ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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なかなかどうして、世界は歪なものである。
日時: 2011/10/12 04:06
名前: すずか (ID: gKVa1CPc)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=25449

タイトルはどこまでもフィーリングなのだ。

覚えてる人がいなくなった頃合いを見計らってしれっと舞い戻ってみた。
どこまでも見切り発車でやってのける。完結を一度ぐらいしてみたいものです。
※ある登場人物は、自分が大好きなゲームキャラをモデルにしています。知っている人なら一発でわかるかと
※参照URLはコメディ・ライト板にて書いてる小説です。コメディ直球ど真ん中です。

中二病フルスロットル全開

参照3桁突破アリガトーゴザイマス



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5 ( No.5 )
日時: 2011/09/15 03:31
名前: すずか (ID: aCC7gJBH)

「シ・ン・た・い・ちょー?」

 子どもたちとその親を見送ってから、少し急ぎ足で城へと戻り、城内の廊下を2人並んで歩いていた時である。後ろから怒りに震える声が飛んできた。思わず同時に立ち止まる。珍しく目が泳いでいるシンが、ゆっくりと後ろを振り返る。

「……な、何だ?」
「今日の仕事をぜーんぶほったらかして、どこに行っていたんです?」

 可憐な笑顔に見惚れている場合ではない。額に青筋が浮かんでいる。スタイルの良い体系、バランス良く整った目鼻立ち、長い黒髪。十人中十人が美人と答えるその女性が、国王直属軍の紅一点と言われるベル参謀長官だった。今はシンを下から見上げながら怒りのオーラを惜しげもなく発散させている。
 シンは目を泳がせたまま、曖昧に問いに答える。

「あー、何だ。町人と交流を深めていた」
「さぼっていたんですね?」
「いや、そういうわけでは」
「さぼっていたんですね?」
「……」
「逃げたっ!?」

 シンが逃げた。本気のダッシュで。運動能力が一般人と比べて飛び抜けているシンに、女性であるベルが追いつけるはずもなかった。廊下の曲がり角までは追いかけたものの、そこで見失ったのかイルが佇む位置まで戻ってきた。息を切らせながら、今度はイルを睨んだ。思わず背筋が伸びる。

「さて、イル君」
「はい」
「イル君が、午前中に暇を貰っていたのは覚えているのです」
「はい」
「帰りにシン隊長と出会ったのですか?」
「はい」
「そのままシン隊長に引き摺られるようにさぼっていたと」
「……いや、そういうわけでは」

 あくまでだらけていたのは自分の意思であったので、シンを売ることはしなかった。ベルがやれやれという風情で首を振る。

「イル君はシン隊長を絶対に売りませんねえ」
「当たり前じゃないですか」
「真面目なのは良い事です。まあ、イル君は今日はどうでもいいような仕事しか残ってなかったと思うので、あまり問い詰めないことにするのです」
「すみません……あの、シン隊長は?」
「……今日、シン隊長はラウド国の国軍隊長との手合わせがあったんですよ?」
「うわあ」

 イルは自分の事でもないのに冷や汗をかいた。
 ラウド国と言えば、近隣国の中でもかなり繁栄している方である。エレム国も平均以上に大きい国ではあるが、ラウド国には敵わない。そこの国軍隊長となれば、かなり大物の来賓である。しかも、わざわざ向こうが来ているのだ。

「まだおられるんですか」
「おられますです。ちょっとシン隊長探してきて下さい。超ダッシュで」
「はい」

 疲れているからと断れる場合ではなかった。シンが逃亡した方向へとイルは慌てて向かった。

6 ( No.6 )
日時: 2011/09/16 21:50
名前: すずか (ID: aCC7gJBH)

 ほどなくしてシンを発見した。シンを、というよりは緑のバンダナを、という状態ではあったが。

「隊長、バンダナが見えています」
「……」

 軍専用の団欒室に置かれるソファーの陰から、相も変わらぬ仏頂面のまま、シンがのそのそと這い出てきた。あまりの子供っぽさに、心酔しているはずのイルまでもが呆れを口に出してしまう。

「……隊長ってもしかしてアホですか」
「黙れ」

 そのままドスリとカーペットに腰を下ろして、腕を組みながらツンと顔を背ける。それがまた年不相応に見え、イルは対応に困ってしまう。まるで、5歳の従兄弟を相手にしているようだった。
 しかし、そんなことも言っていられない。気を引き締めて、精一杯真剣な声音でシンを叱ろうとする。

「ベル長官から聞きました。ラウド国の国軍隊長との手合わせがあったそうですね?」
「ああ」
「さっさと行ってください。まだお待ちになられているそうですので。隊長はトップとしての自覚があるのですか?」

 言ってるうちに本気で少し苛立ってきたイルに気付いたのか、シンは屁理屈をこねずに素直に立ち上がって闘技場へと向かった。ついでなのでイルも観戦をしようと付いていく。多少苛立ったところで、シンに憧憬する気持ちは変わらなかった。
 
 闘技場の前にベルが立っていた。仁王立ちで腕組みをしている。再びイルは冷や汗が吹き出てくるのを感じた。

「シン隊長」
「もう来たから文句を言うな」

 さっきまでの駄々っ子状態とは打って変わり、極めて冷静な口調と表情で、さらりとベルを流して闘技場へと入場する。ほんの少し前までとは別人のような対応をされ、ベルはぽかんと口を開けて入場を許してしまう。

「……シン隊長は相変わらずわけが分からないです」
「俺もそう思います」
「さっきまでぶーたれてたのは双子の弟だったという説はないです?」
「シン隊長が2人もいたらそれこそエレム国の天下ですよ」
「それはまあ、イル君の言う通りです」

 シンに振り回された2人も、シンに続いて闘技場へと入った。ただし、イルは観戦席、ベルは舞台と別々の方向へと向かう。イルが観戦席から見下ろすと、明らかに不機嫌そうな甲冑を着た髭面の男がいた。彼がラウド国の国軍隊長なのだろう。その鋼の鎧とは対照的に民族風の薄い服を纏ったシンが、その正面で対峙している。
 ベルが慌てて駆け寄り、わたわたと謝罪をしている。可愛らしい美人に涙目で謝られては、男としては許さざるをえなかったのか、待たされたことに対して、怒りをぶつけることはなかったようだ。待ちに待っていた相手であるシンに向き直り、容姿をまじまじと観察する。

「エレム国きっての名隊長と名声を轟かせているのを聞いたのだが、随分と若いな。しかも華奢な体だ」
「よく言われます」

 しれっと嫌味を受け流す。今まで会った初対面の軍人には必ずといって良いほど言われているので、とっくに慣れているようだ。

「鎧は付けないのか?」
「結構です。動きが鈍くなりますので」

 軽く剣を振り、手に馴染ませてからシンは両手をさげ、その場に佇む。傍から見ればただ立っているだけだが、それはシンが一騎打ちの際に見せる構えであった。
 ベルが開始の音頭を取る。

「相手に降参と言わせた者、または身動きを取れなくさせた者の勝利とします。それでは」

 シンは動かない。鎧の男は、シンへと長い槍を突き出した。

7 ( No.7 )
日時: 2011/09/15 23:19
名前: すずか (ID: aCC7gJBH)

 当然のように、シンは横っ跳びで槍を避ける。勿論相手も予測済みだったようで、突き出した勢いで槍を横に薙ぐ。足を払おうとする算段だったようだがシンはこれを、片手を支えに前方へと一回転して避ける。素早く立ち上がり、一旦槍が届かない距離まで下がった。

「なるほど、確かに鎧を着てはできない動きだな」

 男は、感心したようにシンを見る。シンの動きは軽やかで、鹿や狼のようなしなやかさを感じられた。

「しかし、避けるだけでは勝てないのではないか?」
「勿論承知しております」

 そう言ったやいなや、シンは男へと突っ込む。男は再び槍を構え、突き出した。

 シンが垂直に跳んだ。突き出された槍はシンの足の下を通る。その槍の柄めがけ、勢いに任せて剣を振り降ろす。細い細い槍の柄に、その剣は命中した。柄が、粉々に砕ける。

「何を……」

 呆然とする男の背後に迅速に回り込み、シンは黙って男の首に剣を当てた。男は身動きが取れない。
 ベルが、判定を下す。

「ヤカ様の動きを封じたとみなし、シンの勝利とします」

 この間、わずか1分弱。イルは、生唾を飲み込んだ。鎧でかためたヤカを、短剣一本で沈めた。やはり、まだイルはシンの能力の全てを知らない。
 剣を鞘にしまい、シンは元の位置に戻って礼をする。ヤカも倣って礼をし、決闘が終了した。まだこの結果が信じられないように、ヤカが呟いた。

「まるで暗殺者のような動きだな……。槍を壊すとは思ってもみなかった」
「槍は攻撃範囲が広く、中々剣では近づきにくいので。壊すのが一番手っ取り早いと思いました」
「しかし、この細い柄を狙って寸分違わず命中とは……しかも動いていたのだぞ」
「突きの動きは真っ直ぐですので、捕らえやすいかと」
「ふむ……名声は伊達ではなかったか。儂では勝てる気がせん」

 感嘆したように髭をなで、ヤカは負けを認めた。シンは軽く礼をする。

「ところでだな」

 ヤカが話を変えようとする。その時、イルはシンがピクリと反応するのを遠くから見た。あのシンが動揺している。しかも、まだ話の内容は定かではないのに。しかし、それは一瞬の挙動で直ぐ様立ち直る。イル以外は気付いていないようだ。

「何でしょうか」
「龍殺しの弓がエレム国にある、という噂を聞いたのだが」

そんなあり得ない言葉に、イルは眉をひそめた。シンも同じだったようで、少し呆れた風に言葉を返す。

「……一体どこでその噂を?」
「兵士の耳からな。ラウド国の軍内で、ちらほら話題にあがっている。結局のところ、それは真実なのか?」
「まさか。こんな弱小国が保持していては、それこそ攻められ強奪されて終わりです。そんな根も葉もない噂を確かめにわざわざいらっしゃるとは、国軍隊長も楽ではないですね」
「全くだ。儂自身もあるわけがないと思っているが、国王が確かめろと煩かった。済まなかった、決闘の相手をしてくれたこと、礼を言う」
「道中お気をつけて」

 ベルがヤカを連れて、闘技場を後にする。シンは、手慰みか短剣をひゅんひゅんと回し弄んでいる。イルは観客席から身を乗り出して訪ねた。

「隊長」
「何だ」
「一体どこから、あんな馬鹿げた噂が流れ出たのでしょうか」
「真実からだろう」

 事もなげに、シンはそう言った。

8 ( No.8 )
日時: 2011/09/16 23:01
名前: すずか (ID: aCC7gJBH)

「えっ?」

 イルは、シンが口にした事実が信じられなかった。

「エレム国に……あの龍殺しの弓が?」
「国家機密だ。知っているのは、俺とベルと、後は弓を管理している奴だけだな。今、お前が知ったが」
「そんな大事なことを簡単に口にしてしまって良いんですか?」
「俺は、お前を信頼している」

 その言葉に、イルは体が震えた。憧れの人に、信頼されている。これ以上の喜びはそうそう見つからない。しかし、その高揚も事の重大さに打ちのめされ、一瞬で消えてしまった。

 龍殺しの弓とは通称であり、実際の名称はルーク・マリア。龍殺しの弓と言われる所以は、その強大すぎる力からである。
 世界規模の戦争には、必ずそれが絡むと言ってもよいほど歴史に登場するこの弓は、持ち主の力を神をかくやと言うほどに増幅させる。これを使い射る矢は、海を割り、山を砕き、そして龍をも殺す。いくばくか誇大表現はあろうとも、この弓を手にした国が天下を取るといった史実は、数多くある。しかし、その栄光は長く続かない。何故なら、弓が使う者を選ぶのだ。弓が選んだ者以外には、鉛のような重さとなり、とても持ちあげられる代物ではないらしい。
 その、神器と言ってもいいルーク・マリアが、何故この小さな国にあるのか。

「それは……一体いつからです?」
「15年ぐらい前だったか。そう前隊長殿に聞いた」

 前隊長は、シンの育て親でもある。今はシンに隊長の称号を譲り、副隊長として軍を支えている。イルとしても、彼は尊敬する人物の1人である。
 その時、見送りが終わったのだろう、ベルが闘技場に戻ってきた。イルが呆然としているのを不審げに見つめ、シンに尋ねる。

「イル君はどうしたのです?ぽかんとして。シン隊長の早技にびっくりしたんですかね」
「龍殺しの弓のことを話した」
「ええええっ!?何勝手に話してるんですか!?」
「イルなら問題なかろう」
「そ、そうですけど……そうなんですけど……超重要機密なのに……」

 しばらくぶつぶつと文句を言っていたベルだが、気を取り直してシンと向き合う。

「ヤカ殿は上手くごまかせましたけど、噂とはいえどこから流れてきたんです?」
「さあな。ただ、最近ラウド国でそういう噂が広まっていることは耳に挟んだ。国軍隊長が突然手合わせ、と来たものだから軍を引き連れてきているのかと城門を見張っていたが、そこまで真剣に事を見ておられなかったようだ。特に誰も忍ばせている気配はなかった」
「それで城門でさぼってたんですか?」
「ああ」
「それさぼった理由の一部だけですよね?」
「……ああ」

 やはりさぼっていたことは間違いないらしい。

9 ( No.9 )
日時: 2011/09/17 22:56
名前: すずか (ID: b/D5tvZu)

 イルは、一番重要な質問をしていないことに気が付いた。

「そもそも、何で龍殺しの弓がこの国に?」
「あー……」

 珍しくシンが言葉を濁したが、結局は答えを述べた。

「俺が持ってたらしい」
「は?」
「物心が付いていない時だったから、全く記憶にないが。前隊長殿が俺を拾った時、抱えていたとか」
「何で隊長が?」
「覚えていない」

 嘘は言っていないように見えた。つまり、龍殺しの弓がここにあるのは、シンがいるからということのようだ。イルが予想している以上の謎を、シンは抱えているらしい。

「よく無事でしたね、あの弓持ってて」
「見た目が細やかに伝承されていないのと、子どもが持っているわけがないという先入観があったからではないか、と前隊長殿は仰っていた」

 他人事のように言っているが、所持していたのはシンである。本人も理由は理解していないようだが。
 あまりの衝撃の事実に少しクラクラしてきたイルだが、更に気になる問題に直面した。

「じゃあ、シン隊長って……龍殺しの弓を使えたりします?」
「使える」
「本当ですか!?」

 今日一番の衝撃だった。弓を扱えるとなると、天下を取ったも同然である。

「持ち上げられた、ということはそうなんだろうな」
「使うご予定はないのですか?」
「あってたまるか」

 少し期待して尋ねてみたが、一刀両断された。そういえば、国王直属隊長の名はあるが、シン自身はあまり戦いは好きではなかった。わざわざ自分から火種を作りたくないのだろう。シンが軽く溜息をつく。

「少なくとも俺が死ぬまでは使いたくないと思ってたんだがな」

 ベルもイルも、その発言で不測の事態が起こっている、ということに気付かないほど鈍くはなかった。

「何が起こっているのです?」
「あくまで予測だが、恐らく間違っていない」

 ベルが聞くと、シンは淡々とした声音で予測を口にした。

「龍人が近くにいる」
「な……」
「……そう思われた理由は?」

 イルはその言葉に絶句したが、ベルは状況を冷静に飲み込み、シンに続きを促す。

「龍人は、龍殺しの弓を感知する能力がある、と伝承にある。噂が漏れ出るなら、弓に気付いた龍人が触れ回る他あり得ない」
「いや、でも……弓を管理している方がおられるって言ってましたよね?その方が漏らすとかは」
「あいつは俺が一番信頼している奴だ。絶対に無い」

 シンにそう強く言われると、イルもベルも納得するしかなかった。

「龍人が……」
「うーん、まずい事態です。いや、まずいどころじゃないです」

 破滅を導くとされる存在が、近くにいる。2人を重い空気にさせるには、充分な現実であった。


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