ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 私は壊れ、家族は死んじゃった
- 日時: 2011/11/05 23:51
- 名前: 綾乃 ◆eRcsbwzWZk (ID: /iUvxDbR)
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私は悪くない。私は悪くなんかないんだっ!
もう、限界だった。未来も過去も全て崩壊限界寸前だった。
だから、私は…
嗚呼、神様は許してくれるはず。
ううん、絶対に許すはずに決まってる。
私は悪くない。私は悪い事をしていないんだから。
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登場人物
田中 鈴(たなか すず)
黒髪のロングヘアと二重の目が特徴の色白な子。
極度の被害妄想を持ち、狂気性を秘めている。
田中 雪(たなか ゆき)
心優しく大人しい、黒髪のショートヘアが特徴の子。
鈴の妹で生まれつき、酷く体が弱い、病弱体質。
奥村 廉(おくむら れん)
田中姉妹と幼馴染で友達の間柄を持つ。
運動神経が抜群だが、何故か女子にモテない。
山崎 美玖(やまざき みく)
鈴と同級生。噂好きだが、気弱な一面も。
鈴とは良く遊ぶ間柄。
村井 大地(むらい だいち)
廉と親友の間柄。雪に片思いを抱いてる。
鈴の狂気性を見抜いている節がある。
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- Re: 私は壊れ、家族は死んじゃった ( No.1 )
- 日時: 2011/11/06 00:30
- 名前: 綾乃 ◆eRcsbwzWZk (ID: /iUvxDbR)
#01
今日も妹の咳を聞いて、またか、と思う。妹は生まれつき、体が弱くいつも学校を休んでいる。お母さんもお父さんもそんな妹の雪の方をいつも心配し、丈夫な私は放っておかれる。当たり前の日常。当然の行為。あの人達は、きっと思っているに違いない。
雪も雪で。雪も体が弱い事を良い事に、それを利用し、ちゃっかりと愛情をたっぷり注がれてる。狡賢い子だ。昔から、そうやって私から両親を奪い取る、最低な妹で私は今も雪の事が心底、大嫌いで仕方ない。
ああ、悲しい。ああ、悔しい。ああ、憎たらしい。ああ、妬ましいよ。
リビングで出来たてのトーストと一口齧り、甘いホットミルクを一口、啜る。お父さんはいつもと同じ、新聞を読みながらコーヒーを啜って、お母さんはキッチンで洗い物をしている。
対する妹の雪は咳き込みながら、体の弱い雪が食べやすいように、とお母さんが作った、ふわふわのスクランブルエッグを食べている。頬が赤く熱があるようだ。咳き込み、時折、喉が痛いらしく手を当てたりする。
「雪、大丈夫か。母さんに頼んでニ階の自室へ持って行って貰うんだ。今は寝ているべきだろうし。母さん、今日は用事がないんだろう?そうだよね、僕はそう、聞いている」
ちらり、とお母さんを見て訊ねた。
「ええ、そうよ。雪ちゃん、二階へ戻ってなさい。あ、そうそう。鈴、あなたは雪ちゃんの分のノートをしっかりと取ってね、余り学校へ行けなくて勉強も遅れがちだから。何より、雪は勉強が好きだからね……」
雪は最悪の場合、出席が少なくて留年するかも知れない。だから、お母さん達は雪が可哀想だと勉強が遅れないよう、双子である私、姉の鈴がノートを雪の分を取る事になってる。
私は黙って頷いた。ホットミルクの湯気がお父さんの眼鏡を曇らせた。曇った眼鏡を拭き取ると、縁をぐいっと上げた。咳を繰り返しながら、雪はごめんね、と言った後、二階へ戻った。
時計の針は七時半を差していた。
私は残りのトーストを飲み込んだ後、ホットミルクを飲み干す。スクールバックを手に取り、玄関へと出向く。雪の分のノートは取るつもりはない。だけど、私のノートを写せば良いので家に帰ってからにしよう。
「いってきます」
玄関で呼びかけても、誰も返事してくれない。
所詮、私の家はいつも雪が優先順位で私は異端。つまり、邪魔者だ。
■
学校へ着くと、奥村が教室で騒いでいる。理由を近くにいた同級生で、割と良く遊ぶ美玖に聞いた処、実に呆れるような理由だった。本当、運動だけが取り柄な奴がモテない理由そのものだよ。
奥村は大の虫嫌いだ。なので今、窓辺に虫がへばりついている。といっても外だけど。中に居る訳でもないのに、窓辺の席の奥村が奇声を上げて腰を抜かしている。でも、声だけしっかりと出して。
「俺、まじ、無理!だ、誰か、席、変わって!まじ、無理、無理!」
一応、教室内でも人気のある方の地位。奥村が叫ぶと皆が笑い合って、それでふざけたり、からかったりして要求を受け入れられる事は無い。でも、虫が気持ち悪い点では同調もしている。
理由は分かるけど煩いなあ。
外にいるんだから、まだましな方なのに。声が鬱陶しくて、着いた矢先うんざりする。そこに教室から入ってきた人物は、村井大地だった。村井は奥村の親友。だから腰を抜かし、助けを求める奥村を見て原因を突き止めたけど、呆れて何かを言い合ってる。だけど親友の間柄。窓を叩いて、虫を彼方へと追いやった。
「まじ、ありがと……!俺、まじでホント無理!ああ、見るだけでおぞましい。思い出すだけで失神ものだ。でも、まじで誰か変わってくれ、俺、こんな席、嫌だ。夏でも蜂とか来るし。早く席替えしてぇ…!」
チャイムが鳴る。皆はのんびりと自分の席へ戻った。私も先生が来る間、本を読んで過ごす。お気に入りの小説家、安藤絵里(あんどう えり)が描く人間関係が複雑な恋愛小説が気に入ってる。主人公の〝凛〟と、私は何処か似ている、気がする———。
皆に秘密にしている事がある。それな、安藤絵里みたいな小説家になること。恋愛小説も良いけど純文学も面白そうだし、ライトノベルもだ。それか、斬新なテーマを扱ったのも良い。とにかく小説家になりたい。
小さいころから、誰にも打ち明けてない秘密。だけどこっそり、小説を読んだり書く練習をしたりネットで小説を発表したりしてる。そこそこ、評判は良い方だ。元々、私は読書家だからね。
先生が来た。素早く机に仕舞う。
出席簿を開き、一人一人確認し、私の妹が来てないと知ると。
「田中、お前の妹さんは休みだな。それにしても勉強の方はどうだい。遅れがちだけど頑張ってるそうじゃないか。帰りにプリントを渡すから、予習が出来る内容だ。そう伝えておいてくれ」
「分かりました」
誰もが、雪の味方。
私の味方なんか、お祖母ちゃんだけだった。
今は死んで、もう居ない。
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- Re: 私は壊れ、家族は死んじゃった ( No.2 )
- 日時: 2011/11/06 14:17
- 名前: 綾乃 ◆eRcsbwzWZk (ID: /iUvxDbR)
#02
短い休み時間をふざけたり談笑して過ごす同級生。私は一人静かに本を読んで過ごす。それが日課だ。たまに次の時間の教科の教科書を読むけど。お気に入りの恋愛小説を読んで、短い時間をたっぷりと満喫する。皆みたいに喧騒な雰囲気で過ごせる性質じゃないから。
——— まるで雪みたい。
不吉な言葉が脳裏を過ぎた。慌てて首を左右に振って思考を振り払う。視線を本に戻して集中しようとする。でも、本に人影が落ちた。人影の正体は、声をかけられて分かった。
「よお、田中。お前の妹また来れねぇの?」
「……うん」
村井だった。隣に奥村もいる。ちなみに雪は村井と仲が良い。まあ、村井の方から話しかけている。理由は、噂によると雪の事が好きらしい。わざと暗めに頷くと村井が眉間を顰めた。余程、具合が悪いんだと思い込んでるようだ。
「大変だな、田中も。田中雪も早く学校に行きたがっているんだろう?あ、忘れるとこだった!お前の妹に、これを渡しておいて。中身は、秘密だ!」
無邪気に笑う。村井は素早く私に渡す。渡された物は茶色の封筒だ。
しかし、からかい好きで有名な奥村が見逃すはずもなく、からかう。
「何だよ、大地ー。気になるじゃんか!教えろよ!さては…!」
「黙れ、廉!……じゃあな」
二人は窓辺へと戻った。人騒がせな、と思いつつも封筒に目を配る。何も飾り立てのない百円ショップで買ったような安物の封筒だ。中身はどうやら手紙みたい。まさか、ラブレターでした、という落ちなのかな。
そうだったら、古すぎ。何時の時代に生まれたんだよ。お前は昭和時代に生まれたのか、と言いたくなる。今の時代、やっぱメールでしょ。
茶色の封筒を鞄の中へ仕舞った。
私は郵便屋さんでもないのに。
皆して、私を馬鹿にするんだから。許せない。ムカつく、悔しい。
■
部活を休んだ。例の封筒の件もあってやる気がない。適当に言い訳し、早めの帰路へ着いた。大半な雪の看病をするというものだ。まあ、しないけど病弱な雪の事を理解してる顧問は、すぐさま返してくれるしね。サボるには打ってつけだ。——— こういう時だけ、雪が役に立つ。
ホームは帰宅ラッシュを前だからか、人気が多くなった。でも、少人数なので席は十分確保できる。ホームで待つ時間、大好きな本を読み進めよう。
電車が来た。素早く乗り込んで席に座る。どっと大して疲れる一日じゃなかったのに疲れが押し寄せた。授業もだるいし、何か疲れたんだろうと解釈して納得する。ああ、家なんか帰りたくないな。疲れた。疲れた。
雪なんか死ねばいいのに。
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- Re: 私は壊れ、家族は死んじゃった ( No.3 )
- 日時: 2011/11/06 21:54
- 名前: 綾乃 ◆eRcsbwzWZk (ID: /iUvxDbR)
#03
メールが来た。ちなみに次の駅で降りる予定。素早く携帯を開いて画面を見ると、相手は美玖からで来週の土曜、部活をサボってカラオケにでも行こうという内容だった。私は、久しぶりのカラオケ、という言葉に釣られて行くの返事を送った。直後、降りる駅のホームが視界に映る。
携帯を弄りながら、電車を降りる。ホームは何故か人気が無く薄暗い。駅員さんらしき姿も見当たらなかった。辺りを見回してみてもいない。電車は、音がなかったのに無かった。可笑しいな。可笑しい、何これ。此処は何処なの、此処は何処。やだ、何これ。可笑しい。誰か助けて。
怖くなった私は手に握ってた携帯で家に電話してみる。すると出たのは部屋で寝ているはずの雪だった。
「もしもし、お姉ちゃん?」
「ゆ、雪……あんた、寝てなくて良いの!」
「今はもう大丈夫。どうしたの?」
雪に心配されたら、自分が雪より弱い感じに思えて、苛立った。
「ち、違うわよ!今日の晩御飯は要らないから」
「え?……何で?」
「………っ、友達と食べに行くから」
少し間を置いて、雪はそっか、と返した。
「お姉ちゃん、良かったね。雪もお姉ちゃんみたいな丈夫な体に生まれたかったよ。でも、雪は負けない。いつか丈夫な体になってお母さんやお父さんたちを安心させたいな。それで病弱な体が奪った時間の分だけ精一杯、好きな事をしたい。一杯ご飯も食べて遊ぶから!その時には、お姉ちゃんも雪の事、誘ってくれる?」
純粋な言葉に私は息が詰まる思いだった。何であんたはこんなに単純なのよ。だから今までお母さんたちを奪ってきたの。何であんたはそんな風に未来へ希望を持てんのよ。今日本の政治とか駄目で税金も上がるし、就職はもっと困難になるんだよ、なのに何で。馬鹿な子だ。無駄に生きてる証拠。
携帯を持つ手が震えているのに気付いた。
何で、何で震えるのよ。
というか、何て言い返さないの、何か言葉が浮かばない、可笑しい。嫌だ、雪と接すると自分が自分でなくなっちゃう。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だよ。誰か誰か誰か、可笑しくなる。雪なんか——。
「お姉ちゃん?」
電話越しから聞こえる声。
「何でもないわよ!」
怒鳴って乱暴に切った。一瞬、電話越しの声が聞こえた気がするけど、気のせいだと信じたい。あの電話でお母さんにばれないと良いけどな。ばれたらばれたで煩いから。昔から雪の事に関しては煩くなる人達だ。ああ、何で嘘なんか吐いたの。可笑しい、やっぱり雪なんか要らない。
気付くとホームに大勢の人が入り混じっていた。
さっきのあれは一体……。
訳が分からないまま、急いで駅の入り口へと駆けていった。
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