつ美少女だ。彼女は姉たちとちがって無邪気な笑みを浮かべている。

そして注目すべきは王子エドガー。
王とおなじ銀髪に、スッと筋のとおる鼻。端正な顔立ちには少年とは思えない威厳をおびた微笑を浮かべていた。
他国の王女たちが燃えるような思いを彼に馳せていることはあまりにも有名である。

私は彼らの美しさにボウッとしながらも、めったに見ることのできない王家の姿を忘れないように見つめた。まるで王家じたいが国宝であるかのように、彼らは野外にはあまり顔を出さず、宮殿に閉じこもってばかりなのだ。王家を誰よりも敬い、知っているつもりの私は感動を必死に噛みしめた。だが、となりの弟のフランツだけは、まるで大事なお菓子を取り上げられたかのような仏頂面をしていた。

「姉さん、もう帰ろうよ。すぐ見て帰る予定だったろ」

「すこしは美しいと思いなさいよ。この人たちが私たちカレンシアの民衆を統べているのよ。素晴らしいと思わない?」

「ちっともね」フランツは鼻で笑った。

私はそんな彼を無視した。こんなときのフランツが一番あつかいにくく、嫌いなのだ。

そのとき、王家はバルコニーから手をふって、ゆっくりと宮殿の中へと入っていった。歓喜していた民衆たちの間ですぐさま残念そうなつぶやきが聞こえた。
私も名残惜しく、その場にとどまったまま、じっと荘厳なフィンステラウ城を見上げた。こんな立派な城、ドイツのノイシュヴァンシュタイン城なんて比べものにならないくらい、美しすぎる。真っ白な城壁は、金色の縁にかこまれている。まるで昨日つくられたかのように、初々しい。

「ああ、退屈。こんな城壊しちまえばいいのに」

フランツが悪意をむきだしにして言うと、私はあまりの恥ずかしさと憤りに彼の口を乱暴におさえた。幸い、周りの王家崇拝者にはきこえていないようだ。

「黙りなさい。二度とそんなこといってはいけないわ、フランツ。さあ、帰りましょう」

フランツは満足げにうなずくと、つまさきのあいたボロ靴をひきずって、首都カッセントリノの最も栄えているフィール・ド・トリノを練り歩いた。私の着古したスカートのポケットには小銭が少し入っていて、私はそこに手をつっこんでチャラチャラ鳴らしていた。

「父さんはパンと…ミルクと、あと薬を買えと言っていたわねえ」

私がカラフルなお店を見回していると、フランツが嬉しそうに付け足した。「お菓子もだよ!!」
そう、私たちはもう数年お菓子なんて食べたことがなかった。

「『フィール・ド・パン』ここでいいか」

久しぶりに王家と対面できたので、町の人たちの頬が紅潮している。
私とフランツはそれを見て笑いながらパン屋に入り、安そうなパンをさがした。
貧民街の者がくると、いつも周りの客や店員に白い目で見られるが、今日は気にもならなかった。やっとまともな食事にありつけるのだから。

「これ安いよ」フランツが指さしたのは固そうだがおいしそうなパンだった。この店だとこれ一個は一人分らしいが、私たちミストウィーユ家にとってはこれで全員分だった。パンを買い、ミルクを買って、最後にキャンディの袋をさげ、私たちは急いで裏町──貧民街へもどった。明るくて幸せそうだったフィール・ド・トリノとは大違い、貧民街は一変してごみごみとした湿気た町だ。

ここには、ミストウィーユ家と同じような暮らしをしている家族がたくさん住み着いていた。中でもミストウィーユ家は平凡な位置にいる。

「おかえり、ぜんぶお菓子じゃないだろうね?」

母さんがいたずらっぽい笑みを浮かべながら、できそこないの家から出迎えてくれた。私は未だ興奮していた。「シーモアス王家に会ってきたのよ!」

「退屈千万だけどな」フランツはにやにやしている。

「フランツはかれらの偉大さを知らないのよ」私は鋭く切り替えし、それから母さんに微笑んだ。

「8ペリオ残しておいたわ。これで明後日の朝食まではもつわね」

「気がきくわ、メーヒェン。あなただけよ、しっかりしてるのは」

母さんがウインクすると、フランツが口をへの字に曲げた。

Re: 孤独の白鳥姫〜愛があるなら〜 ( No.3 )
日時: 2010/12/28 13:56
名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)

みんなが寝入ってしまってから、私はひたすら父さんの帰りを待ち続けた。
母さんは家事で疲れてしまって、すぐさま眠り込んでしまったのだ。でも、今日くらいは寝かせてあげたかったので、私はじっと眠気を我慢した。夜遅くまで働いてくれている父さんが帰るまで、絶対に寝ちゃいけない。
と、心のかたすみで思いながら、私は祖国カレンシアについて深く考えていた。山にかこまれている国カレンシアはヨーロッパの中でも小さいが、権力としてはイギリスに勝らぬとも劣らない。

特製ワインが名産品で、あのフランスよりも上質だと信じている。そんな─裕福なカレンシアだけれど、なぜか私メーヒェルン・ミストウィーユはついてない。カレンシアの貧民街で生まれたからだ。
カレンシアの金持ちたちはヨーロッパ各国の金持ちたちよりも大きく上回っていて、財力も多大だ。しかも王一族はヨーロッパ一金持ちときている。

そんな国の貧乏娘ぐらいむなしいものはないだろう。

でも私はこの生活が気に入っていた。お金もないし、権力なんてこれっぽっちもないけど、温かい家族がいるし、それに愛してくれる人がいる生きるにはそれだけで十分だ。
もちろん貴族たちのような暮らしは夢見ているけれど。

「ただいま」

うつらうつらとしていると、私の大好きな声が耳に飛び込んできた。父さんだ!いちもくさんに玄関にかけていくと、父さんが工場の油だらけになって立っていた。片手にずたぶくろ。それに二週間分の食料費が入ってる。

「おかえりなさい。父さん。母さんは疲れて眠っているわ」

「ああ、おまえは起きててくれたのか、メーヒェン」

ええ、とうなずくと父さんは笑顔になりずたぶくろを私にわたした。私は急いでずたぶくろの中の父さんの私物と食料費を分けた。中にはすでに父さんが買ったらしいワインが入っていた。

「父さん、ワイン上等じゃない。高かったでしょ」

私がとがめるように言うと、父さんはバケツの水で顔を洗いながらぶつぶつとつぶやいた。

「お前たちにお菓子を許したんだから、それくらいいいだろう」

「でもこれお菓子とは比較にならないわ」

ワインのラベルを見ると、カレンシア産第二級と示してあった。第三級は3ペリオくらいで買えるが、第二級は7ペリオが最低だ。第一級なんてとてもじゃないが手がつけられないほど高価だ。それを貴族たちが毎晩のように飲んでいると想像すると頭がくらくらしてくる。

「とくべつだ。今日くらい許してくれたっていいだろう」

父さんは薄汚れたタオルで体を拭くと、ぶっきらぼうに言った。顔がしかめ面になっている。不機嫌にさせてしまったらしい。だがすぐに彼は微笑をとりもどした。

「実は今日は30ペリオももらえたのさ。ボーナスだ。こんなときぐらいしか、ワインは買えないからな」

「あら、そうなの」自分でも驚くほど声が興奮に満ちている。父さんは笑い声を上げた。

「メーヒェン。心配するな。一文無しになったとしても、ちゃんと策はあるんだ」

「策って?」

「内緒だ」彼は謎めいた微笑を浮かべ、寝室へ入っていった。私は父がおかしくなってしまったのではないかという反面、ボーナスがうれしくて興奮の絶頂のまま固いベッドに横になった。


これでまた素敵なものが買えるかもしれない。

Re: 孤独の白鳥姫〜愛があるなら〜 ( No.4 )
日時: 2010/12/27 22:05
名前: キャサリン (ID: cQ6yvbR6)


「メーヒェン…!!おきて!ひどいことになってる」

甘い夢の世界から私の意識をひっぱりだしたフランツの声は朝から騒々しかった。

「なによ」素晴らしい朝焼けを目の前にして、しゃがれて不機嫌な私の声は自分でも驚いた。急かすフランツをよそに、私はフランツがいつも寝ているボロソファに目をこらした。

さっき飛び起きたように、うすい布団がぐちゃぐちゃになっている。几帳面なフランツのことだから、ただ事じゃないことが見てとれた。
もちろん彼の真っ青な顔を見ても。「なにじろじろ見てるんだよ!はやくおきて、居間へいかなけりゃ!夜中ヤツらが盗みにきたんだ」

「ヤツら」という言葉をきくと私は、考えるよりも先に部屋をとびだしていた。顔も洗わず、真っ先に青くなって失神寸前であろう母のいる居間へ走っていった。

「ああ……メーヒェン…!とんだことに」

予想通り、母は顔を青く染め、衝撃に手をふるわせながら立っていた。私はなにがおきたのか即座に理解した。

「こんなひどいことって…ないわ!」母が嘆く。

その足下には空っぽで平たくなった愛用の食料袋が転がっていた。私は衝撃に倒れそうになりながら、イヤな予感がして昨日父が油だらけになって持って帰ってきた30ペリオ入りのずたぶくろを乱暴に開けた。

──予感・的中だ!

30ペリオがあるはずのずたぶくろの底にはわずか4ペリオしか残っていなかった。私は絶望感にかられながら周りを見渡した。夜整頓したはずの居間が荒れている。しかも玄関の扉はすこし開いていた。きっと泥棒はあわてて金目のものをさがし、風のようなはやさで家を出たのだろう。

おそらくずたぶくろの中のお金をつかんで逃げたんだ。

私はまさに夢に描くような栄華をほこる美しい町フィール・ド・トリノの町人ではなく、反対側の貧民街の家から盗んだ泥棒が許せなかった。──なんて冷徹で無慈悲なヤツ!金だけで満足せずに、食料まで奪い取っていったのだ。犯人は分かっている。

こんなことは、「ヤツら」しかやらない!

私が怒りをたぎらせ、あたりのものをつかんで叩きつけようとした瞬間、父さんが目をこすりながら起きてきた。

「どうしたんだい」

私はライオンにもまさる勢いで父にかけより、目を真っ赤にはらして問いただした。

「父さん!一文無しになったときの策っていったいなんなの?」

憤りに爆発する私を見て、父は一瞬ひるんだ。

「は?いったい……」

父は私の肩越しから居間の様子を見た。うしろで嘆いている母の姿、荒らされている部屋、ぺちゃんこの食料袋、そしてわずか4ペリオしかはいってない愛用のずたぶくろ。

父の顔はみるみる白くなっていった。「…ワインは…あるのか?」

「ワインの問題じゃないわ!あいつらにやられたのよ!『ド・ゴーシュ』に!!」父はすがるような目つきになった。

「まさか……いくら私たちをいじめているからって、ここまで大胆なことはやらないだろう」

「なにいってるのよ、父さん!ド・ゴーシュの番長ビリアンがこのまえ、収入がないってバラリアン広場で堂々と叫んでいたのを知らないの?そしてなぜか私たちを嫌ってる。ビリアンは通りがかった私とフランツを脅したのよ!あいつらはとうとう貧民街にまで手をだしたんだわ!」

父さんはもはや言葉を失ったようだった。
そのときフランツが殺気だった私の腕をつかんだ。

「ねえ、10ペリオが隠してあった」

手には10ペリオが入った袋がにぎられていた。私は父のほうへ振り向いた。父は力なくうなずいた。

「それが……策だ…」

私たちは四人もいるというのに、たった14ペリオから出発することになってしまった。


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