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反響音の響くHz 
日時: 2011/05/11 22:02
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=9mKCEeXu4j0

ふう…何という暴挙に走ったことかw
どうも、遮犬です。お前またかとか言わないで(ぁ

色々なりゆきと衝動でいつもの如く書いちゃいます…うん。悪くない…よねぇ?(聞くな
まあ、なんといいますか…結構、イメージソングとかから作りました物語です。

〜忠告、的な?〜
・心優しい方は優しい表情でお見届けくださいw
・グロ描写はあるかと。
・ややこしく、なるかと。
・亀更新ならざるを得ないですが、それでもよろしければw
・やって、やりますw


イメージソング【Calc.】(参照より)



〜目次〜
プロローグ…>>2

第1話:震動し始めた反響音
♯1…>>4 ♯2…>>7 ♯3…>>8 ♯4…>>9 ♯5…>>10
第2話:始まりの音色
♯1…>>11 ♯2…>>12

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Re: 反響音の響くHz ( No.10 )
日時: 2011/02/07 21:39
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: fFMoervE)
参照: 4000文字越えの長めでサーセンorz

夕方頃、人混みも昼と比べればまばらになっているこの時間に特に今日は何もやることのない司とクファと五十嵐が下校していた。

「むーッ! 一緒に帰ろうって言ったのにぃーっ!」
「そうだ、そうだーっ!」

人混みの中、クファと五十嵐は手を挙げて怒りを示している。
もちろん、原因は本当ならばここで一緒に帰っているはずの春のせいであった。
その二人の横を苦笑しつつ並んで歩く司は春のバイトの内容は知らないが信頼はしていた。
それに部活動などがある楓や修史などは滅多に一緒に帰ったり、集団活動が出来ないためにこんなことは慣れていた。

「まあまあ。今に始まったことじゃないんだから……」

司はそうやって毎度のこと二人の気を宥める。それは前学期でも同じような繰り返しであった。
春がいないたびにこの二人は唸りをあげる。毎度のことこの三人と今日は休みのようだが千鶴と燕とで帰っているのだが……。

(私の立場ってこの二人の中じゃ普通なのかしら?)

普通という言葉が好きではない司にとってはそのことが何とも嫌疑なものに思えた。
そう思いたくもないのだが、この二人にとって自分はどういう風に映っているのかも気になるところではある。
リーダーという感じに引っ張ってきたがそれはやはり別として気になるものであった。

未だに怒りの雄たけびに近いものを言い放ちながらクファと五十嵐はずんずん前へと進んでいく。
それに仕方ない、という風に司も後をついていく。
そして、丁度交差点に差し掛かった時であった。

「あれ……?」

信号の向こう側、つまり今司たちが渡ろうとしている先の方にまばらな人混みがやはり集まっていた。
だが、その中で一人だけ少し違和感のある者がいたのだ。
その者は少女で、スタイル何かは司までもが負けているんじゃないかと錯覚するほどの綺麗さ。
そんな容姿とは違い、変わっていると思ったのは持っている物と服装であった。
持っている物は竹刀を入れるような袋に詰められた棒状の何かを体を優に超える大きさで持っている。
そして服装は今日は祭りでも何でもないというのに黒色の浴衣姿だった。

異端、とまではいかないがやはり目立つだろう。その少女の周りを通りがかるものは皆振り返る。
だがしかし、司が違和感を感じたのはそんなことではなかった。
何か、冷たいものがその少女を纏っている感じ。目には何かの感情が見え隠れする何かがある。
それは司に身震いをさせるほどに感じるものだった。

ずっと司はその少女を凝視してしまっていた。きっと今の自分の顔は驚いた顔なのだろうと思う。
だが、そんなことは関係なく見惚れてしまっていた。

「——っ!」

何故か言葉を発そうとしたその刹那、車が目の前を無数に遮っていく。それと同時に少女の姿も隠れてしまった。
そのまましばらく経つと、車が動くのを停止した。きっと信号が変わったのだろう。
その謎の少女は——既に姿を消していた。
まだ近くにいるだろうと周りをキョロキョロと振り返ったり見回したりするが見つからなかった。

「むーっ! つーかーさーっ! 行こうよ〜っ!」

気付くと、クファが司の右腕をぶんぶんと激しく振り回していた。

「あ、あぁ……うん」

クファに引っ張られるような形で司は歩いた。先には手を振ってる五十嵐の姿も見える。

(一体、あれは……?)

そんな疑問が不意に司の頭を駆け巡らせたのだった。






目が合った女がいた。
周りの者は自分の浴衣姿は理由はよく分からないが珍しいのか振り返る。だが、目など合わせようとはしない。
浴衣姿だけでなく、持っているこの"大事なもの"も変わったように見えるのだろう。
それは仕方ないことだ。しかし……。

「あの女……」

信号の色が変わるのを待っている間に目が合ったあの女。
あの顔はどういうわけだか驚愕、とまではいかないが驚いたような顔をしていた。
あの女とは初対面のはずだというのに。

(気になる……が、そんなことはもうどうでもいい)

少女は頭からつい先ほどの出来事を忘れた。咄嗟に隠れるようにして逃げ去った自分を悔いることも忘れた。
ただ、待つのみ。
——ゲーム開始の合図を。
少女は、空に薄っすらと浮かぶ月を見上げて——笑った。






日が暮れたのかどうかすらも分からない地下の賭け場は——騒然としていた。
それもたった一人の男子高校生に、である。
ニヤリと表情を歪ませ、テーブルに足を置くその偉そうな態度の男子高校生は膝をつきながら目の前の男を見る。

「も、もう金が……っ!」

男の顔は焦りに焦っていた。
額からは多量の脂汗が流れ落ち、中年太りの男は気が狂っているのかと聞きたいほど目が泳いでいる。
その男は男子高校生——春がここに来た時に大勝ちしていた男であった。
だが、今では目の前にあった大量のチップが全て春の手元にある。

「金がない? そんなことないでしょう」

春は右腕の人差し指ですっと男の腕元やつけているアクセサリーを順にさしていく。

「それら全て、賭けれるでしょう。スーツも高級そうですが……それは貴方のそのひどい汗がついているのでいりません」
「ひ、ひぃっ! お、お前っ! 着ぐるみ全部剥がそうっていうんじゃ……っ!」

中年太りの男は耐えかねて悲鳴をあげた。確かにアクセサリー類はどれも本物のダイヤやらとかなりの金額がついていることが分かる。

「ははっ、当たり前だ。貴方は最初に言った。こんな小僧が今乗っているワシに敵うのか、と」
「ひ、ひぃ……っ!」

中年太りの男は春の冷たい言葉に身を震わせた。
周りにいる者は関わらないようにできるだけ目を配らせないようにする。だが、この春の放つ威圧感だけは避けられない。
春はゆっくりと腰をあげて中年太りの男に指を差す。

「いいか? アクセサリー類だけじゃない。賭けるものなんていくらでもあるんだ。例えば……お前の臓器、とかな」
「な、な……ッ!」

男は思わず椅子から転げ落ちてしまう。だが周りには春の連れて来たと思える黒服の輩が道を塞いだ。
男は、逃げられない状況にあったのだ。

「死にたくなければ、勝つしかない。——さぁ、やりましょうか」
「ひ——ッ!」

既に男の目には希望という光など全く見えない、闇の中であった。






全てが終わった後に、あまりに自分の描いたシナリオは残酷すぎたか、と少し反省をする。
金はほとんど全て黒服の奴等——園咲家の輩に渡しておく。これでとりあえず今日のノルマは終了した。

「ひ、ひぃっ! た、助けてくれぇ〜〜ッ!」

春の後ろからは悲鳴が聞こえてくる。それはあの中年太りの男の声であった。
あの男はこの後、どこで何をされるのかなど知ったことではないという物言いでその場を春は後にした。

自分の金が詰まっている袋を抱きかかえ、着ているスーツを学生服に戻す。
こうしておかなければ道端で同級生などに会った時、対応に困るということもあった。
さらに、帰る時は徒歩で帰るようにもした。自分を知っている人間には夜にバイトをしていると告げてある。
それがどんなバイトかは詳しくは告げていないが、表向きの世界から見るに正当なバイトであることは確かではある。
場所を調べられたりしたらマズいのでそういう関係のものをやっているとだけは告げている。
後は園咲家の"隠し"で春のバイト先は闇のまた闇となっている。
といってもあの学園の奴等は人のバイトを捜索するような奴等は知り合いではいない。
ゆえに安心しても言いと言いきれるほどである。

誰にも見つからないように園咲家秘密の出入り口から外へと出る。
その後、近くの自動販売機で一つコーヒー缶を買ってから歩き出した。

現在の時刻は夕方からとっくに夜へと変貌しているがさほど今回描いたシナリオは短い短編の残酷な事柄だったので時刻はまだ浅い。
月が今日は大きく見え、それを眺めながら春はコーヒーを一口飲む。
そしてため息。やっと今日の"仕事"が終わったと安堵していることもある。

「あ……そういえば」

安堵し、表向きの自分へと変わった後に不意に思い出した。
それは帰り、クファと共に帰るという約束である。
すっぽかしたことによってまた明日怒ってくるだろうと安易に予想がつく。また司に礼を言っておかなければならない。
そんな表向きのことを考えている時間はこの帰宅ぐらい。帰れば早速メールをチェックして"あいつ"の尻尾を探す。
春は毎日表と裏の逆転生活をずっと園咲家に拾われ、このカリキュレーターの能力が開花してから送っている。
頭の中で物語を計測し、それを行う過程を実際に表現する。様々な計算が頭でパターンとして何度も再現されていく。
そんな奇妙な能力はこの賭け事の仕事において絶対的力を持っていた。

(もし、神がいたとしてこの力を授けたのならば、俺はその神を呪うべきだろうか?)

神がいたとするならば、何故"あの時"助けてはくれなかったのだろうか。
これが運命なのだとすると、とても皮肉なものに思えてしまう。
この能力をもっと活用すれば、現代に存在するほどの神的存在になれるのではないかとも思う。
何故だか笑みすらも浮かんでくる。この能力には感謝したい。
春は復讐心こそが自分の生甲斐と錯覚を感じ始めていた。

(とにかく、帰って風呂にでも——)

帰宅道へと繋がる曲がり角を曲がったその時だった。
後ろから、足音が小刻みに聞こえてくる。

「ッ!?」

後ろを素早く振り返ると——そこにいたのは黒いパーカーを着て、手に銃を持っている男だった。
手に、凶器——
そのことが瞬時に春の脳内を過ぎる。男は既に黒く月によって光る銃を構えていた。
この帰宅道は出来るだけ知り合いと会わないために人気のないところを歩いている。
そのために、ここには今春と目の前で凶器を持つ男ぐらいしかいないと分かる。

男が、ゆっくりと春に狙いを定めてロックオンを開始する。
頭の中で春は必死にどうすべきかを計算しようとしたが、遅かった。

男は叫び声をあげて銃を放った。
乾いた音が一つ、誰もいない路地に響かせる。
春は目を閉じた。もう、何も出来ないと悟ったのかどうかもわからない。
そして、その次に目の前でものすごい衝撃音が聞こえた。

「……?」

自分は死んだのか? いや、まだ生きているはずだと感じ取る。
地面に手を触れている感触がありありとあるのだ。どうやら自分は知らず内に尻餅をついてしまっていたようだ。
だが、そんな痛みも感じない。暗闇しか、見えない。少し経つとそれは目を閉じているからだと分かる。
ゆっくりと、春は目を開けた。
目の前にいたのは——浴衣姿という変わった格好をしている綺麗な女の子が大太刀を持ち、悠然とその場にいたのだ。

銃を持っていた男は震えながら今まさに春と同じように震えながら地面に尻餅をついて少女を見ている。
春はよく少女の足元の方を見ると、銃弾が真っ二つに分かれて煙が出ていた。

「まさか……! 銃弾を切った……のか……?」

信じられなかった。目の前の光景がまさに異端といえた。
春がそう呟いた後、少女は素早く男の元へと走っていく。
男は震えながら、叫び声をあげながら銃を連発して放つ。だが、少女は驚くべきことに全く避けもしない。
それは銃弾が全て真っ直ぐ飛んでいなかった。震えていることで弾筋が乱れているのだ。
その間にも少女は男の元へと駆け寄っている。

「来るなぁぁぁぁッ!!」

男は渾身の力を込めて少女に向かって銃を放った——が、少女はそれをいとも簡単に避けてしまう。
そしてそのまま避けた勢いに任せて飛躍し、男の手元から伸びている銃を真っ二つに切り裂いた。
そのまま逆刀で峰打ちを男に食らわした。男はガクリと頭をうな垂れさせる。
それは、一瞬の出来事であった。

春は目の前で起こった一瞬の出来事をただただ呆然と見ていた。

「……おい」

そんな春に不意に声をかけた大太刀の少女の声に驚く。

「な、なんだっ!?」

ゆっくりとそのまま少女は大太刀を鞘へと戻して告げる。そして、長い黒髪を一気に掻き揚げる。
それは、とても美しく春には見えた。
その少女は無表情に、ゆっくりと口を開いて言い放った。


「——お前は、何者だ」


反響音が遂に、震動した。

Re: 反響音の響くHz 参照100突破! 第1話完! ( No.11 )
日時: 2011/02/07 21:41
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: fFMoervE)

音が、聞こえる。
音は空気を振動させ、全てに広がる音波のように人へと伝わっていく。
着物を着こなし、見た目だけで和風を感じさせる外見。それに合わせたかのように綺麗な顔立ちに幼げさを少し見える少女。
目の前にある茶碗の中に抹茶がゆっくりと円状の波を一定のリズムで広がっていた。
その様子を少女は無表情で見入っていた。正座を崩すこともなくその礼儀正しい振る舞いで。
明かりは月の明かりのみとしているのか、かなり暗い。
和室の障子を全開に開けているのは暑いからということではない。わざと月の明かりを部屋の中に差し込ませるためである。

「ふぅ……」

小さなため息をその小さな口から漏らして少女は地面も何も"揺れていない"というのに振動している抹茶を見つめた後に茶碗を手に取る。
そして、そのままゆっくりと小さな口につけて飲む。
数秒ばかり経つと、口から茶碗を外した。
月光が彼女を彩る。ふと彼女はその月光の放つ元、月を見上げた。
——あぁ、そうか。今日の月は

「満月、ですか」

真ん丸く黄色に光るその月を見上げ、少女は無表情にただ眺めるのみ。
少女の銀色の髪が、ふわりとどこからともなくやってきた風によって煌びやかに靡く。
そして少女は、ゆっくりと立ち上がった。
——聞こえた音に連れられて。






「答えろ、お前は何者だ」

鞘に入った大太刀を片手で持ち、長い黒髪を揺らしながら存在感をひしひしと放っている少女が春の目の前に立ち、睨みつけている。
春は腰が抜けたように地面へと尻餅をついている状態のまま、動けなかった。言葉すらも出ないのだ。
——まるで、刃を突きつけられているような感じ。
春にとってそんな感覚が感じ取れたのは初めてのことであった。

「俺は……春だ」

何とか搾り出すかのようにして声を発した春。だが、少女の態度は変わらない。

「苗字は?」

苗字は出来る限り春にとっては言いたくないことである。
園咲家にとっても春の存在は伏せておきたい事柄であり、春もそれは好ましく思わない。
カリキュレーターとして裏社会で名は少しばかり知れているが、それを表社会に影響させたくはない。
裏と表は、背中合わせの世界でないといけないのだ。

「苗字は、いえない」

断固としてそれは言わないことを突き通すことにする。
睨みつけるようにして春は少女を見つめる。
少女はその春の行動、目を透き通る自身の目で数秒間見た後、目を閉じた。

「……推測からして、お前は園咲家の人間だろうな」
「なっ……!」

見事にこの少女は春の苗字を当てたのである。
いくら有名な家柄だとはいえ、この見た目ごく一般の男子高校生の振る舞いが園咲家だという確証はどこにもないはずだった。

「その様子は図星らしいな」
「………」

答えるわけにはいかない。自分の口から言うと本当に"自分の苗字"のようで仕方がなくなってくる。
鼻でふっと笑うと少女は春から背中を向けた。その時に舞うようにして揺らめく黒髪が何とも綺麗であった。

「確証は特にない。だが、普通一般人が銃を持った男に襲われるか?」

少女が背中を向いたことによって何らかの重圧が解けたように春は立ち上がれた。
腰や所々砂埃のついたズボンや服などを払うと面倒臭そうに春は反論する。

「通り魔かもしれないだろ? 最近物騒だからなぁ……」

と、人事のように春は言った。
——園咲家の人間とバレたとしても、カリキュレーターとはバレない。
そんな安心感もあった余裕の反論だった。

「——バカを言うな」
「え?」

しかし、少女から帰ってきたのは罵声であった。
目の前で気絶している襲ってきた男を指差して少女は言う。無表情で。

「こいつの格好をよく見てみろ」

暗くてよく分からなかったし、それにいきなり襲われたこともあってよく格好を判断していなかったことに春は今更ながら気付く。
そして、再びよく見てみるとその男の格好は小奇麗なスーツだった。

「人を殺そうとする奴がわざわざ動きにくそうなスーツを着用して来るのか?」
「——っ」

春は返事に困った。
それはこの少女の言っていることが正しいわけだからだ。
そして、そのスーツが何を意味するのか。

「この男が仮にずっと暗殺を狙っていたものとすれば……お前のことを見張るだろうな。そして薄暗い人混みの少ないところに行く」

春は黙って少女の言葉一つ一つを聞いていた。
ただし、顔を真剣に強張らせながら。

「このスーツ姿の格好からして、この男はこの姿でないと入れない場所でお前を監視していたことになる」

少女の言いたいことはひしひしと伝わってくる。少女は得意気になったような表情ではないが声の強さを強くして続ける。

「つまり、だ。お前のスーツは……そうだな、その手に持っている小包の中にでもスーツは入っているんだろうな」

無表情の顔からニヤリと急に顔を笑みへと歪ませて少女は春の方へと振り返る。
この小包の中には金と——スーツも押し込むような形で入っていた。そのためかなり小包は膨れていた。

「スーツだけでそんなにパンパンにならない。中身は金とスーツ……賭け場関係だと見えるな」

少女はどんどん春のアリバイを解いていく。それは悪寒さえも感じさせるほどの的確力だった。

「この付近での賭け場で噂されているのは……園咲家だからな」

つまり、春の様子と襲ってきた男の様子から計算して園咲という苗字柄に当てはまったということだった。

「クックック……ハハハハハハッ!!」

不意に春の口から笑いが漏れた。
そのまま連続的に高笑いへと繋がる。その不信感に無表情、無言で少女は春を眺めている。

「あぁ、そうだよ。俺は園咲家の人間だ」

春は笑い声を止めて、園咲家だと認めた。不敵に笑う笑みを浮かべて。

「得意気に話してくれたが、それが何の関係がある?」

春はオーバーなように両手を大きく広げてリアクションを取る。
少女はただ無言、だが手だけは動いた。

「——ならば、お前に聞きたいことがある」
「——ッ!?」

それは一瞬の間であった。
少女は何mも春と距離があったというのに一瞬の内にして刀を抜き放ち、春の首元ギリギリのところで刀を寸止めしたのである。

「答えなければお前はここで死ぬ」
「な……」

耳元で囁かれるかのようにして少女の口から放たれたその言葉はとてつもなく恐ろしいものに見えた。
刀身は透き通るように綺麗なゆったりとした弧を描き、春の喉元ギリギリで停止している。
少しでも力を前に押し倒せばすぐさま春の頭は血飛沫をあげて宙へ飛ぶことになるだろう。

「いいか? 一回だけ問う。——Hz(ヘルツ)という人間を知っているか?」
「Hz……? ——ぐぁっ……!」

Hz、その名を聞いただけで春の頭に激痛が走った。
これまでにない激しい痛みに春は倒れこみそうになる。少女は刀を後ろに退かせ、鞘へと納めた。

「おい。大丈夫か?」

少女が声を出して春に問うが春は痛みに悶えるばかりで返事はない。
春は前のめりになるかのようにして頭を抱えながら、膝から崩れ落ちる。

(何だ……ッ!? この、感じは……!)

何かが、春の真っ白な脳内に流れ込んでくる。
それは誰かの声と聞き覚えのある声。交互に混じり合い、それはやがて遠くなる。 
その混じり合う言葉と言葉、そして音楽がそれに連なる。
それはまるで交響曲のように春の頭に響いていく。
それらが途切れた後、急に目眩が起きて目の前が真っ暗になる。
気絶するというより、強制的に脳の働きを遮断されたかのようにして春の意識はそこで途切れたのだった。


——始まりの音色が響く時、交響曲は演奏を始める。

Re: 反響音の響くHz 第2話スタートっ ( No.12 )
日時: 2011/02/10 15:38
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: fFMoervE)

そこは血の海と形容されてもおかしくないほど、残酷な絵図であった。
その中に立っている人の姿。その人物の手には長身の日本刀のようなものが握られていた。
鋭く、透き通るような透明感を醸し出し、いかにも切れ味の鋭そうなその刀は血でポタポタと真下を血の水溜りと化していた。
その人物は、男か女かは分からない。顔がハッキリと見えないのだ。それほどまでに薄暗い部屋の中だった。
その男の隣の方に倒れていたりするのは、自分の母の姿だとようやく理解できる。
だが、少年は自身が持っている血塗れの包丁の存在がよく分からなかった。
いや、それ以前にそれを持っているということすらも認識していなかったのだ。

「おい——」

そんな透き通るような声が少年の耳に届く。ビクリと体を大きく仰け反らせ、恐怖と共に震え出す。
その声は本当に男か女か判別のつかないよく分からない声だった。まるで歌っているかのような声。
刀を持つその人物が少年の方を振り向こうとしたその時——意識が、途切れた。






「うわああああッ!!」

驚きの声をあげて、春はベットから状態を起こした。
息切れがひどく、妙に背中が汗ばんでいる。

「ここは……」

見慣れたベット。見慣れた部屋の風景。ここは間違いなく自分の住んでいる高層マンションであった。
どうやって戻ってこれたのか、そして自分は昨日何があったのか。
額に手を置いてゆっくりと思い出してみる。

いつもどおり、仕事をし……いつもどおり、金を稼いだ。
そして、その後だ。いつもどおりの帰宅道を歩いていて——襲われた。
死ぬかと思った矢先に、謎の少女が現れて助けてくれた。
そこでその少女は自分の正体、といってもカリキュレーターということまではまだ未定だが、少なくとも園咲家を言い当てた。
その後のことから、よくは思い出せない。

「——Hz……」

という、単語。いや、人の名前なのだろうか?
探している、つもりはそれは人物に値するものなのだろうと考察する。
そして、その人物名を聞いてからの激しい頭痛……。そこで自らの意識が絶たれたのだと思い出す。

「あいつは……?」

ただ、あの現場には少女しかいなかったはずで、春の住所を知っているようにも見えない。
元々春のことを知っていた、というのもあるかもしれないがそれも無いに等しいだろう。
園咲家のバックがついている限り、春の正体は少なくともバレにくいはずである。

「一体何者なんだ」

そんな疑問が浮かびながらも、考えれば考えるほど余計なことまで考えてしまうために即座に考えるのをやめた。
そして、日課のようにもなっている冷蔵庫へと向かい、牛乳を取り出してコップに注ぐ。
一気に牛乳を飲み干して一息吐く。これで何とか平常心をもう一度保てたようなものだ。
あの少女のこととHzという自らの過去に関係するであるものは今は考えなくてもいいだろう。
——せめて、表の世界の時ぐらいは楽しませてくれ。そう心から思ったのだった。

ピンポーン。
その時、丁度良くインターホンが鳴り響いた。時刻を見ると、予定時刻とほぼ同時刻である。
どうせ相手はわかっているので素早く着替えることにする。

ピンポーン。
二度目のインターホン。二度目は少しおかしい。これはもしかすると、と考えを張り巡らせた後、想像した少女の顔をモニターで見た。
案の定、頬を膨らませて可愛く怒っているような様子だった。
そこで春は約束を思い出す。そういえば昨日、一緒に帰るとか何とか約束をしていたはずだ。
とはいっても春にも都合というものがあるのだが、それをクファが分かるはずもない。

「少しお待ちください」

と、モニターに映るクファへと呟くようにして言う。
モニターに映る少女は「むーッ!」と、ただただ頬を膨らませて左右の腕を上下に振るばかりであった。






「約束っ! すっぽかしたでしょっ!?」

クファが怒ったような顔で春の服裾を掴み、左右へと引っ張っている。対して力はないが……少々鬱陶しく感じる程度だろうか。
いつも通り、春はその手を優しく振りほどく。そしてまたクファはそれによって怒る。子ども扱いされたとまた思っているのだ。
こんな平凡な毎日。春にとって、この毎日はまさに安らぎの世界だった。
自分が能力に蝕まれない、いや、間接的に人を殺さなくて済む。そんな安堵感からもその世界は生み出されていた。

「今日は、自転車でいっくよーっ!」

クファが先ほどまでとはまるで違い、コロッと表情を満面の笑みへと変えて指を差す。
その先にあるのは言った通り、自転車が一台置かれてあった。
毎度のこと変わる登校方法だが、徒歩や自転車はもう慣れた。これがエスカレートしてくるととんでもないことになる。

一度、ヘリコプターか何かで登校した時はクファが怯えてヘリコプターから降りることが出来なかった。
そのおかげでヘリコプターからパラシュートで登校、などという怖すぎる登校方法は禁止とされた。
ちなみにその時はヘリコプターを地面につけてそのまま降りたようだ。
最初からその方法ですればいい、なんてことはクファの辞書にはないらしく、ヘリコプターで登校自体がなくなった。
それはそれで春は安堵するばかりなのだが。

春は丁重にエスコートし、クファを自転車の後ろに乗せる。ちゃんと安全面も配慮した自転車なそうでとりあえず大丈夫なようだ。
春はそういった安全面をしっかりと確認してから自分も続けて自転車に乗る。
前にクファが自転車登校で落ちそうになったりした時は本当に焦ったのだ。それがないようにちゃんと取っ手がついてあるが……。
クファはどうやら春の腰部分を持ちたいらしく、取っ手は肘つかえのような役目をするハメとなっている。

「さぁ、いっくよーっ!」

ゆっくりと、春はペダルをこぎ始めた。






「おっはよーっ!」

いつも通りのようにクファはクラスメイト達に挨拶を交わす。クラスメイト達もそれに合わせて挨拶を交わす。
いつも通りの平凡だ。大して変わったことなどない。
裏の世界では昨日少し、異変があったので表の世界にも影響が出ていないか心配なところが春にはあったが——心配しなくてよさそうだ。

「あれー? ニーはー?」

クファがキョロキョロと周りを見渡しながら楓の姿を探す。

「あぁ、楓なら何か斎条に呼ばれてどこか行ったぜー?」

と、近くにいた男子クラスメイトが教えてくれる。
そういえば五十嵐の姿もないことに気付く。ということは……今日は十人十色の集会か何かだろうかとすぐに思い当たる。

「クファお嬢様。十人十色の集会が行われているようなので、行きましょう」
「むー……そうだねー」

クファは悩むようにして口元に人差し指を置き、数秒後に満面の笑みを見せて頷いた。
春はクファと共に教室を出て、旧校舎へと向かう。
この学園は新しく校舎を作ったばかりで、旧校舎が二つほどある。それだけ敷地も広いわけなのだが。
旧校舎が取り壊される予定はなく、その原因は移動教室等が旧校舎には多いからだそうだ。そのために取り壊しは当分先になるらしい。

旧校舎は、教室の数も多く配置しており、部室なんかにでもよく活用されている。
現に同好会ぐらいの存在である十人十色の部室的なものは旧校舎にある。正式な部室ではなく、勝手に使っているというのもある。
しかし、前記で記した通りに教室の数が多いためか、なかなか見つからない。それに合鍵は何故か司が所持している。
どこで手に入れたかは秘密らしいが、どうせ部室を作るためにこっそり盗んできたと判断するのが妥当だろう。
今までバレていないのはこれだけ広い校舎内を捜索するのが面倒臭いという教師側のこともあるからだそうだが。

春とクファは急ぐ様子もなく、歩いて十人十色の仮部室へと到着する。一応はノックして入ることになっているのでそれに従い、ドアの取っ手を掴む。

春が扉を開き、目の前に飛び込んできたものを見張る。
一瞬、目が疑った。

「お前——!」

思わず、声をあげてしまった。
——何で? そんな素朴な疑問が春の脳内を過ぎる。

そこに司の姿は無く——代わりに、昨日見た少女の姿があったのだから。

長い黒髪を揺らし、綺麗な顔立ちを見せ、見る人々を圧倒させるような美しさを放つその少女。
着ている服も昨日のように着物ではなく、ちゃんとこの学校指定のブレザーであった。

「何で……!?」

春はただその少女の無表情の顔を見て、驚愕することしか出来なかった。

Re: 反響音の響くHz  ( No.13 )
日時: 2011/01/23 19:30
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: .pwG6i3H)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=wTSrAgb036U

はいwどうもw今日からしばらくIN出来ない遮犬ですw
えーと……今回、ヒロインとなる刀黒髪着物少女のイメージソングをちょいとご紹介したいと思いますw
これぐらいしか出来ないので、ですがw話更新する暇もなく、今日でしばしお別れですw

題名:But Apple!!

ですねw聞いたこともあるかもしれませんw
かなり、心情を捉えているので選びましたwはいw
それでは、またお会いできたならばお会いしましょうw

by遮犬

Re: 反響音の響くHz はい、しばらくお休みしますw ( No.14 )
日時: 2011/03/19 02:34
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=cDqS93t1oVw

えーとw復活いたしましたw
これからまた更新再開しますので、宜しくお願いいたしますw

えー、主人公キャラソンがまだでしたので公表いたしますw
ぴったり、かとw

題名:ポーカーフェイス

ですねwボカロなんですが、rapバージョンの方が個人的に好きでしたのでこちらを展示させていただきますw
一度はお聞きあれ、でさぁww


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