ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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BRACK・STORYS
日時: 2011/05/12 17:39
名前: ACT ◆ixwmAarxJ2 (ID: 91b.B1tZ)

はじめまして、ACTです
主にホラーかいてます

これもホラーっぽい作品になると思います
ブラックな笑いもあるかも
短編&中編集です

コメントよろしくおねがいします

では楽しんでいってください


≪目次≫

中編
【Be Silent】 1 >>1
       2 >>2
       3 >>3
       4 >>4

短編
【補習】 >>6
【論理学】 >>7

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Re: BRACK・STORYS ( No.1 )
日時: 2011/03/05 18:11
名前: ACT ◆ixwmAarxJ2 (ID: d3Qv8qHc)

【Be Silent】




「そこー、気をつけて!……あっ、もっとゆっくり運んで!」

 満ちては引く。いつもはそんな静かな波の音しか聞こえない浜辺だったが、今日は騒がしい。砂浜の端にある立派な別荘から声は聞こえるようだ。その周りには『ニコニコ引っ越しセンター』と赤い塗色で描かれたトラック複数あり、その中から家具を運び出す若い男が何人かいる。もちろん『ニコニコ』はしていない。それどころか苦虫でも噛んだような表情である。
 家から30くらいの男が出てきた。彼を見た業者の顔が歪んだ。原因は彼にあるらしい。

「僕も忙しいんだ、早く作業してくれ」

 大事なお客様なんだ、と作業員は精神を落ち着かせ、さっきよりも速いペースで作業を進めた。そんな姿を見て、家の持ち主らしき男は安堵した表情を見せる。
 師崎肇もろざきはじめ
 彼の正体は売れっ子の作曲家。まだ34歳だが数々の名曲を世に送り出している。


今回はそんな彼のブラックな物語。


Re: BRACK・STORYS ( No.2 )
日時: 2011/05/12 16:36
名前: ACT ◆ixwmAarxJ2 (ID: 91b.B1tZ)



 作業が終わったころには、月明かりが辺りを照らしていた。
 家の中では肇がネチネチと愚痴をこぼしている。

「ったく……業者が遅いんだよ業者が」
「まあまあ、あんなにたくさんの荷物があったんだから。しょうがないって」

 そんな彼を宥めるのは肇の妻、師崎陽奈もろざきはるなである。
 
「もう、そんなにイライラして……今日は寝なさい。気持ち切り替えて!ほらっ!」

 陽奈にうながされるような形で肇は寝室へ向かった。


 翌日、早速新作作りを始めようと肇は机へ向かった。某有名音楽会社から作曲の依頼が来ており、締め切りがもう一週間しかないのだ。もちろん猶予は一ヶ月もあったが、案が浮かばず、ずるずると引っ張った結果がコレだ。
 さて始めようと、深呼吸をしたその時、ガガガガと言う物凄い音と共に家が揺れる。地震かと、窓から外を覗いてみると、ヘルメットを被っている男たちがたくさんいる。どうやら隣の道路を整備しているようだった。
 肇はちくしょうと、独り言を言うが、それで工事が終わるわけではない。
 改めて机に向かう。
 
「「「ガガガガガガドドドドドドド!!!!」」」

 頭の中の鍵盤がめちゃくちゃになる。

「これじゃ集中できないじゃないかっ!」

 痺れを切らした肇は、思い切ってクレームをつけに行くことにした。
 家を飛び出し、現場につくと工事責任者を呼び出した。

「すみません!こちらの工事が五月蝿くて仕事に集中できないんですけど!」

 周りの音が大きいものだから、自然と声も大きくなる。責任者も同じような声で言った。

「大丈夫だ!もう仕上げだ!じき終わるから!」

 まったくと、肇は心の中でうんざりする。ここ最近曲のアイディアが全く出てこない。少しでも気持ちを変えようと静かなでやすらかな海近くの家を選んだのに、工事なんかやってられたら意味がない。
 彼の言葉を信じ、肇は家に戻っていく。

Re: BRACK・STORYS ( No.3 )
日時: 2011/05/12 16:46
名前: A (ID: 91b.B1tZ)



 全くいい案が浮かばない。
 やはり焦りと苛立ちが原因だろうか?
 肇は手に持っているボールペンを机にコツコツあてる。そうとう苛立った時にでる、彼の癖だ。
 
「畜生……」
 
 彼が唸ったその時だ。
 隣の部屋からテレビの音が聞こえてきた。どうやらバラエティ番組らしく、陽菜の笑い声も聞こえる。
 怒りがこみ上げる。
 ボールペンの音が大きくなる。
 ついに痺れを切らし、肇は作曲室を飛びだした。

「五月蝿いなァ!静かにしてくれないかッッ!?」
 
そんな肇に陽菜は、

「いいじゃないテレビくらい。あたしの自由時間くらい頂戴よ」
「じゃあ、僕が作曲してる時くらい止めてくれよ!」
「いやよ!」
「ふざけんなッ!誰がこの家を建てたと思ってるんだ!全部僕のおかげだよなァ!」
「……ッ!」

 そんな肇に陽菜はついに根負けし、わかったわよと、怒ったように2階へ上がった。

「よし、これで安心してできる」

 だが結局この日は何も浮かばなかった。


Re: BRACK・STORYS ( No.4 )
日時: 2011/05/12 16:42
名前: ACT ◆ixwmAarxJ2 (ID: 91b.B1tZ)



 あれから3日後。
 肇が机に向かってブツブツと呪文のように呟いている。

「五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い……」

 あれからというもの、肇はどんな音でも気かかけるようになった。
 最初は大きい音だった。工事の音、テレビの音、騒音と思うのは普通だ。だが、だんだんエスカレートし、妻が歩くスリッパの音、コーヒーを沸かす音、終いには波の音。どんな小さい音でも彼にとっては轟音に聞こえる。もうノイローゼと言ってもいいだろう。
 ついに昨日、妻の陽菜は愛想を尽かし出て行ってしまった。
 そしてこんな様だ。
 しばらく呟いていたがこけた頬と大きなクマのできた目を上げた。

「そうだ、音のない場所に行けば……」

 彼は携帯に手を伸ばし、耳に当てた。その相手は建築関係の仕事をしている知人だ。

「もしもし、師崎だが……」

 

 数日後、都会のど真ん中にやってきた肇はとあるビルの中に入って行った。
 
「今日はありがとう。この部屋か?」

 彼が知人に依頼したものとは、『完全なる音のない場所』だ。
 今肇の目の前にある部屋は中の音が全て周りの壁に吸収され、完全な無音状態になるという。窓はなく、外部から完全に隔離されている。
 
「では集中するから1日後に呼んでくれ」
 
 肇はその部屋に満足し、早速作曲に取り掛かる。邪魔する音が無くなり、楽譜の中にもオタマジャクシが泳ぎ始める。 

 

 ——————だが、彼は気づいてしまった。


 この部屋にも存在する音に。


 音はしないが、癖であるボールペンを机に当てる行為をする。彼が苛立っている証拠だ。


 


 彼はその音を消した。


 完全なる無音にするべく……。








 1日後、知人が部屋に入った。
 彼は肇の姿を見て驚愕し、絶叫した。
 


 ——————左胸に深々とボールペンを突き刺し、息絶えた姿に。



 
 


          END

 


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