ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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井守
日時: 2011/07/19 07:53
名前: 夕顔朝顔 (ID: D//NP8nL)
参照: http://dog

イモリは人を喰う。

暗い井戸の中で待っている。
投げ込まれるのをー待っている。

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Re: 井守 ( No.5 )
日時: 2011/07/19 15:04
名前: 朝顔夕顔 (ID: floOW.c4)

翌日、天気は曇りだった。
「今日はみのりさんにこの村の井戸を祀る”風習”をお見せしますわ」
そう鶴子に言われてみのりは井戸に来ていた。
神事を司る男が何やらお経のような呪文の様な言葉を吐いている。
聞いていると段々頭が重くなってきた。眠いのとは違う。
クスリ。をやっている人はこんな感じなのだろうか?
ぼんやりとした意識の中で視線だけは井戸を捉えていた。

ードボンー

鈍った意識の中で確かに何かが水の中に落ちる音をみのりの耳は捉えた。
 えっ?
井戸をよく見ればー
といってもみのりの目は井戸だけを捉えていた筈。
井戸の真ん中水の中からは小さな子供の手が宙を掴もうとするかのように突き出ているではないか
目の前の事態にはっと我に返ったみのりは井戸に駆け寄った
「ちょっ?!ねぇ手ぇ手貸してっ!だれかっ!!!」
井戸の水面から突き出た手を掴もうとした時が、ぐいっと後ろに引っ張られた
「だめよ」
鶴子だった。
が、あの妖艶な顔の鶴子ではなく目は見開き、祭りの装束を着た恐ろしい、
そう、恐ろしいとしか言いようの無い顔をした鶴子がみのりの首を掴み子供の救出を拒んでいた。
「!鶴子・・・さん」
そう言うのがやっと、みのりは鶴子の手を振り払い村の病院へ走った。

ガラッ!
勢い良く病院に駆け込み医師を捜した。
奥からぬっと現れた医者は重そうに口を開いた
「あんたぁ、大変な所へきちまったんだねぇ」
無表情
可哀想とも愉快とも何ともとれない表情で医師はみのりにそう言った。

なんなのなんなのなんなのっ!!???

「・・・!!電話っ!警察!・・・119・・・う、そ」


ップーップーップーップ・・・

電話は繋がっていなかった。

壁には
『医師免許 古井守 淳之介』と医師免許状が貼ってあり、
その横にはみのりが小さい頃に不祥事を起こして倒産した製薬会社のポスターが貼ってあった。

Re: 井守 ( No.6 )
日時: 2011/07/19 15:55
名前: 夕顔朝顔 (ID: floOW.c4)

ー 一刻も早くこの村から出たいー

何なのあれっ!?
あれが風習?!
あんなの違う!ただの人殺しじゃない!
子殺し!

鶴子の家にある荷物などどうでも良い。
とにかく日のあるうちにこの村を出て山を降りたい!

繋がらない電話を投げ出し無表情で立つ医者を背に病院を走り出たみのりは
戻ったら絶対に殺されるという思いから鶴子の家には戻らず森の中へ逃げ込んだ。

いつしか雨が降り出した。
登りやすい木を選び木の上で村の様子を見ていたみのりはある事に気づいた。

私が来た時は晴れ、次の日も晴れ、晴れの日は村人は殆ど家から出て来なかった。
でも夕方、夕方になると家々から出てきてー!
そして今日は曇り、雨。
鶴子さんも川井守さんもみんなみんな人じゃないの?!

木井守きいもりキイモリ・・・川井守かわいもりカワイモリ・・・そしてあの医者のフルイモリ・・・。
みんなイモリっ!?
井戸を祀るんじゃなくてイモリを祀っているのっ!?
何の為に!?

雨の降雨量に応えるようにムラビトは集まってきていた。

「みのりさん、みのりさーん!!」
祭り装束のままあちこちみのりを探す鶴子。
その顔は晴れの日よりも生き生きとしているようでもあった。

 どうしよう?!
ポケットの携帯は『圏外』を示したままだった。
 下の村まで行けば繋がるはず!確かバスを降りた時に典子にメールを送ったもの!
雨は暗闇になった夜にはあがった。
だがみのりは木から降りれずに居た。
みのりの登った木の下にはムラビトがうろうろしているからだ。

「いたんかぇー」
老婆がしゃがれた声で叫ぶ
「おーらーん」
向かいの森を探す老婆が答える。

当然、一睡も出来ぬまま明け方近くを迎えた。
「あっ!」
木の下を見るとムラビトがいなくなっていた
辺りを見回しても誰もいない。

 い、今なら逃げられる!!

そうっと木から降りるとさっき上から見た時には居なかったムラビトがいた。

 こ、殺されるっ!!

みのりは本能のままに相手を襲っていた。
悲鳴もあげずに倒れたムラビト。
よくよく顔を見ると見覚えがあった。

 この、人・・・。

倒れているムラビトはあの日この村がいもりむらだと教えてくれたあの、女性だった。

 !そうだ!

みのりが登っていた木の下のすぐ近くの道路に一人の女が立っていた。
ブォーン
「・・・れいこぉ、やぁつぁあおったんかー?」
車の窓を開け大声で聞いてきたのは川井守耕造だった。
「・・・」
うつむき、黙ったまま首を振る麗子。
「れいこぉ、ほんれ車にのれさー」
窓を閉めようとした耕造が木の間の白っぽい物に気づいた。
「れいこぉ、あの木の間のぉ〜ホレ、アレ、ありゃなんだぁ?」
動きの遅い麗子の行動を待たずして耕造は車を降りた。
 「あ!ありゃ、あの娘じゃ!!麗子っ!ほれ!あ!   あぁっ!?」
耕造の目の前を車が走り出した。
バックミラー越しに耕造の地団駄を確認すると”麗子”はアクセルを踏み込む足を強めた。
麗子に成り済ましまんまと車をせしめる事に成功したみのり。
村に車はそんなになかったはずだからこれでだいぶ距離が稼ぐ事が出来た。

15キロほど走った所で車が通れない道になってしまった。

 そうだ!携帯!もういい加減通じるかも!!
みのりはポケットをまさぐった。



Re: 井守 ( No.7 )
日時: 2011/07/20 13:38
名前: 朝顔夕顔 (ID: y/HjcuQx)

 携帯・・・!
『I』
で、電波ちょっとだけ届いてるっ!
 110
「・・・はい、110番通報です。事件ですか?事故ですか?」
「あっ!あのっ子供が井戸にっ!!じ、事件です!
A県のF山のいもりむらで子供が井戸に投げ込まれてっ・・・あれっ!?」
電話は一方的に切られた。
・・・イタズラと思われたのだろう。
 違うのにっ!本当に子供がっ!私も狙われているのにっ!
一本だけの電波にすがるようにみのりはメールを送った。
ほどなくして電源が落ちた。
充電切れ。
 ー自分の力だけで逃げるしかない!ー
獣道の様な山道を下り下へ流れる小川を伝いどうにか下山しきった。
そう、みのりは追ってくる村人達を振り切る事ができたのだ。

「良かった、あの日乗ったバスも来てる」
堪えようも無く涙が出てくる。
都心に近づくにつれ人が増え、心も落ち着いてきた。
東京に戻った時にはもう日は暮れていた。
今見ているのは昨日まで見ていた村の乏しい明かりではなくネオンだ。
だがいつもは眩し過ぎるネオンも今日はもっとつけてほしい位いだった。

部屋につくとシャワーを浴び深い眠りに落ちていった。

いつの間にか背後にいる鶴子
いつの間にか背後に居る子供
冷たい店主の手のひら
暑い日は外に出ない村人達
暗くなるといきいきと・・・

Re: 井守 ( No.8 )
日時: 2011/07/20 14:06
名前: 夕顔朝顔 (ID: y/HjcuQx)


ーその晩みのりは不思議な夢を見た。
暗い何かの中にいて自分の廻りをぐるぐる何かが回っている。
微かに匂いも感じられる。
理科室のような、じっとりとしたあの匂いー

「ー!」
目を開けると知っている天井
覚えのある窓
聞いた事のある音

でも

お気に入りの典子から貰ったウサギの置物がない
飾ってあった絵も無い
机も研究の為の書物もない
着ているのは白い浴衣

時間が経つに連れて夢現が現実になる

鶴子の部屋だ。

なぜ?
どうして?

「おはようございます。みのりさん。」
鶴子だ。
「ー」
みのりは背を向けたまま応えない

背後で鶴子が着物を脱ぐ音がした。
「みのりさん」
見なさい。と念を込めた呼び方だった。
みのりはゆっくりと鶴子の方を向く。

白く透き通る肌にゆたかな乳房
下腹部は膨らんでいた。

「うぅ・・・うっぐぅ・・・」
突然鶴子が苦しみだした。
股間からは血が混じった体液が出ている
助けるでもなく泣くでもない見ているだけのみのり
ほどなくして鶴子は赤ん坊を産み落とした。
人間の形をしている。
人間の新生児と同じだ。
鶴子は産んだばかりの嬰児を抱き上げるとすぐに乳をふくませた
腹がいっぱいになり眠る赤子。
鶴子は脱いだ着物の上に赤子を寝かせるとみのりの方へ手を伸ばした。
はらり、とみのりの白い浴衣を剥いだ。
露になるみのりの肢体
白い肌に豊かな乳房・・・
ふと背中から何か落ちた

「おいで」
鶴子が諭す。
みのりの足の間を黒い物がすり抜けてゆく
イモリだ。

布団の上にくずおれるみのり
「これからもよろしくね、みのりさん」
赤子を抱き部屋を出る鶴子

「おぉーわしに似てよう可愛い赤子じゃー」
部屋の外から声が聞こえた。
聞き覚えのある
初老の男の・・・

Re: 井守 ( No.9 )
日時: 2011/07/20 14:45
名前: 夕顔朝顔 (ID: y/HjcuQx)

「あーあぁうーあ」
「はいはいよしよし良い子だね、お腹がへったかな?」
歩き始めたばかりの小さな子供と女。
「あーぁあ〜」
「よしよし今日は祀りの日だからね、うんとお食べ、たんとお食べ」
ガラガラガラ・・・
「ありがとう、面倒を見ていてくれて・・・」
何かを抱えた鶴子が帰ってきた。

家の外から祭りを知らせる音が聞こえてきた。

いどのなかのいもりさま
おとこがほしいとおさわぎじゃー
いどのなかのいもりさま
おんながほしいとおさわぎじゃー
いどのなかのいもりさま
あかごだきたいとおさわぎじゃー
いどのなかのいもりさま
こよいはまつりとおさわぎじゃー

かけ声の様な歌声が家のちょうど前で止まるとガラガラと引き戸が開いた。

胸に抱いた赤子に優しい笑みを向けたまま神輿に乗る鶴子。

祀られている井戸には既に村人達が集まっていた。

「おぉー今年の贄は赤子様じゃー!!」
「ほぉ〜これはこれはべっぴんな赤子様じゃ〜!イモリ様がお喜びじゃ〜〜」
やんややんやと騒ぐ村人達。
かくて祭りは最高潮を迎えた。
鶴子は神輿に乗ったまま相変わらず優しいでも妖艶な笑みを浮かべて井戸を見据えていた。

トプン

井戸に投げ込まれた白い布の固まりは浮かんでくる事なく沈んでいった。

祭りの翌日、鶴子の家には鶴子の家に一緒に居る女の足元にも赤子はいない。
静かな静かな鶴子の家の中。
時折聞こえてくるのは艶かしい鶴子の喘ぎ。
鶴子は『出産』の後に急速に若返った。
二十歳そこそこの娘のように。
女が行為の終わった二人の部屋へ濡れた手ぬぐいを持っていく。

自分と同じ年齢位の鶴子に手ぬぐいを渡すと果てた男ー耕造を尻目に部屋を後にしようとした。

「明日、この村へお客さまが参りますの。
わたくしはちょっとお相手できませんから、お願いできます?
男の方ですのよ」

「ーはい」
妖艶な笑みを浮かべ返事をする女

「ありがとう、それじゃあ宜しくね。」
鶴子はそういうと耕造の体を丁寧に拭きはじめた。




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