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Alchemist—アルケミスト—
日時: 2011/12/19 00:52
名前: 地下3階 ◆qA7f3c84E. (ID: T32pSlEP)

はじめまして、地下3階と申します。
一応この名前で投稿するのは初めてだと思います。
タイトルの「Alchemist」とは日本語で「錬金術師」を意味します。


つまり錬金術師のお話となります。ちなみに私はハガレンは読んだことありません。
だからパクリとかにはならないとは思いますが、一部単語などはかぶる可能性があるのでご了承を。


※注意

・荒らしや誹謗・中傷は当然禁止です。該当する書き込みがあれば即刻管理人さんに通報するので悪しからず。(ただ、ご意見・アドバイスがあればぜひ教えていただきたいです)

・私は学生ですので、定期テストなどにより月単位で更新することがあると思います。普段の更新もこまめにはできないと思うので、ご了承ください。





以上のことを踏まえて、もしお時間があるならぜひ見ていって下さい。

他のすばらしい作者様の足元にも及ばないかと思いますが……

それでは。

登場人物紹介 >>3

プロローグ「とある錬金術師の記録」>>1

第1章「錬金術師〜アルケミスト〜」
>>2>>4>>5>>6>>7

Page:1 2



Re: Alchemist—アルケミスト— ( No.4 )
日時: 2011/11/07 22:20
名前: 地下3階 ◆qA7f3c84E. (ID: afo7tZJq)

第1章—② 「錬金術師〜アルケミスト〜」





かつて、第3次世界大戦を止めたアルケミストたち—
彼らに戦争を止めるように呼びかけた男の名を、ハンニバル=シュヴァルツという。
ハンニバルはそれまで静観の姿勢を強硬に貫いていたアルケミストたちに対し、各地の惨状を伝え、今こそ自分たちが立ち上がる時だ、と檄を飛ばした。
当時より非常に優秀なアルケミストとして知られていたハンニバルのカリスマ性、そして粘り強い説得の結果、アルケミストたちは動くに至った。
アルケミストたちの活躍で大戦は終結し、そしてハンニバルを中心に世界各国の情勢を監視する組織「チェッカー」が発足し、初代総司令にはハンニバルが就任した。
以来、チェッカーの総司令にはシュヴァルツ家の当主が世襲することとなった。







そしてその名家、シュヴァルツ家第56代当主候補の名をジャンゴ=シュヴァルツといった。
彼もまた先祖に劣らない高い錬金術の技術を有してはいるが、彼には大きな問題があった。
ジャンゴは錬金術を悪用し、盗賊稼業を働いているのだ。
ジャンゴの実力を持ってすれば、銀行強盗など朝飯前である。
摩訶不思議な術を用いて華麗に宝を盗み出す。しかも狙うのは法を犯して手に入れた不正な物のみ。そして盗み出した宝は貧しい人々に配る—
まさに現代の怪盗として、連日ニュースで取り上げられた。
しかも盗まれた方は不正な金品を盗まれたとは、とても警察に言えずに泣き寝入りしてしまうので、それが正義の怪盗として貧しい人々の救世主、といった印象を強めた。





それで困ったのがシュヴァルツ家である。
仮にも名門中の名門の跡取りが、怪盗などではとても示しがつかない。
かといって当主候補は古くからのしきたりで1度決めたら絶対に変えられないので、シュヴァルツ家の者たちはジャンゴの破天荒な行動に手を焼いていた—





「だーっ! あのボンクラ息子があっ! また盗みを働きおっただと!?」
第55代シュヴァルツ家当主にしてジャンゴの父、ルイス=シュヴァルツは顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。
「まあまあ、あなた。落ち着きなさいよ。また貧しい人たちを助けたそうよ〜。母親として鼻が高いわぁ〜」
ジャンゴの母、ローザ=シュヴァルツが紅茶を飲みながら新聞の1面記事を指差す。
「お前は暢気すぎるわ! ジャンゴは第56代シュヴァルツ家当主候補だぞ!? こんなこそ泥のようなマネをして—」
「あなた……?」
ローザが負のオーラをかもし出しながらゆらりと立ち上がる。
「っ! ……は………はい、何でございましょう?」
高慢な態度とはうって変わって、ルイスが縮こまる。
「私の意見に反論があるのかしら〜? ……あ、そういえば試したい術がねぇ……」
ローザの右手が赤く光りだす。
「ひっ! ……フレアか…!? い、いえっ! 滅相もございませんっ!! ですからどうか家の中でフレアは勘弁してください!」
ルイスはほとんど土下座に近い形でローザに謝り倒した。
その後、ルイスがローザによって家に被害が出ない程度にお仕置きされたことは誰も知らない。










一方そのころ—


「へへ、今度も大漁だな!」
盗み出した宝石を精算し、麻袋いっぱいになった札束を抱えながらジャンゴはにやけ笑いを浮かべていた。
彼の今回のターゲットは、マフィアと結託し武器の密輸によって裏金を荒稼ぎしていた船乗りの男だった。
船の底に隠していた宝石類をジャンゴは根こそぎ盗み出し(ついでに密輸した武器を海に放り投げて)、その足で宝石を換金してきたのだった。
「さあて、お次はこれを配りにいきますか………今1番金が必要なのは……北の修道院か…」
ジャンゴが独り言を言いながら人目につかない路地裏に入った瞬間。
「…………っ!?」
ジャンゴは強烈な殺気を感じた。
振り向くと、誰もいない。
(上か………!?)
ジャンゴは上を見上げ、黒い影が上空から強襲してくるのを視認した。







そして黒い影はジャンゴに向かって何かを振りかぶった—










Re: Alchemist—アルケミスト— ( No.5 )
日時: 2011/11/13 17:17
名前: 地下3階 ◆qA7f3c84E. (ID: T32pSlEP)

第1章—③ 「錬金術師〜アルケミスト〜」




ジャンゴに向かって何かが振り下ろされる—
ジャンゴはすかさず右手を頭の上にかざした。
「フロスト!!」
ジャンゴがそう叫んだ瞬間、空気中に氷の壁が広がった。
「え? うっそでしょ!?」
高いトーンの声が響く。
が、時すでに遅く、襲撃者は氷の壁に激突した。
「あちゃー………やりすぎたか」
ジャンゴが頭をかきながら黒いマントをまとった襲撃者を助け起こした。
「おい、大丈夫か?」
「んなわけ、ないでしょっ!!」
襲撃者はジャンゴの顔にパンチを入れた。
「ぐわっ! いってえ……」
ジャンゴが悶絶しているのを尻目に、襲撃者はすっくと立ち上がり、マントを脱いだ。
「ったく、相変わらずなんだから、ジャンゴは」
襲撃者は、桃色の髪の毛が印象的な少女だった。
「……ナーシャ!?」
ジャンゴは突然現れた、幼馴染を呆然と見つめることしかできなかった。






ナーシャ=ハミルトン。
ジャンゴの幼馴染で、すべてのアルケミストが通う、アルケミスト育成のための教育機関「ギルガンテ」の同級生でもある。
代々シュヴァルツ家の懐刀として仕えてきたハミルトン家の長女であるが、今シュヴァルツ家とハミルトン家は主従関係など結んでいないので、2人の間柄は仲の良い親戚といったところである。
そのナーシャがジャンゴの元に尋ねてきた理由は1つ。
ジャンゴの盗賊稼業を止めに来たのだ—






「いい、ジャンゴ? ギルガンテから召還命令が来てるわ」
ナーシャがきっぱりとジャンゴにとって最悪の事実を告げる。
「マジかよ!? ………またあのオバハンに説教食らうのか……」
ジャンゴががっくりと肩を落とす。
「いいじゃない! これを機に反省して、私と一緒に未来のアルケミストたちを育てようよ!」
ナーシャがジャンゴの手を固く握る。
ジャンゴはナーシャが極端な「教えたがりや」であることを思い出しつつ、その手をそっと振り払う。
「俺には教官なんて似合わねえよ。それにまだ未来のアルケミストとか考えるほど歳食ってないし」
「………それは私が歳食ってるといいたいわけ?」
「い、いやいや、そうはいわないけど……とにかく、俺は行かないよ」
ジャンゴは立ち上がり、遠くの崖の上に見える教会を指差した。
「あいつらも待って………ん?」
ジャンゴの動きが止まる。
「? どうしたの、ジャンゴ?」
「煙……か…?」
ナーシャも立ち上がって教会のほうを見ると、確かに煙が上がっている。
「まさか……あれ、火事?」
大通りを歩く通行人たちも、次々に教会を指差しながら話し込んでいる。
「…………くそっ!」
ジャンゴは一目散に駆け出した。
「あっ……待って!」
ナーシャもジャンゴを追い、教会に向かって走り出す。














2人が教会についたときには、完全に火の手が教会全体に回っていた。
かすかに助けを求める声も聞こえる。
「くそっ……勢いが強すぎる!」
「どうする? 思いっきり水かけようか?」
水に関する錬金術が得意なナーシャが、右手に力をこめる。
「いや、この火を消すほどの水だと、中の人間まで流されちまう………よし、俺があの扉に突っ込むから、体を水で覆ってくれ」
「本気なの? いくらジャンゴでもそれは—」
「時間がない! 頼む!!」
「っ………」
ジャンゴの勢いに気圧され、ナーシャはジャンゴに向かって右手を突き出す。
「マリンバブル!」
ナーシャが叫ぶと、大量の水が噴出し、ジャンゴ覆うように膜を形成した。
「すまない、ナーシャ」
ジャンゴは一言つぶやくと教会の扉を睨み付ける。
大きく息を吸い、そして—
「うおおおおおおおおおお!!」



ジャンゴはまっすぐに教会に突っ込んだ。

Re: Alchemist—アルケミスト— ( No.6 )
日時: 2011/11/19 17:30
名前: 地下3階 ◆qA7f3c84E. (ID: T32pSlEP)

第1章—④ 「錬金術師〜アルケミスト〜」





燃え盛る扉とともに、ジャンゴは飛び込むような形で教会内に突入した。
教会内はほとんどが激しい炎と煙に包まれている。
「なんて勢いだ……!」
周囲の惨状に愕然としながら、ジャンゴは立ち上がった。
(みんなを探さないと……)
ジャンゴは炎を避けながら歩き始めた。
「おい! 誰かいないか!?」
ジャンゴは大声を張り上げながら、奥へと進む。
「………て…」
「!?」
ジャンゴの耳が、かすかな声を捉える。教会の奥の、居住スペースからのようだった。
(そうか………あそこには地下室が…!)
ジャンゴは地下室に向かって走り出した。








「ふう………む」
燃え盛る教会を観察しながら、マシュー=ヒジムは手にしたノートになにやら書き込んでいる。
「報告どおりの男だ……ジャンゴ=シュヴァルツ。素晴らしい。実に、素晴らしい………」
ブツブツと独り言を言いながら、マシューはペンの手を止めた。
「ロギヌスの再来………くく…楽しみな男だ…」
不気味な笑みを浮かべ、マシューは音もなく、突然消えた。








居住スペースへと踏み込んだジャンゴは、炎と煙の中からようやく地下室への扉を見つけ出した。
すでに火に覆われかけており、地下室まで火が回るのは時間の問題と思われた。
「急がないとまずいな………」
ジャンゴは地下室の扉に右手をかざした。
「スプラッシュ!」
右手をかざしたところから水が噴出し、扉の炎は消えた。
ジャンゴはすぐに扉を開けて叫んだ。
「おい! シスター! みんな!! いるか!?」
数秒たってから、若い女の声が聞こえた。
「ジャンゴさん!? ここです!」
(生きてる……!)
ジャンゴは急いで地下室の階段を駆け下り、声がした方向に向かった。
そして、部屋の隅でうずくまるシスターと子供たちを見つけた。
「シスター! みんな!」
「ジャンゴさん!」
ジャンゴはシスターたちに駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「はい、何とか……何人か軽い火傷を負いましたが、全員生きてます」
「そうか、良かった……今助けるからな!」
シスターは首を振った。
「しかし、部屋の外には火が回って…煙もじきにここまで来てしまいます…!」
「いや、大丈夫だ。俺に任せろ!」
ジャンゴはそういうと、上着のポケットの中から、折り紙を取り出した。
「……?」
シスターが不思議そうに折り紙を見つめる。
ジャンゴは折り紙に何かを書くと、それを鶴の形に折り、右手に乗せて軽くを力をこめた。
「あ………!」
シスターは驚きのあまり声を上げた。
折り紙の鶴が、空中で羽ばたいていたからだ。
「頼むぞ」
ジャンゴが右手を振ると、鶴はそのまま部屋の外に飛んでいった。
シスターと子供たちがその様子にみとれる間もなく、ジャンゴはまた右手に力をこめ始めた。
「アイスウォール!」
今度は右手を直接床につける。
すると何もない地面から、突然その場にいるすべての人間を覆うように、氷が生えてきた。
「…………」
シスターは何が起きているか理解できず、呆然としている。
その顔を見て、ジャンゴはいたずらっぽく笑った。
「俺、アルケミストなんだ」














ナーシャは教会の外で待っていたが、一向にジャンゴが帰ってくる様子がないので、徐々に不安が募ってきた。
(ジャンゴ……大丈夫かな?)
不安はほどなく限界に達した。もともとナーシャはあまり気の長いほうではないので、自分も教会に突入しようと決断するのに時間はかからなかった。
「よしっ…! て、あれ?」
ナーシャが教会に突入しようとしたとき、炎の中から、何かが飛んできた。
よく見ると、それは折り紙の鶴だった。
「ジャンゴ………!!」
ナーシャは急いで鶴をつかみ、折り目を広げた。
折り紙には『水をぶっ掛けろ』と殴り書きのようなメッセージが書かれていた。
「相変わらず下手な字だね………了解!」
ナーシャは折り紙を放り投げると、両手を天に突き上げる。
持てる力のすべてを、両手に集中した。
そして、溜めに溜めた力がついに最高に達する—
「ウォーターフォールっ!!」




空中で発生した巨大な水流が、教会をあっという間に飲み込んだ—





Re: Alchemist—アルケミスト— ( No.7 )
日時: 2011/12/19 00:51
名前: 地下3階 ◆qA7f3c84E. (ID: T32pSlEP)

第1章—⑤ 「錬金術師〜アルケミスト〜」


アルケミスト教育施設「ギルガンテ」校長室—


「それで……? あなたは人目もはばからず、堂々と錬金術を使ったと?」
メガネをかけた中年の女性がため息をつく。胸のところにある名札によると、彼女の名前はアナスタシア・フランドル。
そのアナスタシアが呆れ顔で見ているのは、稀代の問題児、ジャンゴ・シュヴァルツだ。
「相変わらず細かいねえ……俺がいたときと、まるで変わってないようですね、校長先生」
ジャンゴは苦笑しながら、アルケミスト育成のための教育機関「ギルガンテ」のトップを見返した。
「あなたのその人を食ったような態度もね、ジャンゴ。卒業してから、ずいぶんとお楽しみのようね?」
アナスタシアの目がきらりと光る。
「んー……ま、こんな退屈なだけの学校生活よりは、刺激的ではあるかもね」
「それは捉えようだわ。平和であることは何物にも変えがたい、そう思わない?」
「…………確かに、な」
ジャンゴは小さく笑った。













アナスタシア・フランドル。
彼女もまた世界でも屈指の錬金術師だ。その実力は選ばれしアルケミストだけが入れる世界監視機関「チェッカーズ」の幹部にも劣らないといわれる。
ジャンゴの父でチェッカーズ総帥でもあるルイスの頼みにより、ギルガンテを仕切っている彼女だが、有事の際には彼女がチェッカーズの先遣隊として派遣されることも多い。
故に自らのアルケミストとしての責任を強く感じており、ジャンゴのようなはみ出し者を更生させることに並々ならぬ熱意を持っている。
そんな彼女が、火事で逃げ場を失った人間を救助するためとはいえ、本来公にしないことが鉄則とされている錬金術を、あっさりと使用したジャンゴをギルガンテに呼び出すのは当然のこととも言えた。
ただし、理由はそれだけではないのだが—










「………とにかく、何度でも言いますが、一般人の前での錬金術の使用は禁止です。いいですね?」
アナスタシアが念を押すように言う。
「……分かったよ。それより—」
ジャンゴが真剣な顔つきになる。
「……何か?」
「まだ何かあるんだろ? 俺に話さなきゃいけないことが」
アナスタシアは静かにため息をついた。
「………さすがに察しは良いですね」
「あんたが説教を早めに切り上げるときは、必ず何かあるからな」
ジャンゴは改めてイスに座りなおす。
「で? 何があったんだ?」
アナスタシアはわずかに間を空けてから、話し出した。
「…先日、特別監視隊、第13班が全滅しました」
「何っ……!?」
ジャンゴは思わずイスから立ち上がった。
特別監視隊。チェッカーズ直属のエリート部隊だ。常に世界の動向を確認し、報告する。特に第13班は指折りの実力者が集まることで知られていた。
「1週間前、彼らは日本地区の東京という街で全員、死体で発見されました。それも明らかに錬金術によって殺された形跡まで残っています」
「トラックがあったのか…?」
トラックというのはアルケミストが錬金術を使用した際に残るわずかなエネルギーで、個人によって残り方に差が出る。アルケミストを特定する手がかりとして、早くから研究されてきた。
「ええ、しかも術者は不明。トラックをいくら調べても一致するアルケミストはいませんでした」
アナスタシアが落胆した面持ちで話す。
「そんなことが……」
ジャンゴも愕然としていた。トラックが存在したということは、間違いなく錬金術が使われた証拠だ。なのに術者が特定できない。通常ならば考えられないことだ。
「つまり……その術者は、1週間前まで、生まれてこの方、錬金術を使用したことがないどころか、自分にそういう能力があることすら…!?」
「知らなかった、そう捉えるより他に、この不可解な現象に論理的な説明はつきません。しかし、あの第13班を全滅させるほどの使い手が、1週間前に覚醒したとは、とてもじゃないけど、考えられない」
アナスタシアの表情には、ありありと苦悩の色が表れている。
「確かに………それで……俺に話ってのは、つまり—」
「ええ。この術者を探して、捕まえてほしい。できれば生け捕りで」
ジャンゴはかぶりを振った。
「待ってくれ。確かにそいつのことは俺も気になる。だが、それは監視隊の管轄だろう?」
「このアルケミストは、只者じゃない。しかも、この件はトップシークレット。チェッカーズでも知ってるのはごくわずかよ。あくまでも極秘裏に解決する必要があるの」
「……分かるけど、でも—」
「ジャンゴ、事は急を要するわ。しかも誰にも知られず、片付けなければならない。あなたのアルケミストとしての実力を見込んでのことよ」
アナスタシアは必死に訴えかけるが、それでもジャンゴの表情には曇りがあった。
「……俺1人ではいくらなんでも無理だ。仲間は?」
「……ナーシャにもすでに話は通した」
「ナーシャに……!? 先生正気か!? あいつは実戦経験なんて…」
「分かってる。あくまでも情報収集などのサポート役よ。実戦はさせない」
「危険すぎる」
「彼女も承知の上よ」
「あんたなぁ!」
ジャンゴがアナスタシアの胸倉をつかんだ瞬間、校長室の扉が開いた。
「やめてジャンゴ! 私は自分で行くって言ったの!!」
ナーシャが常にない大声を張り上げた。
「ナーシャ……」
「ジャンゴお願い、先生のお願い聞いてあげて。先生は元第13班だって知ってるでしょ? 一番行きたいのは先生なんだよ? 少しは先生の気持ち、分かってあげてよ……!!」
「…………」
ジャンゴは唇をかみ締めながら、胸倉をつかんだ手を離した。
「……ごめんなさいジャンゴ。でも、あなたにしか頼めないの」
「………ジャンゴ」
ナーシャが祈るような目で、ジャンゴを見つめる。
ジャンゴはしばしの間、無言で考え込んでいたが、やがて顔を上げた。
「………OK。引き受ける」
「ジャンゴ……」
「ただし」
ジャンゴは歩み寄るアナスタシアを制した。





「終わったら今後お説教はナシだ」
















Re: Alchemist—アルケミスト— ( No.8 )
日時: 2011/12/31 01:46
名前: 地下3階 ◆qA7f3c84E. (ID: evK4EJEz)

第2章—① 「禁忌秘術〜アフェクション〜」


第1章のあらすじ

西暦2392年。古より伝わる秘術、「錬金術」を用いて世界の均衡を保つ人間をアルケミストと呼ぶ時代。怪盗を名乗り、自由を糧とするアルケミスト、ジャンゴ=シュヴァルツ。彼は悪党から金を奪い取り、貧しい子供や教会などに配っていた。そんなジャンゴにアルケミスト養成機関「ギルガンテ」校長アナスタシアから、謎の錬金術師捕獲の依頼があった。渋るジャンゴだったが、幼馴染のナーシャの説得で、件のアルケミスト捜索の旅に出たのであった。








『……間もなく東京に到着いたします。シートベルトをお締めください…』
飛行機のアナウンスが流れ、ジャンゴ=シュヴァルツは窓の外に目をやった。
眼下には辺り一面を埋め尽くすビル郡と、巨大な赤いタワーがあった。
「東京………か」
ジャンゴは窓から目を離すと、ゆっくりとシートベルトを締めた。















「うわあ………ここが東京かぁ……人がたくさんいるね!」
ジャンゴの幼馴染、ナーシャ=ハミルトンは小さい子供のように周りをキョロキョロと見回す。
「東京は世界でも有数の人口過密地帯らしいからな……はぐれないように気をつけろよ」
ジャンゴがそういう間にも、人ごみが止まることなく押し寄せてきていた。
「とりあえず空港から出よう。少しは人ごみもマシになるだろ」
「うん!」
2人は人ごみを掻き分けながら進みだした。
3歩ほど歩いた瞬間—
「………!?」
ジャンゴは強い殺気を感じて後ろを振り返った。
「ジャンゴ…!? どうしたの?」
ナーシャが心配そうにジャンゴの視線の先を追う。
だが、そこには人ごみ以外、何も見えない。
(気のせいにしてはあまりにも強すぎる殺気……誰だ?)
ジャンゴはポケットの中から透明な紙を取り出し、力をこめた。
無機物に命を吹き込む錬金術「ライブクリエイト」だ。
ジャンゴの力に反応した透明な紙は、たちまち鳥の形に変形し、飛び立った。
(こんなんで見つかるとも思えないけど……仕方ないか)
ジャンゴは踵を返して再び歩き始めた。
「行こう」
「あ……うん」
ナーシャは慌ててジャンゴの後を追った。












同時刻、空港2F—

「………クク、来たか、ジャンゴ=シュヴァルツ」
マシュー=ヒジムは君の悪い笑みを浮かべながら人ごみを掻き分けて進むジャンゴを目で追った。
その手には先ほどジャンゴが放った透明な鳥が握られている。
鳥はマシューの手から逃れようともがくが、マシューは握る手を開こうとはしない。
「君の活躍、楽しみにしてるよ………せいぜい頑張りたまえ」
マシューはそうつぶやくと、握った手にさらに力をこめた。
小さく何かが弾けるような音がして、鳥は跡形もなく消え去った。















「東京って言っても……範囲が広すぎるよ〜」
ナーシャが東京の地図を眺めながらため息をついた。
「気配を消せるタイプだからな………ちょっとやそっとじゃ捕まらないさ……」
ジャンゴは身に着けているネックレスをいじりながらつぶやいた。
「じゃ、どうするの?」
「……秘密基地に向かおう。校長先生から許可は得てある」
「えっ……秘密基地に!?」
ナーシャが驚いたのも無理はない。秘密基地というのはその地域を監視するアルケミストの駐在所で、場所を知る者はごく一握りのアルケミストに限られるからだ。
「でも……秘密基地って索敵錬金術とかでも全く見つけられないんでしょ? そんなところどうやって…」
「監視担当のアルケミストに校長先生が事前に連絡を取ってくれた。予定通りなら、もうそろそろここに現れるはずなんだが…」
「ええっ!? それじゃ最初から2人だけで探すつもりなかったの!?」
ナーシャが持っていた地図を取り落とす。
「当たり前だろ。その道のプロでも見つけられないどころか返り討ちにあうような奴を俺たち2人だけで探しだせるわけがない」
ジャンゴは呆れたような顔をして言った。
「……それならそうと先に言ってくれればいいのに…」
「聞かなかっただろ?」
「もう! 屁理屈ばっかり!」
ナーシャが憤慨して立ち上がった。
「何だよ、俺は別に間違ったことは—」
ジャンゴも立ち上がり、反論しかけたのだが—








「……ふむ。女子をからかうのはあまり感心せぬな」










2人の間に突然和服を着た男がぬっと顔を出した。
「うおあっ!!」
「きゃあっ!?」
ジャンゴとナーシャは間抜けな声を上げて転んだ。
「はっはっはっはっは。驚かせてしまったか、すまない」
和服の男は芝居がかったしぐさで両腕を広げた。
「………あんたが監視担当か?」
ジャンゴが怪訝そうな顔つきで男を見る。
「いかにも。拙者は東京地区監視担当、夜叉丸だ。よしなに頼む」
夜叉丸と名乗った男は手を差し出した。



(怪しすぎる………本当に大丈夫かこいつ?)


ジャンゴは愛想笑いをしながら、妙に大きいその手を掴んだ


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