ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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怖いよね?
日時: 2011/08/12 17:24
名前: 夕海 ◆7ZaptAU4u2 (ID: LXdRi7YQ)



初めまして、こんにちわ。
夕海ゆみです。
皆さん、よろしくお願いしますね。


——


01 / 心霊から人間の業まで色んな「怖い」が主な物語です。
02 / 短編集、オムニバスストーリーです。
03 / 荒らし、宣伝、口論、マナー違反等は一切お断りします。
04 / 皆さん、仲良くしてくださいね。


——





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Re: 怖いよね? ( No.5 )
日時: 2011/08/15 21:50
名前: 夕海 ◆7ZaptAU4u2 (ID: LXdRi7YQ)

  #03 [ひらりと舞う蝶々]


木漏れ日から差し込む日差しは淡く輝いていた。草木や花、葉の影が爽やかな風でゆらゆら、と揺れる。
とても心地良い、昼下がりの午後。今年も猛暑だとか騒ぐ馬鹿共はいるが、ここは違う。
山の奥。いや……近くにその寺はあった。
廃院で誰一人とていない。地元の住民すら、滅多な事がない限り来ない。
時々そこらの子供や若者が肝試し程度にくるくらいである。
そこへ、白いワンピースに白くピンクのリボンがついたある少女が、ヒールのついた靴で居た。
さらさら、と腰まである長い黒髪が風にそよぐ。
少女は柔らかく微笑んだ表情のまま、廃院を歩く回る。
ところどころ、蜘蛛の巣が張られ、朽ち果てた寺院が崩れ落ちた風情だけしかない。
だが………空中で何かが舞った。
空を仰げば、無数の蝶々が寺院の周りを遊んでるかのように飛び舞っていた。


「………?」


こくんと首を傾げる。
—— こんなに蝶が居たかしら、と。
先日この小さな町に引っ越したばかりだ。それ故この寺院のことは何も知らない。
しかし、新しく出来た友達にこの廃院は昔から肝試しに最適な場所だと聞いた。
それで面白半分、この寺院を訪れた訳だが……来た時はこんなにいなかったはず。
まるでこの蝶々たちは亡くなった人たちの霊みたいだ。
ひらひら、空中に気持ち良さそうに浮かんでいて楽しそう、と思った。
自分もこの空を舞う蝶だったら、楽しいんだろうな——………と思う。
その時、視界が急激に小さくなった。
そして、180度視界が地面から空へと変わる。
ふわふわした感覚が楽しく、気付く。
——— 自分は蝶になったのだ、と。
何故どうして、と疑問が浮かぶ前。空を舞う楽しさで頭が一杯で何も考えられなかった。
ただ、自分が気持ち良いと嬉しい気分である。
そのまま、自由気侭に空を舞い上がってうっかりした。気付くと寺院を離れていた。
町へと飛んでいたのだ。
けれども、楽しさで何にも考えないで空を舞い上がる。
そこから、真っ白な景色が見えて視界を、自分を、包み込んだ。



気付くと自分は目の前にいる———— 父の姿を見た。
そして父が指で挟んでいる。
自分—— ではなく蝶の胴体を。
そこでようやく蝶……少女がもがき始める。父は昆虫学者なのだ。
絶対このまま蝶となった自分を標本にするに違いない。
そもそも、引っ越した理由は、ある寺院の周りを飛び交う蝶々たちが、そう。珍しく標本にする為で。
少女は泣き喚く。しかし、声と言葉が出るはずなく代わりに体がもがくだけ。
父は標本の際、使うピンを持った。………そして自分の胸元へと突き刺す。
真っ暗闇へと落ちる前、目に浮かんだ廃院の周りを飛び交う蝶々たち。
そこで父の姿が見えなくなった。



ある今は廃院と化した寺院の周りで蝶々が飛び交う。
毎年の夏。寺院の蝶々はその季節だけ、優雅なる羽を広げ、飛び舞う。
しかし、—— 蝶々たちは決して寺院の外へ出ようとしなかった。





END

Re: 怖いよね? ( No.6 )
日時: 2011/08/16 07:31
名前: 姫更 (ID: 19CtFRjf)

ファ、ファン!?
そういっていただけると嬉しいです^^
更新したの見ました!
とても怖いです←ガクブル

Re: 怖いよね? ( No.7 )
日時: 2011/08/16 14:11
名前: 夕海 ◆7ZaptAU4u2 (ID: F4bOQQzb)

        姫更様

怖いだなんて私のはただの不思議な話ですよw
姫更様のほうがずっと怖いです(^ω^)
頑張ってください!

Re: 怖いよね? ( No.8 )
日時: 2011/08/16 19:44
名前: 姫更 (ID: 19CtFRjf)

>>4がとっても怖いです

Re: 怖いよね? ( No.9 )
日時: 2011/08/16 21:02
名前: 夕海 ◆7ZaptAU4u2 (ID: F4bOQQzb)

  #04 [思い人]


小さな森の奥。そこへある朽ちかけた廃屋で破れた箇所がところどころある障子に、中からの光で照らし出された人影。
覚束なくゆらゆら、と揺れる人影は形からして女のようだ。今の時代では時代錯誤な小屋から聞こえる女の声。
そして、森の険しい獣道から荒い息遣いが周りの静寂を打ち消す。
—— 小屋が見え始めたころの獣道で膝を曲げて屈み込んだ男であった。
彼は山でないと言え森に相応しくない、全身を黒に包んだスーツで高級品を思わせる革靴は泥だらけだった。
脇に抱えている茶色の革鞄を握り締めた。疲労が漂う表情が小屋を一目見ると途端、明るくなる。
希望と嬉しさで満ち溢れた表情で今までの疲労は何処へやら。男は小屋へ目指し、一歩足を踏み進んだ。



……男はいつも、変哲ない日常、常に仕事を多くさせる会社や上司に残業が当たり前の社会。
懸命に働いてるのに家庭を構えなど、そして愛してない等と喚かれ、子供も妻にも半ば愛想をつかされた。
等と今の日本社会に不満とストレスだらけだ。しかし、それは男だけではない。
けれども、男は言い様がない苛立ちと不満が自身を社会の片隅へと追いやられる気がした。
もう、嫌だ。と思いきって帰宅途中のコンビニでロープとカッターナイフを買い、近くの森へ来たのだ。
そして道に迷い、どうせ死ぬのだから考えるのも馬鹿馬鹿しい。と自嘲し、気付くと……小屋を見つけていた。
薄暗くとも明かりが灯る小屋を興味本位で行った。そうして小屋に住まう着物姿の女と出会った。
それからという彼は毎日必ず小屋へと出向いた。女は彼が来る度、喜んだ顔で優しく出迎えてくれる。
自分の妻とは違う態度で——— 彼の不満に満ちた心を優しく溶かした。
毎日、泥だらけで帰る夫を不審がる妻も奇怪な視線を送る近所や周囲の人間も軽蔑した眼差しの子供も、全て無視する。
それどころか、もう彼は女以外に何にも考えられなくなる。世間のことなど、もうどうでも良くなった。
究極の不倫。究極のストレス解消と新たな秘密の恋。
浮気する男の気持ちが今なら、分かるな………と男は思う。
毎日、毎日。彼はただ一心に女の居る森の小屋へと通い詰める。
そして今日も女の元へ通い詰めた。



「こんばんわ、お疲れではありませんでしたか?」
「……い、いいえ」

朽ちた小屋の戸を開けていつもどおり、当たり前かのように中へ入る。
頬を赤くする男。ははは、と照れ笑いした。女は手際良く男のコートを取り、壁に掛ける。
序でに鞄も持って傍へ置いた。実に良く出来た妻である。今時そうそうこんな出来た妻はいないだろう。
半ば、まるで夫婦のような間柄で男は実に浮かれていた。
—— あんな煩い妻とは別れて、この人と結婚しようか。
とそんな自分にしては名案を思いついて、微かに微笑みの表情を浮かべた。

「雅彦さん、ビールでも如何かしら?」
「え、良いんですか?」
「えぇ、雅彦さんの為に今日ね、買ってきましたのよ?」

妖艶に笑んだ女の魅惑に捕りつかれた男は有頂天で舞い上がる。
女はいそいそと台所へ行った。
男は今日役所で貰った離婚届を鞄の隙間から見た。
——— もう、あんな馬鹿女となんか、別れてやる。子供もいらない。
自分と女の新たな甘い生活を妄想するだけで、もう溜まらない。
ああ、もうすぐで別れられる、と再び舞い上がった時。
………背中に激痛を伴う。
突如のことでパニックになった男は必死の形相で女を呼ぶ。
しかし、女の笑い声が耳元でささやかれた。

「もう、本当に馬鹿な奴が増えた時代だねぇ」

尖った口調。自分の知っている女でない。
ふと、思考が止まる。


「あたしが生きる為に馬鹿なおのこを誘惑すれば、ほうら。ほいほいと怪しみもせず、貢ぐ馬鹿な男がいようぞ。ええい、もう久しぶりでまともに食らおうてない若い男が食えるじゃあないかえ。—— あんた、本当に馬鹿だよ。馬鹿でこんな森の奥に住んでてしかも和服、見知らぬお前さんを優しくするなんて、ありえないだろう。なのに、まんまと騙されちゃったねぇ。よっぽど生きることに疲れたのかえ?……まあ、あたしにはどうでも良いことだ。早く食べちまおう。どうせ——………お前さんは死ぬ気でこの森に来たんだろうし、願うも叶い、あたしの腹も満たされる。本望じゃあないか」


女の細く白い、つるんとした陶器のような指の先から爪が伸びる。桜色の爪がぐりぐりと首筋に食い込む。
余りの痛さで男の目は涙目となった。女はそれを嘲笑いながら、手を首に這わす。
そして、その可憐な口から——— 白く尖った獣みたいな牙を見せた。






END


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