ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- なかなかどうして、世界は歪なものである。
- 日時: 2011/10/12 04:06
- 名前: すずか (ID: gKVa1CPc)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=25449
タイトルはどこまでもフィーリングなのだ。
覚えてる人がいなくなった頃合いを見計らってしれっと舞い戻ってみた。
どこまでも見切り発車でやってのける。完結を一度ぐらいしてみたいものです。
※ある登場人物は、自分が大好きなゲームキャラをモデルにしています。知っている人なら一発でわかるかと
※参照URLはコメディ・ライト板にて書いてる小説です。コメディ直球ど真ん中です。
中二病フルスロットル全開
参照3桁突破アリガトーゴザイマス
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- 1 ( No.1 )
- 日時: 2011/09/06 23:09
- 名前: すずか (ID: nkrYcvPM)
避ける。避ける避ける避ける当たらない避ける当たらない避ける避ける当たらない避ける避ける当たらない当たらない当たらない避ける避ける避ける当たらない。
誰に向けるでもなく舌打ちをした。目の前でシャーシャーとやかましいトカゲ男の巨大な爪に寸断されるほどの軟弱者ではないが、かといって逆に余裕綽々でばっさりと奴を薙ぎ倒せるほどの剣の腕もない。結局のところ、逃げ回っては攻撃をしかけ、それを避けられまた逃げ回ると、どうしようもなく膠着状態なのである。非常に面倒くさい。
更に腹立たしいのは、この状況を適度な距離を保ちながら観戦をしている輩がいることである。そいつが割り込めばものの5秒でカタが着くことも苛立ち具合を増幅させる。
腹立たしい原因は、その輩が手伝いもせず傍観を決め込んでいるからではない。自分の力量が、傍観者と比べ圧倒的に低い事がイルを苛立たせる。自分は、まだ強くないのか。
その自分自身に対しての強迫を若干含んだ思考に気を取られ、体が一瞬止まる。その隙を派虫類男は見逃さなかった。鈍く光る鉤爪がイルを捉えた。剣を構え直すにも間に合わない。思わず目を閉じたが、衝撃は襲ってこなかった。
恐る恐る瞼を持ち上げると、頭を切断され血をどくどくと吹き出しながら痙攣するトカゲ男の体が目の前に倒れていた。頭は少し後方で草に埋もれている。その傍に、血で刃が濡れている小ぶりのナイフが落ちていた。
後ろを振り返ると、ナイフを投げる前と変わらず無表情のショータが、イルに向け淡々と言葉を投げる。
「目の前の敵に集中しろ」
頭が考えごとに重きを置いていたことはお見通しだったようだ。それがまた気に入らなくて、イルは苦虫を噛み潰したような顔を作る。
詰まるところ、いくら悔しがっても、勝手にライバル視をしようとも、イルはショータに戦闘面では全く敵わないのである。
- 2 ( No.2 )
- 日時: 2011/09/07 22:38
- 名前: すずか (ID: kb3EhHq0)
拗ねてドスンと芝生に腰を下ろし、手に持ったクリスタルをパキンという小気味いい音を立てて、割る。目の前に見えるトカゲ男の惨状は掻き消えた。
「まあ、以前よりは強くなったんじゃないか。未熟なのは変わらないが」
「うるせえ」
全くからかっているつもりはないのだろうが、若干無神経なショータの言葉に思わず子供じみた暴言を投げつけてしまう。しかし、それぐらいでショータの仏頂面は変化することもない。さっさと立ち上がり、帰り支度を整え始める。ムッとしながらも、従わないわけにはいかずイルもそれにならった。
イルの威厳を守るために補足するとすれば、一般人と相対的に比較すると、イルの実力は国民全員の中でも上位1割には手堅く食い込むクラスである。それは、エレム国軍の中でもエリートである国王直属軍の中で、小隊長の称号を齢18にして手に入れていることを見れば明白である。
それでも、目の前で黙々と歩き続けるショータには全く手も足も出ないのだ。イルとしては、軍人が一般人に負けている事が非常に気に食わない。そして、その一般人が幾度となく来る軍への勧誘をにべもなく断り続けていることも気に食わない。そんな思考をしている内にまた腹が立ち、イルはショータの背中を睨みつける。
身長も年齢も体格もほとんどイルと変わらない。一体何が違うのだろうか。
「ショータ」
「何だ」
「何故、お前は強い?」
ショータの実力を知ってから、何度も問いかけている質問。それに帰ってくる答えも、ずっと変わらない。
「歪だからな」
いびつ、と声に出してみる。ショータは歪んでいるのだろうか。イルの見ている限り、性格はあくまで変わり者の範疇で、無愛想だが、決して悪人ではないという決断を下している。歪んでいる場所は、一体どこなのだろう。
いつもはそこで終わる会話だったが、ふと思い立ち、1つ質問を増やしてみた。
「俺も歪になったら、お前のように、ウィルのように、シン隊長のように、強くなれるのか?」
ショータが立ち止まり振り向いた。少なからず反応があったことにイルは緊張し、答えを待つ。
ショータの答えは、至極まともなものだった。
「何故真っ直ぐなお前が、わざわざ歪になる必要がある?」
- 3 ( No.3 )
- 日時: 2011/09/08 21:31
- 名前: すずか (ID: 7hsLkTT7)
何も言い返せず、結局そのまま城門まで辿り着いてしまった。ふと耳をすませてみると、入口辺りが騒がしい。子どもが遊んでいるようだ。いつ敵軍や怪物が襲ってくるとも分からないのに、親はそれも考えていないのか。一瞬その親の思慮のなさに眉をひそめたが、そばに見える人物を見て納得した。彼がいるならば、危険はなかろう。
「さっきの話の続きだがな」
今まで何の反応も示さなかったショータが突然口を開いた。何事かと続きを促す。
「シン殿は歪んでいない。あの人はどこまでも真っ直ぐで、そして強い。俺なんか到底敵わない」
その発言に、少々驚かされた。てっきり周りにいる規格外の強さの人間は全てそのよく分からない歪な種類なのだ、とイルは思っていたのだ。イルの視線は、子どもを膝に乗せて無表情にその子の頭をなでるシンに向く。特に笑顔を見せているわけでもないのに、子どもたちはシンに懐いていた。
ふと、シンが顔をあげた。こちらに気づいたらしく、軽く右手を挙げる。イルは慌てて会釈し、小走りでシンの元へと向かう。そのついでに走ろうとしないショータの頭をはたき、走らせる。
「戻ったな」
抑揚のない声でイルを迎える。
「隊長、わざわざどうして」
「城内にいても退屈だからな。お前を迎えに行くという名目で抜け出してきた」
「……仕事は?」
「知るかそんなもの。何故わざわざ俺がしなければならん」
表情は変わらず、子どもを抱いたままふいと横を向く仕草が妙に子どもっぽく見え、イルは苦笑した。時折シンはこのような、いつもの冷静沈着な立ち振る舞いとは違う、ギャップのある行動をする。
どこまでも黒く、向ける相手によっては刃とも見間違うような鋭い切れ長の瞳。瞳と同じ色をした、軍人にしては少し長めの髪。高い身長、頭には緑のバンダナ。知らない人から見れば、かなり見目の良い、だが愛想の悪そうな青年、という感想を抱かせるのだろう。しかし、国内でシンを見て見惚れない者はいない。その見目もさながら、国王直属軍隊長という国軍トップである地位に、若干20歳で就いていること、軍神とも称される戦闘能力の高さ、指揮の巧妙さは、もはや生ける伝説とも言われている。
イルは、どうしようもなくこの男に心酔していた。シンと共に闘いたい、役に立ちたいと思うが故に、イルは自分の弱さを悔しく思う。勿論イルが役に立たないわけではないが、それでもシンの傍にいるには到底役者不足なのだ。
- 4 ( No.4 )
- 日時: 2011/09/10 23:22
- 名前: すずか (ID: sjTpucjC)
ショータはシンに軽く挨拶を済ませると、さっさと帰路に着いてしまった。城門に残されたのはシン、イル、そしてシンに群がる子供たち。
「たいちょーさまー」
「ん?」
膝に乗っかっている子どもが、シンを見上げる。シンは顎を引いて子どもと視線を合わせる。
「いまの人はだれですかー」
「ショータか?俺の友人の弟だ」
「あの人、こわい」
イルは軽く目を見開いた。無愛想度合いではショータもシンも大して変わらない。それでも子どもたちはシンに懐き、ショータを怖がる。これが、ショータが言っていた歪な者と真っ直ぐな者の違いなのだろうか。
シンが数秒、無言でその子どもを見つめる。それから、子どもの腹に両手を回して抱え込み、子どももろともパタンと後ろに倒れ込んだ。
「……怖いかもしれないな。でも、お前を襲ったりしないから大丈夫だ」
「ほんとーですか?」
「本当だ。もし襲ってきても俺が守ってやる」
「たいちょーさまが!」
子どもはキャッキャと喜びの声をあげた。イルはその和やかな光景に目を細めた。きっと、シンがいる限りこの子どもたちは安全だ。
結局、日が傾き始めるまでシンとイルは城門にいた。2人とも幾つか仕事があったが、気付いていない振りをしていた。恐らく帰ったら参謀長官に怒られるだろうが、たまにはこんな日があってもいいのだろう。
そろそろ子どもたちを城門内に入れなければならないのではないか、とイルが思い始めた時、城門をくぐる中年の女性達を見た。きっとこの子どもたちの母だろう。キョロキョロと辺りを見回し、シンの傍に集まる自分の子どもたちを発見して一同ギョッとする。慌ててこちらに駆けてきた。
「た、隊長様!申し訳ございません、うちの子どもが……」
シンはあの後、子どもたちに良いように遊ばれていた。そして今現在、仰向けで大の字に寝転がるシンの腹の上に1人、右手左手を枕に1人ずつ、足の間に1人と合計4人の子どもがシンに密着して寝息をたてていた。
起き上るに起き上れないシンは、そのまま母へと言葉を返す。
「いや、気にするな。これはこれで楽しかった。起こさないように連れて帰ってやってくれないか」
やたら恐縮しつつ、母親たちは子どもたちをおぶって城下町へと戻っていった。むくりとシンが上半身を起こす。
「やっと体が自由になった」
「はは」
いつもと変わらない表情で冗談を言うシンが何だかおかしく、イルは笑いを漏らした。
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