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- オーデュボンの祈り
- 日時: 2011/01/22 23:21
- 名前: 師走 (ID: uJjLNBYk)
どうも、師走です。
伊坂先生の「オーデュボンの祈り」の続編を勝手に妄想しました。
かなり残念な作品になるでしょうけれど、宜しくお願いします。
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- Re: オーデュボンの祈り ( No.3 )
- 日時: 2011/01/29 10:32
- 名前: 師走 (ID: uJjLNBYk)
僕は、5年の月日がたってもっともらしいと表現するのだろうか、普通の生活を送っていた。商店街で買い物袋を持って、商品を見てあれがいい、これがいい、と言って。隣には静香がいて。
普通の生活だ。いや、当たり前か。でも、普通の生活を何十年も過ごしている人は、それが普通の生活だと実感するのは難しいだろう。僕は荻島に行って、普通じゃない体験をしてきた。だから普通の生活が、今ではとても愛おしい。
そして思いもよらぬことは、何の前触れもなくくる。
家に帰ろうと、車に乗った。商店街はとてもにぎやかで、僕も静香も満足だった。
家について、荷物を車から降ろす。そこであることに気付いた。
「あれ・・・」
静香がドアの前をさす。
僕らの家の玄関前に、熊みたいな中年男がうろうろしていた。
その男には見覚えがあった。僕は息を呑む。
轟だ。荻島で唯一島と日本を行き来できる人物。荻島の物資はほとんど轟が関わっている。だから荻島は江戸時代からも発展した日本と変わらない文化を保っている。
轟がこちらに気付いて重そうな足を動かしてこちらにやってきた。
僕はあまりの唐突な出来事に、唖然とするだけだった。
「轟さん?郵便物ですか?」
静香だ。流石こういうところはしっかりしている。
「いいや、違うんだ。伊藤、久しぶりだなぁ・・・。」
轟のしぐさは、どこかいつも挙動不審だったが今回はそれ以上に何かに焦っている様子だった。
「どうしたんですか、急に・・・。」
「実は、伊藤、その・・・荻島に戻ってきて欲しいんだなぁ・・・。」
轟の言葉に、またも言葉を失う。
荻島に戻る。
「何があったんですか?荻島で・・・。」
轟がチラッと横目に静香を見る。
どうやら僕だけに話を聞いてもらいたいようだ。
「ごめん、静香。轟さんと話をしてくるから先に家に入ってて。」
「え?わ、分かった・・・。」
静香は何故だか分からないような不思議な顔をしていたが、素直に言うことを聞いてくれた。
「わ、悪いなぁ・・。」
轟は気まずそうに頭をかく。
「何があったんですか。荻島で。」
僕は轟に詰め寄った。
「と、とにかく来てほしいんだ。行きながら話すから。」
行きながら、というのは荻島に行きながら、ということだろうか。
どうやら彼の中では僕はもう荻島に行くことに決定しているらしい。
こういうときに轟に何を言ってもダメだろう。
港。
轟の船のある場所にやってきた。
船に乗ると、見知らぬ少年がいた。
銀髪が目立つ少年だ。
「そいつは、ヨシツネって言ってな、俺の跡目だ。」
「轟さん、の?」
「俺はそろそろこの仕事を引退するから、今度はヨシツネに継いでもらうんだ。ヨシツネは俺より頭がいいし、すごいからなぁ・・・」
「ほー。あんたが伊藤いうんか。」
意外にも、ヨシツネは大阪弁だった。
ニヤリと笑うと、操縦室の中へと消えていった。
「轟さん、この仕事をやめるんですか?まだまだいけると思うんですけど・・・」
轟は50代。定年まではまだ時間はあるはずだが、荻島とは勝手が違うのだろうか。
「・・・やっちゃいけないんだ、俺はこの仕事を・・・。俺は、荻島でひどいことをやらかしたんだ・・・・」
「え?」
轟がひどいことをやらかした?
どう見てもそんな人には見えない。
「何をやらかしたんですか?」
轟が仕事をやめさせるところまで追い込んだ罪とは一体なんなのだろうか。
次の言葉を聞いて、僕は頭の中が真っ白になった。
「桜が亡くなった。俺がやったんだ。」
- Re: オーデュボンの祈り ( No.4 )
- 日時: 2011/01/29 11:11
- 名前: 師走 (ID: uJjLNBYk)
「桜、が?」
僕は必死になって声を発した。
冗談にしか聞こえなかった。
桜が亡くなった?轟がやった?
この鈍い熊が、桜を?そんなことできるはずがない。逆にやられてしまう。
「せやから、あんたの所為やないでって言っとるやろ?」
いつの間にか隣にヨシツネがいた。
呆れたような口調で、轟をなだめている。
「どういうことなんですか、桜が、なにが起きたんです?」
僕は半狂乱になりながらも、轟に質問した。
「・・・伊藤が、この島に足りない物は音楽だって言ってだろ?だから日本の人に、この島の足りない物はないか、もっと尋ねるようになったんだ。・・・そ、それでたくさんの人を荻島に招いたんだ・・・。」
話しが見えてきた。
つまり—————
「外界から来た人が、桜を・・・?」
「せや。荻島と外界のルールが理解できへんで、やってもうたらしい。ま、偽善者っちゅーやつやなぁ。」
「お、俺が招かなければ、こんなことにはならなかったんだ・・・。俺はこの仕事に向いてない・・・桜に申し訳ない・・・」
そうか。
だから轟は仕事をやめようとしていたのか。
それどころか、ヨシツネがいなかったら今すぐにでも海へ飛び込んでしまう勢いだ。
「・・・誰が・・・?」
僕は、それが聞きたかった。
城山のような、ひどい悪人だろうか。
それとも、正義感の強いひとだろうか。
「それがわからへんのや。まあ、大体めぼしはついてるんやけどなぁ。荻島にいろんな奴らが招かれて、その奴らが構成した『護衛部隊』っちゅーもんができた。そのリーダーが、笠原浩作ゆー、正義感の無駄に強い奴がリーダー。桜のやり方には、いつもいつも批判しとった。」
確かに、僕のように外界から来た者なら、その感覚は分からなくもない。
僕も最初、桜のやり方には強い反感を持ったし、なにより怖かった。
「お前が、この島に足りない物を的確に当ててしもうたから、外界の奴らの言葉はまるで優午みたいに荻島の奴らは感じた。せやから、笠原が『桜は悪だ!』といえば、たとえ島のルールでも荻島の奴らは悪だと思ってしまう。」
僕が言い当てた、この島に足りないもの———音楽。
まさかあの出来事が、こんなことを生んでしまうとは思わなかった。
「さ、桜はみんなから批判されて、護衛部隊は桜を処刑することに決めたんだ・・・。島全員が敵になったから、桜の居場所もなくなってしまった・・・。俺の所為で・・・。」
それをいうなら、僕もそうだ。
僕が、この島に足りないものを言い当てたりしなければ、こんなことにはならなかっただろう。
桜がこの世から消えることもなかったはずだ。
どうしようもない後悔がこみ上げてくる。
「護衛部隊も、かなりの手練れやった。それに、桜と同じ拳銃も持っとったし。まあ、桜も強いからすぐにはくたばらなかったけどなぁ。でもつかまるのは時間の問題や。一ヶ月前に、やられてもうた。」
一ヶ月前ならかなり最近だ。
そんなことが荻島でおきていたなんて。
「・・・でも、どうして僕が荻島へ・・・?」
護衛部隊を止めろというのだろうか。
それこそ、悪だといわれてお終いなのではないのか?
「・・・桜が、お前に会いたいって、言ってたんだ・・・」
- Re: オーデュボンの祈り ( No.5 )
- 日時: 2011/02/02 19:24
- 名前: 師走 (ID: CVc57Py0)
「桜が?」
半ば信じられない、といった感じで言葉がパッと口から出た。
「荻島は随分と変わっちまった。俺が外界からの人間を取り寄せたからこんなことになっちまった。」
取り寄せた、と言う言葉に引っかかった。
彼なりに、外界からの人間を一瞥しているのかもしれない。
「で、でも悪い奴ばかりじゃないんだ・・・。いい奴も、もちろんいるんだけどなぁ。」
あわてて、轟が言い直した。
僕は苦笑するほか、その場をやり過ごす手が見つからなかった。
今僕の頭にあるのは、桜だ。
彼は、何を思って僕に会いたいと願ったのだろうか。
はっとする。
「あ、あの、あの子は!?」
「あの子?ああ、奏か?」
奏————。その少年に会ったのは、荻島を出る最後の日。
「音楽は、どうだった?」
最後の日、僕は桜とひと時を過ごした。
桜はいつものように、長い足を組んで詩を読んでいた。
何度見ても、本当に整った顔立ちだ。
「悪くない。詩と同じ雰囲気がした。」
どうやら、桜は気に入るどころか音楽の雰囲気まで感じ取ってくれたようだ。
僕は、桜と意気投合して嬉しかった。
「行くのか?」
桜が唐突にそう尋ねてきた。
桜から話題を振ってくるのは珍しい。
それ故、どこか淋しげに聞こえてしまい、微笑んだ。
「そうだね。でも、音楽は轟がこれから外界から運んできてくれるから心配要らないよ。」
「お前は、また来るのか?」
桜が、本から目を離した。
その整った顔立ちに、一瞬見とれてしまう。
桜の問いに、僕は目をそらした。
「分からない。でも、多分もう来ないんだと思う。」
「そうか。」
桜は、本をしまって、目をそらした。
桜の目の向いた方向から人影が出てくる。
それは、まだ10歳くらいの少年だった。
桜と同様、顔立ちが整っている。
「この子は?」
まさか、桜の息子だろうか。
しかし、その考えはすぐに打ち消される。
「拾った。俺が親を撃ったからだ。」
桜の瞳に悪びれはない。
桜はこの島の「ルール」だからだ。
「へぇ。何ていうの?」
僕がかがんで、少年の顔を覗き込む。
少年は警戒して、一歩後ろにさがってしまう。
「名は、無い。お前につけて欲しい。」
「えっ。」
今日一番驚いてしまった。
「それって、つまりー・・・名付け親になれってこと?」
「そういうことだ。」
桜がそんなことをいうのだから、少しは信用してくれている、ということなのだろうか。
僕はそこまで悩まず、頭にふっと思い浮かんだ名前を少年につけた。
「奏。かなで、でどうかな?」
「・・・奏・・・。」
桜が繰り返した。
「ほら、音楽を奏でるっていうでしょ?その、奏。・・・どうかな?」
「いいと思う。」
少年は、不思議そうに桜と僕をちらちらと見ている。
僕は、その少年————奏の頭をなでた。
「よし。君の名前は今日から奏だ。・・・気に入ってくれると嬉しいな・・・」
最後のほうは、照れながら言った。
「かなで・・・?」
奏はそう繰り返した。
気のせいなのか、奏の頬が、わずかに赤く見えた。
- Re: オーデュボンの祈り ( No.6 )
- 日時: 2011/02/05 14:56
- 名前: 師走 (ID: CVc57Py0)
「奏。奏はどうなったんです?」
すると轟は、言いづらそうに口を開く。
「・・・奏は桜の意思を継いでいるから、桜と同じ役割をして・・・。ご、護衛部隊も奏をつい最近、「悪」と定めて追っているんだ。」
奏が危ない。
「そんな。奏まで・・・。」
荻島に来る前は「おかしい」なんて考えないだろう。
でも、どうでもいい。
僕は奏を救いたい。
「ついたで。」
いつの間にか操縦室から顔を出しているヨシツネ。
前を見ると、懐かしき荻島の風景。
「荻島。あんたがいた頃とは、かなり変わってしもうたで。」
ヨシツネの言葉が頭の中でがんがん響いた。
あの頃とは違う。
それは、外界の人間が珍しくなくなってしまった。
そして考え方も変わってしまった。
優午。
人というのは愚かだ。
こんなにも簡単に、変わってしまうんだから。
ただ、変わるのも、悪いほうにしか変わらない。
今の荻島を見れば、僕はそうとしか感じられなかった。
でも、変わらない物もある。
僕は、この島でそれを見つけてやる。
- Re: オーデュボンの祈り ( No.7 )
- 日時: 2011/02/05 17:09
- 名前: 師走 (ID: CVc57Py0)
荻島は———変わっていた。
そこら中に防犯カメラや、スピーカーが設置されていた。
防犯対策、というよりこれは全て奏を捕まえるためのもの。
それを見るたびに僕は心が痛んだ。
路地で人がにぎわっていた。
サーカスだ。
全員黒い服を身に着けていて、身体をくねくねと曲がらせたり、刃物を自由自在に投げたり、大きなボールの上で逆立ちしたりしている。
いつの間にか、僕もその賑わいの中の一人に成っていた。
芸を一つ披露するたびに、拍手が沸きあがる。
「伊藤!」
名前を呼ばれて、ハッとした。
この声には聴き覚えがある。
「なんだよ、来てたのかお前。」
日比野だ。
懐かしいゴールデンレトリバーの顔は変わっていない。
「久しぶり、日比野。」
なんだかほっとする。
同時に、日比野が大声で僕の名前を読んだのでその場にいた全員がいっせいに僕のほうを見たので恥ずかしさもあった。
「大変なことになってんだ、いま。」
「らしいね。僕も聞いた。桜が・・・」
口をつぐむ。
「日比野は、大丈夫だったの?」
「あ、ああ、大変だったぜ。護衛部隊の奴らが俺のところに何度も来て取り調べの嵐だ。外の奴らって、みんなああなのか?」
「いや。ただ、あまりいいやつはいない。」
その後の会話が進まない。
いつの間にか、サーカス団は消えうせていた。
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