ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 四人の聖夜
- 日時: 2011/02/13 18:59
- 名前: Aliens (ID: 2hEhxVIm)
- 参照: http://annasako.blog24.fc2.com/blog-category-0.html
サンタクロースが最後に家を訪れてから10年が経った。 毎年このクリスマスシーズンになると、町の外がサンタ一色になる。けれど、少年たちにはプレゼントをあげない。 シーズンを過ぎれば、何事もなかったように町は一掃されて、サンタは消えている。 そのたび少年たちは問う。 ぼくのサンタはいったいどこへ行ってしまったのだろうか。
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- Re: 四人の聖夜 ( No.2 )
- 日時: 2011/02/13 19:02
- 名前: Aliens (ID: 2hEhxVIm)
- 参照: http://annasako.blog24.fc2.com/blog-category-0.html
ぼくは最後尾からひとつまえの4号車にのりこみ、とたんに後悔した。指定席を買うべきだったのだ。出発5分前で唯一の自由席車両はほぼ満席にみえた。乗客のあたまや帽子がつきでたバックシートをうろうろ探し、ようやくあいたボックス席をみつけることができた。ほかは見事に満席だった。そのボックス席には、窓辺に同年くらいの少女がひとりすわっていた。ぼくは、たっているおとなたちをよけながら、むかいの少女のかおもみずに席にすわった。席にもぐりこんだという表現のほうがただしいかもしれない。
30秒としなううちに腹が鳴りだした。
そしてぼくは、きのうの昼からなにも食べていないことに気づいた。いそいで降りて食べ物を買おうかと考えたそのとき、電車がきしみをたててうごきだした。
遠ざかっていく見慣れた町の景色を、ぼくはただ窓からみていた。さしこむあさひがまぶしく目をつきさし、ぼくはかおをふせた。だれかしっている人物にかおをみられるのを避けたい気持ちもあった。
また腹がなった。
こんどはいかにも空腹の訴えといったかんじのむなしい響きで、気恥ずかしくなり、ぼくはむかいの少女をちらりとみた。
気がつくと、ぼくはぽかんと口をあけて少女をみつめ、今度はもっと恥ずかしいきもちになって目線をふせた。なんてこったろう。
少女は、ぼくがいままでおめにかかったことがないほど、うつくしかった。まるで完璧な彫刻がむかいにすわっているようだ。
電車がおとをたてて発進し、あさひをさえぎる建物がなくなると、車内に陽光がひろがった。光に照らされた少女の肌は大理石のようにかがやいていた。
ふいに少女はうでをのばし、窓のさっしを閉めた。はずみで膝の上にのせていたノートがゆかに落ち、ぼくはそれをひろいあげて少女にわたした。少女はこちらを一目もみずにノートをうけとり、また膝の上にのせた。
電車がつぎの駅に向かって速度を保つするなか、ぼくはその美しい人形を観察していた。が、どうかんがえても場違いにみえた。ふりふりのレースだらけの花柄ドレスに、つばのひろいリボンつきの帽子、リボンの傘、リボンの手袋。絵本からぬけだしたお姫さまでも、こんなにリボンは飾りつけていないだろう。
ぼくは、ほかの乗客がこのボックス席にすわらない理由が理解できてきた。観察しているあいだも、少女は膝の上にのせているたノートに熱心になにかを書きつけていた。
駅にとまった。
待ち時間がながいのであれば、なにか食べるものを買いたかったが、ドアがひらいくと、だれもおりる気配をみせず、すぐにドアが閉まってしまった。ひとり、閉まる直前に野球帽のふとった少年が身をよじってのりこんできた。クラスにひとりはいそうな巨漢である。でぶは満員の席からすぐさまこのボックス席をみつけだし、バタバタとかけつけて少女のとなりへすわった。しりがドレスのすそをふみつけた。
でぶの少年は野球帽をはずし、ねじってポケットにしまった。だらだら汗をかいている。短い黒髪がべったりあたまにはりつき、形の悪いじゃがいもをうかびあがらせた。
少女は一度も目を上げず、でぶがあからさまにノートをのぞきこんでも、なにごともないように書きつづけていた。ぼくは、またお腹がなりそうになるのをこらえた。
乗客たちがもぞもぞと荷物をまとめだし、ぼくもショルダーバッグに手をおいた。
つぎの駅につくと大量のひとがおりていった。
- Re: 四人の聖夜 ( No.3 )
- 日時: 2011/02/13 19:16
- 名前: Aliens (ID: 2hEhxVIm)
- 参照: http://annasako.blog24.fc2.com/blog-category-0.html
なだれるように戸口につめかける人々をみて、ぼくはうんざりしてしまい、たちあがる気もおきなかった。ここは見送るときめた。おなじボックス席にすわっている少女もでぶも、たちあがらなかった。われさきに車両をおりていく乗客のかたまりに逆流して、ひとりの少年が乗車してきた。ブロンドの短髪の少年は灰色のスポーツバッグをたてに人々をおしのけ、はじきだされるようにして、ななめまえのボックス席についた。右うでに包帯をほどこしている。
ブロンドの少年のむかいの席には、バッグシートごしに、だらしなく足をひらいてねむる老人のすがたがみえた。
けっきょくぼくが降りぬままにドアが閉まり、電車はうごきだした。乗車券はついた駅で買うしかなさそうだ。おかねは無駄にしたくないから、ダウンタウンまで行くつもりはないけど、その近くの駅までいければいい。
ふと、ぼくは、窓辺の赤と緑の広告看板が目にはいった。ダウンタウンのアニマルパークで催されるフェスティバルについてだ。「12/25 一夜限りの開催! スペシャル・アニマルショー」と告知していた。
動物園なんかいついっただろう。三歳のとき、狂った精神科医につれていかされたきりだ。
とつぜん電車がとまった。でぶはビクッと目をみひらき、ぼくはショルダーバッグを床におとした。車掌の声がスピーカーからながれてきた。
「 “電車、駅にはまだついておりませんが、対向車が通過するあいだしばらくおまちください”」
車内はしずまりかえった。ぼくはショルダーバッグをひろいあげ、ななめまえの少年はしきりに腕時計をみていた。でぶがねむたそうにあくびをする。ぼくはここはどこだ、とおもいながら窓の外の景色をみた。標識をよむと、もうすぐジズリー駅につくようだ。とすると、あと3駅でダウンタウンだ。ぼくはジズリーで降りようときめたそのとき、近くでジャカジャカと着信音がなりだした。そのおちゃらけたメロディーが車内にひびきわたったのをうけ、でぶの少年がジーンズから携帯をとった。
「もしもし、マ……かあさん!」
おおきなこえが車内にひびく。
「ぼくだよ! エリック。まだだ。ちっともさ。兄きの友だちの家にもいったけど、みつからないよ。いま電車の中なんだ。これから家にかえるところだよ。え? かえってくるなって? むちゃだよ、そんなの。どうしたってみつからないんだからさあ。ぼく、腹が減ってしかたがないよ。まだ朝食もたべてないだ。とにかく家にかえるよ、え、なに? もういちどいって。じぶんの声がうるさくてきこえないんだ」
少女がはじめてかおをあげ、ぼくとめをあわせてきた。ぼくは少女のおおきな瞳をみながら、口角をななめにあげてみせた。でぶは話しながら、不安そうにずっともじもじからだをうごかし、おちつきなかった。
「サイフ? ああ、サイフね。まだ20ドルまるまるのこってるよ。なくなっていなけりゃ。あのさ……、じつはおとしちゃったんだ。たぶんホメノイ駅にくるとちゅうの……」
携帯ごしに、怒ったたおんなのひとのどなり声がきこえてきた。おんなのひとがやかましくまくしたてるあいだ、でぶは携帯をみみからとおざけ、席にちぢこまっていた。
「た、た、たぶんプラットホームか、改札口かなんかでおとしたんだとおもうよ。も、もう2駅すすんだから、え! おりてもどれ! むちゃだよ。かあさん」
すでに何人かの乗客は別の車両に移動していた。で、でぶが泣きだしたしゅんかん、乗客がまたでていき、ぼくをふくめて車内は5人となった。こども4人とねむった老人ひとりだ。
ななめむかいの少年がたちあがり、包帯をまいたうでをおさえながら、前の車両へ消えていった。ただし、スポーツバッグはひらいたまま席にのこしていた。
ぼくはバックシートからはみでた老人のあたまが揺れたのをみた。だらしなくひらかれていたあしがひっこみ、かわりにながいうでがすっ、とのびてくると、少年ののこしたスポーツバッグへむかった。
考えるよりはやく、ぼくはさけんでいた。
「おい! なにやってる!」
ぼくのさけび声にきたならしいかおをした老人がふりむき、背中へ手をまわした。十中八九、拳銃をもたれていたら撃たれていたはずだが、老人はただくやしまぎれにスポーツバッグをゆかになげすて、うしろの車両へにげこんだ。ぼくは反射的に老人を追いかけた。が、背後で声がきこえ、たち止まった。
「あ、これぼくのサイフだ」
- Re: 四人の聖夜 ( No.4 )
- 日時: 2011/02/13 19:18
- 名前: Aliens (ID: 2hEhxVIm)
- 参照: http://annasako.blog24.fc2.com/blog-category-0.html
みると、バッグの中身が散乱したゆかに、でぶがてをつき、サイフをいじっていた。ぼくはボックス席へかけよった。
「これぜったいにぼくのだ。20ドルまるまるのこってるし、公衆テレカも3枚はいってる」
のぞきこんだぼくに、でぶは茶色のサイフをみせた。と、どうじに電車のよこをいきおいよく対向車がすれちがっていった。いっしゅんの嵐がすぎさったのち、しずまりかえった車内にこえがひびいた。
「だったら、それ返すよ。ちょうどいい。警察に届ける必要がなくなったな」
ぼくとでぶがふりかえると、うしろには少年がたっていた。少年はでぶをまたぎ、ゆかに散らばった荷物をすばやくスポーツバッグに集めると、ぼくにひとことお礼をいった。
「ありがとう」
ほんのいっしゅん碧眼とめがあい、ぼくはどもりながら「どいうたしまして」とこたえた。少年はもとの席にすわり、ぼくもでぶをまたいでボックス席にもどった。と、ここできづいた。いつのまにか少女が席にいなかったのだ。べつの車両へいってしまったのだ。
でぶは、ぽかんとゆかにてをついたままだったが、そのうちサイフをジーンズのポケットにしまい、なにもいわずに車両をでていった。きっと、「ママ」に電話するのだろう。
席につくと、少年がななめまえの席からきいてきた。
「よくきづいたな。たぬきね入りしてたって」
少年はぼくをむいてそういった。老人のことだな、とぼくはきづき返事をした。
「いや、べつに」
それいがいにいいようがなかった。ぼくは、老人がたぬきねいりしていたことまで、きがつかなかったのだ。少年はまどに目線をもどし、包帯をまいた左うでをさわっていた。さっきとはちがううでに包帯はまかれている。
それにしても、なぜまだ電車がうごきださないのか、とかんがえだしたとき、まえの車両のドアがひらき、ノートをわきにはさんだ少女がはいってきた。少女は晴れ晴れとした笑顔でぼくをみつけて、こういった。
「なんだ、あのうるさい子豚ちゃんは養豚場へかえったの!」
窓をみていた少年はふきだした。少女は少年をにらみつけ、なおも晴れがましいようすでぼくにいった。
「電車があんまりうごきださないんで、一号車へいって車掌とはなしてきたんだ。車掌はそとにいたよ。ほんとうさ。どこをさがしてもいないから、お客さんにおしえてもらったんだ。20分以上まえに電車をでていったっていうから、ぼくも出た。案の定、車掌はそとにいた。なんにんかひとをよんで、ものすごい剣幕で電話をかけてたわけ。“担架”がどうとかいって。車掌はぼくのすがたをみつけると、すぐに車内にはいりなさいってどなりつけた。ぼくおとなしく電車にもどってきたよ。ああ、おそろしい。で、ピーンっときた」
「轢いたんだな」
- Re: 四人の聖夜 ( No.5 )
- 日時: 2011/02/13 19:19
- 名前: Aliens (ID: 2hEhxVIm)
- 参照: http://annasako.blog24.fc2.com/blog-category-0.html
少年があしをのばしながら、ぼそりといった。窓ごしにこちらをみている。
少女も少年をよこめでみた。
「そう」
ぼくは、ためいきをついて目をとじる少年と少女を交互にをみながら、驚いてきいた。「え? ほんとうかい? この電車が轢いたって?」
「この電車いがいにどの電車があるんだい。対向車ならさっき通っただろ」
少女の淡々とした口調に、ぼくはさらにおどろいた。
「だったら、どうして車内放送がないんだい?」
「さあ、もうじきするかも」
少年はうで時計をみて、苛立ちながらつぶやいた。
「どうしておとなたちは、こう、人の気もかんがえずにパカパカ死ねるんだ」
「きっとおとなになりすぎたんだ」
ぼくはそうつぶやいて、ショルダーバッグにはいっているじぶんの腕時計を確認した。9時52分。「おとなになりすぎるなんてあるもんかね」
少年がそういったとき、“ママ”に電話をしおえたのか、でぶが車両へもどってきた。少女はかおをひきつらせ、ぼくのショルダーバッグをたたいた。
「ただしくは“こどもになれなかった”からだよ」
でぶはママにたっぷりしぼられたらしく、しょげくりかえったようすで席についた。車内のようすを見渡すと、だれにともなく問いかけた。
「なんだ、どうしてまだ電車がうごかないんだ?」
少女はドレスのすそをでぶの尻のしたからひっぱりぬき、興奮気味に怒鳴った。
「おしえてやる! イノシシが線路にとびこんで轢かれたんだ」
少年がななめまえの席で笑いだした。
でぶはとっくり少女のことをながめながら、口をひらいた。
「きみみたいな女の子からそんな口のきき方されるとはおもわなかった」
「ざんねん。ぼくは健全なおとこのこさ」
そのとき、くぐもった車掌のこえがスピーカーからながれてきた。
「 “お客さまにおしらせいたします。ただいまこの電車は、踏みきり付近で人身事故をおこしました。ただいまより復旧作業を行っております。運転再開までしばらくじかんをようする見込みです。たいへんご迷惑おかけいたしますが、しばらくおまちいただけますようお願いいたします」
別の車両からもざわつきがきこえた。でぶは真っ青になって口をひらいたまま、ふさがらないようすだった。
「きみ、おんなのこじゃなかったの?」
ぼくはでぶにあきれつつ、少女にいった。じぶんも口がふさがらないのを感じた。
「言ってたことは、ほんとうだったんだ」
少女はにっこりとわらった。
きゅうに金髪の少年はこちらに向き直り、目をみひらいて少女にきいた。
「もし外に出られるんなら、どうやって降りたんだ? おれも車両から降りたい」
少女はドアの右上あたりをさした。
「そこの赤いボタンを押すだけだよ」
少年は立ってドアにむかった。どうやら、じぶんの荷物をおいていく習慣があるらしい。ぼくも少年のあとに立ち上がった。
「ぼくも行ってみたい」
少年がガラスの囲いをひらき、なかの赤いボタンを押すと、ドアが左右にひらいた。少女は窓辺の広告をながめている。ぼくが少年につづいて外に出ると、
「あ、ぼくも行く」
とさけんだでぶがドアに身をすべりこませた。閉まる直前に野球帽をはさんだ。でぶはそれをひっこぬけずに、
ドアにはさんだままにした。
少年は前方をみると、どんどん電車の先へ進んでいった。担架で運ばれるまえにでぶは小走りでその数メートル背後をついていった。ぼくは立ち止まって、周辺の景色をみわたしていた。
驚いた。電車はかなりの高台の橋のまんなかでとまっていたのだ。レールを踏こえて、格子のしたをのぞくと川が流れるかわりに住宅がつらなっていた。こんな橋のうえで人身事故があったのかとおもうと、ぞッとした。
ひきかえそうとおもったが、こんなに好奇心でいっぱいなのに怖気ずくのも情けないから、ぼくは先をいくふたりのあとを追った。
一号車近くにいた少年はこちらをふりむき、しずかに、と合図した。ぼくは音をたてないようにじゃりを踏み、車両にはりついた。でぶは少年のうしろでしゃがみこんでいた。たくさんの足音がきこえる。ひとのはげしく会話を交わす声もきこえる。
車輪のそばにいた少年がぼくの服のそでをひぱっていった。
「みろ、死体がみえるぞ」
ぼくは少年のよこにかがみ、車輪のあいだから線路をのぞいた。
「あ」
- Re: 四人の聖夜 ( No.6 )
- 日時: 2011/02/13 19:33
- 名前: Aliens (ID: 2hEhxVIm)
- 参照: http://annasako.blog24.fc2.com/blog-category-0.html
線路のうえには片足がよこたわっていた。靴はぬげ、黒いソックスがむきだしだ。おとなか。いや、学生か? おとこであることはまちがいない。でぶががすかさずぼくのよこわりこんだきた。
「ひ、もしかして、からだまっぷたつにちぎれてる?」
でぶはおびえた声をあげ、ぼくのみみもとで歯をがちがち鳴らした。
「し、しずかに。ちぎれてねえよ。担架だ」
少年がいった。
ぼくは緑色の作業服を着たひとのあしが現れたのをみた。よこたわる片足が担架にのせられ、作業員がうごきだすと、担架の外に片うでがだらりとたれた。
ぼくはまばたきひとつせず、その光景をみつめていた。
「ぼく……はじめてみた」でぶがいった。
「おれもだ」
少年がいった。
「なんで、どうして死んだんだろう……」
ぼくはつぶやいた。ひどく気分が悪くなり、吐き気を覚えた。まるでじぶんが担架で運ばれていくような気分だ。
でぶはポケット携帯をとりだし、みみにあてた。
「ぷルルルル」
少年がふりかえった。「おい、ばか! なにやってる。やめ——」
つぎのしゅんかん、でぶのかおに野球帽がずぼりとかぶせられた。
「わっ」
ぼくがみあげると、そこには少女が立っていた。少女はでぶの携帯を手からとりあげた。
「きみたちなにをやっているんだい。馬鹿なことはやめたほうが身のためだよ。さっき車内放送がかかって、すくなくともあと2時間は発車できそうもないそうだ。あれ? どうしたのきみ。泣いてるの?」
ブロンドの少年はおどろいてぼくをみた。気がつかないうちに、ほほから涙がつたっていたのだ。
「いや、べつに。だいじょうぶ。どうして君は来たの?」
「面白そうだから来た」少女がいってじぶんでわらいだした。
少年はふしぎそうにぼくをみつめてきた。でぶは野球帽をぬぎ、少女手からの携帯をとりかえそうとした。「なにするんだよ!」
車両のそばにひとの近づく足音がきこえた。
「しっ」わめくでぶの口を少年がおさえた。少女は携帯とともに茶色のサイフをでぶの手のひらにわたした。
「こいつを忘れてるよ。きみってなんでも落とすんだね。体脂肪を落とすつもりはないの?」
担架は救急車にいれられたようだ。車掌が電話を切ったのをみて、ぼくは涙をふきながら早口でささやいた。
「そろそろもどったほうがいい」
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