ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

百年桜花 ─巡る季節─
日時: 2011/01/30 17:31
名前: Yuri. (ID: R1Rd.hdi)


■主な登場人物


花百/カオ 
十五歳の少女。字は読めるが、知識は無い。


東 圭司/アズマ ケイジ
十七歳の青年。 立派な武士になるのが夢。


吾妻 雪/アズマ ユキ
十五歳の少女。 一人でいることを好む。


高坂 正成/コウサカ マサナリ
十八歳の青年。 女好きの武士。



■挨拶

はじめまして! Yuri.です。
このお話は江戸時代(幕末あたり)が舞台となっています。

小説書くのは初めてなので、
「ここ、おかしい!」とか「間違ってる!」という部分が
ありましたら、すぐに言って下さい。


Page:1 2



Re: 百年桜花 ─巡る季節─ ( No.2 )
日時: 2011/01/30 18:50
名前: Yuri. (ID: R1Rd.hdi)

ちゃんと袴を着て、髪を後ろで一つに結ったのに。
やはり顔立ちで、すぐに分かってしまうのか……。



「花百、か。 良い名だ。 
 これからどこかへ行く予定なのか?」


「いえ、どこにも」


「そうか! なら、俺の家に来ないか?
 泊まる宿とか決めてないのだろう?」


その通り。 どこに泊まるかなんて、考えてもいなかった。
私は素直に東に従うことにした。



「東さんは、武士なんですね」


「ん? あぁ、……あのさ、東さん、じゃなくて良いから。
 普通に、圭司、と呼んでくれないか?」



「え! それは、出来ません!」


「お願いだっ」
両手を顔の前で合わせ、お願いをする。
ここまでされては……、仕方が無い。


「い、良いんですか?」


「あぁ! 気軽に呼んでくれ」




それから、歩くこと約一刻。
立派な屋敷が見えてきた。




「立派な、お屋敷ですね……!」


「そうでもない。 さ、中へ」


「……本当に、このような私が入っても?」



私はまだ、身分を明かしていない。
ただ良い刀を持った、男装した女なのだ。


「構わん! 今は母上しかいないから、気にすることはない」



渋々、私は東家に入った。




「……圭司? 帰ったのかい?」


弱弱しい声がした。
見れば、細い女性が青白い顔で立っている。


「母上……! どうして寝ていないのですか?」


「空が、見たくて」



空ガ、見タクテ



圭司の母は、小さな声で言った。
それから、私に気づく。


「あの人は、圭司の友だち……?」



咄嗟に、私は姿勢を正し、礼をする。


「かっ、花百と申します!」



「先刻出会ったんだ。 泊まる場所がないから、連れてきたんだよ」



「まるで女性のような方ですねぇ……。
 どうぞ、ゆっくりしていって下さいな……」



ふらふらと、圭司の母は奥へと戻った。
女だと気づかれなかった。 名前まで申したのに。



「あの……、」


「気にするな。 母上は病気だから、あまり近寄るなよ?」


きっと感染病なのだろう。
あの様子からすると、労咳か……。






「ここが俺の部屋。 さ、座れ」


広い部屋に通され、圭司の言う通り、私は座った。
茶菓子が出たが、あまり手をつけなかった。



「花百は、どこから来たんだ?」


「私は、山奥にある家で生まれました。
 それからしばらくして、両親は殺されたのです。
 
 長いこと山奥には暮らせないと気づき、やって来ました」



そうか、と圭司が饅頭を食べながら頷く。




「あともう一つ、聞きたいことがある」


「何でしょう」


圭司は人差し指を、私の目に向けた。



「不思議な目の色をしているな? もしかして、異人か?」



「え!」


「知らなかったのか?」





「はい……。 どんな色ですか?」



「藤のような、綺麗な色の目だ」



藤のような、色をした私の目。
圭司さんは黒いのに、どうして私は藤なのだろうか?

両親は日本人だ。 メリケンや、エゲレスではない。
きっと、圭司さんの勘違いだろう。




「圭司さんはここで三人暮らしを?」


私は話題を変えることにした。



「いや、違う。 ……三年前までは、四人だったんだ」


誰か亡くなってしまったのだろうか。



「俺と、母上、父上。 ……そして、二歳下の妹」


「妹さんは……?」



「どこかへ行ってしまったのさ。 ここを飛び出したんだ。
 理由は知らないけどね、ある朝、いなくなってたんだ」



圭司さんは、どこか遠くを見ているような気がした。



「死んだかもしれないし、どこかに嫁いだのかもしれないな」


「無事だと、いいですね」




圭司さんは優しく微笑んだ。


「そうだな」

Re: 百年桜花 ─巡る季節─ ( No.3 )
日時: 2011/01/31 18:48
名前: Yuri. (ID: pNfZbSQl)

「花百は京に何をしに来た?」


「え、っと………。 その、あの………。
 ───ただ、京がどんなところなのか、見たくて………」


そう。 ただの好奇心と大きな期待。
それだけを抱いて、男装して京にやって来た。


私の家には、もう両親はいない。 私だけ。

だから、ふらりと男装してやって来たのだ。



「……っ、あっはははははは!」

圭司さんは爽やかに笑った。
澄んだ笑い声がよく響く。 私は目を見開いた。



「面白い子だね、花百? くすくす………。
 じゃあ、ただ遊びに来ただけなんだね?」


そう言われて、顔が赤くなっていく私。


「じゃあ、もう山奥に帰ってしまうのかい?」


「そうですね………」



「ならば、俺の家にいれば良い。
 そうすれば、花百の好きな京がいつでも見られる。
 どうだ? 良いと思わないか?」



突然のことに、私は驚く。


「大丈夫。 
 いなくなった妹のものがあるから、困ったときはそれを使え」


「ですが!」


「山奥で一人暮らすのと、
 興味のある京で暮らすの、どちらが良いか?」


「お言葉ですが、圭司さん───」



「質問に答えておくれ」


圭司さんの黒い瞳が、真っ直ぐに私を見つめていた。
困ったな………。

この方の目を見つめると、吸い込まれてしまいそうな感覚になる。
───嘘を、つけない気がする。




「………迷惑でなければ、よろしくお願いします」


にこり、と圭司さんは小さな子供のように笑った。



きっとこの方は、いなくなった妹さんのことを思っているのだ。
これからしばらく、私は妹さんの代わりなのだろう。


だが、構わない。
山奥で一人暮らすことより、この方の妹代わりになった方が、良い。




「さ、そうと決まれば部屋だ。
 花百は、俺の隣の部屋を自由に使ってくれ」


私は頷いた。

Re: 百年桜花 ─巡る季節─ ( No.4 )
日時: 2011/01/31 19:15
名前: Yuri. (ID: pNfZbSQl)

どうやら今夜は、月が綺麗みたいだ。



すっかり暗くなってしまった京の都。
私は圭司さんの隣部屋で眠ろうとしていた。

時々、圭司さんのお母様の咳がきこえる。



───ひた、ひた、ひた、ひた、ひた


誰かが廊下を歩いている。
……誰が? この屋敷には、三人しかいない。

圭司さんは隣。 圭司さんのお母様は、奥の部屋。


もしかして、圭司さんのお父様……?



「………、………………」
若い男の声。 よく聞き取れない。
でも、圭司さんの声もする。 圭司さんのお知り合い?
やっぱり、圭司さんのお父様かな。



「───女子を連れ込んだな、圭司」


見知らぬ若い男の声が、ハッキリ聞こえた。


私の、こと………?




「連れ込んでいない。 
 お前はすぐに、そういうことを言う。 失礼だぞ」


圭司さんの声。
だが、すぐに別の声。

「いいや、絶対にこの近くにいるな?
 ……………! ………なら、…………っ!」


後半は、よく聞き取れなかった。



「止せ! 今は夜だ!」

「だから、だよ。 これは間違いなく、……………」


また聞き取れない。
私は立ち上がり、静かに襖を開いた。



───キンッ!



一瞬、暗闇の中を一筋の素早い光がよぎった。
しばらくして、それが刀だったと気づく。


私の右頬から、すうと一筋の血が流れた。



「え」 それしか声が出なかった。

「あ?」 見知らぬ若い男が、刀を向けていた。

「花百!」 圭司さんが、私に近寄った。




「大丈夫か、花百!」



「……ぁ……? あ、はい、大丈夫です」


すぐ隣に、圭司さんがいる。
若い男は刀を鞘に戻した。



私の前に座り、ぐっと顔を近づける。



「べっぴんじゃないか、圭司! どうして騙したんだ!」

しばらく私の顔を見てから、叫ぶ。
圭司さんは困った顔をした。


「高坂、正成だ。 お前は? 年は? どこから来た?」


若い男───高坂正成は私の手を握り、尋ねてきた。
それを圭司さんが引き離す。


「おい、正成。 驚いているじゃないか」


「お前どうして言わなかった? こんなべっぴんさんを!」



圭司さんから再び離れて、高坂さんは私の前にもう一度座る。


「名は?」


「花百です……」


「良い名だ!
 あぁ、嫁入り前なのに傷つけてしまったな………。
 ───どうだ、高坂家に嫁がないか?」


「ひえっ」


突然そんなことを言われ、変な声を出してしまった。
圭司さんが高坂さんの頭を軽く叩く。



「いい加減、その女好きをなおせ! この馬鹿。
 そんなんだから、良い嫁をもらえぬのだ!」


「お前もだろう、圭司」



「一緒にするな! お前は島原にでも暮らせ!」



「島原の女より、花百の方がべっぴんだがなあ?」



ますます、私の顔が赤くなっていくのが分かる。




「花百、手当てをするから来い。
 ………正成は、俺の部屋で寝ていろ」


ぐい、と圭司さんが私の腕を引っ張った。
高坂さんが、不服そうな顔をする。


「圭司のかわりに、手当てしてさしあげよう」


「しなくて良い!」



ぐいぐいと圭司さんは私を引っ張る。
薄暗い東家の廊下を真っ直ぐに引っ張られる。
圭司さんは何も言わない。



「───あの、」


「正成はな、俺の昔からの友なんだ。
 ひどい女好きで、ああいうのはいつものことなんだ。
 許してやってくれないか?」



「……はい」


「あいつは昔、京に住んでいたのだが、今は江戸に暮らしている。
 ……あいつはもう、俺とは違う、立派な武士なんだ」



薄暗い小さな部屋に通され、手当てを受ける。



「立派な、武士……?」


「俺の夢はな、花百。 立派な武士になることなんだ。
 日本一強くなって、立派な武士になることなんだ」



圭司さんは、素早く手当てを終わらせた。



「このことは、正成には内緒だぞ?」

「はい」


「さあ、もう夜なんだから、部屋に戻ろう」

Re: 百年桜花 ─巡る季節─ ( No.5 )
日時: 2011/01/31 19:21
名前: Yuri. (ID: pNfZbSQl)

寝床につき、私は真っ暗な天井を見つめた。


本日は、いろいろなことがあった。



まず、京に男装してやって来た。
それから、不気味な男たちに追いかけられた。

圭司さんが助けてくれなければ、
母様からいただいた刀を取られていたか、
私が死んでいただろう。



それから、私はしばらく東家に暮らすことになった。




あとは、先刻出会った圭司さんの友。 高坂正成さん。


女好きで、武士の高坂正成さん。
しっかりしていて、立派な武士になりたい東圭司さん。




「立派な、武士…………」



圭司さんは、もう立派な武士ではないのか?
あんなにしっかりしている方は、あまりいないと思う。



高坂さんは、圭司さんの部屋で寝ているらしい。





「立派な武士、ですか………」



私は、目蓋を閉じた。

Re: 百年桜花 ─巡る季節─ ( No.6 )
日時: 2011/01/31 19:28
名前: Yuri. (ID: pNfZbSQl)

其の二




「おはよう、花百」


朝。


至近距離に突然、高坂さんの顔があった。

「こっ、高坂さん! お、おお、おはよう、ございます!!」


声が上ずってしまう。 そんな私を、高坂さんは笑った。
本当に女好きなんだろうな……。




「正成! 朝から花百を驚かせるな」


「圭司、驚かせてはいないぞ。 挨拶しただけだ」


はあ、と圭司さんがため息をつく。
それから私と目が合うと、


「花百、やりたいことがあるんだ。 付き合ってくれないか?」


「あっ、はい! 良いですよ!」


にこ、と圭司さんは笑う。
そんな圭司さんを、高坂さんがにやにやしながら見ていた。



「正成も来たいのか?」


「もちろん、今日は何もすることがない」


「仕方ない。 では、三人で」



一体、何をするのだろうか。



「花百、刀を忘れずにね」


圭司さんは言った。


Page:1 2



この掲示板は過去ログ化されています。