ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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白銀神騎アルファリーゼ
日時: 2011/01/10 23:05
名前: 深山羊 (ID: S.vQGXD5)

初めましての方は初めまして、知ってる方はこんにちは。
深山羊みやまひつじです。

今回はシリアス(多分)な現代ファンタジーを書かせていただきます。
ちなみにタイトルの読みは「白銀神騎はくぎんしんきアルファリーゼ」です。略し方とかご自由にお願いします。良いのがあったらそれを全面的に使うかも……。
多少暴力的な表現やグロっぽいこともするかも知れないのでシリアス・ダークの方で書かせていただきます。
全体的な流れとして、タイトル通り神騎と呼ばれる動く無人鎧「アルファリーゼ」が戦いそして未来をつかもうとするお話です(きっとおそらくそう多分)。

これとは別に「Walking」という作品も書いておりますのでよろしければそちらもどうぞ、これとは違う雰囲気の物語となっております。

よければ感想やアドバイス、一応酷評とかも大好きです(Mじゃないよ?)
少しでも面白いと感じていただけたらちょろっとで良いので感想を頂けたらなんて思ってます。

色々グダグダ書いてても仕方ないのでこの辺でまえがき(?)を終わります。
深山羊でした。

それではごゆっくりと本編をお楽しみください。

追伸。
友人に前タイトルの「アルファード」を見て「ん?おんなじ名前の車なかったっけ」と言われ検索するとありました。なんてコッタイ、という訳で急遽タイトル変更となったしだいです。
余計な事をしてくれたな友人Aよ……。


【語群】
天城都市新渡《てんじょうとしあらと》
那緒《なお》
那緒敍昂学園《なおじょこうがくえん》
同調者《どうちょうしゃ》
神騎《しんき》
天上位階《てんじょういかい》
セネシグ《せねしぐ》
次元石《じげんせき》
異次元世界《いじげんせかい》
方舟計画《はこぶねけいかく》

【名前】
霧蛇 鴉《きりみ からす》
アルファリーゼ《あるふぁりーぜ》
鈴野 紗枝《すずの さえ》
上瑠 華《あるり はな》

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第一章 白銀と自己紹介と潰し合い ( No.3 )
日時: 2011/01/08 00:40
名前: 深山羊 (ID: Mm9jHYga)

 何の前触れもなく現れた鎧の矢に貫かれる。その光景が脳裏に浮かんだ、なぜ死ぬのかも解らぬまま血を流しコンクリートの地面にヘッドバットをきめることになるのだろう。
 走馬灯の様な一瞬。矢は勢いを止めることなく正確に風を切るがその矢は俺に届くことは無かった。矢と俺の間に何かが立ちふさがっていた。
 それは月明かりに照らされて白く銀色に煌く鎧、緑色のそれと同じであることはわかるが敵意は感じられない。
 眼の前の白銀の鎧は鷹をモデルにしたかの様なヘルメット、そこから覗くのはクリアブルーの瞳———なのか?さらに見ただけで分かる身長は優に180cmを超えていているはず。
 白銀の鎧により緑の矢は止められ、必然的に俺は絶命することもなく白銀の鎧の前に立つ。鎧は振り返り緑に立ちふさがりそして
「幾ら同調者が居なかろうと天使アンゲロイ級一機で捕えに来るとは笑わせる。これでも権天使アルヒャイ級だ、貴様など一撃で葬ってくれる」
 喋った。そして鎧が構えると先ほど受け止めた矢を緑に向かい投げる、緑はそれに構えなおした矢を放つ。
 緑の放った矢は白銀の放った矢に命中し矢同士弾け飛んだ、しかし緑が構えなおす前に白銀は緑の懐に潜り込み右ストレートを緑の胴体に叩き込んだ。
 圧倒的な力の差。
 眼の前で起こった非現実、非日常を考える前に白銀の鎧の動きに俺は見とれ、惚れていた。緑の鎧の弱点を突いたのか緑の鎧は事無く崩れ落ちその隣に立っていた少女は白銀により気絶させられる。ゴクリと唾を飲み込む音が嵐の後の静けさに響いた。
 白銀はこっちを見ると踵を返しこちらに向かってくる、一難去ってまた一難。だが恐れはなく、ただただ白銀の鎧を見ていた。
「名は?」
 鎧にそう問われ反射的に名乗った。
「霧蛇 鴉」
 名前を聞くと鎧はカシャンと音を出し跪く、その行為の意味は一体何なのだ。
「鴉。君が良ければだが私と共に戦ってくれないか」
「戦うというのは、アレみたいなのとか?」
 そう言って緑色の鎧と少女を指差したがそこには倒れた少女の姿しかない。
「あれ?緑の鎧は……」
「消滅したはずだ。安心して構わない」
 安心しろという言葉は本当だろう。それよりも先ほどの白銀の鎧の瞳からは強い意志を感じる。だが全くもって実感がない、戦ってくれなどと動く鎧に頼まれてもどう答えればいいのかわからない、だが。
「で、どうすればいいんだ?」
 そう問うとクリアブルーの瞳が驚きを見せたのが感じられた。
「いい……のか?」
「まあ、何かの縁だ付き合うよ」
 きっとそれは言い訳、俺はこの白く銀色に煌く鎧に心を奪われたのだ。あの一瞬の攻防の中にゲームやアニメ、漫画の中だけにしかなかった本物の戦いを感じた。不純だ、そう分かっていても止められないこの衝動。もしかしたらこの鎧なら今度こそ何かを守れるのかもしれない。それに憧れているのかもしれない、守る戦いに、かつて父がそうしたように。
「そうだ」
 不意に思い出したように呟く。
「なんだ、鴉」
 白銀の鎧は疑問を投げかけてきた。
「なんて名前なんだ?」
「む。名乗ってなかったのか、すまない。私の名前はアルファリーゼ。アルフと呼べばいい」
 アルファリーゼ、アルフ。その名前にどんな意味があるのかはわからないがとりあえずはアルフと呼ぶことにしよう。
「アルフ、俺はこれからどうすればいい?」
「その件だが日が沈みすぎている、どこか休めるところへ連れて行ってもらえないか?」
「そうだな……」
 迷う振りをするけど、どう考えても落ち着いて話をするには寮の自室しかない。
「ついて来てくれ」
「ふむ」
 カシャンと音を立てて立ち上がり俺の後ろをついてくる。その後すぐに寮へついて買ったものを冷蔵庫に入れた。この際誰とも会わなかったことが奇跡と思える、幾らなんでも鎧を連れてくるなんて非常識というか非日常的すぎる。
「すまないが今日はここで寝かしてもらうが構わないか?」
 白い鎧に尋ねられると適当に頷いて見せる。鎧の方を向くと鎧は片膝を立てて座り込んで寝ていた。(眼が見えないからそうなのだろう)
 その後すぐにベッドに倒れこみ、うっすらと眼を閉じると睡魔には勝てず眼を閉じてしまった。その際今後のことを聞くなどということは一切合財忘れていたのは言うまでもない。

第一章 白銀と自己紹介と潰し合い ( No.4 )
日時: 2011/01/08 20:16
名前: 深山羊 (ID: Mm9jHYga)


     ◆


 大体昨日のことは思い出した。登校時間まではかなり余裕がある、何せ一時間前だ、そうそう遅刻はしないだろう。白い皿の上の朝飯を平らげフォークを置く。
「鴉」
 多分アルフに名前を呼ばれた。
「なんだい?」
「いや、この姿は変かどうか聞きたかったのだ。この姿は元々私の姿だからな」
 長髪を撫でながら尋ねるアルフが綺麗でつい見とれそうになるが気にしないようにしながら答えた。
「その髪の色と眼の色が日本人っぽくは無いけどその辺以外は問題ないと思う。結構可愛い顔してんのな」
 個人的にはその髪も眼の色も好みではある。
「そうか、ならいい」
 少し頬を赤らめたように見えたがすぐにこっちを向いて真剣な表情をした。ここからが本番だ、昨日からの延長線上にある話。
「昨日鴉を襲った緑の鎧は私を狙っていた。暗闇の奥に私が立っていてその間に鴉が居たんだ」
「とばっちりだったのか」
 答えはあっけないもので偶然歩いていた俺の前にアルフが居てそれを狙っていたのがあの二人。でいいよな?
「そいつはそうと聞き忘れていたけど、本当にあの鎧なのか?」
「疑っているのか。まあ無理もない。ちょっと見ていろ」
 そう言って立ち上がり不意に来ていた服を脱ぎだした。こともあろうにこっちを向きながら。
「……ちょっと待て」
 異常事態に停止した脳が出した指令は冷静にもまともな言葉だった
「どうした?」
 不思議そうな顔をしながら脱いだ服を椅子にかけていた。まあ一言で言うなら裸体な訳で。
「いや、……なんでもない」
 もう脱ぎ終わっているのに待てと言っても無駄だ。出来る限り視界に入れないようにすればいい。
「見ていないと意味ないじゃないか」
 グイッとそらしていた顔を正面に向けられた。息がかかるくらいに顔が近い。さらりとした銀色の髪からは甘い匂いがしているような錯覚に陥る。
 裸の女性に見ろと言われて理性を保てるほど人間が出来ていた記憶はない。
「余計なことを……」
 ぼそっと呟く。その一瞬に眼前には鎧姿となって居た。
「これでいいか?」
 なぜか誇らしげに聞こえるアルフの声。そうだよ、あれは鎧だ。あれに欲情するなんて馬鹿げている……はず。
「ああ」
「分かってもらえたならそれでいい。このままだと狭いからさっきの容姿に戻るが構わないか?」
 頷くとまたもや瞬く間に人になっていた。もちろんさっきと同じように裸な訳で。
「早く服を着てくれ。目のやり場に困る」
「そうするとしよう」
 テキパキと服を着ている、服を着たのは良いのだが。俺のTシャツを使っているせいか胸が大きいのか、胸元が苦しいんじゃないのかと思うくらい胸が強調されていた。
 これはこれで目のやり場に困るな……。なんとういうか透けている、胸が。正直裸よりエロいと思うぞ、なんせ下着なんて着ちゃいないんだから。
 ヴゥゥゥン、ヴゥゥゥン。
 マナーモードの携帯が震えだし、手に取り開く。ディスプレイには新着メールが一通と表示されている。メールの差出人は契約会社だった、多分今月の携帯代の請求内容だろう、後で確認するとしよう。
 携帯を閉じようとしてディスプレイの時間表示が目に入った。
 8:14
 ……おかしい。さっき自室の時計は7時ちょっとだったはず。彼女をそのままに自室に早足で向かう。
 ベッド横の時計は確かに7時と3分を差していた、が秒針は30秒と29秒の間を行き来している。つまり電池切れ直前。あ、止まった。
「うそだろ承太郎!」
 つい口に出したしまった。そんなことは今はどうでもいい!幾らなんでも初日に遅刻はまずい!登校時間は8:30。今の時間は。腕時計を手に取り確認、針は8:15を指している。
 15分しかない。学校までは走れば4分前後だろう。あと11分も余裕があるじゃないかなんて思うわけにはいかない。大体クラスさえも知らないのに。幾らなんでも行けば分かるだろうが時間が足りない気がする。
 幸い着替えも朝食も必要なことは終わっている。リビングへ急ぎ目をきょとんとしている彼女に
「とりあえず俺が学校から帰ってくるまでここを出ないでくれ、それと出来るならどっかにノートとペンがあるからお前のこととか鎧とか、どういう状況なのかまとめておいてくれたら助かる。それと飯はなんでも食べてくれて構わない。ああ、あと」
 早口に用件を伝えていると不意に首の後ろ辺りの髪の中に手を入れた。
「私から離れるならこれを持っていけ」
 やわらかそうな手のひらには銀色の十字架の様な形をしたネックレスの様なものがのっていた。
「何コレ?」
「私の分身の様なものだ、外で鴉が襲われてもこれを持っていれば私はどこへでも駆けつけられる」
 あからさまに何かあるのは承知の上。またあの様な鎧に襲われるかもしれない、そう思ったらお守り程度にはなるだろう。
「分かった。それじゃあ行ってくる。さっきも言ったけど絶対に部屋から出ないでくれよ?ここは寮なんだからアルフみたいなのが居たら怪しいんだからさ」
「了解した。では、いってらっしゃいませ、だ」
 言い終えるのを聞くとすぐに玄関から飛び出した。

第一章 白銀と自己紹介と潰し合い ( No.5 )
日時: 2011/01/08 21:02
名前: 深山羊 (ID: Mm9jHYga)


     ◆


 結果だけ言うなら間に合った、思いのほかなんとかなるもので、今は発表されたクラスの自分の席で一息ついている。パッと見渡す限り見たことある顔は一つもない。そんなことは当たり前なのだがなんとも違和感のある光景だ。
 席の位置は運よくも窓側の一番後ろ。苗字が「き」から始まるのでたまにこういう特等席の様な席が回ってくる。
「ねぇ」
 隣から声をかけられた。右を見ると見知らぬ女子が居る。まあ当たり前だが。
「なにか?」
 うなじまでのポニーテールを揺らし少し不満そうな顔をした
「無愛想ね。隣の席になったんだから仲良くしましょう、ね?」
 可愛らしく笑みを浮かべたが正直アレを見た後だと同年代の女子など小学生と変わりない様に思える。しかし、そこは大人の対応。
「ああ、よろしく頼むよ」
「そうそう、素直が一番。あたし、鈴野紗枝よろしくね。君の名前は?」
「霧蛇鴉、霧散の霧と蛇に鴉って書いて霧蛇鴉。大分変な名前だけど覚えやすいだろ?」
「鴉君か、んじゃ、かー君だねっ!」
「もっと別の呼び方ない?」
 幾らなんでも安直すぎる上に高校生になってそれはきつい。ちなみに中学の時はクロって呼ばれてた。鴉と黒を掛けたあだ名だった。案外嫌いじゃなかったあだ名ではあった。
「じゃあ……」
 鈴野が考えている間にチャイムが鳴った。
「また考えとくね、とりあえずは鴉君で」
「分かったよ」
 実は結構面倒な相手に引っかかってしまったのかもしれない。そんな後悔をしている暇はなく教員が教室へはいってきた。その後は体育館へ入り校長の挨拶などどことも変わらない入学式が終わり教室へ戻ってからのHR
「はい、みなさん初めまして。このクラスを預かることとなりました」
 新品らしき黒板に白いチョークで名前を書き始めた。
「上瑠華です。今日から一年間よろしくお願いします」
 丁寧にお辞儀をしてみせる。見た目は茶色がかった黒髪、長さは腰のあたりまで。他に特徴といえば優しそうな笑みくらいで、結論おっとりとした優しそうな先生だ。
「それじゃあいきなりだけど時間があるから出席番号の早い人から自己紹介をお願いできるかな?」
 ウッスといかにも野球部な見た目の生徒が立ち上がって教壇に立った。
「名前は」
 野球部(ほぼ確定)がしゃべりだしてすぐにふと俯く、マナーモードの携帯がまた震えている。位置が幸いして携帯をこっそり開いてもばれないはず。
 ——新着メールが一通きております
 ディスプレイには携帯のルーチンワークと言わんばかりにお決まりの文字が表示されている。まあそれが携帯なんだが……
 メールを開くと下(ここでは本土という意味だ)の友人からのメールだった。
『うーっす、元気してるか?(笑)こっちはもう入学式終わったぜ。そっちも終わったら電話くれよな。待ってるぜ、兄弟』
 相変わらずの文面に少しの懐かしさを覚えてメールを返そうとした時
「霧蛇鴉君?大丈夫ですか?しんどいんですか?」
 心配そうにこっちに近づく上瑠先生。ばれないようにすっと携帯をポケットに滑り込ます。
「いえ、少し寝不足なだけです」
「そうですか。睡眠はしっかりとらないと体に悪いですからね。では次お願いできますか?」
「はい」
 立ち上がり教壇の前に立つ。思いのほか人数が多く結構緊張する、気がする。
「名前は霧蛇鴉。変な名前ですが覚えやすいんじゃないかと思います。えーっと、出身地は関西で、中学は県立でした。趣味は……」
 アニメを見ることです(キラッ☆。なんてやってもいいのだろうか……。どう考えても爆死する未来しか見えない。ここは常識のある発言をしつつ嘘をつかない方針でいこう。
「……映画を見たり」
 そう何一つ間違ってない。映画好きだよ映画。アニメも洋画も大好きよ。
「漫画を読んだりすることです」
 よし、嘘は言ってない。……くっ。クラスの視線が痛い(そんな気がする)。
「以上です。一年間よろしくお願いします」
 なんという屈辱。パチパチと小さな拍手が胸をえぐる。これが若さゆえの過ちかっ……!
 意気消沈とした俺を見かねたのか先生が近づいて耳元で
「先生も好きですよ。映画」
 小さくウィンクをしてくれた。良い先生じゃないか。
「ねぇねぇ」
 ポニーテールが話しかけてきた。
「なんだい?」
「先生なんて?」
「別にたいしたことじゃない。さっき俯いてたこと大丈夫かって聞かれただけ」
「ほんとにぃ〜?」
 めんどくさいのに引っかかったのはほぼ確定の様で。
「ほんとほんと」
「まあ、良いけど」
 良いなら聞くなよ。
 その後は特に滞りもなく自己紹介が終わりHRが終わりを告げた。自己紹介で話しやすそうな相手を見つけた同士で話を始めているのが目立つ。強がりではなくそんな輪に入る気なんて初めからなく、最優先事項を思い出す。
 そう、アルフ。鞄に手を掛けて席を立とうとした時。
「きみきみ、ちょっと待って」
 声の主を見るとポニーテールだった。確か名前は
「もー、名前忘れたって顔してるよ?もう、鈴野紗枝。紗枝ぴーでも紗枝ちんでも好きなように呼んでいいよ」
「紗枝は確定なのか」
「嫌ならリンでもいいよ?」
「そうする」
「中々捻くれてるねぇ。まあ良いけどね」
 笑いながらポンポンと背中を叩かれた。
「代わりに君のこと、キリって呼ぶから良いね?」
「霧蛇の霧でキリってことでいいのか?」
「うん。嫌?」
「別になんでもいいよ」
 ポニー……。じゃなかったリンだけにしか呼ばれないだろうし、別にそこまで変なあだ名でもない。
「というか。もうあだ名で呼びあうのな」
「え?だってもう友達でしょ?」
「正直友達のラインが分からないから」
「それは確かに言われてみればそうだね。まあ席が隣だし、どの道長い付き合いになるんだから早めに慣れようってことで」
「ずいぶんフランクだな」
「よく言われるよ」
 えへへと笑いながら頬を掻く。可愛くないわけじゃないんだがやはりアレにはどう転んでも及ばない。
「じゃあ俺もう帰るから、また明日な」
「うん。じゃね、また明日」
 鞄を再度手に持ち下駄箱まで歩きだした。

第一章 白銀と自己紹介と潰し合い ( No.6 )
日時: 2011/01/12 02:58
名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)


     ◆


「ただいま」
 ドアノブを回すと鍵がかかっていた。そう言えば出る時鍵を閉めた記憶が無いぞ。確か鍵は財布の中にあるはずだが……
「あったあった」
 キーを差し込み回す、手ごたえあり。今度こそ
「ただいま」
 ドアは問題なく開く、玄関は朝出た時と変わりない。リビングの方から声が聞こえる。誰と誰がしゃべっているのだ。唾を飲み込む。帰宅早々こんな場面に出くわすとは思わなかった、忍び足でリビングまで距離を詰めた。
 耳を戸にあてると
「おお、鴉か。おかえりなさいませ、だ」
 耳をあてていた戸が開いたことによりバランスを崩しリビングに倒れこむように入ることになった。ぶつけた肘が痺れ、頭に軽い頭痛を覚えた。
「一体誰と話して」
 言い終わる前に気がついた。
『——、———。———、——————!』
 テレビから発せられる音、何とも愛らしい落ち。
「どうしたのだ?」
「いや、なんでもない」
 やせ我慢と恥ずかしさを隠すようにスッと立ち上がる。
「今朝言われたようにノートにまとめておいた暇なときにでも目を通すといい」
「そうか、手間をとらせてすまないな」
「いやいや、中々興味深いモノも色々見つかったから退屈ではなかったぞ」
「興味深いモノ?」
 心当たりがなかった。子供が見ちゃだめなそういう本は持っていないしそういうDVDもない。仮にあってもそういうイベントは男友達が遊びに来た時に起こるものであってだな。
「うむ。一応この世界の常識、技術などはメモリーにあるがこのような映像はメモリーになかったので中々興味深く面白いものだらけだった」
「なるほど、アニメのDVDか」
 小遣いを貯めて買った奴とかか。
「なんというかカッコいいな、こういうの」
 テレビに映った映像を見ている彼女の目は輝いて見えた。
「気に入ったんなら見てていいぞ。俺はまとめて貰ったこのノートに目を通すからさ」
 青い表紙のノートを手に取りリビングを後にする途中
「うむ。っとその前に済ませておきたいことがあるのだが」
 振り返るとソファーからちょこんと顔を出したアルフが見える。背が高い癖にどうやってそのソファーに隠れているのかが不思議でしかたなかったがそれを飲み込み
「なんだ?」
「今、仮の状態で鴉には同調者になってもらっいてるのだがこれを本当の同調者になってもらいたい。その儀式というか契約の様なものをしたいのだが」
「構わない」
 きっぱりとビシッと言い切る。
「いいのか?」
 疑問を問いかけると言うよりも心配して聞いてくれているといった感じで、その声にはどことなく申し訳なさそうな声にも聞こえた。
 しない善よりする偽善。どっかで聞いた言葉、自分の為俺は彼女を利用しようとしている、それを思うとむしろ聞きたいのはこっちだ。本当に俺で構わないのかと。
「昨日いっただろ。付き合うってさ」
 その言葉を聞くと少し頬を赤らめ近づいてくる。なぜか恥じらい銀色の髪を掻き上げる。その仕草はとても可愛らしく男心を擽る。
「そ、そうか。では失礼する」
 手を握られたと思うと薬指にチクリとした痛みを感じ手を引いたが思いのほか握られていた力が強く手は手の中から抜けださなかった。
「……はむ」
 薬指を咥えられた。
「なっ……」
 ざらりとした舌が薬指の痛む部分を舐める。数秒経ち、薬指諸共、手が解放される。
「これで良い」
「人の指舐めていきなり何言ってんだよ」
「指というより正しくは血だな」
 薬指を見ると赤い滴と彼女の唾液が見て取れる。
「血を舐めてどうしたんだ?」
「鴉の遺伝子に私の波長を合わせただけだ。一応私の意志で波長はずらせるがもう一度血が必要となるということも伝えておこう」
「とりあえず早い話が俺はちゃんとパートナーになった訳か」
「そういう解釈で構わない」
 これで本当に彼女に付き合うことになった。もう後戻りはできない、というかする気はないけども
「それにしてもいきなり人の指を咥える奴があるか」
「言ったら逃げそうだったからな」
 プイッと頬を赤く染めてテレビの方へ顔を向けた。今までの行動を見るに彼女は案外照れ屋で恥ずかしがりなのかも、憶測だけどな。言葉使いはがさつな感じなのに意外と女の子らしいところもある。
 こいつは本当に鎧でファンタジー世界のモノなのだろうか、そんな疑問を持たせるほどに可愛い生き物(?)だ。そんな可愛らしいモノの正体を突き止めるべくまとめてあるノートに目を通さないといけない。
 リビングを後に自室のベッドに倒れこみパラパラとノートを捲り内容に目を通す。

第一章 白銀と自己紹介と潰し合い ( No.7 )
日時: 2011/01/10 23:04
名前: 深山羊 (ID: S.vQGXD5)

 結果を言うとノートを読み切るのにさほど時間はかからなかった。電池を入れ替えた時計は3:15を指している。帰宅してから約3時間半前後。その間アルフはリビングでアニメを観賞していた様子。
 内容を理解するのはさほど難しくはなかったが信じられないことのオンパレード。信じていた世界が音を立てて崩れていくのを感じる。開いていたノートを閉じて息を吐き出す。
 まるで何かの物語の登場人物になったような気分だ。さまざまなキーワードの様な言葉。『神騎』『同調者』『天上位階』『セネシグ』『次元石』『異次元世界』……etc.
 俄かには信じられないことだが実際そうなのだろう。アルフ、彼女は次元石をコアに作られた人間、否神騎という戦うための兵器だということ。
 自室を後に音のするリビングに足を運んだ。


「アルフ。少し話そう」
 神妙な面持ちで声を掛けた。
「わかった」
 一言そう言ってテレビの電源を落とし、テーブルの椅子に着いた。こっちもテーブルの椅子を引き座る。
「単刀直入に聞く、今後俺やお前が襲われることはあるのか?」
「多分おそらくあるだろう」
 何一つためらわずに答えたその面持ちは入たって真剣そのもの。予想通りの回答に切り返して聞く
「対抗する手段は?」
「私だ」
 さっきと変わらない。刀で物を斬るように答える。
「お前の階級は?」
「同調者が居る状況下で権天使アルヒャイ級。居ないなら大天使アルヒアンゲロイ級、だから今は権天使アルヒャイ級。どんなことになってもいいという条件付きで能天使エクスシアイ級に勝てなくもない。とデータにはメモリーされている」
「ギリギリ中位三隊「子」の最低階級クラスか」
「面目ない」
 少し俯きがちになるもすぐに立ち直る
「現時点でのセネシグの稼働可能な神騎の数は」
「私が出てきた時には私を含め約十機が稼働可能だったはず。一機昨日潰したとしてむこうの戦力は約八機」
「八機か、じゃあその八機の階級は分かるか?」
「九機中四機が天使アンゲロイ級だったはずだから八機中三機は天使アンゲロイ級のはずだ」
「他は」
「わからない」
 まあ三機が難無く潰せるというのなら吉報、しかし能天使エクスシアイ級以上が出てくると厄介になる。
「そうか。じゃあ次、お前の武装の再確認」
「「左型-壱」全長約400mm、重量約1200g、口経.44マグナムに類似、所謂拳銃だな。「右型-閃」全長約1.3m、重量約5kg、横幅最長約7.5cm、ツーハンデッドソードと呼ばれる類の物だ」
「接近戦と中距離戦がこなせると言ったところか」
「一応ギリギリ遠距離の最低射程でも「壱」の弾は対象物に届くというデータだ」
「確かにノートにもそう書いてあった。だがしかし試していないなら机上の空論、中距離を前提にしておくが構わないな」
「そのあたりは任せる」
 確認はしたものの実際の戦闘になるとアルフ自信がカギになる。俺はせいぜい死なないようにするだけ。

「さて、これが一番重要なこと。『方舟計画』ってなんだ?」


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