ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 遊愚連
- 日時: 2011/07/06 01:06
- 名前: テポック (ID: iYtio35i)
はじめまして!!
テポックと申します^^
小説を書くのは初めてなので、面白い作品を書けるかどうかわかりませんが、がんばって更新をしていきますので、よろしくお願いします。
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- Re: 遊愚連② ( No.2 )
- 日時: 2011/07/06 06:29
- 名前: テポック (ID: iYtio35i)
バス内は鮨詰め状態だった。
俺は運転席よりやや後方の位置に立ち尽くす。
そして、先程のおっさんを挟んだ奥に、あの女の子がカタカタと携帯電話を叩いている。
ちくしょう…!!
初日から恥ずかしい思いをさせやがって。
俺の腹の中はすっかりと煮えくり返っていた。
と、バスの扉がガコンと閉まった。扉が閉まるや否や、バスは低い唸り声を上げて走り出した。
バスは駅前の繁華街を抜けて、閑静な住宅街を走り抜けていく。
俺は流れる風景に目を落としていた。
今後4年間、この景色を見続けることになる。
少しでも目に焼き付けておこう。
今日はオリエンテーションの日。
大学生活を送るにあたっての説明会や懇親会、部活やサークルのオリエンテーションもある。
なーに、まだまだ大学生活は始まったばかりさ!!
先程の失恋に悔しさを滲ませながら、今日の抱負を思案していた、その時。
事件は起きた。
突如、フロントガラスの左から飛び出してきた小さな体。
嫌な予感がした。
が、その瞬間には遅かった。
ギギギギギィーーーーーーーーーーーーーー!!
鋭い衝撃で前に引っ張られる。
俺はとっさに左手で手すりを掴み、右手で傍らのおっさんのスーツを掴んだ。
と、次の瞬間、
「キャアーーーーーーーーーーッ!!」
耳を劈く悲鳴。
えっ!?と我に返ったのも束の間、俺の右腕が何者かにガッチリと掴まれた。
視線を移す。
俺の右腕はおっさんに掴まれ、おっさんは顔をしかめている。
さらに、奥のあの女の子が怒りからなのか照れからなのかわからないが、頬を紅潮させているのだ。
え!?
まさか……!?
いや、俺は確かにおっさんを……。
ゾクッと寒気が背筋を襲う。
そして、おっさんから発せられる言葉。
「痴漢だ!! 痴漢を取り押さえたぞ!!」
いよいよ目の前が真っ白になった。
- Re: 遊愚連③ ( No.3 )
- 日時: 2011/07/06 07:25
- 名前: テポック (ID: iYtio35i)
バスが停車してから一体どれくらいの時間が経っただろうか。
思考回路が目の前の現実に追いついていないようだった。
俺はバスの椅子に座らされ、おそらく大学の同級生であろう乗客たちに取り押さえられていた。
心臓がバクバクと暴れ出す。
やがて、どこからともなく響いてくるサイレン。
そこで、ようやく我に返った。
やばい!!
これが冤罪ってやつだ!!
俺はガバッと立ち上がろうとしたが、すぐさま周囲の乗客たちがのしかかってきた。
「ぐあああああああ!! やめろーー!! 俺はやってねえ!!」
必死にもがいてみせたが、さすがに10人相手ではどうすることもできなかった。
やがて、紺色の制服を身に纏ったいかつい男たちがズカズカとバスの中に現れた。
ドキッ!!
顔がどんどん青ざめていくのがわかった。
このままじゃ、本当にやばい……。
「さあ、ボウヤ。ちょっと署まで来てもらおうか」
あの女の子の表情は怒りに満ちていた。
もはや、スタート地点ですらなくなってしまった。
俺はその場でバスから降ろされ、手前に停車していたパトカーの後部座席に詰められた。
そして、何事もなかったかのように通り過ぎていくバス。
いよいよ植えつけられる疎外感。
どうしよう?
俺、このまま牢屋に入れられるのか?
今日は、大学に入る日じゃ、なかったのか?
鼓動が小気味良く加速する。
そして、両脇に体付きの良い警官がドッカリと腰を下ろした。
退路は絶たれた……。
絶望という言葉が脳内を支配する。
終わった……。
俺の人生。
しかし、警察官なんだから、言えばわかってくれるはずだ。
俺が犯人じゃないって!!
だって、俺がさっき掴んでいたのはおっさんの右腕だった!!
間違いない!!
助手席にいかつい警官が乗り込んできた。
そして、顔をしかめて俺を睨みつけた。
凍り出す背筋。
「じゃあ、ボウヤ。これから署まで行って話を聞かせてもらうから」
いかつい警官は冷たく言い放った。
「だから……俺じゃないんです」
警察署の一室に連れ込まれた俺を待っていたのは、いかつい警官による執拗な事情聴取だった。
「ほう、あそこまで他の人を騒がせておいてたいそうな自信だな。お前さん、否定すれば赦してくれるとでも思ってるんじゃないのか?え?」
「否定も何も真実ですよ」
「ハハハ。アンタの隣に乗ってたおっさんに事情聴取しましたわ。バスが急ブレーキを掛けて、皆が前にのめりこんだ。そのドサクサに紛れて隣の女の子のケツを撫でてた右腕があったと言ってたんだぞ?そんで、それを掴んでみたら、その右腕がお前のだったというそれだけの話だ」
「ですから…俺は何もしてない!!」
必死の抵抗も叶わない。クックックといかつい警官がにやついた。
「お前、バス停で被害者の子を口説こうとしたんだろう? 目撃情報があるぞ。それの腹いせにやってしまったということだろう?」
「だから違う!!」
「ああ、もういい。被害者はお前のことを訴えるそうだ。お前の審判はじきに下される。とりあえず今日のところは帰してやるから、親御さんの連絡先を教えな」
「だからやってな……」
「とぼけんな!! さっさと連絡先を教えろ!!」
突然の罵声が室内に響き渡る。
くそう……。
なんでこんなことに。
俺は涙で潤んだ目を拭い、携帯電話を開いた。
「そうそう、おとなしく教えればこっちだっておっかねえことはしないさ」
いかつい警官は口笛を吹きながら、連絡先をメモした。
数時間後、親が実家の群馬から駆けつけた。
俺は一度釈放され、寮でこっぴどく叱られることになる。
何なんだよ……?
マジで。
俺の大学生活、おしまいかよ。
親父の説教を、おふくろの泣き声を正座で聞きながら、悔しくて涙が滲んでいた。
街が暗くなるとともに、俺の目の前も真っ暗になった。
- Re: 遊愚連④ ( No.4 )
- 日時: 2011/07/06 21:23
- 名前: テポック (ID: iYtio35i)
ふう……。危なかった、危なかった。
危うくこの俺が痴漢にされるところだった。
ちょうど近くに糞ガキの腕があったから助かった。
これで、あの子の尻触れる!!って思った。
ケヒャヒャ……。
逃げることができてよかった。
俺は妻子持ちの営業マン。
俺が捕まるわけにはいかない。
俺は金を稼いであいつらを養っていかなければいけない。
別に暢気な大学生1人捕まったところで、どうってことないだろ?
どうせまだ20代なんだし、やり直しも利くし。
少しは世の中の不条理さを学ぶべきなんだ。
そう、俺が悪いわけじゃない。
あの学生の運が悪かっただけさ。
たまたまバス停で俺に順番を抜かされてしまって、たまたまバスが急ブレーキがかかり、たまたま俺の手が女の子の尻にいってしまって、たまたま気分的に触ってしまっただけさ。
そう、仕方ないのさ。
人生は運。
俺はたまたま一流企業に勤める親父がいて、たまたま俺の入りたい会社にコネがあり、たまたまそこでお見合いの仲立ちを手伝っている奴と知り合い、たまたま今のかみさんと結婚できた。
そう、世の中は全て運でできているのさ。
- Re: 遊愚連⑤ ( No.5 )
- 日時: 2011/07/07 23:08
- 名前: テポック (ID: iYtio35i)
頭がふらついている。
一体、どれくらいの時間このベランダから外を眺めていたのだろうか?
日がとっぷりと暮れ出し、空が青ざめていく。
高層マンション群は黄金色に輝き出している。
眼下の道路には、家路を急ぐ人々の群れ。
買い物帰りの主婦。和気藹々とはしゃぐ女子高生。ぐったりした表情のサラリーマン。
ダメだ……。
俺は溜息をこぼした。
今、自由になんてなりたくない。
いや、そんな勇気がないだけなのかもしれない。
俺は部屋に戻り、窓を閉めた。
明日、いよいよ2回目の事情聴取だ。
さあ、無生産な明日のために寝ようじゃないか?
俺が傍らの掛け布団に手を掛けようとしたその時、
ピリリリリッ!!
携帯電話のけたたましい着信音にビクついた。
着信は高校時代の旧友・長岡諒弥からだった。
「よう! 久しぶりだな、芳樹。風の噂で聞いたからよ、電話したんだよ」
「諒弥か……」
「おーおー元気がねえな。ま、無理もないか。だけど、初めて聞いた時はビックリしたぜ。お前が痴漢なんてやらか……」
「だから!! 俺はやってねえ!!」
「……ビックリしたなあ、もう。なんだよ、急に大声出しやがって」
「俺はやってねえって言ってんだろう!?」
「な、なんだよ!? わかったよ、落ち着けって。俺もお前がそんなことする奴だとは思ってねえよ。これは何かの間違いだ。そうなんだろ?」
「そうだよ」
「じゃあ、事情をちゃんと警察にも話さないと」
「いや、あんな糞じじい、俺の話なんてこれっぽっちも聞いてくれなかった」
「マジか……。じゃあ、お前かなり容疑者として濃厚な立場なんだな」
「そうだよ。やってもいないのに、誰も信じてくれねえんだ」
「……」
「いいさ!! 俺は犯罪者としてこれから生きていかなきゃいけないようなんだ!! やってもいねえ罪を無理矢理償わされて、んで適当に死んでいけばいいってことさ。近々、大学も辞めさせられる。俺の人生はもう下降線なのさ」
「馬鹿野郎!! そんなんでいいのかよ!? お前の人生。そんなくだらなくなってしまっていいのかよ?」
「だってよ……誰も俺の言うこと信じてくれねえんだもんよ……」
- Re: 遊愚連⑥ ( No.6 )
- 日時: 2011/07/11 07:16
- 名前: テポック (ID: iYtio35i)
「……だったらよお、何とか警察の連中に無実を証明するしかないだろ?」
「どうやってだよ?」
「どうって……。例えば、その時間にバスに乗っていた奴を探し出し、本当はお前がわざとじゃなくてたまたま……」
その言葉を聞いた瞬間、俺の怒りは沸点に達した。
「だから!! 俺はわざとでもたまたまでもなく!! やってねえって言ってんだろ!!」
「あ……ああ、悪い悪い。お前がやったんじゃなく、別の奴に仕組まれたっていう証拠を集めるのさ」
「そんなこと……俺がやったところで話すら聞いてくれないだろ?」
「わからないだろ、やってみなきゃ」
「いーや、わかるね。俺の現状を他大学のお前が知ってるってことは、もう俺の大学内で知らない奴はいないさ。悪い情報は回るのが早いからな。多分、どっかの勘違い馬鹿女が広めてるんだろうな」
「誰だ?その馬鹿女って?」
「被害者。いや、被害妄想者に決まってんだろ」
「ああ……どうなんだろうな? 俺はお前の大学の知り合いから聞いたんだけどな。話聞いた時はマジでビックリしたぜ」
「へえ? それは一体誰だ?」
「大城紗綺亜って子」
「さきあ? 女の子? 紹介しろよ」
「うーん、確かにあの子なら事件を解決してくれそうなんだけどな」
「なに!? それ、ほんとか!?」
俺は携帯電話にかじりついた。
「い、いやでも、保証はできないぜ?」
「でも、その子は何か手立てがありそうな感じってことだろ?」
「ああ。あの子は放ってる雰囲気こそ独特だが、困ってる人を見つけると目の色を変えて協力してくれる。5年前に鳩ヶ谷の一家惨殺事件があったろ? あれを警察の手助けも借りず、全く何の手がかりもない状態であの子は犯人逮捕にこぎつけたんだ」
「え!? あの鳩ヶ谷の事件を?」
「そうさ、あの子はとにかくすごい。俺から頼んでやる」
そう、俺は藁にもすがりたい思い。
ここは諒弥の言うとおり、その紗綺亜という女性に賭けてみるしかないだろう。
ダメでもともと。
うん、賭けてみよう。
「よっしゃ!! 頼むわ、諒弥!!」
そう言ってその日は電話を切った。
布団の中に潜り込みながら。
少しだけだが、希望が見えてきた。
そんな気がした。
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