ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- -星霜の魔導書-
- 日時: 2011/03/02 22:47
- 名前: 深山羊 (ID: DZWfhZUD)
どうも、初めましての方は初めまして、見知った方はこんにちは、深山羊です。
今回は『深山流』王道ファンタジーを書かせていただきます。
今作はファンタジーと銘打っておりますがなにぶん『深山流』なのでよろしくない表現を含みます。
多くを語るよりも文面で魅せて行きたいと思います(見れる文にはなってると思います)。
それでもよろしい方はどうぞ読んでやってください。
ほかにも色々書いてますのでよければそちらもどうぞ。
もくじ
プロローグ
>>1
第一節 -レリオロス騎士団-
>>2-8
【用語】
レリオロス騎士団【れりおろすきしだん】
魔導書【まどうしょ】
【魔導書リスト】
【偶者の旅断ち】(ぐうしゃのたびだち)
【憧れの君】(あこがれのきみ)
Page:1 2
- 第一節 -レリオロス騎士団- ( No.4 )
- 日時: 2011/02/14 23:59
- 名前: 深山羊 (ID: wkhjenUE)
まだ日が昇って浅い時間からケートラルは動き始めていた。
素早く身支度を済ませて部屋を出て走りだす。
昨日の夜に夕飯の支度をしているときにヴォラルドの隊のユムストという女性がケートラルの元に訪ねてきて
「明日の朝、隊室に集合としなさい」
とだけ告げて帰って行った。
ケートラル自身は昨日の隊員たちの態度を見てげんなりしていたが、
念願の騎士団の一部隊に配属されたと思うとそんな気持ちも吹っ飛びむしろやる気が出て張り切っている。
二階から飛び降りるくらいの勢いで階段を下りると玄関前でカジルアが箒を持って立っていた。
「あら、お早いんですね」
朗らかな笑顔にケートラルは
「はい、今日から忙しいって言われていて、それで」
「頑張ってくださいね」
その一言だけでも一週間は頑張れるとケートラルは心の中で呟く
「それじゃあ、行ってきます」
そう告げると後ろから
「いってらっしゃい」
そう聞こえてますますやる気の出てきたケートラル。
走り出した背中に刻まれたレリオロス騎士団のロゴが日の光を浴び薄く煌めく。
息を切らせながら半刻ほどかかる道のりをさらに半刻で駆け抜け隊室の前まで来た。
「邪魔よ」
ケートラルは肩を押されてよろめく、その横を茶髪を後ろでまとめて垂れ下げた女が隊室へ入る。
そのすぐ息を整えて身だしなみをしっかりして力強く隊室の扉を開いた。
「早いな」
部屋の奥の椅子に腰かけていたヴォラルドが言った様子。
「はい」
控えめだが強い声でケートラルは返事する。
「いー心がけだ」
相変わらず不敵な笑みを崩さないヴォラルド。
椅子から腰を上げて立ち上がり
「ついてきな、他の奴らは、まあいつも通りにな」
本を片手にヴォラルドは部屋から出る。
その後を追ってケートラルは踵を返しついていく。
隊室から遠くまで行く訳ではなく数分の間でつくところの庭に向かう。
「よぉーし、ここらでいいな」
わざとらしくそう言うヴォラルドの表情は何とも言えない、笑っているのかめんどくさいのかよくわからない表情をして
「ケートラル」
その名前を呼ばれて「はい」と返事をする。
「とりあえずはお前を鍛えないとな」
手に持った本を開き半分を越さない程度ところで手を止める。
ケートラルはその本を見て聞く
「それって」
言い終わる前にヴォラルドが
「そーだ、偶者の旅断ちだ」
それについて質問するより先に
「こいつは他にも人を鍛える力もある、肉体的にも精神的にもだ、この魔導書は新米隊員を鍛えるには丁度いいって代物だ」
ヴォラルドは黒く笑うとケートラルが口を開く前に
「偶者の旅断ち、第九節、一文抜粋、
『昇れぬ壁、越えても越えても先見えず』」
最初に偶者の旅断ちの魔導書に引きずり込まれた時とは違う、
今度はケートラルの影がゆっくりと浮かびあがっていく、それにケートラルが気がついたのはその影に背中を蹴られてから
「うわっ!」
前のめりになり、なんとか足で倒れずに済む。
「一体誰が」
振り向きざまに顔めがけて拳が飛んでくる。
それを片手で受け止めた。
「それでいい」
満足げな表情でヴォラルドは本をたたみ庭の壁に背中をもたれ
「どっちか倒れるまでやりあえ」
と叫ぶ。
拒否する暇も、反論する暇も、そんなもの影は一切与えてこない。
ただ、淡々と拳を繰り出したり蹴りを繰り出したりと忙しなく(せわしなく)自分の影がケートラルを襲う。
それを紙一重で捌いていく、右から飛んでくる拳を右腕で流し、左から来る蹴りに足を曲げてしゃがむことで回避する。
上から来る踵落としに対して両手で受け止めて右側にそらす。
ケートラルは出来るだけ受け流すことで回避している。
自ら手を出すことは、まだしていない。
それを眺めていたヴォラルドは楽しげに笑いだした。
笑い声が聞こえたのかケートラルは不満げな表情をしながら影の相手をしている。
数分もしないうちに影は距離を取りケートラルもまた距離を取った。
「俺の影だからよくわかるぜ。本番はここからだってんだろ」
言い終わると同時に影は瞬き一つの間に距離を詰め胴を狙って拳を繰り出す。
それを分かっていたのかケートラルは少し身を引くことで回避する。
続いて初めてケートラルが攻めに出た。
繰り出してきた拳に対して関節を狙い、右腕の肘と右足の膝で挟むよう打ち付け、
それが入ると後ろによろめきかけていたのを良いことに左手で影の襟を掴み後ろに倒れ、
その勢いで左足を影の腹に押し当てて倒れた自らの頭上に放り投げる。
ケートラルは影が立ち上がる前に立ち上がり、倒れている影に追撃を仕掛けようと走り出す。
さほどない距離を風の如くつめて顔面を左足に全体重をかけて踏みつぶそうとする。
影もそのまま黙ってやられるほど柔ではない。
左に転がり、踏みつけを回避し転がる反動を利用して起き上がり間合いを開く。
次に仕掛けたのはケートラルから
一、二のリズムで淡々と距離を詰めて一で踏みこみ、二で右足に力を入れて左足で蹴りぬけようと突き出す。
影はケートラルに合わせて避けるタイミングを見計らっていた。
二の時に右足に力を入れたのを見て左足が来るタイミングを掴んでいる。
飛んできた左足に対して右足で踏み込み左半身を後ろに回し右側に回り込むように避け
そのまま一回転して勢いをつけて左拳でケートラルの左顔面に裏拳を叩き込む。
予想外の攻撃に対してケートラルは遅れを取り裏拳が左こめかみに入る。
一瞬世界が歪みそのまま意識が飛びそうになるのをなんとか堪えて踏みとどまる。
だが、影は追撃に出た。
倒れかけているケートラルの足を後ろから払い後ろ向きに倒れて行く。
倒れて行く最中ケートラルの眼には青い空が見える。
その直後、後頭部に強烈な振動を感じ何を言う暇もなくケートラルの意識はブラックアウト。
結果、影が主の前に立つという普段と逆な立ち位置で勝敗は決した。
- 第一節 -レリオロス騎士団- ( No.5 )
- 日時: 2011/02/17 00:30
- 名前: 深山羊 (ID: wkhjenUE)
一人、手でパチパチと拍手するのは立ちあがったヴォラルド。
「さぁてと」
ヴォラルドはまた本を手にし、最初の方で手を止める。
「偶者の旅断ち、第五節、一文抜粋、
『水の音、枯れた心に、水滴を』」
気絶しているはずのケートラルが目を覚ます。
「……あれ」
まだ衝撃が残っているのか頭を振りながらおぼつかない足取りで立ちあがる。
「いいもん見せてもらった、だがまだまだだな」
ヴォラルドはニヤリと笑いケートラルの頭に手を置きガシガシと頭を撫でた。
「ちょっ、なんですか」
予想外の行動にケートラルは慌てふためく
「ちょっと休んだらまた試合やっからな」
空いている右手を振りケートラルに背を向けてどこかに歩いていくのを眺めて溜息をつき
「また、ですか……」
少し疲れた様子でケートラルは倒れこむ。
自らの影に負けた。
そう思うと予想以上に堪えると感じるケートラル。
「悔しいなぁ……」
ぽつり呟き先ほどの攻防を思い出す。
やはり勝負を決めようと焦った蹴りが敗因だと考える。
あそこは次にもつなげられるように突き出す蹴りではなく横に蹴る感じの方が良かっただろう。
自らの弱さを反省し次につなげられるケートラルだからこそ、
ここまで耐えることができ伸びることができたのだ。
決して負けを否定せず相手が、場所が、体調が、と言った言い訳をしない。
むしろ敗因を探り次はそうならないようにと気を付けて次にその経験を生かそうとする。
そこがケートラルの最大の長所。
研修前の実力検査では一度として当たった相手に敗北することは無かった。
敗北が即死につながる場所でない限りケートラルは伸びる。
どこまでも強くなる、しかしその場が一度戦場になると次があるとは限らない。
だからヴォラルドは昨晩の内にケートラルについて調べ上げた。
そのために態々一日、日を開けたのだ。
ケートラルの思考は続く。
最初の後手に回るところからこうすれば、ああすればと戦術プランを組み立てて行く。
常に相手のとる行動は自らを追い詰める最悪の一手ばかり、それをどう回避するか。
たまにくる直線的な相手の行動に足を取られそうになったりもするが今回は特にだった。
やはり自分が相手だとやりづらいというのもあるだろうが何よりも行動パターンを読ましてくれないというのがケートラルの懸念する影の動き。
草の上に寝転がりうーん、うーんとケートラルはヴォラルドが来るまでひたすら戦術プランの組み立てをしていた。
「そろそろ、次いくぞ」
ヴォラルドが転がっているケートラルに声をかけた。
———その時だった。
耳を劈く(つんざく)ような爆音がラウトリア皇国を守る外壁の方から聞こえ、ヴォラルドは踵を返し外壁に走り出した。
それに続くようにケートラルも疲れている体を引きづりヴォラルドの後を追う。
ヴォラルドの足は異常なまでに早い。
外壁までどんなに早く走ろうと一刻以上はかかる。
だがヴォラルドはその半分の半刻とちょっとで外壁までたどり着いた。
ケートラルはというと途中ではぐれてしまい一人で外壁まで向かっている最中。
外壁の外を見て銃を発砲する騎士団隊員にヴォラルドは現状報告を要求する。
「はい!輪我輪のドリスリドが配下のガググガを大量に引き連れて攻めてきました!」
「なんだとっ!」
ヴォラルドの叫びが木霊する。
舌打ちをして片手に持った本をヴォラルドが乱暴に開く。
「偶者の旅断ち、第三節、一文抜粋、
『見えずとも、歩いて落ちても、己が道』」
怒鳴るように魔導書を読む、その直後ヴォラルドは身をひるがえして走りだし緊急時のみに使う一節を読む
「偶者の旅断ち、第十五節、二文抜粋、
『歩いた道は数知れず、人は知らぬ道は怖いもの。それを我が書き記そう』」
「騎士団隊員等に告ぐ、ただちに戦闘準備、全部隊迎撃準備、ドリスリドの進撃だ!攻撃は爆音のした外壁から!ただちに迎え討て!」
ヴォラルドの声は国全体に広がり、その声を聞いた隊員はただちに自らの隊室に集合後迎撃の為に外壁に集まり出す。
走りながら目指すのはケートラルの元、今ケートラルを戦場に出す訳にはいかない。
その思考が脳裏に何度も過ぎる。
「早まるんじゃねぇぞ!」
その叫びがケートラルに届くことはなく、すでに外壁の前に
息を切らせてヴォラルドほどではないが予想以上に早い速度で外壁に到達していた。
- 第一節 -レリオロス騎士団- ( No.6 )
- 日時: 2011/02/18 21:41
- 名前: 深山羊 (ID: wkhjenUE)
回りに集合している別隊の隊員など気にせずに外壁の外へと息を整えて走り出す。
外に出る時、一人の兵に長剣を持たされ、それを片手に外にでるケートラル。
前衛部隊がガググガと戦闘の最中、
ケートラルは初めて戦場というものを目にすることになる。
魔導生命体のガググガはドリスリドの魔導書の力で動いている。
今回のガググガの数は異常ともいえる量。
外壁の下でケートラルは戦闘を目にした。
おびただしい数のガググガが大地を埋め尽くし、それを前衛部隊が切り倒す。
外に出ていた一般市民がガググガに襲われる。
鋭く伸びた爪、歪に生えそろった歯、骨に皮膚だけが張り付いたように細身の体に皮膚は干乾びている。
ガググガはそんな見た目だが人に襲いかかり、
その爪で肉を裂き、
その歯で骨を齧る。
そうして徐々に細木は太くなっていく。
吐き気を催すような光景にケートラルは後ずさりした。
死んでいるであろう肉塊にガググガは群がり貪る。
数秒もしないうちに肉塊の有った場所には何も残らず、ガググガだけが前進していく。
ガググガ。
過去に何度が実験があった。
死体を与えたらどのようにするのか。
群がっていない一人だけの場合、見るだけでもおぞましい光景が繰り広げら
死体の腕をもぎ、食べるのではなく自らの腕を死体の腕に潜り込ませていき最終的には言葉通り人の皮を被った。
徐々に内側から食べて行きガググガの皮膚が空気に触れる頃には元の体系の二倍の大きさに膨れ上がる。
その様からガググガは死人借りと呼ばれることもあり畏怖の対象としてやり玉に挙げられている。
そのガググガがラウトリアに進撃してきているのだ。
一匹でも場内に入れてしまうと大参事になりかねない。
騎士たちは一匹でも多くのガググガを狩り殺す。
しかし、その半ば倒れて亡骸を貪り食われる騎士も少なくないのだ。
戦場と言うよりも惨状と言う方が的確なほどに血肉が宙を舞う。
騎士の悲鳴とガググガの特徴的な鳴き声が戦場に木霊する。
ケートラルは息をのんだ。
目の前にあるこれが戦場だと、そう思うと騎士団になって頑張ろうと思っていた心が浮ついたものに思えて
背筋が凍るほど嫌悪する。
ケートラルは震える唇を引き締めて、さっきの魔導書で作られた影との戦いをうっすらと思いだし甘えを頭から取り除く。
浮ついた自分を殺す、怯えた俺を消す、負けは己を殺す。
初めての戦場、眼に見た人の死、貪られる死体、吐き気を催すほどの死臭。
恐怖を越えて怒りと闘志が燃え上がる。
絶対に許さないと思った時すでにケートラルは走り出していた。
視線の先にはガググガの群れの奥でほくそ笑んでいるドリスリドの顔。
ケートラル自身は気づいていない、自分が怒りという感情に支配されることを。
手にした長剣を鞘からだして構えることもせずガググガの群れに突撃をかけ
「ドリスリドォォォォォォォォォッッッッ!」
眼の前の敵ではなく、その先に居る敵に向けて咆哮する。
手に持った長剣は前のガググガを切り裂いていった。
ケートラルはまるで鬼神の如くガググガの亡骸を増やしていく。
積み上がるほどにガググガを切り倒して、前進している。
ガググガは死ぬと風化するレンガの様に消えていき最後には何も残らない。
だが人の血よりも赤い血を出す。
その血をケートラルは浴びるほど服にかかっている。
何時しかコートが滴るほどに血を浴びていた。
息も切れ、手に持つ長剣の重みが増えだしたころ。
ガググガとドリスリド達は後退していく。
後退していく敵軍に対して騎士団は追撃して、さらに敵軍への被害を増やそうとする。
騎士団全体の流れにケートラルもと思い進もうとした。
その最中に全身が血まみれだということに気がつく。
血まみれの自分にケートラルは歯をかみしめた。
「これじゃあ、どっちが化け物かわかりゃしない」
血に濡れたコート、手にかかる剣の重み。
ケートラルが本来なすべき戦いは怒りにまかせて敵を切ることではない。
自分に嫌気がさした、こんな一面を持っていることに対して。
重たい血に濡れたコートを脱ぎ棄て、風にたなびくコートを掴み、持ち主のいなくなった真っ赤なコートを着込む。
「誰のかは分かりませんが、勝手ですがこの戦場に散っていった同朋達の思いをこのコートに感じます、だから着させていただきます」
本当に身勝手だとケートラルは思いつつもこの戦場の血と思いの詰まったコートを形見と思い使う。
ここで誓いを立てようと思い叫ぶケートラル。
「このコートに掛けて、己が誇りに掛けて、必ずこの国を守り通して見せます。だから安らかにお眠りください」
体を食われて安らかにも何もないが、そう口にせずにはいられなかった。
思わずケートラルの眼からは涙が流れだして止まらない。
引き締めたはずの唇は震え、ここで散っていった名も知らぬ戦友のことを思うと涙があふれ出して、何よりも悔しいとケートラルは感じた。
手の中の剣についさっきまで以上に別の重みを感じ、力強く握りしめる。
引いていくドリスリドの軍隊。
追撃部隊さえもすでに通り過ぎ一人荒野に取り残されていたケートラル。
剣を鞘に収め走り出した。
もう、涙は流さないと心に決めて———
- 第一節 -レリオロス騎士団- ( No.7 )
- 日時: 2011/02/26 22:44
- 名前: 深山羊 (ID: DZWfhZUD)
駆け抜ける荒野、吹き荒れる風、ドリスリドは完璧な陣形を組みガググガが見事な殿をつとめる。
後退する側としての出来うる限りの最高の動きを見せるドリスリドに騎士団は翻弄されっぱなし。
その中頭一つ飛びぬけている者も何人もいるがやはりそこは個人プレイ。
うまく行きもするがやはり陣形を整えられるとガググガに撒かれる。
しかし、ケートラルだけは違った。
隊での行動ではなく完全な独断。
他じゃとれない行動を取りガググガの群れを引き裂き徐々にドリスリドとの距離は詰まっていく。
さっきとは違う点は自棄になって切り倒していかず、己の出来うる限りのことをするために自ら場を把握して戦術プランを随時脳内で更新する。
ガググガの攻撃に対して紙一重どころか甘皮一枚擦れるかどうか程度の距離でかわす。
ケートラルの中に恐怖が無いと言ったら間違いになるがそれを超えるほどの脅威的な集中力と洞察力。
それに加え天性の空間把握能力に後天的に身についた身のこなし。
訓練では出せないケートラルの本気。
本人は何時も本気で戦っているつもりなのだが今までキッカケが無かったのだ。
もとより唯でさえ強く、負けても次は負けないような戦いだったからそれを目覚めさせることは出来ていなかった。
そこに今回の衝撃、眠っていた才能、実力、何よりも恐怖を乗り越えるほどの感情。
恐れさえなければ攻撃はかわせる。
遠目からみるとまるで踊っているかのような動き、長剣を操っているのに何度も拳や蹴りがガググガを襲う。
ひるがえるコートには血の跡がほとんど見えない。
ケートラルはここに来て明らかに強くなっている、戦場が己の生きる場所だと言わんばかりに感覚が研ぎ澄まされていく。
目からは赤く燃える闘志は消え、残っているのは青く静かに燃える揺ぎ無い闘志。
荒れ狂い剣を振ることなら誰にでもできる。
冷静に場を見て適切な剣さばきを見せることのできるものは数少ない。
やがてガググガがケートラルに近づかなくなってきた。
そうなると蟻の群れの中に置いた石の如くケートラルの周りだけが荒れ地を見せる。
これを好機と見たのかケートラルはドリスリドに向かって走り出した。
決して冷静さを失った訳ではない。
ドリスリドさえ倒してしまえばガググガ達の陣形は崩れるとにらんだから。
手頃な形のガググガの死体を手に取りドリスリドに投げつける。
鋭くとがった爪先はドリスリドに当たる前にガググガに当たり当たったガググガは倒れ死ぬ。
それを見たドリスリドがケートラルを見た。
「んだぁ?」
挑発的な赤い髪、両耳には金い色のピアスをぶら下げて目はどす黒くこれ以上にないくらいに鋭い。
「貴様が、ドリスリドか」
ケートラルは低く唸るように尋ねた。
「テメェ、誰にもの言ってんだぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドリスリドは眼にもとまらぬ速さでケートラルに近づき頭突きを額にかます。
それを避けられず少しひるんだ一瞬。ドリスリドは左手に持った本を乱暴に開き咆えるように叫んだ
「個々の王、第二節、一文抜粋、
『失せモノを、消して飛ばす、我が王』!」
情けない音がしたと思った次の瞬間。
ケートラルの足もとは丸い円状に消え、深い闇の中へと落ちていく。
「逃がすかッ!」
暗い闇の中からケートラルは叫ぶ。
闇の中から銀色の剣がドリスリドに向かって投げられた。
意外な行動によりドリスリドの片腕に剣が浅く刺さる。
「行き先変更、喜べ、地獄行きだ、ゴミクズ野郎」
ドリスリドは落ちてくケートラルを見て呟いた。
「死ぬのは俺じゃない、お前だ、ドリスリド。いや、輪我輪!」
円は閉じ荒れ地の大地だけが残り、ケートラルは深淵の闇へ姿を消した。
- 第一節 -レリオロス騎士団- ( No.8 )
- 日時: 2011/03/02 22:44
- 名前: 深山羊 (ID: DZWfhZUD)
空には幾億の星が輝いていた。
幾億の星空の下にケートラルが横たわっていた。
ケートラルの額からは血が流れ、やがてそれが閉じられた眼に浸みていく。
するとケートラルはゆっくりと目を開けて片腕で目をぬぐう。
青年は体を起して辺りを見回す。
空は暗く唯一の光は星の輝きだけだが辺りは昼の様にしっかりと目で分かる。
緑に覆われたその場所に唯一の家が青年の視界に入った。
草原の上に立ち、スボン、コートに着いた草を掃う。
少しだが血で濡れたコート。しかし、元々赤に浸したような色をしているので目立つことは無かった。
広い草原に一人。走ることも焦ることもせずに家に近づく。
形容しがたいその家の材質にケートラルは触れたりして考えるが結局何も分からなかった。
そして、木製のドアに手を当ててゆっくりと押して中に入る。
家の中はほのかな暖かさに包まれていた。
春先の様な暖かさにケートラルは少し驚きつつも家へ足を踏み入れる。
「すみません!誰かいませんか!」
大きな声で叫ぶも返事はない。
申し訳なくも思うがケートラルにはこの場所がどこか知る必要があった。
「おじゃまします」
家へ上がり室内を見回す、中央には大きな円状のテーブル。
それを囲むように椅子が四つ。
壁には幾つもの本棚、ケートラルの見たことない背表紙の本ばかり、奥には二階に続く階段が見えた。
ここの場所を知る物がどこかにあるだろうと考え鍵の掛かっていな本棚から本を何冊か引き抜くがどれもこれも外れ。
おとなしく本を元の場所に戻し、奥へと進むケートラル。
木製の階段が音を立てるが気にせず昇る。
二階には扉のついた部屋がひとつだけ。
その部屋を覗こうと扉の前に立つ。
見たことのないドアノブに奇妙なものを感じたがドアを開けた。
中は細長い部屋。
左右にはおびただしいまでの本、それを入れる本棚、その奥に引き出しのついた机。
机の上には文字を書く道具と閉じられた本。
ケートラルは吸い込まれるように部屋に入り無意識のうちに書かれた風に机の上に置かれた本に手を伸ばした。
何故か音を立てて唾を飲み込みタイトルを見る。
「『幾星霜の煌き』(いくせいそうのきらめき)……」
ケートラルはその本を手に取った。手に取ったその時、本が輝きだす。
淡い光、まるで星が煌めくように優しい光。
ゆっくりとケートラルは本を開き、中を読む。何故が口が勝手に動く。
「幾星霜の煌き、第一節、煌めく星は夢を知り、流れる星は前を知る———」
言い終えると同時に本が空中に浮き風にめくられる様な勢いでページがはためく。
ページとページの間から拳程度の大きさを持つ球体の光が六つ現れた。
それぞれ薄く青く光輝く。
本はゆっくりとケートラルの手元に戻ってきた。
目の前に星が降ったように綺麗なそれにケートラルは見とれていて、部屋に入ってくる者の存在に気付かなかった。
「綺麗だねぇ……」
年老いたその声に気づいてケートラルは声のした方を向く。
そこには老婆が杖をついて立っていた。
「すみません、勝手にあがってしまい」
頭を下げるケートラルに老婆は首を振る
「いいんだよ、その本はお前さんの為に書いたのと変わらんのだから」
意味が分からずケートラルは手に持った本を見る。
「これをですか」
ぽつりと呟く。
老婆は優しい笑みを浮かべ
「それは魔導書、『幾星霜の煌き』。大事に使ってやってくれ」
「魔導書ですか、これが」
まじまじと見つめる。
その間に老婆は本を一冊取りだした。
「この場所は灰桜次にお前さんがここに来るのは決断の時だよ。それまで待ってるからね」
ケートラルが聞き返す前に老婆は魔導書を読む。
「偶者の旅断ち、第十節、一文抜粋、
『道は道、壁を登るは、道じゃなく、我が行くは別の道』」
「えっ?」
ケートラルは偶者の旅断ちと聞き頭がこんがらがった。
だが次の瞬間にはもう目の前は真っ暗になり最初に偶者の旅断ちを受けた時の様な感覚を感じる。
そして、また足を引っ張られる感覚を感じてゆっくりと闇の闇に沈んでいく。
目の前は荒野だった。
脱ぎ捨てた真っ赤な血に染まったコートが目の前にある。
どうやら、戻ってこれたようだとケートラルは安心し、膝を折り溜息をつく。
戦の喧騒も止んでいる、そこに最初に戻ってきたであろう騎士隊員がケートラルを捕まえ
「おい」
ケートラルにはその声には聞き覚えがあった。振り向くと
「ヴォラルド隊長」
目をパチクリとさせてケートラルは驚く。
それを見たヴォラルドは安堵の表情を見せた
「無事で何よりだ、最前線の奴にお前がドリスリドに消されたって聞いた時はもうだめかと思ったぞ」
本当にヴォラルドは心配していたみたいだ。
「ええ、まあ何とかなりました」
脳裏に偶者の旅断ちが過ぎる。だがそれは口にせずに手に持った本をコートの中に隠して立ち上がる。
「隊長」
「なんだ」
ヴォラルドはケートラルに肩を貸す。
ケートラルは小さく笑い、力強く囁いた。
「次は輪我輪に負けません」
肩に感じる力強さにケートラルは安心を感じる。
だから、続けて言う。
「だから出来るだけ鍛えてください」
すんなりとそう言えたケートラルはまた小さく笑う。
「任せとけ、新入り」
ケートラルの意思と思いを感じ取り力強く返事した。
「ありがとうございます、隊長」
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